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東南海・南海地震における浄水場 のリスクに関する一考察(その2) 中井

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(1)土木学会論文集A1(構造・地震工学), Vol. 66, No. 1(地震工学論文集第31巻), 310-316, 2010.. 東南海・南海地震における浄水場 のリスクに関する一考察(その2) 中井. 正人1・宮島. 昌克2. 1大阪市計画調整局交通政策担当(〒530-8201. 大阪市北区中之島一丁目3番20号) E-mail:nakai110424pico@nike.eonet.ne.jp 2金沢大学理工研究域環境デザイン学系教授 (〒920-1192 金沢市角間町) E-mail:miyajima@t.kanazawa-u.ac.jp. 東南海・南海地震発生時には,地震に伴う揺れと津波の発生が想定される.わが国の大都市では,水 道水源を河川に求めている例が多いが,地震に伴う津波の遡上により取水停止と取水停止に伴う浄水処 理の停止を余儀なくされる可能性がある.このことから筆者らは前報で,浄水処理停止による浄水処理 性能への影響を,溶存酸素やアンモニア態窒素を指標にして実験的に検証した.本稿では,前報に引き 続き東南海・南海地震における浄水場のリスクを評価するために,主要な浄水処理プロセスであるろ過 池,沈澱池を模型により再現し,振動台を用いて地震動が浄水処理機能に与える影響について実験的に 把握した.. Key Words:Wate Treatment Plant,Nankai-Tonankai Earthquake, Sand Filtration,Sedimentation Basin,Business Continuity Plan. この中でもとりわけ,浄水処理過程は製品となる清 浄な水を作り出す言わば水道事業の心臓部であり, 最も重要な業務として位置付けられることから,地 現在,わが国の水道事業はその普及率が97%に達 震時の水道事業継続を考慮する上で,地震が浄水処 し,地域社会を支える基幹的ライフラインとして, 理過程にもたらす影響について評価することは大変 極めて重要な役割を担っている.事故や災害等の危 重要であると言える.今後,発生が懸念されている 機事象によりそのサービスレベルが低下すると,被 災者への飲料水や生活用水の給水が滞ることにより, 東南海・南海地震については,地震の揺れはもとよ り,津波の発生と河川遡上が予想され,水道水源を 水不足による生命維持の危機や衛生環境の悪化によ 大河川下流域に求めている大都市などでは,津波の って感染症が蔓延する等の人的被害や企業活動への 遡上に伴って,取水停止と取水停止に伴う浄水処理 影響等,多様・多大な影響がもたらされることが想 停止を余儀なくされることが想定される.既往の調 定される.従って,地震等災害時においても,需要 査研究としては,大規模地震等に起因して,上下水 者への水の提供レベルを低下させない,許容される 道等の水循環システムの機能に重大な障害が発生し 期間内に提供レベルを復旧させるといった,事業の た場合に,発生が懸念される公衆衛生への影響につ 継続が必要である.このような社会背景の中,内閣 いて,国土交通省,厚生労働省が連携して設置した 府によって公表された,「事業継続ガイドライン第 「緊急時水循環機能障害リスク検討委員会」におい 一版‐我が国企業の減災と災害対応の向上のために ‐」では,各事業者の事業継続計画の策定において, て,直下型地震の発生により,上流側都市における 下水道施設が被災し,未処理下水が流下して,水道 起こりうる様々な危機事象に関して,事業内での重 施設の取水口に到達する際のリスクについて評価さ 要業務が停止した場合,事業へどのような影響がも れている2).また,東南海・南海地震等の巨大地震 たらされるかについて評価することが重要であると 1) が水道・下水道等の公衆衛生を担う施設に関する耐 している .わが国において大きく懸念される危機 震性については,土木学会の「巨大地震災害への対 事象は地震災害であり,水道事業における地震被害 応検討特別委員会」で耐震性評価及び耐震設計につ は必至であることから,事業継続計画を考慮する上 いて実施されている3).しかしながら,地震動や取 で地震の水道事業への影響度評価は重要である.水 水停止にともなう浄水処理機能自体の低下について 道事業は,河川から取り入れた水を浄化し,水質基 はこれまで言及されていない状況である.このよう 準に適合した水道水を製造する浄水処理過程と,浄 なことから,筆者らは浄水処理停止に伴う浄水処理 化した水を供給する給配水過程とに大別できるが,. 1.はじめに. 310.

