原 著 〔東女医大誌 第63巻 第3号頁270∼276平成5年3月〕
骨髄腫におけるp53遺伝子の解析
東京女子医科大学 血液内科学教室(主任:溝口秀昭教授) ヒ ダイ ヒロ コ日 台 裕 子
(受付 平成4年11月20日) Analysis of the p53 Gene in MyelomaHiroko HIDAl
Department of Hematolqgy(Dir㏄tor:Prof. Hideaki MIZOGUCHI) Tokyo Women’s Medical College Mutations of the p53 gene have been found in various human tumors including hematologic neoplasms. Alterations of the p53 gene are known to play a role in the development of human malignancies, but little is known regarding myeloma. We investigated mutations of exons 5−80f the p53 gene in 17 cases of myeloma, using polymerase chain reaction・single strand conformation polymorphism analysis. Mobility shifts were det㏄ted in one of the 17 cases and subsequent sequencing was pe㎡ormed. A novel one・base deletion resulting in a new stop codon was det㏄ted at codon 152 in the patient with plasma cell leukemia. This mutation was accompanied by loss of the wild type昂11ele. Cytogenetic analysis also showed monosomy 17 in this case. Moreover, these subtle mutation and chromosomal alteration were undetectable三n an early stage sample from the same patient. These results indicate that mutational inactivation of the p53 gene is rare but may be involved in the clonal evolution of myeloma in some cases. 緒 言 p53遺伝子は,当初, SV401arge T抗原と結合する53kDの蛋白質をコLドする遺伝子として同
定された1)2).ヒトにおけるp53遺伝子は17番染色 体短腕上17p13に位置し,11のエクソンからなり, そのコードする蛋白質は,細胞内でリン酸化を受 け,核内に局在してい為.p53遺伝子には進化の過程でよく保存された5つの領域(conserved
regions)があり,様・々な腫瘍でのp53遺伝子の変異の多くは,このうちの4つの領域に認められて
いる3)4),野生型p53遺伝子は細胞回転を調節する 遺伝子で,変異によるその正常機能の喪失が癌化 に関与する癌抑制遺伝子と見なされている3).近 年,restriction fragment length polymorphism (RF:LP)分析によってloss of heterozygosity (LOH)を検出することにより,悪性腫瘍における 特定の染色体の欠失が同定されるようになった.その結果,p53遺伝子の位置する17番染色体短腕
は,様々な悪性腫瘍においてその欠失が報告され ている.・さらに,大腸癌,乳癌,肺癌,脳腫瘍等 の固形腫瘍では17番染色体の一方に欠失があり,残存する相同染色体上のp53遺伝子の対立遺伝子
