会計情報 システ ムのサ ブ システ ム と複雑適応系
荒井義則
1. は じめに
ト3) 4)
本論集 に投稿 した一連 の論文 においては,会計情報 システムが複雑系 で 5)
あ り, また,マ レー ・ゲルマ ンの主張す る複雑適応系 に もジ ョン ・ホ ラ ン
6) 7)
ドの主張す る複雑適応系 に もな りうることを示 し,適応度地形 や カオスの 8) 9)
縁 ,あるいはゆ らぎ とい った概念 を適用す ることが可能であ るこ とを示 し た。
これ らの論文 では,会計情報 システムの構成要素 をハ ー ドウェア, ソフ ト ウェアな らびに人間 と考 え,会計情報 システム を人間 も含 めた組織体 として の情報 システム ととらえ,複雑系 お よび複雑適応系 の理論 を適応 し,その発
1‑3)
展を考察 した。ハ ー ドウェア, ソフ トウェア,人間の3要素 か らなるシステ ムは会計情報 システムだけではな く,む しろほ とん どの システムに共通す る 要素なので, これ ら≡論文 で展 開 した理論 は他 の システム, た とえば生産情 報システム,物流情報 システムあるいは経営情報 システムな どに も適用が可 能である と思 われる。
しか しなが ら,いろいろなシステムに適用可能 とい う利点 を有す る とい う 145
ことは,逆 に会計情報 システムに特有 な性 質 を十分解析 す ることがで きない ト3)
とい う欠点 をあわせ持つ可能性があ る。実際, これ までの論文 においては, 会計情報 システムが どの ようなサ ブシステムか ら成 り立 っているか,す なわ ち会計情報 システムの構造 を考察す ることな しに, システムの発展 を複雑系 あるいは複雑適応系の見地か ら考察 した。
本稿 で は,上述 の点 を考慮 して, まず,会計情報 シス テムの構造 を考 え, さらに,各サ ブ システムが複雑系 あるいは複雑適応系 になっていることを示 し,会計情報 システムの構造 を考察す る ものである。
2.
会計情報 システムの構造(1)サブシステム
会計情報 システムをどの ようなサ ブシステムで構成す るかは各企業が決定 す る ものであ り,各企業 は 自社 に とっては最適 の独 自の システムを構築す る ことになるが,各企業の会計情報 システムに共通す る基本的 な構造 は存在す るであろ う。
田宮 は会計情報 システムを業務統合型情報 システムのサ ブシステム ととら え, さらに会計サ イクルの仕事 を
① 帳簿管理
② 会計報告
③予算編成
④ 意思決定支援
の 4つ に分 け, これ らに対応す るサ ブシステム として
(∋帳簿管理 ・会計報告 システム 146 国際経営論集 No.21 2001
②予算編成 システム (勤意思決定支援 システム
10) の3つ を考 え, これ らの集合体 として会計情報 システム を考 えている。
また,上総,上古 は経営情報 システムは
① 入力 システム (診会計情報 システム
③ 管理情報 システム
の3つのサ ブシステムか ら成立 している と考 え,会計情報 システム を
①財務会計 システム
②管理会計 システム
11)
の2つ に大別 している。 さらに,財務会計 システムを
① 会計帳簿 システム
②財務報告 システム
のサ ブシステムに分 け,管理会計 システムを
(∋戟略会計 システム
②総合会計 システム (参現業会計 システム
の3つ に分 けている。
会計情報 システムのサ ブシステム と複雑適応系 147
前者の分類 は会計 サ イクルの仕事 に対応 させ た ものである し,後者 は財務 会計 と管理会計 とい う会計学 の2大 区分 に対応 した ものである。
(2)原価計算 について
田宮 は,原価計算 について,価値 に関す るデー タは帳簿 デー タベースで管 理 され,数量 に関す るデー タは生産情報 システムで第一 に取 り扱 われるので, 原価計算 システムをどの情報 システムに組み込 むかは一義的 には決 まらない
10) と述べ,次 に掲 げる3つの方法 を考察 している。
① 会計情報 システムのサ ブシステム とす る方法
⑦生産管理 システムのサ ブシステム とす る方法
③ 原価計算 をひ とつの情報 システム とす る方法
一方,上総,上古 は総合会計 システムの予算管理 システムの中に直接原価 計算 システムや標準原価計算 システムをお き, また,短期利益計画 システム に も直接原価計算 システムをおいている。 さらに,業務会計 システムの生産 会計 システムに原価管理 システムをおいてお り,い くつかのサ ブシステムに
1 1 )
原価 に関連す るシステムがおかれてい る。
3.
