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はじめに 2016 年 11 月にパリ協定が発効した 予想を上回る速さでの発効であったが パリ協定の発効と同じ 2016 年 11 月に行われた米国の大統領選挙において パリ協定の脱退を公約に掲げていた共和党のトランプ候補が当選し 2017 年に米国はパリ協定からの脱退を決めた しかし 各国からのパ

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(1)

平成

29 年度二国間クレジット取得等のためのインフラ整備調査事業

市場メカニズム交渉等に係る国際動向調査

報告書

平成 30 年 3 月

(2)

i はじめに 2016 年 11 月にパリ協定が発効した。予想を上回る速さでの発効であったが、パリ協定 の発効と同じ2016 年 11 月に行われた米国の大統領選挙において、パリ協定の脱退を公約 に掲げていた共和党のトランプ候補が当選し、2017 年に米国はパリ協定からの脱退を決め た。しかし、各国からのパリ協定への積極的な関与に変化の兆しは変わらず、パリ協定の6 条の下での市場メカニズムの具体的な実施規則について、協議が続けられている。 パリ協定では 6 条において協調的アプローチ等の規定がおかれ、他国で得られた排出削 減量を取引し、自国が決定する貢献(NDC)の目標達成に活用することが認められている。 京都議定書においても他国の排出削減量を自国の目標達成に利用する柔軟性措置、市場メ カニズムの活用が認められていた。このようにパリ協定でも京都議定書と同様な措置が設 けられているものの、パリ協定と京都議定書では、内容が大きく異なるため、京都議定書の 下での実施規則を、そのままパリ協定の下では利用できない。 一方で、我が国は、世界に誇る低炭素技術や製品の普及等を積極的に推進し、世界規模で の地球温暖化対策を進めていくため、低炭素技術(省エネ技術、新エネ技術、石炭火力等) の普及等による温室効果ガスの排出削減を適切に評価する新たな仕組みである「二国間ク レジット制度(以下、JCM)」の推進のため、積極的な取り組みを実施している。 2020 年以降、JCM の今後のあり方を検討する上で、パリ協定の下での市場メカニズムの 実施規則の協議の動向、特にダブルカウントの回避を含むアカウンティング方法の動向は 無視できないものである。 また、国際的に見ると世界銀行の下での変革的炭素資産ファシリティー(Transformative Carbon Asset Facility、TCAF)、市場メカニズム導入準備基金(Partnership for Market Readiness、PMR)や、G7 の下で実施されている炭素市場プラットフォームなどの市場メ カニズムに関連する様々な取組みが実施されている。これらの取組みは、今後の国際社会に おける市場メカニズムに関する取組みに大きな影響を及ぼす可能性もある。 そこで本調査では、パリ協定の下での市場メカニズムの交渉の動向を調査し、交渉の上で の論点、各国の立場を明らかにした上で、各論点での各国の対立構造を分析するとともに、 世界銀行の取組みの現状を調査し、JCM を含む市場メカニズムを活用した GHG 排出削減 の在り方を分析した。 本報告が、パリ協定の下での市場メカニズムに関する協議やJCM の有効活用に向け貢献 するとともに、JCM における制度運用の参考となれば幸甚である。 2018 年 3 月 (一財)日本エネルギー経済研究所

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ii

目次

(ア) 用語集 ... iv 第1章.2020 年以降の市場メカニズムを巡る国際交渉の動向 ... 1 1. パリ協定第 6 条の交渉論点 ... 1 (1). COP24 において合意が求められる文書 ... 1 (2). 交渉上の論点 ... 2 (3). アカウンティングの重要性 ... 3 (4). 京都議定書とパリ協定の性質の違い ... 3 (5). 「相当の調整」の重要性 ... 4 2. パリ協定第第 6 条に関する各国の見解の整理 ... 5 (1). これまでの交渉の経緯 ... 5 (2). アカウンティングに関する各国の見解 ... 7 (3). 第 6 条 2 項の主要な論点 ... 13 (4). 第 6 条 4 項の主要な論点 ... 16 (5). 第 6 条 8 項について... 18 (6). 各国の見解と今後の交渉の方向性についての分析 ... 19 第2 章. JCM を含む市場メカニズム活用を通じた温室効果ガス排出削減の在り方に関する 調査分析 ... 22 1. JCM の動向 ... 22 (1). JCM における登録済みプロジェクト、クレジット発行の動向... 23 2. 市場メカニズムに関する様々な取組み ... 26 (1). 世界銀行における市場メカニズムに関する取組み ... 26 (2). 炭素市場プラットフォームにおける取組み ... 29 3. JCM を含む市場メカニズム活用を通じた温室効果ガス排出削減の在り方に関する 調査分析 ... 30 第3 章. 海外の市場メカニズムの動向調査 ... 31 1. 国際的な動向(京都メカニズム等の動向) ... 31 (1). 第 13 回京都議定書締約国会合(CMP13)での交渉の動向 ... 31 (2). プロジェクト開発の停止 ... 31 (3). 継続する CER の発行 ... 33 (4). 2020 年までの予想される需要 ... 34 (5). UNFCCC 以外の市場メカニズム(2021 年以降の取組み) ... 36 2. 各国における市場メカニズムの動向 ... 40

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iii (1). 米国における市場メカニズムに関する動向 ... 40 (2). EU における市場メカニズムに関する動向 ... 41 (3). 中国における市場メカニズムに関する動向 ... 43 (4). 韓国における市場メカニズムに関する動向 ... 44 補足資料 ... 46 第93回CDM理事会報告 ... 47 第94回CDM理事会報告 ... 56 第95回CDM理事会報告 ... 68 第96回CDM理事会報告 ... 76 第97回CDM理事会報告 ... 87

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iv (ア) 用語集

 Assigned Amount unit。附属書Ⅰ国に割り当てられた初期算定割当量。  AILAC

The Independent Alliance of Latin America and the Caribbean(独立中南米カリブ諸国 連合)。チリ、コロンビア、コスタリカ、ホンジュラス、グアテマラ、パナマ、ペルー が参加している UNFCCC の交渉グループ。

 ALBA

Bolivarian Alliance for the Peoples of our America(ALBA)。ボリビア、ベネゼエラ、キ ューバ、ニカラグア、エクアドルなどが参加する UNFCCC の交渉グループ。

 AOSIS

Alliance of Small Island States(小島嶼諸国連合)。セントルシア、モルジブ、ツバル、フ ィジーなどが参加する UNFCCC の交渉グループ。

 BAU

特段の対策を行わない場合(Business As Usual)のこと。  CCS

二酸化炭素回収・貯留(Carbon Dioxide Capture and Storage)。発電所や工場等の出源 から分離回収した二酸化炭素を地層に貯留する技術の総称。分離方法には、化学吸収法、 物理吸収法、膜分離法、物理吸着法、深冷分離法、ハイドレート分離法等がある。貯留 方法には、地中隔離法、海洋隔離法、プラズマ分解法等がある。

 CDM

クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism)。京都議定書によって温室効 果ガス排出量の数値目標が設定されている先進国が、数値目標が設定されていない途 上国内において排出削減等のプロジェクトを実施し、その結果生じた排出削減量分の クレジットを先進国へ移転するスキームの総称。

 CER

Certified Emission Reduction。CDM を通じて発行されたクレジット。  CH4 メタン。温室効果ガスの種類で、有機性の廃棄物の最終処分場や、沼沢の底、家畜の糞 尿、下水汚泥の嫌気性分解過程などから発生する。  CMA パリ協定締約国会合。  CMP

