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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 工 学 ) 伏 見 公 志

    学位 論文題名

Study on Heterogeneity of Passive Film and Its Local Breakdown by ScannlngEleCtrOChemiCalMiCrOSCOpy

(走 査電気化 学顕微鏡 による不働 態皮膜の 不均一性と局部破壊に関する研究)

学位論文内容の要旨

  不働態化した金属材料の腐食速度は,表面に生成した緻密で非常に薄い酸化物皮膜

(不働態皮膜)の存在により,裸の金属の腐食速度に比べて著しく小さい。すなわち,

金属材料の耐食性は不働態皮膜による。しかし,皮膜が破壊され,皮膜の修復が不十 分な場合,金属は様々な形態で腐食する。特に不働態皮膜の局部破壊を起点とする局 部腐食現象は,金属材料の使用寿命を著しく短くする危険な腐食形態である。局部腐 食過程は,主に局部腐食が発生する前駆過程と腐食部が成長する進展過程に分けられ る。後者(進展過程)では,腐食部の物質移動が反応を支配しており速度論的な解析 がなされているが,その前者(前駆過程)では,腐食サイトの発生箇所を同定する有 効な解析手段がないために反応機構について不明な点が多い。不働態皮膜の局部破壊 は皮膜の不均一性に起因すると考えられる。ところで,走査電気化学顕微鏡(SECM) は,溶液中の電極表面の電気化学反応活性分布を調べることができ,不働態皮膜の不 均一性評価に有カである。

  本論文では,上述の観点からSECMを用いて,活性態,不働態,過不働態の各電位 領域において金属電極表面で起こる電気化学反応の面方向の速度分布を可視化する試 みを行い,不働態皮膜の不均一性の発現因子を調査した。さらに,新規に開発した,

指定箇所の不働態皮膜を局部的に破壊することができる液中イオン銃(LPIG)を用い て,不働態皮膜の局部破壊現象の詳細な解析を行った。

  本論文は全11章から構成されている。

  第1章は序論であり,不働態皮膜とその局部破壊についてこれまでに明らかにされ ていることおよび不明な点を述べた。また,本研究の背景と目的を明らかにした。

  第2章お よび第3章 では,それぞれ解析手段として用いた微小電極法とSECMにつ いて原理と特徴を解説した。前者では,通常サイズの電極と直径数十pm以下のディ スク電極を比較し,微小電極表面では半球状の拡散層が迅速に形成するため限界電流 が過電圧に依存せず反応種の濃度に依存すること,さらに定常電流値が迅速に得られ ることなど優れた電極特性を有することを述べた。この微小電極を走査プ口ーブとし て用いたSECMでは,固液界面の反応種の濃度分布を電気化学的に測定することがで きることを述べた。

  第4章では,実験に用いた微小電極の作製方法および自作したSECMの装置仕様と 性能検定結果にっいて述べた。直径10 ymの白金微小ディスク電極をプロープ電極と して得られたSECMプローブ電流像の面分解能は20 ymであり,理論値(プローブ電 極直径の2倍)と一致することがわかった。

  第5章では,メディエータを含んだpH 8.4のホウ酸塩水溶液中,鉄電極上に作成し た不働態皮膜の不均一性をSECMにより評価した結果について述べた。プローブ電極

(2)

を 鉄電 極表 面近 傍上 に配 置 し, メデ ィエ ー夕

(Fe(CN)64.)

の 酸化 反応がプ口ーブ電極 上 で, 反応 生成 物(Fe(CN)63‑)の還 元反 応が 鉄電 極上 で 起こ るよ うプローブ電極およ び 鉄電 極の 電位 を独 立に 制 御す ると ,プ 口ーブ電極には不働態皮膜の厚さに依存した 酸 化電 流が 流れ た。 この 条 件下 でプ 口ー ブ電極を走査することにより,不働態皮膜の 膜 厚の 違い を評 価で きた 。 不働 態化 した 多結晶鉄電極表面のプローブ電流像は不働態 皮 膜の 膜厚 に依 存し た不 均 一性 を示 した 。この不均一性から不働態皮膜の厚さが下地 の結晶粒の面方位に依存する((loo)冫冫Il11)冫I1101の順に皮膜は厚くなる)ことを明 らかにした。

  

第6章 では ,多 結晶 チタ ン電 極上 に作 成し たア ノー ド 酸化 物皮 膜の不均一性を

SECM

に よ り 評 価 し た 結 果 に つ い て 述 べ た 。 ア ノ ー ド 酸 化 物 皮 膜 を 介 し た メデ ィェ ー夕

(Fe(CN)63

・/Fe(

CN

)64,)の酸化還元反応は,直接電子移転反応よりもむしろ,電子伝導 帯 を介 した 電子 移転 反応 あ るい はド ナー 準位を経由した共鳴電子移転反応により起こ る こと を指 摘し た。 メデ ィ エー タの 酸化 還元反応を利用したプローブ電流像は,不均 一 性を 示し ,鉄 不働 態皮 膜 と同 様, チタ ンアノード酸化物皮膜の厚さは下地結晶粒に 依 存す るこ とが わか った 。 また ,皮 膜作 成電位の増加とともに皮膜の不均一性が増加 す るこ と, 特に 非晶 質か ら アナ ター ゼ型