に点突然変異が認められている4)∼6)..これらの例 は,Knudsonが提唱したtwo mutation hypothe・ Sisに合致するものであり7),腫瘍形成に関してはp53遺伝子の変異型がhemizygosityあるいは
homozygosityとなる. 造血器腫瘍においては,慢性骨髄性白血病の急性転化時に,サザンプロット法で検出し得るp53
遺伝子の欠失や再構成が認められたのが最初であ る8).この異常は慢性期には殆ど検出されず,移行期から急性転化にかけて頻度が増すことから,
p53遺伝子の構造異常は慢性期から急性期への進
展に関与している可能性が示唆された.また,塩基配列の解析により,慢性骨髄性白血病以外の
様々な造血器腫瘍においても,p53遺伝子の点突
然変異が認められている9)∼14).変異の見られた例はLOHの有無に関わらず病期の進んだ症例に多
い傾向があり,p53遺伝子の変異が腫瘍の進展に
関与している可能性が考えられている.骨髄腫は,B細胞系の最も分化した細胞である
形質細胞の腫瘍性増殖と考えられている.骨髄腫 は,腫瘍細胞の広がり,増殖様式により,多発性 骨髄腫,びまん性骨髄腫,孤立性形質細胞腫,形 質細胞性白血病,髄外性形質細胞腫に分類されて いる.これまでの染色体分析の結果では,骨髄腫全体の20∼60%に染色体異常が認められている
が,骨髄腫に特徴的な染色体異常は同定されてい ない15}.比較的高頻度の異常としては,14q+が最も多く,他に1番染色体の様々な異常やt(11;
14)などが見られ,17番染色体については,5%
以下の例に17p十が認められている15>16).また,骨 髄腫では,病期の進展に伴って付加的染色体異常 が検出されることがあり,慢性骨髄性白血病で病期の進展に伴いPh1染色体以外の付加的染色体異
常が認められるのと類似している16>.現在,腫瘍の 発症,進展は一つの遺伝子異常のみで説明できる ものではなく,複数の癌遺伝子,あるいは癌抑制 遺伝子が関与する多段階発癌の機序が考えられて いる171.付加的染色体異常により,癌の発症ではな く,進展に関与する遺伝子の活性化や不活性化が 起こると推定される. これまでに報告されている骨髄腫の遺伝子異常 としては,腫瘍細胞における。一〃z夕6の再構成 や18)19),雁S群遺伝子の点突然変異が知られてい る20).今回我々は,骨髄腫の発症あるいは進展におけるp53遺伝子の関与を明らかにする目的で,骨
髄腫の症例および細胞株を用いてその変異を解析 した.微細な変異をも検出するため,polymerase chain reaction−single strand conformation p61ymorphism(PCR−SSCP)解析21)を行い,泳動 度に異常を認めた症例について塩基配列の解析を 行った. 表1 対象 検体 ヤ号 患者名 検査゙料 疾 患 名 病期 M蛋白 1 M.K,BM
多発性骨髄腫 IIIA IgGκ 2 T.H.BM
多発性骨髄腫 IIIA IgDλ 3 H.Y.BM
多発性骨髄腫u
u
4 G.D.BM
多発性骨髄腫 IIIB IgGκ 5 S,A.BM
多発性骨髄腫 HIA IgGκ 6 Y.K.BM
多発性骨髄腫 IIA IgGκ7 T。K.
BM
多発性骨髄腫u
u
8 H。0.BM
多発性骨髄腫 HIA BJPκ 9 A,K.BM
多発性骨髄腫 IIIA BJPκ 10 K,T.BM
多発性骨髄腫 IIIA IgGλ 11 H.0.BM
多発性骨髄腫IA
IgGλ 12 A.K.BM
多発性骨髄腫 IIIB BJPκ 13 Y.0.BM
多発性骨髄腫 IIIA IgAλ 14 Y.U.BM
多発性骨髄腫 IIA IgGπ15 H。Y. PB 形質細胞性白血病 IgGκ 16* T.0.
BM
形質細胞性白血病 BJPκ 17* T.0. PE 形質細胞性白血病胸水 BJPκ 18* T.0.CL
形質細胞性白血病細胞株 BJPκ 19 S.K.CL
