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日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会会誌

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Academic year: 2022

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(1)

原 著

ブロー液における抗菌効果の細菌学的および超微形態学的検討

兵 行義

1

* ,石松 昌己

2

,河口 豊

2

,山田 作夫

3,4

,齊藤 峰輝

3

,原田 保

1

1 川崎医科大学耳鼻咽喉科

2 川崎医科大学附属病院中央検査部

3 川崎医科大学微生物

4 川崎医療福祉大学臨床栄養学

Antibacterial Effect of Burow’s Solution on Clinical Bacterial Isolates

Yukiyoshi Hyo

1

*, Masaki Ishimatsu

2

, Yutaka Kouguchi

2

, Sakuo Yamada

3,4

, Mineki Saito

3

and Tamotsu Harada

1

1 Departoment of Otolaryngology, Kawasaki Medical School

2 Department of Clinical Laboratory, Kawasaki Medical School Hospital

3 Departoment of Microbiology, Kawasaki Medical School

4 Department of Clinical Nutrition, Kawasaki Medical Welfare University

Abstract: Burow’s solution has long been used as a local otological preparation in the treatment of otitis externa and otitis media. To ascertain the antibacterial effect of Burow’s solution on the antibiotic resistant bacteria, it was examined using by the disk method to determine whether the solution has a bactericidal effect on Streptococcus pneumoniae, Moraxella catarrhalis, Haemophilus influenzae isolated from the patients.

They were treated with 13% Burow’s solution. Ultrastructural changes in cells of the strains were examined by scanning electron microscopy (SEM) and transmission electron microscopy (TEM).

The results showed that Burow’s solution had larger average zones of inhibition than the other antibacte- rial agents (gentian violet). No difference was found in the susceptibilities of the antibiotic sensitive bacteria and resistant bacteria to Burow’s solution. This study suggests that Burow’s solution is an effective antibac- terial agent, not only for antibiotic resistant bacteria but also for antibiotics-sensitive bacteria. Therefore, Burow’s solution is considered to be useful for the treatment of otitis. A further study is required to demon- strate whether diluted Burow’s solution is effective in the clinical setting. The microscopic findings show that Burow’s solution is active against this strains, resulting in damage to cell wall.

Key words: antimicrobial effect, Burow’s solution, ultrastructural examination

1.はじめに

ブロー液は近年耳鼻咽喉科領域に急速に広まってい る点耳薬であり,本邦では2003年に寺山ら 1)により その有効性が紹介されて以来,多くの施設で広く使わ れている薬剤である.しかし,そのメカニズムはあま りわかっておらず,そのために様々な菌種に効果があ るといわれている 2)が,その詳細は明らかになってい ない.我々はブロー液の抗菌効果を検討しており,以 前に慢性中耳炎の原因菌として検出頻度の高い,黄色 ブドウ球菌と緑膿菌において耐性菌と感受性菌共に有 効で,両者間には差がないことを報告し 3),また,そ のメカニズムを解明するために超微形態的特徴に関し

*別刷請求先:〒701-0114 倉敷市松島577  川崎医科大学耳鼻咽喉科

ても検討を行った 4)

そこで,今回はそれ以外の菌種で急性中耳炎を起こ す頻度の高い,肺炎球菌,モラキセラ菌,インフルエ ンザ菌に対する抗菌効果ならびに超微形態的特徴の基 礎的に検討を行ったので報告する.

2.対象と方法 2.1 材料

本学附属病院中央検査部から譲渡された臨床由来保 存菌株である肺炎球菌25株(ペニシリン感受性肺炎球 菌:Penicillin-susceptible Streptococcus pneumonia;PSSP 10菌株,ペニシリン中等度耐性肺炎球菌:Penicillin- intermediate S. pneumoniae;PISP 10菌株,ペニシリン 耐性肺炎球菌Penicillin-resistant S. pneumoniae;PRSP 5菌株),モラキセラ菌10菌株およびインフルエンザ

(2)

菌20菌株(Ampicillin(ABPC)感受性菌10菌株,β- ラクタマーゼ非産生ABPC耐性菌:β-lactamase non- producing ampicillin resistant Haemophilus influenza;

BLNAR 10菌株)を対象とした.

2.2 薬剤

本学附属病院薬剤部で寺山ら 1)の報告に従って調整

した13%ブロー液を用いた.同時に対照薬剤として,

臨床現場で用いる濃度の1.0%ゲンチアナバイオレッ ト(ピオクタニン液;GV液)を使用し,抗菌効果に ついて比較検討した.

