奈良教育大学学術リポジトリNEAR
奈良県におけるLD通級指導教室の役割と指導の展開 ―A市におけるLD通級指導教室を事例として―
著者 芳倉 優富子, 玉村 公二彦
雑誌名 教育実践総合センター研究紀要
巻 20
ページ 273‑279
発行年 2011‑03‑31
その他のタイトル Resource Room for students with Learning
Disabilities in Nara Prefecture:A case study
URL http://hdl.handle.net/10105/5902
―A市におけるLD通級指導教室を事例として―
芳倉優富子
(香芝市立下田小学校)
玉村公二彦
(奈良教育大学)
Resource Room for students with Learning Disabilities in Nara Prefecture:A case study
Yufuko Yoshikura
(Shimoda Elementary School)
Kunihiko TAMAMURA
(Nara University of Education)
要旨:通常学校における特別支援教育の推進にあたって重要な位置を占めるものが通級指導教室である。この通級指
導教室は、1993年度より制度化されたものであるが、特別支援教育の本格実施に先立つ2006年度より、新たに学習障 害者、注意欠陥多動性障害者をも通級指導の対象とすることなった。奈良県における学習障害(LD)等を対象とし た通級指導教室での取り組みを示し、あわせてその通級指導教室の担当者による他校への訪問通級指導の事例を報告 した。事例報告を通して、奈良県における通級指導教室の設置を中心とする学習障害(LD)等の指導体制の充実の ための課題を提示した。キーワード:学習障害 Learning Disability 通級指導教室 Resource Room
特別支援教育 Special Support Education1
.問題の所在2007年度より特別支援教育が本格的に開始された。
通常学校・学級においても「教育上特別の支援を必要 とする幼児、児童及び生徒に対し、…障害による学習 上又は生活上の困難を克服するための教育を行うもの とする」(学校教育法第81条第 1 項)と規定され、特 に学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、
高機能自閉症などの「発達障害」に対して教育的支援 を提供することが求められてきた。学校現場では、特 別支援教育コーディネーターの配置、校内委員会の設 置、個別の指導計画の作成などが実施されつつあるが、
しかし、通常学校における特別支援教育のための支援 資源は十分整っているとはいえない。通常学校におけ る特別支援教育推進にあたって重要な役割を期待され るリソースが、通級指導教室である。
この通級指導教室は、1993年度より言語障害者等を 対象として制度化されたものであるが、特別支援教育 の本格実施に先立つ2006年度より、新たに学習障害者、
注意欠陥多動性障害者をも通級指導の対象とすること となった1)。通級指導教室の対象の拡大に伴って、全 国的にはこの通級指導教室の設置の促進と拡充が大き な課題となっている。近年、全国的に新たな通級指導 教室の設置と通級指導を受ける児童生徒の増加がみら れている。
奈良県における通級指導教室の開設は、1972年に奈 良市立済美小学校の「ことばの教室」設置をかわきり に、翌1973年奈良市立椿井小学校「きこえの教室」の 設置とつづき、奈良県下では、畝傍小学校、郡山小学 校、生駒小学校の「ことばの教室」へと拡大されてい った。2010年現在で、奈良県の 8 市 2 町の13小学校、
1 中学校に、15の通級指導教室が設置されている。内 訳は、言語の通級指導教室が 8 教室、難聴の通級指導 教室が 1 教室、LD等の通級指導教室が 8 教室である
(LD等の教室と言語の教室がともに設置されている 学校が 2 校ある)。近年、全国的に通級指導教室が新 たに設置されているが、それに比して奈良県における 通級指導教室の設置の歩みは遅く、2008年度までの
