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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 平 田 尚 也

     学位論文題名

細胞伸展におけるミオシンn アイソフオームの 局在とりン酸化状態に関する研究

学位論文内容の要旨

  非 筋 細胞ミ オシンH(以下 ミオシ ンn) は1対 ずつの 重鎖、必 須軽鎖 、調節軽 鎖 (RLC)か ら な る6量 体 の モー タ ー タンパ ク質で細 胞移動 において 重要な 役割を果 たしてい る。ミオシンIIにはAl‑Pを加水分解して(灯Pase活性)、アクチンフイラ メントを 滑らす モーター 活性が ある。ミオシンIIの活性はRLCのりン酸化によって 調節 さ れてい る。RLCの19番目 のSerがりン酸 化され ることで 上昇し (1重 リン酸 化状態、1P‑RLC)、18番目のThrも同時にりン酸化された2重ルン酸化状態(2P‑RLC) ではATPase活 性がさら に上昇 する。哺乳類の非筋細胞には3種類のミオシンII重鎖 (MHC)ア イ ソ フ オー ム(MHC‑IIA、nB、IIC)が 発 現し て ` )る 。 こ れら が2対の 軽鎖と結 合して、ミオシンIIA、IIB、ncアイソフオームを形成する。これらのアイ ソフオームは組織での発現量や餌丶Pase活性、モーター活性が異なる。ミオシンIIA、 IIBに関しては細胞の移動時に異なる細胞内局在を示すことが報告されている。ヒト 繊維芽細 胞MRC:5では、移動時にミオシンIIAが細胞の前方にも局在するのに対し、

ミオシンHB溶前方 には局在 しない 。この局 在の違 いは他の 細胞種においても同様 の結果が 報告さ れている 。これ らは細胞内においてミオシンnアイソフオームが異 なる機能 を担っていることを示唆するが、細胞内での各アイソフオームの機能の違 いは 明 らかに なって いない部 分が多 い。また 、2P‑RLCは移 動時のMRC‑5にお いて 細胞前方 のラメラと呼ばれる部位に局在するのに対し、他の繊維芽細胞や内皮細胞 では後方 に局在 するとい う異な る報告が されて いるなど その意義や1P‑RLCとの機 能の違いについてはほとんど明らかになっていない。

  本研究 では、細 胞移動に おける ミオシンIIAとnBの機能の 違いや2重リン酸化の 意義を明 らかにすることを目的とした。まず、ヒト繊維芽細胞MRC‑5を用いてWound healing assayを行い、方向性を持った移動時にミオシンIIAとnBの細胞内局在の違 いと 細 胞前方 におけ る2重 リン酸 化を確認 した。こ のとき 、2P‑RLCが1P‑RLCよ り も先端に近いところに局在して`)ることを見出した。さらに詳細な解析をするため に、細胞 移動の最初のステップとして考えられており、活発な仮足の伸展が観察で きるCell spreading assayを行い、ミオシン.uアイソフオームの細胞内局在、及ぴ、RLC の細胞内でのりン酸化状態、さらにアイソフオームとりン酸化状態の関係を調べた。

その結果、細胞伸展時において、ラメラ部位にF.アクチンが集積して環状の構造を 形成し、 この構造にミオシンIIAとミオシンIIBが共に強い局在を示すことがわかっ

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た。ミ オシンnBがF‐ アクチン の環状 の構造の 内縁に局 在していたのに対し、ミオ シンIIAはミオ シンIIBよりも 外側にまで局在していた。また、いくっかの細胞では ミオシ ンIIBが 細胞中 心部に分 散した局在を示し、これらの細胞ではF−アクチンの 集積は 見られな かった 。この結果はミオシンIIBの局在がF‐アクチンのラメラにお ける集積に関係があることを示唆する。また、このF‐アクチンの環状の構造上でRLC の顕著 なりン酸 化が見 られたが、2重リン酸化は1重リン酸化よりもより細胞の外側 で起こ っていた 。この 伸展時に 、ミオ シンIIBと2P‑RLCの共局在が観察されなかっ た こと か ら 、ミ オ シ ンIIAのRLCが2重リン 酸化され ている と判断し た。ま た、細 胞形態 に極性が 生じた 細胞では 、ミオ シンIIBの局在が 伸展の止まったと考えられ る領域 の細胞膜 直下に も観察された。これは細胞膜の伸展の制御と細胞形態の極性 形成 にミオシ ンIIBが関与し ているこ とを示 唆する。 次に、 細胞伸展 時のRLCのり ン酸化 にどのキ ナーゼ が関与し ている かを調ぺ た。細胞 内でのRLCのりン酸化への 関与が 報告され ている ミオシン 軽鎖キ ナーゼとRhoキナ ーゼを候補として、それぞ れ の阻 害 剤 、ML‑7とY‑27632を 用 い た。ML‑7存 在 下 では1P‑、2P‑RLC共に局 在に ほとん ど影響が なかっ たが、Y‑27632存在 下では2P‑RLCのラメラ部位での局在が見 られな くなった 。この とき、環状のアクチン構造と接着斑の消失が観察された。阻 害剤存在下でのRLCのりン酸化レベルをMr12゛‑Phos‑tag SDS‑PAGEで解析した結果、

