序
少子高齢化社会が急速に進みつつある日本において、 老人介護の問題は、 極めて切迫した社会的課題 である。 この介護の大きな課題の一つに、 誰が介護するか、 という介護者 (社会的支援従事者) の問題 がある。 少子高齢化は、 介護を必要とする高齢者の急増と若年介護者の激減を人口統計学的に必至とし ている。 その予兆として老人が老人を介護する事態が既に多くみられ、 日本の老人介護問題は深刻化す る一方である。 他方、 出生率が下降している現在、 国内の若年介護者を大幅に増加させることはきわめ て難しく、 この問題は国内のみの人口での解決を考えていては袋小路とならざるを得ない。 日本は世界 的に豊かな経済力を誇りながら、 個々の日本人は必ずしも幸せとはいえない老後を迎えざるを得ないの は皮肉な話であり、 政府のみならず国民一人一人が、 この問題を多角的に考えるべき時であると思われ る。 多角化の一つの方向はこの分野における人的資源の国際的相互依存性を考えることであろう。 日本 は貿易立国であり、 世界の物的資源の経済的交易を先進的にリードしている国の一つであるが、 人的資
比国人の一般的な性格特性と価値観
*1−介護など社会的支援従事者としての比国人の特性−
齊 藤 勇*2
*1 本研究はワーク・ライフ・バランスを国際的に比較し、 ソーシャルサポートの国際的相互依存を考える立正 大学心理学研究所共同研究の一環である。
*2 立正大学心理学部
要 旨: 本研究は社会的支援の人的資源として国際的に広く受け入れられている比国人 の性格や価値観、 対人心理特性を社会心理学的に研究することにより、 日本の介 護問題への取り組みへの一助とすることを目的としている。 具体的には、 比国人 の特性を研究している文献を調べ、 文献中に取り上げられている特性の割合を調 査し、 その頻度から、 比国人の典型的性格を検討することを目的としていた。 そ の結果、 次のような比国人の特性と価値観が典型的特性として抽出された。 文献 で取り上げられた数の多い順に以下の通りである。 パキキサマ, ヒヤ, ウタン グ ナ ルーブ, 親密な家族の絆, バハラ ナ, アモル プロピオ, バヤニハン, ホスピタリー, ニンガスコゲン, 敬老, 従順さ, マニャーナ, フィエスタ グラ ンデ。 これらの結果は比国人が介護など、 社会的支援従事者として、 非常に適性 があることが文献的に裏付けられえたといえよう。
キーワード:ソーシャル・サポート、 比国人の性格、 社会的支援従事者、 老人介護
源の国際交流においてはかなり閉鎖的であり、 介護の問題においても、 人的資源を国内でのみで解決し ようとしている傾向が強い。 しかし、 そのような閉鎖的対応ではもはや将来の見通しは生まれてこない。
そうではなく、 もし、 人的資源においてもグローバルな交流と相互依存を促進させるならば、 問題に改 善がもたらされることが期待できる。 特に、 事態が切迫しつつある介護問題においては、 人的資源の国 際化は、 すみやかな対応が必要と思われる。
しかしながら現状においては社会的支援従事者 (ここでは看護師やケアギバーなどを指す) の海外か らの受け入れに関しては、 日本政府は質の低下や治安の悪化などを理由にかなり厳しい基準を設け、 事 実上、 受け入れを厳しく制限している。 他方、 欧米諸国や中近東それにシンガポールや香港など先進的 なアジアの諸地域など、 看護師、 ケアギバー、 ホームヘルパー、 メイドなど介護人的援助を中心とする 社会的支援のための人的資源をグローバルに求める国は多く (朝日新聞、 2005.10.6.)、 また、 世界的 には、 問題をはらみながらも社会的支援従事者の海外からの受け入れは増加する傾向にある。 さて、 先 進諸国や先進地域、 また富裕階級をもつ諸国へのこのような社会的支援の人的資源の需要に対する最大 の供給国は日本の隣国、 比国である。 このため、 比国では社会的支援関連の従事者 (看護師、 ケアギバー、
メイドなど) としての海外への就労者が多く、 比国の有力新聞 「The philippin star」 (2005.12.3、 8) によれば、 比国労働者のうちの10%、 約850万人が海外で働いているという。 また比国内での海外への 就労希望者も多い。 たとえば比国からの看護師の海外進出は2001年1年間の統計で英国のみでも1万人 を超えるとされ、 また、 米国は、 近年の看護師不足解消のため、 2006年には1万人の比国看護師の受け 入れ計画を発表している。 このような海外からの要請に応えるため、 比国内の看護師養成学校は1970年 代・40校程度だったのが2004年には370校に激増しているとされている (朝日新聞、 2005.9.27.)。 ま た、 経済的にも海外からの送金は大きな財政的資金源となっており比国経済の一翼を担っているといえ る。 たとえば、 「The Philippin star」 (2005.12.3) によれば、 2005年1月〜9月の海外からの送金額 は国民総生産 (GDP) の11.4%にあたり、 前年同期の9%を上回り、 2005年度の送金総額は120億ドル を上回ると予測されている。
さて、 では、 なぜ比国は看護師やケアギバーなどの社会的支援に関連する人的資源の最大の供給国と なっているのであろうか。 その一つの大きな原因は金銭的問題である。 賃金の低い本国よりも海外で働 いた方が数倍、 時には数十倍の収入が得られるという経済的理由による。 しかし、 それだけが原因では ない。 比国よりも賃金の低い国、 貧しい国は世界に少なくない。 しかし、 それらの国からの海外におけ る社会的支援従事者への就労は比国ほど多くない。 その理由は、 いわゆる極貧の国では、 欧米の求める 看護師やケアギバーの養成はできないことはすぐに想像できよう。 国民に一定の能力や収入があり、 専 門学校を卒業できるくらいの経済的余裕と教育への熱意が必要となる。 比国はそのレベルを満たしてい る国といえよう。 また、 比国が社会的支援従事者として最大の供給国であるということは、 欧米をはじ めとする需要国から比国人が歓迎されているということを示している。 その理由は、 経済的問題だけで なく、 比国人の職能的能力であり、 さらには心理的適応能力であるといえよう。 比国人の性格、 比国人 の対人心理的特性が、 社会的支援従事者としての適性があり、 人的資源として海外から歓迎されている のではないかと推察される。 比国人が海外において社会的支援従事者として就労しているのはこのよう な社会心理学的要因も大きいと考えられる。
