フ ラ ン ス 法 に お け る 黙 示 の 行 政 決 定 制 度 に つ い て
服 部 麻理 子
一 は じ め に 二 DC RA 法以 前の 状況 三 DC RA 法に よる 規律 内容 とそ れに 対す る評 価 四 個別 法に おけ る黙 示の 決定 制度 五 お わ り に 一
は じ め に 行政 の不 作為 から 国民 の権 利・ 利益 を保 護す るた めの 仕組 みに は、 複数 の類 型が 存在 する
。行 政の 不作 為の う ち、 申請 に対 する 諾否 の応 答が ない
︵以 下、
﹁無 応答
﹂と いう 場︶ 合へ の対 応と して は、 標準 処理 期間 の設 定︵ 行政 手続 法第 六条
︶、 不作 為に つい ての 不服 申立 て︵ 行政 不服 審査 法第 七条
︶お よび 不作 為の 違法 確認 訴訟
︵行 政事 件訴 訟 法第 三条 第五 項︶ 等が ある
。中 でも
、不 作為 の違 法確 認訴 訟は
、行 政に よる 申請 の﹁ 握り つぶ し﹂ を阻 止し て国 民 の﹁ 申
( )
請権
﹂を 保護 する こと に資 する
。そ の際
、法 が﹁ 相当 の期 間﹂ とい う定 め方 をし てい るの は、 多様 な申 請に
つい て不 作為 が違 法と なる 期間 を一 律に 規定 する こと はで きず
、事 案の 性質 に応 じて 裁判 所が 個別 的に 判断 する 他
( )
ない と考 えら れて いる から であ る。 一
方、 フラ ンス に目 を転 ずる なら ば、 同国 の﹁ 行政 との 関係 にお ける 市民 の権 利に 関す る二
〇〇
〇年 四月 一二 日 の法 律第 三二
( )
一号
﹂︵ 以下
、フ ラン スの 文献 に倣 って DC RA 法と 略記 する は︶
、﹁ 請求
﹂︵
( )
d e m a n d e
︶ に対 する 二ヶ
月以上 の無 応答 は拒 否と みな す旨 を一 律に 定め てい る。 それ では
、国 民か らの 申請 に対 して 行政 が無 応答 を続 ける
( )
余地 を、 法令 によ り予 め縮 減す るこ とは
、実 体法 的・
訴訟 法的 にど のよ うな 意義 を有 して いる ので あろ うか
。ま た、 どの よう な理 論的 根拠 によ って 支え られ てい るの で あろ うか
。本 稿に おい ては
、D CR A法 へと 結実 する に至 った フラ ンス 法に おけ る黙 示の 行政 決定
︵
d é c i s i o n i m p l i - c i t e d e l ’ a d m i n i s t r a t i o n
制︶ 度を 紹介 し、 その 意義 と、 申請 者等 に与 えら れる 保障 の内 容に つい て検 討・ 分析 する こ とに する。
︵
︶ 薄井 一成
﹁申 請手 続過 程と 法﹂
﹃行 政法 の新 構想
Ⅱ行 政作 用・ 行政 手続
・行 政情 報法
﹄︵ 有斐 閣、 二〇
〇八 年︶ 二七
〇
︱
二七 一頁 の整 理に よ れ 1 ば、 法令 に基 づく 申請 とは﹁相 当の 期間 内に 当該 行政 庁に よる 何ら かの 応答 を求 める
﹃手 続法 的権 利﹄ を成 立さ せる
﹂行 為で あり
、当 該申 請 の﹁ 仕組 みを 利用 しう る地 位を 持つ 者が
、現 実に 申請 の意 思を 表示 する こと によ り成 立す る手 続法 的権 利﹂ が﹁ 申請 権﹂ であ る。
︵
︶ 宇賀 克也
﹃改 正行 政事 件訴 訟法
︱
改 正法 の要 点と 逐条 解説︱
︻ 補訂 版︼﹄︵ 青林 書院
、二
〇〇 六年
︶二 七頁
。ま た、 行政 手続 法第 六条 が規 定 す 2 る標 準処 理期 間は
、行 政庁 自ら が設 定す るも ので ある ため
、裁 判所 の判 断す る﹁ 相当
﹂性 とは 異な りえ る。 その 意味 で、 重要 な参 考に はな る が、 必ず しも 両者 が一 致す ると は限 らな い︵ 同書 同頁
︶。 参照
、同
﹃行 政法 概説
Ⅱ行 政救 済法
︻第 二版
︼﹄
︵有 斐閣
、二
〇〇 九年
︶三