(2) 調査研究や事例は,皆無に等しい.そこで,1995 年兵庫県南部地震時に,凝集沈殿処理プロセスおよ びろ過処理プロセスにおいて観測された,地震前後 での処理水の水質変化について紹介する.. 機能への影響について,溶存酸素やアンモニア態窒 素を指標として,実験的に検証した.東南海・南海 地震による影響を図示すると次のようになる. 東南海・南海地震. 図-1. 津波による影響. 取水停止による水質悪化. 表-1 地震動による影響 動水圧による影響. ろ層動揺による水質悪化. スロッシングによる影響. 水面動揺による水質悪化. 東南海・南海地震による浄水処理への影響. 地震による浄水処理プロセスへの被害事例 2). 地震名. 浄水処理に関する被害事例. 1978 年伊豆大島 近海地震 (1978/1/14). 土砂及びシアンを含む鉱さい約 8 万 m3 が取 水域に流出→取水停止(半年間処理停止). 千葉県東方沖地 震 1987/12/17). 凝集沈殿,急速ろ過施設の破壊,重油が取 水域へ流出→取水停止(30 時間処理停止). 兵庫県南部地震. 取水口の破壊による取水不能,浄水施設の. 本稿では,前報に引き続き,東南海・南海地震等 (1995/1/17) 伸縮目地破損による漏水,傾斜版,傾斜 津波を伴い,広域的な災害をもたらす海溝型地震の 管,ろ過池表洗管の破損→浄水機能停止 発生が切迫する中,地震動が浄水処理プロセス,と 新潟県中越地震 浄水施設の構造目地の損傷,周辺地盤崩壊に よる構造物の移動及び沈下→浄水機能停止 りわけ急速砂ろ過プロセスにもたらす影響について, (2004/10/23) 実験を実施し評価した. 表-2 水道事業における対策 2) 対策種別 (1)浄水処理システムにおける地震時リスク 対策 内容 a)地震に伴う津波の発生 フロー ストック 海溝型地震が発生した場合,津波に伴う海水の河 施設耐震化 ○ ○ 水源多様化・広域連携 ○ ○ 川遡上により,河川下流で取水を行なう浄水場では, 予防 配水容量増強 ○ 塩化物イオンやホウ素などの物質が流入するおそれ 2) 原水調整池整備 ○ がある . 取水量調整,取水停止 ○ b)浄水処理施設の被災に伴う施設の破損 応急 浄水処理の強化 ○ 地震によって浄水処理施設が破損した場合,地表 捨水強化・洗浄強化 ○ 復旧 水や土砂等が流入し,水質が汚染される可能性があ る.このような事態は水道水利用者の健康被害が懸 念されることから,処理停止等の対策が必要である. 2. 1995年兵庫県南部地震時における事例 c)周辺施設の被災に伴う廃水の流出 取水域周辺の下水処理場,工場,事業所,病院, (1)大阪市水道局柴島浄水場の概要 研究施設等が地震によって被災した場合,これらの 大阪市柴島浄水場は,淀川を水源とし一日約 118 廃水が取水域に流入する恐れがある. 万 m3 (大阪市全体給水量の約半分)の水を供給す このような地震時リスクに関する実際の被害事例 る我が国最大規模の浄水場である.図-2 に浄水処理 を表-1 に示す. フローを、表-3 に各プロセスの役割を示す. (2)リスクによる社会的影響と対策 地震によって浄水処理システム機能が低下する事 態が発生すると,浄水処理システムの機能低下に伴 う給水能力の低下により充分な水が確保できなくな り,地震被災者への充分な飲料水や生活用水の配給 が滞る他,消防活動用水の不足,被災疾・負傷患者 に対する医療活動だけでなく,人工透析等の通常必 要とされている医療活動の低下も懸念される.対策 としては,予防を中心とするストック機能の強化と 応急を中心とするフロー機能強化があげられ,表-2 のような内容が想定される.ここでは,施設耐震化 や水源の多様化は応急対策においても効果が高いこ とから,双方に該当している.. (2)凝集沈澱池における処理水への影響 図-3 は,凝集沈殿池において 1995 年兵庫県南部 地震発生時に測定された,凝集沈殿処理水濁度の変 化である.地震発生時刻である午前 5 時 46 分付近 の濁度が地震発生とともに急上昇しており,第 2 系 凝集沈殿では最大濁度 4.8 度,第 3 系で 5.0 度,第 4 系で 4.6 度に達している(表-4).これは,地震 動やそれに伴う水面動揺によって凝集沈澱池の中に 流れの変化がもたらされ,フロック(凝集剤の注入 により水道原水中に含まれる懸濁物質が荷電中和し, 互いに吸着し形成された粒子塊)の沈降阻害と堆積 スラッジ(フロックが集塊・沈降した沈殿物)の再 浮上等が発生したことによる濁度上昇が観測された ものと考えられる.また,時間に着目すると,濁度 に関する水質管理目標を超える状態が第 2 系沈殿池 においては約 11 時間,3,4 系沈殿池における処理水 の濁度は地震発生から約 2 時間継続したことがわか る.2 系沈澱池については,午前 8 時から 10 時に. (3)地震による浄水処理水への影響 これまで検討された地震時の浄水処理システムへ の機能低下は,地震による施設の破壊と水源水質の 汚染についての言及に留まり,地震動による浄水処 理システムの処理機能自体の低下について紹介した. 311.

