博 士 ( 生 命 科 学) 勝 島 啓佑
学 位 論 文 題 名
Study of epigenetic regulation of histone modifications and non‑coding RNAs
involved in glioma stem cell differentiation
(脳腫瘍幹細胞の分化に関わる非翻訳RNAおよびヒストン修飾によるエピジェネテイクス制御機構に関する研究)
学位論文内容の要旨
がん組織は、ジェネティック・エピジェネティックに異なる細胞から構成され、腫瘍 内不均一性を示す。腫瘍内において、一部の細胞は自己複製能を持っと同時に転移能、
浸潤能、増殖能の異なる形質を持つ細胞へと分化しうろ多分化能を有していることが 見出された。このサブグループががん幹細胞であり、がん組織はがん幹細胞とそこか ら分化したがん細胞により構成されると提唱されている(Reya et al. ,Nature ,2001) 。 膠芽腫(グリオブラストーマ)は、原発性脳悪性腫瘍の中で最も高頻度に発生する腫瘍で ある。平均生存期間 1 年 程度で、5 年生存率も10 %以 下と極めて予後が悪い。グリオ ブラストーマにおいても、がん幹細胞の存在が報告 されており(Cusimano et al. , Nature ,2004) 、従来の抗がん剤ががん細胞の有する単一の形質を標的にしているとす ると、がん幹細胞の分化より形成される腫瘍内不均一性の存在はがんの根治を困難に している原因と考えられる。しかしがん幹細胞がどのような過程を経て他のがん細胞 と 異な る形 質を 獲得 し 、腫 瘍内 不均 一性 を形 成し てい るの か不 明な 点も 多い 。 近 年、 DNA メチ ル 化や ヒス トン 修飾 、マ イク ロRNA(miRNA) をはじめとする様々 なエピジェネティクス機構ががん幹細胞の分化、腫瘍内不均一性に関与していること が示された (Cedar and Bergman ,Nat. Rev. Genet. ,2009 , Bracken and Helmn Nat.
Rev. Cancer 2009 ,Liu and Tang ,CancerRes .,2011 )。本研究ではヒストン H3 リジ ン 27 卜リメ チル化(H3K27me3 )修飾及び miRNA によって制御されるがん幹細胞の分 化が、固形腫瘍の組織多様性獲得の基盤にあると考え、グリオブラストーマより樹立 したがん幹 細胞( Ghomastem . likecell , GSC )をモデルとし、GSC 分化誘導時にお け る miRNA 発 現 の 変 動 、 H3K27me3 修 飾 に 着 目 し 、 GSC 分 化 制御 に関 わる エピ ジ ェネティクス機構を明らかにすることを目的とした。
ヒト グリ オブ ラス 卜 ーマ より 樹立 した GSC はbFGF と EGF を 含む 無血 清培 地で 培 養すると浮 遊塊を形成し増殖する。 GSC の未分化性を抗体による免疫染色及び mRNA の発現から解析した結果、未分化マーカーであるNestin の発現が高頻度であるのに対 して 、分 化マ ーカ ーで ある GR 廿 及び TUJl の発 現 は低 頻度であった 。さらに、GSC は血清を含む分化誘導培地にて培養すると紡錘形の細胞(Serum .inducedbraintumor cell ,S .BTC )へと形態を変化させ、未分化マ一力一を低下、分化マーカーを増加させる ニとを確認したー
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GSCを 血 清 添 加 に て 分 化 誘 導 し 、 マ イ ク ロ ア レ イ を 用 い てmiRNAの 発 現 解 析 を 行 っ た 結 果 、 分 化 誘 導 に 従 っ て 発 現 が 増 加 す るmiRNAを13個 、 減 少 す るmiRNAを 34個 同 定 し た 。 同 定 さ れ た 各miRNAに つ い てdatabase. ヒ に お け る 標 的 遺 伝 子 の 検 索 を 行 な っ た 結 果 、 分 化 誘 導 に 伴 い 発 現 が 減 少 を 示 し たmiR‑1275は オ リ ゴ デ ン ド ロ サ イ 卜 の 分 化 マ ー カ ー で あ るOligodendrocyte Specific Protein/ Claudinll (OSP/
CLDN11)を 標 的 と し て い る こ と を 見 出 し た 。Real‑time PCR法 、western blotting法 に よ る 定 量 的 解 析 を 行 っ た 結 果 、miR‑1275はGSC分 化 に よ り 発 現 が 抑 制 さ れ 、 そ の 標 的 遺 伝 子 で あ るCLDN11の 発 現 は 上 昇 を 示 し た 。