複雑適応系 としてのサブシステム2において,会計情報 システムのサ ブシステム (構造) を考察 したが,田 宮 と上総 ・上古 の会計情報 システムではそのサ ブシステムによる構成 におい ては,異 なる面 も少 な くない。 この両者の システムに限 らず,各企業の会計 情報 システムは企業 の事情 によ り異 なって くるのは当然である。 しか しなが ら,会計情報 システムである以上 は,各企業 の システムに共通 に存在する基 本構造 は存在す る と考 え られる。 ここでは,その基本構造 を以下の4つに分
148 国際経営論集 No.21 2001
類す る。
(1)帳簿管理サ ブシステム (2)会計報告サブシステム (3)予算編成サ ブシステム (4)意思決定サ ブシステム
なお,通常 は(4)は 「意思決定支援 システム」と呼 ばれるシステムであるが, 本稿 においては会計情報 システムに人 (情報 システム部員,意思決定者 ない
し意思決定 グループな ど) も含 めて考 えてい るので,「意思決定支援」 では な く 「意思決定」 と してい る。す なわち,会計情報 シス テムの出力 と して
「意思決定」 を考 えてい る。 ここで,注1)か ら注3)の論文で用 いた会計情報 シ ステムの概念 を掲 げてお く。
1. コンピュー タを中心 とす る情報通信技術 を もとに した情報 ネ ッ トワー クであること。
2.意思決定 を支援す るシステムを含み,意思決定者お よび意思決定 グル ープに有用であること。
3.意思決定者 ない し意思決定 グループのデー タに対応 す るフ ィー ドバ ッ ク機構 を持つ こと。
4.意思決定者 ない し意思決定 グループ も重要 な要素の 1つであること。
5.システムの運用,保守お よび改良 をす るシステム要員 も重要 な要素 の 1つであること。
6.ハ ー ドウェア, ソフ トウェアの新 しい技術 や会計情報 システム論 お よ び会計学,情報理論 ,行動科学 な どの関連諸科学の新 しい成果 を取 り入 れることが可能 なオープ ンシステムであること。
7.ハ ー ドウェア, ソフ トウェアお よび人的資源が有機 的 に結 びつけ られ
会計情報 システムのサ ブシステム と複雑適応系 149
ていること。
以下では(1)か ら(4)のサブシステムについて考察 し, これ らのサブシステム 5)
がマ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系 であ るこ とを示す。その際,非線形性 , 特 に数量化で きない場合の非線形性 については
,
「線形性 を広 く,
F入力 と出 力の間における一義的な決定性や比例性』 と解釈 し,非線形性 を F入力 と出 力 との間における上述の線形性 をもたない,柔軟で多義的な反応』 と解釈す 12 )
る
。
」 とい う立場で扱 う。(1)帳簿管理サブシステム
(∋非線形性
このサブシステムは取引デー タベースの中のデー タか ら会計取引 を識別す る機能 を備 えてお く必要があるが,何 を会計取引 とするかはその企業の会計 処理の基準お よび会計 に対す る要求 によ り異 なる。 また,識別 したデー タの 中か ら何 を抽 出す るかは,企業が会計 に要求す る情報の質によ り異 なるので,
13)
業種,経営環境,経営者の方針が色濃 く影響す る。 したが って,かな り多義 性 を もち (た とえば,経営者が変 われば同 じ状況で も異 なる判断 をす る), 非線形性 と判断で きる。
② スキーマ
このサブシステムのスキーマは会計取引の識別,会計取引デー タの抽出か ら帳簿の作成,会計処理の基礎 となるデー タベースの管理 までの一連の操作 体系である。 ソフ トウェアやハー ドウェアの進歩や操作結果の良否 によ り, スキーマは改善 されてゆ くことになる。
150 国際経営論集 No.21 2(氾1
(2)会計報告サブシステム
①非線形性
このサブシステムには,財務会計報告 と業績評価会計報告の2つがある。
