ゼ ロエ ミッシ ョンと複雑適応 系に関す る一考察
ゼ ロエ ミッシ ョンと複雑適応系に関す る一考察
A
study
on
Zero Emissions and
Complex
Adaptive
Systems
荒井義則
ARAI YoshlDo五In
this paper, we provethat
Zero Emissions are Complex Adaptive Systems.は じめに
近年、地球環境問題 の深刻化に ともなって、いろいろな分野で環境問題に対する取 り組 みが進んでいるが、経営学の一分野であるマーケティング論においても環算を考慮 した環 境マークティングの研究が進展 してい る。Dυ 前々稿9に
おいては、環境マークテ イング を複雑適応系 とい う観点か ら考察 し、また、前稿 。においては、環境マーケテイングにお ける循環型システムの構築とい う面に着 日し、オー トポイエーシスとい う観点か ら環境マ ーケティングシステムを解析 した。 これ らの論文においては、環境マーケテイングシステ ム全体を考察の対象 としたが、本稿においてはその部分 システムである「ゼロエ ミッシ ヨ ン」'0に
ついて複雑適応系の観点から考察する。前々稿 。 において、環境マーケテイン グシステムは部分 システム として複雑適応系を含む複雑適応系であると指摘 したが、個々 の部分システムの詳細については考察の対象 としなかった。本稿では重要な部分システム である 「ゼロエ ミッション」システムを考察の中心にすえる。 なお、本稿 (前稿)に
おける環境マーケティングの定義は以下のとお りである。 地球環境保全 を第一 とし、環境を悪化 させない とい う条件のもとで、 「願客満 足」 と「企業の利益Jを
最大化 し、持続的発展が可能な社会 を実現す るための企業、消費者、政府、地方公共団体の協同活動。 この定義では 「顧客満足
Jと
f企業の利益」 を 「地球環境 の保全」に優先 させ ない とし てお り、短期的には企業や消費者 にとつては不利益 となる場合 もあるが、その場合 で も長 期的には企業にとつて も消費者に とっても利益 となる。 本稿においては、第2節
でゼ ロエ ミッションについて考え、第3節
で複雑適応系 との関 連 を考えるが、第2節
においては環境物理学的な観点か らゼ ロエ ミッシ ョンを考案 し、ゼ ロエ ミッション成立の可能性 を探 る。 ヽ ヽ ヽエ
ロゼ
2 ッ シ ョ ン2-1
ゼ ロエ ミッシ ョンの定義 「ゼ ロエ ミッシ ョン」は1994年
に国連大学が提唱 した概 念で、文字通 りERす と「廃棄 物ゼ ロ」 とい うことになるが、「循環型社会 自書 (平成16年版)」 つ では次 の よ うに定義 され てい る (174頁)。 ある産業の製造工程か ら出る廃棄物を別の産業の原料 として利用することによ り、廃棄物の排出 (エミッション)を
ゼ ロにす る循環型産業システムの構築を目 指す もの。国連大学が提唱 し、企業や 自治体で取組が進んでいる。 ゼ ロエ ミッシ ョンは上の定義にもあるように、企業や自治体で実際に取 り組まれている。ゼロエミッションに取り組んでいる企業や自治体には
①
内陸工業団地
0②
国母工業団地 0
③
北九州エコタゥン事業
00
④
川崎ゼロエミッションエ業団地 。
⑤
藤沢エコイングス トリアルパーク0
⑥
本庄国際リサーチパーク0
⑦
ゼロエミッション屋久島プロジェクト0
-180-ゼ ロエ ミッシ ョン と複雑 適応 系 に関す る一考察 な どがある。
2-2
環 境 物 理 学 の観 点 か ら1019
ゼ ロエ ミッシ ョンといえども、物理学の基本法則 には当然従 う。ゼ ロエ ミッシ ョンで扱 うのは物質 とエネルギー とい うことになるが、これ らは当然の ことなが ら熱力学の第二法 則 に従 う。熱力学の第二法則はエン トロピーの増大則であ り、 この法則を考慮すると、ゼ ロエ ミッシ ョンは原理的には不可能であることが指摘 されている。lD 19ェン トロピー学会 が提唱す る 「循環型社会を実現するための20の
視点Jl。 の6番
目において も 技術はエン トロピーの法則 に支配 され る。 とあ り、 生産活動は、資源 とエネル ギーを用いて、人間に有用な (多くの場合エ ン トロ ピーを減少 させた)製