2.3 方法

(1)薬剤感受性検査

既報の報告 3)と同様に,Disk拡散法(CLSI準拠)

を行った.各菌液をMueller-Hinton平板培地上に全 面にいきわたるように一白耳金量を塗布し,各薬剤を

50 μl含有した滅菌ディスク(8 mm,アドバンティク

東洋社製)を置き,37°Cで18時間以上培養後,得ら れた阻止円の大きさを下記の判定基準に基づいて測定 した.

(2)ブロー液処理後の超微形態的変化の観察

各菌株に対して,ブロー液処理前後の抗菌効果を走 査型(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)にて 超微形態変化を観察した.詳細な方法は既報に基づい て遂行した 4).ブロー液処理は,各対象菌をMueller- Hinton brothで18時間培養し,集菌(3,000 rpm,15分)

後,遠心洗浄(8,000 rpm,3分,2回)し,沈渣にブロー 液1 mlを入れ室温で15分反応させた.

2.4 統計学的検討

ア ー テ ッ ク 社 のStat Flex Ver.5.0を 用 いMann- Whitney検定を用い,p < 0.05を有意差ありとした.

3.結  果 3.1 各菌種に対する抗菌効果について

(1)肺炎球菌について

PSSPにおいてはブロー液の阻止円は23.8 mmであ

り,GV液は16.0 mmであり,有意にブロー液の方

が抗菌効果が強かった.また,PISPにおいても同様 にブロー液は24.4 mm,GV液は16.2 mmであった.

PRSPに お い て も, ブ ロ ー 液 は22.4 mm,GV液 は

15.2 mmであり,有意にブロー液の抗菌効果がGV液

よりも強かった.またブロー液の効果を感受性菌と耐 性菌で比較をしても同様の抗菌効果であり,肺炎球菌 においてペニシリンの感受性に無関係にブロー液の抗 菌効果は有効であることが示唆された(Fig. 1).

(2)モラキセラ菌について

ブロー液の効果は25.2 mmであり,GV液は22.8 mm であり,ブロー液のほうが有意に抗菌効果が強かった

(Fig. 1).

(3)インフルエンザ菌について

ABPC感受性菌はブロー液の効果は32.7 mmであ

(3)

り,GV液は24.3 mmであり,ブロー液の方が抗菌効 果は強かった.また,ABPC耐性菌においてはブロー

液は30.7 mmであり,GV液は22.1 mmであり,感受

性菌でも耐性菌でもブロー液の抗菌効果はGV液より も強く抗菌効果が高く,ABPC耐性菌と感受性菌の間 には抗菌効果に有意な差は認めなかった(Fig. 1).

3.2 ブロー液処理後の超微形態変化

ブロー液で15分間処理した菌体を対象に電子顕微 鏡を用いて超微形態像を観察した.その結果,Fig. 2 に示したように肺炎球菌のSEM観察像では,未処 理菌(Fig. 2 a)に比べ,処理後の菌体(Fig. 2 b)で は菌体表層における波状化が著しいことが認められ,

TEM観察像では処理前(Fig. 2 c)の菌体に比べ処理 後(Fig. 2 d)の菌体では細胞壁が希薄化している(Fig.

2 d矢印)ことが観察できた.

ブロー液処理モラキセラ菌のSEM観察では,未処 理菌(Fig. 3 a)に比べて波状化が生じ(Fig. 3 b),処 理菌のTEM観察では未処理菌(Fig. 3 c)を比較する と外膜と細胞質壁とが乖離(Fig. 3 d矢印)し,細胞 壁の希薄化した像が観察できた.

インフルエンザ菌を対象としたブロー液処理菌の SEM観察では未処理菌(Fig. 4 a)に比べ,菌体の一 部が陥没しているような菌体表層の変化を観察でき

(Fig. 4 b),TEM像にて観察してみると未処理菌(Fig.

4 c)と比較し,処理菌ではモラキセラ菌と同様に外 膜が細胞質壁から遊離し(Fig. 4 d矢印),細胞壁が希 薄化した像が観察できた.

以上のことからこれら3菌種に対してブロー液は顕 著な構造変化を惹起することが認められた.

