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国際共通語としての英語と日本の英語教育

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国際共通語としての英語と日本の英語教育

著者 小泉 仁

雑誌名 英語英文学研究

巻 13

ページ 69‑78

発行年 2007‑09

出版者 東京家政大学文学部英語英文学科

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009673/

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国際共通語としての英語と日本の英語教育

小 泉

1.この論文の目的

 2007年3月、ベトナムのハノイ市で、British Counci1の主催により東ア ジアと東南アジアの各国から英語教育行政の担当官、英語教員養成の専門家 等を集めた国際会議Primary Innovations Seminar(1)が開催された。

 この論文の目的は、このセミナーに参加した各国の発表のうち主要なもの について概観し、アジアにおける国際共用語としての英語のステイタスの将 来性にっいて論じること、そして、Graddol(2006)の、英語にっいての人口 統計学的視点からの研究を紹介しっっ、今後の日本の英語教育の向かうべき 方向について論じることである。

2.英語教育の低年齢化への流れ 2.1.参加各国の現況

 上記セミナーの発表に基づき、東アジア、東南アジア各国の小学校英語教 育の現況を紹介する。参加国・地域は下記の他、インドネシア、スリランカ、

マレーシア、日本である。最大の英語学習人口をかかえ今後のアジアにおけ る英語のありようを左右すると言われている中国とインドはこの会議に参加

していない。

2.1.1韓国

 韓国は1997年より小学校に英語科を導入、2000年からは小学校3年から 高校1年までの一貫した教育課程ガイドラインに沿って英語教育を行ってい

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る。Chang1&Jung(2007)(2)は、この10年間で小学校英語の導入という 政府の施策は国民的理解を得られたとする。学習者についてもコミュニケー

ション能力が養われ、NAEA(3)の得点が向上、英語学習の動機付けも高まっ ているとのこと。一・・一一方、問題点として、加熱する塾通いや家庭教師、保護者 の経済力の差や地域差に起因する学力差の拡大を挙げ、教員研修の効果、特 に教員の口頭技能の不十分さも解決するべき問題であると指摘する。特に、

養成・研修面ではteacher trainerの育成、専科教員の養成、研修システム の改善、ALTとしてのネイティブ・スピーカーの供給に言及する。緑川

(1999)は「ソウル市は教員研修にのみ母語話者を起用している」と報告した が、現在では増員が進められている。実際、筆者がハノイのセミナーに引き 続き視察したソウル近郊の小学校では、米国人ALTが授業の中心になって 指導していた。担任とのTTもない単独授業も行うとのことであった。

2.1.2.台湾

 台湾政府は、全ての国民の英語力を増進し、台湾の国際競争力を確保する 必要があると宣言している。公式には2001年より小学校5年から英語教育 が導入され、さらに、2005年には小学校3年から開始と改めた。

Chang2(2007)(4)によれば、開始以来の問題点として、バイリンガルの幼稚 園がブームになるほどの「英語熱」があること、都市部の80%近い学校が

1年生から開始していること、地域によって教員の研修等の環境が整備され ないまま小学校1年や2年から開始したところもあったこと、GEPT(5)の 受験に熱心であること、中学校は二極化の傾向にあること、等の問題点を挙 げている。授業時数にっいても、週1〜2時間という政府規定に対し、実際 には1、2年生は7割程度、5、6年生にっいてはほとんど全ての小学校が、

週2時間の英語授業を実施している。

 このように保護者や地域の要求が先行しそれを追うかたちで行政の政策が 進められて来たため、教材の確保、教員の研修、養成にっいて政府は最も苦 慮してきた。2001年の開始に向けて1999年からPSETTP(6)を実施、

(4)

3500人の英語指導のできる小学校教員を育成するべく研修を実施した。今 後の課題は研修の改善とteacher trainersの育成であるとの説明だった。

2.1.3.タイ

 タイでは1991年から小学校5年に英語を導入している。2001年にはNew Basic Education Curriculumが施行されInterval 1(小学校1〜3年生)

から第1外国語である英語を指導するようになっている。指導形態は学校ご との自主性に任されている。Ra−ngubtook(2006)(7)によれば、今後の課題 としては、文法訳読へ傾倒した文字言語としての英語指導法から、コミュニ ケーション重視の指導法への教員の意識と指導技術の転換、小学校教員の英 語力と英語指導力の向上、教材開発、評価方法の開発、さらに40〜50人と