財務会計報告 は商法会計,証券取引法会計,税法会計 の3つの法規 による 会計報告書の作成が第一の仕事であるが,すべ ての会計報告 をこのサ ブシス テムが行 うのではな く, どこまで をこのシステムで作成す るか を決めねばな
14)
らない。 したが って,多少の 自由度 はあ り,多義性 (人によ りどこまでの書 類 をつ くれば よいか を決定する際 に差がでる可能性がある) も多少 はある と 思 われるが,かな り線形 に近い システムである。
業績評価会計報告 を考察す る前 に,原価計算 について述べ てお く。 2の (2)で原価計算 をどの システムで扱 うか を考察 したが,本稿 ではこの業績 評価会計報告 に原価計算 システムをお くことにす る。 この とき,業績評価会 計報告 には,責任会計,標準原価計算,直接原価計算,社内金利 ・社内資本
15)
金,支配的企業か らの要請 による会計報告 などが含 まれるが, ここでは標準 原価計算 をとり上げる。標準原価計算が成功す るか どうかは,設定 された標 準がいかに正 しいかにかかっている。 したが って,統計 的かつ科学的に調査 を行 ない, また,会計上の記録 も加味 して設定 される。そ して,差異 を計算 するのであるが, どの ような差異 を計算するかは企業 ごとに異 な り,一律 と い うわけではない。 ここに多義性 の生 まれる可能性がある。 この ことは,人 がかわれば どの差異 を計算するかがかわる可能性 も示 してお り, さらに多義 性が増す ことになる。 したが って,多少 な りとも非線形性 は存在することに
なる。
② スキーマ
このシステムのスキーマは業績評価の方法 とい うことになる。現在,活動 基準原価管理や品質原価計算,ライフサ イクル コステ ィング,あるいは環境
会計情報 システムのサブ システム と複雑適応系 151
原価計算 などさまざまな手法が開発 され,これ らが新 たなスキーマになろう としているところである。
(3)予算編成サ ブシステム
(∋非線形性
予算の編成 に関 してはシュ ミレーシ ョンの提供 とい う重要な役割が 情報 シ ステムには存在す るが,いずれに して も,経営者の承認 を必要 とす るので, 経営者の意向 を多少 な りとも受けず にはい られない。経営者の判断がはいる
とい うことは,人がかわれば異 なる可能性があ り,そ こに多義性 の生 まれる 余地がある。 また,総合予算 は企業の全体最適化 をめ ざ して編成 されるが, 会計情報 システムが与 える情報が増加 し, また,シュ ミレーシ ョンの回数が 増加 して も,それに比例 して全体最適化が よ り達成 しやす くなるかは一概 に はいえないので,厳密 な意味での比例性 は成立 しない と思われる。 したが っ て, このサ ブシステムは非線形 システムである。
(参スキーマ
このサ ブシステムのスキーマは予算編成 にかかわる技術 とい うことになる が,本稿 では経営者 もこのシステムの一員 と考 えているので,経営者 にとっ てのスキーマ も存在す ることになる。経営者の予算編成サブシステムに関す るスキーマは,過去の経験や学習 に基づ き形成 される予算 に関す る判断の処 方毒 とい うことになる。
(4)意思決定サブシステム
(∋非線形性
経営者の戦略的な意思決定 を伴 う本 システムでは,仮 りに経営者がかわれ 152 国際経営論集 No.21 2CK)1
ば同 じ状況で も異 なる決定がなされるとい う意味 において多義性が生ず る可 能性がある。 また, このサブシステムが提供す る情報が増加 し,各種 シュ ミ
レーシ ョンの回数が増加 した として も,それに比例 して意思決定の正確 さが 増すか どうかはわか らず,厳密 な意味での比例性 は成立 しない と思 われる。
したがって, このシステムは非線形である。
(参スキーマ
このサブシステムのスキーマは意思決定 にかかわる各種 の技法 とい うこと になるが,経営者 にとってのスキーマは,予算編成 システム と同様 に,過去 の経験や学習 に基づ き形成 される戦略的意思決定 に関す る判断の処方毒 とい うことになる。
4.
