高水敷に耕作地と樹木群を有する蛇行河川における洪水流と河床変動
FLOOD FLOWS AND BED VARIATION IN A COMPOUND MEANDERING CHANNEL WITH CULTIVATED LANDS AND TREES
土木工学専攻 2 号 飯島 直己
Naoki IIJIMA1.はじめに
我が国の河川の多くは,複断面蛇行河川である.近年,
河道内において樹林化が進行し,様々な治水上,環境上 の問題を引き起こしている
1).蛇行低水路沿いに樹木が 繁茂すると,樹木群内の遅い流れが低水路内に流入する ことで流速が低下し,低水路河床に土砂が堆積し易くな ると考えられる.よって,河道線形と樹木群繁茂の位置 関係が洪水流と河床変動に与える影響を明らかにするこ とが求められている.福岡ら
1)は,複断面の蛇行低水路 沿いに連続的に樹木を設置した実験を行い,樹木群内流 れと低水路流れの干渉により,低水路内流量が少なくな ること, また, 高水敷における流量分担量は多くなるが,
全体として流れの抵抗が増大し水位上昇になること等を 明らかにしている.さらに,江の川を対象に水害防備林 が流れや河岸侵食,河床変動に及ぼす影響を検討し,水 防林を伐採すると,洪水流況が変化し,河岸段丘上に侵 食を引き起こす傾向があることを示している.しかし,
このような実河川を対象とした検討事例は未だ少なく,
今後の河川維持管理を考える上で,より検討例を増やす ことが必要とされている.
北海道北東部を流れる常呂川では,H13 年
9月洪水時 に大量の土砂が海域に流出し,沿岸で養殖を行っている ホタテ貝に甚大な被害が生じた
2).さらに,
H18年
10月 洪水では,低水路河床に縦断的に土砂が堆積し,その原 因と対策を把握することが求められる.本研究では,洪 水時の海域への土砂流出特性に加え,高水敷耕作地及び 蛇行低水路沿いの樹木群が洪水流と河床変動に与える影 響を明らかにする.
2.対象区間の概要
H18
年
10月洪水を対象に
0.0km~20.0km区間の検討 を行う. 写真-1 は
H19年
9月時の航空写真に観測所の位 置を併せて示している.対象区間下流では,みお筋が分
岐・合流を繰り返しながら蛇行し,その河岸際には樹木 が繁茂している.河口には大きな蛇行狭窄部を有してお り,河床は露岩している.また,広い高水敷の大部分は 耕作地として利用されており,洪水時は堤内の耕作地か らの土砂流出と相まって,大量の濁水となり流下する
2).
図-1 に河床材料粒度分布を示す(調査位置は 図-7 に示 す).
H15年に
1.0kmピッチで低水路左右岸,
H21年に
4.0km
右岸,
9.0km左岸高水敷において調査が行われた.
これより,低水路の河床材料は主に砂礫であり,耕作地 はシルト・粘土質で構成されていることが分かる. また,
H14
年
10月洪水時には,
0.2km地点において濁度観測が 行われた
2).その結果,濁度は洪水の上昇期と下降期に ピークを有する二山の波形をなし,最大で
2500ppm程度 の値が観測された.
3.低水路の土砂堆積と耕作地の侵食
図-2に
4.0km付近の低水路における実測河床変動コンター, 図-3 に
3.6km地点の横断面と左右岸痕跡水位を示
す.蛇行低水路に沿って樹木が繁茂している
3.8km,5.4km
付近において,顕著に土砂が堆積している.痕跡
水位を基に相対水深を求めると約
0.5程度となり,流れ は複断面的蛇行流れとなる.よって,流れの直進性が増
0km 5km
10km
15km 20km
KP18.8
太茶苗水位観測所
KP10.8上川沿水位観測所
KP1.2
河口水位流量観測所
網走港 潮位 :量水標
:浮子流量観測
:自記水位計
写真-1
H19年9月時の航空写真
0 20 40 60 80 100
0.001 0.01 0.1 1 10 100
粘土 シルト 砂 礫
図-1 河床材料粒度分布
通過質量百分率(%)
粒径(mm)
6km 左岸6km 右岸
12km 左岸 12km 右岸
9km 耕作地左岸 4km 耕作地右岸
u v
U V
K ghtree
k
k , 2 2 2 ,
(1)
し,低水路線形の影響を受けずに洪水流は流れていると 考えられる
1).