「通級による指導」を受けている児童生徒比率の推移 をみても、全国平均の半数弱となっている(2008年 度でその比率は、全国平均0.48%のところ、奈良県は 0.28%となっている)。
通級指導教室の全国的な設置動向や指導の展開に比 して、奈良県の通級指導教室の現状はかならずしも十 分な状況ではない現状があるが、通級指導の現場では、
通級による指導に関する多くのニーズがよせられてい る。このようなニーズもあって、「奈良県の特別支援 教育検討委員会」は、「通常の学級における特別支援 教育の充実」として、「通級による指導の担当教員や 特別支援教育巡回アドバイザー等の校内外の重層的な 協力を得て、学校全体がひとつのチームとして対応し ている好事例もある」と指摘している2)。また、「特 別支援学級の機能充実及び通級による指導の拡充」の 項目をかかげ、以下のように述べている3)。
「特別支援学級及び通級による指導は、それらが設 置されている小・中学校及びその地域の学校への支援 を行う特別支援教育の拠点として、重要な役割を担っ ており、担当する教員には、より高い専門性が求めら れる。
通級による指導は、特別支援学校と同様、これまで から地域のセンター的な役割を担っており、今後も、
その拡充が益々求められる」
上記の検討委員会報告では、通級指導教室の整備に ついてより踏み込んだ提言はないが、専門性に基づい た指導や巡回相談など、センターとしての役割の重要 性を指摘している。特に、今日的には、2006年度より 通級指導の対象とされたLD等の発達障害をもつ児童 生徒の通級指導の実践やその教室の役割を、実践に基 づいて明確にしていくことが求められている。
本報告では、LD等の通級指導の場として新たに設 置された通級指導教室での実践と指導の展開について、
A市立B小学校LD通級指導教室での取り組みを示し、
あわせてその通級指導教室の担当者によるC小学校へ の訪問通級指導の事例を報告する。これらの取り組み の検討を通じて、奈良県における今後の学習障害等の 指導体制の充実のための課題を提示するものである。
2
.A市の特別支援教育と通級指導教室 奈良県A市立B小学校において「ことばの教室」が 開室されたのは、2004年度のことである。A市におけ る特別支援教育の推進には、この「ことばの教室」と、A市障害児教育研究会が、大きな役割を果たしてきた。
2005年度頃からは、「障害児教育から特別支援教育へ」
の移行のための議論もこれらが中心となって行ってき た。また、A市障害児教育研究会では、特別支援教育 への移行に際して、特別支援教育推進のための法整備 や対象児の拡大についての研修も実施してきた。
この「ことばの教室」設置校であるB小学校は、A 市の特別支援教育推進にあたってA市内のセンター校 的役割も果たすこととなった。A市内では、先進的な 学校において一足先に特別支援教育コーディネーター 設置等の体制整備が進められ、2007年度法制化以後に は、A市の全幼稚園及び小・中学校に特別支援教育コ ーディネーターが設置され、A市特別支援教育コーデ ィネーター連絡協議会も組織された。2009年度には、
それまで各校ごとに独自で作成していた個別の指導計 画も、A市統一のものとすべく様式が作成され、市教 育委員会において集約が行われ、実態把握が行われる ようになった。
2
.1
.A市LD等通級指導教室の設置通級指導教室の指導対象に学習障害や注意欠陥多動 性障害等が含まれることになったのは2006年度以降の ことであるが、A市ことばの教室でも、開設時より、
構音障害や吃音、言語発達遅滞児だけでなく、学習障 害、注意欠陥多動性障害、高機能自閉症等の児童の相 談や指導の役割も担ってきた。2007年度以降、特別支 援教育へのニーズも高まり、相談者や指導希望者はさ らに増加した。そうした流れの中で、奈良県下で 2 教 室目となるLD等のための通級指導教室が、「ことばの 教室」と同じくB小学校において設置されることとな った。
