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絵本を通した自己の成長に関する研究

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Academic year: 2021

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(1)Title. 絵本を通した自己の成長に関する研究. Author(s). 渡部, 良子. Citation. 学校臨床心理学研究 : 北海道教育大学大学院教育学研究科学校臨床心理 学専攻研究紀要, 17: 57-82. Issue Date. 2020-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/11300. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 絵本を通した自己の成長に関する研究 渡 部 良 子*. Study on Self-Growth with Picture Books. 要 約 絵本を通した他者との関わりは,子供の自己の成長にどのような影響を与えるのだろうか.この課題 を検討するために,渡部(2018)は,筆者である“私”のライフストーリを基に分析を行った.加えて, 本研究では筆者と同時代を生き,現在も絵本との関わりの深い仕事についている女性二名のライフス トーリーを佐伯(2007)のドーナッツ論を用いて分析していく.これにより,子ども時代,教師時代, 母親時代において絵本とのかかわりの中で他者といかにつながり,どのように心を成長させ,またその 経験を次世代の子どもたちの心の成長につなげていったかを検討していく.. 1.研究の目的. が 実 際 に 活 動 し て い る 社 会・ 文 化 の 実 践 世 界 (THEY)を垣間見られるようになる(第2接面),. 絵本は,幼児期の子どもたちの自己の成長にど. というのである.. のような影響を与えるのだろうか.また,絵本を. この理論を「絵本」に関わる「自己」と「他者」. 通した子どもと子どもを取り巻く人々との関係は, の関わりに当てはめてみると,両親(YOU)に 子どもの自己の成長にどのような影響をあたえる. 温かい声でたくさん絵本を読んでもらった心地よ. のだろうか.. い経験を通して,子ども(I)は幼児期になり安. そこで,絵本を通した他者との関わりと自己の. 心する仲間や先生にYOUの対象を広げるなかで,. 成長について検討するために,筆者である“私”. 仲間と共に絵本を通して文化的実践の世界. と筆者と同時代を生き,現在も絵本,図書との関. (THEY世界)へと興味を広げ, “私(自己)”を. わりの深い仕事についている女性二名の絵本にま. 成長させていくのではないだろうか.. つわるライフストーリーをそれぞれ佐伯(2007). さらに,佐伯(2017)は,ドーナッツ論を発展. のドーナッツ論により分析していく.. させている.それは,「第1接面でのYOU的関わ. 佐伯のドーナッツ論モデルは,自己と他者の相. り が, ど の よ う に, ま た な ぜ, 第 2 接 面 で の. 互関係の全体像が分かるように同心円状に図式化. THEY的関わりに展開するに至るのか」という疑. したものである. (図1) ドーナッツ論では, I (自. 問に対する新たな考え方である.. 己)が発達していくとき,YOU的関わり(その 人の身になってくれるような関わり)を持ってく. ワタシ(I)にとって愛おしいアナタ(YOU). れる他者(母親など)との出会い(第1接面)が. が関わっているモノに,(共同注視的に)関わ. 不可欠であり,そのYOUを通して,次第にYOU. ることから,そのモノが,このワタシ(I)にとっ. *. Ryoko WATANABE:学校法人聖公会北海道学園聖ミカエル幼稚園園長・北海道教育大学大学院学校臨床心 理専攻修了生 キーワード:絵本 心の成長 世代継承性 ライフストーリー. 57.

(3) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). ても愛おしくなる,つまりモノがYOU的にな. ても愛おしい,YOU的存在となる.さらに,そ. るのです.さらに,そのモノは,ワタシとアナ. の 絵 本 は, ワ タ シ と お 母 さ ん だ け に 愛 お し く. タだけに愛おしく(YOU的に)存在するので. (YOU的に)存在するのではなく,幼稚園で出. は な く,「 世 の 中 」 の さ ま ざ ま な ヒ ト た ち. 会う人々(THEY)と関わりをもち,愛おしいま. (THEY)と関わりをもち得る,つまりそのよ. なざし(YOU的まなざし)を受け得る存在であ. うな「さまざまなヒトたち」に見られるし,関. るため,ワタシはその絵本を媒介にして幼稚園で. わりをもたれ得るし,愛おしいまなざし(YOU. 出会う人々(THEY)が,まだ直接的なYOU的. 的まなざし)を受け得る存在なのです.そうな. 関わりがなくともYOU的関わりをもち得る(い. ると,ワタシはそのモノを媒介にして,世の中. わば半分YOU的な)存在として見えてくる.そ. のヒトたち(THEY)が,まだ直接的なYOU. して,絵本や幼稚園で出会う人々も,「YOU的存. 的関わりがなくともYOU的関わりをもち得る. 在」に半ば転化し,YOU的関わりをもち得る関. (いわば半分YOU的な)存在として見えてく. 係をもつ,と考えられる.. るでしょう.ここでもう一つ大切なことは,そ. このように絵本は,子ども時代にはYOUとの. もそも,モノが「YOU的なモノ」になったこ. 関係を築きYOUを通して文化的実践にふれてい. とからはじまったわけですから,モノやヒトた. く道具として,成長するにつれ,現実社会を理解. ちも, 「YOU的存在」に半ば転化し,YOU的. する道具として,“私(自己)”と他者とをつなぐ. 関わりをもち得る関係をもつ,ということです. 重要な役割を担っていくと考えられる.そして, それはもう,「文化的実践」以外のなにもので. そのように育った子どもは大人へと成長するなか. もないでしょう. 」 ( 『 「子どもがケアする世界」. で,今度は自分が絵本を通して次世代の成長に積. をケアする』 佐伯 胖 編著 2017年 ミネ. 極的に関与するようになると考える.. ルヴァ書房 p.222). 以上のように,ドーナッツ論とは,I(自己) が発達していくとき,YOU的関わり(その人の. この「モノ」を「絵本」に, 「アナタ」を例え. 身になってくれるような関わり)を持ってくれる. ば「お母さん」 , 「ヒト」を例えば「幼稚園で出会. 他者(母親など)との出会い(第1接面)が不可. う人々(先生,同年代の子ども) 」と考えると,. 欠であり,そのYOUを通して,次第にYOUが実. ワタシ(I)にとって愛おしいお母さん(YOU). 際に活動している社会・文化の実践世界(THEY). が関わっている絵本に, (共同注視的に)関わる. を垣間見られるようになる(第2接面) ,という. ことから,その絵本が,このワタシ(I)にとっ. 考えである.本論文では,このドーナッツ論を用. 図1 ドーナッツ論(佐伯,2007)より筆者が作成した. 58.