3.8km,5.4km付近では,蛇行低水路沿い の樹木群により流速が低減し,土砂堆積が生じたものと 推察できる. 写真-2 は
3.6km地点左岸砂州における土砂 堆積の様子を示した写真である.砂州を形成している河 床材料は砂礫であり,その上にシルト・粘土質の細粒土 砂が堆積している様子が分かる.
写真-3 に
15.5km地点右岸における耕作地の浸食状況
を示す.このように常呂川では,洪水時に高水敷耕作地 の表土が洗掘され,流出する事態が発生する. 図-4 に示 す12.0km地点の横断面からも, 左岸高水敷において0.3m
~0.4m 程度の洗掘が生じていることが推測される.以上 のことから,洪水時はシルト・粘土質の材料で構成され る耕作地が洗掘され,その細粒土砂が低水路河床や樹木 群内に堆積していると考えられる.
4.非定常平面二次元河床変動解析 (1) 解析条件
福岡らは洪水中の水面形の時間変化に洪水現象の全 ての情報が現れているとの考えから,水面形の時間変化 を解とした非定常平面二次元解析法を提案している
1). この解析法の特徴は,観測精度の高い水位ハイドログラ フを上下流側の境界条件として与え,粗度係数は河道が もつ固有の値,樹木群透過係数は河道スケールやその繁 茂状況による値を用いて
3),観測水面形を捉えるように 水位と河床高を同時に解くことで,高精度に洪水流と河 床変動の検討が出来る点にある.樹木群抵抗は式(1)に示 す樹木群透過係数を用いて評価する.
ここで, K :樹木群透過係数, h
tree:樹高, g :重力 加速度, ( u , v ) ・ ( U , V ) : ( x , y ) ・ ( , ) 方向流速成分 である.従来までの洪水流解析
3)では,水面形の時間変 化や流量ハイドログラフの算出を目的とし,樹木群抵抗 はある区間の平均的な抵抗値として考えてきた. しかし,
樹木群内の土砂堆積を表現するには,より詳細に抵抗分 布を考慮する必要がある.ここで,一メッシュ毎に抵抗 値を変化させることは実用的ではない.よって,本解析 では,航空写真を用いて樹木群の粗密を判断し,密に繁 茂している樹木群には大きな抵抗値を与えることで,樹 木群内の土砂堆積を再現する.また,上流域から大量に 流入する土砂の影響を考慮するため,解析上流端に与え る浮遊砂の境界条件を
2パターン用意した.解析
Case1では検討領域上流に設けた助走区間で浮遊砂濃度を発達 させ,その濃度を与えている.解析
Case2では,実測値 で示される縦断的な堆積土砂量を再現するように,助走 区間内で浮上量を増大させ求めた濃度を上流端で与える.
(2) 解析結果
図-5 に痕跡水位と解析最大水位の縦断分布の比較及 び解析水面形に対する観測水位の比較を示す. 図-6 に実 測流量に対する流量ハイドログラフの比較と
Case1,Case2
の浮遊砂濃度ハイドログラフを示す.それぞれ,
実線が解析
Case1,点線が解析Case2,プロットが観測値である. 表-1 は解析に用いた粗度係数と樹木群透過係数 を示している.密に繁茂している樹木群には
10m/s~-4 0 4 8
0 200 400 600
H16年
H19年 みお筋
5.57 5.77
左岸砂州
標高(m) 樹木群
図-3
3.6km地点の横断面と左右岸痕跡水位
横断距離
(m)1 3 5 7 9 11
0 100 200 300 400 500 H16年
H19年
図-4
12.0km地点の横断面標高(m) 0.3m~0.4m
横断距離
(m) 13 5 7 9 11
0 100 200 300 400 500 H16年
H19年
図-4
12.0km地点の横断面標高(m) 0.3m~0.4m
横断距離
(m) flow写真-3
15.5km地点右岸における耕作地の侵食
写真-2
H19年
6月時
3.6km地点 シルト
砂礫 左岸砂州の土砂堆積
3.6km4.0km
:樹木群繁茂領域
5.0km
-0.6 -0.4 -0.2 -0.1 -0.05 0.05 0.1 0.2 0.4 0.6 洗掘
(m) 堆積
flow
図-2 低水路における実測河床変動コンター
6.0km
15m/s,疎に繁茂している樹木群には,福岡らのこれまで
の研究を基に
35m/s~60m/sの値を用いた
3).図-5 より,
1.2km
地点の水位上昇期において解析値と観測値の対応
が悪い.しかし,他の時間帯及び痕跡水位と解析最大水 位の縦断分布は概ね一致しており,流量ハイドログラフ も実測値をほぼ捉えている.また,浮遊砂濃度ハイドロ グラフは上昇期と下降期にピークを迎え,二山の波形と なる.これは,黒田らの調査結果
2)と一致する.
