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速度知覚におよぼすパーシュート眼球運動の効果 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)速度知覚におよぼすパーシュート眼球運動の効果 キーワード :速度知覚,パーシュート眼球運動,異方性 ,Aubert-Fleischl 現象,シグマ運動 行動システム専攻 米村 朋子 はじめに. シグマ運動(sigma movement)を用いて検討した.シグ マ運動とは,ある時空間周波数をもつ刺激面上でパーシ. 運動対象の速度知覚には,2 つの異なる運動検出シス. ュート運動をすると,面全体がパーシュート運動の方向. テムが働いており,それぞれ 像―網膜系(image-retina. に滑らかに移動するように見えるという運動錯視である. system)と眼―頭系(eye-head system)と呼ばれている.. (Lamontagne, Gosselin & Pivik, 2002).もし眼―頭系によ. ある 1 点を固視するなどして,眼球が静止している時に. る速度知覚に異方性が存在するならば,シグマ運動視に. は,網膜上に投影される運動対象の像の動きから速度を. おける知覚速度にも方向による違いが表れるはずである.. 検出することによって運動知覚が生じる.これは像―網. 速度知覚におけるパーシュート運動の効果を検討する. 膜系における速度知覚である.しかし,ヒトや動物は日. ために,実験 1∼4 では,異方性および Aubert-Fleischl 現. 常,動く対象を眼で追いかける.この時,網膜上での対. 象の問題を,実験 5∼7 では,シグマ運動を用いて異方性. 象の動きはほとんど無くなるので,像―網膜系による運. の問題を調べた.. 動検出とは異なる系が必要になる.運動対象を眼で追い かける時の眼球の動きを,パーシュート眼球運動(pursuit. 実験 1 と 2:点運動の速度知覚. eye movement,以下パーシュート運動)という.パーシ ュート運動時は,眼球自体の運動速度情報を用いること によって運動知覚が生じると考えられている.これが眼 ―頭系における速度知覚である(Gregory, 1998).. [目的と方法] パーシュート運動した時に知覚される点運動の知覚 速度に異方性があるかどうかを検討した.. 本研究では,眼―頭系における速度知覚の特性を 2 つ. 実験 1 では左右(水平方向) ,上下(垂直方向)の 4. の問題を検討することによって調べることを目的とした.. 方向へ等速移動する点刺激(白色正方形,一辺視角 0.6 ゚). 1 つは,対象の運動方向によって知覚速度に差がみられ. に対してパーシュート運動をした時に,知覚された点運. るかどうかという問題である.この問題については,対. 動の速度を絶対マグニチュード推定法で判断させた(N. 象が水平方向に運動する場合と垂直方向に運動する場合. =7) .点刺激の運動速度は 12.5,25,50 ゚/s であった.. とで,知覚速度を測定し,互いに比較した.もしパーシ. 実験 2 では,異方性の検討に加え,Aubert -Fleischl 現象を. ュート運動をする条件下において,方向による知覚速度. 検討した.実験 1 と同じ 4 方向への点運動に対する速度. 差が観察されるならば,その結果は眼―頭系による速度. 知覚にパーシュート運動の有無の効果があるかどうかを. 知覚に“異方性”があるということを意味する.. 検討するため,パーシュート運動時と固視時の各条件下. もう 1 つの問題は,眼―頭系による速度知覚の古典的. で,点運動の知覚速度についてモデュラスを用いたマグ. な現象である Aubert-Fleischl 現象(Dichgans & Brandt,. ニチュード推定法で判断させた(N=10) .点刺激の運動. 1972)をとりあげた.Aubert-Fleischl 現象とは,運動対象. 速度は 5,7.5,10,12.5,15 ゚/s であった.点刺激の運動. の物理的速度が同じでも,眼―頭系による知覚速度より. 距離は両実験とも視角 20 ゚であった.. 像―網膜系による知覚速度の方が速いという現象である. 本研究では,この現象と運動刺激形態との関係を調べる. [結果と考察]. ため,等質背景上を点刺激が運動する場合と面刺激(チ. 実験 1 の結果,パーシュート運動時の点運動の知覚速. ェッカーボード,グレーティング)が運動する場合とで. 度は,水平方向よりも垂直方向が大きいという結果(異. 知覚速度を測定し,比較した.もし刺激形態間で差が観. 方性)が得られた[F(3, 18)=8.41, p<.05].異方性は低速. 察されるならば,その結果は Aubert-Fleischl 現象には刺. (5∼12.5 ゚/s)の点運動において生じた.. 激形態が影響することを意味する. さらに本研究では,速度知覚における異方性の問題を. 実験 2 の結果,点運動に対する知覚速度は,パーシュ ート運動時も固視時も同じ[F(1, 9)=0.55, n.s.]であり,.

