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原価計算 システムと複雑適応系

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(1)

原価計算 システムと複雑適応系

荒 井 義 則

1.はじめに

1‑5)

本論集 に投稿 した一連 の論文 においては ,会計情報 システム を複雑系 や 複雑適応系の観点か ら考察 したが,その際,原価計算 システムが複雑適応系

5)

であることを証明な しに用いていた。本稿 では原価計算 システムを考察の対 象 とし,原価計算 システムが複雑系であ り, また,複雑適応系 で もあること

を示す。

2. 原価計算 システム

4)

すでに考察 したように,原価計算 システムをどの情報 システムに組み込 む かは一義的には決 まらず,

①会計情報 システムのサ ブシステム とす る方法 (∋生産管理 システムのサブシステム とす る方法

③原価計算 をひとつの情報 システム とす る方法

6) の

3

つの方法が存在 した。

5)

前稿 では,(∋す なわち原価計算 システムを会計情報 システムのサ ブシス 325

(2)

テムと考 えて,会計情報 システムのフラクタル的性質 を調べたが,① 〜③い ずれの立場 に して も 「原価計算 システム」 というひとつのまとまったシステ ムが存在す ることは明 らかなので,以下ではこのシステムを考察の対象 とす る。

原価計算 システムを解析す る前 に,本稿で想定 している原価計算 システム 7)

の特徴 を上げてお く。

① コンピュータを中心 とする情報通信技術 をもとに した情報ネ ッ トワーク であること。

②意思決定 を支援す るシステムを含み,意思決定者 ない し意思決定グルー プに有用であること。

③意思決定者 ない し意思決定 グループのデータに対応するフィー ドバ ック 機構 をもっこと

(彰意思決定者 ない し意思決定 グループも重要な要素の

1

つであること。

(9システムの運用,保守お よび改良をするシステム要員 (情報 システム部 門の要員や関連す る業務部 門にいるシステムア ドミニス トレータ的要 員) も重要な要素の 1つであること。

(む原価計算部門の要員 (経理部門や生産部門にいて原価計算 に関係 してい る要員 も含む) も重要な要素の1つであること。

⑦ハー ドウェア, ソフ トウェアの新 しい技術や会計情報 システム論および 原価計算論,会計学,情報理論,行動科学などの関連諸科学の新 しい成 326 国際経営論集 No.23 2002

(3)

果 を取 り入れることが可能なオープンシステムであること。

(参ハー ドウェア, ソフ トウェアお よび人的資源が有機的に結 びつけ られて いること。

以上の① 〜⑧ で もわかるとお り,本稿 においては,原価計算 システムはハ ー ドウェア,ソフ トウェア,人的資源か ら構成 されているもの と考 えている。

すなわち,システムの中に 「人」 も含 まれている。

3. 複雑系 としての原価計算システム

この節では,原価計算 システムが複雑系であることを示す。本稿で用いる 1,8)

複雑系の定義 は以下の とお りである。

①各要素がバ ラバ ラに集 まっているだけではな く,要素間に相互作用が存 在 している。

②非線形性 を有する。

③外力あるいは環境の変化 によって,非平衡状態 におかれた とき, 自己組 織化的に新 しい平衡状態 を作 る。

また,数量化で きない場合の非線形性 に関 しては以下の牧野の定義 を採用 8)

する。

「線形性 を広 く

,

F入力 と出力のあいだにおける一義的な決定性やある種 の 比例性』 と解釈 し,非線形性 を F入力 と出力 とのあいだにおける上述の線形

原価計算 システム と複雑適応系 327

(4)

性 をもたない,柔軟で多義的な反応』 と解釈す る

。 」

これ らの定義 を用いて,以下では原価計算 システムが複雑系であることを示 す。

(1)要素間の相互作用

すで に考察 した ように,原価計算 システムを構成するハ ー ドウェア, ソフ トウェア,人は有機 的に結 びついていなければな らない。

た とえば, コンピュー タとソフ トウェアの関係 を考 える と, ソフ トがなけ ればコンピュータは働 かず, また, ソフ トだけでは利用がで きず,それ らが 結 びついては じめて有用 に働 くことになる。 また,現在 では, コンピュータ は単独 で用 い られる場合 よ りもネ ッ トワークの中で用 い られる場合が多 く, コンピュータどうLも有機 的につなが っている。 さらに,意思決定 を考 えた 場合 ,意思決定 をす るのは人であって も,意思決定 を支援す るシステムが必 要 とな り,人 とハー ドウェア, ソフ トウェアが有機 的に結 びついては じめて 意思決定が行 えると考 えて もよいであろ う。

