英語教育とインターネット
著者 中北 里, 上岡 サト子, 伊東 治己
雑誌名 教育実践研究指導センター研究紀要
巻 5
ページ 89‑101
発行年 1996‑03‑31
その他のタイトル English Language Education and the Internet URL http://hdl.handle.net/10105/4379
英語教育とインターネット
中 北 ・I!
(奈良教育大学大学院英語教育専攻) 上 岡 サト子
(大阪国際大学非常勤講師) (Ji >4i 冶 己 (奈良教育大学英語教室)
English Language Education and the Internet
NAKAKITA Michi
(Graduate School, Nara University of Education) UEOKA Satoko
(Osaka International University) ITO Harumi
(Nara University of Education)
要旨:本稿では、コンピュータを計算機としてではなく、あくまで情報ツールとして捉え、英語 教育におけるコンピュータ利用の新しい展開を提言する。とくに、情報化時代の担い手となって いるインターネットに注目し、今日の英語教育の重要な課題となっている情報伝達能力の育成と いう観点から、情報収集・発信を主な機能とするインターネットの利用価値とその利用形態につ いて考察していく。
キーワード:インタ‑ネット、コミュニケーション能力
1.はじめに
今日、 「コンピュータ」という言糞はわれわれの社会の中で氾濫している。その語源をひもと くと、 「計算する人・物」という意味であるが、コンピュータはすでにその領域を凌駕している。
社会の急速な国際化、情報化に伴い、コンビュ‑夕の役割は、情報ネットワークとしての働きが 主なものとなった。そして新しい情報ネットワークとして、今、インターネットが注目を集めて いる。もちろんコンピュータは社会だけでなく、学校内においても使われている。各教科で、コ
ンピュータ利用教育、すなわちCA I (Computer Assisted Instruction)の実践が試みられて いる.英語教育でも、コンピュータ利用教育の試みはすでに多く行われている。ただ英語科の場 合は、 LL (Language Laboratory)からCAIが発展してきたといういきさつがあるので、ど ちらかと言えば、コンピュータは主に語学訓練装置として使われてきている。社会でのコンピュー
タ利用か情報機器として使われてきているので、英語科におけるコンピュータの使い方も、従来
の語学訓練型から情報型への移行が求められてきている。折りLも、平成元年度の学習指導要領
の改訂では、コミュニケーション能力、すなわち英語による情報伝達能力の育成に重点がおかれ
ることになった。よって英語教育でも、情報の収集・発信を主な機能するコンピュータの利用、
しかもインターネットの利用が大いに注目される。ここでは英語教育とインターネットの関わり 方を考察する。
2.インターネットと英語教育の接点
2.1.コンピュータと英語教育
従来のCAIは、視聴覚教材とマルチ・メディア化された授業により、学習者の学習意欲や興 味をかきたてることができた。また基本的にはプログラム学習であるので、学習の個別化が可能 であった。しかしながら、英語科におけるコミュニケ‑ション能力の育成という観点からすれば、
これまでのCAIの利用形態には2っの大きな問題が指摘される。まず第1に、英語科のCAI は、 LLから派生してきているので、語学訓練的性格が強く、体系付けられたドリルと練習がそ の利用形態の中心となっている。生徒がコンピュータの前に座り、プログラムにそって問題に答 えると、コンピュータからは前もってプログラム化された反応のみが返ってきたo このような語 学訓練的CAIでは学習者は人間の発信相手をもたず、仮にいたとしても、ソフトを作ったプロ グラム作成者である。だから、日常の会話では送り手と受け取り手の間でネゴシエーションが行 われるが、 CA Iではそれが行われにくい。要するに、従来のCAIは、人間対機械の関係であっ たと言える。第2に、コンピュータから学習者に提示される情報は、主に語学訓練、つまり英語 の学習を促進するための情報であった。ゆえに、英語の言菜としての自然さ(authenticity)が 必ずしも考慮されなかった。これらの問題をかかえた従来型のCA Iは、世界的な規模で進行し ているコミュニケーション志向を背景に現代の外国語教育界において教授法の主流を成している CLT (Communicative Language Teaching)とは結び付きにくい。