多発性骨髄腫細胞株 IgGκ BM:骨髄細胞, PB:末梢血腫瘍細胞, PE l胸水中腫瘍細 胞,CL:株細胞, U:不明. 零:検体番号16,17,18は形質細胞性白血病の同一症例から得 られた.対象および方法
1.対象 多発性骨髄腫症例および形質細胞性白血病症例 から得られた骨髄,末梢血,胸水と,これらの患 者から樹立された細胞株の合計17症例,19検体を 対象とした(表1).Durieらの病期診断22)による と,多発性骨髄腫症例14例では病期1期が1例, II期が2例, III期が9例であり,2例については不明であった.増加しているM蛋白は,lgG型9
例,IgA型1例, IgD型1例, Bence Jones蛋白 (BJP)型4例であり,2例は不明であった.これらのうち検体番号1∼9,15,17は,骨髄
あるいは末梢血からフィコール・コンレイ比重遠 心法を用いて単核細胞を分離した.検体18と19は 細胞株であり,培養細胞を直接用いた.検体10∼14および16は,骨髄塗沫標本から直接高分子DNA
を抽出した23).また,対象とした検体については, 染色体分析を行った. 2.染色体分析 骨髄細胞,末梢血中の腫瘍細胞,および細胞株は,ウシ胎児血清を15%含むRPMI 1640中で1日 培養した後,約30個の分裂中期の細胞を写真に撮
り,10個をQバンド法によって核型分析を行っ
た.染色体の同.定についてはInternational Sys・ tem for Human Cytogenetic N omenclature24)に よった. 3.Polymerase chain reaction(PCR)単核細胞を,0.1M NaC1,50mM EDTA,1%
sodium dodecyl sulfate(SDS),200μg/ml
proteinase Kを含む溶液に混合し,37℃の恒温槽 に静置した.その後,フェノール,クロロホルムを用いて高分子DNAの抽出を行った.検体
10∼14と16の検体については,骨髄塗沫標本を用いて,GrUnewaldらによって報告された方法に
従って,DNAを抽出した23).オリゴヌクレオチド プライマーはCyclone TMPIus DNA synthesizer (MilliGen/Biosearch)を用いて合成した.今回使用したプライマーの名前と塩基配列は表2にまと
めた(表2).p53遺伝子には,進化の過程でよく保存された
領域(conserved regions)カミあり,それぞれコド ン13−19,コドン118−143,コドン172−182,コドン 237−259,コドン271−289の範囲である.これまで報告されている種々のヒトの腫瘍におけるp53遺
伝子の変異の多くは,このうちの4つの領域を含
むエクソン5−8に認められている3)4).今回の実験では,ゲノムDNAのp53遺伝子の3つの領域,す
なわちエクソンひ6(エクソン5,エクソン6およ びイントロン5を含む領域),ゴクソン7,エクソン8についてPCR・SSCP解析を行った.使用し
たプライマーはそれぞれプライマー5−5と6−3,プ 表2 プライマーの塩基配列 名称 5−5 5−3 6−5 6−3 7−5 7−3 8−5 8−3 塩基配列 5㌧GGAATTCCTCTTCCTGCAGTAC−3’ 5’・GGAATTCCAGCTGCTCACCATCGCTAT・3’ 5’・GGAATTCTGATTGCTCTTAGGTCTG・3’ 5’・GGAATTCAGTTGCAAACCAGACCTCAGG・3’ 5’・GGAATTCTCCTAGGTTGGCTCTGAC・3’ 5’一GGAATTCAAGTGGCTCCTGACCTGGA・3’5㌧GGAATTCCTATCCTGAGTAGTGGTAA・3’
5㌧GGAATTCCTGCTTGCTTACCTCG・3’ ライマー7−5と7−3,プライマー8−5と8−3である. エクソン5−6は,419塩基対,エクソン7は144塩基 対,エクソン8は176塩基対をそれぞれ増幅した. また,エクソン5−6については,一部の検体ではPCR−SSCP解析の結果の確認のために,それぞれ
