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川崎病心筋虚血診断における“Gold Standard”Pure Gold? 日本大学小児科 能登 信孝

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日本小児循環器学会雑誌 13巻1号 37〜39頁(1997年)

<Editorial Comment>

川崎病心筋虚血診断における Gold Standard Pure Gold?

日本大学小児科 能登 信孝  川崎病に限らず,心筋虚血に対する診断のアプローチの第一歩は冠動脈造影検査(CAG:coronary angio−

graphy)である.この侵襲的にしか施行できない検査法は,現在も非侵襲的な検査法の gold standard と して位置付けられている.しかし,この一般的に認められているCAGにおいても診断上問題がないわけでは

ない.

 1.冠動脈造影法の問題点

 CAGで描出された冠動脈狭窄度(AHA分類での内腔狭小化%)は視覚的に評価され,冠動脈重症度を表わ す指標とされているが,次の二つの条件が証明された場合に限られて適応される.つまり,機能的に重要な側 副血行路やlong segmentの冠動脈狭窄がないという状況下で,①狭窄部の近傍(proximal/distal)が正常冠 動脈形態であること,②狭窄部形態がconcentricでsymmetricalであること,である1).川崎病冠動脈狭窄例

(eccentricな病変が多い)を考えれば,この様な条件を満たす例が極めて少ないことは容易に想像がつく.

 次いで,CAGは冠動脈内腔を映し出す 影絵 であることに留意する必要がある.病変の本体は内腔ばかり か,冠動脈壁自体に変化があることが最近の研究で明らかにされている.CAG上軽微な原局性狭窄として認め られる部分が,血管内エコーでは著しい内膜肥厚と石灰化を伴った高度な病変として観察されることも稀では

ない2)3).

 一方,心筋に酸素需要が元進した際に心筋虚血を誘発しうる冠動脈狭窄度は動物実験から70%以上とされて いる.このため 有意冠動脈病変 は,少なくとも一つの冠動脈において75%以上の内腔狭小化を示す病変と している施設が多い.しかし,CAGでの狭窄度の判定はedge detection systemを使用してもなお検者の intra/interobserver variabilityがあり,この 非病変 と 病変 をある値で区別する方法論自体にも問題が あろう.実際,川崎病の冠動脈病変は75%以上,以下の二通りに区別されるものでなく,その狭窄度は連続し たspectrumを呈しているからである.時間経過により変貌する複雑な冠動脈病変を一つのimaging modality でのみ評価することに無理がある.

 2.冠動脈造影と冠予備能

 CAGの決定的な Achilles heel は, CAGが心筋虚血という現象の形態診断の一部しか評価できず,機能 的診断ができない点にある.心筋虚血の発症には冠動脈病変以外にも心筋および冠微小循環の関与が明らかに されており,心筋と200μm以下の冠小動脈冠細動脈病変は通常のCAGでは評価することが不可能な領域で ある.さらに心筋虚血の誘発は冠動脈狭窄に伴う冠循環の変化,つまり冠予備能(負荷後最大冠血流量/安静時 冠血流量比)の大小により決定される4).しかしこの二つの指標(冠動脈狭窄度と冠予備能)は必ずしも一致せ ず,CAG上高度狭窄にもかかわらず冠予備能が保たれている例や,ほとんど正常冠動脈形態でも冠予備能が低 値をとる例が少数例ながら存在する5).このことは,最大冠血管拡張にあずかる殆どの冠血管が冠小動脈,冠細 動脈であり,また冠血管抵抗の約70%はこの冠微小循環系に存在することを考えればうなずける.

 3.心筋イメージング

 冠動脈重症度を現状で評価できる方法の一一つに核医学的検査法が挙げられれる.この検査法は方法上簡便 で,人為的な結果に対する関与の余地が少なく客観的な検査法である.負荷(運動もしくは薬物)試験を併用 した2°iTl一心筋SPECT検査は種々の施設で施行され,狭窄性病変検出における臨床的有用性が証明されてい る.しかし2° Tl一心筋SPECT検査において,さまざまな原因で 偽陽性 がもたらされる.これは2°]T1が空 間分解能に問題を有し,低エネルギー核種であり,その定量性に問題があるためである6).高エネルギー核種で ある99mTcMIBI(methoxyisobutyl isonitrile),脂肪酸代謝を評価する1231・BMIPP(β一methyl−iodophenyL pentadecanoic acid)や心・筋交感神経機能の画像化を目的とした1231−MIBG(metaiodobenzyl−guanidine)の

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38 (38)

Chest paln

Regional dyssynergy

日小循誌  13 (1),1997

  ↑

Coronary occlusion       Time

 図1 心筋虚血における臨床所見の出現順序

成績が現在蓄積されっつあるが,いずれも心筋虚血の 証拠 をとる検査法に留まらず,機能の領域まで評価 対象を広げつつある.また,より厳密に心筋血流を定量評価できるPET(positron emission tomography)

の有用性は論をまたないが7),いずれの核医学検査も被爆や経済的負担を伴うという短所を併せ持っ検査法で あるため,現状での1st standardとは成りえない.