ここでは、このような問題点を改良するため、その一つの方向性としてコンピュータの捉え方 を根本的に変えることを提案したい。様々な情報が国境を越えて瞬時に伝達される現実社会を踏 まえれば、英語教育においてもコンピュータを視聴覚教授メディアとしてではなく、新しく「情 報メディア」として捉えなおす必要がある。なぜなら、情報伝達能力そのものが、学習指導要領 において外国語科の主要な目標と見なされているコミュニケーション能力の中核だからである (伊東1994)。ゆえに、もう一度コミュニケーションの基本に帰って、コンピュータを情報tool として捉え直す作業が必要である。これからは、コンピュータを英語でのcommunication skill を促進するための手段として使わなければならない。また、コンピュータは学習者に authenticityのある情報を提供しなくてはならない。しかもその情報は、学習を促進させるため の情報というよりはむしろ、学習者自身が望む情報でなくてはならない。さらに学習者自身がコ ンピュータを使って情報を発信できることが望まれる。また、人間との関係に着目するならば、
コンピュータは人間の手助けをする道具、つまり、主体はあくまでも人間でなくてはならない。
このような新しい考え方は、英語教育をますます発展させるための足掛りとなるだろう。今まさ に、コンピュータと英語教育の関係が新しい視点から問われているのである。
以上のような従来のコンピュータの見方と新しいコンビュ‑夕の見方を比較してみると、次 の表1のような傾向が見られる。
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英語教育とインタ‑ネット
表1従来のコンピュータ利用と新しいコンピュータ利用の比較
met:〜 i 1.利用日的 drill and practice 2. interaction 人間対機械
新CAl 情報収集・発信 人間対人問
3.教材 systematic/programmed unpredictable/ authentic 4.教材の位置付け Ianguage for learning language for communication
この旧CAIから新CAIへの移行を可能にするためには、 CAI担当者だけでなく、英語教 師1人ひとりがコンピュータに対する意識改革をする必要がある。英語教師の中にはコンピュー タを嫌う者もいるが、コンピュータを情報toolとして身近かに考える必要がある。折りLも、実 社会では、コンピュータの意識改革がすでに始まっている。情報メディアとしてのコンビュ‑夕、
さらに個々のコンピュータを相互に結び付ける世界的コンピュータ・ネットワークであるインター ネットの普及が目ざましい。インターネットは英語教育の発展に大いに寄与する可能性を秘めて いるO なぜならインターネットには、新CAIの特徴との共通点が多々見られるからである。
2.2.インターネットの特徴
ここでは、英語教育を視野に入れながら、インターネットの特徴を見ていく。まず第‑の特徴 として、そのdobal性を指摘することができる。インターネットが出現する前にも、コンピュー タ・ネットワークは存在していた。しかしながら、それらは主にローカルなネットワークであっ た。だから、そのネットワーク外との通信は不可能であったし、たとえ通信できても操作手順が 煩雑であった。ローカルなネットワークを相互に連携したのがインターネットで、今日では世界
中に接続されているOすでに1 994年現在で1 46か国に接続されており、そのユーザー数は 3 0 00万人ともいわれていたので、今日ではその数はさらに増えているものと恩われる。例え ば、自分の欲しい情報を検索するとき、従来のローカルなネットワークでは自分のネットワーク 内でしか情報を検索できなかったが、インターネットではそのglobal性を生かして、世界中のコ ンピュータを渡り歩いで情報を検索することができる。また、逆に世界に自分の情報を発信する こともできる。要するに、インターネットではコンピュータの画面の向こうにはまさに世界が広 がっており、世界を相手に通信を行うことができるのである。
インターネットの第二の特徴としては、 interactiveであることを指摘できる。そもそも、コン ビュ‑夕・ネットワ‑クの大きな特徴は、人間同志のインターラクションが行えることである。
従来は閉ざされたネットワ‑ク内でのインターラクションが主で、その範囲は限られていた。一 方、インターネットではネットワークが世界中に張り巡らされているので、ネットワ‑クを通じ てあらゆる人間が様々な場所で通信することができる。要するに、インターラクションの範囲が 全世界にまで広まったのである。
第一の特徴に派生して、地球規模でのreal time性が第三の特徴としてあげることができる。
従来のネットワークでは、物理的制約が大きかった。例えば、地球の裏側の人に通信しようと思 えば、途中の操作が煩雑であったし、そのコンピュータがネットワークに結ばれていなかったら、
