コンピュータと英語教育
インターネット時代のLL教育
Computer and English Teaching : Language Laboratory Methods in the Intemet Age
並木信明 NAMIKINobuaki (外国語教室) 概要:戦後日本の英語教育でテクノロジーを使った最初の試みは、1960年代か ら1970年代にかけて文部省の肝入れで全国的に広まった視聴覚教育である。映 画、スライド、レコードなどの利用に加えて、ランゲージ・ラボラトリー(L L装置)という語学演習用の特別教室までが中学高校に配置されて一時は大い に脚光を浴びた。しかし、LLは時代がたつにつれて次第に利用されなくなっ た。LL教育衰退の主な原因は、それを支えてきた構造言語学や行動心理学的 方法が科学的に批判されて理論的根拠を失ったためである。もう一つはLLは 操作が難しいという神話をLL担当者が作り上げ、一般の教師に対して見えな い障壁を作ってしまったためである。しかし、生徒が一人一人自分の能力に応 じて学習することのできるLLはまだまだ利用価値があり、特にコンピュータ を併用することによって、生徒の関心を引き出し学習効果を大いに高めるので ある。過去2度に及ぶLL教室の設計と実施の経験に基づいて英語教育とコン ピュータとLLの関わり方を考察する。 キーワード:LL教育、インターネット、英語と情報教育、マルチメディア インターネットを始めとし、とくにこの1、 2年の間のコンピュータの普及には目を見張 るものがある。その浸透はビジネスはもとよ り、家庭や教育現場にまで及ぶようになって いる。コンピュータの教育利用といえば、19 80年代半ばにパソコンを使って一時流行して やがて下火になった、CAI(Computer As− sisted Instruction)という方法があり、英 語教育においても試されたことがある。それ が普及しなかった理由は、教師のコンピュー タ操作能力の不足に加えて、教材作成のプロ グラミングの難しさや、ドリル学習の単調さ などである。わが国の英語教育の歴史におい ては、このコンピュータ教育と同じように科 学の先端技術を利用して挫折した経験がある。 1960年代から70年代にかけて英語の視聴覚教 育が日本で押し進められ、やがてほとんど省 みられなくなってしまったのである。確かに 最近の社会的ネットワーク環境整備とパソコ ンの性能向上には驚くべきものがあるが、こ うしたテクノロジーは本当に英語の教育に役 立つのだろうか。これまで2回LL教室を設 計して実践してきた経験に基づいて、LLと コンピュータの利用の仕方やテクノロジーと 英語教育の問題を考えてみたい。 1.日本の視聴覚教育とランゲージ・ラボラ トリーの歴史 伊藤嘉一氏が示唆しているように、日本で は第二次大戦後に英語ブームが起こったが、
それは構造言語学と行動心理学に基づくオー ラル・アプローチの導入に並行する視聴覚教 育への関心の高まりに通じるものであった1)。 映画、スライド、レコードを使った視聴覚教 育は新しい英語教育法として注目を集め、 「英語教育』誌第1巻(1952)から第20巻(1 972)までの特集記事の67.2%は視聴覚教育 関係で占めるほどであった2)。昭和30年代 に入り本格的なランゲージ・ラボラトリー (LL教室)が中学高校に配置されるように なって、視聴覚教育は一つの頂点に達するの であるが、その後は徐々に関心が薄れ現在に 至っている。視聴覚教育の象徴ともいうべき LLが衰退したのは、オーラル・アプローチ が言語学、心理学の両面から科学的妥当性を 批判されたためである。とくに同じ文型を丸 暗記したり、機械的な受け答えを重視するい わゆるパターン・プラクティスの効用が疑問 視されて、その方法論に基づくLL教育は同 様に批判の対象となり、視聴覚教育への人気 は下降するようになったといえる。 しかしLL教育の衰退はオーラル・アプロー チへの批判だけが原因ではなく、視聴覚機器 というテクノロジーをどのように英語教育の 実践に生かすかという問題とも絡んでいる。 LL教室が全国の学校に作られるようになっ た1960年代前半の日本においては、一人一人 が操作できるテープレコーダーとヘッドホン を備えたブースは、今でいうハイテクの象徴 として新時代への期待と科学の進歩への怖れ の念で眺められたに違いない。