4.考  察

ブロー液は19世紀にドイツ人の外科医Karl August

von Burowにより調整された酢酸アルミニウムを主成

分とする点耳液である.ペニシリン開発前であり,抗 菌薬の出る前によく使われていた点耳液である.1998 年に南アフリカのThorpら 5)が小児慢性中耳炎に使用 したところ約80%に耳漏が停止したと報告し,また 日本では,寺山ら 1)により2003年に難治性外耳炎や 中耳炎の21例25耳に使用し80%の治癒率と報告し て以来,耳鼻咽喉科医の中では抗菌薬点耳液の代用品 として使用される頻度が増えてきている.このように 臨床的有効性の報告は多いが,基礎的抗菌効果を検討 したものは少ない.Thorpら 6)はブロー液および酢酸 液(1–3%)の効果をディスク法を用いて比較検討し たところ,ブロー液が酢酸よりも有効であった.また Kashiwamuraら 7)は1%PVP-Iおよび生理食塩水を対

Fig. 2 Electon Microscopy observation of Streptococcus pneumonia.

Fig. 4 Electon Microscopy observation of Haemophilus influenzae.

Fig. 3 Electon Microscopy observation of Moraxella ca- tarrhalis.

(4)

照にブロー液の時間経過による殺菌効果への影響につ いて報告している.以前,我々の検討では黄色ブドウ 球菌,緑膿菌に対してブロー液は有効な抗菌効果を示 した.慢性中耳炎の原因菌で多く治療に難渋すること が多い耐性菌を対象に調べたところ,感受性菌同等の 有効性が示された 3).今回,他の耳性細菌感染症で検 出されやすい菌を対象に行った.実際の臨床の現場に おいて急性中耳炎に対してはブロー液を用いることは 少ないと思われるが,様々な菌種に対してブロー液を 用いて処理をすることにより作用メカニズムが理解で きると考え,急性中耳炎の原因菌である3菌種を対象 に行った.その結果としては黄色ブドウ球菌,緑膿菌 と同様に,肺炎球菌・インフルエンザ菌においても耐 性菌と感受性菌に大きな変化はなかった.この結果を 実際の臨床に反映すると,耳性細菌感染症が原因であ る耳漏のみを主訴に来院した患者に対して細菌学的な 結果が現われる前にempiric therapyとしてブロー液 にて局所処置を行うことは有効でむやみに抗菌薬点耳 などを処方し,耐性菌を蔓延させることが予防できる ことが示唆される.

我々の検討の他にも肺炎球菌やインフルエンザ 菌に対するブロー液の有効性は報告されている.

Sugamuraら 8)はBLNARやPRSPにおいても本検討 と同じディスク法を用いて検討をしているが,他の菌 種と同様に同程度の抗菌力を有しており,今回,われ われが検討した菌株と同様,ブロー液の耐性菌に対す る効果の減弱はなかった.我々の既報 3)ではブロー液 の対象液にPVP-IとOFLX点耳液を使用した.今回 はGV液を使用した.GV液はMRSAが検出された術 後耳にも有効であることを報告されており 9)抗菌力が 注目されている抗菌性物質である.興味のある薬剤で ありGV液に関しても検討を試みたい.今回対象とし た菌種においてはブロー液はGV液よりも抗菌効果は 強いことが示唆された.

ブロー液の作用メカニズムについて検討としては,

抗菌薬の作用機序とは異なる点が推測される.結果か らはブロー液の抗菌作用にはβ-ラクタム薬のような ペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein; PBP)

への作用による細胞壁合成阻害とは異なる作用機序に より効果が認められると示唆された.我々はブロー液 の処理菌を電子顕微鏡を用いて超微形態観察を行うこ とによりブロー液の作用メカニズムを検討している.

既報では黄色ブドウ球菌と緑膿菌に対してブロー液の 処理像について検討した.今回は肺炎球菌,モラキセ ラ菌,インフルエンザ菌に対して同様に検討を行った.

肺炎球菌はグラム陽性菌であり,インフルエンザ菌や モラキセラ菌はグラム陰性菌である.つまり前者は黄

色ブドウ球菌と同様で,後者は緑膿菌と同様である.

グラム陽性菌は厚いペプチドグリカン層があり,細胞 壁が厚い.またグラム陰性菌はペプチドグリカン層,

細胞壁が薄くその周囲に外膜が存在する.これらの観 点から電子顕微鏡写真を確認すると,ブロー液は最外 層に作用し,グラム陽性菌では細胞壁に,陰性菌では 外膜に障害を与え,細胞壁と外膜の間を乖離させ,細 胞壁障害を惹起すると推測できる.我々は菌体を抗菌 薬で処理をして,形態変化を確認している 10)が,抗 菌薬とは大きく作用時間が異なる.ブロー液は数分で このように菌体のダメージを与えることができ,明ら かに従来の抗菌薬とは作用メカニズムがことなること と考えられる.

