脳動脈瘤壁の菲薄部位と肥厚部位を特定する血行力
学パラメータに関する数値解析
著者
鈴木 大地
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第17672号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00121611
1 氏名(本籍地) 鈴木す ず き 大地だ い ち 学 位 の 種 類 博 士(医工学) 学 位 記 番 号 医工博 第 59号 学位授与年月日 平成29年 3月24日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 研 究 科 、 専 攻 東北大学大学院医工学研究科(博士課程)医工学専攻 学 位 論 文 題 目 脳動脈瘤の菲薄部位と肥厚部位を特定する血行力学パラメータに関する 数値解析 論 文 審 査 委 員 (主査)東北大学教 授 1早瀬 敏幸 東北大学教 授 2西條 芳文 東北大学教 授 3石川 拓司 東北大学准教授 4太田 信 東北大学准教授 4船本 健一
論
文 内 容 の 要 旨
第1章 序論 クモ膜下出血は発症すると死亡や重篤な後遺症を招く疾患であり,現代の医療をもってしても社会復 帰できる患者の割合は約3 割に留まる.近年,脳ドックの普及や,CT や MRI などの医療画像診断装 置の普及により,未破裂脳動脈瘤の発見が増加している.その結果,実際には人口の約 6%近くが脳 動脈瘤を有している可能性が示唆されている.クモ膜下出血の主な原因は脳動脈瘤の破裂である.脳 動脈瘤に対しては,クモ膜下出血の発症を予防する目的で,クリッピング手術や血管内治療などの積 極的な治療が勧められてきた.しかし,脳動脈瘤を有する患者でも未破裂のまま生涯を終えることが あり,脳動脈瘤がどのような原因で破裂し,クモ膜下出血を引き起こすのかについては未だ完全には 解明されていない. 脳動脈瘤の破裂は一般に血管壁面が菲薄した部位で起こるとされるが,脳動脈瘤の壁面性状について は実際に開頭手術を行うまでは観察することができない.脳動脈瘤の壁面性状を事前に予測すること ができれば,脳動脈瘤の治療や診断において非常に有益な情報になると考えられる. 本論文では,最初に脳動脈瘤の壁面性状の推定に有効な統一的パラメータを提案することを目的とし た.脳動脈瘤の好発部位の一つである前交通動脈(Anterior communicating artery: ACoA)に発症 した複数の脳動脈瘤について血管モデルを再構築して血流の CFD を行い,脳動脈瘤の上流側の曲が りや分岐などの複数の要素が上流内血管および瘤内の血流と血行力学パラメータに及ぼす流体力学的 影響について検討した.次に複数の脳動脈瘤について,数値解析を行って,血流動態や血行力学の情 報と臨床画像を比較し,従来用いられている血行力学パラメータについて脳動脈瘤壁面の菲薄部位や 肥厚部位における特徴的な血行力学パラメータを検討した.最後に脳動脈瘤の肥厚部位を特定できる 新たな血行力学パラメータを提案し,その有効性を検討した.2 第2 章 脳動脈瘤上流の分岐と曲がりが血流解析に与える影響 脳動脈瘤の上流部の曲がりや分岐などの複数の要素が上流部血管および瘤内の血流と血行力学パラメ ータに及ぼす流体力学的影響を明らかにすることを目的とした.脳動脈瘤の上流側に分岐,曲がり, 直管部を持つ血管内流れを計算対象とし,数値流体解析を行った.上流端の位置を,血管形状の分岐 前,分岐直後,曲がり直後,直管部後の脳動脈瘤直前に設定した複数のモデルで解析を行った.血管 内に含まれる分岐と曲がりが速度分布に与える影響を明らかにし,脳動脈瘤内の速度,WSS,OSI を含む CFD の結果に顕著な差を与えることを示した.さらに,分岐と曲がりの両方を考慮した本研 究結果は,曲がりよりも分岐がより大きい影響を与える可能性があることを示唆した. 第3 章 脳動脈瘤壁の菲薄部位と肥厚部位に特徴的な血行力学パラメータの考察 従来用いられてきた代表的な血行力学パラメータについて,脳動脈瘤の好発部位であるACoA に発症 した脳動脈瘤内の血流の CFD を行い,得られる血流動態や血行力学パラメータ分布と臨床画像を比 較し,脳動脈瘤壁面の菲薄部位や肥厚部位における特徴について調べた.その結果,菲薄部位では時 間平均壁せん断応力(TAWSS)が大きいのに対し,肥厚部位では TAWSS が小さく,かつ血液の滞 留を示すパラメータのRRT の値が大きい傾向が明らかとなった.すなわち,低い TAWSS と高い RRT により,菲薄部位や肥厚部位を推定できる可能性が示唆された. 第4 章 脳動脈瘤壁の肥厚部位を特定する血行力学パラメータに関する数値解析 脳動脈瘤壁の肥厚部位を特定する新たな血行力学パラメータを提案することを目的とした.従来用い られてきた,TAWSS,OSI,RRT などの血管壁近傍の流れの情報のみを利用したパラメータに対し て,より壁から離れた内部の血流の情報を含んだパラメータを検討した.動脈瘤の肥厚部位で大きな 値をとる RRT に対して,壁から離れた血流の情報を付加することにより,肥厚部位を正確に特定出 来るパラメータである SRRT を提案した.本章では,脳動脈瘤の好発部位の一つである前大脳動脈 (AcoA)に発症した脳動脈瘤について血流の数値解析(CFD)を行い,得られる血流動態や血行力学の 情報と臨床画像を比較して,提案したパラメータSRRT が脳動脈瘤壁面の肥厚部位を特定できるかに ついて検討した.肥厚部位ではRRT が高い値を示すが,肥厚部位以外でも RRT は高い値を示す場合 があるため,RRT は肥厚部位の特定の必要条件と考えられる.これに対して SRRT は,RRT が高い 部分のうちで,肥厚部位では負の高い値を示し,肥厚以外の部分では正の高い値を示すため,SRRT が負で高い値を示すことにより,肥厚の十分条件を与える可能性が示唆された.