〇三 頁、 三 九八 頁。 なお
、裁 判例 によ る定 式化 は、
﹁相 当の 期間 経過 の有 無は
、そ の処 分を なす に通 常必 要と する 期間 を基 準と して 判断 し、 通常 の所 要期 間を 経過 した 場合 には 原則 とし て…
…違 法と なり
、た だ、 右期 間を 経過 した こと を正 当と する よう な特 段の 事情 があ る場 合に は違 法た るこ とを 免れ るも のと 解す るの が相 当で ある
﹂と いう もの であ る︵ 東京 地判 昭和 三九 年一 一月 四日 行集 一五 巻一 一号 二一 六八 頁︶
。
︵
︶
L o i n º 2 0 0 0 - 3 2 1 d u 1 2 a v r i l 2 0 0 0 r e l a t i v e a u x d r o i t s d e s c i t o y e n s d a n s l e u r s r e l a t i o n s a v e c l e s a d m i n i s t r a t i o n s .
全 般的 な紹 介と して、参 照、 岡 3 村美 保子
﹁フ ラン スの 行政 改革
︱
行 政機 関と の関 係に おけ る市 民の 権利 に関 する 法律﹂外 国の 立法 二一 八︵ 二〇
〇三 年︶ 一五
︱
三 三頁、滝 沢
正﹁ 立法 紹介
﹂日 仏法 学二 三︵ 二〇
〇四 年︶ 二三 六
︱
二三 七頁。ま た、 同法 第一 編第 二章 の内 容を 検討 する もの とし ては
、小 原清 信﹁ フラ ンス にお ける 情報 公開 法制 の改 革
︱
﹃行 政と の関 係に おけ る市 民の 権利 に関 する 二〇
〇〇 年四 月一 二日 の法 律﹄ を中 心に
︱
﹂ 久留 米大 学法 学四〇号
︵二
〇〇 一年
︶一 四五
︱
一 七八 頁が ある。
︵
︶ 同法 上の
﹁
d e m a n d e
﹂と いう 用語 は、 日本 法に おけ る行 政に 対す る﹁ 申請
﹂︵ 行政 手続 法第 二条 第三 号︶ と不 服申 立て を包 含し た表 現で あ る 4
︵後 述、 三
⑴
︶が
、日 本法 に比 べて
、行 政に 対し て﹁ 求め る﹂
︵
d e m a n d e r
︶ とい うこ とが より 明ら かな 用語 法で ある と考 えら れる。そ こで
、 本稿 では
、フ ラン ス法 にお ける
﹁
d e m a n d e
﹂は
﹁請 求﹂ と訳 出し てい る。
︵
︶ 講学 上、
﹁い つ処 分を する か﹂ に関 する 選択 は、
﹁時 の裁 量﹂ とい う呼 称を 用い て行 政裁 量の 一に 分類 され てい る。
﹁時 の裁 量﹂ の概 念は
、 最 5 判昭 和五 七年 四月 二三 日民 集三 六巻 四号 七二 七頁 が、 特殊 車両 通行 認定 処分 を覊 束行 為と 解し つつ も﹁ 具体 的事 案に 応じ 道路 行政 上比 較衡 量 的判 断を 含む 合理 的な 行政 裁量 を行 使す るこ とが 全く 許容 され ない もの と解 する のは 相当 でな い﹂ と判 示し たこ とに 対し て、 塩野 宏教 授が 提示 した 理論 的受 け皿 であ る。 塩野 宏﹃ 行政 法Ⅰ
﹇第 五版
﹈行 政法 総論
﹄︵ 有斐 閣、 二〇
〇九 年︶ 一三 一
︱
一三 二頁。
二 DC RA 法以 前の 状況 フラ ンス 法に おい
( )
ては
、日 本法 にお ける 二〇
〇四 年改 正後 の行 政事 件訴 訟法 第三 条第 六項 に規 定さ れる 義務 付け
'
訴訟 に該 当す る訴 訟類 型が ない 一方 で、 黙示 の行 政決 定
( )
制度 が早 くか ら発 展し てき た。 フラ ンス 法に は、 日本 法の
(
よう な不 作為 の違 法確 認訴 訟も なく
、予 先的 決定 の原 則︵
r è g l e d e l a d é c i s i o n p r é a l a b l e
に︶ よっ て公 土木 工事 の件 以 外は 行政 決定 がな けれ ば出 訴で きな いた め、 申請 者の 権利 を保 障す るた めに は行 政の 無応 答を もっ て何 らか の﹁ 決 定﹂ があ った とみ なす 仕組 みが 必要 であ( )