(4) 絵本を通した自己の成長に関する研究. 3.結果と考察. いて三名のライフストーリーを描き起こし,子ど も時代,教師時代,母親時代に,絵本との関わり. 3-1.結 果. の中で他者とどのようにつながり,どのように自 己を成長させ,またその経験を次世代の子どもた. 以下に筆者,Aさん,Bさんのライフストーリー. ちの自己の成長につなげていったかを検討してい. と「自己」と「他者」との関係を表と図にまとめた.. く.このように,三名の絵本との関わりを通した ライフストーリーを描き,考察することにより,. 3-1-1.絵本等に関する筆者と他者との関係. 幼児期からの,YOU的な存在による絵本の読み. 筆者のライフステージごとの出来事を箇条書き. 聞かせがなぜ大切といわれるのかを,検討してい. にまとめ,それらについて「絵本等に関する“私”. くことを本研究の目的とする.これにより,社会, と他者との関係」を矢印で表した.そして,その 特に幼児をもつ保護者に絵本の読み聞かせと自己. 関係がドーナッツ論の第1接面に該当するか,第. の成長について伝える一助になると考える.. 2接面に該当するかを整理したものが,表2から 表5である.筆者の場合,ライフステージを4つ. 2.研究の方法. の期に分類することができた.まず,第1期が幼 少期から大学時代までで「家族に守られ社会性を. 本研究では,まず,渡部(2018)を発展させ筆. 育んだ“私”(I)」と命名することができた.次. 者である“私”の子ども時代,子育て時代,子育. の第2期が社会人として歩み始め教師の職につい. てと並行した中学校国語の教師時代のライフス. た時期であり, 「国語教師として生徒(I)を育て. トーリーを描き出し,絵本を通した筆者の自己の. る“私” (THEY) 」と命名した.そして,第3期. 成長を振り返った.次に研究協力者である女性二. は結婚して家庭を築きわが子を授かった時代であ. 名(表1)にインタヴュー調査を実施し,絵本と. る.この時代を「わが子(I)と絵本を楽しむ“私”. の関わりを子ども時代から現在までたどり,筆者. (YOU)」と名付けた.続く第4期はわが子が親. と同様に“私”という一人称の語りとしてライフ. となり,筆者は孫とかかわりができた時代であり,. ストーリーをあらわし,ライフステージごとにま. 「赤ちゃん(孫) (I)へと引き継がれる絵本の世. とめた.そして,それらについて「絵本等に関す. 界」と表した.. る“私”と他者との関係」を整理し,最後にその. なお,表中の矢印のうち,白抜きのものは,人. 関係をドーナッツ論により分析した.. と人との関係,黒塗りのものは,人と物・出来事. なお,本研究は北海道教育大学倫理委員会の承. との関係を示す.また,両矢印は,互いに影響を. 認を受け実施している. (承認番号 北教大研倫 与え合っている関係を示す. また,ライフステージごとに,“私”と他者の. 2018031001). 関係をドーナッツ論を用いて図示化した. (図2 から図5).この図により,成長するにつれ, “私”. 表1 研究協力者 研究協力者 年代. の立場が,IからYOU・THEYに変化していっ. 経 歴. Aさん. 60代 幼稚園教諭を経て現在は幼稚園園長. Bさん. 60代 中学校国語科教諭及び司書教諭を経て, 現在も全国学校図書館協議会にて活躍す る. ていることが分かる.. 表2 家族に守られ社会性を育んだ“私” (I) 時代 幼少時代. 出来事. “私”と他者との関係. 接面. ・父が寝る前に創作のお話をよくしてくれた. “私” (I)⇔父(YOU). 第1接面. ・幼稚園では先生が紙芝居をよく読んでくれ た.. 第1接面. 59. “私” (I) ⇔幼稚園の先生 (YOU).

(5) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度) ・母は本の虫であった.夜中に本を読む姿を 私はよく見ていた.. “ 私 ”(I) ⇒ 母 の 読 書 す る 姿. 第2接面. (THEY). (1) ・ 『髪どこやの大根さん』 は,私たち姉妹の “私” (I)⇔妹たち(YOU). 第1接面. 好きな絵本であった. 小学校時代. ・我が家には『少年少女シートン動物記』 『少 父母 (YOU) ⇒私・兄弟姉妹 (I) (2) 年少女ファーブル昆虫記』月刊誌『科学』. 中学校時代. ・国語の先生の授業に,文章を深く読み取る ことの大切さを学び,影響を受けた.. 高校時代. ・教会の青年寮の北大生から,影響を受ける. 北大生(THEY)⇒“私” (I) (3) 『塩狩峠』 との出会いは私にとって衝撃的. 第1接面. が揃っていた. 先生(THEY) ⇒“私” (I). 第2接面 第2接面. であった. 大学時代. ・絵本の講義. 第2接面. 「レオ・レオーニ」「いわさきちひろ」 「宮沢 賢治」の絵本と出会う.絵本の魅力に引き 込まれていった.. 大学の講義(THEY)⇒“私” (I). ・くすみ書房(4). 第2接面. 店主のこだわりの本がたくさん置いてあり, くすみ書房(THEY)➡“私” よく立ち寄った.『僕を探しに』や,フィリ (I) ピンのバナナ農園の問題が描かれた絵本は, このころ購入した. ・小山内美智子(5)さんのボランティアを始め, 小山内美智子さん(THEY) 社会問題に興味を持ち,その傾向の本を読 ⇒“私” (I) むようになった. ・青年寮の北大生と,聖書の勉強会を行うこ とにより,一つの文章にもいろいろな読み 取りがあることに面白さを感じる.. 小山内美智子さん くすみ書房. (社会問題). 母(家事・夜中の読書). (社会・人生). I 父(素話). “私”. YOU. THEY. 世界. 世界 聖書学習会(聖書の解釈). 妹たち 幼稚園の先生 (紙芝居). 北大生(『塩狩峠』). 中学校の先生 (文学の深さ). 大学の絵本の講義 (絵本の面白さ). 図2 “私”をTHEY世界(社会性)へと導くYOU世界の人々(家族・幼稚園). 60. 第2接面.

(6) 絵本を通した自己の成長に関する研究 表3 国語教師として生徒(I)を育てる“私” (THEY) 時代 教師時代 (独身時代). 出来事. “私”と他者との関係. ・中学校国語の授業の,『オツベルと象』とい. 接面. 私(THEY)⇔生徒たち(I). 第2接面. 私(THEY)⇔生徒たち(I). 第2接面. う小説では,生徒たちの読み取りの力の差 を感じた. ・授業の中で,自分が集めた絵本を読むこと もあった.生徒たちは,「先生,もっと読ん で.」と絵本を楽しんでいた.. THEY 世界 I YOU. 生徒たち. “私”(国語の授業). 世界. 図3 生徒たち(I)を育てるTHEYとしての“私”. 表4 わが子(I)と絵本の世界を楽しむ“私” (YOU) 時代. 出来事. “私”と他者との関係. 接面. 私の母親時代. ・子どもに良い本を,と真剣に考えた.ホル プ出版の絵本のシリーズをすべて購入し, 本屋で良い本に出合うと,金額をあまり気 にしないで購入した.. 「良い絵本」(YOU的道具)➡ 子どもたち(I). 第1接面. ・子どもへの読み聞かせ. 私(YOU)⇔子どもたち(I). 第1接面. ・「のせてのせて」の読み聞かせ⇒ドライブで 子どもたち(I) 子どもたちがトンネルに入ると,「とんねる ➡トンネル(THEY世界) とんねる・・・・・・」と声を合わせて楽 しむ.. 第2接面. ・長男の結婚. 第2接面. 長男(I)➡新生活(THEY). 61.

(7) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). THEY 世界 YOU 世界. I. “私”. 子どもたち 絵本. トンネル 長男の新生活. 図4 子どもたち(I)を育むYOUとしての“私”. 表5 赤ちゃん(孫)へと引き継がれる絵本の世界 時代. 出来事. 次世代. “私”と他者との関係. ・長男の第1子(赤ちゃん)誕生. お母さん(YOU). 接面 第1接面. ・お嫁さん(お母さん)の読み聞かせ. 父(長男). I “私”. YOU. THEY. 世界. 世界. 赤ちゃん(孫) 絵本 母 (長男 の妻). 図5 赤ちゃん(I)を取り巻く次世代のYOU世界. 3-1-2.絵本等に関するAさんと他者との関. 表現していく.なお,Aさんは,インタヴュー時,. 係. 思い出の絵本や書籍を多数持参し,それを手に取. 次に私立幼稚園の園長として仕事をしているA. りながらインタヴューに応じてくれた.. さんのライフストーリーをあらわしていく.Aさ. Aさんのライフストーリーを筆者のライフス. んも筆者同様, “私”と言う一人称の語りとして. トーリーを整理した同様の手順と方法で整理した 62.