すなわち,原価計算 システムでは人, ソフ トウェア,ハー ドウェアが有機 的に結 びついてお り, また,有機的 に結 びついていなければシステム として は正確 に作動 しないので, これ らの要素間に相互作用が存在す ることは明 ら かである。

(2)非線形性

各企業 は最 も適切 と思 われる種類 の原価計算 を選択 して採用す るので,原 価計算 システム創設時 においてすでに多義性 を有 しているが,システム内に もさまざまな多義性が存在す る。以下ではい くつかの例 を見 てゆ くことにす る。

まず,費 目別計算 であるが,材料費 についてみると,継続記録法 と棚卸計 328 国際経営論集 No.23 2002

(5)

算法があ り,また,消費価格の計算 について も先入先出法,移動平均法,級 入先出法,総平均法などがあ り, どれを採用するか とい う点で多義性が存在 する。

次 に,部門別計算であるが,補助部門費 を製造部 門へ配賦する際の配賦基 準 を単一にするか複数にするか (たとえば,変動費 と固定費で異 なる配賦基 準 を用いる場合 など)で多義性が生 じる し, また,配賦方法 も直接配賦法, 階梯式配賦法,相互配賦法があ り, どれを選択するか とい う点で多義性が生

じる。

第三に,総合原価計算 において も月末仕掛品の評価で,平均法,先入先出 法,後入先出法があ り,多義性 を有 している。

ここに掲げた例で もわかるとお り,原価計算 自体 に多義性 を生 じさせ る要 素がかな り含 まれてお り,非線形 なシステム と考 えて よい と思われる。なお,

ここで述べ ている多義性 とは同 じ環境で も人が変われば異 なる方法 を採用す る可能性があるとい う意味で用いている。我々が用いた線形の定義では一義 的に定 まることが必要であるので,原価計算 システムは一義的でない,すな わち,線形ではないので非線形 と考 えてよい。

(3

)外力 と自己組織化

80年代 までは大量生産中心の生産体制であったが,90年代以後,顧客のニ ーズの多様化 に対応 した多品種少量生産 も増大 し,また,環境問題 に対す る 対応 も企業 にせ まられるようになって きた。 これ らが外力 とな り,原価計算

システムは今 まで とは異 なったシステムに進化 しようとしてお り,今が まさ に自己組織化の最中であると考 えられる。 ここで考 える自己組織化 とは,環 境か ら必要なものはとり入れるが,システムの要素の相互作用 によ りシステ

1)

ムの秩序ある状態 を創発するという現象である。現在,原価計算 システムは,

ABC

ABM

,環境原価計算 など新 しい概念 を取 り入れ, また,非貨幣的な

計‑ll)

情報の扱い も増加 させ, さらにはソフ トコンピューティング も視野に入れ,

原価計算 システムと複雑適応系 329

(6)

新 たなシステムを創発 しようとしているのである。

以上の考察 によ り,原価計算 システムが複雑系 であることが示せた。

1 2 ) 4.複雑適応系 としての原価計算システム

この節では,原価計算 システムが複雑適応系 であることを示す。

12,13) (1)マ レー ・ゲルマンの複雑適応系

マ レー ・ゲルマ ンは複雑適応系 を 「環境 か ら得 られた情報 よ り規則性 を抽 出 し,それをスキーマ とよばれる内部モデルに圧縮 して,そのスキーマ をも

14) とに行動す るシステムである」 と定義 している。

原価計算 システム も外界か ら得 られた情報か らスキーマ を作 り,そのスキ ーマ をもとに行動 している。原価計算 システムのスキーマは 「原価計算基準

や各種の原価計算 の手法,会計情報 システム論 をは じめ とす る関連諸科学の 成果 な どである。 これ らのスキーマは原価計算 システムの出力 に対す る評価 を通 じて間接 的に評価 され変更 されてゆ く。先 にのべ た

ABC

ABM

も新 たにスキーマに加 わった ものであるが,多品種少量生産の増大 によ り従来の 製造 間接費配賦法が適 さない場合が出現 しているので (出力 に対す る評価),

この ような新 たな手法が開発 されスキーマに加 わることになった。 この よう に して,スキーマは間接 的に評価 され変更 されてゆ くのである。 ここで述べ たことで もわかるとお り,原価計算 システムはマ レー ・ゲルマ ンの複雑適応 系 となっている。

12,13) (2)ジ ョン ・ホラン ドの複雑適応系

ジ ョン ・ホラン ドの複雑適応系 はマ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系が多数集 まった集合的な複雑適応系であ り

330 国際経営論集 No.23 2002

(7)

