PL
トポロジーの基礎
yamyamtopo
PLトポロジーとは、大雑把には、三角形分割できる空間である「多面体」と、多面体の
間のしかるべく良い性質をもった写像である「区分線型写像」の研究である。区分線型写 像のことは「PL写像 (Piecewise Linear map)」と呼ぶのが通例である。多面体とPL写
像のなす圏における同型であるところの「PL同相」により、多面体(ないし多面体とそ の部分多面体の組)を分類することが、PLトポロジーの目標であるということができる。 可微分多様体を可微分同相により分類することを目標とする微分トポロジーの導入部分 については、大学数学科のカリキュラムでも「多様体論」として取り入れられ、比較的、 学ぶための環境が整っている。PLトポロジーにおいても、PL多様体の概念が定義され、 とくに高次元多様体のPL 構造の存在問題・分類問題で極めて実り多い結果が得られた 1960年代はトポロジーの黄金期とも呼ばれた。 しかし、そのような重要な位置を占めるPLトポロジーを学ぶためのハードルは決して 低くない。PLトポロジーにはいくつかの成書があるが、どの本についても、「図を描いて みれば明らかにそうなっている」ことについては詳しく書かない傾向がある。たぶんどの 筆者にも、「図を描いても決して明らかではない」ような事実の証明に早く到達したいと いう気持ちがあったのだろう。 ただ、身近に専門家もおらず、定理の正しいことを納得しながら読みたいという読者に とっては、そのような本しかないことは辛いことかもしれない。本稿は、そのような事 情を考えて、どの定理にもできるだけ詳細な証明を与えることにした。そのため、かな りページ数は多くなってしまった。また、本稿は全体として、まさにPLトポロジーの基 礎であり、幾何的により興味深い内容を据えるための土台である。概要を手早く理解した いという読者や、その先のトピックを知りたい読者は、Rourke-Sanderson [2]の最初の部 分を合わせて読まれることをおすすめする。
目次
1 多面体とPL写像 4 1.0 凸集合とアフィン写像 . . . 4 1.1 多面体の定義と基本的な構成 . . . 5 1.2 PL写像 . . . 12 2 単体複体と単体写像 15 2.1 単体 . . . 16 2.2 胞体とその面 . . . 20 2.3 錐と放射投影 . . . 25 2.4 胞体複体とその細分 . . . 27 2.5 多面体と単体複体 . . . 31 2.6 PL写像と単体写像 . . . 34 2.7 多面体の貼り合わせと埋め込み . . . 37 3 PL多様体 42 3.1 PL多様体の定義 . . . 42 3.2 リンクのPL不変性 . . . 44 3.3 単体のリンク . . . 47 3.4 独立な多面体のジョイン . . . 48 3.5 PL多様体の三角形分割 . . . 52 3.6 座標変換を用いた定義 . . . 54 付録A アフィン写像の特徴づけについて 58 付録B PL多様体の境界について 59 基本的には、どの節もそれまでの節を前提に書かれているが、次の2点は例外である。 • §3.1「PL多様体の定義」は、§1.2「PL写像」の直後に読むことができる。 • §2.7「多面体の貼り合わせと埋め込み」の内容は、§3.6「座標変換を用いた定義」の みで使われる。したがって、§2.7は§3.6を読む直前まで後回しにしてもよい。基本的な記法
実数全体の集合を R で表し、I = [0, 1] = {t ∈ R | 0 ≦ t ≦ 1} とする。n ≧ 1 に 対して、n次元 Euclid 空間Rn はn 個の直積R × · · · × R として定義される。また、 In = [0, 1]n⊂ Rn とする。 後々の都合から、Rn 上の距離を次のような「ℓ ∞ 距離」により定義する。まず、x = (x1, . . . , xn)∈ Rn のノルム∥x∥を∥x∥ = supi|xi|で定め、距離をd(x, y) =∥x − y∥で 定める。a ∈ Rn およびε > 0に対して、 Nε(a) = {x ∈ Rn| d(x, a) ≦ ε} ˙ Nε(a) = {x ∈ Rn| d(x, a) = ε} とする。Nε(a) の定義式には < でなく ≦ が使われていることに注意する。さらに、 P ⊂ Rnとするとき、 Nε(a, P ) ={x ∈ P | d(x, a) ≦ ε} = P ∩ Nε(a) ˙ Nε(a, P ) ={x ∈ P | d(x, a) = ε} = P ∩ ˙Nε(a) と定義する。 位相空間Xの部分集合Aに対して、AのXにおける閉包(closure)、内部(interior) をそれぞれ ClXA, IntXA で表す。また、AのX における境界(frontier) ClXA\ IntXAを FrXA で表す。なお、多様体M の内部の意味でのInt M との混乱を防ぐため、上記の記号を Cl A, Int A, Fr Aのように略すことはしない。1
多面体と
PL
写像
1.0
凸集合とアフィン写像
PL トポロジーでは単体という凸図形の組み合わせとして図形を把握する。そのため凸 集合やアフィン写像の概念が常に使われるので、その基本的性質を整理しておく。 有限個の元x0, . . . , xk ∈ Rn(k ≧ 0)が与えられたとする。 ∑k i=0ti = 1を満たす実数 t0, . . . , tk を用いて ∑k i=0tixi と表されるRn の元をx0, . . . , xk のアフィン結合(affine combination)という。また、上の条件「∑ki=0ti = 1」を「 ∑k i=0ti = 1かつti ≧ 0」に 置き換えたものを、x0, . . . , xkの凸結合(convex combination)という。次の補題から 分かるように、3個以上の元のアフィン結合や凸結合は、2個の元のアフィン結合や凸結 合を反復したものになる。 補題 1.1. k≧ 1とし、x =∑ki=0tixiをx0, . . . , xk ∈ Rn のアフィン結合とする。このと き、あるi∈ {0, . . . , k}に対して、x0, . . . , xi−1, xi+1, . . . , xk のアフィン結合 ∑ j̸=isjxj およびu∈ Rが存在して、 x = (1− u)xi+ u ∑ j̸=i sjxj となる。「アフィン結合」をすべて「凸結合」に置き換えた場合、「u ∈ R」を「u∈ I」に 置き換えて、さらに「あるi」を「任意のi」に置き換えても同様のことが成り立つ。 証明. k ≧ 1, ∑ki=0ti = 1 であるから、ある i に対して、ti ̸= 1 である。このとき、 u = 1− ti, sj = tj/(1− ti) (j ̸= i)とおけばよい。凸結合の場合もこれと同様である が、ti = 1であることが許される。実際、このときはtj = 0 (j ̸= i)となるので、u = 0, sj = 1/k (j ̸= i)とおけばよい。 V ⊂ RnがRnのアフィン部分空間(affine subspace)であるとは、任意のx, y ∈ V およびt ∈ Rに対して(1− t)x + ty ∈ V が成り立つことをいう。補題1.1によって、ア フィン部分空間とはアフィン結合について閉じたRnの部分集合のことであると言っても よい。また、空でないアフィン部分空間V は、線型部分空間を平行移動したものにほか ならない。したがって、その線型部分空間の次元として、V の次元を定義することがで き、それをdim V で表す。また、dim∅ = −1とする。 点v0, . . . , vk ∈ Rnがアフィン独立(affinely independent)であるとは、 ∑k i=0ti = 0 を満たすt0, . . . , tk ∈ R に対して ∑k i=0tivi = 0ならばt0 =· · · = tk = 0となることを いう。これは、k 個のベクトルv1− v0, . . . , vk− v0が1次独立であることと同値である。 