った
。こ こで は、 まず
、D CR A法 に至 るま での 制度 およ び学 説の 展開 過
,
程を 概観 する
。
⑴
制度 の創 設 黙示 の拒 否決 定制 度を 初め て導 入し たの は、 コン セイ ユ・ デタ にお ける 訴訟 手続 に関 する 一八 六四 年一 一月 二日 のデ クレ であ った とさ( )
れる
。そ の目 的は
、当 時多 く見 られ た、
﹁裁 判官 たる
( )
大臣
﹂︵
m i n i s t r e - j u g e
︶ の﹁ 沈黙﹂
.
10
︵
s i l e n c e
︶に 対処 する こと であ
( )
った
。当 該デ クレ によ り、 大臣 は、 下位 の行 政庁 がな した 決定 に対 する 不服 の訴 え
11
を受 けた 際に は、 受理 日か ら起 算し て四
ヶ
月 以内 に判 断を 下さ なく ては なら なく なり、四
ヶ
月 が経 って も大 臣か ら 何ら の判 断も 下さ れな い場 合、 請求 者は 訴え が退 けら れた もの とみ なし てコ ンセ イユ・デ タに 提訴 でき るこ とと な った
︵第 七条
。︶ ただ し、 この 規定 の対 象は
、審 査請 求︵
r e c o u r s h i é r a r c h i q u e
︶ に限 られ てい た。 この 仕組 みを 立法 的に 拡充 した のは、一 九〇
〇年 七月 一七 日の 法律
︵以 下、 一九
〇〇 年法 と略 記す る︶ であ る。 一九
〇〇 年法 によ り、
﹁行 政決 定に 対す る訴 えの 形式 でし かコ ンセ イユ
・デ タに 提起 され えな い係 争事 件に おい て、 何ら の決 定も 下さ れず 四
ヶ
月以 上の 期間 が経 過し た場 合、 利害 関係 者は、彼 らの 請求 が拒 否さ れた もの とみ なし て コン セイ ユ・ デタ に提 訴す るこ とが でき る﹂ との 原則 が定 立さ れた
︵第
( )
三条
︶。 一九
〇〇 年法 によ る規 律は
、そ の
12
後も 修正 を受 け
( )
つつ
、D CR A法 によ る改 正ま で長 期に わた り維 持さ れる こと とな る。 黙示 の拒 否決 定の 技術 は、
13
フラ ンス の行 政訴 訟に おけ る現 代的 支柱 の一 つに 数え られ て
( )
いる
。
14
⑵
裁判 所の 見解 この よう に、 公権 力の 沈黙 が黙 示の 拒否 とみ なさ れる 仕組 みが 成立 した ため、﹁ 沈黙
=
拒 否﹂︵
s i l e n c e - r e j e t
︶と いう 原則 は﹁ 法の 一般 原理
﹂︵
p r i n c i p e g é n é r a l d u
( )
d r o i t
︶ なの か、 とい う論 争が 起こ るこ とと な( )
った
。こ の点 につ い
15
16
て、 はじ め憲 法院 とコ ンセ イユ
・デ タの 見解 は対 立し てい た。 対立 は、
﹁沈 黙
=
拒否﹂で はな く﹁ 沈黙
=
承 認﹂︵
s i - l e n c e - a c c e p t a t i o n
︶ とす る仕 組み を設 ける こと を、 命令 制定 権︵ 行政 立法 権︶ に認 めう るか とい う形 で生( )
じた
。す な
17
わち
、黙 示の 承認 制度 はデ クレ で創 設し うる かと いう 問題 であ る。 憲法 院は
、立 法府 の決 定︵
d é c i s i o n l é g i s l a t i v e
︶ によ って しか﹁沈 黙
=
拒否﹂原 則の 適用 除外 は許 され ない とい う立 場を とっ た。 つま り、 法律 によ る異 なる 解決 の ない 限り
、行 政の 沈黙 を拒 否と 同視 する こと は、
﹁法 の一 般原 理﹂ であ ると 解さ
( )
れた
。こ れに 対し て、 コン セイ
18