さて、 前述のように日本が、 今後、 老人介護を海外に求めようとしたら、 世界的な供給国であり、 そ
の能力や特性を世界から評価されている比国が最も適当な対象国ということになろう。 同じアジアの一 員であり、 人種的にも近く、 距離的にも近い隣国である点から、 最も適当な対象国であるといえる。 こ の点に関して、 海外就労を国策の一つとしている比国のアロヨ大統領は、 訪日の度に看護師など社会的 支援従事者の受け入れを日本に要請している。 日本政府はこれに対してかなりの難色を示してはいるが、
比国との FAT 締結に向けて、 2004年秋以降、 この分野でも受け入れを緩和する方向を示している。 し かし、 その数が比国側が要求している1万人単位とは比較にならない百人程度が示され、 大統領を驚か せている。 前述のように米国が2006年比国看護師を1万人受け入れると報道されていることと比較する と大統領の驚きも理解できよう。 筆者が考えるには、 外国からの支援従事者の受け入れは、 比国側にとっ ても重要案件ではあるが、 特に高齢者の介護者の受け入れは、 日本側にこそ、 急務でこの問題に対応を しなければならない問題と思われる。
本研究はこのような実状をベースに比国人が世界各国で社会的支援の人的資源として受け入れられて いる理由の一つとして比国人の性格や価値観があると考え、 その心理特性を社会心理学的に研究するこ とを研究目的としている。 そして、 このような研究が、 日本の介護問題への取り組みの一助となること を期待としている。
方 法
文献分析法 比国のフィリピン大学、 アテネオ大学、 ミンダナオ大学などの大学図書館およびマニ ラ市、 ミンダナオ市、 セブ市等の市中の書店などにおいて、 比国人の性格特性、 価値観などに言及し ている比国人著者による心理学、 社会心理学、 社会学関連、 社会評論の著書等文献を収集した。 収集 した24文献の文中に触れられている比国人の性格特性や価値観を各文献ごとにピックアップし、 全体 における各特性の比率を求めた。 その比率の大きいほど、 比国人の代表的性格とした。 分析対象とし た文献は以下の通りである (詳細は文献の項参照)。
1. Carson-Arenas (2004) Introduction to Psychology.
2. Dizon, et al. (2003) General psychology.
3. Leonano, et al. (2003) Psychology and you.
4. Bauzon, P. (2002) Essentials of values education.
5. Salcedo, et al. (2001) General psychology.
6. Panopio, et al. (2000) Society and culture.
7. Bustos, et al. (1999) Introduction to psychology 8. Limpingco, et al. (1999) Personality.
9. Sanchez, et al. (1997) Psychology.
10. Jocano, F. L. (1997) Filipino value system.
11. Sevilla, et al. (1997) General psychology.
12. Avelino, et al. (1996) Personality development.
13. Andres, T. Q. D. (1996) Understanding the Filipino values.
14. Palispis, E. S. (1995) Introduction to values education.
15. Panopio, et al. (1995) General sociology.
16. Panopio, et al. (1994) General sociology.
17. Kabisig People's Movement (1993) Moral recovery program。
18. Maslog、 C. C. (1992) Communication, values and society.
19. Feliciano, E. M. (1990) Filipino values and our Christian faith.
20. Andres, T. Q. D. (1989) Positive Filipino values.
21. Lupdag, A. D. (1984) Educational psychology.
22. Panopio, et al. (1978) General sociology.
23. Lardizabal, A. S. (1976) Customs, beliefs, and superstition.
24. Mendez, et al. (1974) The Filipino family.
聞き取り調査法 比国人にでピックアップした比国人の性格特性や価値観についての具体的な例 を収集するためにインタビュー調査した。 被調査者は比国人大学院生2名 (男性1名、 女性1名) で ある。
結 果
