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日本人中学生における理想 L2 自己と動機づけとの関係 The Relationships Between Ideal L2 Self and Motivation Among Japanese Junior High School Students キーワード : 理想 L2 自己 動機づけ L2

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日本人中学生における理想 L 2 自己と動機づけとの関係

The Relationships Between Ideal L2 Self and Motivation Among Japanese Junior High School Students

キーワード:理想L2自己、動機づけ、L2動機づけ自己システム

久和 佑輔 KYUWA Yusuke 1. はじめに

近年の動機づけ理論では、第二言語を使う理想の自己像を具体的にイメージできる学習者ほど、第二言 語学習における動機づけが高いと考える。この自己概念に基づいた研究は日本でも多くなされている。一方 で、青年期の理想自己は発達途上であり、理想像の設定自体が難しいという指摘もある。日本における研究 は大学生を対象としたものが多く、中学生の理想L2自己(ideal L2 self)が動機づけにつながっているのか は不明である。そこで、本研究では、日本人中学生の理想L2自己と動機づけとの関係を明らかにすることを 目的として、質問紙による調査を行った。

2. 先行研究

2.1 L2動機づけ自己システム

近年の動機づ け理論では 、Dörnyei(2005, 2009) の提唱する L2 動機づ け自己シス テム(L2 Motivational Self System)が注目されている。この理論では、理想L2自己(ideal L2 self)、義務L2自己

(ought-to L2 self)、L2学習経験(L2 learning experience)という3つの観点から動機づけを捉える。理想 L2 自己とは、第二言語を使う理想の自己像のことである。もし、理想の自己が英語を話す自分であれば、現 在の自己と理想の自己との差を埋めようと、第二言語学習に対する動機づけが高まると考える。義務L2自己 とは、第二言語学習者としてなるべき自己のことである。義務 L2 自己を具体的にイメージできる学習者は、

他者や外的要因により、否定的な結果を避けようとして第二言語学習に取り組む。L2学習経験は、学習者の 第二言語における経験や、第二言語を学ぶ環境、人間関係に関する学習者の態度のことである。L2動機づ け自己システムの枠組みに基づけば、学習者の個人差に焦点を当てて、具体的に学習動機を捉えることが できる。この理論に基づく動機づけ研究は、近年増えてきている。Dörnyei and Ryan(2015)は、2005年以 降に発表されたL2動機づけ関連の論文についてまとめており、理論的な枠組みとして、約3分の1の研究 が、L2動機づけ自己システムを利用していると述べている。

この理論の妥当性は、質問紙を中心とした研究の結果、日本、中国、イラン、ハンガリーなど、多くの国で 実証されている(Csizér & Kormos, 2009; Dörnyei & Chan, 2013; Papi, 2010; Ryan, 2009; Taguchi, Magid, & Papi, 2009)。特に、理想L2自己は、動機づけだけではなく、第二言語不安(L2 anxiety)や、

自らコミュニケーションを図ろうとする意志や態度(willingness to communicate: WTC)とも関係しているこ とが分かっている。Papi(2010)は、イランの高校生1100人に対し、理想L2自己と第二言語不安を含む5 つの因子の関係を質問紙で調査した。その結果、理想 L2 自己が高い生徒ほど、第二言語不安が低いこと が明らかになった。日本人大学生を対象に行われた調査でも、同様な結果が報告されている(Ueki &

Takeuchi, 2012, 2013a)。また、Munezane(2013a)は、373人の大学生を対象に、理想L2自己とWTC を含む9つの因子の関係を、質問紙により調査した。その結果、理想L2自己がWTCを予測する重要な要 因である可能性を示唆している。

これらの研究結果を踏まえると、理想L2自己について研究することは、今後の学習者情意要因や、L2動 機づけ自己システムの研究における発展・深化のために大きな学術的意義を持つと考えられる。そのため、

本研究においては、L2動機づけ自己システムの中でも理想L2自己に焦点を当てて研究を行った。

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2.2 理想L2自己と学習者情意要因との関係

先行研究により、自己効力感(self-efficacy)、国際的志向性(international posture)、促進的な道具的 動機(instrumentality-promotion)といった要因が、理想L2自己の形成・発達に影響を及ぼすことが分か っている。自己効力感とは、「ある行為を行う際の、学習者の信念や自信の程度」(Ueki & Takeuchi, 2012, p.18)である。自己効力感が高い学習者ほど、英語学習に動機づけられ、理想 L2 自己も高いことが分かっ ている(Ueki & Takeuchi, 2012, 2013a, 2013b)。

