結露に着目した鋼箱桁内の調査と熱流体解析
名古屋工業大学 正会員 ○永田 和寿 国 土 交 通 省 牧 耕司 名古屋工業大学 フェロー 小畑 誠 名古屋工業大学 フェロー 後藤 芳顯
1.はじめに
鋼材表面が降雨にさらされない箱桁内において,腐食現象の要因の一つである水分は主として結露として供 給される.そのため,鋼箱桁内における腐食環境を把握するためには桁内での結露現象を明らかにすることが 必要である.本研究では,都市内高架橋箱桁内における結露の発生を調査するとともに,汎用熱流体解析プロ グラムを用いて結露現象に関する解析を行い, 結露解析の腐食環境評価への適用を試みた.
2.箱桁内の結露調査
調査対象は名古屋市内にある3径間連続鋼箱桁橋(図 1)であり2003年より観測を行っている1).当該の箱 桁には一部にボルト接合部のウェブの上部と下部に小さい隙間と下フランジに排水孔がある.さらに,桁外の 計測のためにマンホールはわずかに開いている.そのため,少量ながら外気の流入があり桁内の壁面には結露 と考えられる跡が確認されている(図 2).そこで測定項目は結露現象の把握を目的として,桁内の温度,湿 度,および桁表面の温度とし,10 分間隔で計測を行った.桁内の各種センサの設置位置の例を図 3 に示す.
さらにPHSを用いてIP網に接続し遠隔モニタリングシステムを構築した.
計測結果の例を図 4,5に示す.これらの図はそれぞれ桁下部と上部の温度変化に注目したものである.これ らの図において桁の温度が露点温度を下回ったときに結露が生じたと判定した.桁の温度計測は同一の桁の3 箇所の断面(図1の①~③)で行ったが,それぞれに有意な差がなかったため図 1の断面②の結果を示し,検 討した.全体的には冬季に結露発生条件を満たす回数が多かった.桁内の部位についてみると,桁下部より桁 上部での回数が多くなっており,桁中央部で結露発生条件を満たすことはなかった.1日内の時間帯について 見ると,桁上部では日中の 9:00~18:00 での発生が多いのに対し,桁下部では逆に夜間の 18:00~9:00 にかけ て結露が生じ易く日中に結露発生条件を満たすことはなかった.これは,桁上部は熱容量の大きいスラブに接 しているために温度上昇が他の部位に比べて遅れるためである.一方,桁下部においては夜間の放射冷却のた めに桁下部の温度低下が進むためである.結露の有無は単に温湿度から予想されるだけでなく,同時に設置し
4995 5130 5130 5130 川上側(北)
マンホール
ダイアフラム
観測断面
橋脚
① ② ③
図 1 観測対象
キーワード:鋼箱桁,結露調査,熱流体解析,腐食環境評価
連絡先 〒466-8555 愛知県名古屋市昭和区御器所町 名古屋工業大学
断面② 温湿度センサ 熱電対
断面①
図 3 センサの設置位置の例
0 10 20 30
12:00 0:00 12:00
南側ウェブ下 第2室下部中央 下部露点温度
温度 [℃]
2006/12/9-10
図 4 桁下部の温度変化 図 2 箱桁内の結露跡
桁下部結露
上部
下部 中央部
中央 ウェブ下
露点温度 排水孔
1-023 土木学会第63回年次学術講演会(平成20年9月)
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たACMセンサの腐食電流量でも間接的に確認できた.
3.結露のシミュレーションと考察
次にこのような結露現象を数値解析により再現することを試みた.熱流体解析による結露現象については既 に著者らは微小水滴モデルによる手法を提示した2).しかし,この水滴モデルでは桁との熱のやりとりの扱い がやや複雑になる.そこで,ここでは桁の内部の表面に水の薄膜を配置し,その薄膜の厚さの増減により水分 の結露および蒸発を表現する手法を採用した.これにより桁表面に生じる結露・蒸発および桁本体・水・空気 の熱移動と質量移動を一貫したモデルで解析することができる.数値解析の対象としたモデルを図 6に示す.
図1の断面③を対象として2007年12月29日の12:00~13:00の現象を解析した結果を示す.桁内の温度と 絶対湿度については測定値をもとに時間変化させながら桁内に一様に与えた.また桁の温度については熱電対 の測定値をもとに連続的に時間変化させた.なお,液膜の初期厚さは10-6(m)とし,液膜の飽和水蒸気圧pv(Pa) は次式で与えている.数値解析にはStarCDVer.3.263)を用いた.
( 6096 21 . 24 2 . 711 10 1 . 674 10 2 . 433 ln ( )) , ( ) K
exp T
1 2T
5T
2T T
p
v= − ×
−+ − ×
−× + ×
−× + ×
(1)図 7に解析により得られた液膜厚さ分布を示し,図 8に対応する結露発生箇所付近での腐食電流量の測定結 果を示す.図 7からわかるように解析開始後3600秒後で桁上部において液膜厚さが増加し,桁下部では減少 している.そして桁上部に対応する箇所のACMセンサでは腐食電流量の増加が見られた(図 8).他の例でも 解析を行ったが,液膜厚さと腐食電流量の増減がかならずしも対応していない場合もあった.結露は桁表面の 汚染状態にも影響していることが知られており,それが主な原因のひとつと考えられる.基本的にはこの種の 数値解析によって箱桁内の結露の局所性や結露の持続時間についてもシミュレーションが可能であることが 明らかになった.
本調査を実施するにあたり,名古屋高速道路公社に多大なご協力をいただいた.ここに記して謝意を表す.
参考文献
1) 小畑誠他:熱流体解析による箱桁内の腐食環境シミュレーション,構造工学論文集Vol.53A, pp.834-843,2007 2) 小畑誠他:固気2相流解析による飛来塩分の付着シミュレーション,構造工学論文集Vol.54A, pp.590-598,2008 3) CD-adapco:StarCD Version3.26 マニュアル, 2006
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3
0:00 12:00 0:00 12:00 0:00
腐食電流量
[上フランジ南側]
[上フランジ北側]
解析対象期間
log [I mA]
2006/12/28 12/29 12/30
図 8 腐食電流量
13 14 15 16 17
0:00 12:00 0:00
温度 [℃]
上フランジ南側 上部中央 上部露点温度
2006/11/27
図 5 桁上部の温度変化
南
北
10秒後 3600秒後
図 7 液膜厚の分布と変化
2400
800 800 800
400x6
2400 500 17 300
19 11
13
17 17
(a) セル分割 (b) 寸法
図 6 解析モデル
0 0
0
(mm)
(m)
桁上部結露
降雨
乾燥
南 北 南
北
露点温度 中央
上フランジ南側
結露
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