文献に示されたフィリピン人の特性を分析文献ごとに取り上げ、 取り上げられている数を数えた。 そ の結果を示したのが、 表1と図1である。 比国人の性格として一番多くピックアップされている特性は パキキサマ (友好性) である。 収集したデータによると、 全体の87.5%に当たる、 24冊のうち21冊がパ キキサマ (協力、 対人関係) について言及している。 次いで24冊のうち14冊に言及されているのがヒヤ (hiya)) とウタング ナ ルーブ (utang na loob) の58.3%である。 ヒアとは恥や羞恥心、 臆病等を 意味する。 ウタング ナ ルーブとは内面の恩義で、 恩義や強い感謝の意味である。 4番目の親密な家 族の絆 (close family ties) が24冊のうち13冊で言及おり、 これは54.2%に当たる。 5番目はバハラ ナ (bahala na) で、 この特性は行動の結果を運あるいは運命に任せることで、 運命 (さだめ) や諦め とともに何が起ころうともという楽観性も含まれている。 50% (24冊のうち12冊) の文献に記載されて いる。 6番目はアモル プロピオ (amor propio) で、 名誉、 品格、 自尊心を表す。 37.5% (24冊のう ち9冊) が言及している。 7番目と8番目はバヤニハン (bayanihan) とホスピタリティ (hospital- ity) でいずれも29.2%で24冊のうち7冊で言及されている。 バヤニハンは相互扶助、 相互協力を意味 する。 ホスピタリティは特に外国人へのもてなしを意味する。 9番目はニンガス コゴン (ningas cogon) で、 熱意消失を意味し、 熱しやすく、 さめやすい特性を指す。 25%で24冊のうち6冊で言及し ている。 10番目は年長者に対する敬意 (respect for the elders) は24冊のうち5冊で20.8%となってい る。 以上10特性が、 全体の20%以上の文献で、 言及されている特性である。 これらが、 比国人の代表的 性格といえよう。 これに加えて、 先延ばし癖を表すマニャーナ (manana) は16.7%で24冊のうち4冊 である。 また、 人それぞれという利己的態度を表すカンヤカンヤ症候群 (kanyakanya) と仲介をする ことを表すパママギタン (pamamagitan)、 が12.5%で24冊のうち3冊である。 また、 従順さを表すシ プシプ (sipsip)、 植民地思考 (colonial metality)、 劣等感 (infeliority) はいずれも8.3%で24冊のう ち2冊で言及されています。 最後に、 ごちそうを表し、 祭り好きを意味するフィエスタ グランデ (fi- esta grand) が1冊4.2%で言及されている。
表1 文献中にみられる比国人の性格特性と価値観の分布と集計
Respondents Pakiki
sama Hiya Utang Na loob
Close Family Ties
Ba- halana
Amor propio
Baya nihan
Hospi- tality
Ningas Cogon
Respect for elders
MananaKanya- Kanya
Pama- magitan
Sip- Sip
Colonial Mental- ity
Inferi- ority
Fiesta grande 1 Carson-
Arenas 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
2 Bustos, et al 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
3 Avelino, et al 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
4 Palispis 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
5 Andres 1 1 1 1 1 1 1 1 1
6 Dizon, et al 1 1 1 1 1 1 1 1 1
7 Panopio, et al 1 1 1 1 1 1 1 1 1
8 Lim-pingco 1 1 1 1 1 1 1 1
9 Lupdag 1 1 1 1 1 1 1 1
10 Andres 1 1 1 1 1 1 1
11 Leonano 1 1 1 1 1 1
12 Panopio, et al 1 1 1 1 1 1
13 Mendez, et al 1 1 1 1
14 Salcedo, et al 1 1 1
15 Feliciano 1 1 1
16 Sanchez, et al 1 1
17 Jocano 1 1
18 Sevilla, et al 1 1
19 Bauzon 1
20 Panopio, et al 1
21 Kabisig 1
22 Maslog 1
23 Panopio, et al 1
24 Lardizabal 1
21/24 14/24 14/24 13/24 12/24 9/24 7/24 7/24 6/24 5/24 4/24 3/24 3/24 2/24 2/24 2/24 1/24 Total 87.5% 58.3% 58.3% 54.2% 50% 37.5% 29.2% 29.2% 25% 20.8% 16.7% 12.5% 12.5% 8.3% 8.3% 8.3% 4.2%
図1. 24文献中の比国人の性格特性と価値観の出現率 (%)
パキキサマ(友好性)
ヒヤ(恥)
ウタンナローブ(恩)
家族結合性 バハラナ(運命任せ)
アモルプロピオ(自尊心)
バヤニハン(相互扶助)
ホスピタリティ ニンガスコゴン(即熱性)
敬老
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0
図表に示されるように、 比国人の性格として一番多くピックアップされている特性はパキキサマであ る。 この特性は、 全文献中80%以上で取り上げられており、 二番目が50%台であることからみて、 比国 人を最も代表する特性といえる。 パキキサマは英語が公用語である比国では companionship (あるい は comrade) と訳されており、 友好性を意味している。 外国人が比国をフレンドリーだと感じるのは、
この性格特性によるといえよう。 この特性が比国人が看護師やケアギバーなど社会的サポートの要員と して世界各国から受け入れられている大きな社会的性格要因といえよう。 次に第二位、 三位はヒヤ (恥) とウタンナローブ (恩) が50%以上取りあげられており、 日本人の心理特性との親密性を感じさせる結 果を示している。 四番目は家族の結束力の強さであった。 以下、 上位10項目の20%以上の出現率の特性 を図1に示してある。 考察において、 これらの特性について、 特性ごとに、 詳しく説明し、 また、 聞き 取り調査の結果の具体例も示していくことにする。
考 察
1 パキキサマ
