インダス トリー40と 複雑適応系に関する一考察
インダス トリー
4.0と
複雑適応系
に関す る一考察
A
Study
of Industry
4.0 Systems
and
Complex
Adaptive
Systems
荒井
義則
ARAI YOshno五
In
this
note,
I
prove
that
Industry 4.0
Systemsare
ComplexAdaptive
Syctems and Complex Systems. Moreover,I
Bho\flthat
these systems are fiJzzy ones.1
は じめ に
最近、イングス トリー
401が注目を浴びているが、本ノー トではインダス トリー40を 一つのシ
ステムとして取 り上げ、イングス トリー40シ ステムが複雑適応系であり、複雑系であることを
示す。
2
イ ンダス トリー
40の
基盤
IoT
ここでは、インダス トリー40の
基盤をなすloTに
ついて概観する2。 IoT(lnternet of Things)は 日本語では 「物のインターネットJと
約されるが、ここで 「物J とは「すべての (形のある)物
」をさしている。インターネットは既に膨大な数のデジタル機器 に接続されているが、今まではネットワークを通じて人と人がつながる形態が中心であつた。IoT は、人と人の情報通信は今までどお り存在しているが、それ以外に物と物との情報通信、物と人 との情報通信が可能となる。物と物がつながることにより、個人個人のデータが収集しやす くな り、このデータをもとにより良いサービスができるようになる。埼 玉女 子短期 大学研究紀 要 第34号
201609
IoTが
可能 とな った要 因は以下 の とお りで あるち①物に搭載するセンサーの価格が安くなり、また種類も増えたこと。
②端末が安価で入手できるようになったこと
(スマートフォンが専用端末に置き換わつた
)。③センサーから送られるデータをつなげる通信環境が整備・拡大されたこと。
④集めたデータを蓄積するインフラの整備と巨大なデータを高速で分析できる技術の開発。
3.イ
ンダス トリー
40
インダストリー40に 関する定義
(説明
)は
いくつかなされているが、その一つに以下のよう
な定 義 (説明)が
あ る。4 i
インダス トリー
40とは、
ドイツの産学官が共同で取り組んでいる新しい製造
業のコンセプ トです。
2011年に ドイツ政府が策定 した 「ハイテク戦略
2020行動計画」のひとつとして 「インダス トリー
40」力
'提唱されました。この内容
を簡単にいうと、地域 ごとに関係のあるメーカー群 (これ を産業クラスター と いいます)の
あいだをデ ジタル化・ ネ ッ トワーク化す ることです。それ によ り 産業 クラスター単位で国際競争力をつけて、ドイ ツ製造製品の輸出拡大 にとど ま らず、デジタル化 。ネ ッ トワーク化 自体 を輸出 しようと目論んでいます。 また次のよ うな定義 (説明)も
ある°。ITを
使 つて製造業の競争力を高め る取 り組み。ドイツの国策で、産 学官が 連携 して実現 を目指す。「第4次産業革命Jと
も呼ばれる。 生産設備か らセ ンサーでデータを収集 し、生産性 を高める 「スマー トエ場」 の実現 を目指す。スマー トエ場同士 を互 いに連携 させ ることでSCM(サ
プラ イチ ェー ン管理)の
効率化 を図る。 中長期的 には ドイツ国内の製造業全体 をあ たか も一つの大きなスマー トエ場 として機能させ る構想 を持つ。 上記の定義 (説明)に
共通 しているのは、地域の工場群 をネッ トワークで結びよ り効率的な生 産体制を目指す ことであるが、その際工場の内外 を結ぶ ネ ッ トワー クにloTを
用 い、よ り生産イ ンダス トリー
40と
複雑適応系に関する一考察 性の高いシステムを目指す ものである。現時点で完成 しているシステムではないが、近年急速に 進化す る人工知能 を組み込む ことによ りさらに高度化 した生産 システムが出現する可能性がある。 イ ングス トリー40に
お いて重要な のは、現状 の生産体制の改良ではな く、IoTを
含むネ ッ ト ワークを基本 とす る新たな生産基盤を創造 し、かつその基盤を世界標準 とし、そのネットワーク 基盤そのものを売 り上げるとい う点である。 日本は新 しいネッ トワーク基盤を作 り、世界標準に す るという面では出遅れてお り、最優先の課題 として産官学が一体 となって取 り組む必要がある。4