通信することはできなかった。しかしながら、インターネットでは、たとえ地球の裏側の人にで
も瞬時に通信することができる。インターネットには地理的な制約がないのと同様に、時間的な 制約からも開放されているのである。
インターネットの第四の特徴として、英語が主流であることがあげられる。従来のコンピュー タ・ネットワ‑クでは、とくにそれが日本人同志のネットワークでは、日本語が媒介であった。
しかしながら、インタ‑ネットでは、日本人同志ではE]本譜で情報通信が行われているが、言葉 を異にするもの同志では英語で通信しあう場合がほとんどのようである。例えば、日本人対アメ リカ人ではもちろんのこと、第‑言語を英語にしないもの同志でも、英語を使うことが通例であ る。そのため、インターネットの公用語は英語であると唱える人もいる。
第五の特徴として、インターネットの多面性があげられる。インターネットでは文字を主流と した通信を行うことだけでなく、技術面での進歩により、マルチメディア、 ‑イパーメディア的 通信もいっそう容易になった。文字、音声、映像など異なるメディアが統合的に取り扱われてい
る。だから、絵や音や動画をやり叡りしながら、対話したり、情報を提供したり収集したりする こともできるO このように、インターネットは従来のコンピュータ・ネットワークよりさらにマ ルチメディア化された新しい通信環境を提供してくれている。インターネットでは情報のほとん どが英語であるため、英語が不得意な人にとっては時にはそのことか情報収集の壁となりそうで あるが、映像を通しても情報を交換しているために、仮に英語が不得意な人にも十分に理解でき ることが多い。その意味で、多面的なのである。
2.3.インターネットの利用価値
前回の学習指導要領と比べ、平成元年度の学習指導要領の改訂では、国際化の進展に対応して コミュニケ‑ション能力の育成にさらに大きなウエイトが置かれるようになった。現代の日本の 学校教育でも、コミュニケーション能力の育成に主眼を置くCLTがますます主流となってきて
いる.学習指導要領で掲げられている指導目標を達成するための一つの手段として、 ∫ ET (Japan Exchange and Teaching)プログラムが導入され、英語を母語とする青年がALT (Assistant Language Teacher)として中学校や高校の英語教室に配置されるようになった。し かしながら、教育現場でコミュニケーション能力を育成するためには、まだまだ問題が多く残っ ている。例えば、日本の教室ではたいてい教師1人に対し生徒は40人である。当然、コミュニ ケーションを教室で行おうと恩えば、 ‑人当たりのコミュニケーションの量は非常に少ない。ま た、学校教育では、発信先は主に教室内の生徒か教師に限られてくる。このことは結局、自然な コミュニケーションではなく、不自然な教室英語につながってしまう。さらに情報の質的・量的 限界もある。日本人教師による授業ではもちろんのこと、 ALTとのティーム・ティーチングで さえも、教室内で交わされる情報は、あるひとつの国の情報、あるspecificなことがらについて の情報、あるいALTの個人的情報に限られてくる。
このような現場の悩みを、インターネットは解決してくる可能性を秘めている。まず、上で述 べたように、通常授業で生徒が交わすコミュニケーションの量は限られている。もし、 CAIの 中でインターネットを利用すれは、基本的にはコンピュータによる個別学習であるから、学習者
1人または2人で1台のコンピュータを利用することができ、学習者は莫大なコミュニケーショ ンにさらされることになる.次に、通常授業では、発信先が限られているが、インターネットで は世界の不特定多数の人々に発信することができる。さらに、その発信は決して架空なものでは なく、本当に生きたコミュニケーションにつながる可能性がある。最後に、通常授業では情報ソー
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英語教育とインターネット
スが限られているという問題があるが、インターネットは世界中に接続されていため、情報は当 然様々な国から得ることができ、その内容も実に多種多様である。だから、情報の偏りがなくな る。こういう特徴を情報伝達に主眼を置くCLTに取り組むことにより、教室内においてもます ますコミュニケーション能力の育成を促進させることができる。
では次に、英語教育の中でインターネットをどのように利用できるのか考えてみる。もともと 代表的な利用形態として、 E‑Mailがある. E‑Mailはインターネットの最も基本的な機能で、