わsilico解 析 よ りCLDN11の3 . 非 翻 訳 領 域 (3.‑UTR)内 にmiR‑1275に 対 す る 相 補 配 列 が 二 箇 所 存 在 す る こ と を 確 認 し た 。CLDN11の 全 長3.‑UTRを ル シ フ ェ ラ ー ゼ 遺 伝 子 の 下 流 に 組 み 込 ん だ プ ラ ス ミ ド ベ ク タ ー を 作 成 し レ ポ ー タ ー ア ッ セ イ を 行 な っ た 結 果 、miR‑1275がCLDN11の3 ‑UTRを 介 し て 発 現 を 制 御 す る こ と を 確 認 し た 。 GSCに お い て ア ン チ セ ン ス オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド を 用 い てmiR‑1275の 発 現 を 阻 害 さ せ る と 、mRNA及 び タ ン パ ク 質 発 現 レ ベ ル に お い てCLDN11の 上 昇 を 確 認 し 、miR‑1275 がCLDN11の3 ‑UTRを 介 し て CLDN11の 発 現 を 制 御 し て い る こ と を 示 し た 。 miR‑1275の 発 現 制 御 に つ い て 、pri‑miR‑1275の プ ロ モ ー タ ー 領 域 に お け る ヒ ス ト ン 修 飾 をChIP‑PCR法 に よ り 解 析 し た 結 果 、GSCの 分 化 誘 導 に 伴 いpri‑miR'1275プ ロ モ ー タ ー 領 域 に お い てH3K27me3に よ る 修 飾 が 観 察 さ れ た 。 ま た 、H3K27me3阻 害 剤(3‑Dezaneplanocin‑A)存 在 下 に お い てGSCを 分 化 誘 導 さ せ る とmiR‑1275の 発 現 抑 制 は み ら れ ず 、 CLDN11の 発 現 上 昇 に つ い て も 認 め ら れ な か っ た 。 グ リ オ ブ ラ ス ト ー マ 組 織 で は ア ス ト ロ サ イ ト 系 列 の 細 胞 集 団 内 に オ リ ゴ デ ン ド ロ サ イ 卜 系 列 の 細 胞 集 団 が 混 在 す る こ と が 観 察 さ れ る(Kleihues and Cavenee,IARC Press,2000)。 こ の 腫 瘍 内 不 均 一 性 の 形 成 に お け るmiR‑1275の 関 与 に つ い て 、 グ リ オ ブ ラ ス 卜 ー マ 組 織 切 片 に 対 し てmiR‑1275の 標 的 遺 伝 子 で あ るCLDN11及 び 中 枢 神 経 系 を 構 成 す る 主 要 細 胞 種 ( ニ ュ ー ロ ン 、 ア ス ト ロ サ イ 卜 、 オ リ ゴ デ ン ド ロ サ イ ト ) に お け る 分 化 系 統 マ ー カ ー(Microtubule‑associated protein2、MAP2、Glial fibrillary acidic protein、GFAP、Oligodendrocyte lineage transcription factor2、OLIG2)の 抗 体 を 用 い て 螢 光 免 疫 組 織 化 学 的 解 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 グ リ オ ブ ラ ス ト ー マ 組 織 内 で は CLDN11陽 性 領 域 と 陰 性 領 域 が 不 均 一 に 含 ま れ 、CLDN11の 発 現 はOLIG2陽 性 領 域 に お い て の み 観 察 さ れ 、MAP2、GFAP陽 性 領 域 で は 認 め ら れ な ぃ こ と を 明 ら か と し た 。 本 結 果 か ら 、miR‑1275の 標 的 遺 伝 子 で あ るCLDN11の 発 現 は オ リ ゴ デ ン ド ロ サ イ ト に お け る 分 化 系 統 マ ー カ ー で あ るOLIG2陽 性 領 域 に お い て の み 確 認 さ れ 、 グ リ オ ブ ラ ス ト ー マ 組 織 内 に お い て 観 察 さ れ る オ リ ゴ デ ン ド ロ サ イ ト 様 の 腫 瘍 組 織 の 形 成 に はmiR‑1275及 びCLDN11が 寄 与 し て い る こ と を 示 唆 し た 。
が ん 幹 細 胞 の 分 化 、 腫 瘍 内 不 均 一 性 の 存 在 は 新 規 抗 が ん 剤 開 発 の 有 望 な 標 的 と な り 得 る と 考 え ら れ る が 、 が ん 幹 細 胞 が い か に し て 他 の が ん 細 胞 と 異 な る 形 質 を 獲 得 し て い る の か と い う 疑 問 に つ い て は こ れ ま で に 明 確 な 結 論 が 得 ら れ て い な い 。 本 研 究 に お い て が ん 幹 細 胞 の 分 化 、 腫 瘍 内 不 均 一 性 に 関 わ る エ ピ ジ ェ ネ テ ィ ク ス 機 構 と し て miR‑1275に よ るCLDN11の 発 現 抑 制 及 び 、H3K27me3に よ るmiR‑127t5の 転 写 制 御 機 構 を 明 ら か に し た 。
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学位論文審査の要旨
主査 准教授 瀧谷重治 副査 教授 高橋孝行 副査 教授 山下正兼 副査 教授 小布施力史 副査 准教授 木村 敦
副査 部長 近藤 豊(愛知県がんけ研究所 M 制御研究部)
学 位 論 文 題 名
Study of epigenetic regulation of histone modifications and non‑coding RNAs