(2) Aubert-Fleischl 現象は観察されなかった.しかし,実験 1 と同様の異方性は,パーシュート運動時の知覚速度のみ. 覚速度は,水平方向よりも垂直方向が大きいという結果 (異方性)が得られた[F(1, 7)=7.70, p<.05](図 2) .こ. 20. Horizontal Vertical. 15. の異方性は,実験 1,2 と同様に眼―頭系による速度知覚 に特異的であることを示している.さらにまた,異方性 はより高速の面運動に対して生じやすいことがわかった.. 10. 点運動(実験 1,2)では低速度で異方性が観察されたこ. 5. とから,速度知覚の異方性には運動対象の形態(点と面). 0. が影響することが考えられる.. 5.0. 7.5 10.0 12.5 15.0 Target Velocity (deg/s). 図 1 実験 2 のパーシュート条件時の知覚速度値. N=10.誤差棒は標準偏差.水平(Horizontal) ・ 垂直(Vertical) 別に 示した.モデュラスはパーシュート 条件時の水平 10 ゚/s を10 とした.. これらの結果は,点運動の速度知覚の異方性がパーシ ュート運動に依存して生起することを示している.この. Magnitude Estimates. Magnitude Estimates. に見られた(図 1) .. [結果と考察] 実験 3,4 の結果,パーシュート運動時の面運動の知. 異方性は,眼―頭系の速度知覚機構内における速度信号. 25 20 15 10 5 0. 5 10 15 Checker Velocity (deg/s). の,水平・垂直方向の違いによるものと解釈した.また, 点刺激では Aubert-Fleischl現象が起らなかったことから, この現象の生起には運動刺激の形態が関係していること が示唆された.. Horizontal Vertical. 図 2 実験 3 のパーシュート条件時の知覚速度値. N=8.誤差棒は標準偏差.水平(Horizontal)・ 垂直(Vertical) 別に 示した.モデュラスはパーシュート 条件時の水平10 ゚/s を10 とした.. 実験 3 と 4:面運動の速度知覚 また,面運動の知覚速度は,パーシュート運動時より [目的と方法] 運動する面刺激をパーシュート運動した時に,知覚さ. も固視時が大きくなり[F(1, 6)=6.61, p<.05],面運動の 場合には Aubert-Fleischl 現象が観察された(図 3) .. れる面運動速度に,パーシュート運動による異方性があ であった.実験 2 と同様にモデュラスを用いたマグニチ ュード推定法で面運動の知覚速度を判断させた.また, Aubert-Fleischl 現象を検討するために, パーシュート運動 時と固視時の両条件で,速度を判断させた. 実験 3 では,一辺視角 20 ゚の正方形の範囲内で等速運 動する黒白チェッカーボード刺激(格子サイズは一辺視 角 0.67 ゚)の速度を判断させた(N=8) .面刺激の運動. Magnitude Estimates. るかどうかを検討した.運動方向は水平・垂直の 2 方向. 50 40. Pursuit Fixation. 30 20 10 0. の正方形の範囲内で等速運動する黒白グレーティング刺. 10 20 40 Grating Velocity (deg/s). 激(線分幅は視角 5 ゚)の速度を判断させた(N=7) .面. 図 3 実験 4 の知覚速度値.. 刺激の運動速度は 10,20,40 ゚/s であった.パーシュー. N=7.誤差棒は標準偏差.パーシュート ( Pursuit) ・固視(Fixation) 別 に示した.モデュラスはパーシュート 条件時の水平20 ゚/s を20 とした.. 速度は 5,10,15 ゚/s であった.実験 4 では一辺視角 50 ゚. ト運動の距離は面運動範囲と同じで各実験それぞれ視角 20 ゚,50 ゚であった.面刺激上には,面運動と同期して 4 方向(左右上下)へ動く点刺激(赤円,直径視角 0.67 ゚) を提示し,パーシュート運動のための指標とした.. これまでの実験結果から,異方性や Aubert-Fleischl 現 象の生起には,運動対象の形態的特性が影響することが.