 4.負荷心エコー法

 冠動脈閉塞実験による心筋虚血のカスケードは(図1)に示す様に,嫌気性代謝の出現から始まり,胸痛の 発症に至るまで進展する.ドブタミン,ジピリダモールやアデノシンによる薬物負荷試験は心筋虚血の誘発に 対する作用機序は異なっているが,同様に有意冠動脈病変の存在下で心内膜下血流の低下による心筋壁厚増大 の欠如と壁運動異常(WMA:wall motion abnormality)を誘発する.心筋虚血の進展様式から言えばこの 変化は心電図によるST以下以前に出現する変化である.この心筋虚血の早期変化を捕え,責任冠動脈病変を 診断する方法が負荷心エコー法の原理である.本法の問題点は病変を検出する手段が人間の視覚にたより,評 価法が半定量的で客観性に欠ける点である.最近の断層心エコー装置の進歩により多分割断面の同時評価

(digital aquisition)やautomated border detection systemなどが可能となり,より客観的に壁運動を評価 することができるようになった.またこの方法は負荷により誘発された心筋虚血の消長を photographic で はなく cinematographic }こ観察し, WMA部位の時間的,空間的広がりから機能的な重症度を評価するこ とが可能である点に特徴がある8)9}.薬物負荷心エコー法による冠動脈病変の診断は十分な鋭敏度と特異度を 持って成人例で臨床応用され,欧米では既に保険適応を得ている.しかし,小児に対する負荷心エコー法の臨 床応用はまだ端緒についたばかりである1°ト :s).冠動脈病変の機能的重症度を評価できるという意味で,本法は CAGと心筋イメージングの中間に位置し,両者の隙間を埋める検査法に相当すると考えられる.

 5.Pure gold?

 小須田論文 Dipyridamole負荷断層心エコー法による遠隔期川崎病の左心機i能 はCAGで改善傾向にある 例においても,ジピリダモール負荷による左室壁厚増加率に異常を認める例が存在することを示し,長期にわ たる経過観察の重要性を述べたものである.方法論としては斬新であり評価されるが,検討例の分類方法(最 近の冠動脈造影での冠動脈径で分類しているため,どの群にも閉塞性病変例が混入),正常対照群での検査陽性 例の多さ(負荷前に18.8%も陽性)やジピリダモール負荷量の妥当性など疑問が残る.まさに Gold standard

を何に置くか,CAGの問題点をそのまま露呈した様に思える.

 今後,種々の洗練された検査法が川崎病に臨床応用されると予想される.いずれの検査法でもその検査法の 適応と限界を十分に考慮し,その患者に対する Gold standard は何か,常に意識しながら心筋虚血診断の 質的向上をはかる必要がある.

      文  献

1)Marcus ML, White CW, Khirkner PT:Isn t it time to reevaluate the sensitivity of non invasive approaches   for the diagnosis of coronary artery disease ?JAm Coll Cardiol l986;8:ユ033 1034

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平成9年1月1日 39−(39)

2)Yock PG, Linker DT: IntravascuIar ultrasound. Lookillg below the surface of vascular disease. Circulatiorl    1990;81:1715−1718

3)Suzuki A, Yamagishi M, Kimura K, et a]:Functional behavior and morphology of the coronary artery walI    in patients with Kawasaki disease assessed by intravascular ultrasound. J Am Coll Cardiol 1996;27:291−296

4)Gould KL, Lipscomb K:Effects of coronary stenoses on coronary flow reserve and resistance. Aln J Cardiol    1974;34:48−54

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6)Schwartz JS, Ponoto R, Petal C l Early redistribution of thallium 201 after temporary ischemia. Circulation    l987;57:332  335

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   1.12

13)Noto N, Ayusawa M, Karasawa K, et al:Dobutamine stress echocardiography for detection of coronary    artery stenosis in children with Kawasaki disease JAm Coll Cardiol 1996;27:1251−1256

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