(8) 絵本を通した自己の成長に関する研究. ものが,表6から表9である.. えた“私”(YOU)」と名付けた.続く第4期は. Aさんの場合,ライフステージを4つの期に分. 子育てが一段落し,自分のために改めて絵本と向. 類することができた.まず,第1期が幼少期から. き合うようになった時期であるので「自分のため. 大学時代までで「家族と周りの豊かな環境に育ま. に絵本を楽しむ大人になってからの“私” (I) 」. れた“私”(I)」と命名することができた.次の. と表した.. 第2期が社会人として歩み始め幼稚園教諭の職に. また,ライフステージごとに,ドーナッツ論を. ついた時期であり, 「絵本を保育の中心に据えた. 用いて図示化した(図6から図9).この図により,. “私”の 幼稚園教諭の“私” (YOU) 」と命名した.そして, 筆者と同じくAさんが成長するにつれ, 第3期は結婚して家庭を築きわが子を授かった時. 立場が,IからYOU・THEYに変化していって. 代である.この時代を「子育ての中心に絵本を据. いることが分かる.. 表6 家族と周りの豊かな環境に育まれた“私” (I) 時代. 出来事. “私”と他者との関係. (I)⇔父(YOU) 幼少期(0歳 ・大変忙しい父が,絵本だけは自分のあぐら “私” から5歳) をかいた膝の上にのせてくれた.いまでも そ の 時 の 膝 の 感 触・ そ の 時 の 幸 せ な 雰 囲 気・安心感を覚えている.絵本を介して父 の優しさ,父の愛情を感じていた.掛け値 なしに父のことが好きだった.それが今の “私”を作っていると思う. ・英語の本を訳して読んでくれた.父親って すごいな,と思った.. 接面 第1接面. 父(YOU)⇒“私” (I). 第1接面. ・母は,おいしいご飯と洋服を作ってくれる 人,父は,絵本を読んでくれる人だった.. 家庭(YOU)⇒“私” (I). 第1接面. ・本は全部家で読んでいた.幼稚園では絵本 ではなく,紙芝居を読んでもらった.. 絵本(YOU)➡“私” (I). 第1接面. ・『リトルゴールデンブック(6)のシリーズ』 『大 日本雄弁会講談社の絵本』岩波書店のシリー ズ⇒自分が読んで好きだった絵本を今度は 買い替えて息子に読んでいた.. ・『小さいおうち』とか,『スザンナの人形』 などのシリーズ.このシリーズなどの絵本 で,自分の体験できない感情を学んだ. ・『花の好きな牛』がすごく好きだった.その 牛にすごく共感できた. 小学校低学年. ・文学少女の姉が,『世界昔話宝玉集』を全部 姉(YOU)⇒“私” (I) 覚えていて, 夜寝るときに素話をしてくれた.. 第1接面. ・姉は,すごく本が好きで,友達が20人ぐら い遊びに来ても一人で本を読んでいる人 だった. 小学校中学年. ・“私”も3年生ぐらいからは,自分で本を読 むようになった.『日本昔話』は,幼稚園の 先生になってからの,素話のもととなった.. 63. 図書(THEY)➡“私” (I). 第2接面.

(9) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度) (I) ・中学年になって,『名作全集』を姉と競うよ 図書(THEY)➡“私” うに読んだ. 『ジェーン・エア』, 『シャーロッ ク・ホームズ』,『怪盗ルパン』などが網羅 されていた. 小学校高学 年・中学校. 第2接面. ・姉と父と本屋に行って選んで本を買ってい た.中学校になってからも読んでいた本で ある.. 本屋(THEY)➡“私”姉(I). 第2接面. ・家の書棚には,本がずらっと並んでおり, そこから好きな本を選んで何回も読んで, とても楽しかった.. 家庭環境(YOU)➡“私” (I). 第1接面. ・外で好きに遊び,ごはん作りのお手伝いを して,ご飯を食べて,本を読んで,寝る, という生活だった. 中高校時代. ・景色のいい環境的にもとても良いところに 近くの環境(THEY) (I) 住んでいた.でも本を読んでいないと,感 ➡“私” 性が育たず,きれいな景色でも見え方が違っ ていたと思う.(『ちいさなおうち』を読ん でほっとするという感じ.). 第2接面. ・愛情に包まれて育ったことが,勇気や,逆 境から這い上がれる精神力を育ててくれて いたと感じる.. 家庭環境(YOU)➡“私” (I). 第1接面. ・姉と競うように本を読んでいた.(『世界名 作選』). “私” (I)⇔姉(YOU). 第1接面. ・お姫様が好きだったので,お姫様系の話は 大好きだった.. 短大時代. (I) ・父たちが読んでる本を読むことが多かった. 父の蔵書(THEY)➡“私” 平凡社の全集が家にあり, 『戦争と平和』 『女 の一生』『レ・ミゼラブル』『にんじん』 , 『若 い人』『ささめ雪』などに親しんでいった.. 第2接面. ・大学で児童文学の先生が,福音館書店の松 松 井 直 先 生 と 村 岡 花 子 先 生 井直(7)先生と村岡花子(8)先生だった.この (THEY)⇒“私” (I) 影響がとても強かった.この経験は“私” の財産だと感じる.. 第2接面. ・福音館の絵本を全部松居先生に紹介しても らい,その絵本を見ながら絵本とはどうい うものかという講義を受けた. ・村岡先生の講義は話す内容がすごく伝わっ てきた.『赤毛のアン』を『世界文学全集』 で読んでいたので,『赤毛のアン』を訳した 先生ということで,あこがれた. ・松居先生に卒業して勤めた幼稚園に講演に 来ていただいたときに,『聖書物語』をいた だいた. ・この経験がベースとなり,“私”が絵本をみ んなに読み聞かせようという,確固たる確 信になった.. 64.

(10) 絵本を通した自己の成長に関する研究. 父(読み 聞かせ). 図書 I. 本屋 絵本. YOU. THEY. 世界. 世界. “私”. 松居直・村岡花子 母. 父の蔵書. (短大の講義). (家事). 近くの環境. 家庭環境 姉. 図6 “私”を育んだ愛情にあふれたYOU世界と知的なTHEY世界. 表7 絵本を保育の中心に据えた幼稚園教諭の“私” (YOU) 時代 幼稚園教諭 時代. 出来事. “私”と他者との関係. ・幼稚園の先生になったときに,絵本は外せ なかった.. “私” (YOU)⇒園児(I). ・小学校時代読んだ『日本昔話』.幼稚園の先 生になってから,「素話」で,全部ここから 話した.. I. YOU. THEY. 世界. 世界. 幼稚園児 絵本 “私”. 図7 YOU的道具としての絵本を媒介にした幼稚園児(I)と“私” (YOU). 65. 接面 第1接面.

(11) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度) 表8 子育ての中心に絵本を据えた“私” (YOU) 時代 子育て時代. 出来事. “私”と他者との関係. ・40過ぎの息子と,いまだに絵本の話を共通 “私” (YOU)⇔息子(I). 接面 第1接面. してできる.二人の息子は執筆関係など書 く仕事についている. ・“私”は4か月ぐらいから絵本を読んであげ ていた. ・ある日“私”が風邪をひいて熱をだした時 に,10か月ぐらいだった長男が自分の好き な,『てつたくんのじどうしゃ』を“私”の そばで読んでくれた.そのときちょっと泣 けた.. 息子(YOU)⇒“私” (I). 第1接面. ・息子が食べ物のシーンをすごく好きで,ム 絵本(YOU)➡息子(I) スティシリーズという猫が出てくるシリー ズには,必ず食べるシーンが出てくるが, そのシーンを,今でも覚えている.. 第1接面. ・息子の好きだったのが,『ミスターブックシ 絵本(YOU)➡息子(I) リーズ』.病弱だったので,病院に行くとき にはこれを必ず持って,絵本を読んで待合 室で待っていた.. 第1接面. ・子どもが小さい時に,実家に帰るときに, 絵本をたくさん持って乗ると,4時間ぐら い座って,歩かないで,絵本読んだり,お 弁当食べたりして静かにしていた.. 第1接面. 絵本(YOU)➡息子(I). ・絵本は“私”の子育ての中でも外せない.. YOU I. THEY “私”. 息子 絵本. 図8 絵本を媒介に息子(I)と心を通わせた“私” (YOU). 66. 世界.

(12) 絵本を通した自己の成長に関する研究 表9 自分のために絵本を楽しむ大人になってからの“私” (I) 時代. 出来事. “私”と他者との関係. 大人になって ・ツペルガーの挿絵の絵本が大好きになった. 絵本(THEY)➡“私” (I) から. 接面 第2接面. 『わがままな大男』で,迎えに来た男の子 の両手両足に穴が開いていて,これは「イ エスさま」だと感じる.. 父を亡くして. (I) ・加古里子(9)を尊敬している.貧しい時代に, 加古里子(THEY)⇒“私” セツルメントを立ち上げて,貧しい境遇の 子どもたちに豊かな文化を与える仕事をし ていた.思慮深くて,謙虚で,素晴らしい.. 第2接面. ・父が亡くなって,一か月か二か月後に,本 絵本(YOU)➡“私” (I) 屋で『おじいちゃんがお化けになったわけ. 』 父の思い出(YOU)⇒“私” (I) を手に取る.このおじいちゃんが父に見え て,本屋で号泣した.これで“私”も救わ れた,1冊.. 第1接面. I. 絵本 絵本. YOU. THEY. 世界. 世界. “私” 加古里子. 父の思い出. 図9 大人になった“私” (I)にとっての絵本. 3-1-3.絵本等に関するBさんと他者との関. 大学時代までで「“私”の基礎を作ったYOU的・. 係. THEY的環境」と命名することができた.次の第 2期が社会人として歩み始めながらも,子育てに. 最後にBさんのライフストーリーをあらわして. 「わが子(I)に絵本をたく いく.Bさんは,中学校国語の教師として勤務し, 専念した時期であり, 退職後,学校図書館協議会において,子どもたち. さん読み聞かせた“私”(YOU)」と命名した.. の図書環境の充実のために尽力している.. そして,第3期は国語の教師としてまた,司書教. Bさんのライフストーリーを筆者のライフス. 諭として学校図書館に関わり始めた時期でありこ. トーリーを整理した手順,方法で整理したものが, の時代を「子育ての経験から生徒(I)への読み 表10から表14である.. 聞かせを大切にした“私” (YOU・THEY) 」と. Bさんの場合,ライフステージを5つの期に分. 名付けた.続く第4期はわが子が親となり孫とか. 類することができた.まず,第1期が幼少期から. か わ り が で き た 時 代 で あ り,「“ 私 ” の 孫 へ の 67.