本調査の結果、 比国人の特性として最も多くピックアップされていたのはパキキサマであることが判 明した。 このことからパキキサマが比国人の代表的な性格特性であるといえよう。 パキキサマとは人と 仲良くする、 友好的にするという対人関係的特性である。 人と一緒に居る、 人と仲良く付き合うという この傾向は人に対して基本的に友好的であり、 親和的といえる。 この傾向が比国人の特性研究で最も多 くあげられているということは比国人が友好的で、 親和傾向が高いということを示しているといえよう。
確かに筆者の個人的経験からも、 飛行機の中などで、 未知の隣同士の人が、 すぐに仲良くなり、 おしゃ べりを続けている様子を多く目にするが、 比国人は友好的であり、 おしゃべり好きといえ、 比国の訪れ る多くの外国人は比国人はフレンドリーだという。 このことは比国人の対人関係における友好的親和傾 向の強さからきていると考えられる。
比国人にとってパキキサマは、 基本的な傾向であり、 私的生活においても、 公的な職場においても、
隣人との関係においても友好性が表現されている。 Feliciano (1990) は、 フィリピンの肯定的価値観 の中で、 この特性は比国人にとって本質的なものであると記している。 さらにこの基本的価値観は比国 人の平等に扱われたいとの欲求をも表すとも述べている。 それによれば、 比国人は自分が同等者と共に 住み、 行動していると考え、 自分が他者に見せる配慮は、 当然他者も自分に見せてくれると思っている。
このため、 一緒にいる人は互いに助け、 協力する強い傾向をもつ。 これが難局の時に互いに助けあうこ ととなり、 後に述べる 「バヤニハン」 精神もこの強いパキキサマ意識に由来するといえるかもしれない としている。 Palispis (1995) はパキキサマは比国人の仲間意識、 友情、 近隣感覚、 あるいは人への共 感から生まれているとしている。
さて、 パキキサマは語源的に語根 「サマ」 (一緒にいる、 同調する) から由来している。 この語は一 緒にいることへの期待、 願望や要求とともにその他者を不愉快にしないように努め、 集団の他の大多数 に合わせること (Jocano 1997; Mendez & Jocano 1974; Panopion et al 1978) も意味している。 この 特性は他者との協力や場の雰囲気を円滑にするために必要とされ、 そして広くは所属する集団全体をよ り良くするので、 比国人にとってこれは重要な特性とされている。 さらに、 この特性は他者と良い関係 を作る努力をする傾向をも指すとされている (Andres 1989)。
この特性は他者との関係、 特に周囲の圧力と非常に関連があり、 周囲の圧力は非常に強いもので、
「集団の欲求に従う、 または同意せざるを得ない」 (Jocano 1997) 特性ともされている。 この点から考 えるとパキキサマは社会心理学でいう強い同調傾向を指すといえよう。 比国の若者の成長過程で、 若者 仲間同士が一緒にいる時期があるが、 この時期同じ地位や年代の若者の間で対人関係においてその時の 仲間の流れに乗らなければならないとする同調性を強く持つとされている。 このため時には、 この特性 は若者非行に走らせる否定的な特性とみなされることもある。 同調しないと仲間から孤立し、 疎外され るので仲間に行動を合わせることになるのである。 これもパキキサマの一面であるが、 ネガティブな面 といえよう。
さらに、 パキキサマの特性は Avelino & Sanchez (1996) によれば他者と知り合う、 そして付き合 うことに限られるものではなく、 個人の内面にある、 他者を助けたいとの生来の基本的価値観だとして いる。 この特性が多くの国から介護支援者として、 比国人が歓迎されている大きな心理的要因といえよ う。
聞き取り調査
私たち比国人は積極的に、 他者との付き合いを働きかける傾向があります。 この特性は比国人同士 の対人関係を円滑に進めるベースとなっています。 対面状況ではすぐに仲良くしようとし、 表立った 対立、 暗い顔や渋い顔、 きつい言葉、 公然とした意見の不一致や身体的攻撃を回避しながら人と付き 合おうとします。 一方で、 既にある仲間の一員となっている場合、 相手の人のプライバシーを認めな い傾向を生むことにもなります。
若者だけでなく、 大人にも、 パキキサマのこのマイナス面が働くことがあり、 選挙時の票の買収に よく表れています。 比国における選挙時の票の買収はごく日常的なものであり、 選挙は役職における 有能さだけでなく、 お金を競うものになっており、 票の買収は広い範囲で行われています。 この典型 的な比国人の特性や価値観により、 勝利を確実にする候補者やキャンペーンリーダーに対するパキキ サマから、 選挙時の票の買収について黙っていたり、 大目に見たりする。 見返りとしてその政治家が 当選すれば仕事が保証、 またはパキキサマが約束されるのです。
2 ヒヤ (恥)
タガログ語のヒヤは恥、 恥辱、 決まり悪さ、 屈辱、 謙遜や礼節の意識、 面子を失うことを意味してい る。 それは力不足や不安の気持ち、 臆病や内気の気持ちをも意味するとされる (Andres 1989 & 1996;
Jocano 1997)。 Carson-Arenas (2004) はヒヤを蔓延する劣等感として定義し、 この特性が比国人の 個人的価値や自立意識の低さと、 権威に対する服従に特徴づけるとしている。
Mendez & Jocan (1974) は比国におけるヒヤを具体的に次のような例を示している。 ヒヤと言う用 語の意味合いは、 子どもがはにかむ様子や、 突然の訪問に際して家が片付いていなかったり、 もてなし の食べ物がなかったりする決まり悪さ (カヒヤ ヒヤ) などのときに用いられる。 突然の訪問者に対し て家が片付いていない場合には相手にわびるか、 あるいは少なくとも片付いていない説明をする必要が あるとき感じる。 また、 他者の厚意に報いられない人や、 まだお返しをしていない人はヒヤを感じると される。 これらの意味合いを考えると日本の恥あるいは恥ずかしいと思う気持ちに非常に近いと考えら れる。 人は社会の一員として、 地位社会から孤立しないように社会の規範と期待に沿うことを甘受する