螢光抗 体染包の 結果と 同様にYー27632存在下 で2重 リン酸化レベルが顕著に減少し て いた 。 こ れら は ラ メラ 部 位に おけるRLCの2重リン 酸化にRhoキナ ーゼが 関与し ていることを示唆する。さらに、細胞伸展時の面積と周囲長を測定したところ、Y― 27632存 在下にお いて、 有意な増加が見られた。この結果は2重リン酸化の減少によ り、細 胞の伸展 が促進 されたことを示す。この伸展の促進はアクチン重合による細 胞膜の 伸展に対 抗する カが減少 したた めと考え られ、そ のカの発生にRhoキナーゼ によ って2重リン酸 化され 、高度に 活性化 ざれたミ オシン1IAが関 与してい ること を示唆する。さらに時間が経過し伸展が進んだ状態において、Y‑27632存在下では異 常な細 胞形態を 示した 。タイムラプス観察により、円形の細胞形態から、膜の伸展 が進む 一方で、 細胞体 の一部が収縮する過程が観察された。血清からのシグナルが 存在し ない無血 清条件 下で細胞 め伸展 を観察し たところ 、ミオシンuのりン酸化が 見られたものの、複数の仮足を伸ばした異常な形態で伸展した。これらの結果は、Rho キナ ーゼによ るミオ シンIIAの時空間 的な2重リン 酸化が 正常な細 胞の伸展 に関わ っ てい る こ とを 示 す 。ま た 、MRC‑5をSV40で 形 質 転換 し たMRC‑5 SVl TG1細胞で は移動 時の前方 のラメ ラにお`〕てRLCの2重リン酸化が見られなかった。ラメラに おけ るRLCの2重リ ン酸化 はノーマ ルな繊 維芽細胞 に特有 のもので ある可能 性が考 えられる。

  本研 究の結果 から、Rhoキナ ーゼに より高度 に活性化 された ミオシンIIAが 強い 収縮カ で内側に 引っ張 ったF.アクチンをミオシンIIBが安定化することで環状の構 造を形 成し、正 常な細 胞の伸展が行われるというモデルを提案した。また、ミオシ ンIIBが細胞膜 直下のF‐ア クチンを安定化することで伸展を抑制し、細胞の極性形 成と形 態維持を 行って いると推論した。この機構は細胞が移動する過程においても 同様に 働くと考 えられ る。今後 、細胞 移動にお けるミオ シンnアイソフオームの機 能の詳細が解明されることが期待される。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    坂口和靖 副査   教授    石森浩一郎 副査    教授    高岡晃教 副査   准教授   高橋正行

学 位 論 文 題 名

細胞伸展におけるミオシンH アイソフオームの 局在とりン酸化状態に関する研究

  細 胞の移 勁は、JI丕発生 、組織 の再生 、好中 球の食 作用な どの免 疫応答、創傷治癒、癌翁1|胞の浸 澗. iほ 移 など 、 様 々 な生 命 活 勘 にお い て 、 重要 な プ ロ セス で あ る。 細胞移 動にお いて、 アクチ ン とミ.オシンからなる糸lJI胞骨格が重要ぬ役割を担っている。非筋ネlIIJJ包ミオシンn(以下ミオシンil) は 、 一 対 ず つ の 重 鎖 、 必 須 軽 鎖 、 調 節 怪 鎖(RLC)か ら な り 、ATPの 加 水 分 解 と 共 役 し て ア ク チ ン フ ィ ラ メ ン ト を 滑 らせ る モ ー ター タ ン パ ク質 で あ る 。脊 椎 勁 物 のミ オ シ ンmま 、RLCのSer19が り ン 酸 化 さ れ る ( 一 重 リ ン 酸 化 ;1P‑RLC)と アク チ ン 活 性化ATPaseが 上昇 す る 。Ser19に 加 えて Thr18も り ン 酸 化 さ れ た 二 爾 リ ン 酸 化(2P‑RLC)状 態 に な る と 、 ア ク チ ン 活 性 化ATPaseが さ らに 上 昇する 。これ らのり ン酸化 状態を 見分ける ことカ §可能 な抗体 を用い た研究 により 、glII胞内に二 重 リン酸 化きれ たミオ シンiIが 存在す ること が明ら かになり 、その 働きが 注目さ れ始め てきている。