国際的志向性とは、「異文化コミュニケーションを目的とした英語学習理由、国際的な仕事をしたり、異文 化の人々と接触するといった行動傾向を統合したコンセプト」(八島, 2001, p.39)である。国際的な仕事や外 国に対する興味、外国の人たちと友達になりたいという思いが、英語学習の動機づけや、英語を使う理想の 自己の形成・発達につながることが先行研究で明らかにされている(Munezane, 2013a, 2013b; Yashima,

2002, 2009)。また、八島(2001)は、英語力上昇などの結果、自己効力感や達成意欲が増すことで、さらに

英語が象徴する外の世界への関心が強まることもあることを示唆している。そのため、自己効力感と国際的志 向性との間には、正の相関関係があると考えられる。

そして、促進的な道具的動機とは、将来なりたい職業に就くために英語を学習するなどの、希望的な道具 的動機のことである。先行研究より、将来の仕事や学業のために英語を勉強することが、仕事や学業で英語 を使う自己のイメージにつながることが実証されている(Kim & Kim, 2012; Taguchi et al., 2009)。

また、Taguchi et al.(2009)のモデルでは、促進的な道具的動機の他に、L2文化やコミュニティに対する 態度(attitudes to L2 culture and community)を理想L2自己の先行要因として仮定している。これは、

目標言語が使用される文化やコミュニティに対する態度のことを指し、「英語圏に住んでいる人々が好きです か?」、「英語圏の人々と知り合いになりたいですか?」といった質問項目から構成される。しかし、Lamb

(2004)が指摘するように、外国語文化圏で英語を学ぶ学習者は、特定の英語文化圏に統合したいという欲 求を失いつつある。さらに Yashima(2002)は、目標言語話者と日常的に接触する機会が少ない日本人の 英語学習者は、特定の目標言語集団ではなく、日本の外の世界や異文化と関わりを持ちたいという動機を有 するとしている。そのため、本研究では、L2 コミュニティに対する態度ではなく、国際的志向性を理想L2 自 己の先行要因として仮説モデルを立てた。

2.3 先行研究の問題点

これまでの研究により、L2動機づけ自己システムの妥当性や、理想L2自己とその他の学習者情意要因と の関係についての知見が積み重ねられてきた。その一方で、Zentner and Renaud(2007)は、青年期の理 想自己は発達途上であり、理想像の設定自体が難しいと述べている。この主張を受け Dörnyei(2009)は、

高校生前の年齢の生徒に対して、自己概念のアプローチは適切ではないかもしれないと結論付けている。し かしながら、Kim(2009)や Kim and Kim(2014)などの、韓国の小学生・中学生を対象とした研究におい ては、理想L2自己が動機づけと強く関係していることが報告されており、Dörnyei(2009)の主張とは一部異 なっている。また、Kormos and Csizér(2008)は、高校生・大学生・大人を対象に、理想L2自己などの変数 を比較し、動機づけ理論は環境や年齢を考慮すべきであると主張している。しかし、日本におけるL2動機づ け自己システムに基づく動機づけ研究は、大学生を対象としたものがほとんどであり、中学生を対象として理 想L2自己と動機づけとの関係を調べた研究は、筆者の知る限りまだない。そのため、先行研究で明らかにさ れている、理想L2自己と動機づけとの関係や、理想L2自己とその他の学習者情意要因との関係が、日本 人中学生においても当てはまるのかは不明である。

2.4 研究課題

本研究では、日本人中学生において理想 L2 自己、動機づけ、学習者情意要因との関係を質問紙により 調査する。そのことを通じて、L2 動機づけ自己システムの理解を深めることを目的とする。本研究の研究課 題は次の2つである。(1)日本人中学生において、理想L2自己と動機づけとの間に正の相関がみられ、理 想 L2 自己が動機づけを予測するのか。(2)日本人中学生において、自己効力感、国際的志向性、促進的 な道具的動機が、理想L2自己を予測するのか。

(3)