ユ・ デタ は、 行政 の沈 黙を 許可 とみ なす 制度 を行 政立 法で 定め てよ いと いう 立場 を採 用し た。 明言 され ては いな い もの の、
﹁沈 黙
=
拒否﹂は
﹁法 の一 般原 理﹂ では ない とさ れた ので
( )
ある
。
19
その 後、 憲法 院と コン セイ ユ・ デタ の立 場は 接
( )
近し
、さ らに
、D CR A法 が﹁ 沈黙
=
承 認﹂ 制度 のデ クレ によ る20
創設 可能 性を 確認 した こと で、 今日 では 両者 の対 立は 終結 した と解 され て
( )
いる
。そ して
、﹁ 沈黙
=
拒 否﹂ は不 文に21
よる
﹁法 の一 般原 理﹂ では なく
、明 文の
﹁一 般原 則﹂︵
r è g l e g é n é r a l e
︶ であ ると され て( )
いる
。
22
⑶
第三 者保 護の 要請 当初、﹁ 沈黙
=
承 認﹂ とい う構 成は あく まで 例外 とし ての 位置 付け しか 得て おら ず、 二〇 世紀 半ば まで は、 黙示 の承 認制 度を 規定 する 例は 珍し かっ たと( )
いう
。し かし
、そ の後
、前 述の 憲法 院に よる 判断 が下 され た一 九六 九年 の
23
時点 では
、黙 示の 承認 制度 が多 く用 いら れる よう にな る。 その 中で
、請 求者 に比 して 第三 者が 不利 な立 場に 置か れ ると いう 問題 が発 生し た。 すな わち
、黙 示の 承認 決定 の受 益者 は、 とり わけ 明示 の決 定で 拒否 され るこ とが 予想 さ れる 場合
、期 間の 満了 によ って 満足 的処 分を 得ら れる
。そ の反 面、 第三 者は
、請 求が あっ たこ とさ え知 らな いか も しれ ず、 いつ の間 にか 決定 がな され てい たと いう 事態 が生 じう る。 そこ で、 一九 七〇 年頃 から
、黙 示の 承認 制度 を 廃止 すべ きで ある との 議論 が生
( )
じた
。し かし なが ら、 黙示 の許 可決 定の 公開 性を 確保 し、 ある いは
、取 り消 しう る
24
範囲 と公 開性 を連 動さ せる こと を通 じ、 黙示 の承 認制 度は 全面 的廃 止を 免れ て
( )
きた
。た とえ ば、 都市 計画 法典
25
︵
c o d e d e l
’ u r b a n i s m e
に︶ よる と、 黙示 の建 築許 可︵p e r m i s d e c o n s t r u i r e t a c i t e
を︶ 受け た者 は、 明示 の許 可の 場合 と 同様 に、 工事 の全 期間 中、 当該 土地 の見 える とこ ろに それ を掲 示し なく ては なら ない︵命 令の 部第 四編 第二 章第
( )
四節
26
第一 五条︵
( )
R . 4 2 4 - 1 5
︶︶
。ま た、 行政 には
、建 築許 可の 請求 を受 けた なら ば、 審査 の期 間中
、建 築計 画の 主要 な内 容
27
を掲 示す るこ とが 規定 され てい る︵ 同第 三節 第六 条︵
R . 4 2 3 - 6
︶。︶
⑷
DC RA 法制 定前 夜 国家 改革︵
r é f o r m e d e l ’ É t a t
を︶ 掲げ たジ ュペ 内閣 は、 一九 九六 年九 月に﹁行 政と 市民 の関 係改 善に 関す る法 案﹂ を下 院に 提出 し、 これ がD CR A法 の元 とな った
。こ れに 先立 ち、 一九 九四 年の ピッ ク報 告書
︵
R a p p o r t
( )
P i c q
︶は
、
28
財政 や税 務の 性質 を有 する もの を除 くす べて の請 求に つい て、 二
ヶ
月間 に明 示の 拒否 決定 がな けれ ば承 認さ れた と みな され るこ とに する 旨を 提案 して( )
いた
。こ の提 案内 容を 実現 する ため に、 多く の事 前許 可制
・届 出制 を廃 止す る
29
こと と並 んで
、維 持さ れる 許可 制等 につ いて は黙 示の 同意
︵
l
’ a c c o r d i m p l i c i t e