したがって、アフィン部分空間V ⊂ Rnの次元は、V が含むアフィン独立な元の最大個 数から1を引いたものに等しい。集合C ⊂ Rnが凸(convex)であるとは、任意のx, y ∈ Cとt∈ Iに対して(1− t)x + ty ∈ Cとなることをいう。補題1.1によって、凸集合とは凸結合について閉じたRnの部 分集合のことであると言ってもよい。 凸集合C ⊂ Rm, D⊂ Rnに対して、f : C → Dがアフィン写像(affine map)である とは、任意のx, x′ ∈ C およびt ∈ I に対してf ((1− t)x + tx′) = (1− t)f(x) + tf(x′) となることをいう。 命題 1.2. 凸集合C ⊂ Rm, D⊂ Rnと写像f : C → Dに対して、次は同値である。 (1) f はアフィン写像である。 (2) C の元の任意の凸結合∑ki=0tixiに対して、f ( ∑k i=0tixi) = ∑k i=0tif (xi)である。 (3) C の元のアフィン結合∑ki=0tixiに対して ∑k i=0tixi ∈ Cならば、f ( ∑k i=0tixi) = ∑k i=0tif (xi)である。 (4) ある線型写像f0: Rm → Rnとy0 ∈ Rnが存在して、f (x) = f0(x) + y0(x∈ C) である。 この命題の証明については、付録A「アフィン写像の特徴づけについて」を参照のこと。 アフィン写像 f : C → D が全単射であるとき、f : C → D はアフィン同型 (affine isomorphism) であるという。このとき、f−1: D→ C もアフィン写像である。
1.1
多面体の定義と基本的な構成
多面体はEuclid空間の部分集合で一定の局所構造をもつものとして定義されるが、そ れを述べるために、まずジョインの概念を導入する。 定義 1.3. A, B ⊂ Rnに対して、AとBのジョイン(join) ABを AB = A∪ B ∪ {(1 − t)a + tb | a ∈ A, b ∈ B, t ∈ I} で定義する。 上の定義で、A = ∅のときはAB = B であり、B =∅のときはAB = Aである。こ れらの例外を除けば、AB ={(1 − t)a + tb | t ∈ I, a ∈ A, b ∈ B}である。 なお、A = {a}であるときにはAB をaB とも書く。B = {b}のときのAbという表 記についても同様である。a, b∈ Rn かつa ̸= bのとき、abとはaとbを結ぶ線分のこと である。ジョインについては、交換法則AB = BAが成り立ち、和集合について分配的、 つまりA(B∪ C) = AB ∪ AC である。また、補題1.1 から確かめられるように結合法則 (AB)C = A(BC)が成り立つから、3個以上の有限個の集合のジョインA1A2· · · Ak を 考えることができる。ジョインの演算について空集合∅は単位元の役割を果たす。 例 1.4. 平面R2内でのジョインの例を考えよう。 (1) a = (0, 0)として、L = ({1} × I) ∪ (I × {1})とする。このとき、aL = I2である。(2) さらに、D ={(x, y) ∈ I2| x + y ≧ 1}とする。このときも、aD = I2である。 上の例1.4(1)において、ジョインI2 = aLの点は、aを除いて(1−t)a+tb (t ∈ I, b ∈ L) の形に一意的に表される。しかし、(2)においてはジョインI2 = aDのa以外の点を同 様の形に表す方法は一般には一意的ではない。 この(1)のような一意性をもつジョインは、PLトポロジーで非常に重要な役割をもつ。 定義 1.5. a ∈ Rn, B ⊂ Rn とする。ジョイン aB がa を頂点とし B を底とする錐 (cone) であるとは、a /∈ Bであって、かつ、任意のx∈ aB \ {a}に対してt∈ (0, 1]と b∈ B の組(t, b)が一意的に存在して、 x = (1− t)a + tb となることをいう。 上の条件が成り立つとき、簡単に「aBは錐である」という場合がある。これはあくま で簡略な表現である。実際、例1.4から分かるように、aB という集合だけでなく、a と Bが与えられないと錐になっているかは判断できない。「aBは錐である」とは、集合aB の性質ではなく、点aと集合Bとの関係である。 線分 abに対して、abから端点を除いた集合ab\ {a, b}をその線分の内部(interior)
といい、(ab)˚で表す。(ab)˚の点をabの内点(interior point)という。
次の3つの命題は簡単に証明できる。 命題 1.6. a∈ Rn, B⊂ Rn, a /∈ Bであるとき、次は同値である。 (1) aB は錐である。 (2) 任意の異なるb, b′ ∈ Bに対して、ab∩ ab′ ={a}である。 (3) 任意の異なるb, b′ ∈ Bに対して、(ab)˚∩ (ab′)˚=∅である。 (4) 任意のb∈ Bに対して、(ab)˚∩ B = ∅である。 命題 1.7. aBが錐であるとき、次が成り立つ。 (1) 任意のB′ ⊂ Bに対して、aB′ は錐である。 (2) 任意のB′, B′′ ⊂ Bに対して、a(B′∩ B′′) = aB′∩ aB′′, a(B′∪ B′′) = aB′∪ aB′′ である。 命題 1.8. a∈ Rn, (Bλ)λ∈Λ をRn の部分集合族とし、各λ ∈ Λに対してaBλは錐であ るとする。このとき、任意のλ, µ ∈ Λに対してaBλ∩ aBµ ⊂ a(Bλ∩ Bµ)が成立するな らば、a(∪λ∈ΛBλ) は錐である。 さて、錐の概念を用いて、多面体の定義を与えよう。 定義 1.9. P ⊂ Rn が多面体(polyhedron)であるとは、任意のa ∈ Aに対して、コン パクト集合L⊂ P が存在して、N = aLが錐であり、かつaのP における近傍をなすこ
とをいう。 上でのN をaのP における錐近傍、あるいはスター(star)という。コンパクト集合 L はaのP におけるリンク(link)と呼ばれる。錐近傍はコンパクト集合となるので、多 面体は局所コンパクトである。多面体P の部分集合Qがそれ自身多面体であるとき、Q をP の部分多面体(subpolyhedron)であるという。 後に見るように、多面体は三角形分割をもつRn の部分集合と結果的に同じものになる (定理2.52)。しかし、PLトポロジーの研究対象が個別の三角形分割にはよらないもので あるという点を強調する意味で、この定義を採用した。 例 1.10. I = [0, 1]⊂ Rは多面体である。一般に、Rの連結部分集合は、すべて多面体で ある。とくに、R+ ={x ∈ R | x ≧ 0}は多面体である。 例1.11. Rnは多面体である。実際、a = (a1, . . . , an)∈ Rnとすると、N1(a) = a ˙N1(a) = ∏n i=1[ai− 1, ai+ 1] はaのR n における錐近傍である。もちろん、任意のε > 0 に対し てNε(a) = a ˙Nε(a)は錐近傍である。 例 1.12. (1) 円周{(x, y) ∈ R2| x2+ y2 = 1}は多面体ではない。 (2) 開円板D ={(x, y) ∈ R2| x2+ y2 < 1}は多面体であるが、D∪ {(1, 0)}は局所コ ンパクトではないから、多面体ではない。 多面体P におけるaの錐近傍N = aLにおいて、N \ Lは必ずしもP の開集合ではな い。たとえば、P ={(x, y) ∈ R2| xy = 0}という「十字」は多面体であり、a = (1, 0)∈ P に対してL = {−2, 2} × {0}は錐近傍N = aLを与えるが、N \ L = (−2, 2) × {0} はP の開集合ではない。しかし、次の命題から、常にN \ Lが開集合となるように錐近傍aL を取り直すことができる。