京都議定書締約国会合(the Conference of the Parties serving as the Meeting of the Parties to the Kyoto Protocol)。京都議定書の締約国の会合。COP とともに、現在は年 に一度の頻度で開催されている。

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v  CO2 二酸化炭素。温室効果ガスの種類で、石油、石炭、木材等の炭素を含む物質の燃焼、動 植物の呼吸や微生物による有機物の分解等による発生する。一方、植物の光合成によっ て様々な有機化合物へと固定される。  COP

気候変動枠組条約締約国会議(the Conference of the Parties)。気候変動枠組条約の締約 国の会議。現在は年に一度の頻度で開催されている。

 cooperative Approach 協調的アプローチ。6 条 2 項で規定されている市場メカニズム。

 CMP

京都議定書締約国会合  EIG

Environmental Integrity Group(環境十全性グループ)UNFCCC の下での交渉グループ。 スイス、韓国、メキシコ、ルクセンブルグなどが参加。

 ERU

Emission Reduction Unit。共同実施を通じて発行されたクレジット。  ETS

排出権取引または排出量取引制度(Emissions Trading Scheme)。環境汚染物質の排出 量低減のために用いられる経済的手法であり、全体の排出量を抑制するために、国や企 業などの排出主体間で排出する枠(キャップ)を割り当て、枠を超過して排出する主体 と枠を下回る主体との間でその枠の売買をする制度。排出枠の割当方法には過去の実 績に応じて無償で割り当てる方法(グランド・ファザーリング)や必要な排出枠を政府 等から有償で調達する方法(オークション)等、様々な方法が存在する。  EUA

EU アロウワンス(EU Allowance)。EUETS で取引される排出枠。  EUETS

欧州域内排出量取引制度(European Emissions Trading Scheme)。京都議定書上の EU 加盟国の約束を、できるだけ小さい費用で経済的に効率よく達成することを目的とし て、2005 年より欧州域内の EU15 カ国を対象として開始された。順次対象国を拡大し、 現在では EU27 カ国を対象としている。  GHGs 温室効果ガス(Greenhouse Gases)。地表から放射された赤外線の一部を吸収すること によって、温室効果をもたらす気体の総称。京都議定書では、二酸化炭素、メタン、一 酸化二窒素、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、六フッ化硫黄が抑制 の対象となっている。

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vi  HFC

ハイドロフルオロカーボン(Hydrofluorocarbons)。京都議定書の対象ガス。  IPCC

気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)。人為的 な気候変動のリスクに関する最新の科学的・技術的・社会経済的な知見をとりまとめて 評価し、政策決定者に情報を提供することを目的とした政府間機構。1970 年代の異常 気象を契機に、気候変動に関する科学的情報を包括的に提供する必要性が高り、IPCC の設立構想が 1987 年の WMO 総会並びに UNEP 理事会で提案され、1988 年に承認、 同年に IPCC が設立された。  ITMOs 6 条 2 項に定められた国際的に移転される緩和の成果(Internationally Transferred Mitigation Outcomes)のこと。6 条 2 項で下で移転される緩和の成果の単位。  JI 共同実施(Joint Implementation)。京都議定書において、温室効果ガス排出量の数値目 標が設定されている先進国間で排出削減等のプロジェクトを実施し、その結果生じた 排出削減量分のクレジットを投資国側のプロジェクト参加者に移転することができる スキームの総称。  LMDC

Like Minded Developing Country Group(有志途上国グループ)。中国、サウジアラビア などの新興国、途上国で作る UNFCCC での交渉グループ。

 LULUCF

土地利用、土地利用変化および森林(Land use, land use change and forestry)。いわゆ る吸収源。

 MRV

測定・報告・検証(Measurement, Reporting and Verification)。  Modalities and Procedures

様式と手続き。CDM の Modalities and Procedures や6条 4 項のメカニズムの Modalities and Procedures がある。  Non-market Approach 非市場アプローチ。パリ協定 6 条 8 項で規定されている取組み。  N2O 亜酸化窒素。燃焼、窒素肥料の使用、化学工業(硝酸などの製造)や有機物の微生物分 解等によって発生する温室効果ガス。  NF3 三ふっ化窒素。京都議定書の対象ガス。第 2 約束期間から追加された。

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vii  PFC

パーフルオロカーボン(Perfluorocarbons)。京都議定書の対象ガス。  REDD

森林減少・劣化による排出の削減(Reducing Emissions from deforestation and forest degradation in developing countries)。

 RMU

Removal Unit。吸収源活動によるネットの吸収量として発行されたクレジット。  SB

COP および CMP の補助機関(Subsidiary Body)。科学上および技術上の助言に関する 補助機関(SBSTA : Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice)、実施に関 する補助機関(SBI: Subsidiary Body for Implementation)などがある。

 SBI 実施に関する補助機関  SBSTA 科学上および技術上の助言に関する補助機関  SF6 六フッ化硫黄。京都議定書の対象ガス。  UNFCCC

国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change)。地 球温暖化問題に対する国際的な枠組みを設定した条約。

 京都議定書

Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change。先進 国の温室効果ガス排出量について、法的拘束力のある数値目標を各国毎に設定。国際的 に協調して、目標を達成するための仕組み(排出量取引、クリーン開発メカニズム、共 同実施など)を定めている。一方、途上国に対しては、数値目標などの新たな義務は導 入していない。  京都メカニズム 京都議定書目で定められた標達成のための温室効果ガス削減プロジェクト(共同実施、 クリーン開発メカニズム)や排出量取引の総称。  附属書 I 締約国 UNFCCC の附属書に掲げられた国(主に先進国)。

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1

第1章.2020 年以降の市場メカニズムを巡る国際交渉の動向

1. パリ協定第 6 条の交渉論点 パリ協定の下で実施される市場メカニズムについては第 6 条において規定されているも のの、具体的な実施のための実施規則(ガイダンスや規則など)の策定が必要とされており、 2016 年以降、検討作業が続けられている。ここでは、パリ協定第 6 条の実施規則の交渉上 の論点を明確化した上で、それぞれの論点について各国が、どのような立場をとっているの か意見書に示された見解を踏まえて整理し、これらの見解について分析する。 なお、 (1). COP24 において合意が求められる文書 2015 年の COP21 において採択されたパリ協定は、京都議定書とは異なり全ての国が排 出削減目標を設定し、米中印等の世界の主要な温室効果ガス排出国が参加する国際社会に おける初めての枠組となり、画期的な協定となった。その後、米国のトランプ大統領がパリ 協定からの脱退を表明したものの、他の国は今後も、引き続き、パリ協定に留まり、パリ協 定の下で温暖化対策に取組んでいく意向を示している。 パリ協定では、第 6 条において市場メカニズムに関連する規定が置かれているものの、 具体的な実施規則については、パリ協定の第1 回締約国会合(CMA1)において採択される こととされている 1。パリで採択された決議では、CMA1までに第 6 条に関して次のよう な文書を策定することが求められている。  第6 条 2 項については、協調的アプローチに関するガイダンス  第6 条 4 項については、持続可能な発展メカニズムに関する規則、様式と手続き  第6 条 8 項については、非市場アプローチに関する作業計画 当初は、パリ協定の発効までに2~3 年の時間がかかると想定されていたが、各国の批准 手続きが想定以上に早く進み、2016 年 11 月、COP22 開催期間中に発効するに至り、CMA1 が開催されることとなった。第6 条以外の条文でも、CMA1での実施規則の合意を目指し、 各国は交渉していたものの、この時点では、採択可能な文書は作成されていなかったため、 対応策が協議され2018 年の COP24 において採択することを目指し作業を継続することで 各国は合意した。 2016 年以降、三つの文書を策定するための実質的な議論は、2017 年末までに補助機関会 合、COP23、ラウンドテーブルなどの UNFCCC が主催する正式な会合や、各国が自主的 に実施している非公式協議などの様々な場を通じて協議が続けられてきた。 また、補助機関会合、COP の開催に合わせて、2017 年末までに各国政府に対して 3 回の 1 パリ協定第 6 条、1/CP.21、パラ 37~パラ 41