︶を 活用 する こと が計 画さ れた
。一 九 九六 年五 月一 五日 の首 相
( )
通達 は、 事前 行政 手続 の﹁ 現代 化﹂︵
m o d e r n i s a t i o n
︶ およ び﹁ 簡素 化﹂︵s i m p l i f i c a t i o n
と︶30
いう 指針 を
( )
掲げ
、諸 大臣 に対 して
、許 可制 等を より 減ら し、 許可 制等 を維 持す る場 合は でき るだ け沈 黙を 黙示 の同
31
意と みな すよ うに 求め てい た。 その 理由 は、 事前 行政 の影 響力 が大 き過 ぎて
、国 民の 自発 性︵
l e s i n i t i a t i v e s
を︶ 無 用に 抑制 する から とさ( )
れた
。
32
もっ とも
、こ のよ うに
﹁沈 黙
=
拒否﹂原 則を 廃止 しよ うと する 動き もあ った もの の、 結局
、D CR A法 は﹁ 沈黙
=
拒 否﹂ 原則 を再 確認 した。同 法は
、代 わり に、 行政 の命 令を もっ て当 該原 則の 適用 を除 外で きる 仕組 みを 確立 し た。 立法 者は
、行 政が 怠慢 な場 合に 行政 の責 任が 曖昧 にな らな いよ う、
﹁沈 黙
=
承認﹂は 例外 にと どま るべ きで あ ると 考え たよ うで
( )
ある
。
33
⑸
行政 の沈 黙を 拒否・承 認と 解す る根 拠 一九
〇〇 年法 が制 定さ れた 当時
、行 政の 沈黙 が﹁ 拒否
﹂以 外の 意味 を持 ちう ると 主張 する 論者 は見 られ なか った と
( )
いう
。た だし
、﹁ 沈黙
=
拒 否﹂ とい う規 定を 根拠 付け るた めに、① 法律 上の 擬制
︵
f i c t i o n l é g a l e
︶の 技術 を用 いる
34
べき であ ると する 論者 と、
②推 定︵
p r é s o m p t i o n
︶ の仕 組み とす べき であ ると する 論者 が対 立し てい た。 前者①の
擬制 とは
、偽 りを 真実 であ ると 仮定 する こと によ る、 もっ ぱら 便宜 のた めの 技術 であ る。 これ に対 して
、後 者② の 推定 説に よれ ば、
﹁沈 黙
=
拒否﹂は
﹁フ ィク シ
ョ
ン﹂ では なく、行 政の 真正 の意 思と 合致 する こと もあ るし
、他 方 にお いて 誤っ た解 釈を もた らす こと もあ る。 その ため
、こ の説 によ れば
、裁 判官 によ って 行政 の態 度の 本当 の意 味 が探 究さ れる こと を避 ける べき こと と
( )
なる
。
35
そし て、 一九
〇〇 年法 の制 定に もか かわ らず
、そ の文 言に つい ては
、擬 制説 も推 定説 も存 在
( )
した
。① 擬制 説の 支
36
持者 は、 行政 の不 活動 や怠 慢の 可能 性を 強調 し、 沈黙 は拒 否に 相当 する とい うよ り、 行政 の無 気力 すな わち 誤っ た 不活 動に 相当 する とし た。 一方
、② 推定 説の 支持 者は
、行 政の 沈黙 が無 気力 や怠 慢、 ある いは 事案 を調 べる 意志 の 欠如 に起 因す るの は例 外的 であ り、 多く の場 合は
、行 政が 事情 を熟 知の 上で 請求 者に 満足 を与 えな いと 決め てい る から 無応 答の まま であ ると した
。そ して
、推 定説 に立 てば
、行 政の 無気 力や よか らぬ 意図 とい った 決め 付け をす る こと にな らな いの で、 行政 の威 厳を 傷つ ける こと がな い、 と主 張
( )
した
。
37
なお
、﹁ 沈黙
=
承 認﹂ と解 する 余地 をD CR A法 が認 めた 今日 にお いて も、 黙示 の承 認は 単な る﹁ フィ クショ
ン﹂ に過 ぎず 実質 の土 台は ない
、と する 論者 が見 ら
( )
れる
。結 局、 この よう な議 論は
、真 実と 法技 術の 関係 に対 する 観念
38
