方 議 会
上
に お け る 請 願 の 採 択 基 準
村
六五
貞 美
しておかなければならない︒
な お
︑
高松市田村町に日本中央競馬会の場外馬券所設置計画が進められているのに反対して︑地元の住民らが一九八七年
九月の定例市議会に提出していた請願が︑
れた結果︑﹁設置の是非は市の権限外である﹂との形式的理由で不採択とされた︒二日後の十二月二十三日の本会議に
おいても同じく不採択とされた︒
ある
︒
I I
いわゆる実務家の執筆した地方自 一九八七年十二月二十一日に︑高松市議会総務消防委員会において審議さ
この事件を︱つの契機として︑地方議会における請願の採択に関する法的基準を解明しようとするもので
ただし︑法的基準について1
般的な若察を加えるのではなく︑問題を絞って地方公共団体の権限との関連にお
いて限定して考察するものであることを付言しておかなければならない︒
この種の問題についてはこれまで学界で論じられたことはほとんどなく︑
治法や地方議会に関する書物︑あるいは請願や陳情に関するガイドブック等において言及されているにすぎない︒本 稿は︑主としてそれらを比較検討しながら︑筆者なりの月並みな解釈論を展開したものにすぎないことを予めお断り
日本国慮法第十六条は︑﹁何人も︑損害の救済︑公務員の罷免︑法律︑命令又は規則の制定︑廃止又は改正その他の 本
稿は
︑
ー
六六
8 ‑‑1 ‑‑66 (香法'88)
れて
いる
︒
佐藤功教授は前者の無制限説に立って︑﹁⁝⁝請願の対象事項はこれら︹第十六条の例示事項⁝⁝︵引用者挿入︶︺に限
られず︑国または地方公共団体の行為に関するいっさいの事項に及ぶと解される﹂と主張している︒永井教授も浦部
教授も﹁一切の国務または公務に関する事項に及ぶ﹂と解釈している︒
それに対して制限ないしは限定があると主張する学説がある︒その学説をさらに二つに分けることができる︒
は特定の事項は請願の対象にならないとする説である︒例えば︑﹃註解日本国憲法﹄は︑﹁しかし︑請願の対象となる
事項は必ずしも無制限ではなく︑裁判判決の変更や係属中の裁判事件に干渉することの請願は︑一面においては確定
判決の効力を覆し︑また司法権の独立を侵害するものであるから許されないと考える﹂と述べている︒この見解に対
しては︑請願の法的性質や効力にかんがみて︑司法を請願事項の対象外にしなければならない理由はない︑と批判さ
他の一っは特定の事項ではなく︑機関の権限外の事項は請願の対象にならないと説く学説である︒故宮沢俊義教授
は︑﹁ただし︑請願は︑国または地方公共団体の機関に対してなされるものであるから︑それらの機関の権限外の事項
については請願できないことは当然である﹂と主張していた︒右のように断定的な表現を用いてはいないが︑同じ趣
(6
)
旨と解される表現は他の著者の書物にも随所に見られる︒たとえば︑﹁その職務に関する事項につき﹂︑﹁その職務上の とする説に分かれる︒ を保障している︒そして憲法のこの規定にもとづいて請願法が制定されている︒ 事項に関し︑平穏に請願する権利を有し︑何人も︑
六七
かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない﹂
︱ っ
さて︑憲法解釈論上︑請願の対象となりうる事項に制限があるのか否かが一っの問題である︒というのは︑戦前の
旧請願令には特別制限事項があったが︑現行の請願法にはそれがないからである︒制限がないとする説と制限がある と請願権
( 7 ) ( 8 )
あらゆる事項について﹂︑﹁それぞれの職務にかかわる事項について﹂︑
(9
)
処理しうる事項︶に関して﹂等々がそれである︒
右に述べた機関の権限外の事項については請願できないとする学説が正しいか否かを判断する場合に︑国政レベル
と地方政治のレベルの請願とに︑次いで請願の受理の段階と採択の段階に分けて考察する必要がある︒
. . .
.