① 集合 的特性 (参非線 形性

③流 れ

④多様性

の 4つの基本 的属性 と

⑤標識化 (釘内部モデル

⑦積木

12,13) の3つのメカニズ ムを有 しているシステムである 。

原価計算 システムを構成 している要素 はソフ トウェア,ハ ー ドウェア,人 間の3つである。 この うち,人 間は単独 でマ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系 と なれるが, コンピュー タも人 と組み合 わ されればマ レー ・ゲルマ ンの複雑適

15)

応系 とな りうる。ゲルマ ンはこの ようなシステム を 「人 間がループの中にい 16)

る」複雑適応系 とよんでいる。 この ように考 える と,原価計算 システムはマ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系 の集合体 と見 ることがで きる。以下 では(∋〜(彰 の基本 的属性 と(9‑(カのメカニズムについて考 える。

17) (∋集合 的特性

集合 的特性 とは,多数のエ ージェ ン ト (ジ ョン ・ホラ ン ドの複雑適応系 を 構成 してい る要素 の ことで,マ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系 にあたる もの) が関与 し合 うことで生 じる集合 の特性 の ことである。前節 の (1) で も述べ た とお り,原価計算 システムはソフ トウェア,ハ ー ドウェア,人が有機 的 に 結 びついては じめてシステム として成立す るので,原価計算 自体 が集合 的特 性 となってい る。

原価計算 システム と複雑適応系 331

(8)

② 非線形性

非線形性 については前節 の (

2

) で考察 してい るので, ここでは省 略す る。

(彰流れ

流れ とはエージェン ト間の情報の流れである。原価計算 システムの情報 は 質の異 なった ものが2種類 ある と考 えられる。 ひとつは原価計算 を行 うため の情報であ り,価値 に関す るデー タと数量 に関す るデータを含 む。 もうひと つの情報 は原価計算の手法や関連す る諸科学の成果, コンピュータや情報 シ ステムに関す る最新情報 などで,システムの改善 に直接作用す る情報である。

これ ら2種類 の情報の流れが存在す る。

④多様性

多様性 とはシステムを構成す る要素の多様性である。原価計算 システムを 構成す る要素はハー ドウェア, ソフ トウェア,人であ り,エージェン トとし ては人お よび人 とコンピュー タの組み合 わせが考 えられるが,人の中にも意 思決定者,情報 システム要員,原価計算部門の要員が存在す るので,原価計 算 システムはかな り多様 なエージェン トで構成 されている。

G)標識化

標識化 とは集合体 の形成 を促す標識である。原価計算 システムは 「原価計 算」 その ものが標識 として働 いている。 この抽象化 された標識の もとに,原 価計算 システムに必要 な要素が集 まって くる。

332 国際経営論集 No.23 2002

(9)

(参内部モデル

内部モデル とはマ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系 におけるスキーマにあたる もので,これについては本節の (1)で考察 しているので省略する。

(∋積木

積木 とは,エージェン トが さまざまな行動 を起 こす際によく使 われるよう な行動 を構成要素 として とってお き,それを積木の ように組み立てて使 うこ とがで きることを意味 している。原価計算 システムにおいて積木 に相当す る のは,意思決定者や情報 システム要員,原価計算部門の要員が行動 を起 こす 際に, よ く使 われる行動 (手法) を記憶 してお き, システムの運用,保守, 改良や原価計算の実行,意思決定の判断において役立たせ ようとすることに あたる。

以上の① 〜⑦ の考察 により,原価計算 システムはジ ョン ・ホラン ドの複雑 適応系であることが示 された。

5. 標準原価計算システム

5)

前稿 では,標準原価計算 システムが,マ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系 と なっていることを証明な しに用いたので,ここでは標準原価 システムがマ レ ー ・ゲルマ ンの複雑適応系であることを示す。

まず,標準原価計算 システムが非線形であることを示す。

標準原価計算 においては,原価標準の設定が重要であるが,原価標準の設 定においては,統計的かつ科学的調査 を行 って,慎重 に決定 される。しか し, 最終的に決定する人が変われば多少 な りとも変わる可能性があるので,この 点において多義性 を有す ることになる。 したが って,標準原価計算 システム は非線形なシステム となっていることが示 された。

原価計算 システム と複雑適応系 333

(10)

次 に,マ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系 になっていることを示す。

標準原価計算 システムのスキーマ は標準原価計算 の手法やそれ を用 いた原 価管理の手法 などがあ るが,現価標準 自身 もスキーマの ひ とつ と考 え られる。

