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第 3 章 . 海外の市場メカニズムの動向調査

2. 各国における市場メカニズムの動向

市場メカニズムに関して欧米の先進国だけではなく、近年は中国、韓国などの新興国、途 上国において導入の動きが見られる。欧州のEUETSは2012年まで最も大きなクレジット の需要源として国際的なクレジット取引市場に大きな影響力を及ぼしてきた。また、近年、

既に述べたように韓国の排出量取引制度は CDM クレジットの利用を認めるなど国際的な 市場メカニズムにも影響を及ぼして生きている。ここでは、市場メカニズムに関する海外の 主要な動向についての調査した結果を報告する。

(1). 米国における市場メカニズムに関する動向

2016年にオバマ大統領の下で米国は、パリ協定を批准し、既設の火力発電所を対象とし たクリーンパワープランを策定するなど、温暖化対策に積極的に取り組んだが、トランプ大 統領は選挙期間中から気候変動問題については懐疑的な発言を繰り返し、当選後は、環境規 制を撤廃するとともにパリ協定から脱退すると述べていた。

政権発足直後、トランプ政権はクリーンパワープランの見直し、パリ協定の脱退などを決 定し、オバマ政権の温暖化対策を撤廃する方針を打ち出している。しかし、パリ協定の脱退 通知が有効となるのは2020年とされており、また、国務省内では、今後もパリ協定の加盟 国として交渉に関与し続ける方針が示され、事実、2017 年にドイツ、ボンで開催された

COP23 において米国も代表団を派遣し、協議に参加している。また、国務省の方針では、

ICAOの下でのCORISAについては、今後も参加し続ける方針が示されており、大きな変

更をなされないものと思われる。

一方で、ブッシュ政権時代から、一部の州では、連邦政府とは別に、温暖化対策に積極的 に取り組み、排出量取引制度などが導入されている。

米国、北東部のニューヨーク州などの9州は、2009年から火力発電所だけを対象とした 独自の排出量取引制度、Regional Greenhouse Gases Initiative(RGGI)を実施している。

RGGIに参加している9州が、2017年8月に、RGGIの2021年以降、2030年までの制度 改正に合意した。21 か月にも及んだ制度見直し作業の結果の合意であったが、この制度改 正により、2030 年までに規制対象となっている発電所の排出量を30%削減するとともに、

価格低迷に対応するために、余剰の排出枠の繰越しの制限、価格動向を踏まえて排出枠の市 場への供給管理を行うEmissions Containment Reserve(ECR)の設立等の対策も、新たに 盛り込まれた。さらに、当初、RGGIから脱退していたニュージャージー州は、2017年の 州知事選で民主党系の知事が誕生したことに伴い、改めて RGGI に参加することが決定さ れた。また、バージニア州でも民主党系の州知事がRGGI に参加する意向を示しており、

今後、RGGIへ参加する州が拡大していく可能性もある。

カリフォルニア州においては、2006年に共和党系のシュワルツネッガー知事の下で排出 量取引制度を中心とした温暖化対策を実施する法案が可決され、2013年から排出量取引制 度が実施されている。2017年8月には、2020年以降、2030年までの排出量取引制度を実

41 施するための改正案を可決した。この中では、2020年以降、上限価格を設定することが決 まるとともに、カリフォルニア州内での排出削減活動に由来するオフセットクレジットの 利用を増加させること、排出枠のオークション収益について、より幅広い用途を認めること 等が決められた。

このように、RGGI、カリフォルニア州の排出量取引制度はともに 2017年に2020年以 降、2030年まで制度を継続することで合意しており、温暖化対策を更に進めていくことが 決まっている。このように、連邦政府レベルで温暖化対策が後退する一方で、州レベルでの 温暖化対策は更に進んでいく可能性がある。

(2). EUにおける市場メカニズムに関する動向

EUは2014年に2030年の温室効果ガス排出削減目標として1990年比40%を決定した が、この2030年目標の達成には、現行の関連指令の改正が必須となる。欧州環境庁(EEA) が2017年に発表したEUの排出量見通しによれば、2020年目標は1990年比26%まで削 減することで達成する可能性が高いことと推計されている。一方で、2030年目標は、現行 の政策だけでは達成ができないと推計している。

このため、2030年目標を達成する観点から、欧州排出量取引制度指令(EUETS指令)の改 正が注目されていた。2030年目標を達成するためにEUETSでは、2005年比で43%削減 することが2030年目標において設定されており、これを達成するための制度改正案が2015 年7月に欧州委員会から提案された。

そして、提案から2年4カ月の議論を経て2017年11月、ETS指令(2003/87/EC)改正案 を採択することに欧州議会、加盟国、欧州委員会が合意した。

図 11 EUの温室効果ガス排出量と削減目標、排出見通し

(出所)EEA(2017) Trends and projections in Europe 2017

42 今後、欧州議会本会議、欧州理事会での採択手続きを経て、官報に公示された後に、施行 される予定である15。本指令改正案は、2021年以降のEUETS第4フェーズの制度を規定 する。以下に第3フェーズからの改正部分の概要を示す。