このLD等通級指導教室では、ことばの教室での指 導継続児童のうち高機能自閉症・LD等の児童を中心 に、支援を必要としている児童10名を初年度通級生と して受けいれることとなった。奈良県下に開室される LD等通級指導教室の通称を「ステップ教室」とする ことが確認され、本教室の名称も「A市ステップ教室」
とされた。
2
.2
.A市LD等指導教室(ステップ教室)の概要 A市立B小学校は、A市の中心部に位置する、全校 750名の中規模校であり、A市ステップ教室への通級 範囲は、A市全域の小学校(10校)である。通級指導 教室への通級にあたっては、就学指導委員会の教育相 談を経て通級する児童生徒を決定すると定められてい るが、しかし実質的には、ことばの教室とステップ教 室の通級にあたっては、A市就学指導委員会の専門委 員である両教室の担当が相談し、決定することとして いる。通級の開始にあたっては、各学校の校内委員会を経 て通級に繋がってくるケースや、保護者の口コミで相 談を希望されるケース等があるが、いずれの場合でも、
各学校の担任や特別支援教育コーディネーターを通し て通級・相談の希望を申請してもらうシステムになっ ている。必ず学校を通して相談に繋げるのは、相談後 学校での支援に繋がりやすくするためである。また、
芳倉 優富子・玉村 公二彦 奈良県におけるLD通級指導教室の役割と指導の展開
ステップ教室の担当者は、A市就学指導委員会専門委 員として幼児の相談やステップ教室卒業の中学生の相 談を受けることもあり、通級生保護者懇談等も含める と年間延べ100件以上の相談がある。相談の内訳は、
以下のとおりである。
【2009年度通級相談】
・通級生懇談 68回
・通級生在籍学級担任懇談 21回
・通級外相談(小・中学生) 23回
・幼児相談 16回
・学校等連携のための相談 4回 年間合計 132回 また、通級人数も、開室年度には十数名であった が、年々増加している。2010年度も、途中通級生も含 めると30名になり、年々通級指導希望者は増加してい る(図 1 )。特にA市ステップ教室においては、校外 通級生の増加が著しい。このように、通級指導教室へ のニーズは年々拡大している。
通級生の障害種別は、図 2 のように広汎性発達障 害(PDD) が 多 く、 次 い で学習障害(LD)、ADHD
(ADD含む)の順である。
PDD児の中には、アスペ ルガー症候群の児童や、
ADHDを重複している児 童が含まれている。しかし 実態としては、診断名以 外にも複数の障害の傾向 が重なっている事例も多 く、児童の状態像としては ADHD( 多 動・ 衝 動 型 ) やADD(不注意優勢型)
の傾向がある児童が特に多 い。これらの児童は、主に、
学校生活や学習活動へ参加 しにくいことを主訴として 来室している。
3
.ステップ教室の指導内容ステップ教室では、児童に心理・発達検査等のアセ スメントを実施することを通じて認知特性を把握し、
指導内容や支援方法を決定している。また、在籍校と 連携しながら児童の指導と保護者への支援を行い、児 童のつまずきを軽減することを目指している。指導効 果を高めるために専門機関や関係諸機関との連携も行 う。通級生が元気と自信を取り戻し、在籍校・学級で 生きいきと生活できるようにすることを目的としてい る。指導内容は以下のようなものを中心としており、
その児童に必要な内容を組み合わせて実施している。
3
.1
.ソーシャルスキルトレーニング(SST)人との関わりや場面理解等につまずきをもつ児童を 対象に、低学年・中学年・高学年の 3 つのグループに 分けて指導を行っている。校内通級生は、特別支援学 級担任との合同の指導の中で、特別支援学級在籍児童 と合同のグループで指導している。 1 グループ 5 ~ 6 名で構成し、実生活でのエピソードをもとに指導項目 を決定している。学校での行動観察を行うほか、エピ ソードシートを保護者や在籍校担任に配布することに よって、その都度タイムリーなエピソードを収集して いる。また、指導事項を保護者と担任に知らせるよう にしている。
指導項目としては、グループごとに必要な基本的ス キルを設定し、それに加えてその都度収集したエピソ ードも盛り込みながらプログラム設定を行っている。
