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第 3 章 . 海外の市場メカニズムの動向調査

1. 国際的な動向(京都メカニズム等の動向)

パリ協定の下での市場メカニズムに関する交渉、世界銀行などでの市場メカニズムに関 する取組みの他にも、京都議定書の下での市場メカニズム、京都メカニズム(CDM、JI)

が実施されている。また、2016 年 10 月には国際民間航空部門において市場メカニズムを 活用した温暖化対策の実施に合意した。ここでは、京都メカニズムと国際民間航空部門にお ける市場メカニズムの動向について報告する。

(1). 第13回京都議定書締約国会合(CMP13)での交渉の動向

2017年11月6日から11月17日までドイツ、ボンにおいて開催された京都議定書だい 13回締約国会合(CMP13)においては、京都メカニズム関連の議題として次の論点が示さ れていた。

 CMP議題4 : CDMに関する事項

 CMP議題5 : Joint Implementationに関する事項

 SBI議題8(a): CDMの様式と手続きに関するレビュー

この三つの議題のうち、Joint Implementationに関する事項とCDMの様式と手続きに 関するレビューについては、協議は行われず、CMP議題4のCDMに関する事項のみ協議 が行われた。

議論の中では、環境十全性と透明性の確保に関する提案がなされるとともに、CDMを継 続して利用されることを保証することが提案されたが、これらの提案に対しては合意がえ られなかった。最終的には、京都議定書第2約束期間のための改正(ドーハ改正)の批准を 各国に求めるとともに、CDM理事会に対して標準化方法論の策定と承認手続きの簡素化に 関する作業を引き続き実施するよう求める決議が採択された。

(2). プロジェクト開発の停止

2012年にドーハで開催されたCMP8において、2013年以降、2020年まで京都議定書の 第2約束期間として実施することが合意されたものの、第 2約束期間を実施するために改 正された京都議定書への批准手続きが遅れ、いまだに発効していない。

さらに、2012年までは欧州の政府、排出量取引制度の規制対象企業、日本の政府、自主 行動に取り組む企業などからの需要が見込まれたものの、2013年以降、欧州の排出量取引 制度(EU ETS)においては、厳しい利用条件が設けられるとともに、大量の余剰の排出枠 が生じたことや、日本においては第 2 約束期間の目標値を設定しなかったことから、京都 クレジットへの需要の大半は失われることになった。

32 需要がほとんど見込めない状況の中で、2013年以降、プロジェクトの有効化手続き、登 録手続き、発行手続きの件数は大きく減少した。登録プロジェクト、CERの発行は僅かで はあるが 2013 年以降も継続して行われているものの、有効化手続きに至っては、ついに 2017年4月以降、1件も手続きが行われない状況となった。登録手続きについては、それ 以降も継続して行われているものの、この状況が続けば、いずれは登録手続きも行われなく なり、新規の登録プロジェクトの追加が停止することになる(2012年に約 3200 件の追加 が行われて以降、登録プロジェクトの件数は急激に減少しており、2017 年は31 件にまで 減少した)。

図 6 CDMの有効化審査の推移

(出所)CDM理事会公表データを踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

図 7 CDM登録プロジェクトの推移

(出所)各種資料より日本エネルギー経済研究所が作成

33 既に、JIに関しては、2014年以降、1件も登録されず、クレジットも発行されない状況 となっており、このことは、現状ではCDM、JIともにプロジェクトの開発がほぼ行われな くなっていることを示唆しているとも言える。

(3). 継続するCERの発行

有効化審査件数、登録件数が減少している中で、CER の発行は一定の水準が保たれてい る。2011年から2012年にかけて約3億tCO2eの発行がなされた後、2013年以降、発行 量は減少したものの、発行量がゼロとなる状況には至っていない。2015年以降、減少傾向 にはあるものの1億2000万tCO2eの近辺で発行量は推移し、1億tCO2eを超える発行量 を維持している。

図 8 CER発行量の推移(件数及び発行量)

(出所)各種資料より日本エネルギー経済研究所が作成

また、主要な発行国は中国、インド、ブラジル、韓国の四カ国となっており、2012年以 前と2013年以降の間で大きな変化はない。その一方で、クレジットを発行したプロジェク トの種類を見ていくと、2012年以前ではHFC、N2Oなどの産業過程で発生するGHGの 排出削減プロジェクトに由来するものが大半であったが、2013年以降は、再生可能エネル ギーに由来するクレジットが大きな割合を占めている。