メッセージのやり取りであり、手紙による文通とよく似ている。しかし、このE‑Mailと文通と は、情報伝達の即時性、不特定多数とのやりとりが可能であること、文面を簡潔化できることと いう3つの点で大きく異なっている。異体的には、まず即時性に関しては、文通では相手に届く までに日数を要するが、 E‑Mailでは世界中のどこにでも、たとえそれが地球の裏側でも、秒壁 位でやりとりすることができる点を指摘できる。不特定多数とのやりとりが可能であることに関 しては、文通では1対1の形で手紙を送っていたが、 E‑Mailでは1対1の形であったり、メー リングリスト(後述)を利用することにより、一度に複数のユーザーに同一のメールを送ること ができる。そのため、特にその人に出したっもりはないのに、思いがけない人から返事が返って くるときもある。よって、何かの調査をするときには非常に便利である。文面を簡潔化できる点 に関しては、 E‑Mailでは時候の挨拶など手紙では落しにくいものを省略でき、要点だけで済ま すことができる。何か書き忘れても、すぐにまたメールを送ればよい。さらに、 E‑Mailでは、
不特定多数に発信する場合、人間関係をあまり意識しなくてもよいことも、文面を簡潔にするこ とができることにつながっている。
そのほか、 E‑Mailの一般的な特徴としては、メッセージを読む時間があるので文字を認知し、
考える時間が十分にあること、文字情報であるから発信する場合に日本人特有のアクセントがな くなること、操作手順が簡単であること、電話回線からでも接続できること、などもあげられる。
一方、 E‑Mailでは面とむかって対話しないために、ボディーランゲッジを使うことができない、
直接あって話をすることができない、などの限界もある。
E‑Mailは主に文字情報であるが、その文字情報に映像・音声を付加し、情報伝達の便を図っ ているのがホームペ‑ジである。現在、このホームページを媒介として、世界中で情報発信・収 集が盛んに行われている。今までは図書館や観光局へ行き、自分の欲しい情報を自分の足を運ん で収集する形が主流であったが、ホームペ‑ジにアクセスするだけで欲しい情報を瞬時に手に入 れることができるようになったO たいていの公の機関はすでにホ‑ムペ‑ジを公開しているo も し、興味ある情報が見っかれば、その情報をファイル化し、手元においておくこともできる。し かも、その情報は地図や写真といった映像付であるから学習者にとってもわかりやすいものであ
るし、真実性がある。また、それらの情報は、多くの場合英語で書かれているので、 reading指 導と結び付けられそうである。さらにその情報を生かして、何かのプロジェクトが行えそうであ る。例えば、自分で好きなテーマを選んで、ホームページで情報を検索するO その情報をまとめ て、一つのレポートにすることもできる。また、ホームページにより、異文化理解教育も行えそ うである。例えば、目標国の政府のホームページにアクセスし、その国の情報を集めてみる。自 分の国にいてはとても集められそうにないくらいの情報が手に入る。しかも、絵や写真、地図と
いった映像付であるから、文化理解にはいっそう役立っ。
ホームページは情報収集の道具としてだけでなく、情報発信の道具としても使うことができる。
従来型の英作文指導で自分が書いた英文は、せいぜい教師や自分のクラスメートにしか見てもら
えず、いわば身内がaudienceであった。しかし、ホームページを使えば世界に情報を発信する ことができるので、不特定多数の人々に自分が書いた英文を見てもらえることになる。つまり、
世界に自分を紹介することになる。このように、ホームページは学習者に本物の「自己表現の場」
を提供してくれる。考えてみれば、英語教育においてこのような「自己表現の場」は非常に少な かったように恩える。それゆえに、ホームページは日本人英語学習者にとって、 writingへの強 力な動機付けとなるであろう。
以上のようなインターネットの特徴を考慮に入れると、インターネットは日本の英語教育に大 いに寄与してくれそうである。英語教育で重要視されているコミュニケーション能力の育成だけ でなく、総合的な問題解決の手段としても使えそうである。日本の英語教育では、伝統的に、
speech primacyの観点から話すこと、聞くことに指導の重点がおかれてきた。もし、インター ネットを英語教育に導入するならば、これからはreadingやwritineの指導もますます大事になり そうである。次の図1は、インターネットと英語教育の関係を模式的に示したものである。
図1 インターネットの特徴と英語教育
インターネットの特徴
global interactive real time
・英語が主流
・彰idi&'j
英語教育
・ E‑Mailの利用
・ホームページの利用
コミュニケーショ ン
能力の育成
学習指導要領における 英語科の目標達成
3. E‑Mailを利用した英語教育
E‑Mailをはじめた頃、オーストラリアに送った筆者(上岡)のE‑Mailの返事がすぐに届き、
