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第 2 章 . JCM を含む市場メカニズム活用を通じた温室効果ガス排出削減の在り方に関する

1. JCM の動向

日本政府は、途上国の温暖化対策の実施を支援するために様々な事業を実施している。政 府開発援助を通じた支援以外の取組みとして、近年、注目を集めているのが二国間クレジッ トメカニズム(JCM)である。JCMでは、優れたGHG排出削減技術、サービス・システム、

インフラを途上国への導入を支援し、その結果、得られた排出削減量を日本の目標達成に活 用するものである。

2010年から、実施可能性調査(FS調査)などの取組みが開始されるとともに、関心を持 つ途上国との協議を行われ、2017年末までには、JCMを実施するために17カ国の政府と JCMを実施することで合意した。

図 3 JCMの基本的な考え方

(出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

図 4 JCMパートナー署名国

(出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

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(1). JCMにおける登録済みプロジェクト、クレジット発行の動向

① ホスト国と導入技術の動向

JCMの実施を合意したパートナー国においては、日本とパートナー国が協力して運営す る合同委員会が JCMの管理・運営を行っている。具体的には、JCM プロジェクトとして 実施される事業の排出削減量を算定するためのMRV方法論の承認、GHG排出削減事業の 登録、排出削減量へのクレジットの発行などである。

JCM の実施を合意したパートナー国では、既に、実際に排出削減事業を行う JCMプロ ジェクトも、7カ国、25件にも上る。さらに、その中の4カ国において合計で約10,000tCO2e の排出削減が達成されている。

登録されたプロジェクトを見ると、インドネシアが9件のプロジェクトを登録しており、

登 録 さ れ た プ ロ ジ ェ ク ト の 予 想 年 間 排 出 削 減 量 で も さ ら に ク レ ジ ッ ト に つ い て も

19,000tCO2e と最も多い。ただし、実際のクレジットの発行がなされた排出削減量につい

ては40tCO2eに留まっている。

インドネシアに次いでプロジェクトが登録されているモンゴル(5件)は予想年間排出削 減量もインドネシアについで約 14,000tCO2e となっている。さらに、これまでに約

9,000tCO2eのクレジット発行がなされ、クレジット発行がなされている4カ国(インドネ

シア、モンゴル、パラオ、ベトナム)の中で最も多い排出削減量となっている。

表 14 JCM登録済みプロジェクト

バングラ

デシュ

インドネ

シア ラオス モンゴル パラオ タイ ベトナム 合計

太陽光 2 3 1 6

LED 1 1

タコグラフ 1 1

建物省エネ 2 2

工場省エネ 1 1

高効率

エアコン 1 4 1 1 7

高効率

ボイラー 2 2

高効率冷蔵庫 3 3

省エネ熱供給

システム 1 1

送電網 1 1

総計 1 9 1 5 3 1 5 25

(出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

24 表 15 JCM登録済みプロジェクトの年間平均予想排出削減量(単位:tCO2e)

バングラ

デシュ

インドネ

シア ラオス モンゴル パラオ タイ ベトナム

太陽光 13,327 650 440 14,417

LED 567 567

タコグラフ 292 292

建物省エネ 787 787

工場省エネ 17,822 17,822

高効率

エアコン 485 761 467 792 2,505 高効率

ボイラー 298 298

高効率冷蔵庫 255 255

省エネ熱供給

システム 166 166

送電網 610 610

総計 485 19,004 567 14,092 650 440 2481 37,719

(出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

表 16 JCMクレジット発行対象排出削減量(単位:tCO2e)

インドネシア モンゴル パラオ ベトナム 総計 省エネ

(送電網)

151 151

省エネ (冷凍庫)

40 40

省エネ (熱供給)

157 157

省エネ(運輸) 288 288

太陽光発電 8,947 881 9,828

総計 40 9,104 881 439 10,464

(出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

導入されている技術を見ると省エネ関連の技術が多い。運輸、交通、エアコン、冷蔵庫など、

エネルギー効率の高い機器の導入を目指すプロジェクトが大半を占める一方で、再生可能 エネルギーに関しては太陽光発電のみとなっている。ただし、予想排出削減量では工場省エ ネについで多く、実際にクレジットの発行対象となりうる排出削減量を見ると最も多い削 減量となっており、排出削減量で見ると太陽光発電によるものが大半を占めている。

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② JCMで導入される技術の背景と今後の課題

上記のようにJCMでは、主に省エネ、再生可能エネルギー、中でも太陽光発電などの技 術が導入されている。これは、登録前のFS調査段階で導入が検討されている技術を見ても 同様の傾向が見られ、省エネの占める割合が最も高く、再エネの中では、太陽光発電が最も 多い。

このような傾向は、後述する京都議定書の下で実施されているCDMとは大きく異なる。

CDMは、途上国において排出削減プロジェクトを実施し、その結果、得られた排出削減量 を先進国の京都議定書の目標達成に活用する制度であり、JCMと類似している部分もある。

特に、CDMでも先進国の企業と途上国の企業が協力して、途上国内で排出削減事業を行う 点はJCMと似ている部分があるが、導入されている技術については大きくことなる。

CDMでは、主に再生可能エネルギー関連のプロジェクトが実施されており、その中でも 水力、風力の割合が多く、太陽光発電の割合は非常に小さい(CDMプロジェクトのうちの 1%)。またCDMの下では、省エネプロジェクトの割合は非常に小さい(全登録件数の8%)。 このような違いは、JCMは技術の移転を念頭において制度構築されたのに対して、CDM においては技術移転については、大きな優先順位は与えられていなかったことも影響して いる可能性がある。CDMの下で技術移転されたプロジェクトを調査したUNFCCC事務局 の報告書では、技術移転がなされたと考えられるプロジェクトは全体のプロジェクト件数 の約33%に留まるとの結果が示されている4

図 5 JCM FS調査で導入が検討されている技術

(出所)各種資料を踏まえて日本エネルギー経済研究所作成

4 UNFCCC “ THE CONTRIBUTION OF THE CLEAN DEVELOPMENT MECHANISM UNDER THE KYOTO PROTOCOL TO TECHNOLOGY TRANSFER” 2010

26 特に、水力発電、風力発電などでは技術移転された割合は低くなっているが、太陽光発電 では、調査した時点では100%のプロジェクトで技術移転がなされていたことが報告されて いる。制度の当初の目的において技術移転を行うことを主眼と置くかどうかの違いは、この ような導入される技術の違いを生じさせている可能性はある。省エネ部門についても、工場 での自家発電に関連するプロジェクトで技術移転の割合は低い傾向が見られたが、サービ ス部門での省エネ(83%)やエネルギー供給部門での省エネ(70%)では比較的高い割合で 技術移転がなされたものと報告されている。

このようなCDMプロジェクトの経験を踏まえると、JCMにおいては、技術移転が必要 な技術が採用されているものと思われ、それが CDM の採用技術との違いが生じる要因の 一つとなっている可能性がある。つまり、JCMは途上国への技術移転を促す制度として機 能しているとも言える。その一方で、署名国は17カ国に上っているものの、プロジェクト の登録件数、クレジット発行対象となりうる排出削減量については、更に拡大させていく余 地は多い。今後、さらにプロジェクトの登録件数を伸ばすとともに、登録したプロジェクト の下で排出削減量を増やしていくことが求められているといえるだろう。

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