複 雑 適 応 系 複雑な系について、その系の複雑 さそのものを問題 にす るのが 「複雑系」であ り、情報処理の 仕組みに着 目してその系 を考察す るのが 「複雑適応系Jで
ある。 ここでは 「複雑適応系」 につい て考える。 ジョン・ ホ ラン ドは複雑適応系について以下のような定義 を与えている6。 複雑適応系 とは多数の 「適応的エー ジェン ト」か らな るシステムであ り、以下 に述べ る4つ の属 性 と3つのメカニズム を持つシステムである。4つの属性 とは、1
集合的特性2
非線形性3
流れ4
多様性 で あ り、3つのメカニズム とは、1
標識化2
内部モデル3
積木 である。 「集合的特性Jと
は、 システムを構成する多数の適応的エー ジェン トが関与 しあ うことによっ て生 じる集合 の特性である。また、「流れ」 とはエージェン ト間の情報 の流れであ り、「標識化J埼玉女子短期大学研究紀要 第34号
201609
とは集合体の形成 を促進す る一種 の標識であ る。「多様性」 とは多種多様な適応的エージェン ト が存在 しているという適応 的エー ジェン トに関す る多様性 である。「内部モデル」 とはマ レー・ グルマ ンの複雑適応系における 「スキーマ」 にあたるもので、 これ によ り複雑適応系はさまざま な変化 にも適応 し、一貫性 を保持 している。「積木」はさまざまな行動 を起 こす ときに使用頻度 の高 い行動 を構成要素として保存 しておき、それを積木のよ うに組み立てて使用す ることができ るよ うにした ものである。 複雑適応系は情報の処理 に着 日した概念なので、ネ ッ トワー クを通 じて情報 を伝 えるイ ンダス トリー40シ
ステムの解析 に適用す るにはふさわ しい概念で ある。5.イ
ンダス トリー
40と
複雑適応系
インダス トリー40シ
ステムがジョン・ホラン ドの複雑適応系であることを示す。 ①集合的特性 インダス トリー40シ
ステムの目的はより生産性の高い製造システムの構築であるが、その目 的は膨大な数の人と物がIoTで
結びついたネッ トワークにより実現される。従って集合的特性 は存在する。 ②非線形性 数式化されてないモデルにおいて非線形性を考察するのはかなり難しいが、ここではデータと 費用について考察する。IoTは
物か らのデータも存在するので、膨大なデータの伝達。備蓄が必 要となるが、これにかかる費用が従来に比べて非常に安価になっている。 したがつて、データ量 が増加しても費用は比例 して増大するとは考えにくく、費用とデータ量の関係は非線形であると 考えられる。①流れ
人と人、人と物、物と物、工場と工場の間で情報の流れは存在する。
④多様性
イングス トリー40シ ステムは工場内外の多くの人や物
(人と組むことによリゲルマンの複雑
イングス トリー
40と
複雑適応系に関する一考察 適応系になる)に
IoTで
つながっているので、ェージェン トの多様性は存在する。 ⑤標識化 生産性の劇的な向上が目的であり、標識ともなる (スローガンとして紙に書き貼っておけば、 具体的な指標 となる)。 ③内部モデル 内部モ デル となるのはイ ンダス トリー40シ
ステムに必要な会計学、経営学、情報科学な どの 内容であるが、これ らは常 に経営 にお いて試され、適さないものは廃棄 され、新 しい理論に取っ て代わ られる。 ⑦積木 具体的で有効な技術で使用頻度の高いものは確実に保存され、組み合わされて用いられる。 以上によ り、インダス トリー40シ
ステムがジョン・ホラン ドの複雑適応系であることが示さ れたが、異なる企業の工場がネッ トワークで接続されるので、各工場の所属は異な り、工場 (企 業)の
すべてがインダス トリー40シ
ステムの所有であるとは考えにくい (工場でネットワーク とは関係ない部分も存在する可能性がある)。 したがって、インダス トリー40シ
ステムの厳密な 境界は考えにくい。すなわち、インダス トリー40シ
ステムはファジー集合と考えるのが妥当で ある。インダス トリー40シ
ステムは 「あいまいな (ファジーな)複
雑適応系Jで
ある。6
複 雑 系 複雑系はいろいろな分野で研究されているが、複雑系についての統一的な見解は今のところ存 在 しない。 ここでは牧野の考え方を概観する7。 牧野は、プリゴジンの 「散逸構造8」 、ハーケンの「シナジェティクスリ、津田の「カオス結合 系1り を比較 して、これ らに共通するものとして、複雑系について以下のような定義をしている。 複雑系とは「外力によって、平衡からかなり離れた状態におかれたとき、要素 の変化から新 しい秩序をつ くりながら、自らを活性化し続ける非線形システムJ埼玉女子短期大学研究紀要 第34号
