� �����������
��������������������キ���の��
―ローコストハイリターンな教材の追求―
宮内 稔
本論の要旨
技術・家庭科において授業を展開する上で非常に大きなウェイトを占めるのが教材である。教材の如 何によって生徒の興味,関心や創造性を大きく左右すると言っても過言ではない。また,大量生産大量 廃棄の世の中で生きている生徒にとって「自分で創る,自分の手で作る」ことができる体験をする実技 教科(技術・家庭科)の意味は大きい。
技術・家庭科(技術分野)では教材メーカーから多くの教材が出されており,授業のニーズに応じた
。 ,「 」 , ,
教材が多数販売されている しかし 良いものは高い という例に漏れず 授業展開や生徒の取り組み 作業時間を評価していく上で良いものを考えるとコストが高くなってしまう。
生徒たちにより良い技術を体験させ,創造力を高め,なおかつローコストにしていくことは可能であ るのか。また「安かろう悪かろう」では意味がないので,より適切な評価につなげることができる教材 開発に取り組むとともに,授業がスムーズに流れるように年間指導計画を中心にしたPDSAサイクル を考えた。
PDSAサイクル 年間指導計画 ローコストハイリターン キーワード
1.はじめに
毎年,大津市技術・家庭科部会では,その年に取 り組んだ作品を持ち寄り,作品展に取り組まれてい る。大津市内の各小中学校から力作がそろい,多く の来場者から 「中学生はこんな素晴らしい作品を, つくれるんですね 」と嬉しい言葉をいただいてい。 る。しかし,長年,その作品展に携わっている教員 からは「年々,作品のレベルが落ちていくように感 じる。」「キットのものに少し手を加えただけでは生 徒の創意工夫を引き出すことが難しい 」と心配す。 る声もでている。
授業に取り組んでいくと内容の 「B, 情報に関 する技術」の授業でコンピュータを使うのは,身近 に環境が整っている(パソコンやスマートフォン,
通信環境など)こともあり,それほど抵抗なく入っ ていける生徒が多いのに対し 「C, 生物育成に関 する技術」や「A 材料と加工に関する技術」とな ると「土や泥などで汚れるので嫌だ」,「不器用なの に上手に作品できるかな」などと不満や不安の声が 上がることが多い。
本校生徒もその傾向は強い。学力も高く,学習意 欲もあり,知識理解の部分での座学はよくできるの に対し,実学(実習)となると,鋸などの道具を上 手に使いこなせない,切断面がゆがんだり,釘を打 つときに曲げてしまうなどの失敗がみられ,不器用 だと思い込んでいる生徒が多い。そして,材料や工
具を丁寧に扱えなかったり,刃物類を床に置いてお いても平気である様子を見ると,幼い頃からものを つくる経験が少ないのであろうと推察できる。実際
,「 」 に自宅に家にある道具を聞いたところ ドライバ
,「 」「 ( )」 はほとんどの家にあるものの 鋸 金槌 玄翁 や「鉋」など,いわゆるものづくりの基本的な道具 が家にないと答える生徒が非常に多かった。
身近なところに道具がない,経験がないといった 生徒が初めての事をするのであるから,実習に取り 組む生徒は,ドキドキ感が満載である。経験が少な い,経験がないのならば,まずその第一歩を踏み出 させたい。そして「中学校の時に作ったことあるよ ね 」と思い出せるような作品作りで,安価かつ基。 本的な技能の習得や生徒の創造力が思う存分発揮で きるような学習効果の高い教材と授業展開を意識す るよう心がけた。
2.授業スタイルについて
技術・家庭科では,1クラス40名の生徒を半分
, ,
ずつ20名のグループに分け 同一時間に技術分野 家庭分野の授業を行っている。また,1,2年生で は2時間続きの授業を行っている。
技術室内では20名のグループを4人ずつ5つに
, 。 ,
分け 班としている その少人数である班を活かし 座学における相談や教え合い,実学(実習)におけ る共同作業に取り組んでいる。
授業時数は1,2年生は年間70時間,3年生は 35時間である。ただし,この時数は技術・家庭科 の授業時数であり,技術分野はその半分である。2 年生で35時間しかなく,1週間に1時間である。
3年生に至っては,年間17.5時間で2週間に1 回しかない計算になる。
3年生の授業は1週間に1時間しかないので他の 教科と同じ形での授業であるが,1,2年生の授業 は1週間に2時間続きで設定しており,1時間は座 学を行い,それを元にした実学(実習)を1時間行 うようにしている。これは次の授業までが2週間空 くため,学習の定着をはかる意味もある。
各学年で取り組んでいる内容は下記の通りであ る。
第1学年 A 材料と加工に関する技術
第2学年 C 生物育成に関する技術 B エネルギー変換に関する技術 第3学年 D 情報に関する技術
3.授業の取り組み
