博 士 ( 理 学 ) 二 本 柳 聡 史
学位論文題名
Sum Frequency Generation Study
onMolecular Structures at Solid7Liquid Interfaces (和周波発生分光法による固液界面における分子構造の研究)
学位論文内容の要旨
固体 /溶液界面においては溶液あるいは固体の分子構造がバルク中のそれとはさまざま な面で 異なっており,その理解はそれ自身非常に興味深いものである。伝統的な表面化学 の 研究 は主 に 真空 中で 、電 子線 等を プロ ーブ とす る方 法で 行われてきた。1980年代以 降 に走 査プローブ顕微鏡および種々の 分光法が発展したことから、溶液中での表面化学 す なわ ち固液界面が物理化学の中で非 常にホットな分野となっている。固液界面のその 場 観察 により触媒反応、電極反応ある いは生体酵素反応などの興味深い系をより詳細に 議 論す ることが可能となっている。本 研究では界面敏感な振動分光法である和周波発生 (Sum Frequency Generation; SFG)分光法を用いて、酸化物、半導体、金属電極など種々 の 固体 と溶 液 界面 にお ける 水お よび 自己 組織 化単 分子 層(Self‑assembled Monolayer;
SAM)の 構造 を 解明 する こと を目 的と した 。界 面の 水分 子は 化学、生物、物理の各分野 で非常 に重要な位置を占めているにもかかわらず、その分子構造は未解明の部分が多い。
こ れは 、圧倒的多数のバルク水分子が 存在する中で界面の水分子の情報のみを取り出せ る よう な手法が限られているためであ る。また、本研究では単なる固体基板表面に留ま ら ず、 異なる官能基を有する単分子層 で修飾した表面における界面水分子の構造を研究 対 象 とし たこ とが 特色 であ る。 また 、SAMは固 体表 面に 種々 の機 能を 付 与す る手 法と し て 活発 に研 究さ れて いる が、 その 分子 構 造の 詳細 につ いて は不 明な 点が 多い 。SFG 分 光法 では 特 にSAMの アル キル 鎖のト ランス/ゴーシュあるいはラテラルなオーダー′
デ ィ ス オ ー ダ ー と い っ た 他 の 分 析 手 法 で は 得 ら れ 難 い 情 報 が 得 ら れ る 。 第1章 では 、SFG分光 法の 原理 の概略とSFG分光法を分子構造研究に適用した重要な事 例 を 固 液 界 面 の も の を 中 心 に 紹 介 し た 。 最 後 に 本 研 究 の 目 的 を 記 し た 。 第2章 で は 、SFG振 動 分 光 法 の 原 理 とSFGス ペ ク ト ル の 解 析方 法に つ いて 述べ た。
第3章では、SFG分光測定の詳細について述べた。
第4章では、Si(lll)表面における終端水素の安定性とオクタデシル単分子層の構造につ いて検 討した。空気中での水素終端化Si(lll)のSFG測定により終端水素の破壊が起きるこ とを明 らかにした。また,SFG振動 分光測定とその方位角依存性から,Si(lll)表面に構築 したオ クタデシル単分子層がほばオールトランス構造でかつ面内異方性を持っていること を明ら かにした。
第5章で は、酸化チタン薄膜表面の光親水化過程について水蒸気 中でSFG測定を行い,
光 親水 化によって酸化チタン表面に存 在する吸着水の配向性が高まることを見出した。
第6章では、有機単分子層で修飾した溶融石英と溶液の界面における水の分子構造を種々
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の溶液pHにおいて 検討した。実験結果はオクタデシルシリル(OTS)単分子層と溶液の界面 において溶液pHに より反転する水分子と反転しない水分子が存在することを示唆した。こ の結果はOTS修飾石英/と溶液の界面では石英/OTS単分子層とOTS単分子層/溶液の二重の 界面が構築されているためと解釈した。アミノ基を有する単分子層(AAS)で修飾した場合,
石英/AAS/溶液界面において水の構造はアルカ リ性溶液中と酸性溶液中の両者で配向性が 高まった。これは 酸性溶液中におけるAAS単分 子層のアミノ基のプロトン付加およびアル カリ性溶液中にお ける石英表面に存在するシラノール基の脱プロトン化による表面電荷に よるものと考えられる。
第7章では、金薄膜電極/硫酸溶液界面の水の構造の電位依存性について検討した。上に 述べたようにSFG分光は酸化物表面の水の構造 解析において非常に有効な手法である。一 方、金属電極表面 の水の構造は電気化学で非常に重要なテーマであるが、これまで電極表 面の水のSFG測定に成功したという報告例は無い。これは、水および金属電極の両者がSFG 測定に用いる入射光(特に赤外光)を強く吸収するからに他ならない。そこで水による吸収を 避ける方法として 、石英上に真空蒸着した金薄膜電極を試料として内部反射配置での測定 を試みた。金表面のSFG測定に対して最適な可視光波長を用いることで金電極/硫酸水溶液 界面の水のSFGスペクトルを得ることに初めて 成功した。その結果、電位が負のときは水 分子が水素をより電極側に向けた配向をし、等電点付近では水の双極子が水平方向を向く、
電位が正のときに は硫酸根が吸着するため水は負電位のときと同様に水素を電極側に向け て配向することが 示された。この結果は電位を正から負へ変化させると水分子の反転が起 こるという従来の 考えに反するものであり、水の配向を考えるときに共存するイオンの影 響が無視できないことを示唆している。
第8章では以上の結果をまとめた。
