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(1)

複雑適応系 としての会計情報 システム

荒 井 義 則

1

. は じ め に

1)

前稿 「会計情報 システム と複雑適応系 に関す る一考察」 においては,(∋集 合的特性,②非線形性,③流れ,④多様性 の4つの属性 と,①標識化,② 内 部 モデル,③積木 の3つのメカニズム を考察 し,会計情報 システムが ジ ョ ン ・ホラン ドの複雑適応系 とな りうることを示 した。 しか しなが ら,複雑適 応系 を考 える際 に重要な役割 を果たす 「適応度 と適応度地形」 についてはま った く考察 しなかったので,本稿で考察す ることにす る。 また,同様 に重要 な 「カオスの縁」 について も考察 し,会計情報 システムの発展 を考 えること にす る。

2 ) 2, 適応度 と適応度地形

「適応度地形」 とい う概念 は集団遺伝学者 のセオール ・ライ トによって導 入 された ものであるが,複雑適応系 を理解す る上で も非常 に役 に立つ考 え方 である。

複雑適応系 は外か ら入 って きた情報か ら規則性 を抽 出 し, それ を 「スキー マ」 とよばれ る内部モデルへ と圧縮 して, そのスキーマ をもとに行動す る。

113

(2)

3) 例 えば,生物 の進化 において は 「遺伝子 の集合」がスキーマ となる。 スキー マの とる状態 は膨大 な可能性が あ り, それ らが行動 の結果 の フィー ドバ ック によって,淘汰 された り修正 された りす る。 このスキーマの改善が 「適応」 に他 な らない。

スキーマ と適応 を考 える ときに, スキーマの一般特性 を数値 と* (アスタ リスク)で構成 され る文字列 として とらえることが ある。例 えば,2進数 の 値 を持 つ長 さLのスキーマ は次の ように表 され る。

(a

l

, a2,・

・ ・

, ai,・・・aL)

ただ し, aとは 0か1か *。

スキーマ は,可能 なすべての組 み合 わせの空間中で 自分 の型 に合 う部分空 間 を表 していることになる。 なお, この例 で は *は 0と1の どち らで もよい

ことを表 してい る。

スキーマが環境 に対 して どの くらい適応 しているか を示すため

,

「適応度

とい う尺度が導入 されてい る。適応度 は環境 との適応具合 によって数値 で具 体 的 に与 え られ る。適応度 の数字 が高 いほ うが, そのスキーマが環境 によ く 評価 されてい ることにな る。 スキーマの変化 に伴 って どの ように適応度が変 化 す るか を可視化 す るために

,

「適応度地形」が導入 され る。 あ るスキーマ が与 え られた とき, それが どの ような適応度 を示すか を,可能 なすべてのス キーマに対 してプロ ッ トした ものが適応度地形で ある。

先 ほ どの例 の ように,長 さ 上 のスキーマ の場合, あ る1つ のス キーマ を 空 間 の1点 で表現 す るた め に,L次元空 間 を用意 す る。逆 にその よ うなL 次元空間 を考 えれ ば, どの点 もユニー クに1つのスキーマ と対応す ることに なる。 その ようなL次元空間 に

( I , +

1)次元 目の軸 を加 え, それ に沿 って 適応度 をプロ ッ トしてい く。 こうして得 られた図形が適応度地形 である。

114 国際経 営論集 No,20 2000

(3)

高 さによって適応度が表 された凹凸の地形 を考 えるので,低 い位置か ら高 い位置へ移動す ることが 「適応 す る」 とい うことだ ととらえる。進化 の場合 には,遺伝子 の交叉や突然変異 によって遺伝子 の組 み合 わせが変化 し,適応 度地形 をのぼってい く。 また,学習の場合 には,ニ ュー ロン間の結合 の強 さ (結合 の強 さの組 み合 わせが スキーマ とな る) を変化 させ る ことに よって適

4) 応度地形 をのぼってい くのである。

5 )

3.