この原価標準 は半期 ごとに改訂 され るのが一般 的であ る。 これは環境 の変化 に対応 で きる ようにす るためであ り,原価差異 をなるべ く小 さ くす るためで ある。原価標準 の改訂 とい うのは,見方 を変 えれば,標準原価計算 の出力が 周 囲の環境 に よって評価 され,原価標準が 間接 的 に評価 されて改訂 されてゆ くとい うこ とにな り, ま さ しくマ レー ・ゲルマ ンの複雑適応 系 とな ってい る。

6. おわ りに

5)

本稿 で は,前稿 で証 明せず に用 い た 「原価計算 システムは複雑適応系 で あ り,標準原価計算 システム も複雑適応系 である。」 とい う性 質 を証明 した0

5)

これ に よ り,前稿 で考察 した会計情報 システムの フラク タル的構造 も完結 したが,原価計算 システムが複雑系 であ り,マ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系 であ り, ジ ョン ・ホラン ドの複雑適応系 であることはそれ 自体興味深 い こと であ る。

1)荒井義則 (1999)「会計情報 システムと複雑系 に関する一考察」神奈川大 学経営学部国際経営論集,第18号,25頁。

2) 荒井義則 (2000)「会計情報 システムと複雑適応系 に関する一考察」神奈 川大学経営学部国際経営論集,第19号,75頁。

3) 荒井義則 (2000)「複雑適応系 としての会計情報 システム」神奈川大学経 営学部国際経営論集,第20,113頁。

4) 荒井義則 (2001)「会計情報 システムのサブシステムと複雑適応系」神奈

334 国際経営論集 No.23 2002

(11)

川大学経営学部 国際経営論集,第

2 1

,1 4 5

頁。

5 )

荒井義則

( 2 0 0

1

)

「会計情報 システムのサ ブシステム とジ ョン ・ホラ ン ド の複雑適応系」神奈川大学経営学部国際経営論集,第

2 2

,2 1 9

頁。

6 )

田宮治雄

( 1 9 9 4 )

「会計情報 システムの機能 と構造」 中央経済社

,1 1 4

頁。

7) (∋〜(参は,1)〜5)の文献で考 えた会計情報 システムの概念 とほぼ一致す る。

8 )

牧野丹奈子

( 1 9 9 7 )

「複雑系 としての 自律分散型組織」桃 山学 院大学経 済 経営論集

3 9

巻第 1号

,6 3

頁。

9 )

ザデー, ロ トフイ

( 1 9 9 5 )

「ソフ トコンピューテ ィング」 日本 フ ァジイ学 会誌Vo

l

.

7

,No.

2 , 2 6 2‑2 6 9

頁。

1 0 )

ザデー,ロ トフイ

( 1 9 9 5 )

「ソフ トコンピューテ ィング (その

2)

」 日本 フ ァジイ学会,Vo

l

.

7

,No.

3 , 5 3 0‑5 3 6

頁。

l l )

石川昭,吉 田洋

( 2 0 0 0 )

F環境会計 のための情報 システム』環境新 聞社。

1 2 )

複雑適応系 については注

1 )〜5 ) ,1 3 )

の文献 お よびそ こに掲 げ られてい る参考文献 を参照のこと。

1 3 )

井庭崇,福原義久

( 1 9 9 8 )

『複雑系入門』NTT出版。

1 4 )

井庭崇,福原義久,前掲書

,9 1

頁。

1 5 )

コンピュー タ単独 で もゲルマ ンの複雑適応系 になることは可能ではあるが, 意思決定 な ども必要 となる原価計算 な どでは,単独 で複雑適応系 となること

は不可能である。 なお, コンピュー タが単独 でゲルマ ンの複雑適応系 になれ るとい う点 については,注

1 6 )

の文献の

3 7 0

頁 を参照の こと。

1 6 )

MurrayGen‑Mann

( 1 9 9 4 )

TheQuaz‑kandtheJaguaT,W.H.Freeman

&

Co., New York(マ レー ・ゲルマ ン,野本 陽代 [訳] 『ク オークとジャガ

』草思 ,105頁)。

1 7 )

以下の① 〜⑦ において,集合的特性,流れ,多様性,標識化,内部モデル, 積木 の定義 については注

1 3 )

お よび注18)の文献 による。

1 8 )

田中三彦,坪井賢一

( 1 9 9 7 )

「複雑系 の選択」 ダイヤモ ン ド社。

<謝辞 >

い ろい ろ とご助 力 い た だい た神 奈 川大 学経 営 学 部 教授 柳 田仁 先 生 な らび に 産能大 学教 授 井 上和 彦 先 生 に心 よ り感 謝 の意 を表 します 。

原価計算 システム と複雑適応系

3 3 5

参照

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