学 位 論 文 題 名
博 士 ( 医 学 ) 鈴 木 康 夫
サル内側縦束吻側問質核障害による回旋性眼球運動の変化
―Listing の平面による解析一
学位論文内容の要旨
内側縦束吻側問質核(the rostral interstitial nucleus of the medial longitudinal fasciculus,riMLFと略 )は 、1970年代末に単一細胞記録 に よ っ て そ の 局 在 が 明 か と な っ た 神 経 核 で あ り 、 垂 直 方 向 の 急 速 眼 球 運 動 の 発 現 に 関 与 す る 領 域 , と 考 え ら れ て い た 。 そ の根 拠 と し て は 、 こ の 領 域 の 片 側 電 気 刺 激 で 、 主 と し て 垂 直 成 分 が 水 平 成 分 よ り 大 き い 斜 め 方 向 の 眼 球 運 動 が ひ き お こ さ れ た ( 回 旋 を 伴 う 際 に は 、 同 側 眼 で は 外 旋 を 伴 う ) こ と 、 覚 醒 サ ル を 用 い た 単 一 細 胞 記 録 実 験 で も 、 こ の 領 域 に 垂 直 性 急 速 眼 球 運 動 に 関 連 し た バ ー ス ト 細 胞 (burst neuron)が 、 見 い だ さ れ た こ と が あ る 。 さ ら に カ イ ニ ン 酸 で 両 側riMLFを 障 害 す る と 水 平 眼 球 運 動 に は 障 害 を 来 た さ な い が 、 全 て の 垂 直 性 急 速 眼 球 運 動 が 、 消 失 す る こ と も 報 告 さ れ て い る 。 し か し な が ら 、 こ れ ら の 実 験 は 、 二 次 元 眼 球 運 動 記 録
( 水 平 と 垂 直 ) で 行 な わ れ た も の で あ り 、 回 旋 方 向 の 眼 球 運 動 に つ い て の 定 量 的 考 察 は ほ と ん ど な さ れ て は い な か っ た 。 最 近 、2個 の コ イ ル を 用 い る サ ー チ コ イ ル 法 に よ る 高 精 度 な 三 次 元 眼 球 運 動 記 録 法 が 開 発 さ れ た こ と に よ り 、riMLFが 回 旋 性 眼 球 運 動 の 発 現 に も 関 与 し て い る と の 報 告 が 単 一 細 胞 外 記 録 と ム シ モ ル(muscimol)に よ るriMLFの 不 活 化 実 験 に よ っ て な さ れ て き て い る 。 単 一 細 胞 外 記 録 で はriMLFの 短 濳 時 バ ー ス ト ・ ニ ュ ー ロ ン (short lead burst neuron,SBNと略)の発射活動が生じ.る方向(ON‑方 向 、on‑direction)が 、 回 旋 方 向で は 、 両 側 で は っ き り と 別れ て い る
( 右 側 に は 正 方 向 の 回 旋 、 右 眼 の 外 旋 と 左 眼 の 内 旋 、 左 側 に 倣 負 方 向 の 回 旋 、 左 眼 の 外 旋 と 右 眼 の 内 旋 ) の に 対 し 、 垂 直 方 向 で は 上 下 方 向 が 左 右 に 混 在 し て い る こ と が 、 両 側riMLFの 不 活 化 で は 、 全 て の 垂 直 性 、 回 旋 性 急 速 眼 球 運 動 が 消 失 す る こ と が 述 べ ら れ て い る 。 同 様 に 三 次 元 眼 球 運 動 記 録 を 用 い た 片 側riMLFの 電 気 刺 激 実 験 で も 、 共 同 性 の 垂 直 眼 球 運 動 が 同 側 眼 の 外 旋 と 対 側 眼 の 内 旋 を 伴 っ て 誘 発 さ れ て お り 、riMLFが 、 垂 直 性 の み な ら ず 回 旋 性 急 速 眼 球 運 動 の 発 現 に も 関 与 し て い る こ と が 示 唆 さ れ て い る 。 本 実 験 で は 、 カ イ ニ ン 酸 を 用 い て こ の 領 域 を 局 所 的 に 障 害 し 、 こ の 領
域が 回旋 性眼球 運動 に及ぽ す影 響をListingの平 面に基 づぃて検討 した。 t
対 象 は3頭 の ア カ ゲ ザ ル (CA,TA,BA)と し た 。 単 一 細胞 外 記 録により、riMLFを同定した後、0.3 ‑1.2 mic rol、8‑16g/lのカイニン 酸を 片側 及び両 側に 注入した。実験終了時に、ホルマリンで灌流、
固定 した 後に行 った 組織学 的検 索でiよ、カ イニ ン酸に よる障害は 三 頭 と も 、riMLFに 限 局 し て お り 、 そ の 尾 側 に あ り 垂 直 性 と 回 旋性 の神 経積分 器に 関与す るCajal問 質核の 神経 細胞障 害は、認め なかった。