さらに、その錐近傍は距離についてのε閉近傍の形に取れる。 正確には、次のことが成り立つ。 命題 1.13. P ⊂ Rn を多面体とし、a ∈ P とする。このとき、N = N ε(a, P ), L = ˙ Nε(a, P )とおけば、十分小さいε > 0に対して次が成り立つ。 (1) N = aLとなり、これは錐であってaの錐近傍を与える。 (2) N \ LはP の開集合である。 証明. 平行移動により、a = 0であるとしてよい。P は多面体なので、0はP において錐 近傍N0 = 0L0をもち、L0 はコンパクトである。N0は0のP における近傍であるから、 ε > 0を十分小さく取ると、N = Nε(0, P )⊂ N0\ L0 となる。L = ˙Nε(0, P )に対して、 0Lは錐である(例1.11と命題1.7(1)を参照)。また、N \ Lは明らかにP の開集合であ る。あとは、N = 0Lを証明すればよい。 x ∈ N とする。N ⊂ N0 = 0L0 であるから、あるt ∈ I, b ∈ L0 に対して x = tb である。ε > 0 の取り方から、∥b∥ > ε である。そこで、y = ε∥b∥−1b とおけば、 y ∈ 0b ⊂ 0L0 = N0 ⊂ P かつ∥y∥ = εであるから、y ∈ ˙Nε(0, P ) = Lである。さらに、
xはyの定数倍であり、∥x∥ ≦ ε = ∥y∥ であるから、x ∈ 0y ⊂ 0Lである。 逆に、x ∈ 0L とすると、ある y ∈ L とt ∈ I に対してx = ty である。すると、 y ∈ L ⊂ N ⊂ N0 であるから、ある b ∈ L0, s ∈ I に対してy = sb である。よって、 x = tsb ∈ 0L0 = N0 ⊂ P である。一方、x ∈ 0L により ∥x∥ ≦ ε も成り立つから、 x∈ Nε(0, P ) = N である。 上の命題1.13は、錐近傍をいくらでも小さく取れることを含んでいる。また、条件(2) を満たすようにaの錐近傍N を取っておけば、U = N \ L はaのP における開近傍で あり、P \ Lは互いに交わりのない開集合U, P \ N の和集合に表される。いわば、P は Lによってaを含む側U とそうでない側P \ N に「切り分けられる」。 多面体の例を体系的に構成するには、次の命題が有効である。 命題 1.14. 錐の直積は錐となる。すなわち、Ci = aiBi ⊂ Rni(i = 1, 2)がそれぞれ錐で あるとき、a = (a1, a2)∈ Rn1+n2, B = (B1× C2)∪ (C1× B2)⊂ Rn1+n2 とおけばaB は錐であって、aB = C1× C2 が成り立つ。 この命題の証明のために記法を導入する。aB が錐でB ̸= ∅のとき、 aB→ ={(1 − t)a + tb | t ≧ 0, b ∈ B} とする。命題1.6(4)から分かるように、aB→\ {a}の元は(1− t)a + tb, t > 0, b ∈ Bの 形に一意的に表すことができる。 命題1.14の証明. 平行移動により、a = 0であるとしてよい。B1 =∅またはB2 =∅で あるときは易しいので、B1, B2 ̸= ∅ であるとする。写像 f : 0B1→× 0B2→ → R+ を f (t1b1, t2b2) = max{t1, t2} (ti ≧ 0, bi ∈ Bi) により定義すると、f−1(0) = {0}, f−1(1) = B, f−1(I) = C1× C2 である。また、任意のx ∈ 0B1→× 0B2→ とα ≧ 0 に 対して、αx∈ 0B1→× 0B2→ であって、 f (αx) = αf (x) が成り立つ。 f の以上の性質を用いて、0B = C1×C2であることを示そう。まず、Ci = 0Bi ⊂ 0Bi→ により、0B ⊂ 0(C1 × C2) = C1 × C2 である。次に、C1 × C2 ⊂ 0B をみるため、 x∈ C1× C2(⊂ 0B1→× 0B2→)とする。x = 0ならば、もちろんx∈ 0Bである。x̸= 0 のときは、0 < f (x)≦ 1だから、α = f (x)−1とおくとf (αx) = αf (x) = 1であり、よっ てαx ∈ B であるから、α−1 = f (x) ∈ I によりx = α−1(αx) ∈ 0B である。以上によ り、0B = C1× C2である。 最後に、0Bが錐であることをみるため、命題1.6(4)の条件が確かめよう。この条件が もし成り立たなければ、あるb∈ Bに対して(0b)◦∩ B ̸= ∅ であるから、ある0 < t < 1
に対してtb ∈ Bである。しかし、このとき f (tb) = tf (b) = t· 1 = t < 1となるから、 tb /∈ f−1(1) = B となり矛盾する。 Rn の部分集合族(A λ)λ∈Λ が局所有限であるとは、任意のx ∈ ∪ λ∈ΛAλに対して、x のRnにおける開近傍U が存在してU ∩ A λ ̸= ∅となるλが有限個に限ることをいう*1。 命題 1.15. 多面体について、次のことが成り立つ。 (1) P が多面体であるとき、P の任意の開集合は多面体である。 (2) P1, P2 ⊂ Rnが多面体であるとき、P1∩ P2は多面体である。 (3) P ⊂ Rn, Q⊂ Rmが多面体であるとき、P × Q ⊂ Rn+mは多面体である。 (4) (Pλ)λ∈Λ がRn内の多面体の局所有限な族であり、各λ に対してPλはRnの閉集 合であるとする。このとき、和集合P =∪λ∈ΛPλは多面体である。 (5) f : Rm → Rnがアフィン写像、P ⊂ Rnが多面体であるとき、f−1(P )は多面体で ある。とくに、Rmのアフィン部分空間は多面体である。 命題1.15の証明. (1) 命題1.13により、多面体の各点において、いくらでも小さい錐近 傍を取れることから分かる。 (2) a ∈ P1 ∩ P2 とする。ε > 0を十分小さく取り、i = 1, 2に対してNε(a, Pi) = aLi がa の Pi における錐近傍をなすようにする。ただし、Li = ˙Nε(a, Pi) とする。さて、 Nε(a) = a ˙Nε(a)は錐であり、L1, L2 ⊂ ˙Nε(a)であるから、命題1.7により、a(L1∩ L2)
は錐であってa(L1∩ L2) = aL1∩ aL2 = Nε(a, P1)∩ Nε(a, P2) = Nε(a, P1∩ P2)であ
る。よって、aはP1∩ P2 において錐近傍a(L1∩ L2)をもつ。 (3) これは命題1.14から分かる。 (4) a ∈ P =∪λ∈ΛPλとする。局所有限性により、a∈ Pλとなるλは有限個しかない ので、それらをλ1, . . . , λmとする。さらに、Pλがそれぞれ閉集合であることも考慮する と、Pλi(i = 1, . . . , m)に関して同時に命題1.13の条件を満たすε > 0 を十分小さく取 り、λ /∈ {λ1, . . . , λm}ならばNε(a)∩ Pλ =∅となるようにできる。
P′ =∪mi=1Pλi とおく。このとき、Nε(a) = a ˙Nε(a)が錐であることと命題1.7により、
a ˙Nε(a, P′)も錐であって、さらに、 a ˙Nε(a, P′) = m ∪ i=1 a ˙Nε(a, Pλi) = m ∪ i=1 Nε(a, Pλi) = Nε(a, P ′) = N ε(a, P ) となる。よって、aはP において錐近傍をもつ。 (5) RmやRn の自己アフィン同型を合成することで、f は f (x1, . . . , xm) = (x1, . . . , xr, 0, . . . , 0)∈ Rn *1本稿での局所有限性の定義では、x∈ Rn\∪λ∈ΛAλの場合にU∩ Aλ ̸= ∅となるλが有限個となるよ うなxの近傍U の存在は仮定していないので注意する。