カオスの縁

「カオスの緑」 はセルオー トマ トンの研 究 において現 れた。 セルオー トマ トンとは,格子 のそれ ぞれの格子点 (セル) にあ る有 限個 の状態 をのせ,局 囲の数 を見 なが ら, あるルール に従 ってセルの状態 を置 き換 えてい くもので, 時間,空間,各点での状 態すべてが離散 であるようなシステムである。厳密

6) には次の ように定義 され る。

格子 の次元 を

d

とす る。時刻 =・ま自然数

( 0 ,1

,・・・),位 置i‑ (il,ち, , id)の座標 は整数 を とる。 それ ぞれ のセル は 0か ら M 11までのM 個 の状 態 の うち一 つ を とる。位 置iのセル の時刻tで の状 態 を afで表 す。位置iのセル の次 の時刻 で の状 態a吉'1はセルiの近傍i+rl, ・・・, i+rmのセルの状態の関数 として定 め られ る :

a吉+1‑f(af.,i,・‑

,a

f

Hm )

′ を遷移関数 とよぶ。

7)

セルオー トマ トンは フ ォン ・ノイマ ンに よって考 案 され たが, ステ フ ァ ン ・ウォル フラム は数多 くのセルオー トマ トンを系統的 に調べ,力学系 との

(4)

アナ ロジー によって クラス1か ら4までの4つのクラスに分類 した。 クラス 1,2,3はそれぞれ力学系の平衡点, リミッ トサイクル, カオスに対応 し

8) てい るが, クラス4に対応 す る力学系 は存在 しなか った。

ク リス トファー ・ラング トンは,質的 に分類 された1次元 セルオー トマ ト 9,10)

ンを考察 す るた めに ^パ ラメータ とい う もの を導入 した。入パ ラメー タ は ある規則群 において平均 どの くらいのセルが生 き残 るか を表現す るパ ラメー タで次の ように定義 され る。

セルが と りうる k種 類 の状 態 の うち任 意 の‑ 状 態 を選 択 し, それ を

「静状 態」 とよぶ。遷移規則 において,nq個 の遷移 が この静状態 にな る とき,入パ ラメータを次の ように定義す る。

A ‑ (kN ‑nq)/kN

入パ ラメー タを 0か ら 1まで動 か した とき,複雑 さが どの ように変化 す 11,12,13)

るか を見 るために 「相互情報量」 とい うもの を導入す る。「相互情 報量」 と は, ある2つの事象 において,一方 を知 ることによって他方が何であるか に ついて どれ くらい情報が得 られ るか を表 した ものであ り, これ を用い る と, あるセルが どんな状態か を考 える とき,他 のセル を見 ることによって どれだ けの情報が得 られ るか を計 ることがで きる。 クラス1の相互情報量 は0, ク ラス2で はやや増加 し, クラス 3で はゼ ロに近 くなる。 そ して, クラス 4で は相互情報量 は最大 になる。つ ま り,静 的す ぎず動的す ぎないクラス4で は, 秩序 とカオスが ち ょうどよいバ ランスで混 ざってい ることがわか る。 この領 域 が 「カオスの

」 とよばれてい るものである。情報処理 とい う観点か ら見 る と,静的す ぎず動的す ぎないカオスの緑でのみ,情報が適度 に保持 され る

14) 安定性 と適度 に伝達 され る流動性 とが絶妙 なバ ランス を保 て るので ある。

同様 の現象 はスチ ュアー ト ・カウフマ ンのプー リア ンネ ッ トワー クで も発 116 国際経営論集 No.20 2000

(5)

15,16)

見 されている。 カウフマ ンは, 自己組織化 の結果,ネ ッ トワークは一般 にカ オスの縁 とよばれ る秩序 と混沌の間の状態 に落 ちつ くと考 えてお り,カオス の緑では常 にゆ らぎゃ流動性 を保持 してお り, これ を生命 にあてはめると, 環境の変化 に柔軟 であることを意味 していると考 えている。 また,生態系 に おいては,複数の種が利害 を伴 って対立や協調 をしているので,関係す る他 の種 の性質の変化 によって自分の適応度地形が変化 し,生物 はた えず変化す る適応度地形 において適応度 を高 くしようと試みてお り, これ らが最終的 に

17) カオスの縁 に向か うと考 えている。

実際,カウフマ ンは 「複雑 な系がカオスの緑, あるいはカオスの緑の近傍 1

8 )

の秩序状態 に存在す る理 由は,進化が系 をそ こに連れていったか らである

。 」

と述べてお り, また

,「

複雑適応系 はカオスの縁 に向かって進化す る』 とい う作業仮説 を評価す るのは, きわめて時期早 尚にす ぎる。 もしそれが ほん と うだ とわか った ら,非常 に美 しい ことであろう。 しか し

,

複雑適応系 は,

カオスの緑付近 の秩序状態内の どこかある場所 に向かって進化す る』 とい う ことが真実である とわかった として も, これは同 じ くらいすぼ らしい ことで あろう。おそ らく, こうした座標軸上 の位置‑ 秩序 をもち,安定で, それ でいて柔軟性 もそなえている‑ は,生物やそれ以外 に現れ る複雑適応系の,