Tl02

への微結晶化が進行することによりその 傾 向 が 顕 著 に な る こ と を 顕 微 ラ マ ン 分 光 法 と の 併 用 に よ り 明 ら か に し た 。

  

第7章 では ,酸 素の 還元 反応 が起 きる 電位 にプ ロー ブ 電極 を制 御し,硫酸中でアノ ー ド酸 化し た際 ,多 結晶 チ タン 電極 上で 起こる酸素発生反応の分布を測定した結果に つ いて 述べ た。 酸素 発生 反 応分 布は 下地 結晶粒の形状に依存すること,厚い不働態皮 膜 で覆 われ た部 位で は薄 い 部位 より も酸 素発生反応が起こりにくいことなどを明らか にした。

  

第8章 では ,硫 酸塩 水溶 液中 ,ア ノー ド分極により多結晶鉄 電極から溶出するFe2+ およびFe ゛ イオンをプローブ電極で検出する条件を見っけ,鉄溶解 電流像の不均一性 を 調査 した 結果 について述べた。活性態において鉄はFe2゛イオンとして溶解するが,

その溶解速度 は下地結晶粒に依存し,(lool面よりもt110)面の方が 大きいことを明ら かにした。

  

第9章 では ,水 素の 酸化 反応 が起 きる 電位 にプ 口ー ブ 電極 を制 御し,炭素鋼がマグ ネ タイ トと ガル バニ ック 腐 食を 起こ す際 の,カソード(マグネタイト)の反応を調査 し た結 果に つい て述 べた 。 マグ ネタ イト 上で起こる水素発生反応の効率は約50%であ る こと を明 らか にす ると と もに ,ガ ルバ ニック対形成時の水素発生分布を可視化する ことに成功した。

  

第lO章で は, 銀/ 塩化 銀 微小 電極 をプ ローブ電極に用い,これをカソード還元する ことにより局 部的にa,イオンを発生する ことができる液中イオン銃(

LPIG

)を開発し,

鉄 不働 態皮 膜の 局部 破壊 現 象に 適用 した 結果について述べた。LPIGを用いることによ り ,指 定箇 所の 皮膜 を局 部 的に 破壊 する ことができた。LPIGによる一連の皮膜破壊現 象 は 次 の

3

つ の 過 程 か ら な っ て い る 。 @ 誘導 過程 :LPIG/ 鉄電 極 間の 局所 空間 に濃 縮したCl.イ オンにより,皮膜欠陥構造の導入あるいは皮膜の変質と 皮膜の微小溶解が 起 こる が, 不働 態は 保持 さ れる 。◎ 皮膜 破壊過程:皮膜の欠陥構造および変質が臨界 値を越えて, 皮膜の急激な溶解が始まる。プローブ電極では,鉄から 溶出したFe ゛イ オ ンの 還元 反応 が,また,LPIG直下の鉄表面では皮膜を介して

Fe2

゛イオンの酸化反応 が 繰り 返さ れる 正帰 還反 応 が進 行す る。 ◎局部腐食進展過程:皮膜破壊部において下 地の鉄がFe ゛イオンとして溶解する。さらに,皮膜作成条件および 皮膜破壊条件を系 統的に変えて 誘導期間について調査した。そ・の結果,誘導期間は膜 厚,皮膜の欠陥密 度 , 皮 膜 に か か る 電 場 に よ り 大 き く 影 響 さ れ る こ と を 明 ら か に し た 。

  

第11章は,本論文の総括である。

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学位論文審査の要旨

主 査   教 授   瀬 尾 眞 浩 副 査   教 授   成 田 敏 夫 副 査   教 授   高 橋 英 明 副 査   教 授   大 塚 俊 明

    学位論 文題名

Study on Heterogeneity of Passive Film and Its Local Breakdown by ScannlngEleCtroChemiCalMiCrOSCOpy

(走査 電気化学 顕微鏡によ る不働態 皮膜の不均一性と局部破壊に関する研究)

  金属の耐食性は、表面に形成される非常に薄い緻密な酸化物皮膜(不働態皮膜)によるもの である。しかし、化学的および機械的な要因により不働態皮膜が局部的に破壊され、皮膜の修 復が不十分な場合、金属は孔食などの局部腐食を引き起こす。不働態皮膜の局部破壊は皮膜の 不均一性に起因すると考えられる。不働態皮膜の不均一性評価、局部破壊箇所の同定とその箇 所を起点とする局部腐食の前駆過程を調べることは、腐食防食工学上極めて重要な課題である。