という形であるとしてよい。このとき、Rr = Rr × {0} ⊂ Rn とみなせば f−1(P ) = (P ∩ Rr)× Rm−r となるので、(2), (3)と例1.11によりf−1(P )は多面体である。 上の命題を踏まえて、さらに多面体の基本的な例を挙げる。 例1.16. (1)例1.10と命題1.15(3)により、上半空間Rn + ={(x1, . . . , xn)∈ Rn| xn ≧ 0} は多面体である。 (2) 同様に、直方体∏ni=1[ai, bi]⊂ Rnは多面体である。とくに、a = (a1, . . . , an)を中 心とする立方体 Nr(a) = n ∏ i=1 [ai− r, ai+ r] は多面体である。上の式の右辺において、直積因子[ai− r, ai+ r] のうちのいくつかを {ai− r}または{ai+ r} に置き換えて得られる集合、および空集合を立方体Nr(a)の面 (face)という。立方体の面は3n+ 1個あり、それぞれ多面体である。また、2n 個の点 (a1± r, . . . , an± r)をそれぞれNr(a)の頂点(vertex)という。
(3) ˙Nr(a) ={x ∈ Rn| d(x, a) = r}は多面体である。実際、N˙r(a) はNr(a)の面の有
限和として表すことができるので、命題1.15(4)により多面体となる。 (4)命題1.13では、多面体Pの点aに対してε > 0を十分小さく取ると、L = ˙Nε(a, P ) をリンクとする錐近傍N = Nε(a, P ) = aL が得られることを示した。上の(2), (3)と命 題1.15(2)により、ここでのL, N はともに多面体である。 注意 1.17. 命題 1.13 と例 1.16(4) により、多面体 P における点 a における錐近傍 N = aLは、いつでも次のような条件を満たすように取れる。 • N \ LはP の開集合である。 • N, Lは多面体である。 さらに、そのような錐近傍をいくらでも小さく取ることができる。以下では、多面体の点 の錐近傍は断りがなくても上の条件を満たすように取ることにする。 ここで錐の概念の一般化を述べておこう。 定義 1.18. A, B⊂ Rnが独立(independent)*2であるとは、A∩ B = ∅であって、条件 a, a′ ∈ A, b, b′ ∈ B, (ab)˚∩ (a′b′)˚̸= ∅ =⇒ a = a′, b = b′ を満たすことをいう。 命題1.6(3)によれば、Aが1点aからなるとき、{a}, B が独立であるとはaBが錐で あることにほかならない。なお、定義により、A, B の少なくとも一方が空集合であると き、A, Bは独立である。 *2joinableという用語を使う文献も多い。
例 1.19. (1) R3 の部分集合 A = [−1, 1] × {0} × {0}, B = {0} × [−1, 1] × {1} は独立である。 (2) より一般的に、任意のS ⊂ Rm, T ⊂ Rnに対して、Rm× Rn× Rの部分集合 A = S × {0} × {0}, B = {0} × T × {1} は独立である。 注意 1.20. (1) A, B ⊂ Rn(A∩ B = ∅とは仮定しない)が独立であることは、次の条件 と同値であることが簡単に確かめられる:任意のx∈ AB は、x = (1− t)a + tb, a ∈ A, b∈ B, t ∈ I の形に、次の意味で一意的に表される。 x = (1− ti)ai+ tibi, ai ∈ A, bi ∈ B, ti ∈ I (i = 1, 2)ならば、t1 = t2 が成り立 つ。さらに、0 < t1 < 1であるときは、a1 = a2, b1 = b2 である。 (2) A, B が独立であり、A′ ⊂ A, B′ ⊂ Bであるならば、A′, B′ も独立である。 (3) A, B が独立であるとき、任意のA1, A2 ⊂ A, B1, B2 ⊂ Bに対して (A1B1)∩ (A2B2) = (A1∩ A2)(B1∩ B2) である。 (4) 錐についての命題 1.8 の自然な一般化として、次が成り立つ。Rn の部分集合族 (Aλ)λ∈Λ, (Bµ)µ∈M が与えられ、各λ, µに対して Aλ, Bµ は独立であると仮定する。も し、さらに、各λ1, λ2, µ1, µ2 に対して(Aλ1Bµ1)(Aλ2Bµ2) = (Aλ1 ∩ Aλ2)(Bµ1 ∩ Bµ2) であるならば、∪λ∈ΛAλ, ∪ µ∈M Bµは独立である。 さて、独立性について次のことが成り立つ。 補題 1.21. A, B, C ⊂ Rn に対して、A, B が独立であり、AB, C が独立であるならば、 A, BCは独立である。 証明. A, B, C のどれも空集合でないとしてよい。A∩ BC = ∅であることをまず確認 しよう。仮定より、A, B, C はどの 2 つも交わらないから、もし A∩ BC ̸= ∅ であっ たとすれば、a ∈ A, b ∈ B, c ∈ C が存在して a は線分 bc の内点となる。すると、
(ac)˚∩ (bc)˚= (ac)˚̸= ∅ となり、AB, Cの独立性に反する。
次に、ai ∈ A, zi ∈ BC (i = 1, 2)に対して(a1z1)˚∩ (a2z2)˚̸= ∅であるとすると、ある
0 < ti < 1 (i = 1, 2)に対して(1− t1)a1+ t1z1 = (1− t2)a2+ t2z2 である。このとき、
a1 = a2, z1 = z2 を示せばよい。
である。以上とtisi ≦ ti < 1により、 (1− t1s1) ( 1− t1 1− t1s1 a1+ t1− t1s1 1− t1s1 b1 ) + t1s1c1 =(1− t2s2) ( 1− t2 1− t2s2 a2+ t2− t2s2 1− t2s2 b2 ) + t2s2c2 である。AB, C は独立だから、注意1.20(1)より、t1s1 = t2s2 である。 もし、t1s1 = t2s2 = u > 0であれば、0 < u < 1であるから、ABとCの独立性から、 c1 = c2 および 1− t1 1− ua1+ t1− u 1− ub1 = 1− t2 1− ua2+ t2− u 1− u b2 が成り立つ。よって、今度は A, B の独立性を使えば、1−t1 1−u = 1−t2 1−u から t1 = t2 を得
て、s1 = u/t1 = u/t2 = s2 が分かる。s1 = s2 < 1のときは、0 < 11−t−u1 < 1である
から、a1 = a2, b1 = b2 であり、したがってz1 = z2 である。また、s1 = s2 = 1のと きは、上の式でb1, b2 の係数が0 となるので、t1 = t2 を考慮すると a1 = a2 であり、 z1 = c1 = c2 = z2である。 次に、t1s1 = t2s2 = 0であるとする。このときは、ti > 0 (i = 1, 2)によりs1 = s2 = 0 であり、よって zi = bi(i = 1, 2)および(1− t1)a1 + t1b1 = (1− t2)a2+ t2b2 が成り 立つ。0 < ti < 1だから、A, B の独立性によりa1 = a2, b1 = b2 である。したがって、 z1 = z2 である。 命題 1.22. P がコンパクト多面体であるとき、錐Q = aP は多面体である。 証明. P はコンパクトであるから、aのQにおける錐近傍としてはQ自身が取れる。そこ で、x0 ∈ Q \ {a}とする。このとき、x0 = (1− t0)a + t0b0となるt0 ∈ (0, 1], b0 ∈ P が一 意的に存在する。b0のP における錐近傍N0 = b0L0 を一つ取り固定し、N = aN0 ⊂ Q とする。U0 = N0\ L0はP の開集合であるから、U = aU0\ {a}はQの開集合である。 さらに、x0 ∈ U ⊂ N であるから、N はx0 の近傍である。あとは、あるコンパクト集合 Lに対してN がx0Lの形の錐構造をもつことを示せばよい。 いま、L0,{b0}は独立であり、L0b0 = N0,{a}は独立である。よって、補題1.21によ り、L0, b0aは独立である。ところで、b0aはx0を頂点とする錐の構造b0a = x0L1 をも つ。実際、t0 = 1のときは、L1 ={a}とおけばよく、0 < t0 < 1のときは、L1 ={a, b0} とおけばよい。このとき、{x0}, L1は独立であり、x0L1 = b0a, L0は独立であるから、再 び補題1.21により、L = L1L0 とおくとき{x0}, Lは独立である。すなわち、x0Lは錐 である。しかも、x0L = x0L1L0 = b0aL0 = ab0L0 = aN0 = N である。