エクソン5(プライマー575と5−3,221塩基対)と エクソン6(プライマー6−5と6−3,155塩基対)を 別個に増幅した. 今回用いたプライマーの5’末端にはE60RI siteを加えた.PCRは,0.1∼0.5μgのゲノムDNAを
用いて,1UのTaqポリメラーゼ(Perkin−Elmer
Cetus, Norwalk, Conn.)を含む反応液,30μ1で行った.DNAサーマルサイクラー
PJ2000(Perkin−Elmer Cetus, Norwalk, Conn.) .を用いて,94℃3分目熱変性を行った後,94℃60 秒,55℃30秒,72℃60秒の反応を30サイクル行っ た.4.PCR・SSCP解析
〔α一32P〕dCTP 1.5μ1(111TBq/mmol,370 MBq/ml, Amersham Japan, Tokyo)をPCR反応液に加えてPCR産物を標識し,そのうち約10
μ1を,0.1%SDS,20mM EDTA,0.05%bromo− phenol blue,0.05%xylene cyanolの混合液10μ1 で希釈した.次に,希釈した反応液の10μ1を,95%formamide,20mM EDTA,0.05%bromophenol
blue,0.05%xylene cyanolの混合液90μ1に混合した.これを94℃5分間熱変性した後氷冷し,そ
のうち1μ1を,90mM Tris−borateと2mM EDTA
を含んだ6%中性ポリアクリルアミドゲルに泳動
した.ポリアクリルアミドゲルは,10%glycero1を 含むものと含まないものとの2種類を使用した.1,000Vで2∼20時間の泳動の後,ゲルを乾燥
し,一80℃で1∼3日間X線フィルムに増感し
た.5.PCR産物のクローニング
前出のプライマーを用いて増幅したPCR産物
には,それぞれの5’末端にEoo RI siteが含まれて いる.これらのPCR産物を精製し, EooRIで反応 さ.せた後,PUC18プラスミドのEooRI siteに組み 込んだ.表3 染色体分析において異常を認めた例 検体番号 1 10 11 13 15 16 17 18 染色体分析の結果 42∼44,XX,一11,一17,一19,一22, t(1;13),11p−q一,14q+,十2∼4mar 46,XY/45, XY, t(11;14),一16, t(17;21)/4N∼polypoid ce11 46,XY/46, XY,一7,十t(7p;1q)/47∼49, XY,一6,一6,一13,一14,一15,一17,十11,十9∼12mar 43,XX,一1,一13, t(1;13),一14,一20 50,XY, de1(6)(q15;q25),十7,十9, dir ins(10;6)(q24;q15;q23),十11,十19 47∼49,8p一,8q+,14q+,十1∼4mar 2N range/4N range 2N range l 44∼47, XY,一4,一8,一12,一16,一17,十1p ,4p一,8q+,14q+ 4N range:79∼88, XXI) 4N range:73∼782) 1)2N rangeが倍加している. 2)4q+, t(1p;?)など検体17と同じマーカーを持つが,細胞ごとに異なる. 6.塩基配列の解析 塩基配列の解析は,dideoxy chain termination 法25)で行い,Sequenase Kit Version 2.0(United States Biochemical Corporation, Cleveland, Ohio)を用いた.塩基配列の結果の多様性は, PCR による増幅の過程で生じると考えられるため, 50∼100個のプラスミドクローンを混合して使用 した26). 結 果 1.染色体分析 染色体分析の結果,異常を認めた例を表3にま とめた(表3).多発性骨髄腫症例では,染色体分 析を行うことのできた11例中4例に染色体異常を 認め,その他に,形質細胞性白血病症例2丁目よ び細胞株1例に異常を認めた.
