博 士 ( 文 学 ) 福 沢 将 樹
学位論文題名
日 本 語 に 基 づ く テ ン ス ・ ア ス ベ ク ト 体 系 の 研 究 一アスベクチュアリテイーの単語独立性を中心として一
学位論文内容の要旨
本 論 文 は、 現 代 語 及び 古 典 語 の日 本 語 テ ンス ・ ア ス ペク ト の 意味 記述に 際して 、適当 な 枠組 み を 作 るこ と を 目 的と し て い る。 従 来 、 日本 語 話 者 にと っ て 感覚的 に記述 されて来 た 用語を、普遍性のある枠組みで捉え直すことを目指している。
尚 、 本 論で は 「テ ンス」 「アス ペクト 」は形態 上の概 念であ り、意 味上の 概念は 「テン ポ ラリティー亅「アスベクチュアリティー」と呼ぷ。
第1章 で は 、テ ン ボ ラ リテ イ ー 、 アス ペ ク チ ュア1」テ イ ー を 考察す る前提 として 、その 周辺分 野であ る「語り手」「視点」の問題、「眼前描写文」「状況説明文」、「有題文」「無題 文」の問題に触れる。
第2章で は 、 汎 言語 的 な 意 味概 念 が 現 代日 本 語 の 形態 の 上 で どう 反 映 す るか を 論 じ る。
テン ボ ラ リ テイ ー ・アス ペクチュ アリテ ィーと テンス ・アス ペクト の関係 上、「/1ーフウ ク テイブ」「インバーフェクテイブ」、「]ヾーフェクト」「非バーフウクト」、「過去」と「現在」
と「未来」、の3項目を取り上げる。
第3章 で は 、2章 で話 題 と な った 問 題 を 解決 す る た めに 、 「 ア スペク チュア リテイ ーの単 語独立性」を主張し、それに基づく枠組みを提唱する。
第4章で は 、 日 本語 の 文 法 形式 上 の バ ラダ イ ム に 従っ て 、 現 代語 ・ 古 典 語の 各 文 法 形式 の意味を抽出する。
第5章は、結諭である。
従 来 の テン ス ・ア スペク ト論に おいて 「未来」 「過去 」と呼 ばれて きた用 法には 、現在 と 関わ り の あ る用 法 と な い用 法 が あ る。 そ こ で 、現 在 と 関 わり の あ る過去 を「完 了」と呼 ぷ のと 同 様 に 、現 在 と 関 わり の あ る 未来 を 「 非 完了 」 と 呼 ぷ。 形 式 が二項 対立( 夕形一非 夕 形) な の に 意味 が 三 項 (過 去 ・ 現 在・ 未 来 ) にな り 、 ま た「 現 在 」と「 未来」 とが同じ 形 式で 表 さ れ ると い う「非 過去」の 多義性 の問題 は、夕 形ー非 夕形の 対立に 従って 、「過去 」 ー 「 未 来 」 、 「 完 了 」 ― 「 非 完 了 」 の 二 項 対 立 の 図 式 で 考 え る こ と に よ り 解 決 す る 。 動 詞 は 、基 本 的 に 単一 の 変 化 を表 す 。 但 し、 変 化 自 体を 表 し たり 、変化 の後の 状況を 表 した り す る 。「 ア スペク チュアリ テイー 亅には 、「バ ーフウ クテイ ブ」と 「イン バーフウ ク テイ ブ 」 が ある 。 上の「 動詞」の 規定で 、「変 化自体 」が「 バーフ ウクテ ィブ」 に相当し 、
「変 化 の 後 の状 況 」 が 「イ ン バ ー フェ ク テ ィ ブ」 に 相 当 する 。 ま た「イ ンバー フェクテ ィ ブ」 の 中 に も様 々 な 意 味内 容 の 違 いが 認 め ら れる 。 そ こ で本 論 で は「バ ーフウ クテイブ 」 ―17―
と「インバーフウクティブ」を合わせて7種に分類する。
パーフェクティブの分類 インパ―フェクティブの分類 結果が「状態」の動詞 「状態」を表す動詞
結果が「持続」の動詞 「持続」を表す動詞 結果が「進行」の動詞 「進行」を表す動詞 結果を持たない動詞
上のように動詞のアスペクチュアリティーを単純に規定するためには、動詞の表す意味 が開始前から終了後までの複雑な転変を全て含み込むとする分析では不可能である。そこ で本論では単純化のために、「アスペクチュアリテイーに関する単語独立性一一同じ形態 の用言がアスペクチュアリティーによってそれそれ別の用言として見られること」を指摘 して解決を図る。これによって、同じ動詞で複数の動詞分類枠に跨がってしまうため、動 詞を分類することができない、という「動詞の多義性の問題」と、同じ語形で複数のアス ベクチュアリティーを実現してしまう、という「アスペクチュアリテイーの多義性の問題」
が同時に解決される。
しかし「アスペクチュアリテイーの単語独立性」を認めると、同じ語形の動詞が共通す る一連の出来事の一部を分担し合っている諸相を表すための枠組みが必要となる。それを 次のように規定する。
開始前
開始後終了前
終了後回復前
変 化 直 後 を 表 す 「 し た 」 持 続 を 表 す 「 し て い る 」 持続を表す「する」
変 化 直 前 を 表 す 「 す る 」 変 化 直 後 を 表 す 「 し た 」 進行・持続を表す「している」