(3) かけて,濁度が一旦低下したものの,他の系統の沈 澱池とは異なり再上昇している.これは,各沈澱池 の構造やスラッジ堆積量の相違等が想定されるが, 原因の究明については更なる解析が必要である.. 3.地震動が砂ろ過池の処理機能へ及ぼす影響 に関する実験. ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 粒状活性炭 ⑦ ⑧ 後オゾン 中オゾン 塩素接触池 凝集沈殿池 砂ろ過池 沈砂池 接触池 接触池 吸着池 4) 大阪市水道局における浄水処理プロセスの概要 4) ① 表-3 ② ③各浄水処理プロセスの役割 ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧. 取水塔・取水口. 図-2. 番号. 名称. ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧. 役割. 取水塔・取水口. 原水を取り入れる. 沈砂池. 砂やごみを除去. 凝集沈澱池. 凝集剤により懸濁成分を沈澱除去する. 中オゾン接触池. マンガンの酸化、有機物の分解. 砂ろ過池. マンガンの除去、微フロックの捕捉. 後オゾン接触池. かび臭分解、トリハロメタン前駆物質分解. 粒状活性炭吸着池. 後オゾンで分解した成分の吸着・除去等. 塩素接触池. アンモニアの分解、pH値の調整. 6.0. 管理目標. 2系 凝 集 沈 殿 池 3系 凝 集 沈 殿 池 4系 凝 集 沈 殿 池. 5.0. (2)実験装置 地震動が砂ろ過池の処理機能に与える影響を定量 的に把握するため,写真-1 のような砂ろ過池を模し た砂ろ過模型と模型を支持するフレームからなる実 験装置を作成した.砂ろ過模型については,ろ層内 に抑留している懸濁物資量を実際の施設と合わせる ため,実際池の砂層厚とあわせた.. 濁度(度). 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 0. 2. 4. 6. 8. 10. 12. 14. 16. 18. 20. 22. 【砂ろ過模型】 ●カラム径φ300mm ●砂層厚 60cm ●砂上水深 100cm ●有効径 0.55mm ●LV100m/日. 時刻(時). 図-3. (1)概説 地震による浄水処理システムへの影響は,浄水施 設の破壊や水源水質の汚染だけではなく,浄水処理 機能そのものへの影響があることがわかった.その ため,地震時の水道事業における早期の復旧および 事業の継続を考慮する上でこれらの影響を定量的に 把握することは重要である.浄水処理プロセスでも 特に,砂ろ過池における処理に関しては,濁質の量 的抑留機能,水質・水量の変動に対する緩衝機能, 水質基準や耐塩素性感染性微生物であるクリプトス ポリジウム対策に適合する処理機能と多くの重要な 機能を有し,全浄水処理システムの中枢を担ってい ると言えることから,地震による砂ろ過池の処理水 への影響評価は大変重要であると考えられる.そこ で本稿では,実際の砂ろ過池を模型で再現し振動実 験を行い,定量的な地震動の砂ろ過池の処理水への 影響を評価した.. 兵庫県南部地震時の凝集沈殿処理水濁度変化. 5). 表-4 各凝集沈殿処理水の最大濁度 凝集沈殿池 最大 濁度継続時間 濁度 (2 度以上) 第 2 系凝集沈殿池 4.8 度 11.0 時間 第 3 系凝集沈殿池 5.0 度 2.0 時間 第 4 系凝集沈殿池 4.6 度 2.0 時間 (3)砂ろ過池における処理水への影響 次に,砂ろ過池においては,午前 5 時 46 分以降, 濁度が急上昇し最大濁度が 2.0 にまで至っている. なお,ろ過処理水の濁度が 5 時 54 分から 5 時 58 分 にかけて 0 に低下した後,再上昇している.これは, ろ過処理水が完全混合の状態でなかったためではな いかと推測しているが,更なる解析が必要である.. 【振動台】 ●1500mm×1500mm ●最大加振力 50kN ●最大加速度 2G ●最大速度 100cm/s ●最大変位±20cm. 写真-1. 砂ろ過模型と振動台. 2.5. 濁 度(mg/L). 2 1.5 1 0.5 0 6:46. 6:42. 6:38. 6:34. 6:30. 6:26. 