1.2
PL
写像
多面体は後でみるように三角形分割をもち、単体複体の構造を与えることができる。こ の立場で見れば、PL 写像とは大雑把には、定義域の単体複体を適当に細分したとき各単体上アフィンとなるような写像である。たとえば、写像f : I → I がPL写像であること は、f のグラフが折れ線であることにほかならない。 しかし、ここでも三角形分割によらない多面体の構造を重視し、PL 写像を、局所的錐 構造を保つ写像として定義する。 定義 1.23. 多面体の間の写像f : P → Q が点 a ∈ P において区分線型 (piecewise linear)である、あるいは略してPLであるとは、aの錐近傍N = aLが存在して、 f ((1− t)a + tx) = (1 − t)f(a) + tf(x) が任意のx ∈ L, t ∈ Iに対して成立することをいう*3。任意のa∈ P に対してf がa に
おいてPL写像であるとき、f : P → Q はPL写像(piecewise linear map)であると いう。 上の定義における錐近傍N 上でf は連続となるから、PL写像は連続である。 注意 1.24. PL写像の基本的な例と性質を挙げよう。 (1) V ⊂ Rnをアフィン部分空間とするとき、アフィン写像f : V → RmはPL写像で ある。 (2) f : P → QがPL写像であり、P′ ⊂ P がPの部分多面体であるならば、f|P′: P′ → QもPL写像である。 (3) f : P1 → P2, g : P2 → P3 がPL写像であるならば、g◦ f : P1 → P3はPL写像で ある。 PL 写像のさらなる性質を示すためには、次の定理によるPL写像の特徴づけを使うの が便利である。 定理 1.25. P ⊂ Rn, Q ⊂ Rm を多面体とする。連続写像f : P → QがPL写像である ためには、グラフ Γf ={(x, y) ∈ Rn+m| x ∈ P, y = f(x)} が多面体であることが必要十分である。 証明.【必要性】f : P → QがPL写像であるとして、a = (a, f (a))¯ ∈ Γf とする。a¯のΓf における錐近傍を構成しよう。aのP における錐近傍NP = aLP を、f ((1− t)a + tx) = (1− t)f(a) + tf(x) (x ∈ LP, t∈ I)となるように取る。このとき、 NΓ = Γf ∩ (NP × Rm) *3「区分線型」の「線型 (linear)」という語は、アフィン写像の意味で用いられている。しかし、区分線型 という語やその略であるPLはすでに定着しているものなので、あえて「区分アフィン」と直すことはし なかった。
とおくと、NΓ は¯aのΓf における近傍である。さらに、LΓ = Γf ∩ (LP × Rm)とおく
と、NΓ = ¯aLΓであること、および、これが錐であることが容易に確かめられる。
【十分性】連続写像 f : P → Q のグラフ Γf が多面体であるとし、a ∈ P , ¯a = (a, f (a)) ∈ Γf とする。Γf は多面体であり f は連続だから、ε > δ > 0 が存在して、 NP = Nδ(a, P ) = a ˙Nδ(a, P ), NQ = Nε(f (a), Q), NΓ = Nε(¯a, Γf)はそれぞれP, Q, Γf
におけるa, f (a), ¯aの錐近傍を与え、f (NP)⊂ NQ が成り立つ。よって、
Γf ∩ (NP × Rm)⊂ NΓ (⋆)
である。さて、任意にx∈ ˙Nδ(a, P )とt∈ I を与える。f ((1− t)a + tx) = (1 − t)f(a) + tf (x)を示せばよい。(⋆)よりx = (x, f (x))¯ ∈ NΓ であり、NΓは¯aを頂点とする錐だか ら、(1− t)¯a + t¯x ∈ NΓ ⊂ Γf であるが、これはまさに示すべきことを意味している。 注意 1.26. 定理 1.25において、f の連続性は本質的である。たとえば、P を正方形 の周 N (0, 1)˙ ⊂ R2 とし、Q = R + = [0,∞) とする。v0 = (−1, −1), v1 = (1,−1), v2 = (1, 1), v3 = (−1, 1) とし、n > 3 に対して vn = (−1, −1 + 2−(n−4)) とおき、 f (vn) = n∈ Q (n = 0, 1, 2, . . .)とする。各nに対して、f が線分vnvn+1 上でアフィン となるようにf を拡張すると、v0において連続でない写像f : P → Qが得られる。この とき、グラフΓf は多面体であるが、f は連続でないからPL写像でない。 次に挙げるPL写像の性質は、定理1.25と命題1.15 を使えば簡単に証明できる。 命題 1.27. PL写像に関して、次が成り立つ。 (1) f : P → Qが多面体の間の写像で、(Uλ)λ∈Λ がP の開被覆であるとき、各λ ∈ Λ に対してf|Uλ がPL写像であるならば、f はPL写像である。 (2) f : P → Qが多面体の間の写像で、(Pλ)λ∈Λ がP の閉部分多面体の局所有限な族 でP =∪λ∈ΛPλを満たすものとする。このとき、各λ ∈ Λに対してf|Pλ がPL 写像であるならば、f はPL写像である。 (3) fi: Pi → Qi(i = 1, 2)がPL写像であるならば、f1× f2: P1× P2 → Q1× Q2 も PL写像である。 定義 1.28. f : P → Qを多面体の間の写像とする。f がPL 写像かつ同相写像であると き、f はPL同相写像 (PL homeomorphism)であるという。PL同相写像f : P → Q が存在するとき、P とQはPL同相 (PL homeomorphic)であるという。 PL 同相写像の定義に、逆がPL写像であることが含まれていないが、これは自動的に 成り立つ。 命題 1.29. f : P → QがPL同相写像であるとき、逆写像f−1: Q→ P はPL同相写像 である。 証明. Γf が多面体ならばΓf−1 も多面体となるから、この主張は定理1.25から従う。