表に示すように,異常のあった各症例は,1番
染色体あるいは14番染色体のどちらかの異常を含 むものが多かった.p53遺伝子のある17番染色体 の異常については,多発性骨髄腫3例と形質細胞 性白血病症例およびその細胞株に認められたが, 慢性骨髄性白血病の急性転化時に認められるisO・ chromosome 17は認めなかった.形質細胞性白血 病の検体16,17と18は同一症例から得られた検体 で,検体16は病初期の骨髄中の細胞であり,検体 17は末期に出現した胸水中の腫瘍細胞である.ま た検体18は,T.0.例の胸水中の腫瘍細胞から樹立 された細胞株である.検体16では染色体異常が認められるものの,17番染色体の異常は見られな
かった.しかし,病期の進んだ時期の胸水細胞で は,8q十,14q十などの異常とともに17モノソミー が認められた.2.PCR・SSCP解析
17症例から得られた19検体においてPCR・
SSCP解析を行い,2検体に異常を認めた(図1). これらは染色体分析で記したように,同一の形質細胞性白血病症例から得られた検体17と18であ
る.図1に示すように,検体17(図1,レーン3),検体18(図1,レーン4)で,対照に比べて,同
12345
図1 骨髄腫におけるp53遺伝子のPCR・SSCP解析 エクソン5におけるPCR・SSCP解析,10%glycerol を含む中性ポリアクリルアミドゲルを用いて行っ た. レーン1:検体2,多発性骨髄腫,レーン2:検体 19,多発性骨髄腫細胞株,レーン3:検体17,形質 細胞性白血病(胸水中の腫瘍細胞),レーン4:検体 18,形質細胞性白血病細胞株,レーン5:検体1, 多発性骨髄腫.レーン3とレーン4に,同様に変移 したパソドが認められた.また,正常な泳動度を示 すバンドは見られなかった.じ泳動度の異常が認められる.一方,同症例の病 初期の骨髄細胞から得られた検体では,泳動度の 異常は見られなかった.また,検体17と18におい て,正常な泳動度を示すバンドは検出されなかっ た. 3.塩基配列の解析
PCR−SSCP解析の結果,泳動度の異常が見られ
た検体17と18について,dideoxy chain termina− tion法を用いて塩基配列の解析を行った. PCR産 物をクローニングし,鋳型として塩基配列の解析を行った場合には,PCRによる増幅の過程で
Taqポリメラーゼが誤って取り込んだ塩基によ
るアーチファクトと,実際にゲノムDNAにある
変異とを区別する必要がある.このため,通常各 検体について10個以上のクローンの塩基配列を比 較検討する必要がある.Moriらは,塩基配列の解 析におけるこのようなアーチファクトを避けるた めに,multi−clone sequenceを用いて解析してお り26),今回我々は,この方法を用いてクローニング を行った.また,塩基配列の相違は,以前に報告 繋晦 瓢
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な 図2 形質細胞性白血病の1症例における塩基配列の 経時的変化 左:検体16,病初期の腫瘍細胞で,プライマー5−5を 用いてp53遺伝子の塩基配列の解析を行った.野生 型の塩基配列のみを認め,変異は検出されなかった. 右:検体17,同症例の末期の胸水中の腫瘍細胞の塩 基配列.プライマー5−5を用いた解析の結果,コドン 152に1塩基Gの欠失が検出され,野生型の対立遺 伝子は認められなかった.されたp53遺伝子の塩基配列と比較して決定し
た27).この方法により,検体17と18両方について, 同一の1塩基の相違が検出された.すなわち検体17と18ともに,コドン152の1塩基Gの欠失が認
められ,そのためにコドン169に新たなストップコ ドンTGAが形成されていた.これに対して,同時 に行った検体16の解析では,野生型の塩基配列の みが認められた,また,multi・clone sequenceの 結果,野生型の対立遺伝子は欠失していた(図2). 考 察我々は今回,骨髄腫におけるp53遺伝子の変異
を明らかにする目的で,PCR−SSCPおよび塩基配 列の解析を行った.その結果PCR−SSCP解析で,形質細胞性白血病の1症例にp53遺伝子の変異を
検出し,塩基配列を解析することにより,対応す るエクソン内に1塩基の一失を同定した.コドン152に見られた1塩基Gの隅隅とそれによる
frame shiftは,これまでに他の腫瘍でも報告がなく,この変異部位はp53遺伝子のconserved
regionsの範囲には含まれない部分であった.し かし,その他の多発性骨髄腫の症例には変異は検 出されず,また,多発性骨髄腫から形質細胞性白 血病に進展した症例から得られた検体15にも,変 異は見られなかった.これらの結果から,骨髄腫 におけるp53遺伝子の変異は低頻度であり,腫瘍の発生に必要不可欠なものではないと考えられ