ディスプレイに表示されたE‑Mail特有の格式ぼらないE)本語のメッセージを目にした時、軽い めまいと無重力感覚を経験したことを今でもよく憶えている。インターネットは時間と空間をゼ ロ化すると一般に言われていることを実体験したのである。 Toffler(1970)が予測していた「未 来の衝撃」そのものであった。ここ1、 2年の間に始まった技術の進歩の衝撃の深さと広さは、
量るべくもないが、今後大きな変化が予想される。教育の分野も例外ではなく、インターネット 上では英語が共通語と喧伝されるなか、 E‑Mailを始めとして、各種関連機能を英語教育に活用 する試みが既に始まっている。本節では、 E‑Mailに焦点をあて、英語によるミュニケーシヨン
の能力を育成するという目標にどのような形で貢献できるかを考えてゆきたい。
3.1.なぜE‑Mailに注目するか
現代は多様化した通信手段を必要に応じて選択的に利用する時代である。そこで、ここではま
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ず、 E‑Mailに注目する理由を考えてみる。まず第一に、情報伝達の迅速性をあげることができ る。主として、 TCP/IPによって相互に接続されたネットワークが伝送路となっで情報が瞬時に 移送される仕組みである。速さという点では電話やFAXと大差はないかもしれないが、手紙な ら往復10日前後かかる外国の人々とのコミュニケーションが秒単位で可能になるうえ、大量の情 報を送ることができる。情報基盤の整備が進み、誰もが利用できるようになれば、この面での効 率性は更に進むと予想される。第二の理由として、英語が情報発信の中心言語となっている事実 をあげることができる。英語圏は勿論のこと、非英語圏に於いても、英語が伝達手段として使わ れている現状で、 E‑Mailが普及すればますますその傾向が強くなるものと予想される0 E‑Mail で大量の情報の伝達が可能であると述べたが、 Mailing listを通じて筆者宛てに送られて来るメー ルは総て英語である。但し、自国語でメ‑ルを送ることも可能であるので、海外の日本語学習者 とのBilingual交流も可能であるO次に、 E‑Mailの経済性を第三の理由として指摘することがで きる。パソコン通信やインターネットは相当な維持費がかかると一般に恩われているが、器材、
設備費用を除いて、 E‑Mailに関する限り、国際電話やFAXなどよりはるかに安上がりである。
‑クラス4 0人前後の生徒が使用する学校での授業では、なおさらその経済性は大きな利点であ る。家庭のコンピュータからも、国内のパソコン通信と契約するか、ダイヤルアップユーザー向 けのプロバイダ‑と契約することによって、インタ‑ネットに接続することができる。英語によ る情報発信能力をある程度身につけることが出来れば、教室を離れての生徒の自由な交流も、家 計にそれ程の負担をかけずに可能になる。第4の理由として、 E‑Mailで送られてきたメッセー ジを多角的に利用できる点を挙げることができる。たとえば、 E‑Mailアドレスに送られて来た 情報は、保存し何度でも画面に映し出し、必要があれば印刷も可能である。集積された情報を整 理、分類するなかで、新しい発見をし、情報を再構成しながら、レポ‑トを作成するなど、創造 的で高度な学習へ発展させることもできる。つまり、コンビュ‑夕と人間の頑脳のそれぞれの特 性を生かした協同作業も可能になる。
もちろん、 E‑Maiユを活用する上で、問題点もある。特に、従来の教師の役割の変換が強く迫 られている。 E‑Mailを活用した授業では個別学習が基本となるため、従来のような一斉指導の 指導技術は使いにくいO さらに、 E‑Mail自体、新しい媒体であるため、従来の教科書中心の指 導方法も変えて行かなくてはならない。さらに、海外のクラスと交流を図る場合には、交流相手 を探し、連絡を取り、相手クラスと授業計画を話し合うなど、教師の果たす役割りも大きく変化 してこざるを得ない。
ところで、筆者(上岡)は今年度の授業に試験的にE‑Mailを取り入れたが、学生の反応を調 査するための簡単なアンケートを実施したO大学2回生、登録者数3 6名、長欠者4名、当日出 席者3 0名に「あなたの感じたE‑Mailの良い点は何ですか」という質問をした。すると、 「手紙 より早くコミュニケ‑シヨンがとれる」、 「外国の人ともより早く、メッセージの交換ができる」、
「簡単にメールが送れる」、 「外国の人と文章での交流ができる」、 「高遠かつ用紙を必要としない 点で安価である」、 「電話と違い、こちらの都合のいいとき返信できるし、英語をしらべながらで もゆっくりできる」、 「その場にいながら生きた情報を入手できる」、などメールを早く簡単に送 れる点や外国の人々と交流ができる点を指摘する回答が多かった。
3.2. E‑Mailをどう使うか
まず第一に、 E‑Mailは文字情報を媒介としているので、ライティングの指導に生かすことが
