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第 2 章 . JCM を含む市場メカニズム活用を通じた温室効果ガス排出削減の在り方に関する

2. 市場メカニズムに関する様々な取組み

26 特に、水力発電、風力発電などでは技術移転された割合は低くなっているが、太陽光発電 では、調査した時点では100%のプロジェクトで技術移転がなされていたことが報告されて いる。制度の当初の目的において技術移転を行うことを主眼と置くかどうかの違いは、この ような導入される技術の違いを生じさせている可能性はある。省エネ部門についても、工場 での自家発電に関連するプロジェクトで技術移転の割合は低い傾向が見られたが、サービ ス部門での省エネ(83%)やエネルギー供給部門での省エネ(70%)では比較的高い割合で 技術移転がなされたものと報告されている。

このようなCDMプロジェクトの経験を踏まえると、JCMにおいては、技術移転が必要 な技術が採用されているものと思われ、それが CDM の採用技術との違いが生じる要因の 一つとなっている可能性がある。つまり、JCMは途上国への技術移転を促す制度として機 能しているとも言える。その一方で、署名国は17カ国に上っているものの、プロジェクト の登録件数、クレジット発行対象となりうる排出削減量については、更に拡大させていく余 地は多い。今後、さらにプロジェクトの登録件数を伸ばすとともに、登録したプロジェクト の下で排出削減量を増やしていくことが求められているといえるだろう。

27 取引市場の創成期において、世銀が大きな役割を果たしていた5

一方、2013年以降、世銀の下での市場メカニズムに関する取組みが、それまでの京都ク レジットの購入を目的とした基金から、市場メカニズムを通じた途上国の支援へと、その内 容を変えていった。

これは、2013年以降、京都議定書の下で目標達成のためのクレジットへの需要が見込め なくなったためである。2012年まで、クレジットの需要の大半を占めていた欧州からの需 要が、2013 年以降は見込めなくなったことや、2013 年以降の京都議定書の第 2 約束期間 については日本が目標値を設定しないなど、クレジットの需要のほとんどが失われてしま う状況に陥った。このような状況を踏まえて、2013年以降は、目標達成のためのクレジッ トの買取りではなく、プロジェクト開発を通じて途上国の温暖化対策を支援する取組みへ と変わっていったと考えられる。世銀では、さらに途上国における政策導入を支援する取組 みを2013年以降、展開するようになっている。

② 市場メカニズム導入準備基金(PMR)における取組み

市場メカニズム導入準備基金(Partnership for Market Readiness、PMR)は、情報・

知識の共有や、技術的な支援等を行うことで途上国に市場メカニズムを導入することを支 援することを目的とされている。2011年から活動を開始したが、京都議定書の下で発行さ れるクレジットを購入することを目的とせず、途上国における政策の導入を支援すること を主目的とした点で、その当時の世銀の市場メカニズムに関連する取組みの中では特異な 存在であった。

PMRには、これまでに先進国、13か国(日本、米国、豪州など)が出資する一方で、実 施国として途上国、18 カ国(中国、インドネシア、ベトナム、タイ等)が参加している。

また国以外にも州政府等の地方レベルの政府も、市場メカニズムに経験があれば、技術的パ ートナーとして参加することが認められており、米国のカリフォルニア州、カナダのケベッ ク州(排出量取引制度を実施)なども参加している。

支援を受ける途上国は、市場メカニズムの導入を図るために必要とされる準備作業を提

案(Market Readiness Proposal、MRP)することが求められており、途上国から示された

MRPを踏まえてPMRは途上国への支援を行うこととされている。

既に 5 年の実施経験があり、相応の実績を残しているものの、資金支援を実施するため に手続きに遅れが見られることや、MRPが策定されたものの、実際に市場メカニズムが導 入され、試行の段階に至っているものが限られているなどの課題も指摘されている。

また、これまでに出資した資金を下にした活動は、2020年までとされており、2020年以 降の取組みについては、まだ決定されていない。パリ協定の合意を受けて、途上国における 排出削減への取組みの重要性は更に増していることを踏まえて、2020年以降のPMRのあ り方について議論がなされている。

5 World Bank’s Carbon Finance Unit “10 Years of Experience in Carbon Finance” World Bank 2010

28 表 17 PMRの概要

資金規模 US$1.27億

目的

途上国に市場メカニズムを導入するためのロードマップ作成や、市場メ カニズムの試行を支援するとともに、情報交換、知識、経験を提供・共 有することを目的

参加国

出資国 日本、米国、豪州、スペイン等の13カ国

実施国 インドネシア、ベトナム、メキシコ、タイ、コスタリカ、中 国等の18カ国(うちJCM署名国が5国)