三 次 元( 水 平 、 垂 直 お よび回 旋) 眼球運 動は 、強膜 に縫 着した 2個 の 誘 導 コ イ ル と2種 の 直 交 す る 磁場 を 作 り 出 す 三 次 元眼 球 運 動記録装置(Eye Position Meter 3000,SKALAR Instruments,Delft, Netherlands)と で 記 録 し た ( 強 膜 サ ー チ コ イ ル 法 ) 。 片 側riMLF障 害 後 に は 、 同 側 ( 障 害 と 同 側 眼 の 外 旋 、 対 側 眼 の 内 旋 )へ の 回 旋 性 急 速 眼球運 動の 著明な 障害 が生じ たが 、垂直 性急 速眼 球運動 は可 能であ った 。さら に、 全ての サル でListingの 平 面 の 対側 ( 障 害 と 同 側 眼の内 旋、 対側眼 の外 旋)へ の偏 位と厚 さ の 増 加 を 認 め た 。 次 い で 対 側riMLFの 障 害 を 加 え 両 側 障 害 と した 後で は、全 ての 垂直性、回旋性急速眼球運動の障害が生じた。
偏 位 の 方向 は 、riMLF障 害 側 に 依 存 して お り 、 片 側 障 害に よ る偏 位 量 は 、常 に 明 室 下 の 方 が暗室 下よ り大き く認 められ た。 平均の 偏位 量( 明室/ 暗室 )は、TAの片側障害後‑9.6゜/‑3.2゜、両側障 害後1.3° /2.6゜で あった。CAでは、片側障害後8.2°/0.9°、両 側障害後後‑1.8゜/‑2.9°、BAでは、片側障害後16.2°/4.7゜であ っ た 。 片 側 障 害 後 の 明 室 下 の 偏 位 量を100%と し た と き 、片 側 障 害 後 暗 室下 の 偏 位 量 は 、 三頭の 平均 で2 7.4%で あり、 両側 障害後 の 片 側 障害 後 と は 逆 向 き への再 偏位 の大き さは 明室下 の二 頭の平 均で、17.4%であった。
片 側 障 害後 の 著 し い 厚 さ の増加 は、 三頭の 全て のサル で、 両側障 害 に よ る障 害 以 前 の 厚 さ への復 帰は 、両側 障害 を行っ た二 頭のサ ルで とも に認め られ た。片 側障 害後の 厚さ の増加 はListingの平面 の偏 位と 同様に ,暗 室下に較べて明室下の方が著明であった。両側 障 害 を 行 な っ た2頭 の 障 害 前 の 厚 さ を1と し た と き の 平 均の 厚 さ (明室/暗室)は、TAでは、片側障害後3.43/1.72,両側障害後1 .47/0.81.CAでは、片側障害後1.64/2.05,両側障害後0.78/1.13 であった。
カ イ ニン 酸 に よ るriMLFの 片 側 障 害が 、 急 速 眼 球 運 動の 同 側回 旋 成 分 (右 側 障 害 で 右 眼 の外旋 、左 眼の内 旋) を選択 的に 障害し た こ と は 、 過 去 の ム シ モ ル に よ る 片 側riMLFの 一 時 的 不 活 化 実 験 の 報 告 と 一 致 し 、riMLFの 片 側 障 害 後 に 認 めたListingの 平 面 の 偏 位 の方 向 も 、 同 じ く 報告さ れて いる眼 球運 動の回 旋成 分の持 続 的 な 偏位 と 同 じ 方 向 に 生じ た 。 こ れ ら の 結 果はriMLFの バ ース ト 細 胞 が、 垂 直 性 、 回 旋 性急速 眼球 運動の 発現 に不可 欠で あるこ と と 、 その 左 右 対 称 な 活 動がListingの平 面をO回旋位 で最 小の厚 さに 保っ ために 必要 であることとを示唆している。しかしながら、
riMLFの 両 側 障 害 後 で もListingの 法則 が 保 た れ て い た こと は 、
riMLFのバースト細胞|ま、病的状態での非対称な活動はLis tingの 平面の特性は変化させるが、Listingの法則の成立への直接関与は していないこと、Listingの法貝Uの中枢が脳内にあるとした時に、
その中枢がriMLFの末梢側かriMLFと平行して存在していることも 示唆していた。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
サル内側縦束吻側問質核障害による回旋性眼球運動の変化 ー Listing の平面による解析一
内側縦束吻側問質核(the rostral interstitial nucleus of the medial longitudinal fasciculus riMLFと 略 ) は 、1970年 代 末 に 単 一 細 胞 記 録 に よ っ て そ の 局 在 が 明 か と な っ た 神 経 核 で あり、垂直方向の 急速眼球運動の発 現に関与する領域 と考えられていた。
最 近 、 磁 場 か ら の 誘 導 電 流 を 用 い た 高 精 度 な 三 次 元 眼 球 運 動 記 録 法 が 開 発 さ れ た こ と に よ り 、riMLFが 垂 直 性 の み な ら ず 回 旋 性 眼 球 運 動 の 発 現 に も 関 与 し て い る と の 報 告 が 単 一 細 胞 外 記 録 と ム シ モ ル(muscimol)に よ るriMLFの 不 活 化 実 験 に よ っ て な さ | 一 ご 三 て い る 。 本 実 験 で は 、 カ イ ニ ン 酸 を 用 い て こ の 領 域 を 局 所 的 に 障 害 し 、 こ の 領 域 が 回 旋 性眼球運動に及ぽ す影響をListingの平面に基 づぃて検討した。