1

9 )

ある種 の普遍的な特徴 として現れて くるであろう

」 とも述べている。

4. 複雑適応系 と しての会計情報 システム

以下で は,会計情報 システムを複雑適応系 として とらえ,今 まで述べて き た 「適応度 と適応度地形」や 「カオスの緑」の観点か ら考察す ることにす る

20) その前 に本稿で考 える会計情報 システムの概念 について述べてお く。

1. コンピュータを中心 とす る情報通信技術 を もとにした情報 ネ ッ トワー クであること。

(6)

2.意思決定 を支援す るシステム を含 み,意思決定者 お よび意思決定 グル ープに有用で あ ること。

3.意思決定者 ない し意思決定 グループのデータに対応す るフィー ドバ ッ ク機構 を持 つ こと。

4.意思決定者 ない し意思決定 グループ も重要 な要素 の1つであること。

5. システムの運用,保守 お よび改良 をす るシステム要員 も重要 な要素の 1つであること。

6.ハー ドウェア, ソフ トウェアの新 しい技術 や会計情報 システム論 お よ び会計学,情報理論,行動科学 な どの関連諸科学 の新 しい成果 を取 り入 れ ることが可能 なオープ ンシステムで あること。

7.ハー ドウェア, ソフ トウェアお よび人 的資源が有機 的 に結 びつ け られ てい ること。

これ ら7つの特性 を会計情報 システムの必須 の特性 と考 えてい るのであ る が,特 に意思決定者 ない し意思決定 グループお よび情報 システム要員 (この 中には会計 の専門家,経理部員 も含 めて考 える) とい う人間 も含 んでい る点 に注意 して もらいたい。単 にコンピュータシステム を考 えてい るわ けで はな

21) 22)

い。前稿,前々稿 「会計情報 システム と複雑系 に関す る一考察」 において も 同 じ立場 を とって きたが, まず は この ことについて考察 し,次 に適応度地形 や カオスの縁 と会計情報 システムの関連 を考 える。

118 国際経営論集 No.20 2000

(7)

(1)情報 システム と人間

コンピュータを中心 とした システムは, コンピュータシステム,情報処理 システム,情報 システム といった名称が付 け られているが,浦,市川 は これ

23) らのシステムの違 いを次の ように述べている。

(ヨ コンピュータシステム

コンピュータの物理的機構 (ハー ドウェア) に論理的な機構 (基本 ソフ ト ウェア) を積 み上 げた ものをコンピュータシステム とい う。

(参 情報処理 システム

コンピュータシステムに,ある業務 を想定 してそのための応用 ソフ トウェ アを盛 り込んだ ものを情報処理 システム とい う。すなわち, データの収集 ・ 記録 ・加工 ・配布 に関わ る一連 の仕組 みの総称 とい うことがで きる。 ここで

「一連 の仕組 み」 とは,ハー ドウェア,基本 ソフ トウェア,応用 ソフ トウェ アを指 してい る。

③ 情報 システム

情報処理 システム と, これ を使 う人間 も含 めた組織体 を念頭 にお き,それ らの全体 を指す とき情報 システム とい う。

会計情報 システムの研究 においては,(丑か ら③ の どの立場 の研究 も必要 と 24) 25)

され るが,本稿 お よび前稿,前々稿 の立場 は(参である。

また,関 口は情報 システムについて 「情報 システムは, その入出力が情報

(8)

であるようなシステムである。 したが って, そのサブシステム間の相互関係 もそれ らの間の情報 の入出力の関係 として記述 され る。情報 システムの構成 要素 は,情報処理機器 (コンピュータや その関連装置),人間,通信 ネ ッ ト

26

)

ワー ク,情報媒体 な どか らなる

」 と述 べ て お り, さ らに 「人 間 の組 織 は

『情報 ネ ッ トワー クを確立す るために構築 され る』 ともいわれ ることか らも わか るように,情報 システムの検討 をす るには, その利用者である人間 を考 慮 に入れないわ けにはいかない。情報 システムにおいては,人間が本来の主 役 なのであって, コンピュータは不可欠の要素ではない。 しか し,今 日的な 意味では, コンピュータ と切 って も切れないほ ど関連が深 く,情報 システム とい うときには,少 な くとも 1要素 としてコンピュータが含 まれ ると,常 に

2

7 )