 毎年の排出上限の減少率を第3フェーズの1.74%から2.2%に引き上げ

 ETSによる電力価格上昇分への産業部門向け補償(Compensation)を、オークション 収入の25%を上限とする。ただし、補償対象、補償額、補償理由を公表することで 制度の透明性を確保する。

 産業部門向け無償割当を2030年までの「移行措置」と明確に位置付けて継続。

 2016年-2017年の2008年からの効率性改善率を踏まえベンチマーク値を

見直し、将来のベンチマーク値の減少幅もこれを踏まえ決定。

 カーボンリーケージのリスクに曝されているセクターへの 100%無償割当 を継続。

 無償割当の際に、設備容量の増減ではなく、直近2年間の生産量の増加・

減少を踏まえて割当量を決定

 CSCF(cross-sectoral correction factor)16が適用される場合に備え、オー クションの一部を“free allocation buffer”とする。加えて、後述の Modernization FundとInnovation Fundの一部を、CSCFが適用される 際に無償割当に振り分ける。

 総EUAの57%は、オークションで割当を実施。

 このうち2%をModernization Fundとし、主に東欧諸国へ分配。東欧諸国

の電力部門の現代化を支援、発電設備等の改修費用を無償割当の形で設備所 有者へ割当。

 ただし、資金拠出の対象国は2013年の一人当たりGDPがEU平均の 60%を下回ること。

 また、拠出された資金が設備の改修に適切に活用されたことを確認する ことができるように透明性を確保すること。

 4.5億トンのEUAの売却益を基に、Innovation Fundを創設、EIBが運用し、CCS 等のプロジェクトへ投資。

 EUA 取引価格を安定化させるための市場安定化留保(MSR(Market Stability

Reserve))へ第3フェーズの新規参入リザーブ等の未割り当て分を繰り入れ。また、

MSR への毎年の繰入比率を当該年に予定されている EUA オークション量の 12%

から24%に引き上げる。

15 原稿執筆時点では公示されていなかったが、319日に官報に公示された。

16 オークション量と、ベンチマークにより計算された無償割当量との合計が、決定された全体の排出上限 を超過しないよう、適用される調整係数。

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 国際クレジットは引き続き利用禁止。

 域外の主要国の気候変動政策動向を把握し、必要に応じて国境調整措置等を WTO ルールに基づき導入を検討する。

(3). 中国における市場メカニズムに関する動向

2016年に習近平国家主席が、2017年から全国レベルでのGHG排出量取引制度の導入を 発表したことを受けて、いつ制度が開始されるのかに注目が集まったものの、政府からの正 式な発表はなかなか発表されなかった。2013年以降、順次、発足した中国の試行的排出量 取引制度は、全国的な排出量取引制度に関連した不透明なニュースや情報が交錯している 中、実施されていた。

2016 年に創設された福建省市場を含む 8つの試行的排出量市場の価格は、2017年の年 初の1月2日から12月25日まで、概ね安定した価格推移を見せたが、一部の市場では、

将来的に制度が不透明な状況の影響を受けて激しい値動きを見る場合もあった。

各市場の具体的な価格変化として、北京市はトンあたり55.40 元から 56.38 元に微増、

上海市は27.21元から34.00元に上昇した一方で、広東省は14.27元から13.20元に微減、

天津市は15.05元から8.51元に大幅下落、深セン市は32.23元から30.00元に下落、湖北

省19.28元から15.60元に下落、重慶市は14.22元から4.75元大幅下落、福建省は37.77

元から26.40元に大幅に下落した。北京市、上海市、広東省、深セン市、湖北省といった、

制度設計や市場運営を比較的慎重に行っている市場では総じて、大きな価格変動は見られ なかった。

2017年3月に国家発展改革委員会の「新規CCERプロジェクトの審査停止」の通知があ り、これを受けて広東省ではCCER が低価格で売り出されていたなどの影響があったもの の、その一方で2017年6月に広東省は地方政府として中国の初林業オフセットの方法論を 採用するなどの動きが見られた。また、湖北省は、オフセットの対象地域を省の25の最も 貧しい地域に限定し、最貧困地域への助成政策として試行的排出量取引市場の役割を強化 し、2018年1月に湖北省は排出量取引制度の対象基準を引き下げて対象企業数を約40%増 やして排出枠の割当案を発表した。

試行的排出量取引制度の下での規制対象企業の遵守状況に関しては、2016年の割当案に 対して北京は 98%、上海 99.7%、広東省 100%、深セン市 99%、天津市 100%、福建省 97.8%となっており、大半の規制対象企業が遵守していることが明らかになっている。

全国レベルでの排出量取引制度については、2017年の年末を迎えた12月19日に発展改 革委員会が「炭素排出権取引の樹立に関する全国テレビ会議」を開催し、中国全国版 ETS の正式な開始を宣言した。

会議によると、中国国務院の「全国炭素排出権取引市場構築に関する方案(発電産業)」 を策定した上で、まず電力産業のみを対象に実施することが正式に決定された。年間 CO2 排出量が2.6万トン(石炭消費換算約1万トン)という基準で対象となる電力企業が1,700社 程度、総排出量が30億トン超になる見込みである。また、排出権の割当にはベンチマーク

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