グループごとの基礎的スキル・課題は、以下の通りで ある。
【低学年グループ】
対人関係における基本的なスキルを身につけること をめあてとしている。また、グループ指導に保護者も 共に参加してもらうことで、保護者に子どもとの関わ りの仕方を知ってもらうこともできる。
◇ステップ教室でのルール・あいさつ・話を聞く・
話をする・表情と気持ち・友だちを誘う・友だち を知る・動きを合わせる 他
【中学年グループ】
より集団生活に対応したスキルを学習している。友 だち関係のスキルと感情のコントロールを重点的に取 り入れている。
◇ステップ教室や学校でのルールやマナー・あった か言葉とちくちく言葉・会話をする・励ます・な ぐさめる・断る・感情と気持ちとできごと・感情 のものさし・喜びの共有 他
【高学年グループ】
中学校生活へ向けて、より高度であるが必要とされ るスキルの学習も、取り入れるようにしている。
◇ステップ教室でのルール・ルールとマナー・常識 と非常識・話し合い・意見の調整・自己のコント ロール・苦手な人とのつきあい方・言葉の裏側・
上手な断り方 他
【学年を超えた活動】
ソーシャルスキルのふり返りや般化の場面として
「そうめん・プール大会」「クリスマス会」「ステップ 遠足」「卒業式」など、学年グループの枠を越えて学 習する機会を設定している。「そうめん・プール大会」
は、校内特別支援学級児童と通級生が共に参加してい る。通級生が特別支援学級児童と共に活動することは、
通級生が障害について理解する機会にもなる。そして 図 1 通級児童数の推移
図 2 通級児童の障害種
PDD,16 LD,7
ADHD, 2
視覚優位であるため、絵カードや文字カードでの提示 が有効であった。
同様に漢字学習についても、漢字の意味をあらわす 絵カードと漢字文字を共に提示することで、漢字を覚 えていっている。画数の多い文字については、筆順の ルール(上から下へ・左から右へ)をあらかじめ指導 しておくことで、絵や図のように覚えてしまうだけで はなく、書くことについて一定の規則性をもって、覚 えることができている。
また、読み書きの苦手な児童が当該学年の教科書を 読むことは、とても難しいことでもある。そのため知 的な遅れがないにも関わらず、知識が増えないことが 多い。それをカバーするために、本事例では、DAISY 教科書を活用している。今まで、 1 年生の最初から、
音読の宿題はできない状況が続いていたが、DAISY を使用して音読の宿題ができるようになっている。学 年相応の文章を聞きながら文字を追うことで、読む力 の向上に役立てることができている。また、授業への 参加が積極的になったと担任からも報告されている。
このように、ステップ教室で児童の長所を生かした 指導をすることで、自信を取り戻し、楽しく生き生き と学習に取り組むことができるようになり、通常学級 での学習への取り組みも意欲的になってきている児童 らも多い。
3
.3
.学習の補充読み書きの他にも、通常学級での学習でのつまずき に対して、補充のための指導を行うこともある。例え ば、算数の計算や九九の覚え方等について、児童の認 知特性に合わせた工夫を行い指導している。通級生の 学習上の困難は、一つではなく多岐にわたることも多 いことから、学習への意欲を低下させないためには、
早期に対応することが重要である。
また、学習の終わりにゲームや卓球、ボール投げな どのレクリェーション活動を実施することもある。通 級生にとっては楽しい時間であり、通級担当者にとっ ては、学習活動だけでは見えてこない運動面での問題 を評価することもできる機会となる。学校生活での困 難が、運動企画や協調運動の問題と関係していること もあるからである。
3
.4
.教育相談とコンサルテーション通級生は、障害からくるさまざまな困難のために自 信をなくし、自己評価が低下していることが多い。そ のため、通級生が家庭や学校で生き生きと生活するた めの支援と指導が、通級指導教室に求められる。それ に際しては、担任や保護者が児童の特性や困難を理解 し、通級指導教室での指導と連携して児童を支援する ことが不可欠である。そのため、教育相談の際には、