(13) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). YOU的関わり」と表した.そして,第5期は学. 用いて図示化した表をドーナッツ図にあらわして. 校図書館の活動を教師として仕事の中心に据えて. みた(図10から図14).この図をみると成長する. いった時期であり「同僚(THEY)と協力して学. につれ,Bさんも筆者とAさんと同様に,“私”. 校図書館の仕組みを整えた“私” (I) 」とした.. の立場が,IからYOU・THEYに変化していっ. また,ライフステージごとに,ドーナッツ論を. ていることが分かる.. 表10 “私”(Ⅰ)の基礎を作ったYOU的・THEY的環境 時代. 出来事. “私”と他者との関係. 幼少期(2, 3歳). ・父が大変本が好きだったので,家にはたく さん本があった.. 接面. 父(YOU)⇒“私” (Ⅰ). 第1接面. 童話(YOU)➡“私” (I). 第1接面. 絵本(YOU)➡“私” (I). 第1接面. ・自分の保育園には紙芝居があって読んでも らった記憶がある.. 保育園の先生(YOU) ⇒“私” (I). 第1接面. ・3年生の担任の先生が,給食の時間に教師 用の雑誌に載っていた連載をいつも読んで くれた.その話が,面白かった.先生はストー ブの横に立って読んでくれた.. 担任の先生(THEY)⇒“私” (I). 第2接面. ・いつも寝るときに,父が絵本を読んでくれ たのを覚えている. 布団に入って聞いていた. ・クマの親子が留守の家に,女の子が入って 三つ並んでいたおいしそうなスープを飲ん じゃう話を覚えている.白いスープがとに かくおいしそうだった. ・あと父に読んでもらった記憶があるのは『三 匹のこぶた』 (5歳). ・絵本ではなく童話を自分で読むようになっ た. ・『むくどりの夢』⇒挿絵がきれいだったのを 覚えている. ・浜田広介の童話全集が家にそろっていた. ・毎月届くキンダーブックも読んでいた. ・童謡の絵本はすごく絵がきれいで,有名な 日本画家が絵を描いてある絵本だった.. 小学校中学年. ・『小学○年生』をずっととってもらっていた. 雑誌(THEY)➡“私” (I) いろいろな話題が載っていて,社会性を学 んだ.. 第2接面. ・月1回くる『科学』が面白かった.. 小学校高学年. ・ピアノの先生の家にあった「シューベルト の伝記」の挿絵や,「魔王」を覚えている.. 図書(THEY)➡“私” (I). 第2接面. ・毎月とってくれた『少年少女の世界の名作 文学』が楽しみだった.『シートン動物記』 , 『石の花』 『怪盗ルパン』 『名探偵ホームズ』 などを自分で読んでいた.. 図書(THEY)➡“私” (I). 第2接面. ・ルパン,ホームズは,その後シリーズを読む. “私” (YOU)⇒妹(I). 第1接面. ・自分で本を読み,妹に絵本を読み聞かせて いた.. 第2接面. 68. 図書(THEY)➡“私” (I).

(14) 絵本を通した自己の成長に関する研究 中学校・高校 ・『赤毛のアン』シリーズは,初めて文庫本を. 図書(THEY)➡“私” (I). 第2接面. 古文(THEY)➡“私” (I). 第2接面. ・ 『赤毛のアン』みたいな先生になりたいと 図書(THEY)➡“私” (I) 思ったことや,ルパンやホームズや推理小 説から洞察力をつけたり,鴨長明の考え方 などに影響を受けたり,生きていくうえで 影響があったと思う.. 第2接面. ・『平家物語』『万葉集』も読んだ.高校の古 典の先生に影響を受けた.. 古典の教師(THEY)⇒“私” (I). 第2接面. ・太宰治,堀辰雄,谷崎純一郎の『陰影礼賛』 なども読んだ.. 図書(THEY)➡“私” (I). 第2接面. ・古文の研究室に入った.. 古文研究(THEY)⇒“私” (I). 第2接面. 自分で買って友達と読んだ.アンみたいな 先生になりたい,と思った. ・星が金貨になる話を覚えている. ・中学2年生で, 『嵐が丘』『ジェーン・エア』 も読んだ. ・詩も好きだった.好きな詩や文章を,書き 写した. ・古文も好きだった.高校の夏休みにじっく り『方丈記』を読んで好きになった. ・サガンやシェークスピアも読んでいた.. 大学時代. ・小説よりも,学術書や研究書を読んでいた. ・卒業論文は,鴨長明(10)の『発心集』で書いた.. 松居直 図書. 部活動・生徒会活動 YOU 世界. 学術書・研究書. 小学生向け雑誌. “私”. 童話. THEY. 絵本 I. 古文研究. 世界. 母. 妹 父 小学校の担任の先生 古典の教師. 古文. 保育園の先生. 図10 “私”の基礎をつくったYOU世界・THEY世界. 69.

(15) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度) 表11 わが子(I)に絵本をたくさん読み聞かせた“私” (YOU) 時代 子育て時代. 出来事. “私”と他者との関係. ・教師になって4年で結婚し, 子どもができた. “私” (YOU)⇒わが子(I). 接面 第1接面. ・福音館の絵本を毎月とり,保育園に良い本 がたくさんあったので,借りてきて読んだ. ・大学時代の美学の先生が「(子どもは)目が 見えるようになったら(絵本の読み聞かせ は)いつからでもいいんですよ.」と言って いたのを思い出し,ゼロ歳から読み聞かせ をしていた. ・まずは『いないいないばあ』そして『おさ じさん』などの松谷美代子のシリーズ. ・ 『おおきなき』.⇒“私”の母が,娘に読み “私”の母(YOU)⇒わが子(I) ながら泣き出した.. 第1接面. ・『まちんと』⇒読み聞かせというよりは,自 分で読んで,なんとも言えなかった.. 絵本(THEY)⇒“私” (I). 第2接面. ・『ばばばあちゃん』シリーズ, 『ぐりとぐら』 シリーズ, 『11匹のねこ』シリーズ, 『14匹の』 シリーズなど.. “私” (YOU)⇒わが子(I). 第1接面. ・たくさんの絵本は,今でもとっていて,娘 にあげたりしている. ・娘が小学校に上がっても,読み聞かせはし ていた.. “私”の母 絵本 I. THEY 世界 YOU 世界. 我が子 “私”. 図11 我が子(I)を取り巻く“私”と“私”の母(YOU). 70.

(16) 絵本を通した自己の成長に関する研究 表12 子育ての経験から生徒(I)への読み聞かせを大切にした“私” (YOU・THEY) 時代 教員時代. 出来事. “私”と他者との関係. ・読み聞かせはいい,と思い,中学生に読ん. 接面. “私” (YOU)⇒中学生(I). 第1接面. “私” (YOU)⇒ある生徒(I). 第1接面. ・『すみれ島』という特攻隊で死んでいく人た “私”(THEY)⇒クラスの生 ちの話を授業で読んだときは,生徒たちは 徒たち(I) 泣いていた.. 第2接面. ・読み聞かせはお昼の放送でもやった. “私” の小学校3年生の先生がやってくれたよう に.体験はつながると思う.. 第2接面. だらすごく反応が良かった.何歳だろうが 読み聞かせはいいとわかった. ・勉強に興味のない生徒が,『地獄』という絵 本をもってきた.一生懸命見て,聞いて, 満足していた.. “私”(THEY)⇒全校の生徒 達(I). ・読み聞かせはすごい力をもっている.いく ら字が読めるようになっても,読み聞かせ をする大切さを感じている.. THEY. I. YOU 世界. “私”. 中学生の生徒たち ある生徒. 世界. “私”. 図12 YOU的,THEY的に生徒(I)と関わった“私” 表13 “私”の孫へのYOU的関わり 時代 孫と. 出来事. “私”と他者との関係. ・5歳になる孫が,「読んであげる. 」とさか “私” (YOU)⇔孫(I) さまのまんま読んでくれる.紙芝居も好き である.. 71. 接面 第1接面.