つまり、PL同相写像は、多面体とPL写像のなす圏における同型射である。こうして、 PL トポロジーは多面体を PL同相で分類する分野であると、一応定義づけることがで きる。 注意 1.30. (1) 全単射PL 写像は、必ずしもPL同相写像ではないので注意が必要であ る。例えば、注意1.26の写像 f : P → Qは全単射であり、g = f−1: Q → P は全単射 PL写像である。しかし、f は連続でなかったから、gはPL同相写像でない。 (2) さらに、多面体の単射 PL 写像による像が多面体であるとも限らない。簡単な例 としては、P = {0, 1, 2, . . .}, Q = R, f(0) = 0, f(n) = 1/n (n ≧ 1) で定義される f : P → Qを挙げることができる。 上の注意を踏まえて、PL埋め込みの概念を次のように定義する。 定義 1.31. 多面体の間の単射PL写像f : P → Q がPL埋め込み(PL embedding) であるとは、f (P )がQの部分多面体であって、f : P → f(P )がPL同相写像となるこ とをいう。 最後に、PL写像の錐の概念について述べる。f : P → Qをコンパクト多面体の間の写 像とする。aP, bQがそれぞれ錐であるとき、f 上の錐f : aPˆ → bQをf ((1ˆ − t)a + tx) = (1− t)b + tf(x) (x ∈ P, t ∈ I) により定義する。 命題 1.32. f : P → Qがコンパクト多面体の間のPL写像であるとき、錐f : aPˆ → bQ もPL写像である。さらに、f がPL同相写像であるならば、fˆはPL同相写像となる。 証明. f : P → Qをコンパクト多面体の間のPL写像とする。命題1.22により、aP, bQ はコンパクト多面体である。aP ⊂ Rn, bQ ⊂ Rm であるとすると、グラフΓ f ⊂ Rn+m は定理1.25 によりコンパクト多面体である。さらに、¯a = (a, b)∈ Rn+mとすると、¯aΓ f は錐であり、¯aΓf = Γfˆであることが容易に確かめられる。よって、命題1.22によりΓfˆ は多面体である。fˆは連続写像だから、定理1.25によりfˆはPL写像である。もし、f が PL同相写像であれば、PL写像f−1: Q → P にも同じ議論が使え、その錐はPL写像と なるので、fˆはPL同相写像である。
2
単体複体と単体写像
いままで多面体を錐構造をもとに内在的に扱ってきたが、実際には多面体を単体分割し て、単体複体として扱うのが便利である(定理2.52参照)。また、PL写像も、少なくと も定義域がコンパクトであるときは、単体複体を適当に細分することで単体写像と見るこ とができる(系2.62参照)。以下で、その詳細を見ていくことにする。2.1
単体
m≧ 0とする。点v0, . . . , vm ∈ Rnがアフィン独立であるとは、 ∑m i=0ti = 0を満たす t0, . . . , tm ∈ R に対して ∑m i=0tivi = 0ならばt0 =· · · = tm = 0となることをいうので あった。これは、m個のベクトル v1 − v0, . . . , vm− v0 が1次独立であることと同値で ある。 補題 2.1. v0, . . . , vm ∈ Rnに対して、次は同値である。 (1) v0, . . . , vmはアフィン独立である。 (2) ジョインv0v1· · · vm の任意の点xは、v0, . . . , vm の凸結合として一意的に表され る。すなわち、x =∑mi=0tivi, ∑m i=0ti = 1, ti ≧ 0を満たす(t0, . . . , tk)が一意的 に存在する。 証明. (1) =⇒ (2): (1)が成り立つとする。xがv0, . . . , vkの凸結合で表されることは、m に関する帰納法で示される。もし、x = ∑mi=0tivi = ∑m i=0t′ivi, と凸結合で2通りに表さ れたとすると、∑i=0(ti− t′i)vi = 0, ∑m i=0(ti− t′i) = 0 であるから、v0, . . . , vmのアフィ ン独立性からti = t′i(i = 0, . . . , m)である。 (2) =⇒ (1): (2)が成り立つとして、∑ki=0tivi = 0, t0, . . . , tk ≧ 0, ∑k i=0ti = 0とす る。ε > 0を十分小さく取り、ε· maxi|ti| < (k + 1)−1となるようにする。このとき、 m ∑ i=0 (m + 1)−1vi = m ∑ i=0 ((m + 1)−1+ εti)vi ∈ v0v1· · · vm となるので、(2)により(m + 1)−1 = (m + 1)−1 + εti(i = 0, . . . , m)となる。よって、 t0 =· · · = tk= 0である。 v0, . . . , vm ∈ Rn がアフィン独立であるとき、ジョイン σ = v0v1· · · vm を m 単体 (m-simplex)といい、点v0, . . . , vmは単体 σ の頂点(vertex)であるという。このと き、v0, . . . , vm(あるいは集合{v0, . . . , vm})はσ を張る(span) という。m単体 σ に 対してdim σ = mと定義し、mを単体σ の次元(dimension)という。補題2.1 で見た ように、単体σの任意の点xはv0, . . . , vm の凸結合として一意的に表される。このとき のt0, . . . , tmを点xの重心座標(barycentric coordinates)という。 空集合∅は−1単体であると定義する。このとき、各m≧ 0に対してm単体は(m−1) 単体を底とする錐であるから、命題1.22から帰納法により、すべての単体は多面体であ ることが分かる。さらに、次のことも補題2.1から直ちに確かめられる。 命題 2.2. (1) σがv0, . . . , vkを頂点とするk単体、f : σ → Rnが単射アフィン写像のと き、像f (σ)はf (v0), . . . , f (vk)を頂点とするk単体である。 (2) σがv0, . . . , vm を頂点とするm単体のとき、錐vσはv, v0, . . . , vmを頂点とする (m + 1)単体である。単体σの頂点全体の集合をV (σ)で表す。すなわち、m単体σ = v0· · · vmに対して、 V (σ) = {v0, . . . , vm} と定義する。容易に証明される次の命題から、集合V (σ)や次元 dim σがσ のみから定 まっていることが分かる。 命題 2.3. v0, . . . , vmを頂点とするm単体σの点x∈ σ に対して、x ∈ {v0, . . . , vm}で あるためにはσ\ {x} が凸であることが必要十分である*4。 σ が単体であるとき、各部分集合T ⊂ V (σ)に対してT はある単体τ を張るが、この ようにして得られる単体τ をσの面(face) といい、τ ≦ σと書く。ここで、T =∅のと きにはτ =∅であるとする。したがって、−1単体∅は任意の単体の面である。τ ≦ σ か つτ ̸= σであるとき、τ はσ の真の面(proper face)であるといい、τ < σと書く。各 v∈ V (σ)に対して、{v}はσの0次元の面である。 m単体σ = v0· · · vm ⊂ Rnの真の面すべての和集合をσの境界(boundary)といい、 ˙σで表す。また、˚σ = σ\ ˙σと定義し、˚σをσ の内部(interior)という。m≧ 0のとき、 σの点σ = (m + 1)ˆ −1∑mi=0viをσ の重心(barycenter)という。重心σˆ は内部˚σの点 であるから、m≧ 0のとき˚σ ̸= ∅である。 σ を含むRnの最小のアフィン部分空間を⟨σ⟩で表す。⟨σ⟩はv 0, . . . , vmのアフィン結 合∑mi=0tivi( ∑m i=0ti = 1) の全体であり、⟨σ⟩の点をこのようなアフィン結合に表す方 法は一意的である。 命題 2.4. 単体σ に対して、˙σ, ˚σ はそれぞれ⟨σ⟩におけるσの境界Fr⟨σ⟩σ, 内部Int⟨σ⟩σ に等しい。 証明. σ がm + 1個の点 e0 = (0, . . . , 0), e1 = (1, 0, . . . , 0), . . . , em = (0, . . . , 0, 1) で張 られるRm内のm単体である場合に示せば十分であり、その場合は直接の計算で証明さ れる。 命題 2.5. コンパクト多面体は、有限個の単体の和集合として表される。 証明. P をRm 内のコンパクト多面体とする。P を含む Rm の最小のアフィン部分空 間 ⟨P ⟩ の次元 n = dim⟨P ⟩ についての帰納法で証明する。n ≦ 0 のときは自明であ る。n ≧ 1とする。m = n かつ⟨P ⟩ = Rn の場合に示せば十分である。さらに、P は コンパクトであることに注意すれば、P の各点のある近傍が、有限個の単体の和集合 となることを示せばよいことが分かる。そこで、a ∈ P とする。a の錐近傍を、ε近傍