まず国政レベルの請願であるが︑請願法第三条第一項に﹁請願書は︑請願の事項を所管する官公署にこれを提出し
なければならない﹂
と規定してあるから︑官公署は権限内の事項についてのみ請願を受理し採択することができると
これを内閣に提出することができる﹂と規定されている︒ ﹁⁝⁝一定事項︵原則としてそれぞれの機関が
解釈される︒しかし同時に請願法第三条第二項には︑﹁請願の事項を所管する官公署が明らかでないときは︑請願書は︑
したがって︑国レベルの行政にかかわることで原則的に内
その範囲内においては一切の事項が請願の対象になりうるし︑
くとも受理の段階では︑請願権は憲法上保障された人権であるからこれを受理しなければならない︒
衆議院と参議院に対する請願については︑国会法の
﹁第
九章
・請
願﹂
り請願を採択するか否かは別問題であるが︑本稿ではそれを論じる必要はない︒ すくな
の第七九条から第八二条にわたって規定され
ている︒その中に請願の対象となりえない事項についての規定はもとより存在しない︒立法にかかわる問題について︑
国権の最高機関であり国の唯一の立法機関である国会の権限外の事項というのを想定するのは困難である︒したがっ てすくなくとも受理の段階においては︑右の範囲内において一切の事項が請願の対象になりうると解される︒もとよ
次に地方レベルに問題を移して考察することにしよう︒地方自治法は︑後述するように第一︱一四条と第一︱︱五条で
請願について規定しているが︑いかなる事項が請願の対象になりうるのかということについては全く言及していない︒
した
がっ
て︑
それは解釈によって決定せざるをえない︒その際︑接続してはいるがしかし相異なる二つの段階︑すな
閣の権限外の事項は存在しないのであるから︑
六八
8 ‑ 1 ‑‑68 (香法'88)
両説の実質的差異は大きくないということになる︒
六九
わち受理の段階と採択・不採択の決定の段階に分けて︑請願事項に制限はあるのか否かを解釈しなければならない︒
まず第一に︑地方議会における受理の段階において請願事項に制限があるのか否かという問題であるが︑
団体の事務に属する事項ではないと認められる場合においても﹂︑請願は憲法︑法律に規定された国民の権利であるか
らその請願が法定の形式を具備しておれば︑受理を拒むことはできない︑と︒そしてこの解釈がほとんどの著書に援
用されているが︑ただ1人菊井康郎教授は︑﹁⁝⁝明らかに昔該地方公共団体の任務︑権限に属しない事項は︑本来︹地
方自治法第一二四条のこと︵引用者︶︺による請願の対象とはされないとみるのが妥当である︒けだし︑本条による請願
は︑元来︑当該地方公共団体で処理されうる可能性のある事項について認めた趣意とみるのが請願の本旨にかなって いる﹂とし︑前述した行政実例やそれを支持する一部の学説の
えている︒もっとも菊井教授によれば︑いずれの立場に立っても︑受理された請願は︑常に不採択とするほかはなく︑ ﹁当否は︑疑わしいと評するほかはない﹂と反論を加
( l
)
佐藤功・ポケット註釈全書﹃憲法︵上︶新版﹄二六三頁︒
( 2 )
有倉遼吉・小林孝輔編・基本法コンメンタール﹃憲法︹第三版︺﹄七三頁︒(3)樋口•佐藤・中村・浦部『注釈日本国憲法・上巻』三五八頁。
( 4
)
法学協会﹃註解日本国憲法・上巻﹄三七七頁︒
( 5 )
宮沢俊義著・芦部信喜補訂﹃全訂日本国憲法﹄一.二八頁︑同旨・杉原泰雄﹁請願権﹂田上穣治編﹃体系憲法事典﹄所収三五四頁︒
( 6 )
宮沢俊義﹃憲法
1 1
︹新 版︺
﹄四 四六 頁︒ ( 7 )
伊藤正己﹃憲法﹄三七七頁︒ いては昭和二五年十二月二七日と昭和二六年卜月八日の行政実例が存在している︒すなわち︑﹁明らかに当該地方公共 これにつ
( 8 )
佐藤幸治﹃憲法﹄四三五頁︒
( 9 )
小林直樹﹃新版憲法講義上﹄六0
四頁
︒ ( 1 0 )
自治省行政局行政課編﹃第九次改訂版・地方自治関係実例判例集﹄五六七ー五六八頁︒(11)山内・佐藤功・成田・金子・塩野•原田編『注釈地方自治法第1巻』一四九八頁。