考 えて よいほ どである

」 と述べてい る。本稿 の立場 も同様 であ り, コンピ ュータ と人間 は会計情報 システムの重要 な要素 と考 えているが,次 に述べ る ような理 由 もあって人間 を会計情報 システムの 1要素 と見 な している。会計 情報 システムの目的 は経営意思決定 と考 え られ るが,南洋が 「道具であるコ

ンピュータの性能 は随分良 くなったが,現在 および近 い将来ではまだ まだ末 28)

発達 の もので ある とい うこと。」 と述べ, さ らに 「経営の意思決定 といった 社会的,経済的,人間的要素等 も大 き く含 んだ複雑 な意思決定 とい うことに

29)

なる と, まだ まだ到底人間 にはか なわ ない。」 と述べてい るように, コンピ ュータのみでは経営意思決定 は不可能であ り,人間が必要 とされ る。 また, 複雑適応系 として会計情報 システムを見 なす とき,与 えられ る情報か ら経営 意思決定 に関す るスキーマを生成 し,改良 していかな くてはな らないが, こ れ もコンピュータ単独では不可能であ り,人間が行わな くてはな らない。 し たがって,会計情報 システム を複雑適応系 として考察す るとき,人間 を含 め て考 える必要がある。

120 国際経営論集 No.20 2000

(9)

(2) 適応度地形

適応度地形 を考 える前 に,会計情報 システムに入 って くる情報 について再 30)

確認 してお こう。会計情報 システムに入 る情報 には質的 に異 なった2つの情 報があ る。 1つ は会計情報 システムの 目的,すなわち意思決定 に直接関係 す る ものである。意思決定 をす る必要 に迫 られた ときは, この ような意思決定 をしたい とい う要求や意思決定 に必要 な情報が会計情報 システム に入力 され, その結果,意思決定が出力 として会計情報 システム よ り与 え られ る。 これ は 会計情報 システムの 日常的な業務 とい うべ きもので あ るが,時 として これ ら

31) の入力が会計情報 システム を著 し く変化 させ ることが あ る。前々稿 において 考 えた 「自動仕訳受入型会計情報 システムの段階」か ら 「業務統合型会計情 報 システムの段階」への発展が この場合 にあた る。会計情報 システムへの要 求が財務報告か ら経営者 の意思決定 に質的 に変化 した (もちろん,現在 で も 財務報告 は会計情報 システムの役割 の 1つで はあるが) ことによ り, これが

32)

外力 になって新 たな平衡状態 に移動 した と前々稿 で は考 えた。

この ように, システムの進化 (発展)の要因 とな りうるので, これ らの情 報 (要求)か ら抽 出 した ものは会計情報 システムのスキーマの一部 を構成 す

る もの と考 えられ る。

会計情報 システム に入力 され る情報 の 2つ 目はシステムの機能や構造 に関 す る ものである。すなわち,ハー ドウェアや ソフ トウェアに関す る新 しい技 術情報や会計情報 システム論 お よび会計学,情報理論,行動科学 な どの関連 諸科学 の新 しい成果であ る。 これ らの情報 はシステム を進化 させ るのに欠か せ ない もの となる。 そ して これ らか ら抽 出 された ものはスキーマ を構成す る 重要 な部分 となる。

最初 に述べた意思決定 に関す る情報 (要求) を仮 に Ⅰ類 の情報,二番 目に 33) 述べた システムの機能や構造 に関す る情報 をⅠⅠ類 の情報 とよぶ ことにす る と, 会計情報 システムのスキーマ は Ⅰ類 お よび ⅠⅠ類 の情報 か ら抽 出 された ものが

(10)

スキーマ となってい る と考 えて よさそ うである生物 の進化 におけるスキー マは遺伝子 の集合で あ り, また,学習 の場合, スキーマ はニ ュー ロン間の結 合 の強 さの組 み合わせであったが, これ らの場合 と異 な り,会計情報 システ ムのスキーマ は質 を異 にす る2つの部分か ら成 り立 ってい る と考 えたほ うが 妥当である。Ⅰ類 の情報 か ら得 られたスキーマ をI類 のスキーマ,II類 の情 報か ら得 られたスキーマ をⅠⅠ類 のスキーマ とよぶ ことにす る と,適応度地形 に対応す る空間 はひ とつの空間 と考 えるよ りは, Ⅰ類 に対応す る空間 とⅠⅠ類 34) に対応す る空間の直積 によってで きる空間である と考 えるほ うが妥 当である 先 に挙 げた2進数 の例 で考 えれば, スキーマの集合 は,

((

a

,b)la∈S

l

,b∈S..)

a‑(al,a2, ・・・, aN)