ことを示し、 たまたま今、 自分がその状態にないが、 違反するつもりはなく、 できるなら従うつもりで あることを表す表現としてヒヤが用いられる (Palispis, 1995)。 これは日本での 恥じ入る という 言葉に近いことが分かる。 他者からの攻撃を避ける場合の言い訳としてヒヤを感じ、 表現するのである。
これにより実は他者から非難されることを回避し、 自尊心を守り、 高めることにもなる。 このように比 国人は日本人の恥の感情に非常に近いヒヤという感情をもっており、 日本における介護場面において、
支援者と被介護者との間の互いの感情の理解や共感が容易であり、 感情的誤解も少なく、 両者の結びつ きを高めることができることが、 期待できよう。
聞き取り調査
学校の新年度において貧しい生徒達が具体的に経験する現実があります。 新年度になり、 各クラス において生徒達は自己紹介をしますが、 高地や地方から来ている生徒は低地や都市部から来ている生 徒よりも自己紹介する時は少し内気で気が小さくなっているようです。 これは自尊心の低さを物語り ます。 劣等感は大きな力を及ぼしていますが、 その裏には個人の生まれ育った背景、 環境、 人生に対 する展望や意向が影響をしています。 こうした人たちは、 自分達よりも進歩的で教養がある人たちか ら身を引き、 孤立し、 自分達は劣ると分類してしまう傾向があります。 そこにはヒヤ、 すなわち 「恥」
の意識があります。 クラスにおける討議でも先生が議題についての考えについて全員に発言するよう に促しても、 中には声を上げることを嫌がり、 他人の意見を聞いているだけの方が気楽だと思ってい る人もいます。 彼らが教室で消極的になるのは、 自分より優秀なクラスメートと自分を比較したり、
誤った卑下からヒヤすなわち恥を感じるからです。 ここでも劣等感が原因です。 立ち上がって声に出 して何か言えば間違っていたり、 笑われたりするのではないかと思い込んでいる人がいます。
3 ウタング ナ ルーブ
比国的な特性として3番目に多く挙げられたウタング ナ ルーブは、 内面に感じている恩義を意味 する (Carson−Arenas 2004)。 これは自分に厚意を寄せてくれた人に対する感謝を表す傾向である。
自分が恩義を感じている相手に対する強い感謝の気持ちを指し、 お返しをしたいと思う気持ちで、 心か ら、 という意味で内面の恩を感じているという表現である。 Medez & Jocano (1974) によれば、 たと えば借金をする、 食料をもらう、 職場への就職や昇進の世話になる、 医師による無料の診断を受けるな どの日常的な状況においてウタング ナ ルーブ、 すなわち内面の恩義を感じるという。 さらに、 この 特性の典型的な例は戦争、 火災や台風などの災害の時に家族の命を救われてときに生じるとしている。
救われた者にとって、 この恩はすぐに返せるものでも十分に返せるものでもないので、 このように命を 救われた人は物質的な礼だけではとても恩返しすることはできないと感じる。 このようなときがウタン グ ナ ルーブすなわち内面の恩義を最も強く感じるときだとしている。 Feliciano (1990) が指摘し ているようにウタング ナ ルーブは、 善行の恩恵にあずかった側は恩人に対して生きている間は惜し みなく尽くさなければならないとする内面の規則であるとされ、 日本の恩義、 恩に非常に近い感情傾向 であることがうかがえる。
聞き取り調査
比国では医療機関や病院などのない遠く離れた場所では急病や大ケガなど緊急事態はよくあること です。 このような緊急事態が起きると村全体の大事になり、 当事者の家族は隣人に対して物質的、 経
済的、 そして倫理的恩義さえも感じます。 物質的や経済的な事柄は返済できても、 自分達を助けてく れた人たちの努力、 心配や行動などに対して返済できるものではありません。 そこに内面の恩義が生 まれるわけです。 病人を病院にすぐに連れて行けるように自分のオートバイを無償で提供してくれた 隣人に、 病人とその家族は内面の恩義、 ウタング ナ ルーブを感じるのです。
自分の就職先を探し、 職に就けるように手助けをしてくれた人に対しても、 人は内面の恩義、 ウタ ング ナ ルーブを感じ、 感謝します。 そうしなければなりません。 就職できた人は助けてくれた人 に対して親切な行いなどを通して返礼をします。
この特性の最も典型的でよくある事例は働く学生の状況です。 一般的に貧困によって大学や高校で 学ぶことができない低所得層の学生たちが当てはまります。 裕福な家庭の家事手伝いとしてパートタ イムで働いたり、 用事を足す使い走りとして働き、 その報酬として授業料を払ってもらうのです。 こ のような場合でも学生は自分が仕える家族に対して内面の恩義を感じています。 そして、 学校を卒業 すれば、 授業料を払ってくれた人のために尽くすことを望み、 その人たちのおかげで学校に通えたこ とに謙虚な気持ちと感謝の念を抱きます。 人生を決める自由がえられたからです。
4 親密な家族の絆
比国人は家族に中心的価値を置き、 家族を非常に大事にする。 家族の絆があまりにも強く、 時にはそ れが家族同士の抗争につながることもあるが、 それは逆説的に比国人の家族がいかに親密かを示してい るともいえる。 Dizon, Fulgencio, Gregorio, Obias, P.h.R. & Vendivelら (2003) は、 「比国は家族の 結びつきの強く、 配偶者、 子ども、 両親、 兄弟、 祖父母や親戚に深い愛情を注いでいることは明らかで ある。 家族はアイデンティティーや感情的支援と物質的支援の源であり、 個人の最大の献身と責任の対 象である。 家族に対する心からの心配や気遣いは、 両親や目上の者に対する尊敬、 子どものためにする 援助や世話、 そして家族の幸せのために比国人が耐える犠牲からも明らかである。 老齢の両親を家で面 倒を見ることが比国では普通である。 家族のこうした姿勢を通して家族の一人一人に帰属意識と安心感、
安全感が育っている。」 と述べている。
Andres (1989, 1996) によると、 この特性は比国人の非常に強い特性であり、 どこにいようとも、