当時のLL教 室は、生徒のブースは前部と左右を高い間仕 切りで区切られており、生徒がヘッドホンを つけて教室後部のガラスで仕切られたコント ロール室の教師の指示に従って、黙々とパター ンプラクティスを繰り返す有り様は、見る人 に語学ロボットを生産する実験室か工場を連 想させたとしても不思議はなかった。 1961年にLLの研究と連絡組織として語学 ラボラトリー協会が発足し、1973年には文部 省が「視聴覚教育研修カリキュラムの標準」 を公布し、これに基づいて全国で研修が実施 され、LLの普及が計られた3)。確かにこう した動きがLLの使用法を広め、数多くのL L担当教師を育成したのであるが、同時にL Lは操作が複雑で、使いこなすためには特別 な教育と技術を身につけなければならない、 という意識を英語教師に植えつけ、やがて敬 遠される素地を作ったことも否定できない。 つまり、LLというテクノロジーの神話化で ある。このようなLLの神話化は、ブース間 の間仕切りが取り外され、教師がガラス張り のコントロール室からでて、生徒と対面しな がら指示を出すオープン方式に変わった現在 に至るまで形を変えて続いているといえる。 操作が煩雑なため特別なトレーニングを受け た専任の教員が使うもので、教材はLL用に 開発されたものかまたは教員が特別に作成し たものを使わなければならないという神話で ある。 英語教育理論の変化と熟達した技術を要す るという神話化、そして英語授業時間数減に 伴うカリキュラムからの脱落などの理由によっ て、LLは英語教育の中枢から周辺部に追い やられ、今やLL教室をコンピュータルーム に取って変えようとする動きも目立つのであ る。また話せる英語への要望の高まりは、A
ETとのティーム・ティーチングや1994
年度のオーラル・コミュニケーションの授業 の設置をもたらしたが、機械的な受け答えと いう印象を与えすぎたLLはここでも出番は なかった。しかしそれではLLは何の役にも 立たない無用の長物と化したのかというとそ うではなく、使い方によってはまだまだ英語 教育に貢献する可能性は高いのである。これ まで秋田大学と山梨大学という二つの大学教 育機関でLL設備を設計し、現在週に1度ず つLL授業(60ブース)とコミュニカティブ・ イングリッシュ(コンピュータ付40ブース) の授業を担当している経験に基づいて、新しいLLの活用を含めたインターネット時代の 英語教育について考察してみよう。 2.秋田大学と山梨大学のLL教室 秋田大学では1987年度予算により、10年 近く経過した旧機種を設備更新して新しいL L設備を導入した。同時にこれを機に教室後 部のコントロール室から生徒の背に指示を出 す遠隔操作方式から、ブースの仕切りやコン トロール室をなくして、前方にマスターコン ソールを設置して、教師と生徒とが対面する 方式に切り替えた。コントロール室の壁を撤 去する際に教室全体の内装と設備を見直し、 次のような大幅な改造を行った(図1)。
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凹ac IIci LDP VHS β 掲示装置VID 8ミリ マイク蒜。Eコ
プロジェクタ目ll韻
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掲示装置ダイレクトモニタ 図1 秋田大学LL教室 60ブース Pプロジェクター 1)床はカーペットを敷いたフリーアクセス、 2)天井は防音用ボード、格子入り照明器具、 3)照明は教卓、教室前部・中央部・後部に分 割し明るさはダイヤル調整、4)天井のプロジェ クターから120インチスクリーンへ映像とコ ンピュータを出力。 LL設備をオープン方式に改造すると同時 に、各ブースごとにパソコンを設置する計画 があった。当時はまだパソコンが高く最初の 予算では実現できなかったが、その後1994年 に56台のマッキントッシュLC475が導入され た。しかしこの教室の特色はプロジェクター を通した多彩なプレゼンテーションにある (図2)。プロジェクターへの入力は、大きく 分けて教卓上のパソコン(マッキントッシュ IIcx)からのRGB信号と映像ラックからのビ デオ信号の2系統に分けられる。