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2 意見書の提出が求められてきている。会合では、各国とも意見書の内容を踏まえて、協議に 臨んでおり、意見書の内容を分析することで、各国のそれぞれの論点についての考え方が分 かる。また、3 回の意見書を通じて、原則的な提案から、より個別具体的な制度の提案がな されるようになってきている。これらの意見書で示された制度に関する具体的な提案が、今 後の制度の策定の基礎となることから、最終的に合意される制度を予想する上でも、各国が 提出した意見書の分析は重要である。 ここでは、特に、市場メカニズムに関連する論点となっている第6 条 2 項、4 項に注目す る。第6 条 2 項、4 項に関しては、後述するように取引の際の単位、その単位を目標に活用 した場合のアカウンティングの方法など様々な論点があり、各国の見解が鋭く対立してい る。このように各国が対立しているのは、これら二つの論点の成果によってパリ協定の市場 メカニズムのあり方を左右することになり、2020 年以降の各国の温暖化対策にも影響を及 ぼす可能性を秘めているためである。 第 6 条 8 項については、未だに非市場アプローチでどのような取組みがなされるのか、 その具体的な内容についても明確になっていない。まずは具体的な取組み内容について、各 国が意見交換する段階に留まっている。また、非市場アプローチの取組みがどのような形で 各国の目標達成に活用されるのかも現時点では明確になっていない。一部の国は新しい制 度の構築を提案しているが、それに対して支持する声は広がっていないのが現状である。 (2). 交渉上の論点 交渉においては、パリ協定第第6 条や COP21 で採択された決議(1/CP.21)が、CMA1 において決定することを求めている論点について協議されているとともに、協議を通じて 各国から議論する必要があると指摘された論点についても協議されている。 表 1 市場メカニズムに関連する論点(第 6 条 2 項と 4 項) パリ協定第 6 条 2 項に関する論点 パリ協定第 6 条 4 項に関する論点 a.ガイダンスの対象 a.様式と手続きの対象と原則(6 条 4 項のメ カニズムの対象) b.堅固なアカウンティング b.自主的な参加 c.ダブルカウントの回避(対応するための調 整 Corresponding Adjustment) c.対象とする活動 d.透明性 d.Overall mitigation の意味 e.環境十全性 e.ダブルカウント f.持続可能な発展 f.環境十全性 g.ガバナンス g.持続可能な発展 h.他の規定との関連性 h.ガバナンス i.CDM との関連性 j.他の規定との関連性 (出典)各種資料から日本エネルギー経済研究所作成

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3 (3). アカウンティングの重要性 協議の中で、重要な論点となっているのが、市場メカニズムを活用した場合のアカウンテ ィングである。特に、第6 条の協議の中では、一つの排出削減量を二カ国で目標値の利用に 活用するダブルカウントをどのように回避するのか、その具体的な方法をどのように定め るのかが、重要な論点となっている。 アカウンティングとは各国がパリ協定の下で提出する NDC の達成を評価することであ るが、第6 条の下では、複数の国の間で排出削減量が移転され、最終的にいずれかの国で目 標達成に利用されることになる。 図 1 パリ協定の下でのダブルカウントの可能性 (出典)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成 この利用の際に、排出削減量が創出された国と目標値に利用した国が、双方ともに、排出 削減量を目標値に利用した場合、一つの排出削減量が2 度、目標達成に利用されたこと(ダ ブルカウント)になり、結果として排出量の増加をもたらすことになる。 そのため、第6 条の下での取組みが排出量の増加につながらないように NDC の目標達成 を判断するアカウンティングについて何らかの規則を設ける必要がある。さらに、パリ協定 は京都議定書と異なる性質を持っていることから、京都議定書の下で実施されていたアカ ウンティングの方法とは異なる方法が求められている。このため、一つの排出削減量を複数 の国で目標達成に利用するダブルカウントの回避が重要な論点となっているのである。 (4). 京都議定書とパリ協定の性質の違い パリ協定と京都議定書では、目標設定の方法がまったく異なることから、市場メカニズム

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4 の活用に当たっても、新たなルールが求められる理由となっている。 まず、京都議定書がパリ協定と異なるのは、排出削減目標は先進国のみに設定され、途上 国に対しては設定されず、二元的な構造となっていることである。京都議定書では、2008 年から2012 年までの間に先進国全体での温室効果ガス(GHG)の排出量の目標値(1990 年比で5%の排出削減)を定めた後に、トップダウンで個々の先進国に認められる排出量の 目標値が定められていった。さらに、設定された目標値はtCO2e を単位として設定され、 目標達成を判断する際も GHG の排出量のみを、tCO2e を単位として算定し判断された。 目標達成のために先進国が他国(他の先進国あるいは途上国)で生じた排出削減量を、取引 を通じて取得、目標達成に利用する際の単位もtCO2e とされた。 一方、パリ協定では、先進国だけではなく途上国も何らかの目標値が設定される一元的な 構造となっている点で京都議定書と異なる。さらに、パリ協定の加盟国全体で排出量の目標 値は定められず(温度上昇を一定の範囲に収めることだけが規定されている)、各国が、そ れぞれの状況を踏まえてボトムアップで独自に策定する「自国が決定する貢献」(Nationally Determined Contribution、以下 NDC)の下で目標値を設定している。京都議定書と同様 に基準年の排出量の水準から、複数年にわたって排出量を削減する複数年の排出削減目標 が設定されている場合もあるが、基準年は設けられているが単年度の目標である場合や、原 単位の目標値が設定されている場合もある。また、目標値の設定方法については各国に大き な裁量が認められているため、tCO2e だけではなく、再生可能エネルギーの導入目標値を 電力量kWh、容量 kW などで設定されている場合が多く、途上国では適応に関する取組み を目標として設定する場合も多い。そのため、目標達成の判断にあたっては、tCO2e 以外 の単位も考慮しなければならなくなっている。さらに、NDC の規制対象となっている産業 分野については国によって異なり、全経済活動が対象となっている場合もあるが、一部、 NDC の規制対象外となっている場合も多い。 このように多様な目標設定がなされている中で、他国で得られた排出削減量をどのような 単位で取引するのか、また、得られた他国の排出削減量を目標達成にあたってはどのように アカウンティングを行うか、京都議定書とは異なる対応がパリ協定では求められている。 (5). 「相当の調整」の重要性 第 6 条の下では、二国間あるいは多国間の間で排出削減量あるいは排出割当量が移転さ れ、最終的には何れかの国でNDC の目標達成に活用される。その際に、排出削減量あるい は排出割当量を提供した国と、提供された排出削減量・割当量を受け入れNDC の目標達成 に活用した国の間での調整が必要とされ、COP21 における決定文書では、Corresponding Adjustment(「相当の調整」)を踏まえた形でダブルカウントの回避を行うことが求められ ている。しかし、具体的には「相当の調整」がどのようなものとなっているのか明らかでは ない。そのため、「相当の調整」において「誰が」、「いつ」、「何を」、「どのように」調整す るのか明確にすることが必要とされているのである。