哺 乳類のK‖胞に は三種 類のミ オシンI至アイ ソフオ ーム(ミ オシンIIA、IIB、IIC)が発現 しており、

そ の 発 現 量は 組 織 に よっ て 異 な る。 各 ア イ ソフ オ ー ム が異 な る モ ータ ー 活 性 を有 し て い ること 、 ま た 、 ミ オ シ ンIIAと ミ オシ ンnBに 関 し て は、 そ れ ぞ れの 亜 鎖 の ノッ ク ア ウ トマ ウ ス が 胎生 致 死 に な る こ とか ら 、 お 互い に 補 う こと が で き なb`機 能 を 持 って い る ことが 予想さ れてい るが、現 時 点では良くわかっていなぃ。

  糸ln胞移 動におい て、ミ オシンIIは細胞 体の前 方への 移動と 後部の 収縮に 関与す る。しか し、アイ ソ フ オ ー ムを 区 別 し た研 究 が ほ とん ど な い こと 、 ま た 、ミ オ シ ンnアイソ フォー ムの時 空間的な 活 性 化 状 態 、す を わ ち、RLCの りン酸 化状態 の違い に注目し た研究 もほと んどな いこと から、 翁IlJJ包 移 動 に お ける ミ オ シ ンIアイ ソ フ オ ーム の 機 能 の違 い に 関 して は 良 くわか ってお らず、 今後の発 展 が待たれている状況にある。

  申 請 者は 、 本 学 位論 文 で ミ オシ ンIIAと ミオ シ ンIIBが、 細 胞 内 のど こ で 、 移動 の ど の 段階 で、

ど の よ う なり ン 酸 化 状態 で 機 能 して い る の かを 解 析 し 、細 胞 移 動 時にお けるミ オシンnアイソフ オ ー ムのそ れぞれ の機能 を明ら かにす ることを 目的に 研究を 展開し た。そ の結果 、繊維 芽ネIu胞では、

伸 展 時 に ラメ ラ に お いて 、 ミ オ シンIIAがRLCの二 重 リ ン 酸化 に よ り 高度 に 活 性 化さ れ て アク チン フ イ ラ メ ント を 内 側 に動 か し ア クチ ン フ ァ イバ ー 構 造 を形 成 し 、 ミオシ ンIIBがそ の構造 を維持 す     一95−

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  る こ とで 、正 常に 伸展 が 進行 する とい う モデ ルを 考案 した 。 また 、ミ オシ ンJIBが 細胞 膜 直下のF.   ア ク チ ン を 安 定 化 す る こ と で 仮 足 の 伸 展 を抑 制 し、 細胞 の極 性形 成 と形 態維 持を 行 なう こと で正   常な細胞移動を 行う可能性を示した。

    申 請 者 は 、 本 論 文 に お い て 、 細 胞 移 動 の最 初 の段 階で ある 仮足 の 伸展 が全 方向 に 渡っ て観 察で   き る 細 胞 伸 展 時 に お け る ミ オ シ ンuア イ ソ フ オ ー ム の 役 割 に 特 に 注 目し た。 抗体 の 種類 (ウ サギ   IgGと マ ウ スIgG)の 組 み 合 わ せ を 工 夫 し て 免 疫 染 色 す る こ と 、 さ ら にア クチ ンフ ィ ラメ ント を同   時 に 螢 光 染 色 す る こ と に よ っ て 、 同 一 の 細 胞 内 に お け る ミ オ シ ンI班 と ミ オ シ ンIIB、1P‑RLCと   2P‑RLC、 ア ク チ ン フ プ イ バ ー 構 造 の 局 在 を詳 細 に解 析し た。 その 結 果、 ヒト 胎児 肺 由来 繊維 芽細   胞MRC‑5が 伸 展 す る 際 に 、 ラ メ ラ 部 位 に ア ク チ ン フ ア ラ メ ン ト が 集 積し て環 状の 構 造を 形成 し、