6:22. 6:18. 6:1 4. 6:1 0. 6:06. 6:02. 5:5 8. 5:5 4. 5:50. 5:46. 5:4 2. 5:38. 5:34. 5:30. 時刻. 図-4. 兵庫県南部地震時砂ろ過池処理水濁度変化 5). 312. (3)濁質を添加しない水道水による振動実験 地震動によるろ過処理水への影響を定量的に評価 するためには,ろ層洗浄後においてもなおろ層を構 成するろ材に付着・残留している懸濁物質が地震動 を受け, 剥離,溶出することによる処理水への影響 把握が必要である.そこで十分洗浄したろ層内に, 濁質を添加していない水道水(以降ブランク水と記 す)を充填し,振動台によって,振動数 0.5Hz,継 続時間 30 秒で,入力加速度 80gal,150gal の正弦波.

(4) 加振を行ない,その後ブランク水で通常ろ過をし, 振動後の濁度変化を観測する実験を行った.加速度 は,発生が懸念されている南海・東南海地震を視野 に,大阪市上町台地における強震動予測結果 6)が最 大 104.6gal であることを参考に最大 150gal まで設定 した.また,振動による影響を明確にするため,正 弦波とした.図-4 に結果を示す.ここでは,ブラン ク水の自然ろ過通水時の濁度変化と,振動を与えた 後のブランク水のろ過処理水の濁度変化を比較して い る . 振 動 後 の ブ ラ ン ク 水 に つ い て は , 80gal, 150gal 加振双方のケースにおいて,濁度の初期値が 高いことがわかる.これは,測定セル内に水が充填 される際に,濁度計が安定しないことによると推測 され,その後は濁度が 0.1 付近まで下がり安定して いる.ブランク水の自然ろ過通水の場合,濁度が概 ね 0.2 以下で推移し,振動後のブランク水の濁度も, 双方,概ね 0.2 以内で推移し続けていることがわか る.実験ろ層が 60cm であることを考えると,ろ層 内に滞留していた水が全て排出される時間は,ろ層 下 の ス ペ ー ス が 30cm で あ る た め , ろ 過 速 度 (100m/日≒0.116cm/秒)を考慮して約 1000 秒とな る.もし,ろ層内で懸濁物質の剥離が起こり,濁質 がろ過水と供に排出されると考えると,通水開始か ら 1000 秒間以内に顕著な濁度のピークが見られる と考えられるが,今回の実験でそのような傾向は見 られず 1000 秒を超えた段階で既にろ層滞留水は排 出し終えたと考えられる.従ってこの結果から,ろ 層を構成するろ材表面の懸濁物質による濁度への大 きな影響は無く,ろ層洗浄を十分に行なうことで同 一のろ層条件を再現できると考えられる.. は,正弦波,振動数 0.5Hz,継続時間 30 秒で,入 力する加速度は 20gal,80gal,150gal の 3 ケースを 行なった.各実験ケースにおける振動後のろ過処理 水の濁度変化を図-6 に示す.150gal,80gal で加振 した実験では,ろ過再開後濁度が上昇し,150gal 加 振では最大濁度が 8.8,80gal 加振では 4.8 にまで至 っている.これはろ層撹乱による懸濁物質の漏出に よるものであると考えられる.また,20gal 加振の 結果は他の 2 ケースと濁度上昇の程度が大きく違う ため顕著なピークは確認しにくいが,ろ過再開後濁 度が 0.2 度から 0.35 度まで上昇.このことから, 20gal 程度の地震動ではろ層撹乱が比較的小さく, 懸濁物質の剥離,漏出も比較的小さいと考えられる. また,図-7 の入力加速度と最大濁度の関係が示すよ うに,入力加速度が大きくなるに従いろ過処理水の 最大濁度が大きくなる傾向が見られる.理由として, 加速度増加に伴い,ろ層に作用する慣性力が増加し, ろ層の撹乱がより大きくなることが考えられる.慣 性力の増加により動水圧の増加が考えられるが,ろ 層内で測定した水圧の加振時の変化と濁度上昇の関 係を整理した.振動中に測定した水圧の静水圧から の最大変化を動水圧最大値として,入力加速度との 関係を整理した.砂ろ過模型の上部(上層)の結果 を図-8 に示す.入力加速度の増加に従い,ろ過模型 壁面に加わる動水圧が増加する傾向にある.また, 最大濁度と最大動水圧変化との関係を示すと図-9 の ようになり,最大動水圧変化が大きいほど最大濁度 も大きい.