次に地方議会における採択・不採択の決定の段階において︑請願事項に制限があるのか否かを検討する︒こちらの
ついては︑不採択の外ないと解される﹂︵傍点引用者︶ 地方自治法には制限事項はないから︑﹁提出された請願を採択するかどうかは全く議会の自由である﹂といえなくもないが︑無制限であると主張する説はなく︑大なり小なり制限を認めている︒
地方議会が採択しうる請願事項を最も狭く解釈する説は︑﹁当該議会の権限外のものは不採択とするのが至当であ﹂
︵傍点引用者︶ると主張するものである︒これはきわめて少数説で後述するように誤った解釈であると考えられる︒
次に最も多い説は︑前述した昭和二五年十二月二五日の行政実例︑すなわち︑﹁当該地方公共団体の権限外の事項に
とする解釈に追随した説である︒
右の少数説および多数説のいずれも誤っていると考えられる︒その理由を次に述べよう︒
地方自治法第一︱一四条は︑﹁普通地方公共団体の議会に請願しようとする者は︑議員の紹介により請願書を提出しな 方が本稿にとって重要であることはいうまでもない︒
I I I
七〇
8 ‑ 1 ‑‑70 (香法'88)
たは公平委員会︵法第 請求することができる﹂︵傍点引用者︶と規定している︒
七
つまり︑第︱二五条は︑普通地方公
の三
項︶
があ
る︒
第一
一一
に︑
市町
村
ここでいう普通地方公共団体とは︑地方自治法第一条の2の2
項によって︑都
道府県と市町村であることは指摘するまでもない︒この第一二四条をうけて地方自治法第一二五条は︑﹁普通地方公共
. . . .
. .
団体の議会は︑その採択した請願で当該普通地方公共団体の長︑教育委員会︑選挙管理委員会︑人事委員会若しくは 公平委員会︑公安委員会︑地方労働委員会︑農業委員会又は監査委員その他法令又は条例に基く委員会又は委員にお
これらの者にこれを送付し︑且つその請願の処理の経過及び結果の報告を
右の第︱二五条の解釈に関していくつかの事柄を指摘する必要がある︒まず﹁当該﹂の二文字は︑文法上︑﹁普通地
方公共団体の長﹂にしかかからず︑﹁教育委員会﹂以下の文章にはかからないということである°
第二に列挙されている行政委員会は︑地方自治法によってその設置が義務づけられている普通地方公共団体を基準
にして︑三種頷に分けることができるということである︒すなわち︑
0二条の2の第一項•第二項) まず第一に︑都道府県と市町村の双方におかれ
なければならない委員会として︑教育委員会︵法第一八〇条の八︶︑選挙管理委員会︵法第一八六条︶︑人事委員会ま
がある︒第二に︑都道府県にだけおかれなければならない委
員会として︑公安委員会︵法第一八
0
条の九︶︑地方労働委員会︵法第一‑ 0
二条
の一
に限っておかれなければならない委員会として農業委員会︵法第二
0
二条の二の四項︶このように三種類の行政委員会等が列挙してあるということは︑次のことを意味する︒普通地方公共団体の議会︑
たとえば高松市議会は︑都道府県だけにおかれなければならない公安委員会や地方労働委員会の権限に属する事項に ついても請願を採択することができるし︑同じように香川県議会は︑市町村に限っておかれなければならない農業委
員会の権限に属する事項についても請願を採択することができると解釈される︒ いて措置することが適当と認めるものは︑ ければならない﹂と規定しているが︑
があ
る︒
係についての複雑な法律問題があるので︑ここでは立入らない︒ ているのである︒この見解とは反対に︑普通地方公共団体の議会は︑ 共団体の議会が﹁当該地方公共団体の権限外の事項﹂についても請願を採択することができることを当然の前提とし
﹁当該地方公共団体の権限外の事項﹂について請
願を採択できないと解釈するならば︑第一1一五条について整合的・論理的な解釈をすることは不可能であると結論せ
パチンコ屋の建設に反対する住民の請願を市町村議会は採択することができるであろうか︒昭和五九年に大改正さ
