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東北医科薬科大学 審査学位論文(博士)要旨

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Academic year: 2021

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東北医科薬科大学

審査学位論文(博士)要旨

氏名(本籍)

ヤギ アキホ

八木 瑛穂(東京都)

学位の種類 博士(薬科学)

学位記番号 博薬科第 23 号

学位授与の日付 令和 3 年 3 月 10 日

学位授与の要件 学位規則第4条1項該当

学位論文題名 微生物由来の新しい感染症治療薬の探索研究

論文審査委員

主査 教 授 佐々木 健 郎

副査 教 授 藤 村 茂

副査 教 授 内 田 龍 児

(2)

微生物由来の新しい感染症治療薬の探索研究

東北医科薬科大学大学院薬科学研究科 天然物化学教室 八木 瑛穂

感染症は、人類が今なお克服すべき課題であるが、感染症治療薬の開発は世界規模で 大きく縮小されている。そこで本研究では、新しい感染症治療薬につながる低分子化合 物を微生物資源に求め、① 根治可能な治療方法が存在しない Mycobacterium avium complex (MAC) 症治療薬、および ② 抗真菌薬アムホテリシン B (AmB) の抗真菌活性 を増強する併用薬について探索研究を行った。

第一章 カイコ感染モデルを用いた MAC 症治療薬の探索

【背景・目的】非結核性抗酸菌 (NTM) 症は、結核菌群およびらい菌を除いた抗酸菌に よって発症する疾患で、日本では結核症より罹患率が高く、急速な増加がみられる感染 症である。特に、 M. avium および M. intracellulare が起因菌となる MAC 症は、NTM 症 の約 9 割を占めており、根治可能な治療法が確立されていないことから、新たな薬剤が 必要とされている。また、新しい薬剤探索の問題点の一つとして、 in vitro で選択された 候補化合物の多くが、生体内では治療効果を示さないことが挙げられる。この差を埋め るための手段の一つとして、実験動物としてカイコを用いた簡易的な感染 in vivo 評価系

(カイコ感染モデル ) が関水らによって提案され、治療 (延命) 効果を指標とした抗菌薬

のスクリーニングに利用されている。そこで本研究では、カイコ MAC 症モデルへ応用 し、微生物由来の抗 MAC 活性物質の探索を行った。

【方法・結果】 カイコ MAC 症モデルの構築 カイコ 5 齢幼虫 (1.9 – 2.0 g) の背脈管か ら、 M. avium JCM15340 株および M. intracellulare JCM6384 株の菌液 (0.75 – 7.5 × 10

7

CFU/

カイコ・ g) を接種 (50 µL/カイコ) し、 37 °C で飼育したときの生死を経時的に観察した。

その結果、生理食塩水を投与したカイコは 80 時間まで全て生存したのに対し、両抗酸

菌を接種したカイコは菌数依存的に全て感染死した。したがって評価は、カイコが 72 時

間以内に感染死する菌数 (2.5 × 10

7

CFU/ カイコ・ g) を接種後、 84 時間まで観察するこ

とにした。この条件下で臨床の MAC 治療薬を評価したところ、治療の中心である薬剤

(3)

クラリスロマイシンと、重症例に注射投与するアミノグリコシド系抗菌薬 (カナマイシ ン、ストレプトマイシンおよびアミカシン ) が両感染モデルで治療効果を示した。一方、

耐性化の予防を目的としてクラリスロマイシンと併用されるリファンピシンおよびエ タンブトールは、治療効果を示さなかった。これらの結果は、報告されているマウス MAC 症モデルでの治療効果と同様の傾向を示しており、カイコ MAC 症モデルをスク リーニングに利用できると結論づけた。

抗 MAC 活性物質の探索 カイコモデルの構築に先行して、陸棲および海洋由来の放線 菌培養液約 1,500 サンプルについて、抗 MAC 活性物質のスクリーニングを行った。ま ず、微量液体希釈法により抗 M. avium および M. intracellulare 活性を評価し、生育阻害 活性の強かった培養液から優先的に、活性物質の単離精製および構造解析を行った結果、

7 種 8 成分の既知化合物を 得た (図 1)。 これらの化合物 は、0.00313 – 6.25 µg/mL の 範囲で MIC 値を示したが、

カイコ MAC 症モデルでは、

chartreusin 、 griseoviridin 、 ohmyungsamycin A および B の 4 成分のみが治療効果を 示し、その ED

50

値はそれぞ れ 23、35、8.5、および 42

µg/mL を示した。したがっ

て、構築したカイコ MAC 症モデルは治療効果を示

す可能性のある候補化合物のスクリーニングにおいても、有効な一手段となり得ること が示された。

図1 放線菌由来の抗MAC活性物質

(4)

第二章 抗真菌薬 AmB の抗真菌活性を増強する併用薬の探索

【背景・目的】 ポリエン系抗 真菌薬 AmB は、広い抗真菌ス ペクトルと強力な殺真菌作用 を示し、耐性菌の出現もほと んど見られない優れた深在性 真菌症治療薬である。しかし、

その作用機序は真菌細胞膜の エルゴステロールとの直接的 な結合であるため、ヒト細胞 膜のコレステロールにも僅か に影響し、腎障害や低カリウ ム血症などの重篤な副作用を 引き起こすことが問題とされ ている。そこで本研究では、

AmB の抗真菌活性を増強する化合物との併用により、少ない投与量でも同等の抗真菌 作用を発揮させることで副作用の問題を克服できると考え、微生物資源からの探索を行 った。その結果、真菌 Pseudophialophora sp. BF-0158 株の培養液中から、phialotide A か ら H と命名した 8 成分の新規 AmB 活性増強物質を見出した (図 2)。