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5 2. パリ協定第第 6 条に関する各国の見解の整理 (1). これまでの交渉の経緯 上記のように、2016 年以降、パリ協定第 6 条の実施のために求められるガイダンス、規 則、様式と手続き、作業計画について協議が続けられてきた。この中では、COP などの会 合における協議がなされるだけではなく、各国から意見書が提出されている。既に 3 回の 意見書提出(2016 年 10 月、2017 年 3 月、2017 年 10 月の 3 回)が行われ、多様な提案が なされている。 表 2 これまでの交渉の経緯 2016 年 5 月 SB 44 協議開始:意見書提出を合意 2016 年 11 月 COP22 作業計画に合意 (SB46 まで) ラウンドテーブル開催 意見書提出 2017 年 5 月 SB 46 作業計画に合意 (COP23 まで) ラウンドテーブル開催 意見書提出 2017 年 11 月 COP23 作業計画に合意 (SB48 まで) ラウンドテーブル開催 意見書提出 2018 年 5 月 SB 48 2018 年 11 月 COP24 パリ協定の実施規則採択(予定) (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成 第1回目の意見書提出では、原則的な姿勢を示す内容が多かったのに対し、2回目、3回 目の意見書提出では、より詳細な内容を提案しているものも見られた。ここでは、これまで の意見書提出において示された各国からの具体的な制度の提案について論点毎に見ていく。 分析にあたっては、UNFCCC のウェブ上で公開されている資料とともに、COP などでの 協議における発言を下に各国の立場を分析した報告書などを参照した2。また、意見書提出 にあたっては、個別に各国が提出する場合も見られるが、グループで意見書を提出している 場合も多いため、グループで提出している場合は、グループの意見書を参照した(交渉グル ープについては図 2 参照)。 2 各国の意見書については以下の UNFCCC ウェブサイトで公開されているものを参照。 http://www4.unfccc.int/sites/submissionportal/Pages/Home.aspx

参照文献としては次の文献、Dr. Axel Michaelowa and Dr. Sandra Greiner “Understanding the status of negotiations on Art. 6.2 of the Paris Agreement” Discussion Paper –January 2018 Perspectives Climate Change

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6 図 2 UNFCCC の交渉における交渉グループ

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7 (2). アカウンティングに関する各国の見解 6 条において様々論点が議論されているが、6 条 2 項と 4 項においては、ITMOs の定義、 アカウンティング、第6 条 2 項と 4 項の関係の三つの論点について各国から様々な見解が 示されている。これら三つの論点は、アカウンティングの具体的な方法(何を、どのように 算定するのか)に関連しており、アカウンティングの方向性を左右していく重要な論点であ ると言えるだろう。アカウンティングは第6 条 2 項で規定されているものの、第 6 条 4 項 の下で実施される活動から得られる排出削減量の各国の NDC の達成の活用の際にも適用 する必要があり、2 項と 4 項、それぞれで重要な論点となっている。 ITMOs の定義 パリ協定の下でのNDC では再生可能エネルギーの導入目標等も設定されており、CO2を 単位としない目標もある。このような多様な目標を設定している国同士で取引される単位 をどのようなものとするのか、また、そもそも、どのようなものをパリ協定の下での取引を 認めるのか、パリ協定の中では、明確にされていない。そのため各国は、ITMOs について 様々な見解を表明している。 表 3 ITMOs の定義に関する各国の提案 ITMOsの具体的な内容 各国の見解 tCO2e を指標とした国際的 に取引される排出削減量の 単位 ・豪州、EU、日本、NZ、EIG、AOSIS 等の多くの国・グルー プが、tCO2e を指標とした取引の単位とすることを提案。 EU は 6 条 2 項の協力的アプローチ、4 項のメカニズムとも に ITMOs を創出すると定義。 tCO2e 以外に換算できない 緩和の成果も ITMOs の対 象とする

・LMDC(Like Minded Developing Countries)やアラブグルー プは、全ての緩和の分野に対応するために、多様な緩和の指 標が必要となることから、tCO2e で示される排出削減量等以 外にも、適応への取組み(パリ協定 4 条 7 項で規定されてい る経済の多様化を含む)に由来する緩和へのコベネフィット についても ITMOs に含めるべきと主張している。 その他 ・アフリカグループは、ITMOs をクレジット、ユニットのよ うに保有可能なものではなく、目標達成の際に、二国間で交 換されたユニットの移転を追跡するための記帳 (bookkeeping)であると主張。ITMOs は排出量取引制度の 連携による排出枠の交換、6 条 4 項のメカニズムに由来する クレジットに紐づけられると説明している。 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

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8 ② アカウンティングの実施方法 これまでの意見書に示されていた見解から、各国が考えるパリ協定の下でのアカウンテ ィングの方法として、どのようなものがありうるのか、その方向性についてはある程度、明 らかになってきている。特に、アカウンティングにおいては、ダブルカウントを回避するた めに、「誰が」、「いつ」、「何を」、「どのように」調整するのかについて定める「相当の調整」 が重要な論点となっており、各国から、様々な提案がなされている。それ以外にも、NDC の規制対象分野以外の分野で得られた排出削減量をどのようにカウントするのか、国際民 間航空機関(ICAO)の下での温暖化対策に ITMOs が活用された場合の対応方法についても、 交渉上の論点となっており、各国が見解を示している。 ⅰ.アカウンティングの基本的な考え方 アカウンティングをどのように行うのか、大きく三つの考え方が示されている。報告書提 出によるもの、ユニット発行によるもの、緩衝登録簿設定によるものの三つである。 表 4 アカウンティングの基本的な考え方 アカウンティングの方法 各国の見解 報告書提出による アカウンティング ・ニュージーランドは、国際的な ITMOs の移転について報告書 提出し、透明性を確保する制度を提案している。隔年報告 書、国家インベントリー報告書を活用し、ITMOs の移転状況 の報告は、日本、EIG、アフリカグループ、AOSIS 等からも提 案されている。 ユニット発行によるアカ ウンティング ・ブラジルは、NDC の最終年に想定される排出量に、NDC の 対象期間年数を乗じた数量に相当するユニット(Quantified Contribution Unit,以下 QCU)を発行し、この取引を一定の条件 の下に認め、NDC の達成にあたっては、排出量と QCU の数量 を比較することで判断する制度を提案している。

緩衝登録簿設定によるア カウンティング

・LMDC は、アカウンティングに際して、Buffer Zone Registry (緩衝登録簿)を設けて、この中で ITMOsの取得と移転を管 理することを提案。 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成 ⅱ.NDC の規制対象分野以外で生じた ITMOs の取り扱い 先進国においては、全ての経済活動分野が規制対象となっているが、途上国においては、 全ての経済活動分野が規制対象となっているわけではない。そのため、NDC の規制対象分 野以外での排出削減活動から得られた ITMOs が途上国から他の国に移転され目標達成に 利用された場合、どのような対応をとるのか論点となっている。様々な見解が各国から示さ れている。