や、 行政 と裁 判作 用の 関係 に対 する 主張 にお ける 各論 者の 差異 を反 映し てい るも のと 思わ れる
。し かし なが ら、 行 政の 沈黙 に何 らか の意 味を 結び 付け る技 法は
、そ れを 支え る講 学上 の論 拠が 一致 して いな いと して も、 法制 度と し て根 付い てい ると いっ てよ いで あろ う。
︵
︶ 活動 しな いこ とが 公権 力の 本来 的権 能で ある かに つい ては
、モ ンタ ネ・ デュ
・ラ
・ロ ック によ る探 究︵
P i e r r e M o n t a n é d e l a R o q u e , L
6’ i n e r t i e d e s p o u v o i r s p u b l i c s , 1 9 5 0
︶ が知 られ てい る。 参照、篠 原辰 美﹁ 紹介
ド・ ラ・ ロッ ク著
﹃公 権力 の不 活動
﹄﹂ 法学 論叢 五九 巻四 号
︵一 九五 三年
︶一 四〇
︱
一 六三 頁。︵
︶ 行政 の決 定は
、明 示︵
e x p r e s s e o u e x p l i c i t e
︶ でも 黙示︵
t a c i t e o u i m p l i c i t e
︶で も可 能で ある
。ま た、 明示 の決 定は
、書 面に よら ず口 頭に よ 7 る︵
v e r b a l
︶こ とや 身振 りに よる
︵
g e s t u e l
︶こ とも 可能 であ ると いう
。
R e n é C h a p u s , D r o i t a d m i n i s t r a t i f g é n é r a l t . 1 , 1 5
eé d . , 2 0 0 1 , p p . 5 0 4 - 5 0 6 ; J e a n W a l i n e , D r o i t a d m i n i s t r a t i f , 2 2
eé d . , 2 0 0 8 , p . 3 9 2 .
黙 示の 行政 決定 には、黙 示の 拒否 決定
︵
d é c i s i o n i m p l i c i t e d e r e j e t
︶ と黙 示の 承認 決定︵
d é c i s i o n i m p l i c i t e d ’ a c c e p t a t i o n
︶ があ る。 さら に、 国民 と行 政の 関係 にお ける 黙示 の許 可決 定︵d é c i s i o n i m p l i c i t e d
’ a u t o r i s a t i o n
︶ 等の 仕組 み と、 行政 監督 の手 法と して の黙 示の 認可 決定︵
d é c i s i o n i m p l i c i t e d ’ a p p r o b a t i o n
︶ の仕 組み に分 類さ れる。後 述、 注︵
︶。 71
︵
︶
A n d r é L a u b a d è r e , J e a n - C l a u d e V e n e z i a e t Y v e s G a u d e m e t , T r a i t é d e d r o i t a d m i n i s t r a t i f t . 1 D r o i t a d m i n i s t r a t i f g é n é r a l : o r g a n i s a t i o n e t a
8c t i o n d e l
’ a d m i n i s t r a t i o n , l a j u r i d i c t i o n a d m i n i s t r a t i v e , 1 5
eé d . , 1 9 9 9 , p . 5 1 2 .
︵
︶
M i r e i l l e M o n n i e r , L e s d é c i s i o n s i m p l i c i t e s d ’ a c c e p t a t i o n d e l
’ a d m i n i s t r a t i o n , 1 9 9 2 , p p . 1 7 - 1 8 .