れた﹁風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律﹂
なければならないとされている︒ の第三条一項によって︑改正前の﹁風俗営業等取締法﹂
の場合には第二条一項によって︑パチンコ屋等の風俗営業を営もうとする者は︑都道府県の公安委員会の許可を受け
したがって︑公安委員会の権限事項であり﹁当該地方公共団体の権限外の事項﹂だ から請願を採択することができないと解釈するならば︑第二↓五条に公安委員会が列挙してある意味を説明できない
という矛盾に陥ってしまう︒
した
がっ
て︑
その場合には︑第一︱五五条にいう﹁普通地方公共団体の議会﹂
村議会ではなく都道府県議会であると解釈せざるをえないが︑ とは︑市町
それはまた市町村も普通地方公共団体であることと矛 本筋から少し脱線するが︑現実には請願を採択するどころか︑旧風営法の三条によって︑明文で都道府県条例によ
り風俗営業に関する必要な制限を定めることができる︑と規定されていたにもかかわらず︑市町村が条例でパチンコ 屋の出店を規制していた例があるのである︒これに関しては︑法律と条例の関係︑都道府県条例と市町村条例との関 いずれにしろ︑結論としては︑当該地方公共団体の権限外の事項については請願を採択することはできないとする
盾す
る︒
具体的な事例を挙げてみよう︒ ざるをえない︒
七
8 ‑‑1 ‑72 (香法'88)
事項
のう
ち︑
いかなる範囲の事項までは地方議会が請願を採択できるのかという問題
については︑既に一部の書物において言及されている︒たとえば︑西村弘一著﹃全訂版・地方議会﹄において︑請願
の採択基準に関して︑﹁当該地方公共団体の権限に属するかどうかについては︑当該団体が処理する権限を有する項お
よび議会が当該地方公共団体の公益に関する事件として意見書を提出することができる事項でなければならない﹂︵傍 当該地方公共団体の権限外の事項のうち︑
I V
解釈は右に説明したように誤りであることが明らかにされたと考えるが︑次の問題は︑当該地方公共団体の権限外の
どの範囲の事項までは請願を採択することができるのかを画定することである︒
: .
L︑
‑百
︒
I
‑ 9
七
もっとも長野氏は結論として制限がないと︑E張しているわけではない︒
―ニニ頁、吉田善明•NH (l)長野七郎『逐条地方自治法•第九次改訓新版』(2)中島・石山嗣 0地方議会用語辞典し•こい八,且 c
( 3
)
長野・前掲書:.しハ.貞︑久世公発・沢田.成如和地方自治講座2
・議会ぃ.五頁︑沢田.成・川村仁弘﹃今日の地方議会﹄ニ︱
;貝︑大出峻郎﹃現代地方自治全集
3・地方議会﹄五;四四貞︑室井カ・兼
fL
﹃基本法コンメンタール地方自治法﹄鈴木庸夫氏執
筆.
O
四貞︑菊井康郎・前掲書.四九八貞︒杉村敏正・室井力嗣﹃コンメンタール地方自治法﹄神島勲教授執筆こ八三頁の﹁⁝⁝
およそ地方公共団体の事務に関する事項いっさいが請願の対象となる﹂という説明は︑この点を意識して書かれたのか否かについ
て判然としない︒
( 4
) 大阪府狭山町︑兵庫県宝塚市︑奈良県斑鳩町などがその例である︑吉田善明﹃地域からの平和と自治﹄
k
取材班﹃わが町手づくり憲法・日本列島条例地図﹄二三頁以下参照︒
点引用者︶と指摘されている︒ここにいう意見書とは後述するように地方自治法第九九条第二項に規定されている意見
書のことである︒
であ
る︒
また︑東京都議会議会局議事部議案課の作成した﹃請願陳情の手引﹄と題する書物は︑地方自治法上の請願の範囲 について︑三つの事項に分けて説明している︒まず第一は﹁地方公共団体の事務に属する事項﹂である︒留意する必 要があるのは︑行政実例やそれに依拠した多数説のように︑当該地方公共団の事務に属する事項と述べていないこと
その理由について︑この書物は︑筆者が前述したように︑地方自治法第ニ︱五条の解釈から当然の前提とさ
. . . .
. .