活動の概要 2011年から活動を開始し、15か国で炭素価格導入に向けたロードマッ プを完成し、15の技術ノートを完成させるなどの実績をあげた。

(出典)各種資料から日本エネルギー経済研究所作成

議論の中では、参加国から途上国におけるNDCの実施にPMRの取組みをどのように結 び付けていくのか、情報と知識の共有を2020年以降、どのように改善していくのかなどの 課題が指摘されており、今後、更に検討を進めていくこととされている。

PMRの下で途上国における政策導入支援の観点からは一定の成果を挙げてきたと言える が、その一方で、個別の企業における排出削減対策にどのように結びつけていくのか、今後 の課題となっていると言える。

既に述べたように、パリ協定の下では途上国にも排出削減目標が設定され、相応の取組み が求められていることを踏まえると、PMRが実施しているような途上国における温暖化政 策の策定・実施への支援は、今後、益々、重要性を増してくるものと考えられる。

③ 変革的炭素資産ファシリティー(TCAF)における取組み

世銀は、途上国における政策支援を行う新しい取組みの発足を2015年11月に発表した。

パリ協定の下での途上国における温暖化対策の策定・実施を支援するための変革的炭素資 産ファシリティー(Transformative Carbon Asset Facility、TCAF)である。

TCAFは、PMRが実施している政策導入への支援だけではなく、導入支援した温暖化対 策により得られる排出削減量を買い取る(成果主義型資金拠出(Result Based Finance、 RBF))ことで途上国における温暖化対策の導入・実施を支援するとともに、更に大きな排 出削減を実現することを目指している。

2017年3月から正式に運営を開始しており、US$3000万~5000万規模のプログラムへ の支援を行う方向で、具体的な支援プログラムの選定を行っている。

TCAFは、2020年以降、途上国における排出削減を支援する新たな取組みとして、注目 を集めているが、政策措置の導入が具体的な活動にどのように結びつけるかは課題も残さ れている。

29 表 18 TCAFの概要

資金規模 US$5億

支援対象

(想定)

政策を実施することによって得られる効果に対して、MRVを適用し、排出削減 量を確認した上で、資金提供を行うこと(政策クレジット、セクトラルクレジッ トの購入)

• 低炭素政策(産業界へのクリーンエネルギー目標・省エネ基準の設定)

の実施。

• 都市交通機関の低炭素化、グリーン建築物基準、高効率照明導入への補 助金等を実施。

• 化石燃料補助金の撤廃 資金提供方法

• 成果型資金拠出(排出削減量が確認できてから資金を拠出する)

• 排出削減量の算定にあたっては厳格なMRV(計測、報告、検証方法)を適 用する。

追加的な資金 TCAF の支援する事業に対しては、世界銀行グループやその他の資金源から

US$20億、別途、資金提供することも期待される。

(出典)各種資料から日本エネルギー経済研究所作成

(2). 炭素市場プラットフォームにおける取組み

炭素市場プラットフォームは、2015年6月に開催されたG7エルマウ・サミットの首脳 宣言において市場メカニズムの低炭素成長への投資のインセンティブを与える上での重要 性を認識し、G7以外の国や世界銀行などと自主的な参加に基づく戦略的な対話の場を設け ることに合意したことを受けて設けられた。

表 19 炭素市場プラットフォームの概要

参加国

日本、ドイツ、米国、英国、フランス、イタリア、カナダ、EU、オーストラリ ア、チリ、インドネシア、韓国、ニュージーランド、セネガル、スイス、ベトナ ム、世界銀行、経済協力開発機構(OECD)、気候変動に関する国際連合枠組条 約事務局(UNFCCC事務局)、ICAP(国際炭素行動パートナーシップ)

これまで の 取組み

• 2015年のG7エルマウ・サミットで炭素市場に関する戦略的な対話の場を 設けることに合意

• 2016年、日本、東京において第1回戦略対話を界隈

• 2017年、イタリア、ローマにおいて第2回戦略対話を開催

(出典)各種資料から日本エネルギー経済研究所作成

これまでに、2016年に東京、2017年にローマで、既に2回の会合開催されており、この 際、G7参加国だけではなくチリ、セネガルなどの途上国からの参加を得るとともに、世界

銀行、OECD、UNFCCC事務局等の国際機関なども参加し、多様なバックグラウンドを持

つ参加者が議論に参加した形で実施されている。

この取組みでは、市場メカニズムに関する様々な課題について、専門家からの発表を踏ま

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