(3) わかった.いずれの現象もパーシュート運動における眼. (各 N=6) .輝度条件は黒白チェッカーボード刺激(平. ―頭系の速度処理過程が関与していることが示唆される.. 均輝度 45cd/m2 ) ,色条件は交照法を用いて主観的等輝度 (平均輝度 9.8cd/m2 )に統制した赤緑チェッカーボード. 実験 4 までのまとめとシグマ運動. 刺激をそれぞれフリッカー刺激 (一辺視角 20 ゚の正方形, 格子サイズは一辺視角 0.4 ゚)として用いた.フリッカー. パーシュート運動によって速度知覚 の異方性が生起. 刺激の周波数は 12.5,16.7,25Hz であり,この時に必要. することが実験 4 までの結果で示された.以下に報告す. なパーシュート運動速度(点刺激の運動速度)はそれぞ. る実験では, 運動錯視の一種であるシグマ運動を用いて,. れ 5,10,15 ゚/s であった.実験 7 ではフリッカー刺激サ. 速度知覚の異方性を検証した.シグマ運動は,極性の異. イズの大きさの効果を検討するため,大きさ 3 条件(そ. なる 2 枚の周期性パターン(図 4)が高速転換提示され. れぞれ一辺視角 10,20,30 ゚の正方形)下におけるシグ. る画面(以下,フリッカー刺激)上を一定方向へ等速パ. マ運動の知覚速度を,モデュラスを用いたマグニチュー. ーシュート運動をすることによって知覚される.シグマ. ド推定法で判断させた(各 N=7) .フリッカー刺激は実. 運動の生起にはパーシュート運動は不可欠であるが,パ. 験 6 の輝度条件と同じ白黒チェッカーボードであった.. ーシュート運動方向がその知覚速度にどのような影響を. フリッカー刺激の周波数とパーシュート運動速度は実験. およぼすかに関する研究は,これまでにまだ行なわれて. 6 と同じであった.. いない. [結果と考察] 実験 5,6,7 の結果,シグマ運動の知覚速度は,水平 方向よりも垂直方向が大きいという結果(異方性)が得 られた[F(3, 15)=6.69, p<.05] (図 5) .シグマ運動がパー a(a). (b). シュート運動によってのみ知覚できる運動であることか ら,得られた異方性はパーシュート運動に依存して生起. 図 4 シグマ運動生起用のフリッカー刺激パターン.. することを示し,通常の運動刺激(点・面刺激)を用い. (a) 白黒のチェッカーボードパターン.(b) (a)の白黒極性を反転させた パターン.(a) と(b)を交互に高速提示する.. た実験 1∼4 の結果を確認した.速度知覚の異方性は,よ. [目的と方法] シグマ運動視において,パーシュート運動方向および フリッカー刺激要因が,シグマ運動の知覚速度にどのよ うな影響を与えるのかを検討した. 実験 5 では,フリッカー刺激上を左右(水平方向) , 上下(垂直方向)の 4 方向へ等速運動する点刺激(白色 正方形,一辺視角 0.6 ゚)を指標として,パーシュート運. Magnitude Estimates. 実験 5,6 と 7:シグマ運動の速度知覚. り低速のシグマ運動に対して生じやすいことがわかった.. 25 20. Horizontal Vertical. 15 10 5 0 12.5 16.7 25.0 Flicker Frequency (Hz). 動した時に知覚されるシグマ運動の速度を,絶対マグニ. 図 5 実験 6 のシグマ運動・輝度条件時の知覚速度値.. チュード推定法を用いて判断させた(N=7).フリッカ. N=6.誤差棒は標準偏差.水平(Horizontal)・ 垂直(Vertical) 別に示した. モデュラスは輝度条件時の水平 16.7Hz を10 とした.. ー刺激の周波数は 16.7,25,50Hz であり,この時に必要 なパーシュート運動速度(点刺激の運動速度)はそれぞ れ 7.5,12.5,25 ゚/s であった.フリッカー刺激は白黒チ. また,輝度と色条件の間に知覚速度の差は見られない. ェッカーボード(一辺視角 20 ゚の正方形,格子サイズは. [F(1, 10)=0.31, n.s.](図 6)こと,フリッカー刺激面が. 一辺視角 0.5 ゚)であった.実験 6 では,フリッカー刺激. 大きくなるとシグマ運動速度は遅く知覚される[F(2, 18). の輝度・色(等輝度)情報の効果を検討するため,運動. =4.80, p<.05](図 7)ことがわかった.これらは,シグ. 情報の輝度・色条件下におけるシグマ運動の知覚速度を,. マ運動の速度知覚に,輝度・色情報や大きさという刺激. モデュラスを用いたマグニチュード推定法で判断させた. 要因が影響していることを示唆している..