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学位論文審査の要旨
主査 教授 魚崎浩平 副査 教授 井川駿一 副査 教授 喜多村 昇 副査 助教授 叶 深
(触媒化学研究センター(大学院地球環境科学研究科))
学位論文題名
Sum Frequency Generation Study
on Molecular Structures at Solid/Liquid Interfaces (和周波発生分光法による固液界面における分子構造の研究)
固体/溶液界面においては溶液あるいは固体の分子構造がパルク中のそれとはさまざま な面で異なっており,その理解はそれ自身非常に興味深いものである。伝統的な表面化学 の研究 は主に真 空中で 、電子線 等をプ ロープと する方 法で行わ れてきた 。1980年代以 降に走 査プロー プ顕微 鏡および種々の分光法が発展したことから、溶液中での表面化学 すなわ ち固液界 面が物 理化学の中で非常にホットな分野となっている。固液界面のその 場観察 により触 媒反応 、電極反応あるいは生体酵素反応などの興味深い系をより詳細に 議論す ることが 可能と なっている。本研究では界面敏感な振動分光法である和周波発生 (Sum Frequency Generation; SFG)分光法を用いて、酸化物、半導体、金属電極など種々 の固体 と溶液界 面にお ける水お よび自 己組織化 単分子 層(Self‑assembled Monolayer;
SAM)の構造 を解明 すること を目的 として行 っている 。界面 の水分子 は化学 、生物、物 理の各 分野で非 常に重 要な位置を占めているにもかかわらず、その分子構造は未解明の 部分が 多い。こ れは、 圧倒的多数のパルク水分子が存在する中で界面の水分子の情報の み を取 り 出 せる よ う な手 法が限 られて いたため である 。また、SAMは 固体表面 に種々 の機能 を付与す る手法 として活発に研究されているが、その分子構造の詳細については 不明な 点が多い 。本研 究では、SFG分 光法を用 いてSAMのアル キル鎖の トラン ス′ゴー シュあ るいはラ テラル なオーダー/ディスオーダーといった他の分析手法では得られ難 い情報を得ている。
本論文は8章で構成されている。
第1章では、SFG分 光法の原 理の概 略とSFG分光法 を分子構造研究に適用した重要な事 例 を 固 液 界 面 の も の を 中 心 に 紹 介 し 、 本 研 究 の 目 的 を 記 し て い る 。 第2章 では 、SFG振 動 分光 法 の 原理 とSFGス ベ ク トルの 解析方法 につい て述ベ、 第3 章で、SFG分光測定の詳細について述べている。
第4章では、Si(lll)表面における終端水素の安定性とオクタデシル単分子層の構造につ
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いて検討し、空気中での水素終端化Si(lll)のSFG測定により終端水素の破壊が起きること、
また,SFG振動分光測定とその方位角依存性から,Si(lll)表面に構築したオクタデシル単 分子層がほぽオールトランス構造でかつ面内異方性を持っていることを明らかにしている。
第5章で は、酸化 チタン 薄膜表面 の光親 水化過程について水蒸気中でSFG測定を行い,
光親水化によって酸化チタン表面に存在する吸着水の配向性が高まることを見出している。
第6章では、有機単分子層で修飾した溶融石英と溶液の界面における水の分子構造を種々 の溶 液pHにお いて検討 している。オクタデシルシリル(OTS)単分子層と溶液の界面におい てpHにより反 転する水 分子と反転しない水分子の存在を示し、OTS修飾石英/溶液界面で 石英/OTS単分子 層とOTS単分子層/溶液の二重の界面が構築されているとのモデルを提案 している。また、アミノ基を有する単分子層(AAS)で修飾した場合,石英/AAS/溶液界面に おいて水の構造はアルカリ性溶液中と酸性溶液中の両者で配向性が高まることを見出し、
酸性 溶液中 におけるAAS単分子層のアミノ基のプロトン付加およびアルカリ性溶液中にお ける 石英表 面に存在 するシ ラノール 基の脱 プロトン化による表面電荷で説明している。
第7章では、金薄膜電極/硫酸溶液界面の水の構造の電位依存性について検討している。
金属電極表面の水の構造は電気化学で非常に重要なテーマであるが、種々の実験的困難さ のた めに、SFG測定 の例は無かった。申請者は多くの実験的工夫の結果、世界ではじめて 電位に依存した水の構造測定に成功し、電位が負のときは水分子が水素をより電極側に向 けた配向をし、等電点付近では水の双極子が水平方向を向く、電位が正のときには硫酸根 が吸着するため水は負電位のときと同様に水素を電極側に向けて配向することを示した。
この結果は電位を正から負へ変化させると水分子の反転が起こるという従来の考えに反す るものであり、水の配向を考えるときに共存イオンの影響が無視できないことを明らかに したものである。
第8章では以上の結果を総括している。
本研究は、これまで困難であった固液界面における分子構造の決定を、種々の系につい て表面敏感な手法である和周波発生分光法を用いて明らかにしたものであり、大きな価値 を 有 す る 。 関 連 原 著 論 文 は5編 あ り 、 い ず れ も 英 文 で 国 際 誌 に 掲 載 さ れ て い る。
以上,審査員一同は申請者が博士(理学)の学位を受けるに十分な資格を有するものと 判定した。
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