図-7 に実測低水路河床変動コンターと解析河床変動 コンターの比較を示す.洪水後の測量は
12.0km断面を 除き,低水路沿いのみで行われている.よって,実測コ ンターでは
12.0km断面を除き,高水敷の河床変動量を
0として示している.解析河床変動コンターより,低水路 河床には縦断的に土砂が堆積しており,耕作地は洗掘傾 向にある.実測値と比較すると,4.0km 付近の低水路内 や樹木群内における土砂堆積の傾向,
12.0km地点におけ る耕作地の浸食が再現されている.しかし,解析
Case1では縦断的な堆積土砂量が少ない.
3.6km地点において,
実測値では
0.2m程度の堆積が生じているが,解析
Case1では
0.05m程度しか生じていない.一方,解析
Case2で
は解析
Case1に比べ縦断的な堆積土砂量が多く,3.6km
地点でも,実測値と同程度の
0.2m程度の堆積が生じて いる.このように,浮遊砂による河道内土砂堆積を検討 するには,上流域から流入する土砂量を考慮に入れるこ とが重要であると分かる.以下では,解析
Case2を用い て考察を進める.
(3) 海域への土砂流出特性
図-8 に粒径階ごとの浮遊砂量ハイドログラフ(Case2) を示す.青線が上流域から流入する浮遊砂量,赤線が海 へ流出する浮遊砂量である.Rubey の式
4)を用いて各粒 子が
1m沈降するのに要する時間を計算すると,
d=0.01mm
が約
3時間,d=0.05mm が約
7.5分となる.こ のように,d=0.01mm の浮遊砂は沈降しづらく,流水に 乗り素早く流れ出るため,上昇期に多く流出している.
また,d=0.05mm の浮遊砂は沈降・浮上を繰り返し河床 と交換しながら流れるため, 下降期に多く流出している.
表-1 解析に用いた粗度係数と樹木群透過係数
低水路
0.015~0.020密な樹木群
10~15高水敷
0.035疎な樹木群
35~60樹木群透過係数(m/s) 粗度係数(m
1/3s)-2 0 2 4 6 8 10 12 14
-2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
標高(m)
縦断距離(km) 解析水面形に対する観測水位の比較
10/8 6:00 10/8 12:00 10/9 18:00
10/10 18:00 痕跡水位 左岸 平均河床高
図-5 痕跡水位と解析最大水位の縦断分布の比較及び
実線:解析Case1プロット:観測値 点線:解析Case2
-2 0 2 4 6 8 10 12 14
-2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
標高(m)
縦断距離(km) 解析水面形に対する観測水位の比較
10/8 6:00 10/8 12:00 10/9 18:00
10/10 18:00 痕跡水位 左岸 平均河床高
図-5 痕跡水位と解析最大水位の縦断分布の比較及び
実線:解析Case1プロット:観測値 点線:解析Case2
[KP1.5] Case1 流量 [KP1.5] Case2 流量 [KP1.5] 観測流量
[KP0.2] Case1 浮遊砂濃度 [KP0.2] Case2 浮遊砂濃度
時間(min)
流量(m3/s) 浮遊砂濃度(ppm)
図-6 実測流量に対する流量ハイドログラフの比較と
Case1,Case2の浮遊砂濃度ハイドログラフ 0400 800 1200 1600
2000 4000 6000 8000
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 [KP1.5] Case1 流量
[KP1.5] Case2 流量 [KP1.5] 観測流量
[KP0.2] Case1 浮遊砂濃度 [KP0.2] Case2 浮遊砂濃度
時間(min)
流量(m3/s) 浮遊砂濃度(ppm)
図-6 実測流量に対する流量ハイドログラフの比較と
Case1,Case2の浮遊砂濃度ハイドログラフ 0400 800 1200 1600
2000 4000 6000 8000
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
:樹木群繁茂領域
:河床材料調査地点
Case1:
Case2
:
4.0km
6.0km 8.0km
10.0km 12.0km
図-7 実測低水路河床変動コンターと解析河床変動コンターの比較
*実測では12.0km断面を除き
高水敷の河床変動量を0として示している
.
0.6 0.4 0.2 0.1 0.05 -0.05 -0.1 -0.2 -0.4 -0.6 洗掘
堆積
実測 :
(m)流下に伴い浮遊土砂の分級が生じており,その結果,
0.2km
地点では二山の波形となる.