できる E‑Mailをライティング指導に生かす理由としては、書かれたメッセージは交信相手に 確実に発信され、読まれるので、たとえ学習であっても、実際のコミュニケーションが成立して いることを挙げることができる。朝尾(1994)が「これまでのライティングの授業は学生はひた すら読者のいない文章を書き続けているのだ」と述べているように、 E‑Mailを使っての本物のa udienceを意識したライティング学習と、従来の和文英訳を中心としたライティング学習との違 いは明かである。さらに、教育ソフトを使ったコンピュータによる学習とは違って、学習者一人 ひとりがディスプレイの向こうに広がっている世界をイメージし、自発的・積極的に働きかけな ければ、画面は空自のままであり、学習は少しも進展しないという点で、生徒の自律性を大いに 喚起できうる点もE‑Mailに注目する理由である。実際の指導にあたっては、どのような英語を 書かせるかが大きな問題になるが、現在、 E‑Mailのためのわかりやすくて、形式張らない簡潔 な英語表現が模索されている。たとえば、 Angell and Heslop(1994)は、 E‑Mail英語に必要なさ まざまなルールや文体、語嚢の使用について、実用的な説明を行なっているので、この面で参考 になる。いずれにしても、 E‑Mailを使うことで文字を媒介としたコミュニケーション活動を一 層推進することができ、 communicative competenceの育成にも大いに寄与できると考えられる。
筆者の調査によっても、 「E‑Mailは英語学習に役立っと思いますか」という質問に対して、 60.3
%の学生が「そう思う」と回答し、 「E‑Mailの将来について」 80%の学生が「急速に普及する」
と回答しているのが注目される。
次に、問題解決学習の一環としてE‑Mailを利用できる Clinton‑Gore政権が提唱しているア メリカの教育改革の理念の一つは「問題解決能力」の育成である。要するに、既成の知識の受動 的な学習ではなく、学習者が主体的に情報収集し、判断し、自分と世界の関係を認知する学習で あるが、こうした学習にもE‑Mailを活用することが可能である。 Hunter(1995)が紹介している アメリカの学習例を見ると、環境問題に関する学習をはじめ、多岐にわたっている。降雨の酸性 度、オゾンレベル、河川の水質、気候の変化や公害が生態系を変化させる指標、紫外線が動植物
に与える影響等々に関して、ネットワークを通じて調査する。こうした学習を進める方法として、
Mailing listに登録し、関心のあるテーマについて世界的なネットワ‑クに参加することが考え られる。ただ、時には洪水のように情報が寄せられて来るので、 readingの能力がこのような学 習では必要であり、その結果「情報リテラシ‑」も高められる。
第三に、異文化理解教育の一環としてもE‑Mailを利用できる。例えば、 E‑Mailによるシンガ ポールとケベックの学生のクラス問交流がSoh and Soon(1991)によって報告されている。これ は、中国語を母語とするグループとフランス語を母語とするグループの国際協力学習である。 EI Mailの学習相手として異なった文化圏に属する相手を選んでいる点に注目したい。それぞれの 文化を代表する現代の物語や民話を書いたテクストを選び、感想や意見をE‑Mailで送り、質問
をしあって、文化や考え方の違いを学習している。
最後に、学校全体で取り組む国際理解教育や人権環境教育に関する学校間交流教育の一環とし て、 E‑Mailの活用が考えられる。こうしたプロジェクトについては、クラスや科目の壁を越え て一つのテーマで交流することになり、全員がなんらかの形でネットワークに参加し、プロジェ クトに貢献する。アメリカの例を再度紹介すると、 The Nicaragua Water Pump Projectが報 告されている(Hunter 1995)。ネットワークを通じて学習した問題から端を発して、このプロ
ジェクトでは子供達はTシャツを売ったりしてお金を集め、清浄な水を確保するための水汲みポ ンプを贈った。グローバルに問題を考える力に乏しい日本の生徒にとって、こうした国際協力学
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習は良い経験になるはずである。
3.3.今後の課題
E‑Mail学習の今後の課題として、つぎの三点について考えてゆきたい。まず第‑は、情報基 盤の整備の問題である。今始まっている「1 00校プロジェクト」は全国の小中高、その他の教 育機関から指定校を選び、インターネットに接続する事業であるが、全国で1 0 0校は十分とは 言えないのではないだろうか。当プロジェクトに選ばれなかった学校と、いわば情報エリート校 との格差が生まれて来るのは必定である。既に述べたように、器材その他の設備費を除いて、大 量の情報をダウンロードしたりしない限り、維持費はそれほどかからない。まず小規模なワーク ステーション方式を導入し、英語教師がE‑Mailその他のインターネットの機能に習熟し、教授 法について内外の英語教師とE‑Mailで情報交換をする、研究会などの事務連絡もそれで行うな ど、積極的利用を始めるというのも、一つの方策かもしれない。