ただ し、 黙示 の建 築許 可は、パ リの 街路 に関 す る 9 一八 五二 年三 月二 六日 のデ クレ から 見ら れる
︵計 画と 断面 図の 提出 から 二〇 日経 って も何 も命 令が なけ れば
、建 築主 は計 画に 従っ て工 事を 始 める こと がで きる
︶。
I b i d . , p . 2 2 e t p p . 6 9 - 7 0 .
ま た、 一八 二七 年の 森林 法に も、 境界 画定 の認 可に つい て一 年経 って も政 府が 決定 しな かっ た場 合﹁そ の作 業は 確定 的に なる
︵
l
’ o p é r a t i o n s e r a d é f i n i t i v e
︶﹂ とい う形 で、 すで に黙 示の 決定 制度 が見 られ る。
︵
︶ 滝沢 正﹃ フラ ンス 法 第三 版﹄
︵三 省堂
、二
〇〇 八年
︶二
〇二 頁の 訳語 に従 った
。﹁ 裁判 官た る大 臣﹂ は、 第一 審の 働き をし てい たが
、一 八 八 10 九年 のカ ド判 決に よっ て廃 止さ れた
。な お、 亘理 格﹁ 大臣
=
裁 判官 論の 克服・覚 書
︱
フラ ンス 的行 政行 為観 形成 の一 前提︱
﹂ 法時 五五 巻一〇 号︵ 一九 八三 年︶ 九七
︱
一〇〇 頁参 照。
︵
︶ その 後、 コン セイ ユ・ デタ によ る裁 判権 の性 質自 体も
、判 決提 案を する のみ で裁 判そ のも のは 首長 の権 限で ある と考 えら れて いた
﹁留 保裁 判 11
﹂︵
j u s t i c e r e t e n u e
︶か ら、 独自 に裁 判権 を行 使す る﹁ 委任 裁判
﹂︵
j u s t i c e d é l é g u é e
︶ へと 変化 する。先 立っ て、 一八 四八 年一 一月 四日 憲法 で は、 フラ ンス 憲法 史に おい て初 めて コン セイ ユ・ デタ に独 立の 章が 割り 当て られ てお り︵ 第六 章︶
、第 二共 和政 下で 委任 裁判 が経 験さ れた
。第 二帝 政下 では 再び 留保 裁判 へゆ り戻 され たが
、結 局、 一八 七二 年五 月二 四日 の法 律に よっ てコ ンセ イユ
・デ タの 行政 裁判 権が 明確 にさ れ、 委任 裁判 へ移 行し た。
M a r i e - H é l è n e R e n a u t , H i s t o i r e d u d r o i t a d m i n i s t r a t i f , 2 0 0 7 , p p . 7 7 - 1 1 1 .
︵
︶ 長引 く行 政の 沈黙 は黙 示の 拒否 決定 に該 当す る、 とい う当 該原 則を 一般 化す るに あた り、 立法 者は
、裁 判を 受け る人 々に 一般 的訴 権を 与え て 12
、私 人の 権利 を守 る方 法を 改善 した
。行 政の 不活 動︵
i n e r t i e
︶ は、 もは や私 人の 権利 行使 を麻 痺さ せる こと がで きな くな った もの とさ れる。
I b i d . , p p . 1 1 1 - 1 1 2 .
︵
︶ 一九 五三 年一 一月 三〇 日の デク レ第 九三 四号 によ り出 訴期 間は 二
ヶ
月と され たが、一 九五 六年 六月 七日 の法 律第 五五 七号 によ り、 訴訟 類型 に 13 よっ て出 訴期 間の 制限 が緩 和さ れた
。さ らに
、一 九六 五年 一月 一一 日の デク レ第 二九 号は
、黙 示の 拒否 決定 が生 じる 日︵ すな わち 請求 から 四
ヶ
月 の期 間の 満了 日︶ から 起算 して 二ヶ
月の 出訴 期間 中に 明示 の拒 否決 定が 下さ れた 場合 には、出 訴期 間が あら たに 起算 され る旨 を定 めた
。
M o n n i e r , o p . c i t . , p . 2 0 .
︵
︶