‑(∂1,∂2, ‑,∂〟 )

とな る。 ここで,Sl,S..はそれ ぞれI類,ⅠⅠ類 のス キーマか らな る集合 で あ り, Ⅰ類 のスキーマの長 さは Ⅳ , ⅠⅠ類 のスキーマの長 さは 〟 とした。 さ らに

( Ⅳ十〟+

1)次元 目の軸 を加 えて

,(

+〟+

1)次元空 間 を考 える と, スキーマの空間 は この空間の部分空間 とな り,適応度地形 を考 えること がで きる。 aZ(i‑ 1,‑・,N),bj (j‑ 1,・‑,M)を実数 と考 え,

〟‑〟‑1

とすれ ば,通常の3次元空間 とな り,適応度 は通常 の意味 での高 さ とな り直 感的 に理解 ししやす くな るが, それ以外 の場合 には,例 えばスチ ュアー ト ・

35)

カウフマ ンが用 いたNKモデル の ように,特別 の工 夫 を しな けれ ば直感 的 122 国際経営論集 No.20 2000

(11)

(視覚的) な理解 は得 に くいであろう。以下 で は定性 的 な議論 に限 るので, 厳密 に適応度 を定 めることはしない。

適応度地形 の考 え方が (適応度の厳密 な定義 は別 として)決定 したので, これを用いて会計情報 システムの 「自己完結型会計情報 システムの段階」か ら 「業務統合型会計情報 システムの段階」 までの発展 (進化) を考察す るこ とにす る。

まず,適応度地形の変化であるが, これは生態系 における生物 の進化 と同 樵,変化 していると考 えられ る。生物 の進化 においては,他の種 との関係が 自分の適応度地形 を変化 させたが,会計情報 システムの場合 は,会計情報 シ ステムに関す る要求の変化 (Ⅰ類 のスキーマに関係す る)やハー ドウェア, ソフ トウェアの技術 の進化や会計情報 システム論や関連諸科学の進展 (ⅠⅠ類 のスキーマに関係す る) によ り適応度地形 は変化す る。

初期 の段階 においては, 自己完結型会計情報 システムの適応度 はかな り高 36)

かったが,以下の2点が問題 となった。

1.会計情報 システムの利用者 はすべての会計取引データを仕訳 の形式で 入力せねばな らず, それが企業 の作業の合理化 と情報 の有用性 の面か ら 大 きな制約 となった。

2.入力 され るデータが仕訳の形式 なので,会計取引 と認識 されない取引 のデータや仕訳形式段階で もれて しまうデータを管理対象 に含 めること がで きない。

この2点の問題 によ り適応度地形 は変化 し,適応度 は下がったが, この2点 は主 としてシステムの機能や構造 に関す る問題 なので,ⅠⅠ類 のスキーマの集 合 を部分空間 として持 つ 〟 次元空間 (以下,空間ⅠⅠと記す)での変化が適 応度降下 にかな り影響 した と思われ る。

(12)

さらに, コンピュータの処理能力の飛躍的な向上 とハー ドウェアの価格低 下 を背景 として,会計業務以外の販売,製造,在庫 な どのさまざまな業務 シ ステムにコンピュータが導入 され る と,各業務 システム と会計情報 システム

37)

に入力す るとい う作業 の二重性が問題 とな り,適応度 はます ます低 くな り, 新たに適応度の高い位置 をさがす ことになる。 この新たな高適応度 の位置が

38)

「自動仕訳受入型会計情報 システム」であ り,二重性 の問題 は解決 された。

しか しなが ら,本質的 にこれ らのシステムは差 はないので,適応度地形の1 つの山のかな り高い所 にいた自己完結型会計情報 システムが適応度地形 の変 化 によってその山が さらに高 くな り,相対的に自己完結型会計情報 システム の高 さが低 くな り, その山の上 にシステムが移動 して自動仕訳受入型会計情 報 システムに移行 した と考 えるべ きである。つ まり, 1つの山の中での変化 である。

それに対 して 「意思決定」 とい う要求が求 め られた ことによる 「自動仕訳 受入型会計情報 システム」か ら 「業務統合型会計情報 システム」への発展 は 本質的な変化であった。要求が出されてか ら新たなシステムの開発が始 まっ たので, まず,空間Ⅰ(Ⅰ類 のスキーマの集合 を部分空間 として持 つ Ⅳ 次 元空間) における変化で適応度が下が り, さらに空間ⅠⅠにおける変化 によっ て適応度 はさらに下が った と考 えられ る。 この変化 はかな り本質的な変化で あ り, システム とそれに対す る考 え方 を著 しく変化 させたので,生物 の進化 における突然変異 に相 当 し,適応度地形 において他の山のかな り高い位置 に 飛び移 り,業務統合型会計情報 システム に移行 した と思われ る。同 じ発展