いうクラスサイズの改善が挙げられた。

2.1.4.ベトナム

 従来ベトナムでは外国語教育は中等教育からスタートするものとされてい た。外国語といえば伝統的にフランス語が重要視されている印象を与えるベ トナムだが、Nguyen(2006)が示す政府統計によれば、中等教育の97%以上 は英語を学習しており、高等教育でも93%は英語を学んでいる。しかしベ

トナム社会での英語の通用度は極めて低いこと、近年の傾向として日本語や 韓国語、ドイッ語を学ぶ大学生が増加の傾向にあることも報告された。Ng uyenは、今後の政府の方針としては、今後2〜3年以内に小学校英語の教 員を1500人確保し、2016年には2300人とすること、中高の英語教師にっい て大量の増員を図ること、カリキュラムはEUのCommon European Frame−workにならい6段階の到達目標を設定し、小学校3年から週4時 間を導入することなどを説明した。

2.1.5.香港

 中国復帰して以降も、 香港は英語を重視する政策に変化はない。

(5)

Brewster(2007)は、小学校に英語を導入する教員養成・研修の重要性を強 調する。イギリス統治時代から日常的に英語をL、としてきた経緯もあり、

今後は、教科内容と言語を統合した英語学習(Content and Language Integrated Learning:CLIL)の推進を提唱していく政府方針を説明した。

2.1.6フィリピン

 フィリピンも香港同様に、英語のL2としての社会的役割は揺るいでいな い。このセミナーの発表では、児童が身の回りから吸収する日常的な音声英 語を学校生活の中で正確な言語となるよう指導し、読む・書く英語のスキル へとtransferできるよう指導することに焦点を当てていた。

2.2.,国際共用語としての英語への動機付け

 このように、セミナーに参加した国々や地域においては、既に英語を小学 校から導入し、改善を加えながら実施を継続している状態にある。興味深い ことにこれらの国や地域は、英語を学習することの動機付けとして、英語圏 文化や英語圏経済への統合を望んでいるわけではないことを、我々は確認す る必要がある。っまり、英語圏の一員として英米に連なりたいという動機付 けではなく、国際社会での存在感を増し高いステイタスを望むための英語で あり、英語の運用力を身にっけることによって先進国に対して対等な関係を 主張するところに力点が置かれるのである。

2.2.1.中国の場合

 今回、ハノイのセミナーに中国は参加しなかったが、現在の経済発展や文 化面での国際的発展は、今後の中国の英語教育政策に大きな影響を与えるも のと思われる。当面は2008年の北京オリンピックに向けた国内の国際化が 大きな目標であり、さまざまな面で英語教育にオリンピックの成功へ向けた 配慮が組み込まれている。一例としては、北京の警察官の英語特訓(Taylor 2003)が挙げられる。また、樋口(2005)の調査によれば、中国政府の小学校

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英語の目標として「西欧の主要な行事を知ること」と「国際的関心のあるス ポーツ行事などを理解する」が挙げられている。国際化が西欧文化の吸収と いうかたちで進められていることは興味深い。

 また、そもそも、中国国内においては普通語と呼ばれる標準中国語が広い 国土の中の多様な方言や言語話者にとってリンガ・フランカとして機能して きた実績を考慮する必要がある。それは現在、香港、台湾、マレーシア、シ ンガポール、そして世界中に広がる中国系市民相互の経済活動においても国 際共用語としての役割を果たしている。Graddol(2006)は、国際共用語とし ての英語の将来の命運を握っている国として中国とインドを挙げているが、

このような言語背景を持っ中国が、標準中国語と英語という2っのリンガフ ランカを身にっけることを国民に期待し成果を上げていくとするならば、将 来は、確かに英語のステータスばかりでなく、日本を含む他のアジアの地域 での英語教育のありかたに、大きな影響を与えることになるであろう。その ころの英語は、「世界経済全体を支配する英語圏の人々の母語としての英語」