このことから,ろ層に加わる慣性力に加 え,動水圧の影響で,懸濁物質の剥離・漏出が大き くなり,最大濁度も大きくなる傾向と考えられる. 10. 自然通水 0.5Hz80gal加 振 後 0.5Hz150gal加 振 後. 0.4. 150gal加振. 8. 濁度(度) 濁度(度). 濁度(度). 0.5 0.3 0.2 0.1 0.0. 80gal加振 20gal加振. 6. 4. 2. 0. 1000. 2000. 3000. 4000 0. 時間(秒) 図-5. 0. 200. 400. 600. 800. 1000. 1200. 1400. 時間(s) 加振終了後からの経過時間(秒). ブランク水振動後の濁度変化. 図-6. 313. 10. 8. 最大濁度(度). 最大濁度(度). (4)入力地震動を変化させた実験 a) 濁質を添加した水道水による振動実験 水道水に人工的に濁質を添加(濁度 40 度)し, さらに凝集剤(硫酸アルミニウム:注入率 100mg/L)を添加したものを沈澱池に導入し,2時 間沈降させたのち,ろ過カラムに通し,1時間通水 後,処理を停止し,振動台で加振し,加振後通水し た濁度を測定した. b)入力加速度を変化させた実験 ろ過水濁度への地震動の影響を明らかにするため, ろ層模型に入力する加速度を変化させ,振動後の濁 度変化をそれぞれ比較する実験を行った.振動条件. 加振終了後の濁度の変化. 6. 4. 2. 0 0. 20. 40. 60. 80. 100. 120. 加 速 度 ( gal). 図-7. 140. 160. 180. 入力加速度(gal) 入力加速度と最大濁度の関係. 200.

(5) 最大動水圧(Pa) 図-9. 最大動水圧変化と最大濁度(上層). c)加振振動数を変化させた実験 地震動の振動数の変化が,ろ過水濁度上昇に与え る影響を明らかにするため,入力加速度 150gal,継 続時間 30 秒(正弦波)で,振動数を 0.5Hz,1.0Hz, 5.0Hz,10.0Hz,19.5Hz と変化させた.図-10 に各実 験ケースでの振動後のろ過処理水の濁度変化を示す. 全てのケースで,ろ過再開後,ろ過処理水の濁度上 昇が見られる.各ケースの最大濁度は,0.5Hz 加振 では 8.8,1.0Hz 加振では 2.5,5.0Hz 加振では 4.2, 10.0Hz 加振では 2.7,19.5Hz では 20.3 である.特に 19.5Hz 加振で卓越が見られた.理由として,19.5Hz はろ過模型全体の固有振動数であるため,振動台に よる加振でろ過模型全体が同調し,ろ層撹乱が他の ケースよりも大きくなったと考えられる.また濁度 は,約 1000 秒で安定した.これは,ろ層内での抑 留効果,すなわちろ過機能が発現したためと考えら れる.安定時の濁度は,1.0Hz,5.0Hz 加振で,ピー ク後の安定濁度がろ過開始の初期値を上回り,ろ層 撹乱により,ろ層内の間隙やろ過砂表面に吸着され ていた微細フロックの脱着によるろ過機能の低下が うかがえる.次に,振動数と最大濁度の関係から入 力振動数による濁度上昇への影響について考察する. 図-11 に振動数と最大濁度の関係を示す.明瞭な相 関は見出し難いが,砂ろ過模型の固有周期 19Hz 付 近で最大濁度が最大値となった. d)濁度上昇へ影響を及ぼす要因 これまでの実験を踏まえ,懸濁物質漏出に大きく 影響する要因について考察する.入力加速度の実験. 濁度(度). 入力加速度と最大動水圧変化(上層). 最大濁度(度). 図-8. 時間(秒) 図-10. 各振動数での濁度変化. 最大濁度(度). 最大動水圧(Pa). 入力加速度(gal). では,加速度の増加に伴って増加する慣性力に加え, 同様に増加する動水圧がろ過処理水への濁度上昇に 関係していることがわかった.そこで,まず全実験 ケースでろ層内の最大動水圧と最大濁度との関係を 見るため,ろ層中層で測定した動水圧の最大値を代 表値として最大濁度との関係を見ることにした.そ の結果を図-12 に示す.概ね最大動水圧が大きいほ ど最大濁度も大きい傾向が見られる.次に,振動中 の砂ろ過模型の最大相対変位量と最大濁度との関係 を整理する.