(進化)で も最初 の発展 とはかな り異 なる発展 (進化)である。

(3) カオスの縁

すで に考察 した ように

,

「カオスの緑」 とは秩序 とカオスの境 目の状態で あ り,環境の変化 に対 して も柔軟 に対応で きる状態であって, 自然界や人間

124 国際経営論集 No.20 2000

(13)

社会 にお ける創発 はこの 「カオスの緑」 において生 じていると推定で きる。

複雑適応系 はカオスの緑 あるいはカオスの縁の近傍 の秩序状態 に向かい, それ らの状態 において環境 の変化 に対応 しなが ら進化 してい く (創発 を生 じ てい く)のであるか ら,複雑適応系の1つである会計情報 システム もカオス の緑かその近傍 の秩序状態 において変化 に対応 し,進化 (発展) して きた と 考 えられ る。例 えば, 自動仕訳受入塑会計情報 システムに経営意思決定 とい う今 まで とは質的 に異 なった要求が出 され (環境 の変化), その要求 に対処 するためのシステムの改良が模索 され, その結果,業務統合型会計情報 シス テムが出現す る (創発が生 じる)過程がカオスの緑 に対応す る。 この過程 を もう少 しくわ しく分析 しよう。都 甲,江崎,林 は言葉 と概念 を例 に とり,創

39)

発 を次の ように説明 している。「出生後,子供 は多 くの言葉 を獲得す ること で, はじめていろいろな概念 をもっ ことがで きる。 この段階では言葉 と概念 は不可分である。 しか し,いったん概念 を獲得 した後 は,概念 その ものには 伝達の手段 としての言葉 は不要 となることか ら,言葉 と概念 は異なる階層 に 属す るものであることがわか る。言葉が持つ個々の意味 とい う要素が組 み合 わさ り,あ らたな概念が生ず るのである。 このプロセスを

秩序状態‑複雑性‑ カオス状態

をとる複雑系 と対応づ けてみよう。既知 の知識 は秩序状態, その知識が混在 し相互 に影響 し合 うもや もや とした混沌状態が複雑性 の状態, そしてアイデ アや概念 が生 まれ るのが カオス状 態 で あ り,創発 で あ る

」 ここで

,

「複雑 性」 とは 「カオスの縁」の ことである。 この文章 は 「複雑系」 について述ベ ているが

,

「複雑適応系」 に もあてはまる。 この考 え方 を前述 した会計情報 システムの発展 に適用す ると, 自動仕訳受入型会計情報 システムが一定の機 能 を果た している状態が秩序状態,経営意思決定 とい う要求が出され新たな システムを模索 している段階がカオスの縁 にあた り,業務統合型会計情報 シ

(14)

ステムの出現がカオス状態であ り,創 出であると考 えられ る。

(4) ゆ ら ぎ

カオスの緑 と関連す る重要な概念 に 「ゆ らぎ」がある。関 口は 「カオスの 縁か らカオスの側 にふれた システムが再 び安定 な領域 に変化す る様子 は,環 境変化 によってゆ らぎが生 じたシステムが新 しい安定状態 に移 ることになぞ

40)

らえることがで きる。」 と述べ

,

「ゆ らぎ」 を 「ゆ らぎとは,系の構成要素 な い しは下位部分 の,上位部分 に対 して持つ動作 の任意性 の程度 を指 し,系の

41) 42)

動作 の確定性 を低下 させ る」 と定義 し, さ らに北原 ・伊藤 の研究 お よび中 43)

野 ・渡辺の研究 を引用 した後,組織的ゆ らぎについて 「組織構成員の自主性 自律性がゆ らぎの根元であ り, そのゆ らぎを組織 に とって効果的な創発 に結 びつけるには,情報技術 によっで情報処理の どんな能力が どの ように増大 さ

4

4 )

れ るかが,重要なポイ ン トである

」 と述べ, また

,

組織構成員の自主性 自 律性か らくる活気 は,複雑系の観点か らすれば,組織がカオスの緑の臨界状 態 にあることに対応す ることが望 ましい。 それは組織が環境 の変化 に対 して もっ とも敏感 に適応で きる状態だか らである。 しか らば,組織 のゆ らぎをカ オスの縁の状態で発生 させ るにはどうした らよいか,が経営の根元的課題 で