ではもはやなく、「世界経済に大きな影響を与える地域の人々が使う国際共 用語」として認識するべきものになっているだろう。

2.2.2.インドの場合

 今回のセミナーに参加しなかったもう1っの国、インドについても同様で あろう。現在インドが求めている英語は、かっての英国の植民地支配の都合 上必要とされた英語とは動機付けが異なるのである。独立して60年、国内 の多言語社会の中でリンガ・フランカとして育んできた英語であり、さらに 国際社会の中へと参加していくための英語である。もはやかっての宗主国で あった英国の英語をゴールとする必要はなくなって久しいのである。現在、

アメリカ系IT産業や情報産業のアウトソーシングに対応するため、アメリ カ英語のアクセントを学ぶ者が多いという。これをアメリカ文化への阿りと 解釈するよりも、対等な経済活動上の必要性から出た市場ニーズへの対応と 考えていいのではないか。

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 今後、アジア経済、国際経済の中で重要な地位を占めるようになると予測 されるインドにおいて、より多くの子どもに教育の機会が保証されるにっれ、

英語をL2とするインドの人口もさらに増加するだろう。その結果、前項の 中国に関して述べたことが同様に当てはまることになる。中国とインドにお ける英語の重要さは、国際的な共用語としての英語の重要さと同様の意味を 持っようになるだろう。

2.3.人ロ統計からの視点

 英語の国際語としての地位にっいてはあらためて論じる必要はないかのよ うである。後藤(2005)、樋口(ditto)、中央教育審議会(2006)などにおいて も当然のこととして論じられている。しかし、Graddo1(2006)は人口統計学 の視点から、現在のような英語が国際共通語として独占的地位を占める状態 はいつまでも続くものではなく、21世紀の半ばには one of the global languages になるとの見解を示している。

 この見解を支持するデータとして彼は、世界人口の推移の状況を示す。先 進国では若年層は減少するが、発展途上国での若年層は増加して行く。この 発展途上国の若年層が英語を小学校レベルから学習する動きは広く国際的現 象であることは、前項のセミナーの報告からも明白である。しかし、2050年 ぐらいには小学校レベルの英語教育がある程度行き渡った結果学習者数は安 定し、先進国の老齢人口の自然減少にっれて、やがては世界の英語学習者数

は減少するというのである。

 さらに、彼は他の言語の台頭を意識して、近年のインターネット上で使わ れている言語の変化に注目する。インターネットのウェブページに用いられ る言語の中で最も多いのは英語であることはよく知られた事実だが、

Graddo1(ditto)は1998年に85%を占めていた英語のページが99年には 72%、2000年には68%と減少の傾向にあることを示し、さらに、英語がL1 であるインターネット利用者の割合は2000年には51.3%、2005年には32%

と大きく減少し、その代わりに2000年には5.4%で5位にあった中国語が

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2005年には2位、13%と大きく増加していることを挙げている。

 中国の国際経済における存在感はますます増大するものと思われるが、現 在、広くアジアに広まりつっあるリンガ・フランカとしての中国語(標準中 国語)のステータスにもそれは反映してくることになるだろう。リンガ・フ ランカとしての英語の地位は、今後の中国とインドによって決定されること になるだろうとGraddol(ditto)は述べている。

Other 11.3%

Dutch l Itallan 3%

Korean 35%

  French   3.9%

 Chinese

  5.4%

Spanlsh 5.8%

 German 5 Japanese 81%

3.結論として

E識h

2000

Othe

Dutch 2 Portugues

Itahan 3 Korean 3

French Germ

黒践11sh

hinese sPanlsh 6%@ Japanese 8%  2005

 日本においては、長い間、英語圏をモデルとして英語を学んで来た。それ は、英国やアメリカを中心とする国際経済が支えてきたものでもあったろう。

今なお、日本では、中等教育以上において、ある程度の人数が英語を上級ま でマスターし、国際的に活躍できればよいとする考え方がある。従来の中等 教育から開始する英語教育は、全ての学生に課された振り分けのための装置 として機能してきた。つまり、途中で英語は難しい、解らないと思って脱落 する学習者を許容してきたのである。

 半ば無意識に、英語教師は学習者に向かって「日本人は英語が苦手な国民 だ」というメッセージを発してはいなかったろうか、そうすることで、脱落 者が出ることに対する言い訳としてこなかっただろうか。教員自身も到達目 標を英語圏のネイティブ・スピーカーに置き、そこへ到達するのがいかに難