(17) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). THEY. YOU. 世界. 世界 孫 “私” I. 絵本. 図13 絵本を媒介にした“私” (YOU)と孫(I)との関わり 表14 同僚(THEY)と協力して学校図書館の仕組みを整えた“私” (I) 時代 学校図書館協議 会の活動と学校 図書館運営. 出来事 (11). ・学校図書館協議会 の活動 ・中学校の司書教諭として活躍し,図書館を 活用した学校運営の原動力となった.. “私”と他者との関係. 接面. “私” (I)⇒学校全体(THEY). 第2接面. ・寄託図書を使った朝読書や,長期休みの本 “私” (I)⇔同僚(THEY) の貸し出しは, 学校の雰囲気を変えていった.. 第2接面. ・国語科で,図書館を使い,論文作成の授業 を行った. ・国語の教員たちや,活動に賛同した教師た ちの協力があってこそ,学校図書館の活動 が成り立ったと考えている. 今後. ・全国で学校図書館に関する講演を行ったり, “私”(I)➡学校図書館の雑誌 本を執筆したりしている.現在も雑誌で, (THEY) 連載を執筆中である.. 学校全体 I. YOU. THEY. 世界. 世界. “私”. 同僚(筆者) 学校図書館雑誌 全国の読者. 図14 経験を社会(THEY)に広めていく“私” (I). 72. 第2接面.

(18) 絵本を通した自己の成長に関する研究. 3-2.考 察. の文章を読ませることをせっかちにやる大人たち. 三人のライフストーリーをふりかえり,それぞ. は,絵本が子どもに果たす大切な役割をこわし,. れのライフステージにおいて“私”が他者と関係. 子どもが絵本から引っ張り出す本当の楽しみを奪. を築き,ドーナッツ論の第1接面,第2接面で絵. い去っている,と述べている.. 本,図書と緊密にかかわりながら自己を成長させ. つまり,絵本を与えるとき,親は,子どもに何. ていく様相を検討していく.. も強制や制約をせずに,ただただ,子どもが想像 にふける豊かな時間を保障してあげることこそが 大切だということである.これは,YOU的存在. 3-2-1. 幼少期におけるYOU的存在の関わ. である父親,母親が用意した子どもの発達の最近. り 幼少期は, “私” (自己)の身になってかかわっ. 接領域(ヴィゴツキー,1934)であると理解できる.. てくれるYOU的存在が, “私”が自己を成長させ. また,この点について『こどものとも 年中向. ていく上で,必要になってくる時期である.この. き てつたくんのじどうしゃ』 (2014,福音館書店). 幼少期,三人とも読み聞かせやお話を主に父親に. の折り込み付録に,作者わたなべしげおの自らの. してもらっている点が興味深い.夜寝る時間や,. 子育てのエピソードが掲載されているので以下に. 夕方のゆったりした時間に布団に入ったり,父親. 引用したい.. の大きなあぐらの中にすっぽりと包まれて,ワク ワクするお話を聞いたり,絵本を読んでもらう.. 思い返してみれば(絵本の読み聞かせは)親. 子どもにとって優しい父親の声と愛情に包まれた. 子にとって長い一生の間の至福のときでした.. 至福の時であったろうことが三人のライフストー. 親子で絵本の楽しみを分かち合いながら,それ. リーから読み取れた.母親も食事を作ったり,身. ぞれに空想し,それぞれに安らぎをおぼえたも. の回りの世話をしてくれたりする存在であり,身. のでした.. 近にいつもいてくれるYOU的な存在の中で,三 人は育っている.. 子どもが空想の世界を楽しむとき,親も自分の. また,三人とも兄弟姉妹がおり,父,母,兄弟. 空想の世界に浸り,楽しむことこそが豊かで至福. 姉妹と共に温かい教育的な家庭を基盤に伸び伸び. のときなのである.そこには,強制も制約もない.. と育っている.Aさんは,2つ離れた姉から素話. 筆者,Aさん,Bさんの両親は,いずれも読み. をしてもらっている.Bさんは,大変早い時期か. 聞かせをする時に「字を覚えさせよう.」「内容の. ら自分で児童書を読み,7歳離れた妹に絵本の読. 読み取りをさせよう. 」などという目的をもって. み聞かせをしている.筆者は4人の兄弟姉妹と共. はいない,と想像できる.ただただ,子どもと共. に父親の素話を聞いて想像の世界を共有している. に絵本を楽しみ,子どもの反応を喜び,ゆったり このように兄弟姉妹といった共に育つYOU的な. した安心が保証される状況を自然に作っている.. 存在も,自己の成長に良い影響を与えていたと考. このことこそが,子どもの豊かな想像力を育む源. えられる.. となっているのではないか.. また三人とも幼児期から家庭に図書が揃ってい. なお,奥村ら(2015)は乳幼児期の読み聞かせ. た環境により,自然に本に親しむようになる.そ. と子どもの発達との関連について検討を行い,子. れも強制ではなく,自分の興味から本を手に取る. どもの興味・関心を大切にした子どもの発達に応. ようになっている.それは,YOU的存在である. じた保護者の関わり方が子どもの積極的な絵本へ. 父親,母親によって,子どもに用意された絵本,. の取り組みを導き出すと述べている.そして,こ. 図書という文化的世界,つまりTHEY世界である.. の子どもの積極的な絵本へのかかわりが導かれる. 松居(1975)は子どもが絵本を見ながら,空想. と,その結果として子どもの対人関係能力,好奇. にふける時間こそが,幼い子どもと絵本の世界が. 心の旺盛さ,認知・情動的学習能力といった広い. 一体となる絵本による真の読書の時間であり,絵. 領域の発達へとつながることが示唆されたとして. 本の字を読ませたり,絵本で字を教えたり,絵本. いる.このように,YOU的存在である父親,母 73.