4

5 )

ある

」 とも述べてい る。組織構成員 の 自主性 自律性 か らくるゆ らぎをカオ スの縁で発生 させ ることが重要であるとい うことである。

では,会計情報 システムにおけるゆ らぎとは何であろうか。 1つは会計情 報 システムを構築 した り,改良 した りす る際の情報 システム要員 (会計 の専 門家,経理部員 も含む)の持 つ自由度である。金額 の制限 は当然 あるものの, 選択で きるハー ドウエアや ソフ トウエアの幅が広いほ どゆ らぎは大 き くなる。

より重要 なのは, システムを構築 した り,改良 した りす る際の発想 の自由さ や柔軟 さである。 これはかな りゆ らぎを大 き くす る。 この自由さや柔軟 さが あったか らこそ,以前 とは質的 に異 なった経営意思決定の要求 に対応で きる

126 Eg際経営論集 No.20 2000

(15)

業務統合型会計情報 システムが創発 されたのである。 もう 1つ は,意思決定 者 ない し意思決定 グループの 自由度 である。経営者 の意思決定 において も, 株主の意 向や市場 にお ける株価動向な ど制限 はあ るが, それ らの もとで どれ だけ自由で柔軟 な発想がで きるか とい うことが ゆ らぎを増減 す ることに大 い に関わ って くる。

コンピュータを中心 とす るハー ドウェアや ソフ トウェア も, その進歩 によ りゆ らぎを増大 させ る。 また,会計情報 システム論 や会計学,経営学 な どの 関連諸科学 の発展 もゆ らぎを増大 させ る。

この ようなゆ らぎによ り,会計情報 システムの確定性が低下 し,新 たな進 化 (発展) を開始 し,新 しい安定状態 に移 る と考 え られ る。

5

. お わ り に

本稿 で は会計情報 システム を適応度地形や カオスの緑 といった観点か ら考 察す ることが可能 ではないか とい うことを問題 に した。 そ して,十分 とはい えない まで も, その可能性 を示す ことがで きた。すなわち,適応度地形やカ

46) オスの緑 とい う概念 を適応 す ることが可能 であ ることを示 した。前稿 で は会 計情報 システムが複雑適応系の4つの属性 と3つのメカニズム を合わせ もつ

ことを示 し, ジ ョン ・ホラン ドの複雑適応系 にな りうることを示 した。 また, マ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系 にな りうることも述 べた。 この 2稿 によ り,

47) 会計情報 システムが複雑適応系 となっていることが示 された。 また,前々稿 で は会計情報 システムが複雑系である とい うことを考察 した。 よって, これ らの3稿 よ り

,

「会計情報 システム は複雑 系で あ り,かつ,複雑適応 系で あ る」 とい うことが理解 で きた と考 えて よいであろ う。

ただ し,本稿 で示 した適応度地形や カオスの緑 を用 いた解析 は,簡単 な定 性的議論 に とどまってお り, とて も十分 とはい えない。適応度 の厳密 な定義 やカオスの緑 に関す る詳細 な議論 な どは今後 の課題 で ある。

(16)

1) 荒井義則 (2000)「会計情報 システム と複雑適応 系 に関 す る一考察」神奈川 大学経営学部 国際経営論集,第19号,75頁。

2) この部分 の説明 は以下 の文献 よ り引用 してい る。

井庭崇,福原義久 (1998)F複雑系入門jNTT出版,92‑94頁.

3)複雑適応系 について は注1お よびそ こに掲 げ られた参考文献 を参照。

4)「適応度 と適応度地形」 について は以下 の文献 も参照。

MurrayCell‑Mann(1994)TheQuarkandtheJaguar,W.H.Freeman&

Co.(マ レー ・ゲルマ ン,野本陽代 [訳] 『クオー ク とジャガー』草思社)0 MurrayCell‑Mann(1994)"ComplexAdaptiveSystems",G.Cowan,D.

PinesandD.Melter(Eds.)Complexity:Metaphors,Models,andReality,A P710CeedingsVolumein theSantaFeInstituteStudiesin theScienceof Complexi&,Vol.XIX,Addison‑Wesley.

StuartKauffman(1995)AtHomeintheUniuene:theSearchforLawsof Self‑Oyganizationald Complexity,oxfordUniversityPressIn°.(スチ ュア ー ト・カ ウフマ ン,米沢富美子 [訳] F自己組織 化 と進化 の理論j 日本経済新 聞社)0

5) 「カオスの縁」 については以下 の文献 を参照。

井庭 ,福原,前掲書。

Kauffman,op.cit.