Nε(a, P ) = a ˙Nε(a, P )の形に取る。N˙ε(a, P ) = ˙Nε(a)∩ P で、N˙ε(a) は、例1.16(3)で
*4この命題から、v0, . . . , vm を頂点とするm 単体 σ に対して、σ = w0. . . wm と表されたならば
{w0, . . . , wm} = {v0, . . . , vm}でなければならない。(実際、vi ∈ {w/ 0, . . . , wm}とするとσ\ {vi}
の凸性からvi∈ w/ 0· · · wm= σとなり矛盾する。)このことを根拠に、「v0, . . . , vmを頂点とするm単
注意したように立方体Nε(a)の面の有限和である。F をそのような面の任意の1つとす ると、F ∩ P は多面体で、dim⟨F ∩ P ⟩ < nであるので、帰納法の仮定から、F ∩ P は 単体の有限和である。したがって、N˙ε(a, P ) = ˙Nε(a)∩ P も単体の有限和であるから、a の錐近傍Nε(a, P ) = a ˙Nε(a, P ) もそうである。 この命題をコンパクトとは限らない多面体に対して一般化するため、次の補題を示して おく。 補題 2.6. 任意の多面体P に対して、コンパクト多面体の局所有限な族(Pi)∞i=1 で、次の 条件を満たすものが存在する。 • P =∪∞i=1Pi • |i − j| > 1のときPi∩ Pj =∅ 証明. P は第二可算かつ局所コンパクトHausdorffだから、P のコンパクト部分集合の列
(Ci)∞i=1を、Ci ⊂ IntP Ci+1かつP = ∪∞
i=1Ci となるように取れる。さらに、i≧ 1に対
して、Di = Ci\ IntP Ci−1, Ui = IntP Ci+1\ Ci−2 と定義する。ただし、C0 = C−1 =∅
とする。
Di の各点 xに対して、x のP における錐近傍 Nx が存在し、Nx ⊂ Ui となる。さら
に、Nx は多面体に取ることができる。ところが、Di はコンパクトなので、Di はそのよ
うな錐近傍の有限和Piに含まれる。すると、Piはコンパクト多面体であり、Pi ⊂ Ui か
つP =∪∞i=1Piである。(Ui)∞i=1 はP の局所有限な開被覆だから、(Pi)∞i=1 も局所有限で
ある。また、|i − j| > 1のときUi∩ Uj =∅だから、Pi∩ Pj =∅である。 命題2.7. 任意の多面体P は、単体の局所有限な族(σλ)λ∈Λの和集合としてP = ∪ λ∈Λσλ と表される。 証明. P に対して補題2.6のような族(Pi)∞i=1 を選び、次に命題2.5を用いてPiを単体の 有限和として表せばよい。 命題2.7を用いて、多面体の次元の概念が定義される。 定義 2.8. 多面体P に対して命題2.7のような単体の族(σλ) を選ぶとき、maxλdim σλ を多面体P の次元といい、dim P で表す。 上の定義において、maxλdim σλ は(σλ)の取り方によらず定まっている。このことは、 n単体がn次元未満の単体の有限個の和集合に含まれることはない、という事実に注目す れば分かる。もちろん、m単体σの多面体としての次元はmである。 命題 2.9. 多面体の次元について、以下のことが成り立つ。 (1) P ⊂ Qならば、dim P ≦ dim Qである。 (2) アフィン部分空間V ⊂ Rnの多面体としての次元は、アフィン部分空間としての次 元に等しい。
証明. (1) P に対して、補題 2.6 のような族 (Pi)∞i=1 を選び、Pi を有限個の単体の和
集合として Pi = ∪n(i)
j=1σi,j と表しておく。すると、dim P = maxi,jσi,j = maxiPi
である。次に、Q を単体の局所有限和で Q = ∪µ∈M τµ と表せば、各 i に対して、 {σi,1, . . . , σi,n(i)} ∪ {τµ| µ ∈ M} も和集合がQとなる局所有限な族なので、
dim Pi = max
j σi,j ≦ max{maxj σi,j, maxµ τµ} = dim Q
である。よって、dim P = maxidim Pi ≦ dim Qである。
(2) ここではdim は常に多面体としての次元を表す。V ⊂ Rn をアフィン部分空間 とし、アフィン部分空間としての次元が k であるとする。このとき、V はアフィン独 立なk + 1 個の点v0, . . . , vk をもち、したがって、k 単体 v0· · · vk を含んでいるから、 dim V ≧ k である。もしdim V > kであればV はk + 1単体を含み、その頂点はアフィ ン独立なk + 2個の点となり、V のアフィン部分空間としての次元がk であることに反す る。よって、dim V = kである。 系 2.10. f : P → Qが多面体P ⊂ Rn からQ ⊂ Rm へのPL写像であるとき、P を単 体の局所有限な族(σλ)λ∈Λ の和集合に表し、各λ ∈ Λに対してf|σλ: σλ→ Q ⊂ R m が アフィン写像であるようにできる。 証明. グラフΓf は多面体であるから、命題2.7により、Γf を局所有限な単体の族(˜σλ)λ∈Λ の和集合として表すことができる。π : Γf → P , π′: Γf → Q を射影とすると、各λ∈ Λ に対して、π|σ˜λ は単射アフィン写像なので、命題2.2(1)により、σλ= π(˜σλ)は単体であ る。すると、∪λ∈Λσλ= P であり、(σλ)は局所有限である。f|σλ = π ′◦ (π| ˜ σλ) −1: σ λ→ Q⊂ Rm だから、f| σλ はアフィン写像の合成としてアフィン写像である。 命題 2.11. 単体のアフィン写像による像は多面体となる。 証明. σ = v0· · · vn ⊂ Rmをn単体とし、f : σ → Rp をアフィン写像とするとき、f (σ) が多面体となることをnに関する帰納法で示そう。n≦ 0のときは明らかである。n≧ 1 とする。f が単射であるときは、命題2.2(1)により、f (σ)はn単体である。f が単射で ないとき、 f (σ) = f ( ˙σ) (⋆) が成り立つ。これを示すため、y ∈ f(σ) とする。f をアフィン写像 f :˜ ⟨σ⟩ → Rp に ˜ f (∑ni=0tivi) = ∑n i=0tif (vi)(ただし ∑n i=0ti = 1)により拡張しておけば、f˜が単射で ないことからf˜−1(y)は⟨σ⟩の1次元以上のアフィン部分空間となるので、コンパクトで ない連結集合である。他方、σ は⟨σ⟩のコンパクト集合でf˜−1(y)∩ σ ̸= ∅だから、命題 2.4により、f˜−1(y)∩ ˙σ = ˜f−1(y)∩ Fr⟨σ⟩σ ̸= ∅である。よって、f−1(y)∩ ˙σ ̸= ∅である
から、y∈ f( ˙σ)である。これで(⋆)が示された。
(⋆)により、σ のn− 1次元の面をτ0, . . . , τn とすればf (σ) = ∪n
i=0f (τi)である。帰
位相空間の間の連続写像f : X → Y が固有(proper)であるとは、Y の任意のコンパ クト部分集合Lに対して、f−1(L)がコンパクトとなることをいう。 系 2.12. コンパクト多面体の PL写像による像は多面体である。より一般に、多面体の 固有PL写像による像は多面体である。 証明. 後半の主張だけを示せば十分である。P, Qを多面体、f : P → Q を固有PL 写像 とする。系2.10により、P =∪λ∈Λσλ となる局所有限な単体の族(σλ)λ∈Λ が存在して、 f|σλは各λに対してアフィン写像となる。命題2.11により、各λに対して、像f (σλ)は コンパクトな多面体である。命題1.15(4)によれば、あとは(f (σλ))λ∈Λ の局所有限性を 示せばよい。そこで、y ∈ f(P )とする。Qは局所コンパクトなので、yのQにおけるコ ンパクト近傍N が存在する。f は固有であるから、f−1(N ) ⊂ P はコンパクトである。 よって、(σλ)の局所有限性により、f−1(N )∩ σλ̸= ∅ となるλは高々有限個である。こ れは、N ∩ f(σ) ̸= ∅となるλが高々有限個であることを意味している。