家族の絆は残るとしている。 日本人と結婚した比国人が比国人家族への援助の問題でトラブルが多いの もこのためである。 また、 家族の利益のためならば盗みもして良いと思う極端な考え方につながるので ある。 香港のフィリピンメイドが比国にいる子供のクリスマスプレゼントのために、 働き先の家の貯金 箱から小銭を盗んで逮捕されたというニュースを伝聞したが、 ここにも家族のためと思うと罪悪感が薄 れるフィリピン人の特性がみられるといえる。
この家族への思いの強さは、 比国人が老人介護において非常に親身に対応する人々と考えられ、 支援 従事者には適格な傾向であるといえ、 その点でも比国人は、 介護に向いている特性を有しているといえ よう。
5 バハラ ナ
状況が困難性をきたし、 問題が解決できなく、 窮地に追い込まれた場合に、 比国人はたいてい 「バハ ラ ナ」 と言う (Avelino & Sanchez 1996)。 バハラ ナ、 すなわち 「何が起ころうとも」 とは、 比国
人が運命や宿命に身を委ねる傾向を指す。 この 「何が起ころうとも」 は 「ケセラセラ (なるようになる)」
という考え方に近く、 難局に対して何が起ころうとも、 それは運命の仕業であると比国人は考える。
Palispis (1995) は比国人は運命を信じており、 自分の宿命についてはどうすることもできないと思っ ているとしている。 辛い生活をしていてもそれは神による意思なので、 耐えなければならないと考え、
スエルテ (良運) かマラ (悪運) に見舞われるだけのことととらえられているとされているのである。
このように、 バハラ ナは、 運命に対して自分が不可抗力であり、 その行動から起こる否定的な結果 に対して、 受容的で、 行動的にも消極的な傾向に思われるかもしれないが、 逆に、 この考えから運を天 に任せ、 危険を冒す勇気もつとの指摘もある (Andres 1996)。 比国人のこの勇気ある行動傾向が、 自 分の目標や志しを達成するために全てのマイナスの見込みや不安に立ち向かうことを後押ししていると も考えられる。 この特性が運に任せる楽観的傾向を生んでいるといえよう。 貧困などの不幸な事情に陥っ たとき、 比国人は勇気を振り絞って家を出て別天地を求めて都会や外国に行き、 「バハラ ナ」 と言っ て全てを運命に任せる。 これは無鉄砲な前向きな状況であり、 時には挫折と絶望につながるが、 しかし これにより、 成功する可能性も生じることになる。 介護支援者として若年労働者がまったく知らない外 国へ、 海外への出稼ぎに出て、 またそこに移住することを容易にしているのは比国人この特性が大きな 心理的要因の一つといえよう。
聞き取り調査の結果
地方においてこの特性を物語る状況として台風の最中に魚釣りに行くことが挙げられます。 比国人 の漁師達、 特に人里離れた田舎に住んでいる漁師の中には、 例え天気予報が悪天候と危険を忠告して も危険を冒して漁業をしに海に出る人もいます。 しかし彼らは生計のために漁業をしなければならず、
運を天に任せ、 最後は神が自分達の人生について最後の決断をすると考えているのです。
6 アモル プロピオ
アモル プロピオとは自尊心を意味し自分が世界にとって役立ち、 必要であるとの自信、 自負、 力、
力量、 そして適性を持つという気持ちを表している。 Carson-Arenas (2004) によると、 アモル プ ロピオは比国人が物としてではなく、 人として扱われたいという要求を意味するとしている。 また、 組 織の歯車でなく、 組織を動かす人間でありたいという欲求の表れであるとしている。 Andres (1996) はこの特性を、 「文字通り自己愛を意味するスペイン語である」 と定義づけています。 比国人はアモル
プロピオがあるので、 組織にいる比国人は自分がその組織にとって価値ある人間であると認められた いという気持ちが強い。 自分は組織の一部としてだけでなく、 組織に必要とされ、 ひいては自分なしで 組織は生き延びられない存在になりたいと思っているとされている。
7 バヤニハン
バヤニハンは人と協力と結束する傾向を意味する。 Andres (1989) によれば、 バヤニハンは地域社 会にいる人々の間の仲間意識を示し、 相手が必要とする時には助けるという比国人の特性である。 この 特性を表現する比国のことわざに 「カン サマサマ、 カヤン カヤ」 (我らは結束によって前進する) がある。 語源的に言えばバヤニハンは、 「英雄」 を意味するタガログ語のバヤニから派生しており、 バ ヤニハンは英雄的に他者を助ける自発的積極性を表す。 バヤニハン精神は特定の目的を達成するために、
チーム全員が気持ちを結束することを指す。
「英雄」 という言葉が権力と結びつくのではなく、 結束と結びつくところに比国人の相互援助的な特 性がうかがえよう。 しかもこの特性は仲間意識や集団に限定されたものではなく、 緊急な状況におかれ て、 必死で助けを求めている人を助けようとすることも含まれるとされている (Avelino & Sanchez 1996)。 Lardizabal (1976) によれば、 バヤニハンは伝統的には米の植え付けと収穫時における協力に 基づいているが、 現在では、 それに限られたものではなく、 パーティーなどの活動の時にもこの特性が 発揮され、 近所の人々や友人、 親戚が家の掃除と飾り付け、 料理、 水の運搬、 食卓の用意、 お客の相手 をするなどに協力する。 祝賀の時だけでなく、 病気や不幸の時も、 近隣全員が何らかの形で遺族を助け る。 料理を用意したり、 遺族のために小さな雑用を引き受けたり、 「アムバグ」 と呼ばれる経済的な支 援をしたりする。 この金銭の寄付は埋葬にかかる費用を支払うのに使用される。 このような近所の相互 扶助は日本の伝統的な慣習と共通する部分が多いと考えられる。 このような結束心や援助する気持ちは 介護支援者の特性として、 きわめて重要な特性で必須の特性ともいえるが、 比国人はこの特性を文化の 中で、 発達的に身につけており、 介護援助者としての適性がうかがえよう。 また、 日本の伝統的文化と の共通性は日本の老人介護者として、 受け入れられやすさを増大する要因と考えられ、 その意味でも適 性があるといえよう。
聞き取り調査の結果
比国では、 家屋を動かすことよくあるのです。 こんなことが可能とは外国の方は想像できないでしょ う。 しかし比国では先祖代々から実際に家屋を動かしており、 特に地方ではよく目にする光景です。