(19) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). 親が,子どもが空想の世界を存分に楽しめること. れるようになる.. を保障するかかわりをとることで,子どもは想像. いずれにしてもAさん,Bさんが文学全集を読. 力という認知能力を発達させていくと考えられる. んでいったことは,その後の読書の興味に大きく 幼い時にそのような安心が保証される中で育っ. 影響している.というのは,二人が読んだ文学全. た三人は,家庭から幼稚園や保育園へと生活空間. 集は,どちらも様々な国,ジャンルの文章が含ま. を広げていく中でYOUの対象を幼稚園・保育園. れており,それは,その後の読書の入門的な働き. の先生に広げていく.そこでは,同じ年齢の子ど. をしているからである.Aさんは,文学全集の中. もたちがおり,身近なYOU的存在である先生か. で『赤毛のアン』を読み,短大で,その翻訳者村. ら紙芝居や絵本を読んでもらい,絵本や紙芝居の. 岡花子に出合い,心を躍らせる.Bさんは同じく. お話の感動や,驚きや,ある時は悲しみを共有す. 『赤毛のアン』『ホームズ』『ルパン』を読んだ後,. る.読み手も聞き手も,みんなで,お話の展開に. そのシリーズを読破している.. 悲しい気持ちになったり,うれしい気持ちになっ. これらの文学全集は,二人の想像力を掻き立て,. たり,びっくりしたり,大笑いしたりして,感情. 自己を遠い世界に連れて行ってくれるTHEY的道. を共有する.この「感情を共有する」ことが幼児. 具だったに違いない.ヴィゴツキー(1978)は,. 期の“自己を成長させる”ことに繫がるのではな. 子どもの文化発達においては,どの機能も人々と. いか.. 子どものあいだ(精神間で)と,その次に子ども. ところで,このことに関して,佐伯(2007)は. の内部で(精神内で)現れるとしている.三人が. 子どもが人や事物に自己を投入することで「共感. 学童期に文学全集に浸るという行為を,文化的実. 的知性」を発達させていくとしている.そして,. 践世界であるTHEY世界が子ども内部で機能し始. 佐伯のこの考えを受けて,杉沢・田島(2015)は. めていることとして理解できるのではないだろう. 絵本を読むということは,一種の疑似体験をする. か.. ことであり,他者や物と一体化することを通して 3-2-3.“私”にとって,YOU的・THEY的. 共感的知性を発達させていくと論考している.幼. 存在である学校の教師の影響. 稚園や保育園では,子どもが絵本の登場人物に一 体化することに加えて,その一体化を教師や周り. 学童期は,学校教師がYOU的存在として,そ. の子どもたちと共有することができる.この体験. してTHEY的存在としての役割を果たす時期であ. が子どもの共感的知性をより発達させていくと考. る.この父親,母親ではない,しかしながら“私”. えられる.. の身近にいて“私”の身になってかかわってくれ るYOU的存在としての学校教師の役割は,社会 人としての“私”が,育てられる“私”から,社. 3-2-2.学童期の文学全集(THEY的道具). 会人としての育てる“私”に自己を成長させてい. の影響 幼少期に続く, 学童期は“私”が自らの力でドー. くことにある.. ナッツ論の第2接面であるTHEY世界と出会いな. 小中学校時代,筆者,Bさんは学校の教師の影. がら,自己を創り上げていく時期である.. 響を強く受ける.筆者は中学校2学年時の担任の. 小学校に入り,三人は,様々な図書を手にする. 先生の授業での,小説の読み取り方に文学の面白. ようになる.それもやはり誰かに強制されたから. さを始めて経験する.また,Bさんは小学校4年. ではない.自らの興味から本を手に取るようにな. 生の時の担任の先生の給食時間の読み聞かせを忘. る.特にAさん,Bさんは,テレビの影響をあま. れられないでいる.このそれぞれの経験は,筆者. り受けていない.二人とも家庭に文学全集があり, が国語の教師となり授業を進めるときのモデルと それを楽しみに読んでいる.一方筆者は,年齢が. なり,Bさんは同じく国語の教師となりまた,司. 10歳ほど若いせいか,または家庭環境のせいか,. 書教諭として生徒に読み聞かせを積極的にしてい. テレビの影響をかなり受けている.また,Bさん. こうと考えたモデルとなっている.このモデルは,. の読書の中には,小学生向け雑誌や,漫画も含ま. 社会人としての“私”のモデルである.ここから 74.

(20) 絵本を通した自己の成長に関する研究. も子ども時代の心地良い経験は,次世代に引き継. 詩を次々に読み,そして高校生時代に古文に出合. がれやすいことを示している.. い,大学生時代は,古文の研究に没頭していった. 父親から読み聞かせをしてもらったYOU的道具 である絵本や,YOU的存在である父母が買いそ. 3-2-4.様々なTHEY的世界へ自己を広げる. ろえた文学全集に導かれ,次第に自己はTHEY世. 青年期 思春期,青年期になると, “私”はTHEY世界. 界と広がっていく.その軌跡がはっきりとみられ. に自己を拡張していき,次世代にYOU的かかわ. るのも興味深い.. りをする準備をさらに進め,自己を成長させてい. それぞれ異なった道へ歩んでいる三人であるが,. く.. 共通しているのは,いずれも幼児時期のYOU的. 高校生時代,大学・短大時代は,三人はそれぞ. な関わりが影響していることである.. れ異なった歩みをしていく. 筆者は,大学の学生や,ボランティア先の障が. 3-2-5.母親になりIからYOUへ. いのある方たちや,くすみ書房の社会問題を扱っ. こ の 時 期 と あ と に 続 く 時 期 は, エ リ ク ソ ン. た図書から,考えを深めていく.このような社会. (1950)が世代継承性(generativity)と呼んだ. 的問題に目を見けるようになったのも,家庭がク. 時期にあたる.エリクソンは人間の生涯を8つの. リスチャンホームであり, 幼稚園で与えられた 「自. 段階に分け,世代継承性(generativity)を成人. 己犠牲」をテーマにした紙芝居や,毎日朝晩食事. 期中期の心理社会的課題としている.この時期,. ごとに家庭で行われたお祈りが影響しており,筆. 人は次世代を生み育てることや,地域社会におい. 者の自己の形成に大きな影響を与えていると考え. て職業や社会活動を通じて,次世代の育ちに関与. る.このようにYOU的な温かな家庭を土台に,. しながら自己を成長させていく.. 筆者の興味は社会問題というTHEY世界へと広. 三人は,成長し,それぞれ結婚し,母親となる.. がっていく.また,くすみ書房や,大学の講義で, 三人とも自らの幼児期の経験や,その後の経験か 絵本の面白さに感動し,絵本に強く興味をもつよ. ら,絵本の大切さを強く感じており,わが子には,. うになる. この絵本への興味は, 筆者が母親となっ. 積極的に絵本の読み聞かせをするようになる.し. たときに我が子へ絵本を与えていこうと考える. かもそれは,「子どものために読まねばならぬ.」. きっかけとなっていく.THEY世界での経験が,. といった,義務的なものではなく,自然と親子で. 次世代のIを育てる方向性を決めるきっかけと. 楽しみ,心の交流がなされる読み聞かせである.. なっている.. 自分が心地良かった経験をわが子にも経験させた. 一方,Aさんは,短大で出会った松居直,村岡. い,と自然に感じていたと思われる.. 花子から強い影響を受ける.これによりそれまで. 筆者の『のせてのせて』を読み聞かせた体験は,. は,父や姉から自分が受けてきた絵本の読み聞か. 筆者にとっても子どもたちにとっても大切な,温. せの心地よい体験を再認識し,今度は幼稚園の教. かい思い出である.おそらく,AさんもBさんも,. 諭として子どもたちに絵本の読み聞かせをしてい. 我が子との絵本を介した思い出は,いつ思い出し. こう,と考えるようになる.つまり,YOU的な. ても心が温かくなるような思い出に違いない.I. 心地よい体験が,THEY的な体験から再認識され,. とYOUの関係は,そのような温かい関係なのだ.. そ れ を 次 世 代 に 対 し, 今 度 は 自 ら がYOU,. そして,Aさんが,父親の死に際して, 『おじいちゃ. THEYと言う立場で同じ体験を与えようとしてい. んがお化けになったわけ』の絵本に号泣したのも,. るのだ.. 温かかった父親(YOU)との心の交流を忘れら. そして,Bさんは,高校時代に古文の面白さを. れなかったからであろう.. 知り,大学では古文について研究をするようにな 3-2-6.THEY・YOU的 立 場 と し て 次 世 代. る.Bさんは,幼少期は絵本の読み聞かせを楽し. 育成へ. み,小学校時代は文学全集を読み,中学校時代は. 最後に,教員になってからの三人は,同じよう. 文学全集から広がって現代の日本・世界の小説や 75.