対 象 は 3頭 の ア カ ゲ ザ ル(CA,TA,BA)と し た 。 単 一 細 胞 外 記 録 に よ り 、riMLFを 同 定 し た 後 、0.3‑1.2microl、8‑16g/lのカ イニ ン 酸を 片側 及 び両 側に 注 入し た。 実 験終 了時 に 、 ホ ル マ リ ン で 潅 流 、 固 定 し た 後 に 行 っ た 組 織 学 的 検 索 で は 、 カ イ ニ ン 酸 に よ る 障 害 は 三 頭 と も 、riMLFに 限 局 し て お り 、 そ の 尾 側 に あ り 垂 直 性 と 回 旋 性 の 神 経 積 分 器 に 関 与 す るCajal問質核の神経細胞 障害は、認めなかっ た。
三 次 元 ( 水 平 、 垂 直 お よ び 回 旋 ) 眼 球 運 動 は 、 強 膜 に 縫 着 し た2個 の 誘 導 コ イ ル と2 種 の 直 交 す る 磁 場 を 作 り 出 す 三 次 元 眼 球 運 動 記 録 装 置(Eye Position Meter 3000,SKALAR Instruments, Delft,Netherlands)と で 記 録 し た ( 強 膜 サ ー チ コ イ ル 法 ) 。 片 側riMLF障 害 後 に は 、 同 側 ( 障 害 と 同 側 眼 の 外 旋 、 対 側 眼 の 内 旋 ) へ の 回 旋 性 急 速 眼 球 運 動 の 著 明 な 障 害 が 生 じ た が 、 垂 直 性 急 速 眼 球 運 動 は 可 能 で あ っ た 。 さ ら に 、 全 て の サ ル でListingの 平 面 の 対 側 ( 障 害 と 同 側 眼 の 内 旋 、 対 側 眼 の 外 旋 ) へ の 偏 位 と 厚 さ の 増 加 を 認 め た 。 次 い で 対 側riMLFの 障 害 を 加 え 両 側 障 害 と し た 後 で は 、 全 て の 垂 直 性 、 回 旋 性 急 速 眼 球 運 動 の 障 害 が 生 じ た 。 偏 位 の 方 向 は 、riMLF障 害 側 に 依 存 し て お り 片 側 障 害 に よ る 偏 位 量 は 、 常 に 明 室 下 の 方 が 暗 室 下 よ り 大 き く 認 め ら れ た 。 片 側 障 害 後 の 明 室 下 の 偏 位 量 を100% と し た と き 、 片 側 障 害 後 暗 室 下 の 偏 位 量 は 、 三 頭 の 平 均 で 27.4% で あ り 、 両 側 障 害 後 の 片 側 障 害 後 と は 逆 向 き へ の 再 偏 位 の 大 き さ は 明 室 下 の 二 頭 の 平均で、17.4%であった 。
片 側 障 害 後 の 著 し い 厚 さ の 増 加 は 、 三 頭 の 全 て の サ ル で 、 両 側 障 害 に よ る 障 害 以 前 の
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道郎 雄 正芳 邦 藤上 代 加井 田 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
厚さへの復帰は、両側障害を行った二頭のサルでともに認められた。片側障害後の厚さ の増加はListingの平面の偏位と同様に,暗室下に較べて明室下の方が著明であった。両側 障害を行なった2頭の障害前の厚さを1としたときの平均の厚さ(明室/暗室)は、TAで は、片側障害後3.4371.72,両側障害後1.4770.81,CAでは、片側障害後1.64/2.05,両側 障害後0.78/1.13であった。
これらの結果はriMLFのバースト細胞が、垂直性、回旋性急速眼球運動の発現に不可 欠であることと、その左右対称な活動がListingの平面を0回旋位で最小の厚さに保った めに必要であることとを示唆している。しかしながら、riMLFの両側障害後でもListing の法則が保たれていたことは、riMLFのバースト細胞は、片側障害後の非対称な活動は Listingの平面の特性は変化させるが、Listingの法則の成立への直接関与はしていないこ と、Listingの法則の中枢が脳内にあるとした時に、その中枢がriMLFの末梢側かriMLF と平行して存在していることも示唆していた。
以上の発表に際し、田代教授からriMLF片側障害後の垂直性急速眼球運動の特性につ いて、また、明室下、暗室下での差の発現機序について、井上教授から、riMLF、外眼筋 運動神経核間の神経投射、前庭刺激の必要性、注視させることの回旋眼位への影響につ いての質問があったが、発表者は何れに対しても、妥当な解答をなし得た。その後、盈1 査 の 田 代、 井 上 両教 授 か ら個 別 に 試問 と試験 を受け 、何れも 合格と 判定され た。
本論文は、回旋性眼球運動の発現機構を解明するために、中脳の微小領域を選択的に 障害することの眼球運動への影響をListingの平面により、定量的に解析したものであり、
博士(医学)に相当する論文と判定された。
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