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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 本 間 徹 生

学 位 論 文 題 名

Incommensurate‑Commensurate Magnetic Phase Transitions of the Ising‑5f System UPd2Si2  ‑ Completion of the H‑T  Phase Diagram and Mean‑Field Analyses ‑

    ( イ ジ ン グ 5f系UPd2Si2に お け る 不 整 合 一整 合磁気相転移一″.ア相図作成と平均場解析―)

学位論文内容の要旨

    中性 子弾 性 散乱 実験 の 確立 によ っ てこ の半 世 紀の 問に 磁 性体 のと る 様々 なミ ク ロ構 造( 磁 気 構 造) が明 ら かと なっ た 。そ の最 も 興味 深い 例の ーつに、磁気構造周 期が格子周期より 長く、

か つ 非有 理数 倍 であ る「 不 整合 」構 造 があ る。 遍 歴電 子系 に おけ るそ の 典型 例は 、 スピ ン密 度 が 空 間的 に変 調 する 「ス ピ ン密 度波 」 とし て知 ら れる 。そ の 起源 はフ ェ ルミ 面の ネ ステ イン グ に よ る も の で 、SDWの 伝 播 ベ ク ト ル は フ ェ ル ミ 波 数 と 関 係 す る 。 一 方、 局在 電 子系 にお い て は 、 磁 気 モ ー メ ン ト が 伝 播 ベ ク ト ルQの 方 向 に 沿 っ て ら せ ん 状 に 回 転し て配 列 する 「ら せ ん 構 造 」 が 多 く の 物 質 で 見 つ か っ て い る 。 こ の 構造 は、 各 磁気 モー メ ント が互 い に適 当に 傾 い て 、 磁 気 モ ー メ ン ト 間 に 働 く 複 数 の 磁 気 相 互 作 用 を 安 定 化 す る こ と に よ っ て 生 ず る 。   こ れ ら の 典 型 例 に 対 し 、 極 め て 希 な 例 と し て、 一軸 磁 気異 方性 を もつ 磁性 体 が示 す不 整 合 磁 気 構造 があ る 。こ れま で の報 告で は 、い ずれ も 高温 で「 不 整合 正弦 波 構造 」が 実 現し 、そ の ほ と ん ど が 低 温 で 整 合 構 造 に 転 移 す る 。 磁 気 モー メン ト が一 軸方 向 の自 由度 し かも たな い た め に 、 ど の よ う な 整 合 構造 も 全て の競 合 する 相互 作 用を 満足 で きな い状 況fフ ラ スト レー シ ョ ン ) が、 これ ら の磁 性体 の 本質 とし て 予想 され る が、 詳し い 実験 およ び 理論 的解 析 はな され て いない。

  本 研 究 で は 、5f電 子 系 化 合 物UPd2Si2が 、 強 い 一 軸 磁 気 異 方 性 を 示し 、高 温 で「 不整 合 正 弦 波 縦波 構造 」 、低 温で 単 純な 「整 合 」反 強磁 性 相に 逐次 転 移す るこ と を実 験的 に 明ら かに し た 。 ま た 、 広 い 磁 場(H)― 温 度(T)領 域 に お け る 詳 し い 実 験 か ら 、 閉じ たH‑T相 図を 作成 し 、 不 整 合お よび 整 合相 の磁 場 中に おけ る 変化 の様 子 を明 らか に した 。さ ら に、 長周 期 構造 を示 す 系 に 対す る代 表 的な モデ ル 、「Axial NextNearest‑Neighbor Ising (ANNNI) modeI亅 に基 づ く定量的解析を行い、このモデルの適用性について議論した。