人は力を合わせて、 竹や丸太を使って、 それこそ文字通り家屋を移動、 または持ち上げます。 家屋は 非常に重いながらも、 バヤニハン特性のおかげで手助けするよう声をかけられた男性は手助けし、 ま た手助けを申し出る男性が集まるので、 家屋を容易に移動させることが出来ます。 この比国的な特性 からこのようなことまで達成できるとは驚きでしょう。
米の収穫期に米の収穫を手伝うことは、 バヤニハンの基本的形態であり、 今では雇われる人もいま すが、 村で収穫を手伝うと申し出る人もいます。 手伝いのお返しに米を詰めた米袋を渡されます。 こ うして米の収穫は円滑に、 迅速に行われ、 収穫を手伝った人々も利益を得ることができるのです。 伝 統的な場面として、 働いている人々を楽しませる為に誰かがギターを弾きます。 さらに村の創立を記 念し、 守護聖人に敬意を表する毎年恒例の祝祭もあるが、 こうした状況では祝祭の準備にも十分な注 意が払われ、 村人達は盛大な祭りとなるように活動の予定を立てるといいます。 村人達はたいてい周 囲の掃除をし、 通り沿いに万国旗や飾りをつける。 こうした行事はバヤニハンがあってこそ可能にな るのです。 それは人々の間の協力やチームワークから生まれ、 そうした協力は自発的に為されるので す。
8 ホスピタリティ
比国人のホスピタリティの特性とは、 比国人の自宅を訪れる来客、 特に見知らぬ人や外国人に対する 暖かい歓迎のことを指す (Carson-Arenas 2004)。
比国はパキキサマの頃で言及したように本来フレンドリーな国民であるが、 特に外国人には友好的で 訪問者には最高のもてなしをする。 この親切心が観光客に愛される理由の一つといえる。 このホスピタ
リティは、 外国人が比国に来たときのみではなく、 比国人が外国に行き、 支援や介護の仕事をしたとき にも当然発揮されることが予想できる。 この点からも比国人の社会的支援従事者への適正がうかがえる。
聞き取り調査
自分の家を宿として来客に提供し、 自分の持っている最上の食べ物やごちそうを出し、 来客や観光 客に暖かい笑顔と最高の便宜を提供します。 比国人は普段から外国人を高く評価する傾向があり、 こ のことからこの特性が比国人の特性となったとも考えられます。
9 ニンガス コゲン
ニンガス コゲンの特性は、 何かを始める時の意気込みはすごいものの、 しばらくするとその意気込 みもしぼむような状況つまり、 はじめの熱意の消失する傾向を示す。 初めは、 エネルギーと熱意は加速 し、 それが最高潮に達するが、 それ以上の興奮やチャレンジを仕事に見出せなくなると、 その仕事に対 する関心が急速にしぼみ、 情熱が冷めてしまうことを指す (Carson-Arenas 2004; Avelino & Sanchez 1996)。 熱しやすく、 また冷めやすいというのがニンガス コゲンという比国人の特性である。
聞き取り調査
人里離れた地域や地方のように小学校や中学校で教える教師の数が不足しているような場所におい てボランティアをしている教師にこの現象が時々見られるのです。 そうした地域で教える教師の給与 を十分にもらえないが自ら志願してその地域の教師になる人がいます。 最初はエネルギーも熱意も十 二分にあるものの、 勤務が長くなるにつれて多くの障害に遭うにつれて徐々に冷めてしまうのです。
この特性は新任の公務員の間に共通の病気となるケースがある。 公務をうまくこなしますが、 役職 に任命された役人の大多数はニンガス コゴンになる傾向があり、 任命されてすぐは行政やプロジェ クトの舞台において任務を全うするものの、 後になると仕事を先延ばしにする傾向があります。 中に はプロジェクトを未完成のまま放置する人もいます。
10 高齢者に対する敬意
Palispis (1995) は比国人の特性の一つとしてを、 権威者、 高齢者などに払われる敬意があるとして いる。
比国人は高齢者に最大限の敬意を表し、 高齢者には十分の尊敬と配慮が払われている。 これは高齢者 に対する深い愛情に基づいている。 老後の世話をすること自宅で世話をすることを当然であるとしてい る。 それが高齢者に対する敬意であるとしている。 この高齢者への敬老心は老人介護者にとって必須の 条件である。 この傾向が強いことだけでも比国人が日本の老人介護に適性をもっていることがうかがえ よう。
聞き取り調査
比国人が高齢者の手にキスをするのも敬意の表現の一つである。 子どもや孫は両親や祖父母の手にキ スをする。 比国人が自分よりも年長の方に話しかける時にも敬意を表しながら話します。 公共の交通機 関に乗っている時にもこの特性がみられます。 高齢者が公共の交通機関に乗っている場合、 彼らに席を 用意したり、 譲ったりします。 こうしたごく日常的な習慣だけでなく、 より深刻な事態の時に高齢者の 知恵を求めることこの特性がみられます。 ある対立や論争について民意が問われ、 重大な問題が起きた
場合には、 尊敬を集めている敬老者の知恵と知識が求められます。 これは敬老者を 「知恵の源」 とみな す昔からの配慮からです。
11 従順さ
Carson-Arenas (2004) によると服従心は比国人の特性の一つで、 権威者に挑むことを嫌い、 他者 からの命令や批判に疑問を呈することなく受け入れる特性を示す。 援助してもらう為にリーダーに頼っ ている人が多い比国では、 この特性が目立つ。 自分で判断する代わりに誰かに決断を下してもらうこと もしばしばあるとされている。
この比国的特性は権威者におとなしく従う傾向を言う。 最も顕著な例が政治指導者に対する忠誠であ る。 比国人はボスである政治指導者の全ての命令に従い、 ボスに服従する。 これは長い植民地時代の影 響とも農民が生存のために地主に頼る昔からの習慣から来ているともいわれている。 フィリピン人は自 分の命を失うことになっても、 自分のご主人を守るとまでいわれている。 この忠誠心は、 老人介護にプ ラスに働くといえる。 雇主である老人に忠実に働くことは老人が快適に日常生活を送る上にきわめて援 助的といえるからである。
12 マニャーナ
比国人は仕事や勉学を先延ばしをする傾向が強い。 楽しいことがあるとしなければいけない重要なこ とがあってもとりあえず横に置き、 目の前の楽しみを優先する。 これをマニャーナ癖という。 このため 当然、 会社や学校では遅刻や欠席が多くみられる。