品を作 り出す。 しか しその結果 として同時に、有用性 の低 い高エ ン トロピーの廃物を必然的に作 り出す。これは避けることのできない法則 である。多様 な生態系に頼 らずにすべての廃棄物を人為的に元に戻す 「逆工場」 や 「ゼ ロエ ミッシ ョン」は原理的には不可能である。 と解説 されている。物理的にはゼ ロエ ミッシ ョンは原理的に不可能である。2-3
ゼ ロエ ミ ッシ ョンの 可 能 性 「ゼロエ ミッシ ョンのガイ ドライン (国連大学ゼ ロエ ミッシ ョンフォーラムブ ック レッ ト)」 。 によると、 「ゼロエ ミッション」は単に廃棄物をゼロにするとい うだけでなく、 モノを大切に使 う、製品を作る場合は長持ちする製品を作る、使い終わった製品はリサイ クル させて何度 も使 うな ど、有限な地球を前提に した新 しい文明創造を目指すための用語 として使用 されている。10さ らに、ゼ ロエ ミッシ ョン実現のための6つ
の守 るべき行動原 貝Jが掲げ られている。10再生可能な資源 は、再生 され る資源量を上回って消費 しない。 再生不可能な資源は、資源の生産性 を向上 させ るとともに、再生可能でク リーンな代替資源 を開発 し、その生産量に見合 う範囲でなら消費できる。 自然界の許容限度 を超 えて廃棄物 を放出 しない。 経済活動、 日常生活の場で、できるだけ脱物質化 を図る。 地上ス トック資源の有効活用を図る。 環境 コス トを内部化 させ、環境効率の高い市場経済をつくる。 また、ゼ ロエ ミッシ ョン社会 を構築す る為の具体的な
5つ
の方法 も掲げている。1つ 製 品設計革命 (使われ た原料 をすべ て完成品の中に組 み入れ廃棄物 を出 さ ない設計 に近づ ける) 産業 クラス ター革命 (廃棄 物 を資源化す る産業集団の形成) エネル ギー革命 (化石燃料 に代わ るク リー ンで再生可能なエネル ギー の開 発) ④ バ ッズ課税、グッズ減税を基調とする税制革命 (環境税の導入など ) ⑤ ライフスタイル革命 (大量生産、大量消費、大量廃棄からの転換) 上記の「6つ
の行動原則」や 「5つ
の方法」を見ると、「ゼロェミッションJは
単に「廃 棄物ゼロJと
いうだけでなく、かなり広い意味で使われていることがわかる。ここでは行 動原則の②と方法の③に着目する。行動原則② も方法③もエネルギーに言及 しており、そ の主張するところは、化石燃料に代わる太陽光発電、風力発電、バイォマス発電などのク リーンで再生可能なエネルギーの開発 と普及である。 「2-2」
ではゼロェ ミッションは原理的には不可能であるという結論であった。この 結論は熱力学の第二法則に基づいてお り、廃棄物を次々に原料として使用 し廃棄物を出さ ないシステムを作ることは可能であるが、そのためには新たなエネルギー源を必要とする とい うことである。 しかしながら、ゼロェ ミッションはエネルギーについても考慮 しており、太陽光発電な どのクリーンで再生可能なエネルギーの開発 と普及を主張している。現状では太陽光発電 などが化石燃料の代わ りをできる状態からはほど遠いが、太陽光発電などを通 じて太陽エ ネルギーをより有効に使えるようになれば、廃築物を次々と原料として廃棄物を出さない システムに必要なエネルギー問題 も解決される。10国
連大学が提唱するゼロエ ミッション ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ① ② ③-182-ゼ ロエ ミッシ ョン と複雑適応 系 に関す る一考察 は 「廃棄物ゼ ロ
Jと
「太陽エネルギーなどの開発、普及」を合わせ持つ概念であ り、 した がつてほぼ問題 のないゼ ロエ ミッシ ョンシステムを提唱 していることになる。すなわち、 原理的には不可能であるが、現実的にはほぼ問題のないシステムを提唱 していることにな り、ゼ ロエ ミッシ ョンシステムは可能であるとい うことになる。ただ、現状ではこのよう なシステムの実現はかな り難 しく今後 さらに研究開発を続ける必要がある。3.複
雑 適応 系 か ら見 たゼ ロエ ミッシ ョン
3-1
複雑適応系
ここでは、ジ ョン・ ホラン ドの複雑適応系を考える。ジョン・ホラン ドは複雑適応系を4つ
の基本的属性 (集合的特性、 フロー、非線形性、多様性)と
3つ
のメカニズム (タグ 付け、内部モデル、積木)を
もつシステム として定義 している。192D(1)集