今年度は,前年度の授業の取り組みを参考にしな がら学習指導要領の完全実施に向けた取り組みを行 った。
授業においてはPDSAサイクルを利用して見直 しをはかるようにしている。PDSAサイクルは,
事業活動における生産管理や品質管理などの管理業 務を円滑に進める手法の一つであるPDCAサイク ルの「C(Check 」の部分を,より深く知識を深め) るための S Study「 ( )」に置き換えたものである(図 1 。)
図1 PDSAサイクルの概念図
Plan
Do
Study Act
授業におけるPDSAサイクルは,
Plan …年間指導計画 Do …授業実践
Study…反省と内容の深化 Act …改善点の掘り下げ と考える。
この授業サイクルを1年間でどのようにまわすの かについて今年度の取り組み事例を交えて紹介す る。
3-(1)年間指導計画
年間指導計画は,年度当初に1年間の授業につい て見通す大切な計画である。そのため,教材はプリ ントはもちろん,評価についてもきちんと整理され たものでないといけない。
1年間を見渡せるようにするために,表計算ソフ トを使い,製作している。
表計算ソフトを使う利点として次のようなものが 挙げられる。
①指導計画のレイアウトがしやすいこと。
列に項目を,行に時間(月日)の流れで整理す る。表の大きさは大きくなるが,列や行の表示,
非表示やシートを利用することにより,必要なレ イアウトを組むことができる。
②ハイパーリンクを利用することによりプリントや 授業資料との連携をとりやすいこと
プリント類はワープロソフト,資料はプレゼン ソフトを使うなどソフトが異なる。そのため,こ の表が中心となって授業資料や授業内での提示資 料を展開するようにしている。
③セル内にメモ欄を追加できる。
メモ欄を追加することにより,観点別の評価規 準などをすっきりとまとめることができる。
また,1校に1人しか技術分野担当の教員が配置 されていないことが多いため,年間指導計画をみな がら先読みすることはあまりなく,それまでの経験 をもとに,授業の状態に応じて,素早く対応してい たことが多い。しかし,教育実習生を多く受け持つ 本校において,指導観点が一目瞭然であるため,授 業の進度を検討したり,取り組む授業の展望が見え るなどの効果があった。
この表計算ソフトウェアのブックひとつで,授業 の指導案,授業配付プリント,プレゼン資料など授 業に関する大切な資料及び評価材料が全てそろうよ うにしてる。言うならば,この表で,各学年の全て の内容における指導案の骨子が完成するのである。
今年度に作製した,年間指導計画のレイアウトを 紹介する(図2 。)
技 術 ・ 家 庭
図2 年間指導計画のレイアウト 3-(2)SPF材を利用した作品
「ローコストハイリターンな教材 の一例として」 , 1年生 材料と加工に関する技術 分野における S「 」 「 PF材を利用した作品」を紹介する。
「材料と加工に関する技術」は,材料の特徴と加 工法を学ぶ分野である。実習においては,木材,金 属,プラスチックなど取り上げる材料が多岐にわた る。
教材メーカーからも良い教材がたくさん販売され ており,その価格は個人向け教材で1000円~3 000円程度である。この教材費を抑えて,技能を 習得させることができるかを考え 「SPF材を利, 用した作品」に取り組んだ。
SPF材とは,SPRUCE(スプルース・えぞ 松 ,PINE(パイン・松 ,FIR(ファー・も) ) み)の3種類の頭文字をとってつけられた名称であ る。手頃な値段(6フィートで1本300円ほど)
でホームセンターや専門のショップで販売されてお り,すぐに確保できる。
このSPF材を1人1本,グループで4本と技術 室にある材料を利用して「学校で使えるもの」をテ ーマに自由に設計をさせ,取り組ませた。
個人所有の教材とグループ教材のメリット,デメ リットを次の表にまとめる。
表1 個人教材とグループ教材比較 個人教材 グループ教材
・評価をつけやすい ・共同作業になるた
(規準を明確にしや め作業を協力して取 長 すい) り組むことが容易で
・個人が作品を持ち ある。
帰り,家で利用する ・作品を自分たちで ことができる。 自由に設計させるこ 所 ・完成した形が明確 とができるため創造 で,経験の浅い生徒 力を発揮することが は取り組みやすい。 できる。
・コスト(教材費) ・実技評価の際に,
が割高になる。 明確な規準を設けて 短 ・同じものができあ おく必要がある。
がるのでオリジナリ ・個人の技能が見え ティがなくなる事が にくい。
所 多い。 ・作品を持ち帰れな
・個人が必要として い。
いる教材ばかりでは ない。
生徒たちは小学校の図画工作で机の上で取り組め るサイズのものは経験しているが,自分の身長を超 える6フィート(約1820㎜)の材料に圧倒され る。それが1グループ4本あり,その量から「いっ たい何ができるのか」を考えさせ,創造力をはたら かせる。見本として,前年度までの作品を技術室で 保管し使用しており,作品設計の参考となるように している。