3. 研究の方法

3.1 調査協力者と調査手順

調査協力者は日本人の中学2・3年生316人であった。性別の内訳は男子151人、女子165人で、平均 年齢は13.5歳である。調査実施期間は2016年4月の1か月間で、2つの中学校において行われた。担当 教員には、筆者が文書と口頭で依頼し、調査の目的と質問紙の内容について事前に説明を行った。回答は すべて無記名で行われ、テストではなく成績には一切関係ないことが伝えられた。実施時間は約5分間であ った。

3.2 質問紙

先行研究を基に、理想L2自己、動機づけ、自己効力感、国際的志向性、促進的な道具的動機の5つの 因子を測る、計34項目からなる質問紙を作成した。各質問項目には、「全くそう思わない」から「非常にそう思 う」の 6件法で回答を求めた。理想L2 自己、動機づけ、促進的な道具的動機についてはTaguchi et al.

(2009)を、自己効力感については Ueki and Takeuchi(2013a)を、国際的志向性については Yashima

(2009)を、それぞれ一部改訂して用いた。質問紙項目の改訂にあたっては、4名の中学2年生を対象に2 回の予備調査を行い、中学生が理解しづらいと考えられる項目を修正した。1

また、Ueki and Takeuchi(2012)で述べられているように、近年の第二言語習得研究において「動機づ け」は、第二言語学習における学習者の努力と粘り強さを指す、動機づけの高い学習行動(motivated

learning behavior)、あるいは、学習者が第二言語学習に意図的に費やす努力の量を指す、意図的な学

習努力(intended learning effort)と定義される。本研究でも、これらを第二言語学習における動機づけと 考える。

3.3 分析方法

分析にあたっては、SPSS 23.0 を用いて、各変数の平均値、標準偏差、信頼性係数(α)、変数間の相関 係数を求めた。また、因子数とモデルの複雑さに対し、標本サイズが小さいと考えられる(In’nami &

Koizumi, 2011; 豊田, 2003)ため、複雑なモデルを構成することは控え、Winke(2014)でも奨励されてい るように、潜在変数を観測変数化して分析を行った。分析には、Amos 23.0 を用い、パラメータの推定法は 最尤法を用いた。

4. 結果

4.1 各変数の記述統計

表1には、理想L2自己、動機づけ、自己効力感、国際的志向性、促進的な道具的動機の各変数の平均 得点と標準偏差、信頼性係数(α)を示す。得点分布を確認したところ、促進的な道具的動機において、天井 効果が見られた。調査協力者が本来持っている回答の分布を適切に測定できていないと考えられたため、

促進的な道具的動機の項目を、以降の分析から外した。また、分析に用いた各項目の内的一貫性は、α

=.87~.89と十分な値が得られた。

表1

各変数の平均値・標準偏差と信頼性係数(α

平均値 標準偏差 α

理想L2自己 3.14 1.21 .88

動機づけ 3.96 1.13 .87

自己効力感 3.17 1.14 .89

国際的志向性 3.70 0.91 .89

促進的な道具的動機 4.61 1.07 .80

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4.2 各変数間の相関分析の結果

表2には、理想L2自己、動機づけ、自己効力感、国際的志向性の、各変数間の相関係数を示す。4つの 変数は互いに有意な正の相関を示した。理想 L2 自己と動機づけとの間には、比較的強い相関(r.67)が 確認された。また、自己効力感および国際的志向性と、理想L2自己との間には、強い相関(r.73~.76)が 見られた。さらに、八島(2001)が示唆するように、国際的志向性と自己効力感との間には、比較的強い相関

(r.60)が確認された。

表2

各変数間の相関行列

理想L2自己 動機づけ 自己効力感 国際的志向性 理想L2自己 ‐

.67

**

.76

**

.73

**

動機づけ ‐

.76

**

.62

**

自己効力感 ‐

.60

**

国際的志向性 ‐

注: **p.01, df = 314

4.3 共分散構造分析の結果

先行研究と相関分析の結果を考慮し、変数間の関係を表す仮説モデルを立てた。まず、L2 動機づけ自 己システムの理論的背景と、Kim(2009)やKim and Kim(2014)の結果から、理想L2自己から動機づけ にパスを想定した。また、日本の外の世界や異文化と関わりを持つことに対する志向性が、英語学習の意欲 や、理想 L2 自己の形成・発達に影響を及ぼすと考えられるため、国際的志向性から動機づけにパスを引き

