手術看護に必要な感染管理
日本手術看護学会
近畿地区奈良ブロックセミナー
大和高田市立病院 感染対策室
感染管理認定看護師 里内 正樹
①SSIについて
②針刺し予防
③消毒に関するエビデンス
本日の内容
大和高田市立病院概要
所在地:奈良県大和高田市礒野北町1-1 診療科:24診療科
病床数:320床
(一般病棟261床、HCU8床、地域包括ケア51床)
職員数:全職員数489名(看護職員数311名認定看護師、特定行為研修修了者9名含む)
※2021年4月1日現在
病院機能:奈良DMAT指定病院・奈良県がん診療連携支援病院・奈良県災害拠点病院・臨床研修病院など 平均在院日数:12.8日(一般病棟のみ10.7日)
1日平均入院患者数:222人(前年度248人)
1日平均外来患者数:708人(前年度808名)
看護配置:急性期一般病棟入院基本料1 地域包括ケア病棟入院料2 感染防止対策加算1 抗菌薬適正使用支援加算
JANIS SSI部門参加(CHOL・COLO・GAST・REC)
年間手術件数: 2179件(2020年度) 全身麻酔手術:1043件 手術室数:5室(BCR1室、陰圧室1室)
手術担当科:7科(外科、産婦人科、泌尿器科、整形外科、内科、
耳鼻科、眼科)
スタッフ:看護師16名 常勤麻酔科医2名 夜間・休日:オンコール体制
手術室紹介
①SSIについて
SSI(手術部位感染)とは・・・
・Surgical site infection(SSI)の日本語訳で、CDC (アメリカ疾病対策予防センター)がサーベイランスに 用いるために作成した用語
・サーベイランス用の疾患定義を伴う
・概ね、手術に直接関連して発生する術野の感染がSSI
日本環境感染学会教育ツールVer.3より
①SSIについて
SSIは深さにより3種類に分けられる
日本環境感染学会教育ツールVer.3より
①SSIについて
手術部位感染に関連する因子 患者因子
年齢、性別、栄養状態、糖尿病、喫煙、肥満、既 に ある感染巣、保菌、免疫応答、術前入院期間 手術因子
手術時手洗い、皮膚消毒、術前除毛、手術時間、
予防的抗菌薬、手術室換気、器具の滅菌、異物挿 入、ドレーン、手術手技
これらのうち、介入可能(変えることができる) もの が「SSI防止対策」である
①SSIについて
SSIが起こることによる問題点・・・
患者のQOL の低下
患者の予後 の悪化
医療費の 増大
在院日数の 延長 社会復帰へ
の遅れ
病床回転率 の悪化
①SSIについて
著者 対象 施設数 SSI発生数 直接医療費増加 在院日数延長 藤本(2001) 胃 1 - 1050,000円 24.0日 荻野(2009) 結腸 1 12例 143,351円 5.9日 森岡(2009) 心臓血管 1 16例 1620,000円 20.2日 草地(2010) 心臓血管、
消化器、肝胆膵、
産婦人科
10 300例 856,319円 20.8日 Kasimura(2012) 大腸 7 167例 593,800円 17.8日 Kusachi(2012) 腹部、心臓血管 9 246例 879,100円 20.7日
SSIによる直接医療費増加と術後在院日数延長
第36回日本環境感染学会総会・学術集会 尾原秀明 術野消毒の最新知見より
①SSIについて
1999 米国CDC Guideline for prevention of SSI
2008 英国国立医療技術評価機構(NICE) Prevention and treatment of surgical siteinfection 2008 米国感染症学会(IDSA)/医療疫学学会(SHEA) Strategies to prevent SSIs in acute care hospitals
2009 WHO 安全な手術のためのガイドライン
2010 米国手術室看護師協会(AORN) Perioperative Standards and Recommended Practices
2013 米国医療システム薬剤師会 Clinical practice guidelines for antimicrobial prophylaxis in surgery
2013 日本手術医学会 手術医療の実践ガイドライン(改訂版)
2014 米国感染症学会(IDSA)/医療疫学学会(SHEA) Strategies to prevent SSIs in acute care hospitals 2014 Update
2015 日本整形外科学会/骨・関節接感染症学会 骨関節術後感染予防ガイドライン改訂第2版
2015 日本泌尿器科学会 泌尿器科領域SSI予防ガイドライン
2015 APIC Implementation Infection prevention of SSI
2016 日本臨床工学技士会 医療機器を介した感染予防のための指針 感染対策の基礎知識
2016 日本化学療法学会/外科感染症学会 術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン
2016 WHO Global guidelines for prevention of SSI
2017 日本手術看護学会 手術看護業務基準
2017 米国外科学会/外科感染症学会 SSI guidelines, 2016 update 2017 英国国立医療技術評価機構(NICE) SSIs: prevention and treatment
2017 米国CDC Guideline for prevention of SSI