映像ラック には、1)VHS、2)ベータ、3)8ミリビデオ、 図2 秋田大学LL教室機器構成図 4)レーザーディスク、5)教材提示装置などが あり、さらにVHSとベータのビデオには衛 星放送のアンテナが接続されており、録画と プロジェクターへの出力ができるようになっ ていた。 こうした経験を土台に山梨大学で合計100 台のブースを以下のように2教室に分けて設 計し、完成したのは1994年(平成6年)4月 ことであった4)。 (1)60台ブースのLL教室 【概要】 60台ブース用の教室は一般教育の多人数の 英語受講生の現実に合わせており、大クラス においてとくに生徒の発音とヒアリング能力 を高めることをめざす仕様となっている。二 人用ブース机が3列並んだ配置は、コミュニ ケーション英語をめざすにはやや縦に長すぎ るが、建物の構造上横の長さを確保すること ができなかった5)。この教室を使う英語Lク ラスは、もともとネイティブ・スピーカーの 講師の会話クラスを受講するための基礎的な 音声教育をすることを目的としていた(図3)。 図3 山梨大学LL教室 60ブース Pプロジェクター【仕様と機器構成】 A)LLシステム
ソニー LLC−900060ブース用フル
ラボシステム LLシステムを使って教師側から送られる メディアは次の二種類である。 i)映像と静止画 a)教材提示装置からの立体物、写真や図、OHP等
b)スライド及びネガフィルム(ポジに反 転されたもの) c)ビデオ機i器一VHS、レーザーデイスク (以上英語字幕表示可能)、8ミリビデオ ii)音声(ステレオ) a)テープ教材(2種類のうちから1種類 選択可能) b)CD c)ビデオ機器からの音声の聞き取り、テー プ録音可能 外部スピーカーは中央部に2台ある。 B)プロジェクターシステム この教室は天井に吊した大型のマルチスキャ ン・プロジェクターを通して、40人ブース用 教室と同様に、上のa),b),c)の映像系の出力 を前方の120インチのスクリーンに投影でき るだけでなく、ラップトップ型のパソコンを 持ち込めばマッキントッシュとMS−DOS(ウ インドウズ)の画面出力を行えるようになっ ている。またLLとは別系統のアンプとスピー カーシステムを備えているので、LLを立ち 上げずに映像とコンピュータのプレゼンテー ションを行うことができるので、他の授業に も使える仕様となっている。 (2)40ブースのLL教室(マルチメディア 教材作成室) 【概要】 この教室は60ブースの教室に一人一台のコ ンピュータシステムを追加しただけのもので あるが、教室内の様子はまったく趣が異なっ 図4 山梨大学マルチメディア教材作成室 マック40台十40ブース ている(図4)。 ブース机にパソコンを載 せると机に埋設されたブース部(テープデッ キと操作部)はまったく目立たず、コンピュー タルームのような外観になっている。また机 の配置は図4の通り、教室中央縦に向かい合 わせて2列と、窓側と通路側に1列ずつ、計 4列並んでいる。生徒側にはモニターはなく 映像、画像、コンピュータの出力はすべて60 ブース教室と同じ型式のプロジェクターを前 方スクリーンに投影するようになっている。 音はLL用のスピーカーとアンプを通したス ピーカーの2系統となっている。 【仕様と機器構成】 LLシステムはブース用のモニターがない こととb)のスライド提示装置がないことを 除けば同じ仕様なので省略する。 LL設備にコンピュータを組み合わせたの は、コンピュータによる文字の表示と入力機 能を利用すれば、ヒヤリングとスピーキング に加えてリーディングとライティングの能力 も伸ばすことができるからである。また生徒 用の機種として採用したマッキントッシュL C520はCD−ROMドライブとステレオのスピー カーとマイクを内蔵しており、CD−ROMの 画像や音声、動画などを扱うことができ、L Lとマルチメディア・パソコンを組み合わせ て新しい語学教育を開拓しようとするシステ ムである。コンピュータ・システムの概要は 図5の通りである。 a教官用コンピュータ(マッキントッシュ) Quadra 840Av 33MHz 24MB HD図5 13インチモニター十20インチカラーモニター カラースキャナー 1台 b.サーバー用コンピュータ Quadra 800AV 33MHz 24MB HD l GB 13インチモニター付 c.学生用コンピュータ LC520 12MB 160MB 40台 d.