保護者の思いに寄り添いつつ、支援の方法を話し合う それは、自分自身やその障害について理解することに
も繋がっていく。また、低学年通級生や特別支援学級 児童と共に活動することで、学習した対人スキルを実 践する機会となり、在籍学校では助けてもらうことが 多い通級生が頼られる経験をすることができる。
「クリスマス会」は、計画準備から運営まで総てを 高学年グループが担当する。自分たちが楽しむのでは なく、年下の子どもたちを喜ばせるための計画を考え ることが求められ、例年児童らは、ゲームや出し物、
ケーキ作りなど、趣向を凝らしている。毎年実施して いるので、中学年グループの児童らには、次は自分た ちがやるのだという意識が芽生え、また低学年の児童 にとってはよい見本になり、SSTへの意識が高まる。
児童にとっては、学んできたスキルの活用場面であり、
指導者にとっては児童のソーシャルスキルを実際場面 で再評価できる機会でもある。
具体的なスキルを学習し、このような経験を積むこ とで、自己肯定感が高まり学校生活が送りやすくなる。
通級前は話しかけられても答えられず、いつもうつむ き加減であった児童が、通級開始後明るくなった、学 校集会で上手に発表できた、授業でよく発表するよう になったなどの効果の報告を受けている。
3
.2
.読み書きの困難への指導(学習支援)知的な遅れがなく、読み書きや計算等の困難がある 児童(学習障害児)に対しては、児童のつまずきや困 難の原因を評価し、そのつまずきを改善できるように、
児童の認知特性に合わせて指導している。読み書きの 困難を主訴とする場合でも大きく分けて音韻の弱さに よる読み書き障害と視覚認知の弱さによる読み書き障 害があり、児童それぞれの認知特性を評価し、学習方 法を工夫している。認知特性を生かした指導方法、い わゆる長所を生かした学習をすることで、できなかっ たり苦手だと思っていたりしていたことに取り組める ようになってくる。また、自分に合った学習方法を見 つけることにも繋がる。
2 年生 4 月時点でひらがなが覚えられず、ひらがな 一文字の想起にも課題が大きかった通級生の事例で は、 1 年生で学習するひらがなが覚えられないことに 自信を無くし、学習にも無気力になっていた。通級で は、音韻認識力を高めるためのしりとりや言葉遊び、
文字遊びなどから始め、ひらがな一文字と音(読み方)
に意味づけすることでひらがなを覚えることを目指し た。今まで何回書いても読んでも覚えることができな かったひらがなが、カードで覚えられ、それが少しず つ自信を取り戻していくことに繋がった。その後は、
2 文字の単語読みから少しずつ文字数を増やし、読め る単語を増やしていった。単語読みの際にも意味をあ らわす絵を一緒に見せることで、意味を理解して単語 を読めるようにした。この事例の場合は、情報処理が
芳倉 優富子・玉村 公二彦 奈良県におけるLD通級指導教室の役割と指導の展開
通級を実施でき、より手厚い支援、指導が可能となっ ており、課題を早期に改善することができている。
一方で、校外通級生については、A市ステップ教室 はことばの教室から拡大される形で開室されたため、
ことばの教室の指導時間帯と同じく、通級時間を午後 に設定してきた。しかし、2010年度通級生が多くなる にあたって、これまでの指導時間帯では対応しきれな くなったため、午前中に校外通級生を指導する形態と して、ステップ教室担当者が通級生の在籍する学校へ 訪問して指導する方法をとっている。この取り組みに よって指導時間帯を拡大することができているが、そ れだけでなく、在籍校での校内通級の実施への足がか りを作ることも目的としている。
4
.1
.C小学校における訪問通級指導の実施2010年度は、週 1 日の午前中、市内C小学校におい