(21) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). に絵本の読み聞かせや読書の大切さを子どもたち. また,青年期になると,三人は必ずしも現実の. に伝え,YOU・THEY的存在として,次世代の. 他者との関わりがなくても,読書を通し,様々な. 子どもたちを育てていこうとする.特にBさんは, THEY世界の他者を自らの中に取り込んでいく. 学校の生徒にとどまらず,全国学校図書館協議会. ワロン(1983)が自我発達論で述べているように,. で,幅広く次世代の育成に関わっている.また,. 自己は「社会的な」他者を自分の中に形成し,そ. 筆者とBさんは,孫をもうけ,絵本を通した子育. の他者と対話する中で認識を客観化し,あらゆる. てが,次世代に継承されていくことを実感する.. 吟味や批判に耐えるように反省することができる. この時期は, “私”はYOU的・THEY的存在と. ようになる.このように自己は,Iの立場にある. しの自己を確立させ,少し離れて次世代にかかわ. 時にはYOUやTHEYとの関わりの中で成長して. ろうとしていることがわかる.. いく. 一方,自己がYOUや,THEYに立場を変えて. 3-2-7.全体を通して. からは,次世代(I)を育成する経験を通して自. 以上,三人の絵本を通した「自己」の成長につ. 己を成長させていく.この次世代育成においては,. いてみてきた.共通して言えることは,幼児期の. 自らが絵本・図書を通して「良かった,楽しかっ. YOU的な存在である父,母,兄弟姉妹,そして. た. 」と振り返る幼児期から学生時代までの経験. 幼稚園・保育園の先生との絵本や図書の思い出は, が生かされている. 三人にとって,他者と共感しあえる豊かな経験で. また,三人は次世代を育成しつつ,自らのため. あることだ.. に絵本や図書への興味を広げ,読書を通して考え. 佐伯(2017)は,赤ちゃんが関わっているモノ. を深め,自分が経験しなかった社会を知り,自己. に他者も関わることで,モノとの楽しみが増大し, を成長させていく. モノとの「おもしろさ」を共有できる経験を通し. このように見ていくと,自己の成長は一生涯の. て,さまざまな人と意思や意図を相互に伝え合う. ものであり,自己の成長に絵本や図書が大きな影. 「共感的関係」を築いていくようになる,と述べ. 響を与えていくことがわかる.. ている.. 4.まとめと今後の課題. つまり,幼児期に絵本をYOUと共に楽しむ経 験が,さまざまな人と意思や意図を相互に伝え合 い,共感し合う力を育むのだ.そして絵本を媒介. 本研究では,対象を50代~60代の女性に対象を. としてYOU的な存在に育まれた“私”にとって,. 絞り,絵本・図書が自己の発達にどのような影響. 絵本や図書は大変身近なYOU的道具となり,自. を及ぼすのかを,佐伯(2007)のドーナッツ論を. ら読書に親しむようになる.そうなると様々な社. 用いてライフステージ毎に検討した.その結果,. 会が描かれる図書から, “私”はTHEY世界へと. 子どもの身になり,子どもに寄り添い,子どもと. 自己をつなげていくことになる.. ともに,絵本を楽しみ,感情を共有するYOUと,. この幼児期の豊かな他者との経験が,小学校以. この時期に出合うYOU的道具である絵本との関. 降の三人の自己の成長の基盤となり,他者と共に. わりが,絵本や図書への興味・関心を育て,子ど. 絵本や図書の楽しみを広げていくことになる.ホ. もの自己をYOU世界からTHEY世界へと導き育. ルツマン(2014)は,ヴィゴツキーの発達の最近. てていくことがわかった.また,子どもが成長し,. 接領域理論に触れ,鍵となるのは,人々と一緒に. 次 世 代 を 育 て るYOU的 立 場,THEY的 立 場 と. 何かをすることなのである,と述べている.Bさ. なってからは,自分にとってYOUやTHEYだっ. んが,小学校時代にクラスメートと共に,担任の. た他者から受けた絵本,図書を通した経験を次世. 先生の読み聞かせを楽しんだ経験,学生時代,三. 代のIに伝えていくことも分かった.このように. 人の様々なTHEY世界の他者との絵本・図書を通. みると幼児期の絵本を通した,YOUとの関わり. した関わりが,それぞれの自己の成長に大きな役. が,三人の一生の絵本・図書との関わりの土台を. 割を果たしたと考えてよいだろう.. 作り,それを通して自己を成長させていった,と 76.

(22) 絵本を通した自己の成長に関する研究. いうことがわかる.. 幼児教育に携わるものとして, 「子どもをいか. 今後の課題として以下のことが残されている.. に育てるか.」は今後も検討を深めていきたいテー. まず,三人が育った時代は,戦後15年から20年. マである.すぐ身近で出会える子どもたちから,. 経ち,高度経済成長の最盛期となり,わが子の教. 今後も学び続けていきたい.. 育に各家庭が力を入れられる時代となっていった. 附 記. 頃だ.そしてインターネットもなく,テレビによ る影響もあまりない時代は,親子がゆっくり言葉 を交わし合い,テレビの番組ではなく,絵本やお. 最後に,御自分の思い出をお話してくださった,. 話を子どもに与える時代であったのだろう.しか. Aさん,Bさんに心から謝辞を申し上げたい.ま. し,現代はインターネットの普及により,電子絵. た,Aさん,Bさんの絵本や,図書への思い,そ. 本などで,親が読み聞かせをしなくても機械が読. れらを用いた保育観・教育観に触れ,改めて筆者. み聞かせをしてくれるようになってきており,そ. 自身も絵本による保育を進めていきたいと願うよ. れを利用する家庭も増えてきているという.一方. うになった.そして筆者が知らなかった絵本や図. で,親子の読み聞かせを大変重要視している家庭. 書も多数紹介され,実際にその絵本・図書を手に. も ま だ 多 く あ る. 今 後 の 研 究 で は, 幼 児 期 に. してみて,「良い絵本・図書」のもつ魅力を改め. YOU的な関わりで絵本の読み聞かせをたくさん. て感じることができた.感謝を申し上げたい.. していた現代の家庭を対象に,そのような環境で. なお,本論文は北海道教育大学大学院教育学研. 育った子どもが小学生になりどのような発達をし. 究科学校臨床心理専攻の平成30年度修士論文とし. ていっているのか,追跡研究を行っていけたら,. て提出したものに加筆修正したものである.. と考えている.. 注. 佐伯(2013)は,子どもに寄り添って子どもを 二人称的にみることができるYOU的な存在,子 どもが手にして一心に気持ちを傾け,他者との関. 1 『髪床やの大根さん』作者の村山壽子(1903. 係を作りだすYOU的道具の存在こそが,子ども. -1946)と,絵担当の村山知義は,夫妻.『髪. を育てていく,と述べている.そしてそのような. 床やの大根さん』は,昭和3年(1928) 『子供. YOU的な環境が保証される幼児教育が,生涯に. 之友』誌上に発表.(山崎怜『村山壽子研究上. わたる人間形成の基礎を作っていく,と述べてい. の若干の資料について』香川大学一般教育研究 . る.ここから,保育現場において,YOU的道具. 44巻pp.124-125 2012年). となる絵本が子どもの自己の成長に果たす役割を. 2 『科学』は毎月家庭に届く子供向けの月刊誌.. 検討し,幼稚園,保育所,認定こども園という社. 「もやしを育てるキット」 「プラネタリウム」. 会的場における絵本の読み聞かせの効果を実証す. など興味深い付録が毎月ついてきた.. ることも今後の課題として残されている.. 3 『塩狩峠』明治42年に実際に起こった鉄道事 故を元にした人間のあり方と愛と信仰の物語.. おわりに. 三浦綾子の代表作である. 4 社長であった久住邦晴さんは2017年8月に死. 幼児教育に携わる筆者にとって,今目の前にい. 去している.「くすみ書房」は1946年に西区琴. る幼児へ温かな,愛情に満ちた保育がいかに必要. 似で創業し,99年に邦晴さんが父の後を継いだ.. であるかを,改めて感じさせる研究となった.ま. 読書離れに歯止めをかけようと,良書なのに売. た,幼児の保育や育児に,絵本はIとYOUとを. れ行きのよくない作品ばかりを集めた「売れな. 結ぶ大変有効なYOU的道具である,と感じた.. い文庫フェア」や,著者や北大の研究者らを招. 今後も研究を続け,研究で得たことを,これから. き店内で開く文化交流カフェ,朗読会などユ. の保育に生かし,若い世代の保護者に伝えていき. ニークな企画を次々と打ち出し注目を集めた.. たいと考える.. 中でも,「本屋のオヤジのおせっかい」と題し 77.