次に、コンピュータ操作の問題であるが、通信ソフトの開発のおかげで、操作は小学生から老 人まで幅広く使えるようになってきている。筆者の前記調査では、 「E‑Mailの操作はどうでした か」との質問に対して、 「簡単だった」が10%, 「普通」が43%であったが、 「難しかった」は46
%であった。 alphabet入力とかな漢字入力の両方の操作を練習したため、過負担になった面もあ る。操作は、コンピュータやワープロを使った経験のある学習者の多い今日、さほど大きな問題 はないが、学習の目的や取り組み方について詳しく説明し、学習者の持っている新しい技術への 不安とためらいを取り除いて、否定的姿勢から肯定的姿勢‑転換させる努力が望まれる.学習者 のレディネスを育てるのにかなりの待ち時間が必要である。
さて、 E‑Mail学習には個人単位であれ、クラス単位であれ交流のための相手先を探す必要が ある。 KIDSPHEREは、そのためのMailing listの一つである。 Mailing listについては、基本 的には2つのタイプ、 Internet mailing listsとBitnet mailing‑ listsがある。例えばBitnet mailing listsに加入するためには、 LISTSERVE@BITNETにメ‑ルを送れば、 Mailing listsの 一覧が送られてくる。その中から自分が加入を希望するリストを選ぶことができる。
4.ホームページを利用した中学校英語教科書のハイパーテキスト化試案
4.1. FCA Iとの類似性と異質性
インターネット上で公開されているホームページと構造的によく似たものに、 FCAIがある。
これは、国立教育研究所教育情報資料センター教育ソフト開発研究室の堀口秀嗣室長を中心に開 発されたCAIのためのシステムである(黒田1990:ll)。 Frame Type CAIの略で、その名 前が示すようにフレ‑ム型CAIの一種であり、コンビュ‑夕の教育利用研修講座などにおいて 頻繁に取り上げられている。その開発理念は、他機種で共有できること、少ない命令で記述でき ること、気軽に修正し再利用できること、使い慣れたワープロソフトでつくれることの4つであ り、それが功を奏してか、現在、 CAIの開発・実行環境としてほ、日本の学校教育においてもっ とも多く利用されているシステムである(井口1994:8)。この4っの開発理念は、ほぼそのまま の形でホームページにも当てはまる。このことは、今後のホームページの教育利用に大きなはず みとなるに違いない。
ただ、次のような相違点も意識しておく必要がある。まず、 FCAIはいわば閉塞的なシステ
ムであるが、ホ‑ムページは限りなく開放的であるO近い将来、インターネットが各家庭にまで 普及すれば、家庭からも簡単にアクセスすることができるばかりでなく、ホームページからそれ こそ全世界に飛んで行けるのであるo次に、ハイパー・メディアとしての性格がFCAIよりも 格段に強くなっていることも指摘できる。さらに、データを集中的に管理することができ、生徒 各自にフロッピーの形で配布する必要が無いことも、大きなメリットになっている。要するに、
インターネット上に公開されるホーム・ペ‑ジは、単なる情報伝達手段ではなく、国際化・情報 化時代にふさわしい教授手段にもなりうるのである。
4.2.ホームぺ‑ジの基本構造
ここで提案しているのは、中学校用英語教科書の各ペ‑ジをホームページによって‑イパーテ キスト化することである。教科書等の版権は別として、ソフト的にはすでにそのための基盤は十 分に形成されているが、それを活用するための‑ード面での基盤整備が現段階では不十分である。
しかし、今日のインターネットの爆発的普及速度を考えれば、いずれ近い将来において基盤整備 も整い、ここでの提案も夢物語ではなくなることが予想される。図2は、ある中学校用教科書の 1ページをホームページ化した場合の予想構造図である。ホームページの大きな特徴は、ペ‑ジ 上のどの部分からでも他のページにリンクできる点であり、学習の個別化がさらに一層促進され ることになる。図2に見られるように、教科書ホームページには以下のような教授活動がリンク されることになる。
ア)音声提示:単語レベル/文レベル/本文全体 イ)意味提示:単語レベル/文レベル/本文全体
イ)例文提示:単語レベル(特に新出単語) /文レベル(特に新出構文) ウ)説明提示:語法/文法/文化や背景的知識