進 行 ・ 持 続 を 表 す 「 す る 」 変 化 直 前 を 表 す 「 す る 」 変 化 直 後 を 表 す 「 し た 」 持続・状態を表す「している」
持 続 ・ 状 態 を 表 す 「 す る 」
上の枠組みからすれば、「ドアを開けたが、開かなかった」のように、開始前を表す「し た」の用法が、例外扱いせずに説明できる。「開始前」の局面でも、「開始後終了前」や「終 了後回復前」の局面と同様に「した」の形が使えることに何の不思議もない。また、「して いる」の「動作継続」と「結果継続」の違いは、「開始後終了前」か「終了後回復前」かの 違いで捉えられている。
以上を理論面の骨子として、現代語及び古典語の用例を具体的に分析している。現代語 の 用例はよく読まれている小説や歴史書から丹念に採集されており、古典語の用例は平安 時代の形態が確認し得る確実な資料から採集されている。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
日本語に基づくテンス.・アスベクト体系の研究
一アスペクチュアリテイーの単語独立性を中心として―
本論文は、現代語及び古典語の日本語テンス・アスペクトの意味記述に際して、適当な 枠組みを作ることを目的としている。従来、日本語話者にとって感覚的に記述されて来た 用 語 を 、 普 遍 性 の あ る 枠 組 み で 捉 え 直 す こ と を 目 指 し た も の で あ る 。 従来のテンス・アスペクト論において「未来」「過去」と呼ばれてきた用法には、現在と 関わりのある用法とない用法がある。そこで、現在と関わりのある過去を「完了」と呼ぷ のと同様に、現在と関わりのある未来を「非完了」と呼ぷ。形式が二項対立(夕形一非夕 形)なのに意味が三項(過去・現在・未来)になり、また「現在」と「未来」とが同じ形 式で表されるという「非過去」の多義性の問題は、夕形一非夕形の対立に従って、「過去」
一「未来」、「完了」一「非完了」の二項対立の図式で考えることにより解決している。
動詞は、基本的に単一の変化を表す。但し、変化自体を表したり、変化の後の状況を表し たりする。rアスペクチュアリテイー」には、「バーフェクテイブ亅と「インバーフウクテ イブ」がある。上の「動詞」の規定で、「変化自体」が「/1ーフウクティブ」に相当し、「変 化の後の状況」が「インバーフウクテイブ」に相当する。また「インバーフウクテイブ」
の中にも様々な意味内容の違いが認められる。そこで本論では「バーフウクテイブ」と「イ ンバーフウクテイブ」を合わせて7種に分類している。
動詞のアスペクチュアリテイーを単純に規定するためには、動詞の表す意味が開始前か ら終了後までの複雑な転変を全て含み込むとする分析では不可能である。そこで本論では 単純化のために、「アスペクチュアリテイーに関する単語独立性ー―同じ形態の用言がア スベクチュアリテイーによってそれそれ別の用言として見られること」を指摘して解決を 図る。これによって、同じ動詞で複数の動詞分類枠に跨がってしまうため、動詞を分類す ることができない、という「動詞の多義性の問題」と、同じ語形で複数のアスペクチュア lJテイーを実現してしまう、という「アスペクチュアリティーの多義性の問題」が同時に 解決されている。
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通
雅
一
彦
晴 俊
誠 芳
塚 澤
脇 野
石
宮
門
小
授
授
授
授
教
教
教
教
査
査
査
査
主
副
副
副
しかし「アスペクチュアリティーの単語独立性」を認めると、同じ語形の動詞が共通す る一連の出来事の一部を分担し合っている諸相を表すための枠組みが必要となる。それを、
「開始前」「開始後終了前」「終了後回復前」という枠組みを設定し、「開始前」の局面でも、
「開始後終了前」や「終了後回復前」の局面と同様に「した」の形が使えることを合理的 に説明している。また、「している」の「動作継続」と「結果継続」の違いは、「開始後終 了前」か「終了後回復前」かの違いで捉えられている。
本論文は、現代語及ぴ古典語に亘る日本語のテンス・アスペクトの意味記述の枠組みを、
体系的に設定し得ている。アスペクトとアスペクチュアリテイーとを分けて分析する著者 の見解は、既に学界でも高い評価を得ており、本論文に於いてテンス・アスペクト全般に 亘る独自の枠組みを示し得たことは、著者がこの分野の第一線の研究者となり得ているこ とを示している。
400字詰にし て740枚に相当する大部な申請論文中には、時に慎重さに缺ける記述が散 見し、また古典語と現代語とをっなぐ中世語の観察を缺く等気懸りな点は有るが、この分 野の研究の最前線を示していることは疑い無いところであり、充分に審議した結果、全員 一致して福沢将樹氏に博士(文学)の学位を授与することが妥当であるとの結論に達した。
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