  ミ オ シ ンnBは こ の 構 造 の 外 側 に は 局 在 せ ず 、 そ の 内 縁 に 多 く 局 在 す るこ と 、ミ オシ ンIIAは そこ   か ら 外 側 に も 局 在 す るこ とを 明ら かに し た。 ミオ シンIIBが内 側で 拡 散し てい る細 胞 では 、ア クチ   ン の 環 状 構 造 が 形 成 さ れ な い こ と も 見 出 した 。 さら に、 アク チン の 麟状 栫I造上 でRLCの 顕著 なり   ン 酸 化が 見ら れる こと ・ 、二 重リ ン酸 化 は一mリン 酸 化よ りも 外側 で 起こっていることを見出した 。   伸 展 時に ミオ シンIl[Bと2P‑RLCの 共局 在 が全 く観 察さ れな ぃ こと から 、ミ オシ ンIIAのRLCカミ二 重   リ ン 酸化 され てい ると 判 断し た。Rhoキナ ーゼ の阻 害 剤で あるY‑27632存在下において細胞をf|い 展   さ せ る と 、 こ の 二 重 リ ン 酸 化 が 消 失 し 、 それ に 伴い アク チン 環状 構 造と 成熟 した 接 着斑 が消 失し   た。また、タイ ムラプス観察により、この時にネIIJJJ包のfIい展速度が上昇し、岐終的に異常なfI11腥形   態 を 導 い て し ま う こ と を 見 出 し た 。 以 上 の結 果 と既 に提 唱さ れて い るモ デル を組 み 合わ せて 、申   計 者 艫、 繊維 芽細 胞がfiP‑膿 する 際の ミ オシ ンnアイソフオームの役割 にI捌する新しいモデルを提 案   している。I.ア クチン飛合による伸展がネllIJJ包の周縁で起き、ラメ ラ部位で張カが発生する。2.ラ   メ ラ 部 位 でRhoA/Rhoキ ナ ← ゼ 経 路 が 活 性 化 し 、 ミ オ シ ンLIA RLCの 二 重 リ ン 酸 化 を 導 く 。3.高   度 に 活性 化さ れた ミオ シ ンIIAに より 、´ アク チン フ ィヲ メン トの 内 側への引き込みと接着斑の成 熟   が 起 きる 。4.ミ オシ ンIIBに より 、ア ク チン フィ ラメ ント が 安定 化し 、環 状構 造 が形 成さ れる。 こ   れ ら の 過 程 が 秩 序 だ っ て 進 行 す る こ と に よ り 、 細 胞 は 正 常 に 伸 展 で き る と い う モ デ ル で あ る。

    申 請者 憾、 さら に、 今 後の 研究 の発 展 にっ なが るい くっ か の興 味深 い発見をしている。1.翁‖ 胞   形 態 に概 性が 生じ た翁 ‖ 胞で は、 伸展 の 止ま った と考 えら れ る領 域の 細胞膜直下にミオシンirBが 局   在 し 、そ の領 域で2P‑RLCが局 在し ない こ とを 見出 し、 細胞 膜 の伸 展の 制御 と嗣 ‖ 胞形 態の 極性形 成   に ミ オ シ ンIIBが 関与 して い るこ とを 未唆 した 。2.無 血 清条 件下 では 、RLCの 二重 リ ン酸 化が 起き

.る が 、複 数の 仮足 を伸 ぱ した 異常 な形 態 で伸 展し た。 この 結 果は 、基 質へ の接 着 の刺 激に 加えて 、   血 清 成 分 由 来 の 刺 激 によ るミ オシ ンIIAの 時空 間 的な 二重 リン 酸化 が 正常 をネ10胞 の 伸展 に関 わっ   て い る こ と を 示 す 。3. MRC‑5をSV40で 形 質 転換 したMRC‑5 SVl TGI細胞 では 移動 時 の前 方の ラメ   ラ に お い てRLCの 二 重 リ ン 酸 化 が 見 ら れ な か っ た 。 ラ メ ラ に お け るRLCの 二 重 リ ン 酸 化 は 正 常な   繊 維 芽細 胞に 特有 のも の であ る可 能性 が 考え られ 、細 胞の 不 死化 や癌 化とネ1‖胞移動の関係に新 た   な視点を与える 結果である。

    本 論 文 で 提 唱 し た 細胞 伸展 時に おけ る ミオ シンrア イソ フオ ーム の 機能 は、 細胞 移 動の 最初 の段   階 の 仮 足 の 伸 展 時 に も 当 て は め ら れ る こ とが 予 想さ れ、 今後 の細 胞 運動 の分 子機 構 の解 明の 研究   に 貢 献 す る と こ ろ が 大 き い 。 ま た 、 こ れ らの 結 果は 、現 段階 で、 国 際誌 にー 報の 原 著論 文と して   発 表 され てい る。 以上 の こと より 、審 査 員一 同は 、申 ゛請 者 が、 北海 道大 学博 士 (理 学) の学位 を   受けるに十分な 資格を有すると認めた。

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