定義 2.46. 胞体複体K が単体複体 (simplicial complex) であるとは、任意の胞体 C ∈ K が単体であることをいう。多面体 P と単体複体K に対してP = |K|であると き、K はP の三角形分割(triangulation)であるという*7。
*7この三角形分割の定義は、Rourke-Sandersonのテキスト[2]とは異なっているので注意する。
胞体複体K の細分K′が単体細分(simplicial subdivision)であるとは、K′が単体 複体であることをいう。
例 2.47. 胞体複体K に対して、K の第1導細分K(1) は常にK の単体細分である。し たがって、第r導細分K(r)(r≧1)はすべてK の単体細分となる。
さらに、K が単体複体でLがその部分複体である場合、K のLを保つ導細分を定義す るときに各単体σ ∈ K の内部に取る点として常に重心σˆ を選ぶことができる。このよう にして得られる導細分を、K のLを保つ重心細分(barycentric subdivision)といい、
SdLK で表す。SdLK は、具体的には
SdLK =L∪ {σˆ1· · ·σˆkτ|k ≧1, σ1 >· · ·> σk > τ, τ ∈L, σ1, . . . , σk ∈K \L} で与えられる*8。とくに、L={∅}であるときは、これをK の重心細分といい、SdK で 表す。SdK は、
SdK ={σˆ1· · ·σˆk|k ≧1, σ1 >· · ·> σk, σ1, . . . , σk ∈K} ∪ {∅}
で与えられる。
定理 2.48. 任意の胞体複体K に対して、頂点を増やさないK の単体細分K′ が存在す る。すなわち、単体複体K′ であって、K▷K′ かつV(K) = V(K′)となるものが存在 する。
証明. K の頂点全体の集合に全順序を導入する(K の頂点は高々可算個なので、これは 整列定理を使うまでもなくできる)。各C ∈K\ {∅}に対して、Cの頂点のうちこの順序 について最大であるものをvC とし、Kˇ(C) ={D∈K( ˙C)|vC ∈/ D}と定める。すると、
命題2.24(9) によりC は錐vC|Kˇ(C)|である。
r ≧ 0に対して、r骨格Kr の単体細分Kr′ で次の条件(i)-(iii)を満たすものを帰納的 に構成する。
(i) V(Kr′) =V(K) (ii) Kr′ ⊂Kr+1′
(iii) 各C ∈Kr に対して、Kr′(C) =vCKˇr′(C)
ここで、各C ∈Kr, D∈Kr+1に対して、Kr′(C),Kˇr′(D)は、それぞれ細分Kr▷Kr′ が K(C),Kˇ(D)に誘導する細分を表す。
まず、K0′ =K(0) とする。Kr′−1 まで、上の(i)-(iii)を満たして構成されたとする。
主張. K の各r 胞体CとD < C に対して、細分K(C)▷vCKˇr′−1(C)がK(D)に誘導 する細分Kr′−1(D, C)とKr′−1(D)は一致する。
*8この表示において、構成から明らかなように、σ = ˆσ1· · ·σˆkτ はτ からはじめてσˆkτ,σˆk−1σˆkτ, . . . と錐を繰り返し取ることで構成されている。よって、dimσ= dimτ+kで、その頂点集合はV(σ) = V(τ)∪ {σˆ1, . . . ,σˆk}である。特別な場合として、この後のSdKの表示に現れる単体ˆσ1· · ·ˆσkは実際 にˆσ1, . . . ,σˆkを頂点とする(k−1)単体になっている。
主張の証明. まず、vC ∈ D の場合を考える。このときは命題 2.24(4)とvC, vD の定義 によりvD = vC である。Kˇr′−1(D)⊂ Kˇr′−1(C) により、vDKˇr′−1(D)⊂ vDKˇr′−1(C) = vCKˇr′−1(C)であるから、注意2.41によりKr′−1(D, C) =vDKˇr′−1(D) である。一方、帰 納法の仮定(iii)によりKr′−1(D) = vDKˇr′−1(D)であるので、Kr′−1(D, C) = Kr′−1(D) である。