2.2
胞体とその面
定義 2.13. C ⊂ Rnが線型n胞体(linear n-cell)、あるいは単にn胞体(n-cell)であ
るとは、C がコンパクトかつ凸な多面体で、C を含む最小のアフィン部分空間⟨C⟩の次 元がnであることをいう。 注意 2.14. (1) n単体やInはn胞体である。0胞体、1胞体はそれぞれ0単体、1単体 と同じものである。空集合は−1胞体である。 (2) 胞体のアフィン写像による像は、系2.12により胞体である。 (3) アフィン独立とは限らないa0, . . . , ar ∈ Rnに対して、ジョインC = a0· · · ar は胞 体であり、C はa0, . . . , ar(あるいは集合{a0, . . . , ar})によって張られるという。実際、 Cはr単体のアフィン写像による像となる。逆に、任意の胞体はある有限個の点によって 張られることが示される(命題2.24(5)(7))。 (4) 2個の胞体の共通部分、および2個の胞体の直積は胞体である。 (5) 胞体とアフィン部分空間の共通部分は胞体である。一般に、C ⊂ Rn が胞体、 P ⊂ Rn が閉かつ凸集合である多面体であるとき、C ∩ P は胞体となる。 (6) 胞体を底とする錐は胞体である。 胞体C ⊂ Rn に対して、Fr⟨C⟩C, Int⟨C⟩C をそれぞれ C の境界(boundary)、内部 (interior)と呼び、C, ˚˙ Cで表す*5。 命題 2.15. n≧ 0のとき、n胞体C ⊂ Rmに対して次が成り立つ。 (1) C は少なくとも一つのn単体を含み、Cの多面体としての次元dim C = nである。 *5場合により、内部を表す記号は(C∩ D)˚のように右上肩に付ける。
(2) 任意のn単体σ ⊂ Cに対して、˚σ ⊂ ˚Cである。とくに、C˚̸= ∅である。 (3) ˚Cは、「どのy ∈ Cに対しても線分yxをxを越えてC内の線分に延長できる」と いう性質をもつx∈ C 全体の集合に等しい。すなわち、 ˚ C ={x ∈ C | ∀y ∈ C ∃ε > 0 (1 + ε)x − εy ∈ C} である。 証明. (1)⟨C⟩のアフィン部分空間としての次元はnだから、Cにはアフィン独立なn + 1 点v0, . . . , vn が存在しなければならない。よって、C はn単体v0· · · vnを含むから、多
面体としての次元dim C ≧ nである。また、命題2.9により、dim C ≦ dim⟨C⟩ ≦ n も 成り立つ。
(2) σ ⊂ Cをn単体とする。⟨C⟩, ⟨σ⟩はともにn次元で⟨σ⟩ ⊂ ⟨C⟩だから、⟨σ⟩ = ⟨C⟩ である。よって、命題2.4により、˚σ = Int⟨σ⟩σ = Int⟨C⟩σ ⊂ Int⟨C⟩C = ˚C である。
(3) 左辺が右辺に含まれることは明らかである。右辺の元xを任意に与える。(1) によ り存在するn単体σ = v0· · · vn ⊂ C を一つ固定し、ε > 0を、x′ = (1 + ε)x− εˆσ ∈ C となるように取り、wi = (1 + ε)−1(εvi+ x′) (i = 0, . . . , n)とおく。すると、w0, . . . , wn は容易に確かめられるようにアフィン独立で、n単体τ = w0· · · wnに対してτ = xˆ であ るから、(2)により、x∈ ˚τ ⊂ ˚Cである。 胞体の面の概念を定義するために(定義2.19)、まず次の定義をする。 定義 2.16. 胞体C ⊂ Rnとx∈ Rnに対して、 ⟨C|x⟩ = {y ∈ Rn| ∃ε > 0 (|t| < ε =⇒ (1 − t)x + ty ∈ C)} と定義する。 注意 2.17. 上の定義の図形的な意味は易しい。x ∈ C のとき、y ∈ ⟨C|x⟩であるとは、 y = xであるか、またはyとxを通る直線とC との共通部分がxを内部の点にもつ線分 となることである。x /∈ C のときは⟨C|x⟩ = ∅であることに注意する。 次の補題は、上の注意を念頭に図を描いてみれば証明のヒントが得られるだろう。 補題 2.18. ⟨C|x⟩はRnのアフィン部分空間である。 証明. x = 0であるとして証明してよい。y, z ∈ ⟨C|0⟩, λ ∈ Rとする。w = (1− λ)y + λz とおくときw∈ ⟨C|x⟩を証明しよう。ε > 0を十分小さく取り、|t| < εならばty, tz∈ C となるようにする。 【場合1: 0 ≦ λ ≦ 1のとき】|t| < εとすると、Cの凸性によりtw = (1−λ)ty+λtz ∈ C となる。よって、w ∈ ⟨C|0⟩である。 【場合2: λ≦ 0のとき】|t| < ε/(1 − 2λ)とすると、y′ = (1− 2λ)ty, z′ =−(1 − 2λ)tz
とおくときy′, z′ ∈ Cであり、0≦ 1−λ−2λ < 1/2≦ 1であって tw = ( 1− −λ 1− 2λ ) y′+ −λ 1− 2λz ′ となるから、C の凸性によりtw ∈ Cである。よって、w∈ ⟨C|0⟩である。 【場合3: λ ≧ 1のとき】yとz の立場を入れ換えれば、場合2に帰着される。 定義 2.19. 胞体C ⊂ Rnに対して、 Cx = C∩ ⟨C|x⟩ と定義する。補題2.18と注意2.14(5)により、Cx は胞体となる。あるx ∈ Rnに対して Cxの形に表される胞体をCの面(face)といい、DがC の面であることをD≦ C で表 す。すぐに注意2.20(2)で見るように、C自身はCの面である。D ≦ CかつD̸= Cであ るとき、DはC の真の面(proper face)であるといい、D < C で表す。また、{x} ≦ C であるとき、xをC の頂点(vertex)という。C の頂点全体の集合をV (C)で表す。 注意 2.20. (1) 胞体Cは凸集合であるから、面Cx は次のようにも表すことができる。 Cx ={y ∈ C | ∃ε > 0 (1 + ε)x − εy ∈ C} ={y ∈ C | ∃ε0 > 0 (0 < ε < ε0 =⇒ (1 + ε)x − εy ∈ C)} x∈ C のときは、上の図形的な意味は明瞭である。すなわち、Cの点yに対してy ∈ Cx であるとは、y = xであるか、または線分yxをxを越えてC内の線分に延長できること である。x /∈ C のときは、Cx =∅である。よって、空集合∅は任意の胞体の面となる。 (2) 胞体C の点v ∈ CがCの頂点であることは、C 内のいかなる線分xyもvを内点 にもたないことと同値である。 (3) 胞体Cが空でないとき、命題2.15(2)により、x ∈ ˚C が存在するが、このとき(1) によりCx = Cである。よって、任意の胞体C に対して、C ≦ C が成り立つ。 (4) 胞体C とx∈ C に対して、x ∈ ˚Cxである。このことは、命題2.15(3)から直ちに 導かれる。 (5) A, B ⊂ Rnが胞体でx∈ Rnのとき、(A∩ B) x = Ax∩ Bxである。また、A⊂ Rn, B⊂ Rmが胞体でx∈ Rn, y∈ Rmのとき、(A× B) (x,y) = Ax× By である。 (6) いままで立方体や単体に定義された面・頂点の概念は、ここで定義されたものと一 致することが簡単に確かめられる。たとえば、m単体σ = v0· · · vm の場合、x ∈ σ が x =∑kj=0tijvij, tij > 0と表されるとすれば、σx はいままでの意味でのσの面vi0· · · vik となることが確かめられる。 胞体を実際に扱うための諸性質を確立するため、もう少し幾何的考察を行う。次の補題 の証明は図を描いてみれば容易に理解できるだろう。 補題 2.21. 胞体C ⊂ Rnとa, b∈ Rnに対して、a ∈ CbならばCa ⊂ Cbである。