設計に際して条件は,
①校内で役に立つもの(使えるもの)であること。
校内であれば技術室にこだわらず運動場,普通教 室などでもかまわない。
②材料はSPF材を1グループ4本以内でつくれる ものにすること。
材の大きさは6フィートの2×4材。希望により 2×4材と交換で1×4材も利用できる。
③技術室内の材は利用しても良い。
とした。
, , ,
①については グループ教材であるため 完成後 作品を持ち帰ることができない。完成した優秀作品 については校内で利用していくのと併せて,次年度 への見本となるようにすることが目的である。
②については,SPF材を1人1本での取り組み
, ,
で グループ教材としてのコストを抑えるとともに 1グループ4人であるため,その限られた中での設 計を意識させるものである。また,技術室にある材 の中には,板材が意外と少なく,2×4材のみでは 仮に椅子を作ったとしてもかなりの重量になるた め,少し薄めの材として1×4材も用意した。体積 比にすると1×4材のほうが少し割高になってしま うが,子どもにとっては薄めの材が使えることによ り,発想の幅が広がったようである。
③については,前年度までの作品を分解,再材料 化したものが大量にある。それらの利用と,作品は 作って終わりではなく,再資源,再材料化すること により何度でも生まれ変わる循環型社会を意識させ るためのものであり,当然,作品が全て残るわけで はなく,前年度と同じく,再材料化されるものも出 てくることの意識付けでもある。
条件に沿って,作品の設計取り組ませたが,それ までの授業の中で製図の方法(キャビネット図,等 角図)を学んでおり,構想を練る段においてはそれ ぞれの思いがしっかりと考えられていたようである
(図3 。また班で相談する際に「あの作品のよう) な形のものに○○をつける」などといったように,
見本を参考にしながら取り組めていた。また,グル ープ内で意見を出し合い,作品の形を考えるように したことも設計をスムーズにした一因と考える。
図3 木材加工構想用紙
作業に取りかかると,2時間続きの授業が有効に はたらいた。
工具の使い方を学んだ直後に実学(実習)を行え るため,作業の取りかかりがスムーズであった。
また,班で取り組んでいるため,班の中で「これ を切って」,「ここを削ってほしい」と生徒間で連携 をとりながら製作に取り組んでいた。
作品完成後は,発表会をおこない,作品の特徴,
, 。
工夫したところ 苦労したところなどを交流させた
, , 製作の段階でお互いに作品は見ているが 完成後 あらためてみると もっと工夫すれば良かった「 」「あ の班みたいに丁寧に仕上げれば良かった」などの声 が上がっていた(図4 。)
図4 指摘された箇所の点検
作品をお互いに評価し合うことにより,自分たち のグループの作品が,よりしっかりと見られるよう になっていた。
3-(3)評価への取り組み
グループ作品では,共同して作品に取り組むため に個人の評価を捉えることが難しい。
今回の取り組みにおいては,作品がグループによ り異なるため,完成した作品を比較して評価をして いくことはできない。また,完成度の善し悪しは,
技 術 ・ 家 庭
グループのメンバー4人のうち3人が技能が高くて も1人の失敗によって大きく異なるため一律,良い 作品イコール技能が高いとすることができない。そ
, ,
のため 取り組みの様子や工具の使い方を別にして 技能面については個別に取り組む実技テストを設定 している。
実技テストは,2回実施した。1回目は材料への けがき作業である。ものづくりはけがきの出来具合 により大きく左右される。そのため,設計図に書か れている寸法が性格に採れているかチェックする方 法である。大きな材料を前にして,1㎜単位の誤差 を指摘されることに生徒は驚いていたが 「正確に, つくる」という意識付けも合わせてできた。
2回目は切断作業である。生徒の設計する作品の 多くが材料を直交して組むものである。また,材料 そのものが大きいこともあり,部品の大きいものが 多い。そこで,切断面がきれいになっているかを評 価した。平らな面に切断面を置き,直角定規の長手 をあてることにより,誤差が何㎜あるかで評価をわ けた。見た目はきれいであっても,いざ直角定規を あててみると垂直に立っていない。小さな誤差が切 断面からも生じていることに気づき丁寧な切断を心 がける生徒が増えた。
実技テストをおこなうので,丁寧な作業をすると いうのは本末転倒である。しかし,自分の技能がど れくらいのものなのかを明確にし,生徒に返してい くことは大切であると考える。
評価全般については,年間指導計画と同じく表計 算ソフトを利用して処理をしている。