(4) 蛇行低水路の土砂堆積に与える樹木群と耕作地の 影響
図-9 に4.0km 付近の水位ピーク時における流速ベクト ルと河床変動コンター(Case2)を示す.高水敷において高 流速が発生し,樹木群内で流速が低下している.低水路 が蛇行している
5.0km付近では,樹木群内の遅い流れが 流入することで,低水路内において顕著な流速低減(1m/s 程度)が生じている.河床に関しては,低水路から高水敷 に流れが乗り上がる個所において局所的に大きな洗掘が 生じ,耕作地が平均的に
0.05m~0.1m程度洗掘されてい る.また,蛇行低水路沿いの樹木群の影響で流速が低減 する個所において,土砂堆積が生じている. 図-7 に示す 樹木群内の土砂堆積は,洪水減衰期に高水敷から水が引 く際に生じる.しかし,洪水流に伴う堆積土砂も毎年発 生する低水路満杯程度の水位で流れる融雪出水の作用に より,流送されると考えられることから,H18 年洪水流 解析後の河床形状・粒度構成を用いて,融雪出水 (200m
3/s)による河床変動解析を行った.図-10に
5.0km地点における解析初期に与えた粒度分布と解析により求 めた粒度分布の変化に示す(図-9 に調査位置を示す).平 水時の低水路河床に存在する材料は砂礫であるが,夏の 洪水により低水路河床には土砂が堆積する.その堆積土 砂の粒度分布は耕作地に存在したシルトであることが分 かる.その後,融雪出水を解くと,低水路に堆積してい た土砂は流送され,本来河床に存在していた粒径に近づ く.すなわち,低水路河床形状は融雪出水の作用により 維持されていると言える.
6.まとめ
本研究では,上流域や高水敷耕作地から多量の土砂供 給が生じる河道において,洪水時の土砂流出特性及び洪
水流と河床変動に与える蛇行低水路沿いの樹木群の影響 を検討した.以下に,得られた主な結論を示す.
(1)
蛇行低水路沿いに繁茂する樹木群は低水路内流速 を低減させ,土砂堆積が生じ得ることを示し,堆積 土砂は上流域及び高水敷耕作地から流送されるシ ルトであることを示した.
(2)
非定常平面二次元解析を用いた検討より,浮遊砂に よる河道内土砂堆積を検討するには,上流域から流 入する土砂量を考慮に入れる重要性を示した.
(3)
流下に伴い浮遊土砂の分級が生じ,洪水上昇期に比 較的細かな粒径,洪水下降期には比較的粗い粒径の 土砂が海域へ流出し,浮遊砂濃度は洪水中に二山の 波形を形成することを示した.
(4)
毎年発生する融雪出水により,洪水時に堆積した細 粒土砂は流送され,元来河床に存在した砂礫が河床 表層に現れることを示した.
参考文献 :
1)福岡捷二:洪水の水理と河道の設計法,森北 出版,
2005.
2)黒田保孝,加納浩夫,奥山昌幸:常呂川水 系常呂川における土砂流出調査に関する報告,河川技術論 文集,第
10巻,
pp.167-172,
2004.
3)福岡捷二,藤澤寛,
大沼史佳:利根川河道の樹木群透過係数と高水敷粗度係数,
河川技術論文集,第13巻,pp.333-338,2007.4) 土木学会 水理委員会:水理公式集〔平成
11年版〕 ,丸善,
1999.
:河床材料調査地点 図-9 流速ベクトルと河床変動コンター(Case2)
: 1m
/s:樹木群繁茂領域
-0.6 -0.4 -0.2 -0.1 -0.05 0.05 0.1 0.2 0.4 0.6 洗掘
(m) 堆積
4.0km 5.0km
時間(min)
浮遊砂量(m3 /s)図-8 粒径階ごとの浮遊砂量ハイドログラフ(Case2)
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
2000 4000 6000 8000
[KP0.2] 全浮遊砂量 [KP0.2] 浮遊砂量 d=0.01mm [KP0.2] 浮遊砂量 d=0.05mm [KP20.0] 全浮遊砂量
[KP20.0] 浮遊砂量 d=0.01mm [KP20.0] 浮遊砂量 d=0.05mm
0 20 40 60 80 100
0.001 0.01 0.1 1 10 100
図-10 解析初期粒度と解析により求めた粒度の変化 粒径
(mm)通過質量百分率(%)
5km H18年洪水後の粒度 5km 初期粒度
粘土 シルト 砂 礫 5km 融雪出水後の粒度 耕作地 初期粒度