ネットワーク用プリンター NTX−J 2台 次に94年度(95年2月)に山梨大学が実施 した学生による授業評価の結果を見ながら、 このLL設備の教育について考えてみたい。 3.学生による授業評価とLL教育 アンケートは選択式で21項目、記述式で6 項目の質問があったが、本論に関係のありそ うな選択式の項目を取り出してその内容を紹 介すると以下の通りとなる6)。またアンケー トの項目番号はかっこで示した。 1.授業内容の量はどうだったか(III−1) 2.分かりやすい説明であったか(III−3) 3.質問への対応はどうだったか(III−4) 3 OO 250 2 00 1.50 1.00 0.50 0.00 一〇.50 一1.00 圃英語L 。英語C 濠O国語科目 豪、通教養 。全学 分 分 質 熱 纏 興 休 満 出 態
亘
@口 息 ウ り 度 率 性 図6 山梨大学生による授業評価 平成7年2月実施 4.熱意の感じられる授業であったか(III−5) 5.全体として纏まりのある授業であった カ、(III−6) 6.授業内容に新たな興味を持ったか(III−7) 7.授業の休講回数はどうだったか(III−8) 8.授業内容への満足度はどうだったか(III− 9) 9.この授業への出席状況はどうだったか (IV−1) 10.授業に積極的に参加したか(IV−2) 11.授業時間以外に予習復習したか(IV−3) 12.この授業の他の受講生の態度は良かっ たか(IV−4) 質問に対する選択肢は1∼7まで用意され ていて、以下の質問1の例に示されるように 1が最高に良く7が最低で4が普通という配 列になっている。 1、非常に適切であった 2.適切であった 3.どちらかといえば適切であった 4.どちらともいえない 5.どちらかといえば不適切であった 6.不適切であった 7.非常に不適切であった 紙面の都合ですべての項目の選択肢を示せ ないが、他の項目の選択肢1だけを紹介する と、2.「非常に分かりやすかった」、3.「非 常に丁寧だった」、4.「非常に感じられた」、 5.「非常に纏まっていた」、6.「非常に興味 を持った」、7.「大変少なかった」、8.「100 %満足だった」(以下、80 %、 60%、 50%、 40%、 20 %、全く満足しなかった)、 9.「ほとんど100%でた」、 10.「非常に積極的だった」、 11.「非常に熱心に勉強し た」、12.「非常に良かった」 となる。 1994年度に担当した英語 L(LL教室を使用)、英語C(LLとマックを備えたマルチメディア 教材作成室を使用)のクラスの授業評価の結 果の表とグラフは別に示した(図6)。この 表では他に外国語科目、共通教養、全学の結 果も参考のため加えられている7)。また選択 肢は1が最高で7が最低で、数値が低いほど 良いという集計結果となって、とくにグラフ 化したときにわかりにくいので、中間値の4 からそれぞれの数値を減じている。つまり数 値の高さがよい結果を示すようにしてある。 外国語科目(英語、ドイツ語、フランス語)、 共通教養、全学の3分野の中では外国語科目 が一部の項目を除いて高い数値を残している。 これに対して英語Cと英語Lは対照的な結果 となっている。英語Cは、「熱意」、「予習」 を除いていずれも高いか同等の値となってお り、とくに「分量」、「興味」、「満足度」、「態 度」などでは5分野の中でも群を抜いて高い 数値を示している。一方英語Lは英語Cに比 べて甚だしく劣っているだけでなく、外国語 や大学全体においてもわずかな例外を除いて 評価が低くなっている。とくに「熱意」、「纏 まり」、「興味」という授業の中核的な項目で、 かなり低い数値が示されている。しかしそれ ではまったく失敗に終わった授業だったかと いうと、「満足度」では全体をやや上回って いて、また外国語、共通教養、全学のいずれ もがマイナスの数値となっている「積極性」 では英語Cのみのプラスの数値についで中間 の0を示しており、必ずしもそうではなかっ たことが分かるのである。 おそらく一人の教官で同じような授業を担 当していながら、これほど評価に差がでる例 は大変希なのではないだろうか。2クラスを 担当したものとしては、片方だけ手抜きをし たわけではないので、このように評価に開き がでるとは予想だにしていなかった。その根 拠を探るために最初に英語Lの記述式回答を 分析し、続いて英語Cの回答をみてみたい。 (A)英語L 受講者数 60 回答数 57(内 記述式回答に答えない数 8)(複数回答) 【良い点】 1)ビデオや英語の歌が聴かれたこと(18) 2)LLや教室設備が良かった(12) 3)各自が自分でテープをヒアリングし、発 音できたこと(10) 4)その他3[積極的に参加できたこと、教 官の熱意があったこと、受講者数が適当] 【問題点、改善点】 1)教官の機器の操作が未熟、もっと良い活 用法がある(14) 2)映画を最後まで見たかった(13) 3)教材が中途半端に終わり、授業が散漫だっ た(9) 4)教室の後ろから白板の文字が良く見えず、 教官の声が聞き難い(5) 5)その他(4) (B)英語C 受講者数 40 回答数 37(内 記述式回答に答えない数 1)(複数回答) 【良い点】 1)パソコン(マッキントッシュ)を語学に 使えて良かった(21) 2)会話主体の役に立つ英語が良かった(9) 3)LLや教室設備が良かった(8) 4)楽しくできた(6) 5)その他無し 【問題点、改善点】 1)コンピュータ(マッキントッシュ)の操 作に手間取った(7) 2)もっと多くの会話をしたかった(4) 3)その他(6) こうして比較してみると英語Lも英語Cに 劣らぬくらい良い点が挙げられていることが 分かる。全体の回答者数に対する1)良い点を 挙げた回答者数の比率と、2)改善点を挙げた 回答者数の比率を比較すると次のようになる。
表1 良い点の回答者数の比率
回答者
香@ 数
良い点の答者数
良い点の答率
英語L 57 42 74% 英語C 37 32 86% これを見ると両クラスともあまり大差はな く、英語Lもかなり良い点が指摘されている。 しかし改善点を比較すると大きな相違が見え てくる。 表2 改善すべき点を回答した人数の比率回答者
香@ 数
改善点の答者数
改善点の答率
1英語L
57 35 61% 英語C 37 15 41% 英語Lでは61%の学生が改善点を挙げてい るのに対して、英語Cでは41%と少なく、ま たわざわざ「特になし」とか「このまま続け るべきだ」という回答もあり(11%)、このよ うな回答は英語Lではなかった。 この年の英語Lの授業を振り返ってみると 次のような問題点があったことが指摘できる。 1)LLの故障(新機種を使ったためか、最 初は良く故障した) 2)担当者の操作の未熟さ 3)遅刻者や休んだ学生のために再度録音し なければならず、他の学生のレッスンが中断 した。 これら主な3つの理由の内で、100%授業 の担当者の責任といえるのは2)だけだといえ るだろう。だが、受講する学生にとっては、 それが機械の整備不良であろうと学生のせい であろうと、悪い印象はすべて教官の責任と 感じられたようである。事実遅れてきたりテー プを忘れた学生に対する批判は皆無であった。 しかしLL機器の整備が完了し、操作になれ た2年目は苦い経験を生かして、授業をスムー ズに進めることができるようになった。たと えば白板の文字を大きくしたり、できるだけ マイクを通して話したり、またテープは教室 内に置いておくようにさせた。1995年度 の定期試験の際に別の紙に無記名で授業の感 想と要望を書かせたところ、授業が易しすぎ ると書いた1名を除いてすべて授業を楽しん でいるものばかりであった。 一方、マルチメディア教材作成室を使った 英語CクラスにもLL設備は備えられていた が、こちらはLLは録音用にはあまり使わず に教師から生徒へ話すとき(一斉と個別の両 方)、そして生徒同士のペアレッスンなどの コミュニケーションの手段として使ったため に、整備不良の欠陥はあまり目立たなかった (この教室のLLも整備が必要だった)。そし てCクラスの隠れた主役はコンピュータであっ た。教育学部2年生を対象としたLクラスに 対して、Cクラスは工学部1年生主体であっ たが、生徒の大半はコンピュータの操作がで きず、最初の1、2ケ月は英語と並行してコ ンピュータの操作を指導しなければならなかっ た。従ってこちらが当初予定していたほどに は、LLとコンピュータと英会話はうまく機 能しなかったが、それにも関わらず学生の意 欲と満足度は高かった。それは一つには学生 の回答にあったとおり、コンピュータを使え たからである。最後にこれらの結果を踏まえ ながら、LLやコンピュータといった現代テ クノロジーを使った英語教育の意味と可能性 について考察し結論としたい。 