ところで、不働態皮膜の不均一性評価には、水溶液中における金属表面の電気化学反応活性分 布を調べることができる走査電気化学顕微鏡(SECM)が有望である。

  本論文は、上述の観点よりSECMを腐食系に適用し、不働態皮膜の不均一性を評価するとと もに、指定箇所で不働態皮膜を局部的に破壊することができる液中イオン銃(LPIG)を新規に 開発して、指定箇所における皮膜の局部破壊を調べたものであり、その主要な成果は次の点に 要約される。

SECMの 原理 と 特 徴を ふまえ、 腐食系へ 適用するた めのSECMを自 作し、そ の性能を 評価 した。メディエ一夕としてFe(CN)64・を含むpH8.4のホウ酸塩水溶液中、白金を試料電極に、

直径10 ymの 白金微小 ディスク電 極をプロ ープ電極として用いた場合、SECMプ口一プ電流 像の面分解能は20 Umであり,理論値(プ口一プ電極直径の2倍)と一致することを見出した。

◎プロープ電極を鉄電極表面近傍上に配置し、ヌディエ一夕(Fe(CN)64一)の酸化反応がプロー プ電極上で、反応生成物(Fe(CN)63―)の還元反応が鉄電極上で起こるようプローブ電極および 鉄電極の電位を独立に制御すると、プロープ電極に不働態皮膜の厚さに依存した酸化電流の流 れることが判明した。この条件下でプロープ電極を面方向に走査することにより,皮膜厚の面 分布に相当するプロープ電流像の測定に成功した。不働態化した多結晶鉄電極表面のプ口一ブ 電流像は、不働態皮膜の膜厚に依存した不均一性を示し、不働態皮膜の厚さが下地結晶粒の面 方位に 依存する({1001冫冫{111}冫{1101の順に皮膜は厚くなる)ことを明らかにした。

◎多結晶チタン電極上に作成したアノード酸化物皮膜の不均一性をSECMにより評価すること に成功した。メディエー夕(Fe(CN)63−/Fe(CN)64−)の酸化還元反応を利用したプロープ電流像 から、鉄表面不働態皮膜と同様、チタン表面アノード酸化物皮膜の厚さは下地結晶粒に依存す ることを見出した。また、皮膜作成電位が増加すると非晶質からアナ夕一ゼ型Ti02への微結晶

‑ 203

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化が進行し、皮膜の不均一性が増加することを顕微ラマン分光法との併用により明らかにした。

@硫酸水溶液中で多結晶チタン電極をアノード酸化した際、電極表面上で起こる酸素発生反応 の分布をSECMにより測定することに成功した。酸素発生反応の分布は、下地結晶粒に依存す ること、厚いアノード酸化物皮膜で覆われた部分では薄い部分よりも酸素発生反応が起こりに くいことを見出した。

◎硫酸塩水溶液中、アノード分極により多結晶鉄電極から溶出するFe2+およびFe3+イオンをプ ロープ電極で検出する条件を見っけ、プローブ電流像から鉄溶解の不均一性を調査した。活性 態において、鉄はFe2+イオンとして溶解するが,その溶解速度は下地結晶粒に依存し,100}

面よりも(110}面の方が大きいことを明らかにした。

◎水素の酸化反応が起こる電位にプローブ電極を制御し、炭素鋼がマグネタイトとガルパニツ ク腐食を起こす際のカソード(マグネタイト)の反応を調査した。マグネタイト上で起こる水 素発生反応の効率は約50%であることを明らかにするとともに、ガルパニック対形成時の水素 発生分布を可視化することに成功した。

◎プロープ電極に用いた銀/塩化銀微小電極をカソード還元することにより、局部的に塩化物 イオンを発生することができる液中イオン銃(LPIG)を開発し、指定箇所の鉄不働態皮膜を局 部的に破壊することに成功した。一連の実験からLPIGによる皮膜の局部破壊は、次の3つの 過程からなることを明らかにした。a冫誘導過程:LPIG/鉄電極間の局所空間に濃縮した塩化 物イオンにより、皮膜への欠陥構造の導入あるいは皮膜の変質が起こるが、不働態は保持され る。b)皮膜溶解過程:皮膜の欠陥構造および変質が臨界値を越えて、皮膜の溶解が始まる。プ ロープ電極では、皮膜から溶出したFe3+イオンの還元反応が、また、LPIG直下の鉄表面では 皮膜を介してFe2+イオンの酸化反応が繰り返される。c)局部腐食過程:皮膜が完全に溶解し、

下地鉄がFe2+イオンとして溶解する。

  これを要するに,著者は、走査電気化学顕微鏡を用いて不働態皮膜の不均一性を評価すると ともに、指定箇所で不働態皮膜を局部的に破壊することができる液中イオン銃(LPIG)を新規 に開発して、指定箇所における皮膜の局部破壊を調ベ、局部腐食の前駆過程について新知見を 得たものであり、界面電気化学および腐食防食工学の発展に貢献するところ大なるものがある。

よって著 者は,北 海道大学 博士(工 学)の学 位を授与 される資格があるものと認める。

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参照

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