砂ろ過模型上部で測定したろ過模型の 応答加速度波形から最大応答変位を算出し,振動台 の入力加速度波形から算出した入力変位を差し引き, 振動中の砂ろ過模型の最大相対変位を算出して各実 験ケースでの最大濁度との関係を考察した.図-13 に結果を示す.19.5Hz では,他のケースと比較し 特異的に濁度が高くなっており,模型の固有周期の 影響が考えられる.他は,概ね最大相対変位増加に 伴い最大濁度も大きくなる傾向が見られる.特に 0.5Hz,150gal では,相対変位 7.6cm に対して最大 濁度が 8.8 である.これは,ろ過模型に大きな変位 が与えられ,ろ層の変形が促され,それに伴うろ材 からの懸濁物質の剥離効果により,濁度漏出が顕著 になったと考えられる.実際池においても,構造物 の振動特性,変位特性を把握する必要がある.また, 振動中の変位が微量であれば,ろ層の動きが抑制さ れ懸濁物質の漏出が抑えられることも考察される.. 振動数(Hz) 図-11. 314. 加振振動数と最大濁度.

(6) 最大濁度(度). 最大動水圧(Pa) 全実験ケースの最大動水圧変化と最大濁度. 最大濁度(度). 図-12. 最大相対変位(cm) 図-13. 全実験ケースの最大相対変位と最大濁度. e)まとめ 入力加速度を考慮した実験では,加速度の増加に 伴い,ろ層に加わる慣性力及び水塊の移動による動 水圧が増加することにより,ろ材からの濁度溶出が 大きくなる傾向がある.20gal 加振ではろ過処理水 への影響はほとんどなかったが,80gal 加振ではろ 過機能低下傾向が見られた.また,振動数を考慮し た実験では,ろ過模型全体の固有振動数での加振で, 濁度が最大となった.また,1.0Hz,5.0Hz 加振では ろ過機能の低下を確認することができた.. る濁度も上昇すること,ろ層撹乱によるろ過機能の 低下の傾向が見られることが明らかとなった.砂ろ 過処理では,処理機能が損なわれた場合、捨水や洗 浄を実施し,処理機能を回復させている.今回の実 験によって明らかになったろ過池の処理機能への影 響を整理すると,実際の砂ろ過池処理プロセスでは 図-14 に示すような状況となると予想される.ろ層 撹乱をもたらさない加速度のレベルでは,フロー① に従い,処理水に影響は無いことから通常のろ過を 引き続き継続できる.しかし,ろ層撹乱をもたらす 加速度のレベルでは,②,③のフローに従うことに なる.ろ層撹乱によって処理水に濁度が漏出すると, 濁度が水質基準を満たすまで捨水を継続させる必要 がある.また,いくつかの実験ケースで見られた, ろ層が撹乱されることでろ層の処理機能が低下し水 質基準を満たせない状況が続く場合,フロー③のよ うに,ろ過処理水の捨水後,ろ層洗浄を行ない,さ らにろ層洗浄によって漏出する濁度が無くなるまで 再び捨水を継続しなければならない事態が発生する. 地震時のろ過処理再開を迅速に行なうためには,ど のような地震動レベルでどのような運用を各所で行 なうのかについてあらかじめ想定しておく必要があ ると言える.今回の検討では,地震動に応じて浄水 処理の停止,ろ層洗浄前の捨水,ろ層洗浄を行なう 必要があり,これらを考慮した地震時の運用案の策 定,人員配置,自動制御システムの導入等を行なっ ていく必要がある.さらには、ハード面の対策メニ ューとして,ろ層洗浄用設備の強化,洗浄用水の確 保・配水池の増強及びろ過スロースタートの整備等 を実施していく必要があると考えられる. 東南海・南海地震では津波と地震動という2つの 要素が浄水処理機能に影響を与えることが,前報と 今回の検証で判明した.今後,これらの成果を用い て東南海・南海地震における浄水処理の信頼度を分 析し,復旧戦略と事業継続計画立案に展開する予定 である. 地震動 加速度レベル ①. 20gal 以下. 4.事業継続計画の観点からの影響度評価の重要 性 砂ろ過池が地震動を受けると,ろ過機能に影響を 受けることがわかった.その程度は,水道水質基準 を超過しており,その後のろ過継続が困難となる状 況が予想される.事業継続計画を考慮した場合,地 震時であっても需要者への水供給レベルを低下させ ない必要があり,今回の実験で対象とした砂ろ過池 は,浄水処理システム全体の中枢であることから, ろ過処理水への影響が浄水処理システムにどう影響 するのかを考察し,早期の復旧に向けた対策を講じ ることは重要であると考える.実験では,砂ろ過処 理水の濁度漏出が安定する時間はろ層内の滞留水の 排出に一致すること,入力加速の増加に伴い漏出す. 小. 大. ろ過処理水への影響無. ろ過処理水への影響有. 処理継続. 処理停止 ②. 20gal を超える. ③. ろ過処理水捨水. ろ過処理水捨水. 処理再開. ろ層洗浄. 洗浄後捨水. 処理再開. 図-14. 315. 地震時のろ過池の処理機能への影響.