おわ りに本稿 では,会計情報 システムのサブシステムを考察 し,サ ブシステムがマ レー ・ゲルマ ンの複雑適応系 にな りうることを示 した。マ レー ・ゲルマ ンの 複雑適応系の集合体が, ジ ョン ・ホラン ドの複雑適応系 にあたるので,本稿 では,会計情報 システム全体が ジ ョン ・ホラン ドの複雑適応系 にあたること を示 したことに もなる。すでに,注2)において,会計情報 システム全体が ジ ョン ・ホラン ドの複雑適応系 になることは示 してあるが,本稿の結果 は注2) の結果 とも合致する。
これ らのサブシステムが どの ように相互作用 しあって創発が生 じるのか と い うことは今後の課題である。
注
1) 荒井義則 (1999)「会計情報システムと複雑系に関する一考察」神 奈 川大 会計情報 システムのサ ブシステム と複雑適応系 153
学経営学部国際経営論集,第18号,25頁。
2)荒井義則 (2000)「会計情報 システム と複雑適応系 に関す る一考察」神奈 川大学経営学部国際経営論集,第19号,75頁。
3)荒井義則 (2000)「複雑適応系 と しての会計情報 システム」神奈川大学経 営学部国際経営論集,第20号,113頁。
4) 複雑系の概念 については注1)お よびそこに掲げ られた文献 を参照。
5) MurrayCell‑Mann(1994)TheOuaukandtheJaguaT,W.H.Freeman&Co., New York(マ レー ・ゲルマ ン,野本陽代 [訳]「クオークとジャガー」草思 社)。
MurrayCell‑Mann(1994)"ComplexAdaptiveSystems",G.Cowan,D.Pines andD.Meltzer(Eds.)Complexity:Metaphors,Models,andRealL'ty,A ProceedingsVolumeintheSantaFelnstituteStudiesintheScienceof Complexity,Vol.)江X,Addison‑Wesley.
6) JhonH.Holland(1992),Adaptatl'onL'nNatLITalandArtJ'fL'cL'alSystems,The MITPressinCambridge,Massachusetts(ジ ョン ・ホラン ド,嘉数倍昇 [監 訳]「遺伝 アルゴリズムの理論」森北出版)。
JhonH.Holland(1995)HiddenOrder,Addison‑Wesley.
ジ ョン ・ホ ラ ン ド,徳永幸彦 [訳](1997)「遺伝 的アル ゴ リズム」,合原一 幸 [編]別冊 日経サ イエ ンス 「複雑系が ひらく世界」 日経サ イエ ンス社。
7) Self‑OTganL'zatJ'onandComplexJlty,oxfordUniversityPressInc.(スチュア ー ト ・カウフマ ン,米沢富美子 [訳] F自己組織化 と進化の理論』 日本経済 新聞社)。
8) 「カオスの縁」 については以下の文献 を参照。
井庭崇,福原義久 (1998)F複雑系入門jNTT出版,92‑94頁。
Kauffman,op.°it.
ChristopherG.Langton(1991),"LifeattheEdgeofChaos",ArtiilcjalLLfeII,A ProceedJ‑ngsVolumelntheSantaFeInstl'tuteStudL'eslntheScJ'enceof Complexlty,Vol.X,Addison‑Wesley.
ChristopherG.Langton(1990),"ComputationattheEdgeofChaos:Phase TransitionsandEmergentComputation",PhysL'caD42,12‑37,EIsevier Science.
wentianLI,NormanH.Packard,andChristopherG.Langton(1990) TransitionPhenomenainCellularAutomataRuleSpace",myslcaD42,12‑37,
154 国際経営論集 No.21 2001
EIsevierScience.
田中三彦,坪井賢一 (1997)F複雑系の選択j ダイヤモ ン ド社。
9) 「ゆ らぎ」 については以下の文献 を参照。
田口恭毅 [著],涌田宏昭 [編著] (1999)F複雑系の経営学j第2章 「複雑 系研究の諸概念 と経営」税務経理協会,36頁。
同上書,43頁。
北原貞輔,伊藤重行 (1988)「"ゆ らぎ" とは何か」 オフィス ・オー トメーシ ョン,Vol.9 No.1,26‑32頁。
10) 田宮治雄 (1994)『会計情報 システムの機能 と構造』中央経済社。
ll)上総康行,上古融 (2000)F会計情報 システム』 中央経済社。
12) 牧野丹奈子 (1997)「複雑系 と しての 自立分散型組織」桃 山学院大学経済 経営学論集39巻 第1号,63頁。
13) この部分は文献10),105頁 をもとに した。
14)この部分は文献10),113頁 をもとに した。
15) 田宮,前掲書,129頁。
(謝辞 )
い ろい ろな面 で ご助 力 をい ただい た神 奈 川大学経 営 学部教授 柳 田仁 先生並 び に産能大学教授 井上和 彦先生 に心 よ り感 謝 の意 を表 します。
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