合的特性 ジ ョン・ホラン ドの複雑適応系はエージェン トと呼ばれる多数の構成要素によってシス テムが形成 されているが、それ ら多数のエージェン トが関与 して現れる集合的な特性のこ とを 「集合的特性」 と呼んでいる。 ② フ ロ ー 複雑適応系は生物の情報を処理す る機構 をもとに して考えられたシステムであるので、 フロー とはエージェン ト間の 「情報の流れJを
意味す る。 C31 非線形性 数学的な非線形性 と同 じ意味である。0
多様性 複雑適応系を構成す るエージェン トの多様性のことを意味する。(5)タ
グ付 け システムにつけられ る一種の標識の ことである。 これ をもとに してエージェン トが集団 を組織 して複雑適応系が成立す る。(6)内
部モデル 複雑適応系は環境か ら得 られた情報 より規則性 を抽出 し、それ を圧縮 して、その圧縮 し た ものをもとに して行動す る。 この圧縮 した ものを内部モデル とい う。2',231(7)積
木 エージェン トが行な う行動の うち、よく使われる行動 を保存 しておき、それ らを「積木」 のよ うに組み立てて行動をおこす ときに用いる。3-2
複 雑 適 応 系 と して の ゼ ロエ ミッシ ョン 以下では、ゼ ロェ ミッシ ョンシステムがジ ョン・ ホラン ドの複雑適応系であることを示 九(1)集
合的特性 ゼロエ ミッシ ョンを構成す るエージェン トは企業 (所属 してい る人間も含む)、 地域住 民、地方公共団体 (所属 している人間 も含む)が
中心 となるが、 これ らのエー ジェン トが 協力 し合っては じめてゼ ロエ ミッシ ョンは完成す る。ゼ ロエ ミッシ ョン自体が集合的特性 となっている。 C21 フロー フローは情報の流れであるが、ゼ ロエ ミッシ ョンを構成す るエージェン ト間に多種多様 な情報の流れが存在す るのは当然である。 この情報の中で特に重要なのが、各企業が排出 す る廃棄物の情報である。有害廃棄物 を排出す る場合 、情報の公開をため らう企業 も存在 しかねないが、排出す る廃棄物の情報 を100%公
開 しないかぎ リゼ ロエ ミッシ ョンは成立 しえない。 「排出す る廃棄物情報Jの
完全公開ができるか否かがゼ ロエ ミッシ ョンの成否 を決める最大の要因である。-184-ゼ ロエ ミッションと複雑適応系に関する一考察
(3)非
線形性 今 までは大量に生産すれば大量の廃棄物が排出 され るとい うことが当然の こととして行 われ てきた。 これ は大量生産、大量消費、大量廃棄 とい う社会 システムにもささえられて きた。しか しなが ら、今後はこのようなシステムを続 けることが不可能 となつてきてお り、 ゼ ロエ ミッシ ョンシステムが登場 してきたのである。 ゼ ロエ ミッシ ョンシステムは生産量にかかわらず廃棄物 をゼ ロにす ることを目標 とす る システムであるので、生産量 と廃棄物の間には線形性 が成立す る (生産量にかかわ らず廃 棄物がゼ ロであれば、値がゼ ロとい う定数関数 となるので、線形性が成立す る)。 しか し なが ら、 どのよ うなゼ ロエ ミッシ ョンシステムを構築す るかは、仮 に同 じ条件であつた と してもそのシステムに属す る人間が異なれば異なるシステムを構築す る可能性 があ り、そ の意味では多価性 (同じ条件でもい くつかの結果が起 こ りうる)を
有 してお り (数学的 に は多価関数 となつてお り)、 単純な線形システム とは とらえに くい。 システムの構築 自体 に多価性を有 し、システム構築後の意思決定にも人間が異なれ ば意思決定 も異なるとい う可能性を有している
(意思決定にも多価性がある)の で、単純な線形システムではなく、
したがつて非線形 なシステム ととらえることができる。241(0
多様性 ゼ ロエ ミッシ ョンシステムを構成す るエージェン トは企業、企業 に属す る人間、地域住 民、地方公共団体、ゼ ロエ ミッシ ョンを推進お よび管理す る組織 、大学、地元の経済団体 な ど多種多様 である。0 (51 タグ付 け ゼ ロエ ミッシ ョン自体が標識 の役割 を果た していると思われ るが、 「北九州エ コタウン 事業」、 「川崎ゼ ロエ ミッシ ョンエ業団地Jと
いつた具体的な名称が標識の役割 を果た し ていると考え られ る。0
内部モデル ー般的なガイ ドライン0お
よびマニュアル 。 が発表 されているので、内部モデルの中心 となるものはすでに存在 している。 このガイ ドラインやマニュアル をもとに して、各ゼ ロ エ ミッションシステムが自身のシステムに適す るよ うに作成 した ものが内部モデル となる。(7)積