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9 表 5 NDC 規制対象外の ITMOs への対応 NDC 対象規制外の ITMOs への 対応 各国の見解 ITMOs の由来が NDC 規制対象 内外を問わず「相当の調整」 を行うとする立場 ・日本、EIG は NDC の規制対象外に由来する ITMOs であって も「相当の調整」を行うと主張。 ・AOSIS は、NDC の規制対象外の ITMOs の利用を認めること で、ホスト国における NDC の規制対象分野の拡大を阻害し てはならないと指摘。 ITMOs の由来が規制対象外で あれば「相当の調整」を行わ ない ・アフリカグループは NDC の規制対象外の ITMOs については 「相当の調整」を適用すべきでないと主張。アフリカグル ープは、NDC の規制対象分野となっていない分野について はデータ収集に困難があるためで、ITMOs を創出するプロ ジェクトを NDC 規制対象分野でも認め、促進することでデ ータ収集がなされ、将来的に NDC の規制対象分野の拡大に 貢献すると主張。 ・アラブグループは NDC の規制分野の設定と ITMOs の Corresponding Adjustment は別問題であると指摘 ・NZ は、NDC の規制対象外で生じた ITMOsについては、調整 を行わないとの見解を示している。 今後の検討課題とする立場 ・カナダは、NDC の規制対象外に由来する ITMOs の取扱いに ついては、今後の検討課題であるとの立場。 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成 ⅲ国際民間航空機関の温暖化対策(CORSIA)との関係 2016 年に国際民間航空機関(ICAO)において 2020 年以降の国際民間航空部門における 温暖化対策として市場メカニズム(CORSIA)を導入することが合意された(CORSIA の 詳細については第3 章を参照)。 表 6 CORSIA への対応 ICAO の規制への活用 各国の見解 ICAO の規制への活用を認 める立場 ・アフリカグループは、6 条 4 項のメカニズムから得られるユ ニットの CORSIA への活用を認める立場を示した。

・EIG も ITMOs の活用を認めるものの、その場合、ITMOs の 取消しが必要との立場を示した。 ・豪州は緩和の成果を CORSIA に活用した場合に、ダブルカ ウントの回避が必要との見解を示している。 ICAO との協力関係を構築 するべきとする立場 AILAC は、パリ協定の協力的アプローチと、CORSIA の整合 性を保つために、ICAO の下で続けられている CORSIA の下で 認められるユニットのタイプの検討作業を ICAO と CMA の共 同で行うことを提案。 ICAO の活用を今後の検討 課題とする立場 ノルウェー、AOSIS 等は CORSIA への活用を今後の検討課題 としている。 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

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10 CORSIA では UNFCCC やパリ協定の下での市場メカニズムで発行されるユニットを目 標達成に利用することが認められているが、CORSIA にどのように対応していくのか、パ リ協定第 6 条の下で発行されたユニットが利用された場合に、パリ協定ではどのような扱 いとするのか、各国で見解が分かれている。

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11 ③ 「相当の調整」の具体的な内容 当初の意見書提出では、各国とも「相当の調整」について、その取組みの重要性について 認めているものの、具体的な制度について提案している国は少なかった。しかし、意見書提 出の回数を重ね、さらに協議を行う中で、いくつか具体的な調整方法が提案されてきている。 表 7 「相当の調整」の方法 「相当の調整」の方法 各国の見解 報告する排出量の調整方法 ニュージーランドは、隔年報告書や国家インベントリー報 告書の中で、ITMOs の移転、獲得数量及びその相手国、 ITMOs を反映させた排出量(移転あるいは獲得した ITMOs の数量に対応するもの)を記録するアカウンティング報告 書を含め、「相当の調整」を行うことを提案している。 NDC を踏まえた調整方法 ・アフリカグループは、ITMOs の移転、取得に応じて NDC を調整することを提案している。 ・小島嶼諸国連合(AOSIS)は、NDC が達際された場合の 排出量を算定した上で、「相応の調整」のための NDC ア カウントを設け、この NDC アカウントの数量を控除、追 加することで対応することを提案。 ユニット発行による調整方法 ブラジルは、6 条 2 項の下で、各国の NDC に相当する排出 量のユニット(QCU)を発行し、QCU プールにおいて管理 し、他国との排出削減量の取引にあたっては、この QCU を移転、取得することを提案。この移転・取得に対応し て、QCU プールの控除・追加がなされる。 一方で、ブラジルは、6 条 4 項の下で発行されるクレジッ トについては、ホスト国における「相当の調整」を行わな い方法を提案。 緩衝登録簿による調整 LMDC は、緩衝登録簿において ITMOsの移転を管理する ことを提案。ゼロからはじめ、国外から取得した場合はプ ラスに記録し、国外へ転出した場合はマイナスとして記録 していく方法を提案。 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

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12 ④ 第6 条 2 項と 4 項の関係について 第6 条 2 項と 4 項の関係についても様々な見解がある。6 条 2 項のガイダンスを 6 条 4 項のユニットの移転にも適用するべきとする考え方や、6 条 2 項において 6 条 4 項と同様 な取組みを実施した場合は、6 条 4 項と同様の基準に従うべきなど様々な見解がある。 表 8 第 6 条 2 項と 4 項の関係 6条2項と4項の関係 6 条 2 項を全ての排出削 減量の移転に適用するべ きとする立場 日本、NZ、豪州、カナダ、EU、AOSIS、EIG 等は 6 条 4 項の下 で創出されたユニットも6 条 2 項の下のアカウンティングのガイ ダンスの対象となるとの見解。 6 条 4 項のユニットにつ いて 6 条 2 項のガイダン スの対象外とする立場 ブラジルは、6 条 4 項については、クレジット発行から受取国(買 手国)に対してのクレジットの引渡の段階では、6 条 2 項は適用さ れず(「相当の調整」も行われない)、受取国から第三国への移転に 際して「相当の調整」適用されると主張。 6 条 4 項の基準を 6 条 2 項の削減活動にも適用す るべきとする立場 AOSIS は、6 条 2 項と 4 項の関係に関連して、(排出削減)活動を ベースにしたITMOs の移転にあたって、質の確保のために最低で も 6 条 4 項の基準(real, measurable, additional, verified and long -term emissions reduction)を満たすべきであると指摘。

その他の見解 ・南アフリカは 6 条 2 項、4 項ともに一つの監督機関の下で運営

を管理されるべきとの提案をしている。

・AILAC は、6 条 2 項は ITMOs の創出・移転に関するもの、6 条 4 項は ITMOs を創出するメカニズムとして位置づけ。

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13 (3). 第 6 条 2 項の主要な論点 第6 条 2 項では、アカウンティングが中心的な論点となっているが、それ以外にも、幾 つかの論点がある。特に、各国の見解が対立しているのは環境十全性、持続可能な発展に関 してどのような取組みが必要とされているか、という点である。この論点は、第6 条 2 項 で規定されているガイダンスの対象と関連するとともに、ガバナンスの在り方を巡る議論 とも関連しており、第6 条 2 項における重要な論点の一つとなっている。各国の見解を以 下のようにまとめた。 ① 環境十全性・持続可能な発展とガバナンス 環境十全性、持続可能な発展に関しても 6 条 2 項のガイダンスに含めるのかどうかで各 国の見解は異なる。このような異なる見解が示される背景には、各国の自主的な取組みを重 視するのか、中央集権的な取組みを重視するのかの立場の違いがあるように見える。 表 9 環境十全性と持続可能な発展への取組み 環境十全性と持続可能な発展への取組み 各国の見解 ガイダンスの対象とする立場 (中央集権的な取組みを重視) ・AOSIS は、環境十全性を確保するための国際的 な中央集的な管理制度を設け、ITMOs の利用に あたっての環境十全性が確保されているか技 術的なレビューの実施、ダブルカウントが回避 されたのかの検証作業、登録簿の管理、ITMOs の移転の追跡システムの管理(シリアル番号 等)を行うことを提案。 ・EIG は、環境十全性の確保のための登録簿の整 備の必要性を指摘し、登録簿を整備できない国 が利用可能な UNFCCC の下での登録簿の整備の 必要性を指摘。 ・南アフリカは、アカウンティング、取引の記録、 環境十全性に対応するとともに、6 条全体の監 督を行う機関の設立を提案。 ガイダンスの対象外とする立場 (各国の自主的な取組みの重視) ・ニュージーランドは、環境十全性について、ガ イダンスを策定せず、環境十全性に関して各国 の取組みの結果を、アカウンティングのために 提出する報告書の中で報告することを提案(報 告書の記述内容について示唆を与えるための 原則の策定)。 ・豪州は、環境十全性、持続可能な発展に関して 各国がそれぞれ取組み、その内容を報告するこ とを提案。 ・パナマは、6 条において環境十全性、持続可能 な発展に関してガイダンスを策定することは 求められていないと指摘。 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

