早稲田大学経済学研究科博士学位論文概要書
「廃棄物産業連関表を用いた動学的資源循環モデルの提案とその応用」
東北大学大学院環境科学研究科 横山一代 我々が暮らしている現代文明社会は、近代科学技術によって形成されてきたものであり、消費 者は物的充足や快適性など、より高い効用を満たすために消費活動を行い、生産者は大量の資源 やエネルギーを投入して財・サービスの供給を行っている。活発な生産・消費活動は大量の廃棄物 の発生を引き起こし、現代の我々が抱える大きな社会問題の一つとなっている。 さらに生産や消 費活動に伴い発生する廃棄物は廃棄物処理後に二酸化炭素・窒素酸化物・硫黄酸化物等や最終処 分廃棄物といった環境負荷因子として環境中に放出される。これらの環境負荷因子として排出さ れた物質は将来にわたって、資本価値のように減耗することはなく存在し、その性質から我々は 温暖化問題や最終処分場の枯渇といった、様々な社会問題に直面することになる。しかるに経済 学において、このような廃棄物発生に関わる処理費用や、生産の推進力としての役割に関わらず 蓄積される環境負荷物質を明示的に扱う研究は数少ない。
経済活動に付随して発生する環境問題の解決のために、経済学はこれまでいくつかの提案をし てきた。(外部不経済の内部化、環境税の導入等)しかし多くの分析は金額ベースのみによるもので あり、経済活動に伴って投入される財の物質ベースの量、嵩、その性状や質に焦点をあてた分析 はあまりないのが現状である。
このような視点から、本論文は資本調整過程で発生する廃棄物と時間差をもった再資源化原材 料の循環に関する計量経済分析モデルの構築を目指すものである。
まず第2章では、本研究で対象とする時間差を伴う廃棄物の発生源である資本設備に着目し、設 備投資に関わる費用と廃棄物発生について理論分析についての整理を行い、また分析手法として 扱う産業連関分析と廃棄物や環境負荷因子発生について整理をおこないつつ、本研究の位置づけ を示した。
第3章において、本研究における主要な分析モデルである廃棄物産業連関分析の動学的拡張モデ ルの提案を行う。廃棄物産業連関表を分析の基盤とし、財生産部門と廃棄物処理部門との間の財と 廃棄物の異時点間に渡る循環を考慮することで廃棄物産業連関モデルの動学的な拡張を行い、生 産から廃棄にいたるまで時間差をもつ耐久財がその生産から利用、廃棄までにもたらす経済・環 境負荷を評価するためのモデルを提案した。
第4章においては第3章で提案したモデルを用いた応用分析として,建築産業における再資源化 原材料の受け入れと建築物の長寿命化がもたらす経済効果および環境負荷を評価をおこなった。
第1節では、建設産業における再資源化原材料の受け入れが、現在だけでなく、将来に渡っても 最終処分場削減の効果をもたらすかを評価、検討を行った。建築廃棄物の原材料として用いられ た再資源化原材料の受け入れにより将来の再資源化が困難になる場合(一回きりの再資源化)、最 終処分場消費量削減効果が持続可能な再資源化を行った場合と比較して小さいことが示された。
第2節では長寿命化による将来にわたった最終需要消費量削減について検討を行った。長寿命化
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は分別に関するルールや再資源化原材料の性質に関わらず、最終処分場消費量削減においても二 酸化炭素排出量に関しても効果があることが示された。ただし長寿命化による最終需要縮小をこ こでは仮定しており、その分の生産縮小とそれに伴う雇用削減の問題は、処分場の延命とは別で 議論を行うべき問題である。
静学モデルでは一回きりのリサイクルは当該時点において環境負荷削減に効果があると結論づ け、その将来にわたった効果を論ずることが難しい。しかし第3章で提案したモデルにより、持続 可能なリサイクルでないと将来にわたった効果がないことを論ずることができる。この点は動学 的拡張WIOモデルの利点である。
一方で、動学的拡張を行ったことにより分析精度に対して問題が発生する。本研究では分析の 都合上、技術に関する係数、資本ストック係数、投入係数について時間に対して一定としている。
この点は将来にわたった影響を分析する上で、分析結果に対して強い制約である。しかしこれは シナリオ分析であるため、例えば途中で新技術の導入等により投入係数が変化したり、これまで 再資源化できなかった廃棄物を再資源化できるようになる場合も、本論で提案しているモデル中 で扱うことは容易である。ただしモデルとしての扱いが容易である点と、現実を反映した技術係 数やシナリオを支えるデータを整備することの容易さは一致せず、しばしば後者が分析の足かせ になる。
さらに予測モデルという観点から見ると、本節では耐久財寿命を決定論的に与えているため、寿 命について統計データを用いて推定を行うなどの精度向上が必要であると思われる。
また経済的要因が建築物の寿命に及ぼす影響を分析するためには、さまざまにある経済的、社 会的要因を特定する必要があり、人口分布、家族構成、都市の立地特性等建築物を取り巻く多くの 要因を考慮しなくてはならない。他の経済的要因の及ぼす影響の程度についても今後評価し、建 築物の寿命特性についての詳細な分析を行うことにより、将来的な建築物起因の廃棄物発生およ び、それに伴う環境負荷の大きさの予測を精緻なものにすることが必要である。
第5章においては、これまで廃棄物産業連関分析を含む多くの産業連関モデルを用いた環境評価 手法において、最終処分場消費量は環境負荷因子として排出後、蓄積の途をたどり、掘り起こし および資源回収の政策オプションは考慮しなかった点に着目し、第3章で提案した動学的拡張WIO モデルを基に、その応用として掘り起こし資源回収WIOモデルを提案し、最終処分場再生に伴う 再資源化活動によって発生する環境負荷をシナリオ分析によって評価を行った。
金属資源・スラグの回収量においてはシャフト炉のほうが流動床炉と比較して大きな値を示し た。このことはデータとして使用したJESCのマテリアルフローに起因していると考えられ、単純 に重量で比較するとリサイクル率にかなりの差が見られたが、回収メタルの質にまで考慮すれば 一概に優劣は決められないと考えられる。
二酸化炭素排出量で比較すると、廃棄物の処理量が増えるにつれて二酸化炭素の排出量が減少 する傾向が見られた。この傾向はガス化溶融炉の発電による従来の電気業の生産活動への抑制に 伴う二酸化炭素排出量減少が、再処理活動による経済活動の活発化に伴う二酸化炭素排出量の増 加よりも大きいためであると考えられる。
最終処分場の減容化率で比較すると、各シナリオ・各炉共に15期後には4〜8%程度の減容化率が
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確認された。流動砂を排出しない点でシャフト炉の方が最終処分量に関しては若干有利であった。
分析の主要な結論をまとめると、エネルギー・資源回収と最終処分場延命のどちらに重点をお くかによってガス化溶融炉の選択を行う必要があるが、最終処分場の減容化率で比較すると、流 動砂の排出がない分、シャフト式ガス化溶融炉のほうが若干有利であることが示された。費用の 面から今後、更なる考察を必要とするが、最終処分場の掘り起こしとガス化溶融法を用いた資源 回収は持続的な最終処分場管理において有効な政策であるといえた。
本研究においては廃棄物産業連関分析の動学的拡張モデルを提案し、生産から廃棄にいたるま で時間差を持つ耐久財を介した動学的資源循環の分析を行ったが、シナリオ分析にあたりデータ 面、モデル面で強い制約を課している。これらの制約を緩めることは今後の課題である。
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