(Munezane, 2013a; Yashima, 2002)、Munezane(2013b)とYashima(2009)の研究結果を基に、国際 的志向性から、理想L2自己にパスを置いた。そして、自己効力感からは、動機づけと理想L2自己との両方 にパスを想定した(Ueki & Takeuchi, 2012, 2013a, 2013b)。最後に、国際的志向性と、自己効力感との間 に双方向のパスを置いた。これは、八島(2001)が指摘するように、英語力上昇などの結果、自己効力感や 達成意欲が増すことで、さらに英語が象徴する外の世界への関心が強まることもあると考えられるためである。

表2で示した相関分析の結果、国際的志向性と自己効力感との間には、比較的強い相関(r.60)が確認さ れており、国際的志向性と自己効力感との間に相関関係を仮定することは妥当だと考えられる。因果関係で はなく、関連があることの記述にとどめるのは、この2つの変数の関係性についての研究は、筆者の知る限り まだ少なく、印南(2014)が指摘するように、因果関係を含意する解釈を避けるのが無難だと考えられるため である。以上を踏まえ、国際的志向性と自己効力感が理想 L2自己に影響を与え、国際的志向性、理想L2 自己、自己効力感、の3つが英語学習の動機づけに影響することを仮定して分析を行った。図1に、本研究 の仮説モデルを示す。なお、分析の際には、国際的志向性と自己効力感との間に双方向のパスは置かずに 分析を行った。本来であれば、両者の間に双方向のパスを置いて分析を行うべきである。しかし、豊田(2007) が指摘するように、自由度が0である飽和モデルにおいて計算される適合度指標は、モデルを比較するため には全く役に立たず、検討したい仮説を飽和モデルではないモデルの形に落とし込む必要がある。そのた め、図1で示した仮説モデルの分析時には、国際的志向性と自己効力感との間には双方向のパスを置かず に分析を行った。

分析の結果、理想L2自己から動機づけへのパスが有意ではなかった(有意確率=.222)。適合度指 標は χ²1)=142.65, p.000, GFI=.846, AGFI=-.540, SRMR=.243, CFI=.826, RMSEA(90% CI=.58, .77)=.671, AIC=160.65とモデルのデータへの当てはまりは良くなかった。

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図1 本研究の仮説モデル

そこで、理想 L2自己から動機づけへのパスを削除し、国際的志向性と自己効力感との間に双方向 のパスを置き、再度分析を行った。図2に、最終的なモデルを示す。係数は全て標準化推定値であり、

0.1%水準で有意であった。観測変数の正規性を、単変量と多変量の観点から調べた結果、観測変数の正 規性が保たれていることが分かった。また、適合度指標を確認したところ、χ²1)=1.486, p.223, GFI

=.998, AGFI=.977, SRMR=.0074, CFI=.999, RMSEA(90%CI=.00, .16)=.039, AIC=19.49とモ デルのデータへの当てはまりが良いという結果が得られた。

図2 パス解析の結果

5. 考察

このセクションでは、2 つの研究課題についてそれぞれ検討していく。研究課題 1は、「日本人中学生にお いて、理想L2自己と動機づけとの間に正の相関がみられ、理想L2自己が動機づけを予測するのか」というも のである。表2で示した相関分析の結果、理想L2自己と動機づけとの間には、比較的強い相関(r.67)が確 認された。しかしながら、図2で示したパス解析の結果、日本人中学生においては、理想L2自己は必ずしも 動機づけに直接影響しておらず、自己効力感と国際的志向性が動機づけに影響を及ぼしている可能性が示 唆された。中学生の場合に概念間の関係が異なること、そして、Kim(2009)やKim and Kim(2014)などの、

(6)

理想 L2 自己が動機づけと強く関係していることを報告している研究結果と、本研究結果との相違について考 えていく。まず、中学生の場合に、理想 L2 自己が動機づけにつながらない可能性がある理由としては、

Zentner and Renaud(2007)が指摘するように、青年期の理想自己は発達途上であり、具体的に英語を使う

イメージを持ちづらいということが挙げられる。またMacIntyre, Mackinnon and Clément(2009)は、実現可 能性の低すぎる理想自己は、動機づけとはほとんど関係がない可能性を示唆している。さらに、Dörnyei