ホスト国に関しては、中国、インド、ブラジル、中でも中国、インドについては既に石炭 火力発電所が稼動されている中で、再生可能エネルギーが導入されたことで多くの排出削 減量がえられたことや、冷媒工場や肥料工場などが多数、立地していたことで、これらの施 設から製造工程で発生する温室効果係数(GWP)が高い HFC、N2Oなどの GHGの排出 削減事業を行うことが可能であったため、より多くのクレジットの発行が可能になったも

34 のと考えられる。

プロジェクトタイプの変化については、2012年まではEU ETSにおいてHFC、N2Oな どのクレジットを遵守へ利用することが認められていたが、2013年以降は利用が、禁じら れたことが影響しているものと思われる。既に述べたように、2013年以降は 2012 年まで の京都議定書の目標達成のための需要はほとんど見込めない状況となっており、それに応 じた形で供給されるクレジットにも変化が生じているものと考えられる。

図 9 発行されたクレジットのホスト国

(出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

図 10 発行されたクレジットのプロジェクトタイプ

(出所)CDM理事会発表資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

(4). 2020年までの予想される需要

上記のように、欧州、日本などの主要な需要はなくなったとはいえ、一定のレベルでの需 要が存在することを意味している。

UNFCCC事務局が作成した資料によれば、いくつかの需要が存在していることが指摘さ

35 れている6。まず、挙げられるのは、韓国からの需要である。韓国では、独自に排出量取引 制度を導入し、その規制対象事業者には、韓国国内で実施されているCDMプロジェクトの クレジットを規制の遵守に活用することを認めている。

韓国は非附属書Ⅰ国であるため、京都議定書の下での国別登録簿を保有していないが、

CDM理事会が管理しているCDM登録簿には非附属書Ⅰ国も保有口座を開設することが認 められており、韓国国内で実施されている CDM プロジェクトの韓国側の参加企業も保有 口座を開設している。これらの韓国企業が保有するCERを、CDM登録簿内で自主的な取 り消し手続きにより、取消すことで韓国国内の排出量取引制度で取引可能なクレジットを 韓国政府が発行している。この制度を活用し、韓国国内のCDMプロジェクトから発行され た多くのCERが、取り消し手続きにより取消されており、これまでにCDM登録簿内で取

消されたCER、約2,700万tCO2eのうち6割にあたる1700万tCO2eが韓国のプロジェ

クトに由来するクレジットとなっている。これまでは、韓国国内で実施されるプロジェクト に由来するクレジットに限定されていたものの、今後、韓国国外で実施されているCDMプ ロジェクトの利用も認める方針を示しており、更に需要が拡大する可能性はある7

次に考えられるのが、世銀が2013年以降に発行されるクレジットを対象としている成果 主義型の基金である。第2章でも述べたように、世界銀行は、2013年以降、成果主義型の 資金提供を行い、途上国支援を行うための基金を設立しており、成果(排出削減量)の判断 基準としてクレジットが活用されていることが多い。例えば、Pilot Auction Facility(PAF) では、CDMを含めた様々なオフセット制度からのクレジットを2000万トン近く購入する 契約を結んでいる。

さらに、企業の環境貢献をアピールするための自主的なCERの取り消しである。規制を 遵守するためではなく、自らの企業イメージの改善のためにクレジットを購入する需要も 存在している。以前は、CERは、このような企業イメージ改善のためのクレジットとして は取引されていなかったものの、2014年以降、しだいに取引量を増やしていると、UNFCCC 事務局は報告している。CDM理事会も、このような需要に対応するため、CDM登録簿で の自主的取消しの手続きを設けるとともに、ウェブ上で取消し手続きを認めるなどの利用 促進策を講じている。

これらの需要は2020 年までに見込まれる需要であるが、2021 年以降は、更に別な需要 もあると予想されている。

6 UNFCCC Secretariat “Carbon market and policy development” CDM EB97 30 October to 3 November 2017

7 2015年から2017年までは、韓国国内のCDMプロジェクトに由来するクレジットを合計で約1

5000tCO2e利用することが認められていた。2018年以降については、2015年まで韓国国内、韓国国

外のクレジット合わせて約4tCO2eの利用が認められている。

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