第二は地方公共団体の事務に属さない事項である︒これについて次のように述べている︒﹁地方自治法第九九条第一︱
項により地方公共団体の事務に属さない事項についても︑議会は︑当該地方公共団体の公益に関する事件について関 係行政庁に意見書を提出する権限がある︒そこで意見書の内容となる範囲の事件については︑議会の権限と意思に基 づいて︑住民の福祉の増強を図るために努力するものであるから︑その範囲では請願は受理できるし︑またその採否
筆者はこの見解を支持するが︑その際︑後述するように何が当該地方公共団体の公益に関する事件なのかを画定す
第三は国政事務で︑﹁地方自治法第二条第二項及び第三項の事務でないかぎり︑地方公共団体の事務に直接の関係が
なく措置することができない事項であるから対象にならないようである﹂ ることが一っのポイントになる︒ も決定することができるものと解釈されている︒﹂ れていると述べている︒
と述べている︒
国政事務は請願の対象にはならないとするその見解は原則的には正しいと評価できるが︑
後述するように国政事務の処理の仕方が地方自治法の規定する自治事務に影親を与え︑ しかし場合によっては︑
そのため国政事務であっても
七四
8 ‑ 1 ‑‑74 (香法'88)
そこで問題は︑地方自治法第九九条第二項の﹁議会は︑当該地方公共団体の公益に関する事件につき意見書を関係
行政庁に提出することができるL という規定の意味を解明することにあるといえよう︒
この点について︑山内;夫教授は﹁当該普通地方公共団体の公益に関する事件とは︑公益に関する事件であって︑
当該普通公共団体に係るというほどの意味である︒かなり広い概念であって︑必ずしも普通地方公共団体の事務に限
定されるわけではない﹂という要領を得ない説明をしているが︑事柄の性質上やむをえないであろう︒佐藤英善教授
は︑﹁それは原則として個々具体的に判断すべきであって一律に確定し得べきものではないが︑少なくとも当該地方公
. . . .
. .
共団体が直接具体的に係わる行為であれば︑それに該当する﹂︵傍点引用者︶と明解に述べている︒
意見書の内容に関連して︑
昭和三八年八月二九日付の全国知事宛の自治事務次官通達と同日付の行政実例は︑﹁たとえ︑当該地方公共団体の公
益に関する事件に該当する場合であっても︑
もあるので関係機関の意見を参考にすることはもとより︑慎重な態度をとることが望ましい︒﹂としていたにもかかわ
らず︑外務省宛にベトナム問題︑朝鮮民主主義人民共和国への自由往来︑日韓問題︑日中問題︑北方領土問題等の外
交に関する意見書が多数送られてきた︒そこで外務事務次官から︑昭和四一年一月十日︑自治事務次官に対して前記
通達の徹底方を依頼した︒それをうけて自治事務次官は︑昭和四一年三月三日︑再び全国知事宛に前記通達の趣旨を
徹底するように通知したのである︑
を要求する請願が権限外の扱いでも採択されたところも多数あった︒ とが可能でありうる︒
七五
第二のカテゴリーである当該地方公共団体の公益に関する事件として︑国レベルの関係行政庁に意見書を提出するこ
かつて次のようなできごとがあった︒
その内容が︑国の外交政策に関連し︑外国との交渉に影饗を及ぽすこと
それにもかかわらず外交問題に関する意見書が多数提出されたし︑意見書の提出
一見したところ︑地方公共団体の公益に関する事件とは最も関連がないように思われるが︑
(6
)
必ずしもそうとはいえない場合がある︒中島正郎氏が的確に指摘しているように︑佐世保や横須賀に原子力潜水艦が
入港し海水が放射能で汚染されること︑あるいは米軍基地における爆撃機の離着陸による騒音ないし危険性は︑
地方自治法に定められている住民の安全︑健康の保持︑公害の防止といった自治事務に属することがらであるから︑
当該地方公共団体の公益に直接かつ具体的に関係する事件として意見書を提出することができよう︒
外交問題ですら右のような事態がありうるのであるから︑
とし
て︑
空港の拡張・新設︑本四架橋工事・高速道路網の整備拡充︑国鉄の民営化等いくつかの事項を容易に想起す
この書物は五七
0頁にのぽる大著である︒
(l
) 西村弘
1﹃全訂版・地方議会﹄五↓円貞︑
( 2
)
﹃請願陳情の手引﹄1
・ニ
ーニ
.二
頁︒
( 3 ) 山内一夫・前掲﹃注釈地方自治法第