(2009)は、理想 L2 自己が学習者を動機づける条件として、理想 L2 自己が精巧で鮮明(elaborate and

vivid)であることや、実現可能だと思えることなどを挙げている。日本人中学生は、実現可能だと思える、明確

な理想L2自己を持っていない可能性があり、そのことが、理想L2自己が動機づけにつながらない理由の1 つとして考えられる。次に、韓国の小学生・中学生を対象とした研究結果と本研究結果との相違について述べ る。Kim(2009)やKim and Kim(2014)などの、理想L2自己が動機づけと強く関係していることを報告して いる研究結果と本研究結果との相違は、日本と韓国との教育課程の違いや、英語学習に対する態度に起因す ると考えられる。柳・高橋(2014)は、日本と韓国の小学校児童の英語学習に対する態度について質問紙を用 いて調査し結果を比較した。そして、韓国では小学校英語教育やそれ以降の英語教育に対して相当の支援 策が取られており、韓国の児童が英語学習に対して前向きに考え、英語を学習する強固な意識を持っている ことを指摘している。また、「もっと英語をはなせるようになりたいですか?」という質問項目に対しては、韓国と 日本の小学生との間に有意差が認められている。そのため、理想L2自己と動機づけとの関係についても、韓 国で行われた調査と日本で行われた調査とでは異なる結果が得られる可能性がある。

ここからは、「日本人中学生において、自己効力感、国際的志向性、促進的な道具的動機が、理想L2自己 を予測するのか」という研究課題2について見る。表2で示した相関分析の結果、自己効力感および国際的志 向性と、理想L2自己との間には、強い相関(r.73~.76)が見られた。図2で示したパス解析の結果、自己効 力感と国際的志向性は理想L2自己に正の影響を及ぼしており、理想L2自己の分散の69%を説明すること が明らかになった。これは、Ueki and Takeuchi(2012)や、Yashima(2009)などの、高校生・大学生を対象 として行われた先行研究を支持する結果である。日本人中学生においても、授業などを通じ、国際的なものに 対する興味をもったり、英語学習に対して自信をもったりすることで、英語を使う理想の自己像がより鮮明にな っていくと考えられる。

6. 結論

本研究では、(1)日本人中学生において、理想L2自己は必ずしも動機づけに直接影響しておらず、自己 効力感と国際的志向性が動機づけに影響を及ぼしている可能性があること、(2)自己効力感と国際的志向 性が高い生徒ほど、理想L2自己も高い傾向にあることの2点が明らかになった。本研究結果から示唆でき ることは、L2 動機づけ自己システムに基づいて学習者の動機づけを捉える際には、学習者の発達段階を考 慮する必要があるということである。そして、自己概念はその国の教育課程や英語学習への態度などによっ て変わる可能性があり、海外で得られた実証研究が日本には当てはまらない場合もあることが示唆される。

一方、本研究の課題として次の 2 点が挙げられる。まず、本研究のモデルは、あくまで筆者が想定した因 果関係の仮説であるという点である。そのため、本研究結果を一般化する際には慎重になり、今後小学生、

中学生を対象とした同様の研究を比較検討することで各変数間の関係性を捉えていく必要があるだろう。次 に、今回の調査は質問紙による1時点の調査であるという点である。学習者の持つ理想L2自己は多種多様 であり、本研究の質問紙が調査協力者の理想L2自己の全体を捉えていたとは言い難い。さらに、学習者の 理想L2自己や動機づけは、つねに一定の状態にあるわけではなく、変化していくものである。そのため、今 後は質的な手法を取り入れながら学習者の理想L2自己を調べ、長期的な視点で理想L2自己について検 討していく必要がある。そうすることで、理想L2自己と動機づけや、そのほかの学習者情意要因の関係性に ついて、さらに理解を深めることができると考えられる。

1. 本研究で用いた質問項目の詳細は、以下を参照されたい。

(https://drive.google.com/file/d/0B-GlZRw2CqRNdTdxVi0xTkNkeTA/view?usp=sharing)

(7)

謝辞

本研究にご協力いただいた先生方、生徒の皆様、そして、多くのご指摘とご助言をくださった査読委員の 先生方に、心より感謝いたします。

(福井大学学部生)

引用文献

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