て訪問指導を行っている。C小学校への訪問通級指導 は、通級生が 4 名在籍していたことに加え、保護者の 理解が得られたことで、実現したことでもある。午後 に通級していたときには、在籍校の授業が終わってか ら通級していたり、早めに在籍校を出て通級したりし ていたため、在籍校での授業を長時間抜けることはな かったが、訪問通級は、午前中に指導を行うため、在 籍学級での授業を抜けて通級指導を受けることにな る。保護者の中には、授業を抜けることへの抵抗が大 きい保護者もいるため、理解を得られないと実施でき ない。しかし、C小学校の通級生の保護者には、在籍 学級の授業を抜けることの不利益よりも、手厚く指導 を受けられることの利点を理解してもらうことができ たため、承諾を得られ、訪問通級が実現した。指導場所や内容については、特別支援学級担任と打 ち合わせの上、特別支援学級在籍児童と通級生の合同 のSSTを 1 時間、読み書き等の学習指導を 1 時間実施 している。SSTに関しては、通級生に加えて、C小学 校特別支援学級に在籍している児童のうち、通級生と の合同の学習に参加できる児童も含めて、低学年と高 学年のグループに分け、特別支援学級担任と協同で行 っている。SSTでの指導課題は、基本的にはステップ 教室での内容と同じであるが、児童らの校内での行動 観察や担任からの情報を受けて、指導内容を修正して いる。そうすることで児童の問題により早く対応する ことができる。
また、ステップ教室担当者は、残りの時間を通級生 の行動観察や在籍学級での学習支援、在籍学級担任と の懇談、保護者相談、特別支援教育コーディネーター や特別支援学級担任との懇談などに充て、連携や支援 の充実を図っている。
4
.2
.訪問通級指導の成果と課題訪問通級指導の成果として第一にあげることができ
ようにしている。また、在籍校へ出向き学級での行動観察をしたり、担任懇談で担任と話し合う機会をもっ たりすることも重視している。心理検査や通級指導教 室での指導時の評価と通常学級での行動観察を総合し て、児童の支援を考え、在籍校・在籍学級での支援の 方法を提案している。
また、在籍校の特別支援教育についての校内研修の 講師として、通級生の障害や指導内容を話し、理解し てもらう機会をもてる学校もある。通級生のことを話 す中で、通級生の理解だけでなく、通級生以外の児童 の理解の仕方や支援の方法を考えてもらう機会にもな っている。通級での指導内容、特にSSTについて紹介 している中で、通級生も含めたクラスでのSSTに関心 を持ち、取り組み始めている学級もある。
3
.5
.通級指導の成果と課題ステップ教室は、通級する児童にとって、困難を軽 減することができる場所であると同時に、同じような 困難をもつ友だちとの出会いの場でもある。在籍学級 では友だちとのトラブルが多く、自分を出せない児童 も、ステップ教室では安心して自分を出して学習して いる。その中で授業でのルールやマナー、友だちとの 関わり、苦手な学習内容などを、自分に合った方法で 学習するので、通級生にとってはなくてはならない教 室となっている。保護者にとっても、児童のことを相 談できる場であり、同じような悩みをもつ親同士がつ ながる場でもある。
しかし、本来通級生が生きいきと学校生活を送るた めには、在籍校での支援が充実していくことが望まし い。校外通級生の場合、 1 週間に 1 時間通級して来る が、それ以外は在籍校で生活している。障害特性や学 級環境のためにトラブルになることも多く、在籍学校 での支援が必要であるが、校内支援体制がうまく機能 している学校ばかりではなく、学級担任個人に任され ている学校も多い。特別支援教育コーディネーターも 配置されているが、具体的にどのような支援をするこ とが必要なのか模索している場合が多いのが現状であ る。校内通級の実施(特別支援学級の弾力的運用によ る指導)も含めた校内での支援体制を構築できれば、
ステップ教室との連携をとりながら在籍校でよりきめ 細かい支援が可能になると考える。
4
.校内通級の実施を視野に入れた訪問通級指導校内通級生については、特別支援学級との合同の指
導の中で、午前午後を問わない形で、ステップ教室通 級生と似た課題をもつ特別支援学級在籍の児童と共に SSTをうけたり、特別支援学級の運動の時間にステッ プ通級生が取り組みに参加したりすることができてい る。そのため通級生の課題に合わせて週 1 ~ 3 時間の学級担任が通級での指導を参観し、校長をはじめとす る担任以外の教員も見学するなど、通級での指導を広 く知ってもらえる機会となった。これは、今後の校内 における通級も視野に入れた特別支援学級の弾力的運 用を模索していくきっかけとなると考える。また、訪 問先の学校の児童については、通級生の保護者相談だ けでなく、巡回教育相談で行っている相談についても、