vC ∈/ Dの場合、D ∈ K(C)ˇ であるので、Kr′−1(D, C)はK(C)ˇ ▷Kˇr′−1(C)がK(D) に誘導する細分に等しいが、それはKr′−1(D)である。
主張と補題2.42により、
Kr′ =Kr′−1∪ {vCKˇr′−1(C)|C はK のr胞体}
はKr の単体細分を与え、(i)-(iii)を満たす。十分大きいrに対して、K′ =Kr′ とおけば K′ は求める単体細分を与える。
系 2.49. 胞体複体K1, K2 に対して|K1| = |K2|ならば、K1, K2 の共通の単体細分 K′ が存在する。
証明. K をK1 とK2 の共通部分(例2.35(2)参照)とし、K′を定理2.48 により存在す るK の単体細分とすればよい。
補題 2.50. 任意の単体σ ⊂Rn に対して、単体複体K であって、|K|=Rnかつσ ∈K となるものが存在する。
証明. K0を、[m1, m1+ 1]×[m2, m2+ 1]× · · · ×[mn, mn+ 1] (mi ∈Z)の形の立方体と その面の全体からなる胞体複体とし、K0′ を定理2.48により得られるK0の単体細分とす る。K0′ をRnの適切な自己アフィン同型で写したものをK とすれば、σ ∈K, |K|=Rn とできる。
定理 2.51. P をコンパクト多面体、Q1, . . . , Qr ⊂P を有限個のコンパクト部分多面体と する。このとき、P の三角形分割K とその部分複体Liであって、|Li|=Qi(i= 1, . . . , r) となるものが存在する。
証明. 命題2.5により、P は単体の有限和として P = ∪s
j=1σj と表される。このとき、
各i ∈ {1, . . . , r}に対してQi は{σj|j = 1, . . . , s}に属するいくつかの単体の和集合に 表されるとしてよい。補題2.50により、各j に対して、σj ∈ Kj, |Kj| = Rn となるよ うな単体複体Kj が存在する。K′を、系2.49 により存在するK1, . . . , Ksの共通の単体 細分とする。K = {σ ∈ K′|σ ⊂ P}, Li ={σ ∈ K′|σ ⊂ Qi}(i = 1, . . . , r) とおけば、
|K|=P であり、Li はK の部分複体で|Li|=Qiである。
定理 2.52. 任意の多面体は三角形分割をもつ。
証明. P を多面体とすると、補題2.6により、P =∪∞
i=1Pi となるコンパクト多面体の局 所有限な族(Pi)∞i=1であって、|i−j|>1のときPi∩Pj =∅であるものが存在する。
Qi =Pi∩Pi+1(i≧1),Q0 =∅とおく。定理2.51により、各i≧1に対して、|Ki|=Pi
となる単体複体Ki と部分複体L+i−1, L−i ⊂ Ki で、|L+i−1| =Qi−1, |L−i | =Qi となるも のが存在する。系2.49により、各i≧1に対してL+i , L−i に共通の単体細分Li を取るこ とができる。また、L0 = {∅} とする。命題2.43により、Ki の単体細分Ki′ であって、
Li−1∪Li を部分複体にもつようなものが存在する。さて、
K1 =
∪∞ k=1
K2k′ −1, K2 =
∪∞ k=1
K2k′ , L=
∪∞ i=1
Li
とおけば、K1, K2 は単体複体であり(局所有限性の条件に注意)、LはK1, K2 の共通 の部分複体で、|K1| ∩ |K2| = |L|, |K1| ∪ |K2|= P である。よって、命題2.37により、
K =K1∪K2は単体複体であって|K|=P となる。
定理2.52の証明とまったく同様の議論により、より強い次の定理を示すことができる。
定理 2.53. 多面体P ⊂RnおよびP の部分多面体の族(Qλ)λ∈Λ が、次の条件を満たす とする。
• 各λ∈Λに対して、QλはP の閉集合である。
• (Qλ)λ∈Λ はP において局所有限である。すなわち、任意のx ∈P に対して、xの P における開近傍U でU ∩Qλ ̸=∅となるλ ∈Λが有限個に限るようなものが存 在する。
このとき、P の三角形分割K とその部分複体の族(Lλ)λ∈Λ でQλ =|Lλ|(λ ∈Λ)となる ものが存在する。