involved in glioma stem cell differentiation
(脳腫瘍幹細胞の分化に関わる非翻訳RNAおよびヒストン修飾によるエビジェネテイクス制御機構に関する研究)
博士 学 位 論 文 審査 等 の 結 果 に つい て (報 告)
が ん は 遺 伝 子 異 常 を 原 因 と す る 疾患 で あ る 。 近年 の シ ー ク エン ス 技 術 の 進歩 に よ り 、 が ん 細 胞 で は 、 遺 伝 子 変 異 等の ゲ ノ ム 異 常に 加 え て 、 多く の エ ピ ゲ ノ ム異 常 が 蓄 積 して い る こ と が 明 ら か と な っ て き た 。現 在 で は 、 エピ ゲ ノ ム 異 常は 、 発 が ん 過 程の 早 期 か ら 進展 に 至 る ま で 様 々 な が ん の 生 物 学 的 特 性 に 影 響 を 与 え る と 考 え ら れ て い る 。
脳 膠 芽 腫 ( グ リ オ プ ラ ス ト ー マ ,GBM)な ど の 固 形 腫 瘍 は 、 腫 瘍 組織 中 に 分 化 段 階の 異 な る 細 胞 が 混 在 し 、 形 態 学的 に も 不 均 一な 状 態 を 呈 する ( が ん 組 織 多様 性 ) 。 組 織多 様 性 に よ り 、 腫 瘍 内 に 様 々 な 性 格を 持 っ た が ん細 胞 が 存 在 する と 、 が ん の 治療 上 標 的 が 絞り に く く 、 治 療 を 困 難 に す る 。 本 研 究 で はGBMよ り 樹 立 し た脳 腫 瘍 が ん 幹細 胞 を モ デ ルと し 、 そ の 分 化 過 程 の 制 御 に 関 わ る エ ピ ゲ ノ ム 機 構 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。 GBMか ら 樹 立 し た 脳 が ん 幹 細 胞 モ デ ル を 用 い て 、 が ん 細 胞分 化 誘 導 時 に変 化 す る マ イク ロ RNA (miR)を 網 羅 的 に 解 析 し 、 そ の う ちCLDN11の 発 現 抑 制 に 関 わ るmiR−1275を 同 定し た 。 さ ら にmiR−1275は 、 エ ピ ゲ ノ ム 機 構 の ー つ で あ るenhancer of zeste homolog2(EZH2, ヒ ス ト ン メ チ ル 化 酵 素 ) を 介 し た ヒ ス ト ンH3リ ジ ン27ト リ メ チ ル 化 修 飾(EZH2−H3K27me3)に よ り 転 写 制 御 さ れ て い る こ と を 明 ら か に し た 。CLDN11は 神 経 髄 鞘 の構 成 夕 ン パ ク で、 神 経 分 化 系 列 の う ち オ リ ゴ デ ン ド 口 サ イ ト の 分 化 系 統 で 陽性 と な る 。GBMで は 一部 の 腫 瘍 は 、 オ リ ゴ デ ン ド ロ サ イ ト 様 の 細 胞 集 団 が 腫 瘍 内 に 混 在 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 こ う し たGBM の 組 織 多 様 性 の 形 成 に 関わ る 分 子 機 構は こ れ ま で 明ら か で は な か った が 、 本 研 究か ら エ ピ ゲ ノ ム 機 構 の マ イ ク ロRNAとEZH2―H3K27me3が 腫 瘍 内 の 組 織 多 様 性 の 形 成 に 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る こ と を 示 す こ と が で き た 。
が ん 組 織 多 様 性 の 形 成 機 序 は 、 がん の 根 治 を 考え る 上 で 解 明す べ き 重 要 な課 題 で あ る が 、 い ま だ そ の 制 御 に 関 わ る分 子 機 構 は ほと ん ど 解 明 され て い な い 。 本研 究 か ら 、 エピ ゲ ノ ム が が ん 細 胞 分 化 と そ の 結 果 と し て 形 成 さ れ る 組 織 多 様 性 に 関 与 し て い る こ と を 示す こ と が で き た 。 が ん 治 療 薬 と し て 、EZH2阻 害 剤 の 開 発 は 、 現 在 世 界 中 で 進 め ら れ、 既 に 候 補 化合 物 も 得 ら れ て い る 。 今 後 の が ん 治 療 戦 略 を 考 察 す る 上 で の 新 た な 可 能 性 を 見 出 し た 。 こ れ を 要 す る に , 著 者 は , 固 形 が ん の 組 織 多 様 性 形 成 過 程 で の ェ ピ ゲ ノム の 関 与 に つ い て 新 知 見 を 得 た も の で あり , 今 後 の 分子 機 構 に 基 づく が ん 治 療 の 開発 に 対 し て 貢献 す る と こ ろ 大 な る も の が あ る 。 よっ て 著 者 は ,北 海 道 大 学 博士 ( 生 命 科 学 )の 学 位 を 授 与さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。
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