  UPd2Si2は 、 体 心 正 方 晶ThCr2Si2型 の 結 晶 構 造 を と る 。1977年 に 発 見 さ れ て 以 来 、 い く っ か の グ ル ー プ に よ っ て そ の 多 結 晶 試 料 に 対 する 物性 が 調べ られ て きた が、 再 現性 のあ る 結 果 は 得 ら れ て い な か っ た 。 本 研 究 で は 、 単 結 晶試 料を 作 製し 、初 め て再 現性 の ある 実験 デ ー タ を 得る こと に 成功 した 。 磁化 、比 熱 、電 気抵 抗 、強 磁場 磁 化( 定常 磁 場: 東北 大 学金 属材 料 研 究 所 、pulse磁 場 : 大 阪大 学超 強 磁場 実験 施 設と 東京 大 学物 性研 究 所) およ び 中性 子弾 性 散 乱 ( 日本 原子 力 研究 所) の 測定 を行 っ た結 果、 以 下の こと が 明ら かと なった。 (1) H‑T相図に は 、135K(TNh) 以下 に三 つ の秩 序相 が 存在 する 。ヱkh以下、108K71Nl)以上で不整合正 弦縦波

(Ql〜0.73c゛)、ヱkl以下でType―IAF(Q2〓lc゛)、磁場中で整合縦波(Q3 2/3c゛)が実現してい る 。 常磁 性相 か ら不 整合 相 への 転移 は 、弱 磁場 下 で二 次転 移 であ るが 、 強磁 場下 で は一 次転 移

一 .50

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になる。また、それ以外の相境界は、すべて一次転移であることがわかった。(2)不整合相で は、Qが連続的な温度変化をし、pure sinusoidalであることがわかった。また、磁化率X(丁)

が、反強磁性相であるにも関わらず、強磁性的な発散傾向を示すとぃう、これまでの磁性体に は見られない現象を示すことがわかった。(3)常磁性相では、磁化率がCurie−Weiss則に従い、

電気抵抗が通常の金 属とは異なり‑logTに比例することから近藤効果が起こっていることが示 唆さ れる。(4)低温秩 序相において、U5r電子によ る電気抵抗がずに比例し、 その比例係数 とU5ア電子比熱係数 の値が通常金属の値よりも 数十倍大きく、Kadowaki−Woodsの関係を満 たす。っまり、低温 でFermi−liquid的な振舞いを示すことがわかった。以上の実験結果から 次のような5f電子状 態が示唆される。U5f電子は 、常磁性相の振舞いから、高温では局在的 に振舞うが、伝導電 子との混成効果も存在する ことが予想される。また、高温での磁気秩序 は強い磁気相関の存 在を示唆し、その磁気構造 から、c面内には強い強磁性相関が、c面間に は弱い反強磁性相関が存在していると考えられる。また、不整合相が出現していることから、

c面間の反強磁性相 互作用は複数存在し、それらが競合してフラストレーションが起こってい るものと考えられる 。更に、磁化の大きな一軸 異方性と比熱から見積もられた5f電子のエン トロピーは、5f電子 が強い結晶場の影響を受け 室温ではせいぜい三つの自由度しか存在しな いことを示唆する。このうちニつの自由度によって磁気秩序が起こっていると考えられる。こ の場合、結晶場基底状態としては、doubletまたはsingletのどちらの可能性も残されている。

これらの単純な局在 磁性描像に対し、低温でFermi‑liquid的な振舞いが見られることは、こ の 系 で の5f電 子 状 態 が 多 く の ノ 電 子 系 同 様 、 遍 歴 性 を 合 わ せ も っ こと を意 味 する 。     これらの実験事 実に対し、本研究では、局 在5f電子の立場に立ち、ANNNIモデルに基づ く解析を行った。モ デルの適用にあたって、U5′モーメント問の相互作用は、c面内では最近 接相互作用として山 、c面間には最近接と第二近 接相互作用としてそれぞれムとあを仮定し た。それらは、高温秩序相への転移温度(TNh)、その伝播ベクトル(Q(7kh))と絶対零度にお けるType―IAF相から磁場中で出現するQ3二ニ2/3c゛相への転移磁場(H・ml)から決定した。こ れら三つの相互作用 をもつハミルトニアンに対 し、スピン構造がN枚毎に繰り返すとして平 均場方程式を導き、数値計算によって磁場(H)と温度(丁)の関数として解いた。得られた解 の自由エネルギーを 計算しそれが最小となる構造から安定なスピン構造が決定された。Nを最 大100までとした平均場解析の結果、少なぃパラメー夕(山,ム)あ)にも関わらずUPd2Si2の 複雑なH―T相図、磁 化、エントロピーの振舞い を半定量的に説明出来ることがわかった。更 に、不整合相におけ る磁化の増大の起源を解明するためにフーリエ変換によってスピンのg依 存性を求めた。この結果、磁場中で安定な構造であるQ=2/3c゛に近い波数の成分が磁場によっ て成長することがわかり、磁化の増大がこの波数成分の高調波に起因することが示唆された。

