氏 名(本 籍 地)寺 本 育 司(和 歌 山 県) 学 位 記 お よび 番 号 博 士(歯 学),甲 第339号 学 位 授 与 の 日 付 平 成27年3月10日
学 位 論 文 題 名 論 文 審 査 委 員
「ア ジス ロマ イシ ンの 免 疫 修 飾 作 用 」
(主査)廣 瀬公治 教授 (副査)米 原典 史教授 清 浦有祐 教授 論 文の 内容 お よび審 査の要 旨
【研 究 目 的 】 歯 周 炎 治 療 に 有 効 で あ る と 報 告 され て い る 抗 菌 薬 の ア ジ ス ロ マ イ シ ン は,炎 症 性 サ イ トカ イ ン の 産 生 を 抑 制 す る な ど 宿 主 の 免 疫 を 修 飾 す る 作 用 が あ る こ と が 知 ら れ て い る 。 し か し な が ら,過 度 の 免 疫 修 飾 は 局 所 に お け る サ イ ト カ イ ン ネ ッ ト ワ ー ク を 撹 乱 す る 要 因 と も な る 。 そ こ で, ア ジ ス ロ マ イ シ ン の 免 疫 修 飾 作 用 の 一 端 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 に,歯 周 局 所 に お け る 重 要 な 免 疫 担 当 細 胞 で あ る マ ク ロ フ ァ ー ジ を 用 い 検 討 を 行 っ た 。
【研 究 方 法 】 マ ウ ス マ ク ロ フ ァ ー ジ 様 細 胞 と して 用 い たJ774.1細 胞 に ア ジ ス ロ マ イ シ ン と Porphyromonas gingivalis(P.g)の 生 菌 を 添 加 し所 定 の 時 間 培 養 を 行 っ た 。 培 養 終 了 後,細 胞 培 養 上 清 を 回 収 し,そ こ に 含 ま れ るMCP‑1,IL‑6 お よ びIL‑10産 生 量 をELISA法 に て 定 量 を 行 っ た 。
【研 究 結 果 】 ア ジ ス ロ マ イ シ ン はP.gが 誘 導 す る J774.1か ら の モ ノ カ イ ン で あ るMCP‑1お よ び 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン で あ るIL‑6の 産 生 を,そ の 濃 度 依 存 的 に 促 進 す る こ と が 示 され た 。 さ ら に,そ の 促 進 効 果 は 培 養 時 間 依 存 性 で あ っ た 。 一 方,ア ジ ス ロ マ イ シ ン はJ774.1細 胞 か ら の 炎 症 抑 制 性 サ イ ト カ イ ン で あ るIL‑10の 産 生 に 対 し て は,何 等 影 響 を 与 え な か っ た 。
【考 察 】MCP‑1は,好 中 球 や 単 球 を 感 染 局 所 に リ ク ル ー トす る モ ノ カ イ ン で あ り,炎 症 反 応 に 強 く 関 与 して い る 。 ま た,IL‑6は 代 表 的 な 炎 症 性 サ イ トカ イ ン で あ る 。 そ して,歯 周 組 織 構 成 細 胞 を 用 い た 実 験 に お い て,MCP‑1とIL‑6は 歯 周 病 原 性 細 菌 に よ り そ の 産 生 が 促 進 され る こ と が 知 ら れ て い る 。 今 回,ア ジ ス ロ マ イ シ ン がPgが 誘 導 し た マ ク ロ フ ァ ー ジ か ら の こ れ ら 活 性 物 質 の 産 生 を
さ らに 促 進 させ る結 果 を得 た。 炎 症 反 応 は 微 生 物 感 染 に 対 す る宿 主 の 感 染 防 御 に お い て 不 可 欠 の も の で あ る。 よ っ て,ア ジ ス ロ マ イ シ ン に よ る免 疫 修 飾 が 適 切 な 範 囲 内 に あ る もの で あれ ば,歯 周 病 の 予 後 に は有 利 に作 用 す る。 しか し,ア ジ ス ロ マ イ シ ンの 投 与 量 や 投 与 期 間 に よ って は過 剰 な炎 症 性 サ イ トカ イ ン等 の産 生 を来 た し,そ の 結 果 よ り, 重 篤 な歯 周 組 織 の 破 壊 を 来 た す 可 能 性 に 注 意 す る 必 要 が あ る こ と を今 回 の 結 果 は示 して い る。よっ て, ア ジ ス ロ マ イ シ ン を は じめ とす る抗 菌 薬 を歯 周 病 治 療 に使 用 す る 際 に は 抗 菌 薬 に よ る宿 主 の 免 疫 修 飾 に充 分 留 意 しな くて は な らない と考 え る。
【結 論 】 ア ジ ス ロマ イ シ ンは,J774.1細 胞 に お い てP.gが 誘 導 す るMCP‑1とIL‑6の 産 生 を さ らに 促 進 した がIL‑10の 産 生 に は 何 等 影 響 を 与 え な か っ た 。
【審 査 の 過 程 と結 果 】 本 論 文 に 関 して の審 査 委 員 会 は 平 成27年1月22日 午 後1時 よ り開 催 され た 。 は じめ に 申 請 者 か らの 論 文 の 要 旨 につ い て 説 明 が あ り,そ の 後,審 査 委 員 か ら次 の 質 疑 が あ っ た。1) 研 究 目 的:ア ジ ス ロ マ イ シ ン の 作 用 を マ ク ロ フ ァー ジ を用 い て検 討 す る意 義 につ い て 。2)研 究 方 法:実 験 で 用 い た ア ジ ス ロマ イ シ ン濃 度 の 妥 当 性 お よ びP.gの 挙 動 に つ い て 。3)考 察:今 回 認 め られ た ア ジ ス ロマ イ シ ンに よ る産 生 促 進 メ カ ニ ズ ム に つ い て,ま た そ の 臨床 的 意 義 に つ い て 。 これ ら質 問 に対 し申 請 者 か らは 適 切 な 回答 が 得 ら れ た。 また,審 査 委 員 の 指 摘 に よ り,① 抄 録,緒 言,方 法,結 論,考 察 の 文 の修 正,② 図 の修 正 の 指 摘 が な され,後 日,適 切 に加 筆 修 正 され た こ と を各 委 員 が 再 確 認 した 。
本 研 究 は,歯 周 病 治 療 に お い て 抗 菌 薬 を使 用 す る こ と は,単 に そ の 有 益 性 の み な らず 害 作 用 を惹 起 す る可 能 性 が あ る こ と を基 礎 的 実 験 結 果 を基 に 明 瞭 に提 示 した もの で あ り,将 来 的 に歯 周 病 の薬 物 治 療 に お け る基 礎 的 知 見 とな る可 能 性 が 期 待 さ れ,歯 科 臨床 に 多大 な 貢 献 を もた らす もの と考 え られ る。 よ って 審 査 委 員 会 は,本 論 文 が 申 請 者 に 博 士(歯 学)の 学 位 を授 与 す る の に十 分 な価 値 が
あ る も の と認 め合 格 と判 定 した 。
掲 載 雑 誌
奥 羽 大 学 歯 学 誌 第42巻,3号 45‑53 2015