日々の授業の中で集まってくる評価材料を観点別 に整理し,スムーズな処理ができるように心がけて いる。
成績処理の工夫としては
①評価項目を起こしやすくしている。
②観点に○を入れるだけで観点毎の合計が計算され るように計算式を組んでいる。
③観点別の合計からA~Cが自動的に記入されるよ うになっている。
④観点により重み付け,割合などが自由に変更が可 能になるようにしてある。
⑤観点別評価から成績が記入されるようになってい る。
⑥観点により成績が重なる場合は手動で1つ1つ確 認して打ち込むようになっている。
成績処理用に組んである表計算ソフトを掲載して おく(図5 。)
図5 成績処理用の表計算ソフト
3-(3)教師の反省
教師にとって,反省はとても重要である。授業を おこなう際には当然のことながらその内容について は十分に勉強し,教壇に立っているはずである。し かし 「○○である 「△△でないといけない」と知, 」 識にとらわれてしまい,柔軟に「××のほうが良か ったかもしれない 「こんな発想があったのか」と」 いうことを気付けるよう,日進月歩する科学技術や 産業の中で,昔からの技術を吸収し,新しい技術に 目を向ける姿勢を持ち続けたい。
技術分野の場合,同じ内容の授業を6回実施する ことができ,授業ごとに考察を加えることにより,
6回の改善をはかることができる。また,同じクラ スが次の授業に入るまでに2週間の時間が入るとい
, 。 ,
うことは それだけの時間が確保できる そのため その授業における反省をじっくりととることができ るのである。
3-(4)改善点の掘り下げ
PDSAサイクルの最後のAct(改善点の掘り下 げ)は,次のPDSAサイクルにつなげ,螺旋を描 くように1周ごとにサイクルを向上(スパイラルア
) , 。
ップ させて 継続的に授業改善をすることである そのため,反省点が出てきた内容で,整理をするこ とが大切である。
反省点で出て来た内容はすぐさま,年間指導計画の 表に戻され,次年度の計画に反映される。限られた 時間内に取り組む授業の中に何を凝縮して何を省く のか,次年度の年間指導計画にまとめられているこ とが大切である。
これがスムーズに行うことができれば,次年度の スタート時には,前年度より良い年間指導計画がで きあがっているのである。
4,まとめと展望
技術分野は,生徒たちが30代,40代になった ときにどのような印象に残っている教科であろう か。多くの人から 「そういえば中学校の時に,本, 立てをつくったなぁ。」「ちりとりを作った覚えがあ
。」 。
る という答えが返ってくるのではないだろうか あるいは「あれは何の授業だったかな」と,教科の 名前すら出てこないかもしれない。
技術・家庭科は実習を多く取り入れることのでき る教科である。今の子どもたちが経験が乏しいと思 われる「材料と加工に関する技術」の分野において は 「作った」という体験は非常に印象に残るので, あろう。今年度,取り組んだ「SPF材を利用した 作品」も「みんなで協力してイスを作ったな」と覚
えてくれているのではないだろうか(図6 。)
図6 作品完成時の様子
作った記憶は残るのに,なぜ教科としての印象が 薄くなってしまうのであろうか。その原因は 「授, 業で何を学ばせるのか」という「中身」と「授業時 数」という物理的な問題があると考える。
今年度,ローコストハイリターンな教材を求めて 取り組んできた。コストは「時間」や「労力」など さまざまな視点があるが,今回は「金額」という形 で捉えやすい視点にした。しかし,大切なのは「ハ イリターン」の部分である。何を生徒たちに返して やる(教える)ことができたかである。
それはもちろん,製作における機能構造,道具の 使い方などであり 「創る,作る」という体験であ, る。しかし,これが家庭に戻ったときにどれだけ使 うだろうか。便利な世の中で,欲しい物はお金を出 せば買える時代であり,不要なものは廃棄し新しい ものを手に入れることが簡単にできる時代である。
ましてや,道具の使い方を覚えても家に使うべき道 具がないのである。
また,今の40代が技術分野だけで週に3時間学 んでいた世代であるのに,圧倒的に学べる時間が少 ない。この時数の少なさのため,学校によっては成 員を置いていない学校も増えていると聞く。
各国を見ると,アメリカでは12年間,中国では 10年間,隣の韓国では6年間も技術に関する授業 に取り組み,産業に関する基本を学生の間に学ばせ るという意識は高い。しかし,日本では産業全般に わたる全ての分野に関係のある内容を,基本的なこ とが中心だとはいえ中学校にいる3年間だけで,し かも週に1回あるかないかの時数である。
技術を学べる環境は現在,厳しい状態にあると言 える。しかし,今の家庭環境に対し必要なをことが 学べ,身につけることのできる教材と 「技術」を, 学ぶ必要性とそれを正しく学び,評価される一歩先 を見据えた取り組みをしていきたいと考える。