以上 の 実験 と理 論の 良い 一 致に対して、不整合 相のQの温度依存性とpuresine構造は、こ の単純なモデルの枠 内では説明されない。そこで、一つの拡張として基底状態がsinglet、つ まりinduced−momenttypeの場合に対する解析を 試みた。磁気モーメント問の相互作用は、

doubletの場合にANNNIモデルで仮定した値を採 用した。その結果、結晶場分裂の大きさが、

室温以下の場合はdoubletの場合と同様の結果が得られた。よって、singlet模型においても、

これらの不整合相の性質は説明されないことが示された‥

    以上、本研究で は、UPd2Si2単結晶の磁気・ 輸送・熱特性を実験的に明らかにし、1MOe までの超強磁場磁化 測定によってロ―T相図を初 めて完成させた。その結果、UPd2Si2が、一 軸磁気異方性を示し 不整合構造が実現する極め て希な磁性体であることを明らかにした。特 に、不整合構造におけるこの系固有の特徴として磁気構造が完全な正弦波を示し、反強磁性相 にも関わらず磁化が異常な増大傾向を示すことを発見した。更に、第二近接相互作用までを取 り入 れたイジングス ピンハミルトニアンを基にし たANNNIモデルの適用によっ て、H―丁相 図 、 不 整 合 相 に お け る 磁 化 の 増 大 が 半 定 量 的 に 説 明 さ れ る こ と を 示 し た 。

51一 一

(3)

学位論文審査の要旨 主査    教授    榊 原俊 郎 副査    教授    大 川房 義 副査   助教授   根本幸児 副査    講師    網 塚    浩

学 位 論 文 題 名.

Incommensurate‑Commensurate Magnetic Phase Transitions of the Ising‑5f System UPd2Si2

‑ Completion of the H‑T  Phase Diagram and Mean‑Field Analyses ‑      ( イ ジ ン グ 5f 系 UPd2Si2 に お け る 不 整 合

一整合磁気相転移―″・ア相図作成と平均場解析―)

  結晶中の微視 的自由度の秩序構造は必ずし も結晶の対称性とは一致し ない。秩序構造の単位が結晶 学的単 位胞より大きい 場合、それは超格子構造とよ ばれる。さらに、超格子単 位胞が結晶学的単位胞の有理 数比を もてぱ整合、無 理数比をもつ場合は不整合と よばれる。本学位論文は、 結晶中の磁気モーメントが示 す不整 合磁気相転移現 象を対象とする。

  磁性体の不整 合秩序構造には、(1)遍歴 電子によるスピン密度波、(2)容易面異方性をもつ磁気モーメント に よる らせ ん構 造、 および、(3)1軸異方性をもつ 磁気モーメントによる正弦 波構造、の3種類の存在が知 ら れている。(1) および(2)の秩序機構についてはその本質がほぼ解明されているのに対し、(3)に対する理解は 依 然不 十分 な状 況に あ る。 その 第1の理 由として 、1軸異方性に伴うフラスト レーションの効果を正しく 考 慮し有限温度の 物性を取扱うことが、最も単 純な仮定に基づく現象論に おいてさえも確立していない ことが 挙 げら れる 。第2に、 実験例が少なく、しかも報 告されている系には各系固有 の複雑さがあり、理論に対 す る 本質 的検 討を 難し くしているとぃう点が挙げら れる。この論文の最も評価 できる点は、(3)に属する磁 性 体の原型と成り 得る物質を見い出したことに ある。

