東北薬科大学
審査学位論文(博士)要旨
氏名(本籍) アオキ ユウタ
青木 祐太(栃木県)
学位の種類 博士(薬学)
学位記番号 甲第134号
学位授与の日付 平成26年3月18日
学位授与の要件 学位規則第4条1項該当
学位論文題名 炎症性疼痛下における麻薬性鎮痛薬の鎮痛効果減弱機 構
論文審査委員
主査 特任教授 櫻 田 忍 副査 教 授 石 川 正 明 副査 教 授 丹 野 孝 一
炎症性疼痛下における麻薬性鎮痛薬の 鎮痛効果減弱機構
論文内容要旨
東北薬科大学大学院薬学研究科 機能形態学教室
青 木 祐 太
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炎症性疼痛下における麻薬性鎮痛薬の鎮痛効果減弱機構
東北薬科大学大学院薬学研究科 機能形態学教室 青木 祐太
緒言
炎症性疼痛は、免疫反応や直接的な組織の損傷によって傷害された細胞から水 素イオン、bradykinin、histamine、ATP、NO などの炎症メディエーターが放出さ れることで形成される自発痛、浮腫、熱的疼痛過敏や機械的アロディニアを主症 状とする痛みである。神経障害性疼痛とは異なり、炎症性疼痛には NSAIDs が著 効するが、それでも疼痛管理できない患者も多く存在している。一般的に、炎症 性疼痛に対してはmorphineなどの麻薬性鎮痛薬が効果的であることが報告されて いる。しかし、そのほとんどは侵害性の熱刺激や機械刺激に対する麻薬性鎮痛薬 の効果を評価したものである。炎症性疼痛に罹患した患者にとって問題となるの は熱刺激や機械刺激よりも床ずれなどによって生じる触刺激である。また、神経 障害性疼痛とは異なり、炎症性疼痛や癌性疼痛などでは痛みの部位は一か所にと どまらず複数の部位での痛みを訴える患者が多い。特に炎症性疼痛は関節リウマ チのように左右対称に症状が出るにも関わらず、実験動物モデルを用いた炎症性 疼痛に対する鎮痛効果を比較した実験は、コントロール群と炎症群の投与側のみ を比較しているものが多い。近年我々の研究室では、炎症性疼痛におけるアロデ ィニアに対しては morphine の鎮痛効果が減弱することを発見した。本研究では、
炎症性疼痛モデルにおける機械的アロディニアに対する各種麻薬性鎮痛薬の効果 をコントロール群と炎症群で両側性に評価するとともに、炎症性疼痛下における アロディニアに対する morphineの鎮痛効果減弱機構の解明を試みた。
実験結果
実験 に は ddY 系 雄性マ ウ スを使 用 し た 。使用薬 物 と して Complete Freund’s adjuvant(CFA)および morphine、fentanyl、oxycodone、methadone、Ro-32-0432 を使用した。Morphine、fentanyl、oxycodone、methadone は生理食塩水または人工 脳脊髄液(CSF)に溶解し、マウス頚部皮下(s.c.)または脊髄クモ膜下腔内(i.t.)
に投与した。また Ro-32-0432 は DMSO に溶解し CSF で任意の濃度に希釈した後
に i.t.投与した。炎症性疼痛モデルは、CFA(50 μl)をマウス右後肢足蹠に投与す
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ることにより作製した。CFA 誘発性炎症性疼痛モデルにおける機械的アロディニ アと麻薬性鎮痛薬の鎮痛効果は、von Frey filament法を用い測定した。脊髄後根神
経節(DRG)および腰髄における exon-1 含有 MOR-1 スプライスバリアントの
mRNA 量およびμオピオイド受容体タンパク質量の定量 にはそれぞれ半定量的 reverse transcription-polymerase chain reaction (RT-PCR)法および western blotting 法を用いた。
実験結果
CFA投与による機械的アロディニアの発現および経日的変化
マウス右後肢足蹠に CFAを投与した後、炎症側および非炎症側における疼痛閾 値の変化を経日的に測定した。非炎症側後肢では、CFA投与後 40日間にわたり疼 痛閾値に変化は認められなかった。一方炎症側後肢では、CFA投与後 1 日目から 34日に渡り疼痛閾値の有意な低下が認められた。
炎症性疼痛モデルマウスにおけるmorphine の鎮痛作用
マウス右後肢足蹠にCFAを投与した1日後および4日後にmorphineを7.1 mg/kg
(s.c.)および 5.0 nmol(i.t.)投与し、その鎮痛作用を測定した。Morphineの鎮痛 作用は、s.c.および i.t.のいずれの投与経路においても、CFA 投与後コントロール 群に比べ有意に減弱した。また、この減弱は非炎症側および炎症側の両側で認め られた。
炎症性疼痛モデルマウスにおけるDRGおよび腰髄での exon-1含有MOR-1スプラ イスバリアント mRNA発現量の変化
マウス右後肢足蹠に CFA を投与した後、DRG ならびに腰髄における exon-1 含
有 MOR-1 スプライスバリアント mRNA の発現量を測定し、CFA 投与群とコント
ロール群間で比較検討した。DRG におけるexon-1含有 MOR-1 スプライスバリア ント mRNAの発現量は、CFA 投与 1 日後においてのみ両側性に有意に低下した。
一方、腰髄においてはCFA 投与1 日後と 4日後において両側性の低下が認められ た。
炎症性疼痛モデルマウスにおける DRG および腰髄でのμオピオイド受容体タン パク質量の変化
マウス右後肢足蹠に CFAを投与した後、DRGならびに腰髄における MOR-1 タ ンパク質量を経日的に測定し、CFA 投与群とコントロール群間で比較検討した。
DRGにおける MOR-1 タンパク質量は CFA投与 1日後において、炎症側において
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のみ有意に低下した。4 日後においては変化が認められなかった。一方、腰髄に おいては、CFA投与後変化は認められなかった。