1巻﹄一.↓七頁︒
( 4
) 室井カ・兼子仁編﹃基本法コンメンタール地方自治法﹄八七頁︒西村・前掲書一三四頁も﹁⁝⁝一般的に︑当該地方公共団体の直
接かつ具体的な利益にかかわるものとされているが、.定の基準はない」と述べ、また兼子仁•関哲夫編著『自治体行政法事典』
.六三頁も﹁公益性の判断は︑個別具体的に議会が認定するほかないが⁝⁝﹂と述べているように︑一般的な基準を提示すること
は困難である︒
( 5 )
中島正郎﹃請願・陳情ガイドブック﹄:︱
1 . ‑
﹂ハ
ー・
^一
三八
貞参
照︒
( 6
)
中島正郎・前掲書三一二七貞゜ ることができるほど多数存在しうるのである︒ 右のような外交問題は︑
それ以外の国政事務で地方公共団体の公益に関する事件
正に
七六
8 ‑ 1 ‑76 (香法'88)
﹁地方議会における請願権﹂と題するこの分野では非常に数の少ない貴重な論文を執筆された吉田善明教授の御教示 によると︑請願の内容およびその特徴として次のいくつかの点が指摘される︒まず都道府県議会で採択された請願の 内容として︑①国の施策に関するもの︑②当該都道府県の執行機関に関するものに大別される︒②の事項は︑当然の ことながら︑当該地方公共団体の権限内の事項であるから請願を採択することに問題ないが︑①の実例として引用さ れている元号法制化促進に関する請願や日中友好平和条約締結に関する請願は︑意見書付きとはいえ︑当該地方公共
団体の公益に関する事件とはいえない︒
市町村議会で採択される請願の内容として︑①国の施策に関するもの︑②都道府県の執行に関するもの︑③当該市 町村の執行機関に関するもの︑の三つに分けられ︑①と②は意見書付採択としてまとめられ︑関係行政庁に提出され ている︒具体的な事例としては︑武蔵野市が一般消費税新設に反対する請願を採択すると同時に︑政府に対して一般
体的に係わる事件なのか否かは疑問がないわけではないが︑ 消費税導入反対に関する意見書を提出したケースが挙げられている︒これなどは果たして当該地方公共団体に直接具
いずれにしろ︑当該地方公共団体の権限外に属する事項
を内容とする請願が数多く採択されていることは間違いない︒
>
七七
本稿を閉じるに際して想起されるのは︑急ピッチで開港に向けて工事が進められている新高松空港の問題である︒
今から十九年前の昭和四四年九月二六日の本会議において︑高松市議会は﹁高松空港拡張整備に関する意見書﹂を可 決し︑運輸大臣︑大蔵大臣および香川県知事に提出した︒九月二九日に︑地域住民から提出されていた﹁高松空港整
備に関する請願﹂と﹁高松空港拡張に反対する請願﹂
からなる高松空港対策協議会︵仮称︶
の請
願は
︑
の二つの請願を審議し︑その結果︑市議会︑市当局︑関係地元
を早急に設置すべきであるとする趣旨の前者の請願は採択された︒しかし後者
今回の場外馬券所設置反対の請願と同じく︑地方公共団体の権限に属する事項ではないが︑当該地方公共
団の公益に直接具体的に係わるので法的には採択可能であったにもかかわらず不採択とされた︒その理由は︑高松空
港問題が高松市の権限外であるということではなく︑意見書の内容と請願の趣旨が違うので︑
(4
)
り不採択とみなされたのである︒
﹃現代地方自治﹄所収︑ 一事不再議の原則によ
その 後︑
著書﹃地方自治と
( 1
) 吉田善明﹁地方議会における請願権﹂法学セミナー増刊・総合特集シリーズ
8
住民の権利﹄に所収︒
( 2
)
吉田・前掲書︱︱
‑ 1
‑
︱︱
一頁
参照
︒
( 3
) 渡辺久丸教授はその著書﹃現代日本の立法過程﹄において︑﹃たとえば最近の地方議会における﹁元号法制化要求﹂請願の採択に
••••••••
象徴的にみられるように︑違憲な内容の請願の議会︵国会を含めて︶による違憲な取扱いが︑問題として提起され合憲的な採択基準
•••••••
の一定の明確化が必要である﹂︵傍点原文︶と指摘しておられる︒筆者も同じくその必要性を痛感しており︑本稿もその課題の一端
に応えるものであると考えるが︑その検討は容易ではないであろう︒
( 4
) 高松市議会会議録昭和四十四年度一0
四三
‑10
四四 頁︒
( 5
) 中島正郎・前掲書三
00
頁 ︒
七八
8 ‑‑‑1 ‑78 (香法'88)