【方法・結果】 培養および単離精製 香川県小豆島の土壌より分離された本生産真菌 を、スクロースとグルコースを主成分とする生産培地を用いて、ジャーファーメンター で通気撹拌培養 (27 ºC, 68 時間, 回転数 : 300 rpm, 通気量 : 3 L/min) を行った。得られた 菌体をアセトン抽出 (1 L)、酢酸エチル抽出 (pH 3, 200 mL × 2) および分取 HPLC (ODS カラム ) により精製を行い、 phialotide A (10.4 mg)、 B (14.0 mg)、 C (2.49 mg)、 D (1.83 mg) 、 E (4.88 mg) 、F (4.58 mg)、 G (7.20 mg) および H (5.05 mg) を白色粉末として単離した。

構造解析 Phialotide A は、高分解能 ESI-MS スペクトルよりその分子式を C

47

H

80

O

19

と 決定し、不飽和度は 8 を示した。構造は、重メタノール中で測定した各種 NMR スペク トルの解析により明らかにした (図 3) 。まず、

1

H-

1

H COSY および HOHAHA スペクト

図2 Phialotide A–Hの構造

(5)

ルの解析より、太線で示し た部分構造 Ⅰ–Ⅶ の存在 が示唆され、次いで HMBC スペクトルの相関より、部 分構造 Ⅰ–Ⅳ を含む鎖状 ポリケチド、 2 つのデオキ シヘキソース (糖 A および B) および 1 つのヘキソー ス (糖 C) の存在が明らか になった。糖 A、B および C は、

1

H-

1

H および

13

C-

1

H の

カップリング定数より、それぞれ α-ラムノース、 α-ラムノースおよび β-マンノースと決 定した。さらに phialotide A を酸加水分解したのち、得られた構成糖を蛍光標識化し、こ れを HPLC 分析することで、マンノースは

D

体、 2 つのラムノースは

L

体であることを 明らかにした。さらに各糖は、 HMBC 相関よりアグリコンの 5、 9 および 13 位とグリコ シド結合していることが明らかとなり、 phialotide A の平面構造を決定した (図 3)。アグ リコンの立体化学については、

1

H-

1

H のカップリング定数に基づく二面角情報および ROESY 相関、および各糖とアグリコンとの ROESY 相関から、 4S、 5S、 8S、 9S、 12S お よび 13S と決定した。また、16、17 および 18 位の不斉炭素については、 8 つの全ての ジアステレオマーにおいて計算された最安定構造、かつ周辺で確認される ROESY 相関 と良い一致を示した 16S、 17R および 18S と推定した。 Phialotide B–H の構造について

は、 phialotide A との比較により、アグリコンの炭素鎖が伸長した構造や糖の数が異なっ

た新規構造であることを明らかにした (図 2)。

AmB 増強活性および細胞毒性 4 種の病原真菌 Candida albicans ATCC90029 株 、 Cryptococcus neoformans ATCC90113 株 、 Rhizopus oryzae NBRC4705 株および Aspergillus fumigatus NBRC33022 株に対する phialotide A の AmB 増強活性を、CLSI M27-A3 および

M28-A2 法に準じた微量液体希釈法により評価した。まず、phialotide A は単独で 4 種真

菌に対し、 128 µg/mL で抗真菌活性を示さなかった。次に、 phialotide A と AmB の併用

図3 Phialotide Aの構造解析

(6)

効果を調べた結果、 C.

albicans、 C. neoformans および R. oryzae に対 し て 濃 度 依 存 的 に AmB の抗真菌活性を 増 強 し た が 、 A.

fumigatus に対しては 増強活性を示さなか

った (表 1)。これは、 phialotide B–H についても同様の傾向を示した。また、 phialotide A 併用時の AmB のヒト胎児腎細胞 HEK293 に対する細胞毒性を、細胞膜障害の指標とな る乳酸脱水素酵素 (LDH) を定量することで評価した。その結果、phialotide A (4–32

µg/mL) は AmB の細胞毒性は増強せず、濃度依存的に AmB の毒性を低減することが明

らかになった。

総括 本研究では、 2 つのアプローチにより微生物由来の感染症治療薬の探索を行った。

第一章では、カイコ MAC 症モデルを構築し、治療効果を示す天然物を見出した。今後、

カイコモデルをスクリーニングに初期に利用することで、治療効果を示す可能性が高い 抗 MAC 活性物質の効率的な取得が期待される。また第二章では、単独では抗真菌活性 を示さずに、 AmB の抗真菌活性のみを増強する新規化合物 phialotide 類を発見した。こ のような活性を示す化合物の報告は他の研究グループからはなく、 AmB 併用薬という 新しい真菌症治療薬の可能性として、今後の発展が期待される。

<参考文献> 主論文 (原著論文)

1) Yagi A., Yamazaki H., Terahara T., Yang T., Hamamoto H., Imada C., Tomoda H., Uchida R.

Development of an in vivo-mimic silkworm infection model with Mycobacterium avium complex. Drug Discov Ther., 14, 287–295 (2020).

2) Yagi A., Uchida R., Kobayashi K., Tomoda H. Polyketide glycosides phialotides A to H, new potentiators of amphotericin B activity, produced by Pseudophialophora sp. BF-0158. J.

Antibiot., 73, 211–223 (2020).

表1 Phialotide Aの抗真菌活性およびAmB増強活性

図 3  Phialotide A の構造解析

参照

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