(4) Magnitude Estimates. 25 20. Luminance Color. が速度知覚の異方性を生み出したと考えることができる. Aubert-Fleischl 現象が,本研究で用いた速度条件にお. 15. いて,面刺激固有の現象であるという結果については,. 10. 次のように解釈した.点刺激の場合,パーシュート運動 時と固視時で知覚速度に違いがなかった.刺激条件とし. 5. ては,点運動よりも面運動のほうが背景と運動領域との. 0 12.5 16.7 25.0 Flicker Frequency (Hz). 相対運動(relative motion)を知覚しやすいと考えられる. すなわち,面刺激の場合,刺激サイズが大きいので刺激 を取り囲む枠組み(スクリーン枠など)と刺激との間に. 図 6 実験 6 のシグマ運動の知覚速度値.. 相対運動が生じやすい.一方,点刺激の場合,刺激の近. 誤差棒は標準偏差,輝度( Luminance) ・ 色(Color)条件別( 各 N=6)に 示した.モデュラスは輝度条件時の水平 16.7Hz を10 とした.. 辺はパターンの存在しない等質視野であり,相対運動が 知覚しにくい.このことが面刺激でのみ Aubert-Fleischl. Magnitude Estimates. 現象が観察されたことの原因となったのかもしれない.. 25 20 15. 10° 20° 30°. Aubert-Fleischl 現象を数量的に調べた Dichgans & Brandt (1972)の実験で,刺激サイズの大きなグレーティング 面が用いられていることとも一致している. 今後は異方性が何にもとづいて生じるのか,そのメカ. 10. ニズムをさらに詳しく検討するため,斜め方向を含めた. 5. 運動方向での知覚速度を測定する必要がある.その理由. 0. は,斜め方向のパーシュート運動の場合,水平・垂直方. 12.5 16.7 25.0 Flicker Frequency (Hz) 図 7 実験 7 のシグマ運動の知覚速度値. 誤差棒は標準偏差,大きさ( 10,20,30 ゚) 条件別( 各 N=7)に示した. モデュラスは 20 ゚条件時の水平 16.7Hz を10 とした.. 総合考察 運動対象の速度知覚におよぼすパーシュート眼球運 動の効果を調べるために,7つの実験を行った.その結 果,1)パーシュート運動時の知覚速度は水平方向よりも 垂直方向が大きいという異方性があること,2)AubertFleischl 現象は,面刺激固有の現象であることがわかった. パーシュート運動時の知覚速度に異方性があること は,物理的に運動する対象(点・面刺激)の運動視の場 合だけでなく,運動錯視の一つであるシグマ運動視の場 合でも明らかになった.一方,固視時の知覚速度には異 方性は観察されなかったことから,速度知覚の異方性は 像—網膜系ではなく,眼—頭系の速度処理過程に原因が あると推論できる.パーシュート運動をするために使わ れる外眼筋や眼球速度信号の生成部位などが,眼球運動 の水平・垂直方向で異なることが知られている(篠田, 2003).眼―頭系における,外眼筋から運動視中枢へ (inflow)もしくは眼球運動中枢から外眼筋へ(outflow) 出されている速度信号(Mackay, 1973)の水平・垂直差. 向とは異なる外眼筋が関与するからである.また,相対 運動と Aubert-Fleischl 現象との関係についても検討する 必要がある. 主要な引用文献 Behrens, F. & Grüsser, O. -J. (1979). Smooth pursuit eye movements and optokinetic nystagmus elicited by intermittently illuminated stationary patterns. Experimental Brain Research, 37, 317-336. Dichgans, J. & Brandt, Th. (1972). Visual-vestibular intracation and motion perception. Bibliotheca Ophthalmologica, 82, 327-338. Dichgans, J., Wist, E., Diener, H. C., & Brandt , T. (1975). The Aubert -Fleischl phenomenon : A temporal frequency effect on perceived velocity in afferent motion perception. Experimental Brain Research, 23, 529-233. Gregory, R. L. (1998). Eye and Brain : The psychology of seeing. (5th ed.). Oxford University Press. Lamontagne, C., Gosselin, F., & Pivik, R. T. (2002) Sigma smooth pursuit eye tracking : constant k values revisited. Experimental Brain Research, 143, 130-132. Mackay, D. M. (1973). Visual stability and voluntary eye movements. In Jung, R. (ed.). Handbook of sensory physiology, Ⅶ/3A. Berlin, Heidelberg, New York : Springer. pp. 307-333. Oyama, T. (1970). The visually perceived velocity as a function of aperture size, stripe size, luminance, and motion direction. Japanese Psychological Research, 12, 163-171. Pack, C., Grossberg, S., & Mingolla, E. (2001). A neural model of smooth pursuit control and motion perception by cortical area MST. Journal of cognitive neuroscience, 13, 102-120. 篠田義一. (2003). 眼球運動系 : 伊藤正男(監), 脳神経科学. 三輪書店. pp.471-487..

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