(23) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). 中高生に読んで欲しい本を集めた「これを読. 童話集を出版したほか,第二次世界大戦後はモ. め!」シリーズや,いじめに悩む若者向けの本. ンゴメリーの『赤毛のアン』を翻訳出版し,現. を選んだ「君たちを守りたい」フェアは道内各. 在も多くの読者をもっている.作家活動のほか. 地の書店や他県にも広がった.しかし,大型店. に政府の各種委員や諸文化団体の役員を務め,. 出店の影響で売り上げが低迷し,2009年に厚別. 多面的な活躍をした.『村岡花子訳『赤毛のア. 区の商業施設に移転. 「地域に愛される本屋」. ンシリーズ』全10巻(1973年 講談社)』(小学. を目指し再出発したが,15年に閉店した. (朝. 館 日本大百科全書(ニッポニカ)朝日新聞コ. 日新聞デジタル版2017年8月30日配信 www.. トバンク,kotobank.jpより重引き 2019. 1. 3. asahi.com参照). 参照). 5 小山内美智子 自立生活センター NPO法. 9 「加古里子」1926- 昭和後期-平成時代の. 人札幌いちご会 理事長 1977年から障がい者. 絵本作家.大正15年3月31日生まれ.東大工学. が自由に地域で生きるための運動を行ってきた.. 部で応用化学をまなぶ.卒業後化学関係企業の. 障がいのある人たちが施設ではなく,介助体制. 研究所につとめるかたわら児童文化運動に関わ. さえあれば地域で暮らしても危険がないのだと. り,たのしみながら科学をまなぶ本や絵本を多. いうことを社会に訴えている.著書に『車いす. 数生みだす.平成20年菊池寛賞.福井県出身.. からウインク』1988年 文藝出版, 『あなたは. 本名は中島哲(さとし).作品に「かわ」「海」. 私の手になれますか』1997年 中央法規, (2. 「地球」「かこさとしかがくの本」, 「だるまちゃ. 『私の手になってくれたあなたへ』2007年 中. ん」シリーズなど. (講談社 デジタル版 日本. 央法規,『おしゃべりな足指 障がい母さんの. 人 名 大 辞 典+Plus 朝 日 新 聞 コ ト バ ン ク,. ラブレター』2017年 中央法規など多数.1997. kotobank.jpより重引き 2019. 1. 3参照). 年にはNHKスペシャル「あなたは私の手にな. 10 「鴨長明」鎌倉前期の歌人.通称菊大夫.法. れますか-小山内美智子のメッセージ」2011年. 名蓮胤(れんいん).名を「ながあきら」とも. には,NHKヒューマンドキュメンタリー「あ. 読む.京都下鴨神社の禰宜(ねぎ)長継の子.. なたが私の心の道しるべ-小山内美智子と浅野. 和歌を源俊恵に学びその派の頭領となり,管弦. 史郎」など,メディアにも多く取り上げられて. の道にも通じる.後鳥羽院に召されて和歌所寄. いる.. 人(よりゅうど)となったが,のち出家して日 野山の方丈の庵(いおり)に隠遁著述の生活を. 6 「リトルゴールデンブック」1942年9月19日 にアメリカWestern Publishing Companyより. 送った.主著に「方丈記」「発心集」「無名抄」 ,. 発行された12冊の幼児絵本が始まりで,現在で. 家集に「鴨長明集」がある.仁平3年頃~建保. も販売され続けている絵本である. (フィード. 4年(1153頃 ‐ 1216)(小学館 精選版 日本. サックの専門店サーディーズ ホームページ . 国語大辞典 朝日新聞コトバンク,kotobank. jpより重引き 2019. 1. 3参照). feedsack.jp 2019,1,10参照) 7 「松居直」1926年京都生まれ.日本美術に親. 11 「学校図書館協議会」学校図書館の充実と発. しむ幼少期,学生時代を経て,旧制中学在学中. 展を目ざし,青少年の読書を振興する活動を行. に敗戦を体験する.戦後は同志社大学法学部で. う公益社団法人.各都道府県学校図書館研究団. 学び,卒業とともに1951年金沢の福音館書店に. 体(61団体)の会長を中心に組織された学校図. 入社.1956年に『こどものとも』を創刊,昭和. 書館の全国組織で,学校図書館の施設や人員,. 期を支えた数々の才能を発掘,起用する.. 予算の充実を訴える運動,学校図書館の職員研. 8 「村岡花子」翻訳家,児童文学者,評論家.. 修,読書推進に関する調査研究,図書の選定,. 山梨県生まれ.東洋英和女学院高等科卒業.. 読書の振興と普及のための各種コンクールの実. 1932年(昭和7)から41年までJOAK(現NHK. 施などといった幅広い活動を行っている.略称. ラジオ)の嘱託として子供ニュースを担当,人. は全国SLA.1953年(昭和28)の「学校図書館. 気を集めた. 『たんぽぽの目』 (1941年)などの. 法」 (昭和28年法律第185号)の施行を控え, 78.

(24) 絵本を通した自己の成長に関する研究. 1950年に「学校図書館が民主的な思考と,自主. ・奥村桃子/田島信元/宮下孝広/大熊美佳子/. 的な意思と,高度な文化とを創造するため教育. 岩崎衣里子(2015) 「乳幼児期の読み聞かせ・. 活動において重要な役割と任務をもっている」. 読書活動支援のあり方と子どもの発達との関連 性」『生涯発達心理学研究』7 pp. 65-76. と宣言し,全国の教員の有志によって任意団体 として設立された.その後,1998年(平成10). ・大熊美佳子/宮下孝広/田島信元/奥村桃子/. に社団法人全国学校図書館協議会に改組し,. 岩崎衣里子(2015) 「児童期・青年期の読書環. 2012年(平成24)に公益社団法人に移行した.. 境が読書活動のあり方,認知・社会的発達に及. 1997年6月11日に改正された「学校図書館法」. ぼす影響過程」 『生涯発達心理学研究』7 pp.. に,12学級以上の規模のすべての学校に司書教. 107-120 ・レディ,V.著 佐伯胖訳(2015)『驚くべき. 諭を配置する義務が明記されたことから,6月 11日を学校図書館の日に制定した.(小学館 . 乳幼児の心の世界――「二人称的アプローチ」. 日本大百科全書 ニッポニカ 朝日新聞コト. から見えてくること』ミネルヴァ書房 ・ 桜 井 厚(2005) 「 ラ イ フ ス ト ー リ ー・ イ ン タ. バンク,kotobank.jpより重引き 2019. 1. 3参. ヴューをはじめる」桜井厚/小林多寿子編『ラ. 照). イフストーリー・インタヴュー質的研究入門―. 参考文献一覧. ―』せりか書房 pp. 11-70 ・佐伯胖(1989) 「インタフェースと認知工学」 『情 報処理』30⑴ pp.2-14. ・赤羽尚美(2011) 「家庭における絵本の読み聞. ・佐伯胖(2001) 『幼児教育へのいざない』ミネ. かせ―親の関わりと子どもの発達への影響」 『生. ルヴァ書房. 涯発達心理学研究』3 pp. 32-44. ・ 佐 伯 胖 / 佐 藤 学 / 苅 宿 俊 文 / NHK取 材 班. ・バーク,L.E./ウインスラー,A.著 田 島信元/田島啓子/玉置哲淳編訳(2001) 『ヴィ. (1993)『教室にやってきた未来』NHK出版. ゴツキーの新・幼児教育法――幼児の足場づく. ・佐伯胖(1995)『「学ぶ」ということの意味』岩 波書店. り――』 北大路書房. 『共感――育ち合う保育のなか ・エリクソン, E.H.著 (1950) 仁科弥生訳 (1977, ・佐伯胖(2007) で――』ミネルヴァ書房. 1980) 『幼児期と社会1・2』みすず書房. ・佐伯胖編著(2017)『「子どもがケアする世界」. ・ホルツマン,L.著 茂呂雄二訳(2014) 『遊. をケアする』ミネルヴァ書房. ぶヴィゴツキー』新曜社 ・岩崎衣里子/田島信元/佐々木丈夫(2011) 「絵. ・杉沢智子/田島信元(2015)「絵本の読み聞か. 本の読み聞かせ時の母子相互交渉と子どもの使. せを通した『共感的心の理論』の深まり」『生. 用語彙の発達の個人差との関係」 『生涯発達心. 涯発達心理学』7 pp. 13-25 ・田島信元/宮下孝広/大熊美佳子/岩崎衣里子. 理学研究』3 pp. 62-72 ・子どもと保育総合研究所編 (2013) 『子どもを 「人. /松本美幸/伊東直登(2014)「乳幼児期から. 間としてみる」ということ――子どもとともに. 青年期の至る『読み聞かせ―読書』活動の実態. ある保育の原点――』ミネルヴァ書房. と促進要因の検討」 『生涯発達心理学研究』6 pp. 105-142. ・M-GTA研究会(実践的グラウンテッド・セオ. ・Vygotsky, L, S. (1978) Mind in society.. リ ー 研 究 会 ) 「Q&A on M-GTA」http://. Cambridge, MA: Harvard University Press.. m-gta.jp/qa.html 2018.10. 1最終閲覧日. ・Vygotsky, L. S. (1994) The problem of the. ・松居直(1975) 『絵本とは何か』日本エディター. environment. In R. van der Vee & J. Valsiner. スクール出版部. (Eds.) The Vygotsky reader. Oxford, UK:. ・岡本裕子(2014) 『プロフェッションの生成と. Blackwell, pp. 338-354.. 世代継承――ケーススタディ 中年期の実りと. ・渡部良子(2018)絵本を通した“私”の心の成. 次世代の育成――』ナカニシヤ書房 79.

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