炎症性疼痛モデルマウスにおけるμ オピオイド受容体リン酸化の関与
マウス右後肢足蹠に CFAを投与する直前に Protein kinase Cα(PKCα)阻害薬 である Ro-32-0432(1.0 nmol, i.t.)を投与し、翌日にmorphine(7.1 mg/kg, s.c.)の 鎮痛作用を測定した。またCFA を投与する直前から Ro-32-0432 (1.0 nmol, i.t)
を 24時間おきに4回投与し、翌日に morphine(7.1 mg/kg, s.c.)の鎮痛作用を測定
した。Ro-32-0432 の単回投与ならびに連続投与のいずれも、非炎症側における
morphine の鎮痛効果は完全に、また炎症側における morphineの鎮痛効果は部分的
に改善した。
炎症性疼痛モデルマウスにおける fentanyl、oxycodone、methadoneの鎮痛作用 マウス右後肢足蹠に CFA を投与した 1 日後、fentanyl(0.113 mg/kg, s.c.)、
oxycodone(2.1 mg/kg, s.c.)および methadone(2.8 mg/kg, s.c.)の鎮痛作用を測定 した。Fentanyl、oxycodone の鎮痛作用は、CFA投与後、コントロール群に比べ有 意に減弱した。この鎮痛効果の減弱は、非炎症側および炎症側の両側で認められ
た。一方 methadone の鎮痛作用は、CFA 投与後コントロール群に比べ有意に減弱
したが、この減弱は炎症側でのみ認められた。
考察・結論
CFA 投与後機械的アロディニアに対するmorphine の鎮痛作用は s.c.投与または i.t.投与のいずれにおいても両側性に減弱した。この現象は、非炎症側においても 炎症が広がっていることを示唆している。アロディニアのような触刺激は一般的 に一次知覚神経の Aβ線維を介して伝達されるのに対して、熱的疼痛過敏などの 熱刺激は C線維を介して伝達される。一方、morphineの作用するμオピオイド受 容体は一次知覚神経の C 線維に最も高密度に存在し、Aβ線維にはほとんど存在 していない。しかし von Frey filament 法においてmorphine は鎮痛効果を示すこと
から、von Frey filamentによる刺激は触覚を伝達する Aβ線維を介して伝達される
というよりはむしろ触刺激を伝達する特殊な C線維を介して伝達されている可能 性が高い。熱を伝達する C 線維とこの触刺激を伝達する C線維は機能的に異なる ため、炎症によって影響をうける可塑的変化も異なり、morphine の鎮痛効果にも 違いが生じた可能性がある。一方、CFA 投与後 exon-1 含有 MOR-1 スプライスバ リアントのmRNAとμオピオイド受容体のタンパク質量は炎症側においてのみ減
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少 し た 。 ま た 、CFA 投 与 に よ る 炎 症 性 疼 痛 の 形 成 前 に PKCα 阻 害 薬 で あ る
Ro-32-0432を前処置したところ、morphineの鎮痛効果は非炎症側においては完全
に、炎症側においては部分的に改善された。以上の結果から、CFA 投与後炎症側
のmorphine鎮痛効力の減弱にはμオピオイド受容体の減少とμオピオイド受容体
のリン酸化が関与しているが、非炎症側における減弱にはμオピオイド受容体の リン酸化のみが関与している可能性が考えられる。本研究において、μオピオイ ド受容体mRNAが減少しているのにもかかわらずμオピオイド受容体タンパク質 量が変動しなかったが、これはPKCαによってリン酸化を受けたμオピオイド受 容体が膜上に留まるためmRNAが減少してもタンパク質量が変化しなかった可能 性がある。一方、炎症性疼痛下において、fentanyl、oxycodone の機械的アロディ ニアに対する鎮痛作用は両側性に有意に減少した。これに対し、methadone の鎮痛 作用は炎症側においてのみ減少した。Methadone はμオピオイド受容体に親和性 の高い l-methadone と NMDA 受容体拮抗作用をもつ d-methadone から構成されて いる。NMDA受容体の拮抗はオピオイドの鎮痛耐性に拮抗し、鎮痛効果を増強す ることも報告されている。よって、methadoneは炎症性疼痛下においてはμオピオ イド受容体と NMDA 受容体の両方に作用し相乗効果によって強力な鎮痛作用を 有することが示唆された。
結論として、炎症性疼痛下における機械的アロディニアに対して麻薬性鎮痛薬 の鎮痛効果は著しく減弱した。炎症側における鎮痛効果の減弱は主にμオピオイ ド受容体の減少を反映したものであり、非炎症側における鎮痛効果の減弱はPKC αによって引き起こされるリン酸化による受容体の脱感作による可能性が示唆さ れた。
主論文(原著論文)
Yuta Aoki, Hirokazu Mizoguchi, Chizuko Watanabe, Kumiko Takeda, Tsukasa Sakurada, Shinobu Sakurada: Potential involvement of μ-opioid receptor dysregulation on the reduced antinociception of morphine in the inflammatory pain state in mice. Journal of Pharmacological Sciences (2014) in press. DOI:10.1254/jphs.13242FP
Yuta Aoki, Hirokazu Mizoguchi, Chizuko Watanabe, Tsukasa Sakurada, Shinobu Sakurada: Differential alternation of the antinociceptive effect of narcotic analgesics on the inflammatory pain state. Neuroscience Letters 560 (2014) 122-125.