2018 国公立大学付属病院感染対策協議会 病院感染対策ガイドライン2018年版
2018 日本外科感染症学会 消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン
2018 米国医療疫学学会(SHEA) Infection prevention in the operating room anesthesia work area 2018 APSIC(Asia Pacific Society Infection Contror) 手術部位感染予防の為のAPSICガイドライン
2019 日本手術医学会 手術医療の実践ガイドライン(改訂第3版)
2019 英国国立医療技術評価機構(NICE) Guidelines for the prevention of SSI: an update
手術時感染対策に関連した国内外のガイドライン
①SSIについて
①SSIについて
対象 項目
患者 各種SSI予防策 医師(執刀医)
手術室看護師
手指衛生
針刺し・血液体液曝露予防策
麻酔科領域
安全な注射手技
輸液ラインの衛生管理 エアロゾル対策
手術器械 医療機器
手術器械の洗浄・滅菌 再製造単回使用医療器械 医療器械の衛生管理
環境整備 暖房・換気・空調 環境整備・消毒
①SSIについて
定義
「結果(outcome)を改善することができる人々に 必要な情報を共有することを目的として、
特定の疾患や出来事(event)についての発生分布や原因 に関するデータを、収集、統合、分析する組織的な手法」
医療関連感染が日常的にどのくらいの頻度で、またなぜ起 きているのかを、化学的なルールに基づいて明らかにし、
その結果を臨床現場に戻すことで、臨床現場のスタッフが、
自分の意思で感染対策に取り組むことを促す活動のこと
坂本史衣:感染予防のためのサーベイランスQ&Aより
サーベイランス・・・
情報収集
感染事例の判定 感染率の算出
分析
フィードバック
感染対策の変更
感染対策の実践
現在の感染率を把握する
データをもとに分析する
(感染が多い?少ない?原因は?)
決められた基準に沿って判定
分析結果と、エビデンスの高いもの から、実施できる感染対策を検討す る
改善できる人たちに現状を伝える
①
②
③
④
⑤
⑥
①SSIについて
①SSIについて
①SSIについて
自施設の感染率が他の施設と比べられる
①SSIについて
なぜ、当院の感染 率は全国に比べて
高いのかな?
感染対策ができて ない?
原因菌に特徴が ある?
①SSIについて
例:当院の感染は、他施設よりも多い。
抗菌薬予防投与のタイミングがバラバラ。
ドレッシング材の使用方法が統一されていない。
血糖コントロールができていない。
など
分析結果から。。。
感染対策を強化し、感染を低下させる必要がある
①SSIについて
感染率の変動を確認し、対策の評価を実施していく
①SSIについて
②針刺し予防について
医療従事者には、
患者などから感染を受けるリスク と
感染源となる
リスクがある
②針刺し予防について
職業感染制御研究会JES2015より
②針刺し予防について
職業感染制御研究会JES2015より
②針刺し予防について
職業感染制御研究会JES2015より
②針刺し予防について
職業感染制御研究会JES2015より
②針刺し予防について
職業感染制御研究会JES2015より
②針刺し予防について
鋭利機材は安全装置付きのものを採用しよう!
②針刺し予防について
②針刺し予防について 手術時血液・体液曝露予防策
・個人防護具の装着 ①目・顔の保護 ②2重手袋
・鋭利物の削減・廃止 ①メスの使用削減 ②鈍針の活用選択 ③直接手渡しの廃止
④縫合針直接把持を避け使用する技術
・職員のコミュニケーション ①伝達手段を改善
②患者・医療従事者方向の安全に集中
②針刺し予防について 外科的処置の作業手順による管理方法
・針やメスを掴む/装着/外す、組織を牽引、などの動作を 器具を使って行う
・鋭利器材は引き渡す際に声を出して知らせる
・鋭利器材は器かニュートラルゾーンを介して行う
・電気メスは先の鈍化したチップを装着する
・可能であれば鏡視下手術を行う
・先端を丸く加工した鈍的縫合針を使用する
②針刺し予防について
②針刺し予防について
手術時血液・体液曝露予防策(2重手袋)
1重手袋の破損 35%
2重手袋の外側のみ破損 27%
2重手袋の内側まで破損 4%
②針刺し予防について
1重手袋と2重手袋の破損の比較
②針刺し予防について 手術用手袋の品質
項目
AQL(合格品質水準)
手術用 歯科用 検査・検診用 寸法
(幅・全長・長さ) 4.0 4.0 4.0 ピンホール試験 1.5 2.5 2.5
物性
(引張力・伸び) 4.0 4.0 4.0
AQL1.5:2.6-4.0%のエラーを許容 AQL2.5:4.0-6.25%のエラーを許容
つまり 100 枚に 4 枚は最初から破損している可能性がある
②針刺し予防について
手袋の破損とSSI
②針刺し予防について
第120回日本外科学会定期学術集会イブニングセミナー 手術時手袋~2重手袋の重要性について~より
https://www.youtube.com/watch?v=d7p-TVp-OvE
②針刺し予防について
SSI予防と血液曝露 感染予防の2つの 視点からも手術用 手袋の2重装着が
重要です!
③消毒に関するエビデンス
消毒の歴史
Ignaz Semmelweis(1818-1865) イグナーツ・センメルワイス
手指衛生における消毒法の開拓者!