  申請 者は 先ず 、UPd2Si2単結晶を複数作成しそ の基礎物性を調べた。室温以 下零磁場における比熱と電 気 抵 抗、80kOe以 下の 磁場 領域 に おけ る磁 気抵 抗、 お よび 、最 大lOOMOeの超強 磁場領域に及ぷ磁化の丹念 な 測定から、この 物質が低温磁場中において三 つの秩序相をもつことを明 かにし、詳しい磁気相図を作 成した 申 請者 はま た、 同型 の非磁性参照物質、ThPd2Si2単結晶の物性を調ベ、UPd2Si&の相転移がUイオンの5f電 子 によ るも ので ある ことを明かにした。研究開始 当初、この物質についてz+多赭晶試料に関する報告が2例 あったのみで、 しかも両者には食い違いがみ られた。申請者の得た結果 はそれらのいずれとも異なる もので ある。申請者は 実験結果の再現性および試料 依存性を調ペ、この物質に 本質的な性質を初めて明かに し、そ の一部を公表し た。

  次に 申請 者は 中性 子 散乱 実験 を行 ない 、各秩 序相の秩序構造を微視的に調 べた。その結果、Uイオンの5 f磁 気モ ーメ ン トは 強い1軸 異方 性を 有し 、零磁 場において降温に従い常磁性 から不整合正弦波へ、さら に 低 温で タイ プI型整合 反強磁性構造へと転移する ことを明かにした。上述の相 図公表が関心を呼び、中性 子 散乱実験による 磁気構造決定は海外グループ との競合となった。しかし 、本論文は、この物質に関し て最も 詳しく豊富な情 報を提供するものとして、そ の優位性にゆるぎはない。

  申請者は更に 、観測された異常磁性に対し 局在電子模型の立場に基づ く基礎的な理論解析を行なっ た。強 磁 性的 に結 合し た1軸性 スピ ン から なる 面の間に 働く相互作用が、最近接面 間および第2近接面問ともに 反 強 磁性 的で あり 、競 合 して いる 状況 を仮 定した 。このモデルに対して平均場 近似を行ない、20スピン面 ま で考慮した自己 無撞着方程式を数値的に解い た。極めて単純な仮定と少 ないバラメータ設定にも拘ら ず、こ のモデルは観測 された磁気相図および各秩序 相における物理量の振舞い を半定量的によく再現するこ とが示

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された。しかし、同時に、不整合伝播ベクトルの連続温度変化、および、磁化に高調波成分が存在しないと いう実験事実が説明されないことも明かとなった。この現象論解析がUPd2Si2の物性の本質の1面を捉えて いることは聞違いない。しかし、その微視的意味づけ、および、実験結果との不一致点が計算における近似 によるものか、或はモデル自身の単純さによるものかは、今後の理論的検討課題である。しかし、これらの 検討を要求するのは実験の論文の範囲を越える。むしろ本論文は、不整合1軸性磁性体の極めて単純な例を 見出したことにより簡単化されたモデルとの比較が可能となり、その本質的課題を浮き彫りにすることに成 功した実験例として捉えるべきである。

  結論として、フラストレーションを有する系の磁気秩序機構とぃう磁性研究における基礎課題のーっに対 して、さらに、近年発展しつっある5f電子の物性研究において、申請者の論文は新しく有益な情報を提供す るものであり、学術的に評価できる。また、この論文をまとめるにあたり示された、申請者の専門知識、実 験遂行能力、理論的検討能力、およぴ、技術発表能カも評価できる。よって審査員一同は申請者が博士(理 学)の学位を受けるに十分な資格があるものと認めた。

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参照

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