もともとは酢酸液であるために,蛋白変性が関与し ている可能性がある.我々の検討では未報告であるが,

酢酸単独液の処理像とは大きく異なり,酢酸アルミニ ウム液処理のほうが菌体へのダメージが大きいことを 確認した.つまり,Thorpら 6)や寺山ら 11)と同様液の 酸性度と酢酸アルミニウムの作用の共存することによ りこの抗菌作用が維持されており,さらなる検討を加 え解明すべきであろう.

ブロー液は検討した菌種すべてにおいて有効である ことから効果的な薬剤であるが,近年では副作用がし ばしば報告されている 12,13).我々の施設でもそうであ るが,ブロー液は作るたびにpH値が安定しない場合 が多い.酢酸成分が入っていることからもpHが低い 酸性状態で副作用が出やすいと報告されている.また 作用時間にも問題があると報告している場合もある.

今回は我々は細菌学的検討を中心に行ったが,今後 は有害事象に関しても検討したいと考える.

5.おわりに

我々はブロー液を用いて,肺炎球菌,モラキセラ菌,

インフルエンザ菌を用い有効性を検討した.各々の菌 種において薬剤耐性菌と感受性菌を比較するとブロー 液の抗菌効果は同様であり,ゲンチアナバイオレット 液よりも効果が高かった.また電子顕微鏡観察により ブロー液の抗菌効果に対する作用メカニズムに対する 検討を行った.その結果,最外層部分に作用し,細胞 壁の障害を惹起している可能性があることが示唆され た.

参 考 文 献

1) 寺山吉彦,滝沢昌彦,後藤田裕之,他:難治性の外耳道 および中耳の化膿性炎に対するブロー液の使用経験,日 耳鼻,106: 28–33, 2003

(5)

therapeutic effects of modified Burow’s solution on refrac- tory otorrhea, Auris Nasus Larynx, 39: 374–377, 2012 3) 兵 行義,山田作夫,石松昌己,他:薬剤耐性菌に対

するブロー液抗菌効果の基礎的検討,耳鼻臨床,101:

317–323, 2008

4) Hyo Y, Yamada S, Ishimatsu M, et al.: Antimicrobial effects of Burow’s solution on Staphylococcus aureus and Pseudomo- nas aeruginosa, Med Mol Morphol, 45: 66–71, 2012 5) Thorp MA, Gardiner IB, Prescott CAJ, et al.: The antibac-

terial activity of acetic acid and Burow’s solution as topical otological preparations, J Laryngol Otol, 112: 925–928, 1998 6) Thorp MA, Gardiner IB, Prescott CAJ, et al.: Determination

of the lowest dilution of aluminium acetate solution able to inhibit in vitro growth of organisms commonly found in chronic suppurative otitis media, J Laryngol Otol, 114:

830–831, 2000

7) Kashiwamura M, Chida E, Matsumura M, et al.: The ef- ficacy of Burow’s solution as an ear preparation for the treatment of chronic ear infections, Otol Neurotol, 25: 9–13, 2004

8) Sugamura M, Yamano T, Higuchi H, et al.: Ototoxicity of Burow solution on the guinea pig cochlea, Am J Otolaryn- gol, 33: 595–599, 2012

9) 香山智佳子,後藤友佳子,長谷川信吾,他:MRSA感染 耳に対するピオクタニン局所投与の治療効果,Otology Japan,18: 39–44, 2008

10) Yamada S, Hyo Y, Ohmori S, et al.: Role of ciprofloxacin in its synergistic effect with fosfomycin on drug-resistant strains of Pseudomonas aeruginosa, Chemotherapy, 53:

202–209, 2007

11) 寺山吉彦,坂田 文,村田保博,他:ブロー液を用 いた外耳道および乳突腔真珠腫の治療,日耳鼻,113:

549–555, 2008

12) Oishi N, Inoue Y, Saito H, et al.: Burow’s solution-induced acute sensorineural hearing loss: report of two cases, Auris Nasus Larynx, 37: 369–372, 2010

13) 栗田知幸,三橋亮太,前田明輝,他:ブロー液耳浴後の 顔面神経麻痺例,耳鼻臨床,103: 529–532, 2010

2014年 7 月 9 日受付 2014年10月14日受理

参照

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