る. Preudhommeら28)は,多発性骨髄腫症例37症例中1例のみに異常を検出し,p53遺伝子の変異は
稀であると報告しており,著者らの結果とほぼ一 致する.しかし,今回の検索は,エクソン5−8の範 囲に限られるため,他の領域に変異が存在する可 能性があり,変異の頻度については確定できない. また,PCR−SSCP法では検出できない変異が存在 する可能性もあるが,我々は,PCR・SSCP法で異常を認めなかった3例について塩基配列を解析
し,変異を検出した例はなかった,また他の報告では,10例の骨髄腫細胞株の8例にp53遺伝子の
点突然変異を認めている29}.この報告では変異が 高率に認められるが,長期間吻瞬名。で培養され た細胞では,p53遺伝子の変異が新たに起こる可能性があり30),臨床検体による結果とは異なると 思われる. 今回の検索で,形質細胞性白血病の病初期に得 られた腫瘍細胞にはp53遺伝子の変異を認めず,、 病期の末期の細胞に異常が見られたことか.ら,腫
瘍の進展に伴い,p53遺伝子の変異が生じたと考
えられる.また,その胸水腫瘍細胞から樹立した細胞株には,元の胸水細胞と同一のp53遺伝子の
変異を認め,細胞株樹立前から同じ変異を持って いたと考えられる.胸水細胞の染色体分析の結果, 初期の骨髄形質細胞には認められなかった付加的 染色体異常の17番染色体のモノソミーが加わって いた。前述のように,慢性骨髄性白血病の急性転 化時には付加的染色体異常が認められ,20∼30%に新たなp53遺伝子の変異が検出されてい
る31)32).しかし,骨髄腫の進展に伴うp53遺伝子の 異常はこれまで知られておらず,本症例が最初の 報告である.すなわち,一部の症例ではあるが,骨髄腫においても漫性骨髄性白血病と同様に,
clonal evolut呈onの際にp53遺伝子が関与してい ると推定される.変異を検出した症例では,PCR−SSCP法におい
て正常な泳動度を示すバンドは認められなかっ
た.multi−clone sequenceを行った結果,検体17と18の両方に変異型p53遺伝子のみ認め,野生型
p53遺伝子の対立遺伝子を欠いており,染色体分
析において17モノソミーが検出された結果と相関 している.これは,p53遺伝子の両方の対立遺伝子 の不活化が骨髄腫の進展に関係していることを示 唆している.一方,前出の骨髄腫の細胞株に関する報告では,約半数の例にLOHが認められ,その
他の例においては野生型p53遺伝子も検出され
た29).そのうち2例においてRT−PCR法を用いて p53遺伝子の発現を検索しており,野生型,変異型 の両方の発現が同程度見られている.これらの変異は,Herskowitzが提唱したdominat negative
effect33)により,癌化に関与しているのかもしれな い.今回我々は検体を十分量得られず,p53遺伝子
の発現については検討を加えることができなかっ た.今後,変異p53遺伝子の発現も含めて,さらに 多症例での検討が望まれる. 結 論骨髄腫症例および細胞株においてp53遺伝子の
解析を行い,形質細胞性白血病の1症例にPCR−
SSCP法において泳動度の異なるバンドを認め
た.塩基配列の解析の結果,コドン152の1塩基の 欠失とframe shiftを認め,野生型のp53対立遺伝子は認められなかった.骨髄腫におけるp53遺伝
子の変異は低頻度と考えられるが,今回認められ た変異は病期の進行に伴って生じており,一部の骨髄腫の進展に関与している可能性が示唆され
た. 稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜りました 溝口秀昭教授,押味和夫教授,森 直樹助手に深謝い たします.染色体分析をお引受けいただきました至誠 会第二病院染色体研究室岡田美智子先生に感謝いた します.また,患者腫瘍細胞を提供して下さいました, 国立医療センター戸川 敦先生と,快く細胞株を提供 して下さいました寺村正尚助手に感謝いたします. 文 献 1)Hnzer DIH, Levine AJ: Characterization of a54K dalton cellular SV40 tumor antigen present in SV40−transformed cells and uninfect− ed embryonal carcinoma celis. Cell 17:43−52,1979
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