ハンガリー出身の医師で、 1847年で、ウ イーン産科病院の産婦人科部長だった時、
「産褥熱は接触感染の病気であり、医療従事 者に手の消毒を義務づけることでその発症率 を激減させることができる」ことを証明した。
当時、致死的であった産褥熱の死亡率を12%
から2.38%に減少させた。
次亜塩素酸カルシウムで手指を消毒
③消毒に関するエビデンス
消毒の歴史
Joseph Lister(1827-1912) ジョセフ・リスター
1867年にフェノール(石炭酸)による消毒 法を取り入れ、複雑骨折の死亡率が45%から 9%に減少させる。
無菌外科手術の開拓者!
フェノールを外科医 の手や器具、患者の 皮膚に噴霧
③消毒に関するエビデンス
消毒の歴史
William Stewart Halsted(1852-1922) ウイリアム・スチュアート・ハルステッド
手術時手袋の開拓者!
19世紀末頃、世界的に手術は素手で行わ れていた。ジョンズ・ホプキンス大学病院 の手術室看護師も消毒液として使われてい た昇汞(塩化第2水銀)による皮膚炎は、
職を辞する決断を迫るほど。手術の際に手 の感覚を妨げない手袋があれば、と考え、
思いついたのがゴム。
1890年、グッドイヤー社に薄いゴム製の 手袋の制作を依頼した。
③消毒に関するエビデンス
消毒薬のおよび消毒に関する年表
開発年 開発者 消毒剤
1891 Schimmelbusch C 煮沸消毒器考案
1908 Einhorn & Gottler 第4級アンモニウム塩の合成 Harries グルタールアルデヒドの合成
1916 Jacob 第4級アンモニウム塩の殺菌効果検討
1918 Yung HH メルブロミン(マーキュロクロム)の発見 1953 Goldschmidt社 両性界面活性剤の発見
1954 Davies GE クロルヘキシジンの開発 1956 Shelanski HA ポピドンヨードの開発
1963 Stonehill グルタールアルデヒドの殺菌効果 1977 Grisse-Boewing W 過酢酸の開発
1994 Gordon MD フタラールの消毒効果
③消毒に関するエビデンス 準清潔野における術前消毒薬
2%クロルヘキシジンアルコールと水性ポピドンヨードの比較
2%クロルヘキシジンアルコール>10%ポピドンヨード SSI発生率 9.5% 16.1%
③消毒に関するエビデンス
婦人科腹腔鏡手術におけるSSIに対する術前消毒剤の効果
内容:2%クロルヘキシジンアルコール 10%ポピドンヨードアルコール 10%ポピドンヨード
を用いた婦人科ラパロ手術(661例)のSSI発生率の検討
有意差なし!!
③消毒に関するエビデンス
じゃあ、何で消毒したらいいの?
③消毒に関するエビデンス
各種ガイドラインの手術部位消毒剤の推奨
・WHO(2016)
・・・クロルヘキシジンアルコールの使用を推奨
・CDC(2017)
・・・禁忌でない限りアルコール含有製剤
※アルコールがだめな場合はクロルヘキシジン
・NICE(2017)
・・・ポピドンヨード製剤、クロルヘキシジン製剤は水溶性 アルコール含有製剤いずれも有用
・ACS/SIS(2017)
・・・禁忌がない限り、アルコール含有製剤を使用すべき ※アルコールがだめな場合はクロルヘキシジン
③消毒に関するエビデンス
各種ガイドラインの手術部位消毒剤の推奨
・日本手術医学会 手術医療の実践ガイドライン(2019)
・・・手術野消毒には、各種アルコール製剤、ポピドン
ヨード製剤、クロルヘキシジン製剤、オラネジン製剤 などがある
・日本整形外科学会(2015)
・・・ポピドンヨード、クロルヘキシジン、クロルヘキシジ ンアルコールいずれも同等の有効性
・国立大学病院 病院感染対策ガイドライン(2018)
・・・アルコール配合剤を用いることが望ましい
・日本外科感染症学会
・・・アルコール含有クロルヘキシジンの使用を推奨
③消毒に関するエビデンス 日本の消毒の現状
・エビデンスとされる2%クロルヘキシ ジン製剤は日本では販売されていない ※最高で1%
・ポピドンヨードが主流
・オラネジン製剤は日本のみでエビデン スが少ない
・アルコール製剤は引火のリスクが有る
③消毒に関するエビデンス 消毒をより効果的にするために・・・
・皮膚を清潔に保つ
手術前日に石鹸または消毒スクラブで入浴またはシャワー 有機物が存在すると消毒効果が減弱する
・剃毛は行わない
除毛が必要な場合はクリッパーを使用する 除毛剤も使用しない
・ヨードホール(イソジンなど)を使用する場合は塗布後2 分間は触らない
即効性の消毒ではないため効果が出るまで2分かかる
乾燥の有無は消毒効果に関わらないがアルコールを含有する 場合、気化して引火のリスクが有るため十分に乾燥させる