木 ゼ ロエ ミッシ ョンが進行す るに従い、いろいろ具体的な方法が考案 され、よく使用 され る方法や技術が集積 されてゆ く。 この よ うな方法や技術が積木 となつて、いろいろな面 に 用い られ るよ うになる。積木は各ゼ ロエ ミッシ ョンシステムで異なるが、他のシステムの 積木 を参考に して 自身のシステムの積木 とす る場合 も存在す る。 以上の(1)‐C71によ り、ゼ ロエ ミッシ ョンシステムはジ ョン・ホラン ドの複雑適応系 とな っていることが示せた。また、ゼ ロエ ミッシ ョンシステムは 「スキーマを持つ非線形 シス テム」であるか らマ レー・ グルマンの複雑適応系であることも同時に示せた。ゼ ロエ ミッ シ ョンシステムはエージェン トとして企業、地方公共団体、大学な どを含み、それ らのエ ージェン トはエージェン ト自身がジ ョン・ホラン ドの複雑適応系 となつていることが多い。 したがって、ゼ ロエ ミッシ ョンシステムはジ ョン・ ホラン ドの複雑適応系をエージェン ト として含む複雑適応系 とい うシステムになつている。4. お わ り
│こ 本稿ではゼ ロエ ミッシ ョンの成立の可能性 にふれ、 さらにゼ ロエ ミッションシステムが 複雑適応系であることを示 した。複雑道応系には適応度やカオスの緑 といった問題が生 じ て くるが、これ らとの関連 については今後の研究課題 としたい。注
西尾チツル『エコロジカル・マーケティングの構図』有斐閣、1999. 大橋照枝『環境マーケティング大全』麗澤大学出版会、2002。 荒井義則 「環境マーケティングと複雑適応系にDEする一考察J神奈川大学経営学部『 国際経営論集』 第26号、 43頁、 2003。 荒井義則 「環境マーケティングとオー トポイエーシスに関す る一考察」神奈川大学経営学部『 国際経 営論集』第 27号 に掲載予定。 三橋規宏『ゼロエミッションのガイ ドラインJ海象社、2001。 D D 9-186-ゼ ロエ ミッシ ョンと複雑適応系に関する一考察
0
ゼロエ ミッシ ョンマニュアル作成委員会『 ゼロエ ミッションマニュアルVerl』 海象社、2∞ 3年。7)環
境省編『 循環型社会自書平成 16年版』株式会社ぎょうせい、211t140
末吉興―『 北九州エコタウンゼロエ ミッシ ョンヘの挑戦』海象社、20029
屋久島プロジェク ト ヮーキンググループ『 ゼロエミッション屋久島プロジェク ト』海象社、2tll14 101 勝木渥『 物理学に基づく環境の基礎理論』海鳴社、1999。 11)エン トロピー学会編『 r循環型社会」を問 う』藤原書店、2001.19
エン トロピー学会編『 循環型社会を創 るJ藤
原書店、2003年 。 13)中山正敏『 環境システムとエン トロピー』 (放送大学大学院教材)日 本放送出版教会、2003.10文
献 12)266頁 あるいは文献 13)197貢 。19文
献D6頁
161文献 う9頁 17)文献 5)19頁10太
腸エネルギーを使 うにしても熱力学の第二法則に従 うのは当然であるが、太陽エネルギーをエネル ギー源 とするゼロエ ミッションシステムが構築できれば、ほぼ問題のないゼ ロエ ミッションシステム が完成する。191 」ohn H HOuand,昴ddθ/ο滋 4 Add180n WeSley,1995
20
日中三彦、坪井賢―『 複雑系の選択』ダイヤモン ド社、1997。21)井
庭崇、福原義久『複雑系入門』Nrr出
版、1998.2"
マ レー・グルマンはこの圧縮 したものを「スキーマJと 呼んでいる。マ レー・グルマンはジョン・ホ ランドの複雑適応系 とは別の複雑適応系を定義 している。マレー・グルマンは複雑適応系を「環境か ら得られる情報 よリスキーマ (内部モデル)を蓄積 し、そのスキーマをもとに行動する非線形なシス テム」と定義 している。ジョン・ホラン ドの複雑適応系はマレー・グルマンの複雑適応系が多数集ま つて構成 されたシステムと考えられる。マレー・グルマンの複雑適応系については文献23)を参照 さ れたい。20 M―
ay ceu‐Mall.l,COllplex Adaptlve Systellls,C COwan,D PInes and D Melt7er IEDS] a。例凛嗜グ,を匈りZα,MMtta2ど
あ 』 ″ βπS"出
“I●働θ長ゴθz“″ の 列雄燿妨 PrOC VOL 駆 ,AddlsOn We●ley,1994