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14 ② 京都メカニズムの規則を援用する提案 京都議定書の下で実施された市場メカニズム、京都メカニズムにおいて適用されていた いくつかの規則を第6 条 2 項においても適用することを提案するグループもある。具体的 には、クレジットの発行時あるいはクレジットの移転時に一定の割合のクレジットを控除 し、それを適用基金の資金源とするshare of proceeds、市場メカニズムの参加に際して一 定の条件を定める適格性、目標達成への取組みについて国内での取組みを中心的なものと 位置づけ、市場メカニズムを補足的なものとする補足性の原則の三つである(それぞれの措 置についてはBox の説明を参照)。 表 10 京都メカニズムの規則を援用する提案 京都メカニズムの規則を 援用する提案 各国の見解 share of proceeds ・アフリカグループは、6 条 2 項の下で 6 条 4 項と同様な取組 みがなされる場合は、share of proceed を適用するべきと主張。 ・LMDC は、6 条 2 項の下での ITMOs の移転に際して、累進的 に Share of proceed の率を上昇させていく方法を提案。 適格性 ・アラブグループやアフリカグループは、全てのパリ協定加盟 国が、自主的に ITMOs の活用に関わる協力的アプローチに参 加できると主張。 ・LDC は、数量化した NDC を持っていること、国家インベン トリーを毎年提出していること、国家指定機関が ITMOsの取 引を承認すること等を条件として示している。 ・EIG は、パリ協定の参加国であるとともに、パリ協定 6 条の 実施に関わる CMA 決議に従っていること、協力的アプローチ への参加を承認する国家指定機関を設けること、民間企業が ガイダンス等を遵守することを確保すること等を条件とする ことを主張している。 補足性 ・AOSIS は環境十全性を確保する観点から、ITMOsの利用制 限を各国が自発的に行うことを提案。

・AILAC は、ITMOs の活用の前に各国が国内での best effort を 行うべきと主張。

・アラブグループは、6 条 2 項、4 項ともに各国の国内での取組 みを維持するために利用が制限されると主張。

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15 BOX.京都メカニズムの share of proceeds、適格性、補足性について

Share of proceeds、適格条件、補足性については、京都メカニズムの下で設けられた規 制である。京都議定書では、それぞれ以下のような規制となっていた。 ○share of proceeds について Share of proceeds について、京都議定書 12 条において実施される CDM において発行 されるクレジットについて、発行時に一定の割合(2%)を適応基金の資金源として控除 するとともに、発行手続き費用をトン数に応じて最大でUS$35 万(15,000tCO2e まで は tCO2e あたり US$0.1、15,000tCO2e を超える部分については tCO2e あたり US $0.2)を支払うこととされていた。また、第 2 約束機関において、JI の下で発行される ERU においても 2%の share of proceeds が徴収されるとともに、AAU の取引にあたっ ても、最初の取引において2%、share of proceeds が適用されることになった。 ○適格性について 京都議定書の下では、京都メカニズムの利用にあたって一定の条件を満たすことが求め られ、条件を満たさない場合は利用に制限が課せられた。 京都メカニズムの参加要件 (a). 京都議定書の加盟国であること。 (b). 3 条 7 および 8 に基づく割当量が決議 13/CMP.1 に基き算定・記録されていること。 (c). GHG の排出量及び吸収量の算定を行う国内システムの整備。 (d). 7 条 4 と関連するガイドラインに基づく国別登録簿の整備。 (e). 毎年の排出量・吸収量目録の提出。 (f). 7 条 1 と関連するガイドラインに基づく AAU 算定に関する必要な補足情報の提出。 ○補足性の原則 京都議定書では、附属書B に規定された目標値の達成にあたって、国内での取組みを優 先し、市場メカニズムによって得られたクレジットは補足的なものとすることが定めら れていた。しかし、具体的な数量については規定されず、各国の裁量の下で補足性の原 則は実施された。

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16 (4). 第 6 条 4 項の主要な論点 第6 条 4 項においては、CMA の監督の下で持続可能な発展と GHG 排出量の緩和に貢献 する新たなメカニズムを設けることを定められている。しかし、その具体的な内容について は、今後、決定されることとなっている。これは京都議定書の下で実施されている市場メカ ニズム、中でもクリーン開発メカニズム(CDM)を、パリ協定の下でどのような位置づけ とするのか、とも関連し主要な論点となっている。 ① 第6 条 4 項の制度の在り方(CDM の移行) 第6 条 4 項のメカニズムについて各国の見解は大きく異なっている。 表 11 第 6 条 4 項の制度のあり方 6条4項の制度の在り方 各国の見解 現行の CDM(制度、プロ ジェクト、CER)を 6 条 4 項のメカニズムとするもの ・ブラジルが提案したもので、現行の CDM の制度、プロジ ェクト、CER を全て、修正を加えることなく、6 条 4 項の メカニズムとすること(Sustainable Development Mechanism、SDM)を提案している。 ・アラブグループも現行の CDM をそのままパリ協定の下へ 移行することを支持。 既存の制度の経験を踏まえ て新たな制度を構築するも の ・南アフリカは CDM の現行の制度には、大きな課題があ り、またパリ協定は京都議定書とは大きく異なることを踏 まえ、既存の CDM プロジェクトについて、6 条 4 項のメカ ニズムとの整合性を評価した上で、6 条 4 項の下での活動 として認めることを提案している。 ・EIG は、既存のプロジェクトが、継続して排出削減活動を 実施していく重要性を指摘。その上で、パリ協定の新たな 状況を踏まえ再評価し、既存のプロジェクトを 6 条 4 項の 下で認めることを提案。 第6 条 4 項をクレジットメ カニズムの認定制度とする もの AILAC は第 6 条 4 項のメカニズムを、京都メカニズムとは根 本的に変更し、排出削減プロジェクト認証制度を認定するこ とを提案している。具体的には、第6 条 4 項のメカニズム自 身は、方法論の承認、プロジェクトの登録、クレジットの発行 は行わず、そのような活動を実施している既存のメカニズム、 例えば CDM を一定の基準を踏まえて認定し、認定されたメ カニズムが第6 条 4 項の下で排出削減活動を登録し、クレジ ットを発行することが認められるものである。CDM 以外に も、民間の団体が運営するクレジットメカニズム(Verified Carbon Standard 等)もあり、これらのメカニズムも第 6 条 4 項の下で実施されうる。 新しい制度を求めるもの ・日本、EU、豪州等は新しい制度を設けるべきと主張。豪 州は 6 条 4 項のメカニズムを Cooperation Mitigation Mechanism(CMM)とすべきと主張。 ・EU は、京都メカニズムの存続そのものに反対。 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