訪問の際に行うことができた。そして、そういった教 育相談によって校内支援に繋げたり、保護者相談に繋 げたりすることで校内支援体制づくりの一助を担うこ とができたと考えている。
このような利点を可能性としてもっている訪問通級 指導であるが、しかし、在籍校で午前中に校内通級す ると在籍学級での学習が遅れてしまうのではないか、
授業中抜けることで学級の友だちから悪く言われたり しないかなど心配する保護者もあり、午前中通級する ことへの理解を得ることが難しい場合もある。しかし、
今年度訪問通級指導を受けた児童の保護者には、より 多くの指導が受けられていることや、適宜学級での学 習支援を受けられていることについて、有意義である と評価してもらえている。保護者が我が子の障害や特 性を受けとめ、学級での教科学習も大切であるが、今 の我が子にはもっと身につけるべき課題があること理 解できているからでもある。
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.おわりに特別支援教育が法制化されて、今年度で 4 年目を迎
えている。各学校では、特別支援教育コーディネータ ーが任命され、校内委員会など支援体制への取り組み も積み重ねられてきている。校内での研修や研究機関 での研修など発達障害のある児童への理解も広まりつ つある。しかし、巡回教育相談に訪れると、実際の支援の方 法に困っているという声をよく耳にする。支援に際し ては、奈良県では、特別支援学級の弾力的運用を示唆 しており、そのためには、特別支援学級の運営の見直 しも含めた、枠組みの転換が必要な場合もあるのでは ないかと考えている。しかし、弾力的運用と聞いては いても、具体的な方法がイメージできない、という場 合も多いのではないだろうかとも感じている。そうし た状況に対して、各学校での状況も異なるため、一概 には当てはまらない部分もあるが、2010年度行った訪 問通級指導は、学校での具体的な支援の方法を提案し ていくことと同時に、訪問指導を通して具体的な「特 別支援学級の弾力的運用」のあり方を共に模索してい くことができたのではないだろうかと考えている。そ れを通して校内通級を可能にする一歩を作ることがで きたのではないだろうかと考えている。また、それは 校内支援体制を充実にも繋がっていくものでもある。
るのは、児童らへの指導効果の拡大である。訪問通級 を行うと、通級生の学校でのソーシャルスキルの課題 が収集しやすく、課題に早期に対応することができる ため、通級生の行動上の問題を改善しやすい。また、
通級担当が学習支援や学校生活場面に入ることで、必 要な声かけをしたり、行動のふり返りをしたりするこ とができる。これによって、ソーシャルスキルの般化 へ繋がる場面をもつことができている。また、通級担 当者だけでなく特別支援学級担任も一緒に指導を行う ので、特別支援学級担任も指導課題に合わせて日常的 な通級生の行動を見て声かけをすることができ、日頃 から般化につながる場面を多く作ることができてい る。これは、学校で行うSSTの利点でもある。そして 特別支援学級担任が通級生へも声かけなどで関わりを もつことは、校内支援の充実に繋がる。実際、一緒に 学習するようになってから通級生と関係が密接にな り、行事等の活動時に通級生がどうしているか見るよ うになったと聞いている。