しいかと苦悩しながら自分を励ましてきたのである。

 今、英語が世界中でますます多くの人に学ばれ、多くの国や地域で小学校 の必須科目として位置付けられるようになっている。それも文字言語の学習

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よりも、音声を中心としたコミュニケーションを中心に置いた指導法での英 語教育である。英語は楽しいもの、コミュニケーションは嬉しいものという 意識を入門期の学習者に与え、その上に次のレベルの英語教育を積み上げて いくことが可能になるならば、英語は、加減乗除の計算と同様、世界の多く の人にとって共通の、生活の基本技能になるだろう。少なくともその方向性 を持って各国で教育改革が進み出していることは、認めざるを得ない。

 日本でも国民の老齢化が進み、海外からの単純労働者を受け入れるための 法改正は秒読み段階である。都市部に限らず日常的に外国語が社会に飛び交 う日はそう遠くないのである。Graddol(2006)はKachru(1985)の英語話者 と学習者の同心円を比較し、今後は、Nativeとnon−nativeの境はなくなら ないものの、L2として英語を使用する者と外国語として英語を学習する者 の境は判別が難しくなるだろうと述べている。国や地域として英語をL2と して用いるか外国語として学ぶかではなく、個人として英語の技能が高いか 低いかが問われるようになるというのである。

Kachru(1985)

中心がInner Group(ネイティブ)3.2億〜3.8億人 その外側がEnglish as L、の使用者1.5億〜3億人 さらにその外側がEFLの学習者1億〜10億人

Graddol(2006)

中心はネイティブ(およそ5億人)

中心に近いほどproficiencyが高く、遠いほど proficiencyが低いユーザーということになる。

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 小学校から外国語を導入することの本当の意味とは、英語は外国のもので 難しいものという意識の打破にある。各学習者がnative−speaker−likeな最 高のレベルを目指すのではなく、自分自身の必要性や要求水準に合わせた到 達可能な段階まで、楽しみながら学習をするようにならなくてはならない。

そのための枠組みを作り直すことが今求められているのである。

      References:

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Canale, M. and Swain, M.(1980) Theoretical bases of communicative ap−

   proaches to second language teaching and testing四. A、PPIie(i    Lingui8tics 1:

Chang, Kyungsuk and Jung, Yangsoon(2007) lnnovation in PELT and    Management of Change . as a presentation at Primary Innovations    Seminar in Hanoi 2007.

Chang, Vincent W.(2007) A Brief Sketch of Taiwan s English Education    at Primary Level , as a presentation at Primary Innovations    Seminar in Hanoi 2007.

Graddol, David.(2006)Englisん1>eac亡. British CounciL

Kachru, Braj B.(1985) Standards, codification and sociolinguistic real−

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   Widdowson(eds).Englisんin the World. Cambridge Univ. Press.

Ra−ngubtook, Watanaporn(2006). Development of In−service Primary    Teachers in Thailand:Achievements, Challenges and Outlook . as a    presentation at Primary Innovations Seminar in Hanoi 2007.

Taylor, John.(2003). Beijing Police learning璽Olympic Security English川.

   as a report in a program of the ABC Radio, Australia,28 September    2003

(11)

バトラー後藤裕子(2005)「日本の英語教育の問題点」三省堂 樋口忠彦(監)他(2005)「これからの日本の小学校英語」研究社.

緑川日出子(2000)「韓国の英語教育視察レポートー韓日英語教育比較」『英   語展望』No.107.英語教育協議会.

中央教育審議会(2006)「小学校における英語教育について(外国語専門部会   における審議の状況)」文部科学省.

 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo 3/siryo/004/06040519.htm

(1)日本からは筆者の他に宮城教育大学佐々木ゆり助教授、文部科学省国   際教育課員1名、独立行政法人教員研修センター研修企画担当官1名が   参加した。筆者はオープンスペースにおいて日本の小学校英語活動の概   要を発表した。

(2)Chang 1は韓国教育課程評価院(KICE)の学術研究員、 Jungは教育人   的資源部(文部科学省に相当)の担当官。

(3)National Assessment of Educational Achievement

(4)Chang2(張武昌)は国立台湾師範大学教授・学部長。

(5)General English Proficiency Testの略。 Elementary, intermediate,

  high intermediate, advanced, superiourの5段階がある。

(6)The Primary School English Teacher Training Program,

(7)Ra−ngubtookはタイ国教育省基礎教育局英語研究所の研究官。

参照

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