Carson-Arenas (2004) はこの 「ただ単に先延ばしすることを意味する特性」 が比国人特有のもの なのか、 植民地時代から継承されて残ったものなのかについては議論の余地があるとしているが、 いず れにしろ、 現在の比国人は、 先延ばし癖をもっているとしている。
明日のことを考えずにその瞬間の快楽や息抜きを楽しむ傾向はこの特性の典型的な例といえる。 「比 国人は明日できることは明日せよ」 ということわざがある。 これは日本の 「今日できることは今日やれ」
と対照をなすことわざといえよう。
聞き取り調査
期限直前になって慌てて所得税還付申告をするのも、 この特性のマイナス面を表しています。 前もっ ていくらでも所得税還付申告をする時間はあったのにもかかわらず、 結局締め切りまで待ってようや く申告するのです。
学年末に 「未完了」 の成績を付けられる学生もいますが、 これも知的能力が劣っているからではな く、 このマニャーナ癖のせいなのです。 別のことをして、 学期末レポートを書くのを後回しにするの です。 レポートの質も先延ばしによって犠牲になってしまうこともあります。 学生は今できることで もたいていそれを横に置いてしまうのです。
13 フィエスタ グランデ
比国人はお祭り好きである。 祝祭はその町や地域の守護聖人に敬意を表して開かれている。
盛大な祝祭は比国文化の一部となっている。 例え危機や経済的な遅れの最中でも、 比国人はこのフィ
エスタ グランデのイベントの時には盛大に祝いとお祭り騒ぎが全てとなる。 また、 客には豪華な食事 を出し、 来客に特別な計らいをする。 フィエスタ グランデは統治国スペインから植民地フィリピンに 伝わった文化とされる。 しかし、 元々、 比国人に伝統的にお祭り好きの傾向があったのではないかとも 思える。 というのは隣国インドネシアをはじめ東南アジア各国は元来、 多くの祭りと舞踊の伝統をもっ ているからである。 ダバオのカダヤワン祭り、 セブのシヌログ祭り、 アクランのカリボで開かれるアティ アティハン祭りなどが三大祝宴である。 これらのイベントは豊かな文化や伝統を披露し、 訪問者を楽し ませるためにゲームなどの遊びをする。 しかもその間中、 訪問者と来客に豪華なご馳走を振舞う。 これ は非常に陽気なイベントで、 比国の国民性を表している。
聞き取り調査
比国人は乏しい収入でもフィエスタの間は豪華な食事を出す。 フィエスタの間美味しい食事を出す ことで余裕がある印象を与えたい為に、 高金利で借金までしてしまう人もいるという。
結 論
本論文は比国人のさまざまな性格特性を調べ、 比国人著者のさまざまに異なる視点に基づいた指摘を 総合し、 比国人の典型的特性を示すことを目的とした。 具体的には比国人の特性を研究している文献を 調べ、 文献中に取り上げられている特性の割合を調査し、 その頻度から、 比国人の典型的性格を検討す ることを目的としていた。 その結果、 次のような比国人の特性と価値観が典型的特性として抽出された。
文献で取り上げられた数の多い順にあげていくと以下の通りである。 1. パキキサマ−同じレベルや地 位にいる人に対する友好性、 親和性仲間意識を強くもつという特性がある。 2. ヒヤ−恥、 不名誉、 屈 辱感をもつ特性がある。 またある状況における臆病な気持ちを表わす。 3. ウタング ナ ルーブ−援 助を受けて人に対して強い内面の恩義をもつという特性がある。 また他者に対する人の感謝や義理と、
援助に対する返礼を期待する特性がある。 4. 親密な家族の絆−比国人は家族に感じる愛情や強く家族 の結束が強い。 5. バハラ ナ− 「何が起ころうとも精神」 で、 人が運命や運、 また自分では制御でき ない自然の力に任せる気持ちが強い。 6. アモル プロピオ−強い自尊心をもつ。 またはエゴイズムを 指すこともある。 7. バヤニハン−特定の目的を達成するために強いチーム精神や結束力をもつという 特性がある。 8. ホスピタリティ−比国人が来客や訪問者、 特に外国人に対して暖かい歓迎と特別な計 らいをする。 9. ニンガス コゴン−熱意消失。 スタート時の強い意気込みもすぐに消える特性がある。
10. 敬老−比国人は年長者に対する敬意は、 非常に強く高齢者に対して強い敬意を表す。 11. 従順さ−
権威者に対して素直な服従や従順さを示す。 12. マニャーナ癖−先延ばし癖で、 比国人は明日できるこ とは明日に持ち越す強い傾向がある。 13. フィエスタ グランデ−比国人はお祭り好き。 お祭りの盛大 な祝宴には盛大なご馳走が用意される。
さて、 ここに13の比国人の特性をあげたが、 もちろんこれらが比国人の全ての特性ではなく、 考慮す べき特性は他にもあるが、 ここに提示した特性は多くの文献で比国人の特性として取り上げているもの で、 代表的、 典型的比国人の特性であるといえる。 これらの特性から本研究で検討している比国人は介 護など、 社会的支援従事者として、 適性があるかという問題に対して、 きわめて適性があるという回答 が得られたといえよう。 このような心理的特性に加え、 英語が公用語である比国人は世界の多くの国か ら、 社会的支援者として、 歓迎されていることが裏付けているといえる。 この研究からも将来、 日本に
おいて、 海外からの介護などの社会的支援者を受け入れる場合、 比国人は歓迎するのにふさわしい国民 性をもっているといえる。 加えて、 本研究で明らかになったことは、 ヒアやウンガ ナ ローブのよう な日本人の伝統的特性ときわめて類似していると思われる特性を持っていることである。 それは特に日 本におけるこれから急務とされている老人介護の介護者としては比国人はきわめて望まれる特性を有し ているといえよう。 今後、 さらに、 介護など社会的支援者としての比国人の特性についての適性を研究 し、 日比両国の人的資源の国際相互依存性に役立つ知見を見い出していきたいと思っている。
(注:本研究はミンダナオ国際大学の協力を得ている。 日比ボランティア協会網代正孝会長に感謝す る。 また、 論文作成にあたり、 豊田ゆかり氏の御協力に感謝する。)
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