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17 ② 全体的な緩和の具体的な方法について 第 6 条 4 項の下でのメカニズムでは、単なるオフセット(相殺)ではなく Overall mitigation(全体的な緩和)を達成することが求められている。京都議定書の下で実施され たCDM や共同実施(JI)等では、他国で得られた排出削減量を、自国の目標値から増加し た排出量を相殺することに留まっていたが、パリ協定の第6 条 4 項では、相殺することを 超え、さらなる排出削減に貢献すること(全体的な緩和)が求められている。しかし、全体 的な緩和を達成するための具体的な方法については明確な規定が置かれておらず、各国か ら幾つかの提案がなされている。 表 12 全体的な緩和の具体的な方法 全体的な緩和の具体的な方法 について 各国の見解 保守的なベースライン設定に よる対応 日本は、排出削減事業のベースライン排出量を設定する際 に、保守的なベースライン(削減量を算定する基準となる 排出量)を設定することで純削減を達成することを提案。 つまり、排出削減量ベースラインの設定を、プロジェクト が実施されない場合に想定される Business As Usual (BAU)の排出量の水準を排出削減量の算定の基準とする のではなく、より低い排出量を排出削減量の算定の基準と することで、発行されるユニットを小さくすることで Overall mitigation(全体的な緩和)を達成しようとするも の。 発行するユニットから一定割 合の控による対応 AOSIS は、ホスト国におけるユニットの発行の段階で一定 の割合で、ユニットを取消すことを Overall mitigation とす ることを提案。AOSIS は、保守的なベースラインの設定に より、ユニットの発行量は少なくなるものの、減少したユ ニット発行量に相当する排出削減量は、単にホスト国の目 標達成に利用されるだけで全体の削減にはつながらないと 指摘。 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

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18 (5). 第 6 条 8 項について 既にのべたように、6 条 8 項については、条文で規定されている“非市場アプローチ”の 具体的な内容が明確になっておらず、各国が様々な見解を示している。具体的な取組みの内 容については、新たな制度を設けることを提案するものもあるが、今後、作業計画の下で検 討を続けることを提案するものや、既存の UNFCCC の取組みの中で検討作業を続けるこ とを提案する国もある。 表 13 第 6 条 8 項に関する提案 今後の取組みの提案 各国の見解 新たな制度の設立を提案 ウガンダは、適応に取り組むための Adaptation Benefit Mechanism(ABM)の創設を提案。ABM ではユニットを 適応に取り組む事業に発行し、このユニットを踏まえて民間 企業は資金調達を行う。 様々な取組みの調整のための 取組みを提案 ・南アは、既存の取組みとの重複を回避し、相乗効果をもた らすためにガイダンスが必要であり、既存の取組みの登録 簿あるいは途上国のニーズに対応する支援を見出すため の制度を設ける必要性を指摘。 ・LMDC は、6 条 8 項の下での取組みは、ユニットの移転 を伴わない緩和、適応、資金の間の相乗効果を狙う幅広い 取組みであり、各国の自発的な協力を促すための制度を整 備し、ガイダンスを策定するとともに、途上国のニーズと、 そのニーズを満たすための手段を示した登録簿を設ける ことを提案。 既存の制度を活用する取組み の提案。 NZ は UNFCCC の既存の技術的検証プロセス(TEP)と技 術専門家会合(TEM)を 6 条 8 項の取り組みとして実施す ることを提案。 作業計画において具体的な取 り組むことを提案 EU は 2 年間の作業計画を設け、2019 年から開始し、2020 年に作業計画の結果、明らかになったことを勧告として CMA に対して提出し、その上で取り組むことを提案。 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

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19 (6). 各国の見解と今後の交渉の方向性についての分析 ① 分権的な取組みと中央集権的な取組み ここまで述べてきたように、各論点において各国が様々な制度の提案をしているが、これ らの意見書において示された個々の論点に関する提案の内容を分析し、整理していくと大 きく二つに分類することができる。分権的な取組みを重視する立場と中央集権的な制度を 提案するものと、分権的な制度を提案するものの二つである。 分権的な制度を提案するものでは、京都議定書とは異なり、各国の自主的な取組み、裁量 度を可能な限り認め、国際的な規則も最低限のものに留めようとする制度が提案されてい る。一方、中央集権的な制度を提案するものでは、京都議定書に類似した制度、国際的な規 則の下での取組み(一元的なユニットの発行、適格性要件の設定等)、ユニット(ITMOs) の移転を管理するための国際制度、環境十全性や持続可能な発展に関する国際的な基準と モニタリング制度等が提案されている。 このように見解が分かれる背景には、アカウンティングにおいてパリ協定の下での多様 なNDC に対応することを重視する立場と、市場メカニズムを活用して自国の排出削減を進 めていくことを重視する立場で、各国の関心が異なることがあると考えられる。 NDC の多様性への対応したアカウンティングを重視する立場 既に述べたように、パリ協定の下では、ボトムアップで各国が、それぞれの事情を踏まえ てNDC を策定しており、国によって目標設定の方法が大きく異なる。そのため京都議定書 とは異なる対応が求められているのである。 京都議定書の下では、市場メカニズムへの参加に条件が設けられる一方で、市場メカニズ ムの下でのユニット・クレジットの取引も、発行されたユニット・クレジットを登録簿内の 追加・控除することで行われた。更に、目標達成に際してのアカウンティングは、排出量と 償却したユニット・クレジットの数量を、tCO2e で比較することで行われ、ユニット・クレ ジットの数量が排出量を上回っていれば目標達成したと見なされた。これは、京都議定書の 下で排出削減目標を設定している全ての国が、1990 年を基準として全ての経済活動分野を 対象とした排出削減目標を設定していたことから可能な方法であった。 一方で、パリ協定では、京都議定書と同様な目標達成の判断方法をとることは出来ない。 目標値の設定方法が異なり、目標値の中にはGHG の排出削減目標だけではなく再生可能エ ネルギーの導入量など、tCO2e ではない単位の目標も含まれており、さらに、絶対目標だ けではなく原単位目標も設定されているためである。そのため、パリ協定では、京都議定書 のような一律の方法での、目標達成の判断をとることは、ほぼ不可能であり、各国のNDC に応じた目標達成の判断方法が求められる。 このようなNDC への多様性に対応するためには、国際社会において一律の基準を設ける のではなく、各国の多様な状況に対応する分権的な取組みが必要となる。分権的な取組みを