エ)映像提示二本文中に出てくる都市や植物・動物などの映像や会話の場面など オ)問題提示:本文の内容に関する練習問題などの提示
カ)関連ホームページの参照:例えば、 New Yorkの観光案内のホームページ キ)アクセス状況の把握:予習・復習状況を教師の方で確実に把握することができる。
ク) E‑Mailを利用した質問ボックス:対担当教師/対AL' 対全世界
4.3.教科書ホームページの位置付け
次の図3は、教科書ホームページ化システムの‑ード面での位置付けを示したものである。学 校内のコンピュータ教室のサーバーをホストとして、それがコンピュータ教室内の各パソコンと LANで結ばれるO さらに、学校内のコンピュータ教室以外に設置してあるパソコンとも結ばれ、
各家庭とは電話回線で結ばれることになる。さらに、インターネットのノードとして機能する地 域の大学などの公的情報処理センターとも電話回線や光ケーブルで結ばれることになる。公的情 報処理センターはすでに光ケーブルによって全世界のホームページと結ばれているので、結果的 には、中学校のコンピュータ教室や各家庭にあるパソコンが全世界のホームページと結ばれるこ とになる。現段階では多分に夢物語に近い話しであるが、実現にはあまり年数は掛からないので はなかろうか。さらに、将来的には、各教科書会社が自社で出版している中学校用英語教科書の 各ページをホームページ化し、有料又は無償で各中学校にアクセスサービスを提供することも考
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図2 ホ‑ムページの基本構造
図3 教科書ホーム・ページの‑ード的位置付け
えられる。ひょっとして、紙でできた教科書そのものの存在も問われる日が来るかも知れない。
ソフトの面での位置付けに関しては、当面、普通教室での教科書を使っての学習を補佐・援助 するものとして捉えることができる。教室での授業では時間の関係から、例文にしても練習問題
にしても必ずしも十分な量を提供することができない。このホームページを使えば、好きな時間 に好きなだけの例文や説明や練習問題を引き出すことができるばかりでなく、教科書で取り扱わ れている題材に関する映像資料や文字情報を世界の関連ホームページにアクセスして取り寄せる
こともできる。
5.おわりに
インターネットは、教育分野では、いわば生まれたばかりの開発途上中の教育メディアである。
セキュリティ‑の問題など、まだ解決されるべき問題も残っているが、その利用価値は非常に高 いと言わざるを得ない。特に、使用言語の関係から、インターネットは英語教育のためにあるよ
うなものであるといっても決して過言ではない。なぜなら、英語教育が目標としている「英語に よるコミュニケーション」のための道具として利用でき、英語で情報収集・発信ができるからで ある。本稿では、英語授業でのE‑Mailの利用や、教科書の‑イパーテキスト化試案を特に提案
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英語教育とインターネット
したが、その利用法はまだまだ工夫できる。今後インターネットを使って何をどのようにして教 えるかが、われわれ英語教師に課せられた今日的課題である。
引用文献
1) Angell, D. and Heslop, B.: The Elements of E‑mail Style, Addison‑Wesley Publishing Company, 1995
2)朝尾幸次郎: 「ライティング指導におけるネットワークの定義」, 『第33回JACET全国 大会紀要』 , 1994
3) Hunter,I ∴ Learning and teaching on the internet: contributing to educational
reform. In B. Kahin and J. Keller(eds.), Public Access to the Internet, The MIT Press, pp. 90‑92, 19954)井口磯夫(監) : 『FCAI実践シリーズ速習編jl,文渓堂, 1994
5)伊東治己1. 「メディアとコミュニケーション能力の育成」, 『LLA関西支部研究収録』,語 学ラボラトリー関西支部 No.5, pp.ト12, 1994
6)黒田義和(監) : 『FCAI実践シリ‑ズ研修全編』文渓堂, 1990
7) Soh Bee‑Lay and Soon Yee‑Ping : English by e‑mail: creating a global classroom via the medium of computer technology. ELT Journal, 45/4, pp. 287‑292, 1991
Toffler, A. 徳山二郎訳: 『未来の衝撃』中央公論社, 1970, 1982