ChristopherG.Langton(1991),"LifeattheEdgeofChaos",Artzfl'CialLife lI,AProceedingsVolumeintheSa7daFeInstituteStudiesintheScienceof Complexity,Vol.X,Addison‑Wesley.

ChristopherG.Langton(1990),"ComputationattheEdgeofChaos:Phase Transitionsand EmergentComputation",PhysicaD42,12‑37,EIsevier Science.

WentianLI,NormanH.Packard,andChristopherG.Langton(1990)

"TransitionPhenomenainCellularAutomataRuleSpace",PhysicaD42,12

‑37,EIsevierScience.

田中三彦,坪井賢一 (1997)F複雑 系の選択j ダイヤモ ン ド社 .

6) 高橋 智 [著],合原一幸 [編著](1990)Fカオ スjサイエ ンス社,258頁0 128 国際経営論集 No.20 2000

(17)

7) J.VonNeumann(1966)Theoyyof Selfy勿710ducingAutonwta,Uinv.of lllinoisPress.

8) S.Wolfman(1984)"UniversalityandComplexityinCellularAutomata", PhysicalOD,1‑35.

9)井庭,福原,前掲書。

10) Langton(1991),oP.cit. ll) 井庭,福原,前掲書。

12) Lanton(1991),oP.cit.

13) Li,PackardandLangton,op.cit.

14) 入パ ラメータの説明 は以下の文献 に もとづいている。

井庭,福原,前掲書,84頁。

15) 同上書。

16) Kauffman,op.cit. 17)井庭,福原,前掲書。

18) Kauffman,op.cit.,訳書,169頁0 19) Ibid.,訳書,171貢.

20)荒井 (2000),前掲稿。

21) 同上稿。

22)荒井義則 (1999)「会計情報 システム と複雑系 に関す る一考察」神奈川大学 経営学部国際経営論集,第18号,25頁。

23)浦昭二,市川照久 [共編] (1998)F情報処理 システム入門 [第2

]

』 サ イ エ ンス社, 6頁。

24)荒井 (2000),前掲稿。

25)荒井 (1999),前掲稿。

26) 関口恭毅 (1990)F情報 システム設計 ・開発入門j近代科学社,10貢.

27) 同上書, 11頁。

28) 南洋宣郎 (1995)『これか らの コンピュータ ・ネ ッ トワー ク会計』税務研 究 会 出版局, 8頁。

29) 同上書, 8頁。

30)荒井 (2000),前掲稿。

31) 荒井 (1999),前掲稿。

32) 同上稿。

(18)

33) Ⅰ類 の情報,ⅠⅠ類 の情報 とい う呼 び方 は本稿 で仮 りにつ けた呼 び方 で あっ て,一般 に この ような呼 ばれかた をしてい るわ けではない。

34) 必ず しも2つの空間の直積 として考 える必要 はないが, この ように考 えた ほ うが,定性 的な性質が考 えやすいので直積 を考 えた。 1つの空 間で考察 し て もで きないわ けで はない。

35) Kauffman,op.cit.,訳書,307頁0

36)田宮治雄 (1994)F会計情報 システムの機能 と構造』中央経済社,64貢。

37)同上書,67頁。

38)同上書,67貢。

39)都合潔,江崎秀,林健司 (1999)『自己組織化 とは何 か』講談社 ブルーバ ッ クス,167貢。

40)関 口恭毅 [著],涌田宏昭 [編著](1999)F複雑系の経営学』第2章 「複雑 系研究の諸概念 と経営」税務経理協会,36頁。

41)同上書,43頁。

42)北原貞輔,伊藤重行 (1988)「"ゆ らぎ" とは何 か」オ フ ィス ・オ ー トメー シ ョン,Vol.9No.1,26‑32頁。

43)中野文平,渡辺慶和 (1988)「組織 内ネ ッ トワー クによる "ゆ らぎ" と組織 コン トロール」オ フィス ・オー トメー シ ョン,Vol.9 No.1,26‑32頁。

44)関 口著,涌田編,前掲書,43頁。

45)同上書,44頁。

46)荒井 (2000),前掲稿。

47)荒井 (1999),前掲稿。

(謝辞 )

いろいろな面で ご助力 をいただいた神奈川大学経営学部教授柳 田仁先生並 びに 産能大学教授井上和彦先生 に心 より感謝 の意 を表 します。

130 国際経営論集 No.20 2000

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