201609
である。そ して、複雑系の本質は、「多様で革新的で協調性の高い発展が続 くJ ことにある。 さらに、複雑系の基本要素 として次の3つを挙げて いる。①状態
:(外力による
)非
平衡状況
②特性
:非線形
③機構
:自己組織化
また、数量化できない場合の非線形性については次のように定めζいる。
線形性 を広 く、「入力 と出力のあいだ における一義的な決定性やある種の比例 性」 と解釈 し、非線形 を 「入 力と出力のあいだにおける上述の線形性 を持たな い、柔軟で多義的な反応Jと
解釈 して も大きな誤 りをおかさないであろう。本稿では、牧野の考え方を参考にして、複雑系を以下の①∼①の性質を持つようなシステムと
定義する。
①各要素がばらばらでなく、要素間に相互作用が存在している。
②非線形性を有する。
①外力あるいは環境の変化によって、非平衡状態におかれたとき、自己組織化的に新 しい平衡状
態をつくる。
7
イ ンダス トリー
4.0と複雑 系
インダス トリー40シ ステムが複雑系であることを示す。
①要素間の相互作用
人と人、物 と物、人と物の間で情報通信が行なわれるので、相互作用は存在する。
インダス トリー
40と
複雑適応系に関する一考察②非線形性
5の②で既に示している。
①自己組織化的な平衡
イングス トリー40シ ステムの成立はIoTの 出現が必須であるが、IoTは 既に言及した
4つの要
因 によ り成 立 した。①物に搭載するセンサーの価格が安くなり、また種類も増えたこと。
②端末が安価で入手できるようになったこと
(スマー トフォンが専用端末に置き換わった
)。③センサーから送られるデータをつなげる通信環境が整備・拡大されたこと。
①集めたデータを蓄積するインフラの整備と巨大なデータを高速で分析できる技術の開発。
すなわち、このような環境の変化で新しい平衡状態として出現した。さらに、イングス トリー
40シ ステムは将来人工知能の画期的な進化により新たなシステムとして平衡状態に達する可能
性がある。
以上より、インダス トリー40シ
ステムが複雑系であることが示された。8.
おわ りに 本ノー トでは、インダス トリー40シ
ステムがジョン・ホラン トの複雑適応系であることを示 し、さらに複雑系であることも示した。 しかしなが ら、モデルの詳細な構造は示しておらず、ま た複雑適応系における適応度やカオスの縁に関しても考察 していない。 これらは今後の研究に委 ねたい。本ノー トはイングス トリー40シ
ステム研究の序論に過ぎない。 注1
参考文献1、 2を参照。2
参考文献1∼ 9を参照 した。3
参考文献3、 38頁。埼玉女子短期大学研究紀要 第34号
201609
4
参考文献3、 68頁。5
参考文献8、 9頁。6
参考文献10∼12参 照。7
参考文献13参 照。8
参考文献14参 照。9
参考文献15参 照。10
参考文献16参 照。 参考文献1
『決定版 インダス トリー40』(2015)尾
木蔵人、東洋経済新報社。2
『日本型インダス トリー40』(2015)長
島聡、日本経済新聞社。3
ЛoTま
るわかり』(2015)三
菱総合研究所 (編)、 日本経済新聞社。4
『ITロ ー ドマップ2015版』(2015)野
村総合研究所基盤ソリューション企画部、東洋経済新 報社。5 FITナ
ビゲータ2016年版』(2015)野
村総合研究所)ICT。
メディア産業コンサルティング 部、東洋経済新報社。6
『週間ダイヤモン ド第103巻38号 (2015年10月 3日号)J、 ダイヤモンド社。7
『ハーバー ドビジネスレビュー別冊2016年1月号J、 ダイヤモンド社。8
『すぐわかるIoTビ
ジネス200』 (2016)日 経コンピュータ (編)、 日経BP
9
「会計情報システムとIoTに 関する一考察」(2016)『埼玉女子短期大学研究紀要第33号』1 頁、拙稿。10『
遺伝アルゴリズムの理論』(1992)」ohn H Ho■and(著
)、 嘉数侑昇 (監訳)、 森北出版。1l Z」
deπO滋
「
(1992)John H Ho」
and、AddisonWedり
12『
複雑系入門』(1998)井
庭崇、福原義久、NTT出
版。13「
複雑系 としての自律分散型組織」(1997)『桃山学院大学掲載経営論集第39巻第1号』63頁、 牧野丹奈子。14 Nicous,G and I Prigotte(19771 SeJf Orgaル
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System,Wlley,