第二に、訪問先の学校の特別支援学級担任等のスキ ル向上の効果を指摘できる。例えば、読み書きの指導 に際しても、特別支援学級担任が補助として参加可能 な時間もあり、通級指導教室での指導の方法等を伝え ることができている。通級指導教室での指導は、特別 支援学級での指導にも役立つものが多く、よい研修の 機会になったとも聞いている。特別支援学級で指導を 受ける児童が多様化している今日においては、担任と なっても、児童の障害の理解や指導方法、児童への対 応などで悩むことが多い。また、保護者への対応で苦 慮することもある。そうした中では、通級生への支援 まで手が回らないといわれることも多い。C小学校に おいても、当初、特別支援学級担任は、通級生へも何 らかの支援が必要であると感じていたが、実際には何 をしていいかわからずにいたという。しかし、一緒に SST等の実践を行う中で、特別支援学級児童と通級生 が同じ学習課題で学習できることがわかり、在籍の有 無の違いはあっても、一緒に学習することでお互いに 学びあうところが多いことが実感できたと聞いてい る。指導のみならず、児童のアセスメントについても、
特別支援教育コーディネーターや特別支援学級担任と 話し合う機会をもちやすく、よりきめ細かく児童を理 解し、支援することができた。指導を共にする中で、
通級生だけでなく、C小学校の特別支援学級児童のア セスメントも協同で行い、その結果、特別支援学級担 任のアセスメントのスキルの向上にも繋がった。指導 に繋げるためのアセスメントを共にすることで、自信 をもって指導することができ、保護者にも指導につい て話すことができるようになったことが良かったと聞 いている。
第三に、校内支援体制の拡充のための諸効果もあげ られる。 1 年間通級担当が訪問指導することで、在籍
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-続・全国モデルの実際. ぎょうせい.
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上野一彦・牟田悦子・小貫悟(2001). LDの教育-学 校におけるLDの判断と指導. 東京:日本文化科学 社.
特別支援教育においては、支援を必要とする児童の ニーズに合わせた教育を、在籍学校・学級で行うこと が求められている。現在、支援を必要とする児童生徒 が増加傾向にあり、通級指導教室においても、発達障 害児の場合、一時期よい状態になり通級指導教室を終 了する児童もいるが、発達の過程で新たな課題が出て くるため再度支援の検討が必要になる等、通級指導教 室の終了時期の判断が難しく、結果的に通級生の数も 年々増加している。一方で、校内での支援体制がうま く機能していないために保護者が通級指導を強く希望 することも多く、これまでの通級指導教室での指導方 法では対応しきれない児童数になっている。担当者が 複数になれば対応できるが、実現には至っていない。
ある程度状況が改善した児童については、通級指導教 室を終了し校内支援体制の中で支援していくことがで きれば、通級生や保護者にとっても、長期間にわたっ て通級するという負担も減ることにもなる。そのため には、在籍校での支援体制の整備が不可欠である。訪 問通級指導をこのような現状を打開する一つの方法と して捉え、今後も取り組みを続けていくことが必要で あると考えられる。
注
1 )文部科学省初等中等教育局「学校教育法施行規則 の一部改正等について(通知)」(2006年 3 月31日 付)、同「通級による指導の対象とすることが適 当な自閉症者、情緒障害者、学習障害者又は注意 欠陥多動性障害者に該当する児童生徒について
(通知)」(2006年 3 月31日付)
2 )奈良県特別支援教育の検討及び推進に関しては、
奈良の特別支援教育検討委員会『奈良県の特別支 援教育の方向性-「奈良県の特別支援教育検討委 員会」審議のまとめ-』(2010年11月)を参照の こと。なお、引用部分は同報告書(p.4)
3 )同上、p.5
参考文献
天野清(2006). 学習障害の予防教育への探求-読み・
書き入門プログラムの開発. 東京:中央大学出版 部.
今西満子・玉村公二彦(2010)奈良市におけるLD通 級指導教室の現状と指導の展開. 奈良教育大学教 育実践総合センター研究紀要 第19号. pp.167-172 小池敏英・雲井未歓・窪島務(2003). LD児のための
ひらがな・漢字支援. あいり出版.
近藤文理(2005). 学習障害. 清水貞夫・藤本文朗編. キ ーワードブック障害児教育. クリエイツかもがわ.
pp. 170-171.