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20 求める主張の背景には、このようなNDC への多様性に対応したアカウンティングを重視す る立場があるものと考えられる。 ③ 市場メカニズムによる支援を重視する立場 また一方で、市場メカニズムによって得られる支援を下に自国の温暖化対策を進めてい くことを重視する立場もある。この立場をとる国の中でも、特に市場メカニズムを独自に構 築する能力を有する国が限られていることも、各国の立場に影響を与えている可能性もあ る。日本は、独自の市場メカニズム、JCM を実施しているが、このような独自の市場メカ ニズムを構築する能力を有する国は限定されている。意見書の中でも、アフリカグループは、 中央集権的な取組みである第6 条 4 項のメカニズムについて、独自に市場メカニズムを構 築する能力を持たない国が、市場メカニズムに参加するための機会を与えるものと指摘し ており、途上国以外にも、先進国のノルウェーも同様の見解を示している。 これらの国々、独自に市場メカニズムを構築する能力を持たない国の多くにとっては、第 6 条 4 項の市場メカニズムへの参加は、目標達成のために国外での排出削減量を購入するこ とが目的ではなく、国外に排出削減量を売却することで自国内での温暖化対策を進めるこ とが目的であると考えられる3。そのため、これらの国にとっては、自国の温暖化対策を進 めるための支援を得るためには、中央集的な取組みの下で、排出削減量の買い手となる国が 市場メカニズムに参加することが必要となる。その一方で、排出削減量の買い手となる国が、 自国に必要な排出削減量を、主に分権的な制度である第6 条 2 項の下で獲得する状況とな った場合、中央集権的な第6 条 4 項のメカニズムの需要が失われてしまうことになりかね ない。そのため第6 条 2 項と 6 条 4 項を同等な水準で活用することが可能になるように、 二つの条項ともに同様な中央集権的な制度の導入を求めるものと思われる。 ④ 今後の交渉の方向性 これまで述べてきたように、各国から各論点について様々な見解が示されているが、合意 に向けた検討作業は続けられている。2017 年 5 月、11 月にドイツ、ボンで、第 46 回補助 機関会合が開催され、その後、COP23 が開催された。 これらの会合を通じて協議が行われ、COP23 においては、各国の意見書や協議の中で示 された見解を踏まえて議長が作成した非公式文書(COP23 会議中に第 3 版まで更新された もの)が作成された。そして、この非公式文書を留意しながら、2018 年に開催される第 48 回補助機関会合において、科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合(SBSTA)議長 に、第6 条 2 項、4 項、8 項について求められている文書に求められる要素案を含んだ非公 3 UNFCCC 事務局がまとめた資料では、NDC の中で市場メカニズムの活用を示している国のほとんどは 途上国であり、国外からの資金源を調達することを念頭においていることが報告されている。UNFCCC 事務局“Carbon Market and Policy Development” 第 97 回 CDM 理事会資料

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21 式文書を作成することを求めるとともに、その際には、非公式文書の作成に先立って提出さ れた各国からの意見書や、COP23 で作成された議長の非公式ノートを踏まえることを要請 し、今後も検討作業を行うことで合意した。 COP23 で作成された議長の非公式ノートでは、対立している各国の見解がそのまま残さ れており、今後、作成されるSBSTA 議長の非公式文書においても、対立点が残された文書 になると思われる。 今後の協議では、これらの対立点について妥協点を探っていくことが必要である。その際 には、パリ協定の下で設定された多様なNDC に対応しながら、アカウンティング方法を、 どのように構築していくのか、が重要な論点になると考えられる。特に、ダブルカウントの 回避は市場メカニズムの正当性を確保する上でも必須の論点であり、ダブルカウントの回 避が、どのような実施されるのかによって、今後のパリ協定の下での市場メカニズムの発展 を左右するものになりうるだろう。 また、京都議定書の下で実施されてきた制度を、パリ協定の下でどのような位置づけとす るかでも、パリ協定の下での制度の方向性を左右するものになりえる。特にCDM の継続に ついては、各国の見解が異なり政治的な妥協点を見出すのが困難な論点となっている。CDM の下で、これまでに発行されたCER を無条件で 2020 年以降、パリ協定の下で目標達成に 利用することは、パリ協定の下での温暖化対策の実施を阻害する可能性もあり、無条件で利 用を認めることは難しい。その一方で、これまでに発行されたCER が 2020 年以降、価値 を持たないものになった場合、CDM プロジェクトに参加してきた企業にとっては損失とな り、これらの企業からの制度の信頼性を2020 年以降も確保することが困難になる可能性も ある。 このように複雑に絡み合った利害関係をどのように整理した上で、妥協点を見出すこと が、今後の交渉の課題となっている。

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第 2 章. JCM を含む市場メカニズム活用を通じた温室効果ガス排出削減の在り

方に関する調査分析

1. JCM の動向 日本政府は、途上国の温暖化対策の実施を支援するために様々な事業を実施している。政 府開発援助を通じた支援以外の取組みとして、近年、注目を集めているのが二国間クレジッ トメカニズム(JCM)である。JCM では、優れた GHG 排出削減技術、サービス・システム、 インフラを途上国への導入を支援し、その結果、得られた排出削減量を日本の目標達成に活 用するものである。 2010 年から、実施可能性調査(FS 調査)などの取組みが開始されるとともに、関心を持 つ途上国との協議を行われ、2017 年末までには、JCM を実施するために 17 カ国の政府と JCM を実施することで合意した。 図 3 JCM の基本的な考え方 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成 図 4 JCM パートナー署名国 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

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23 (1). JCM における登録済みプロジェクト、クレジット発行の動向 ① ホスト国と導入技術の動向 JCM の実施を合意したパートナー国においては、日本とパートナー国が協力して運営す る合同委員会が JCM の管理・運営を行っている。具体的には、JCM プロジェクトとして 実施される事業の排出削減量を算定するためのMRV 方法論の承認、GHG 排出削減事業の 登録、排出削減量へのクレジットの発行などである。 JCM の実施を合意したパートナー国では、既に、実際に排出削減事業を行う JCM プロ ジェクトも、7 カ国、25 件にも上る。さらに、その中の 4 カ国において合計で約 10,000tCO2e の排出削減が達成されている。 登録されたプロジェクトを見ると、インドネシアが9 件のプロジェクトを登録しており、 登 録 さ れ た プ ロ ジ ェ ク ト の 予 想 年 間 排 出 削 減 量 で も さ ら に ク レ ジ ッ ト に つ い て も 19,000tCO2e と最も多い。ただし、実際のクレジットの発行がなされた排出削減量につい ては40tCO2e に留まっている。 インドネシアに次いでプロジェクトが登録されているモンゴル(5 件)は予想年間排出削 減量もインドネシアについで約 14,000tCO2e となっている。さらに、これまでに約 9,000tCO2e のクレジット発行がなされ、クレジット発行がなされている 4 カ国(インドネ シア、モンゴル、パラオ、ベトナム)の中で最も多い排出削減量となっている。 表 14 JCM 登録済みプロジェクト バングラ デシュ インドネ シア ラオス モンゴル パラオ タイ ベトナム 合計 太陽光 2 3 1 6 LED 1 1 タコグラフ 1 1 建物省エネ 2 2 工場省エネ 1 1 高効率 エアコン 1 4 1 1 7 高効率 ボイラー 2 2 高効率冷蔵庫 3 3 省エネ熱供給 システム 1 1 送電網 1 1 総計 1 9 1 5 3 1 5 25 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

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24 表 15 JCM 登録済みプロジェクトの年間平均予想排出削減量(単位:tCO2e) バングラ デシュ インドネ シア ラオス モンゴル パラオ タイ ベトナム 太陽光 13,327 650 440 14,417 LED 567 567 タコグラフ 292 292 建物省エネ 787 787 工場省エネ 17,822 17,822 高効率 エアコン 485 761 467 792 2,505 高効率 ボイラー 298 298 高効率冷蔵庫 255 255 省エネ熱供給 システム 166 166 送電網 610 610 総計 485 19,004 567 14,092 650 440 2481 37,719 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成 表 16 JCM クレジット発行対象排出削減量(単位:tCO2e) インドネシア モンゴル パラオ ベトナム 総計 省エネ (送電網) 151 151 省エネ (冷凍庫) 40 40 省エネ (熱供給) 157 157 省エネ(運輸) 288 288 太陽光発電 8,947 881 9,828 総計 40 9,104 881 439 10,464 (出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成 導入されている技術を見ると省エネ関連の技術が多い。運輸、交通、エアコン、冷蔵庫など、 エネルギー効率の高い機器の導入を目指すプロジェクトが大半を占める一方で、再生可能 エネルギーに関しては太陽光発電のみとなっている。ただし、予想排出削減量では工場省エ ネについで多く、実際にクレジットの発行対象となりうる排出削減量を見ると最も多い削 減量となっており、排出削減量で見ると太陽光発電によるものが大半を占めている。

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