4.結び、英語教育とテクノロジー 英語Lの授業ではLL用の教科書とテープ を使いながら、ディズニーのBeαutyαnd Beαst、 A liee in WonderlandそしてDr Seus という幼児向けのアニメーションや、アメリ カのアニメーションのThe Simρsonsやテレ ビドラマのM助ρんッBrounなどを随時見せて、 聞き取りなどの教材として使った。時間の都 合上ほとんどがその一部しか見せることができずに、散漫な印象を与えたようだが、しか し良い点の回答のトップに示されているよう に、ビデオや歌を視聴させることは学生の興 味を強くかき立てるのである。ただ見せるだ けならビデオ機器のある普通の教室でもでき るが、それをテープに録音して各自の操作で スピードや音量を変えながら、聞き分けられ るまで繰り返し再生して聞くことはLLでな ければできない。回答に示されているように、 LL設備を使いヒアリングや発音練習ができ たことを評価する回答数は合わせて22もあっ た(複数回答)。LLは機器を一人一人が使 えるだけでなく、各自が自分のペースと興味 に従って積極的に勉強する姿勢を育てサポー トできることをもっと評価されるべきである。 そのためにはこれまでのLLを使った英語教 育の方法にとらわれない試みがもっと成され るべきだろう。そこでコンピュータの重要性 が浮かび上がる。 マルチメディア室のコンピュータは、93年 度当初の概算要求のときには、インターネッ トはおろか大学内のコンピュータネットワー クと接続することも考えていなかったが、ちょ うど94年に学内ネットワークの設備更新が行 われ、1台1台にネットワーク用にイーサー ボードをつけ接続できるように仕様を変更し た。そのためこの教室からE−mailを大学内 から全世界に宛てて出せるようになっただけ でなく、インターネットを利用することがで きるようになった。マルチメディア教材作成 室のコンピュータシステムの接続図は、この 教室の配置図とは異なり図5の通りである。 しかし教室内ではマック用のTimbuktuと呼 ばれる遠隔操作用のソフトを使って、教師機 から生徒にファイルを送ったり、1台1台の 画面を教師機でモニターしたり遠隔操作をし たり、またその画面をプロジェクターに投影 して、クラス全体に見せたりすることができ て、この教室だけのネットワークが存在する かのように使えるのである。 英語Cの授業では、コンピュータは英語の 会話や歌などの聞き取り用に、ところどころ 空所の入った教材(テキスト・ファイル)を サーバーからダウンロードしたり、長文の口 語表現を行うための下書き作成をしたり、キー ボードを使った英語の対話練習などに利用し て効果を上げている。今後はインターネット を通じた外国とのメールの交換などに使いた いと思っている。LLにコンピュータを組み 合わせることによって学生の主体的行動がサ ポートされるのである。コンピュータの利用 にあたって大切なことは特別な教材プログラ ムを開発するよりも、実際の授業の中で学生 のやる気を出すための教師の想像力溢れた応 用力ではないかと思われる。これについての 研究は別の機会に発表したい。 註 1)伊藤嘉一「教授法・指導法はどう変わっ たか」『英語教育』第44巻第8号(1995年9 月増刊号)、p.25 2)同上。 3)金田正也「教育機器の変遷とパソコンの 普及」『英語教育』第44巻第8号(1995年9 月増刊号)、p.57 4)これは平成3年に行われた大学設置基準 の大綱化に伴い、情報教育用設備と語学演習 用装置の設置が必要となったために、新たに 概算要求したことによる。平成4年度にLL 設備の最初の概算要求書を提出。平成5年度 の補正予算で設置が認められ、6年度から稼 働している。 5)コミュニケーション主体に机の配置を考 えると、4人、6人が向かい合ってすわり一 つのグループを構成し、全体で20∼30名程度 のクラス規模が望ましい。 6)この山梨大学生の授業評価については、 山梨大学自己評価等委員会によって編集発行 された『山梨大学は、いま一山梨大学活動 報告2』(1995年6月)の中で、集計結果の
一覧と分析結果のグラフなどが報告されてい るので参照されたい(pp.3−37)。 ちなみに 筆者は専門委員として授業評価の分析に関わっ た。 7)『山梨大学は、いま』の数値を用いた。 P.37