(7) 5.結論 (1)地震動による砂ろ過池の処理水への濁度漏出に よって,実際の砂ろ過施設においては,地震動に 応じて,汚染された処理水の捨水,ろ層洗浄,ろ 層洗浄後水質が安定するまでの捨水が必要となる ことが示唆された. (2)砂ろ過処理再開の迅速化への対策としては,浄 水機能の復帰力及び経済性を踏まえながら,ハー ド・ソフト両面で更に実験・検討を深めていく必 要がある. (3)さらには,他の浄水処理プロセス(沈澱,活性 炭処理等)の地震動に関する影響も引き続き検証 していく必要がある. (4)水道事業で事業継続計画を策定する際には,地 震動が浄水処理の各プロセスや,トータルの浄水 処理機能自体に与える影響(処理停止時間,処理 再開所要時間,処理性低下度合い等)を定量的に 把握する必要がある. 参考文献 1)中央防災会議,民間と市場の力を活かした防災力向上 に関する専門調査会企業評価・事業継続ワーキンググ ループ,内閣府防災担当:事業継続ガイドライン第一 版‐我が国企業の減災と災害対応の向上のために‐, pp.1-15,2005. 2)緊急時水循環機能障害リスク検討委員会:第 1 回緊急 時水循環機能障害リスク検討委員会資料 3-2,pp.9-15, 2005. 3)巨大地震災害への対応検討特別委員会耐震性評価及び 耐震設計検討部会:概要報告書,pp25-30,2006. 4)中井正人,宮島昌克:東南海・南海地震における浄水 場のリスクに関する一考察(その 1),土木学会地震 工学論文集,pp.623-632,2007. 5)大阪市水道局柴島浄水場運転日誌:1995.1.17 6)入倉孝次郎:巨大地震による長周期地震動とその対策, 緊急地震速報伝達システムの開発と地震災害の軽減に 関するシンポジウム,2005.. (原稿受理2010年7月23日). REPORT ON RISK OF SHUTDOWN OF WATER PURIFICATION PLANT CAUSED BY TOHNANKAI NANKAI EARTHQUARKE TSUNAMI SURGE (Part2) Masato Nakai,Masakatsu Miyajima Water supply system is one of the most important infrastructures as a key lifeline which supplies tap water for drinking and city activities. Even if incase of disaster, it has a important mission such as emergency water supply and supplying water for fire-fighting and medical use. On the other hand, there are several risks such as Tonankai-Nankai earthquakes. Restarting water treatment as soon as possible contributes to minimizing social influence of disaster. Such a situation is considered, we estimate the influence on water treatment by seismic motion, and discuss the recovery strategy from the view point of Business Continuity Plan.. 316.

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