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東北医科薬科大学 審査学位論文(博士)要旨

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Academic year: 2021

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東北医科薬科大学

審査学位論文(博士)要旨

氏名(本籍) オダイラ タカヨ

小平 貴代(福島県)

学位の種類 博士(薬学)

学位記番号 博薬学第11

学位授与の日付 令和2310

学位授与の要件 学位規則第4条1項該当

学位論文題名 海馬 AMPK 活性化による抗うつ作用とそのメカニズム解明に 関する研究

論文審査委員

主査 授 溝 口 広 副査 授 高 橋 知 副査 授 丹 野 孝

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海馬AMPK活性化による抗うつ作用とそのメカニズム解明に関する研究 東北医科薬科大学大学院薬学研究科 薬理学教室 小平 貴代

うつ病は意欲減退、体重減少、睡眠障害などの精神的及び身体的症状を呈す る疾患である。厚生労働省の調査によると平成30年度の健康理由による自殺者 の大部分をうつ病が占めていたとされる。現在のうつ病治療では多くの抗うつ 薬が汎用されているが、医療費圧迫及び長期服用によるコンプライアンス低下 の面からうつ病の予防療法及び新規治療法の開発が求められている。

うつ病モデル動物として当研究室では嗅球摘出 (Olfactory bulbectomy: OBX) マウスを用いてうつ病の病態及び抗うつ薬の作用メカニズムの解明を行ってき た。このマウスでは尾懸垂試験 (Tail-suspension test: TST) 及び強制水泳試験 (Forced swimming test: FST) で無動時間の延長として評価されるうつ様行動に加 え脳内のモノアミン神経伝達系を中心とした障害が確認されている。さらに、

これらの障害は既存の抗うつ薬を慢性投与することで改善が認められている。

これらのことからOBX動物は臨床的妥当性のあるうつ病モデル動物として注目 されている。

継続的な運動にはうつ病の予防効果があることが近年の研究で示唆されてい る。運動による抑うつ気分の改善にはAdenosine monophosphate (AMP) 活性化プ ロテインキナーゼ (AMP-activated protein kinase: AMPK) の関与が示唆されてい る 。 さ ら に AMPK の 活 性 化 作 用 を 有 す る Metformin5-Aminoimidazole-4- carboxamide-1-β-D-ribofuranoside (AICAR) 及び Resveratrol がうつ病患者やうつ 病モデル動物のうつ様症状を改善することが報告されている。しかしながら、

脳内のAMPK活性化がどのようなメカニズムで抗うつ作用を示すかは十分に明

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らかにされていない。

以上の背景より、本研究ではOBXマウスにAICARを投与しAMPK活性化に よる抗うつ作用及びその作用メカニズムの解明を目的として行動薬理学的、神 経化学的及び分子生物学的に検討した。

OBX法から21日目におけるOBXマウスでは、TSTにおける無動時間の延長、

すなわちうつ様行動が認められた。この無動時間の延長はAICARの急性投与で はなく 14 日間の慢性投与により有意に短縮され、抗うつ作用を示した。また

AICARによる抗うつ作用はFSTにおいても認められた。これらのことから持続

的なAMPK活性化が抗うつ作用に関与することが示唆された。

これまでにAMPKの活性化はプロテインキナーゼ (Protein kinase: PK) Cζ 活性化を促すこと、そのPKCζは核内因子κB (Nuclear factor-kappa B: NF-κB) 介して神経の細胞増殖、成長因子として知られている脳由来神経栄養因子 (Brain-derived neurotrophic factor: BDNF) の分泌を促し、Tyrosine kinase receptor type 2 (TrkB) 受容体を介してサイクリックAMP応答配列結合タンパク (Cyclic AMP response element-binding protein: CREB) をリン酸化することが報告されて いることから、これらのタンパクのリン酸化及び発現レベルを Western blotting 法により評価した。その結果、AICAR を慢性投与することで海馬 AMPK 及び

NF-κBのリン酸化が認められた。さらにOBX群で認められる海馬PKCζCREB

のリン酸化レベル及びBDNF発現レベルの減少は、AICARの慢性投与によって 有意に改善された。

抗うつ薬の作用機序としてこれまで脳内モノアミンの上昇に起因するモノア ミン仮説で理解されていたが、臨床で認められる抗うつ作用の発現時期と抗う つ薬のモノアミン濃度が上昇する時期が乖離しているなどの矛盾があった。

2000年代になり抗うつ薬はBDNFなどを介して海馬で認められる神経細胞の産

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生を促進させることから神経細胞新生仮説が提唱されるに至っている。このこ とから海馬歯状回における神経新生がAICARの投与により促進されているか否 かを免疫組織化学的染色法にて評価した。その結果、OBXマウスの海馬歯状回 では新生細胞マーカーである5-Bromo-2’-deoxyuridine (BrdU) 及び未熟神経細胞 マーカーである Doublecortin (DCX) を共発現している神経新生細胞数は減少傾 向を示した。一方AICARを慢性投与することによりBrdU/DCX陽性細胞数は有 意に改善した。したがって、海馬AMPKの活性化が神経新生を促進させること を明らかにした。

AICARによる抗うつ作用に PKCζの活性化が関与しているか否かを明らかに

するため PKCζ 阻害薬である Myristoylated PKC pseudosubstrate (Zeta-inhibitory

peptide: ZIP) を併用し、AICARの抗うつ作用を評価した。その結果、OBXマウ

スへの AICAR 慢性投与により認められていた TST での無動時間の短縮は ZIP

を併用することで消失した。また、AICAR慢性投与により認められていたBDNF 発現量の上昇と海馬歯状回における神経新生促進作用も ZIP の併用により有意 に抑制された。神経新生にはBDNF及びその受容体であるTrkB受容体の活性化 が関与していることから、AICAR の抗うつ作用に TrkB 受容体の活性化が関与 しているか否かを検討するためTrkB受容体アンタゴニストであるANA-12の効 果を検討した。その結果、AICARの慢性投与による抗うつ作用はANA-12の併 用によって消失した。また、海馬神経新生への影響を検討したところ、AICAR 投与により認められていた神経新生促進作用は ANA-12 を併用することで有意 に抑制された。これらの結果よりAICARは海馬AMPK/PKCζ/NF-κB経路により BDNFの発現上昇を促しTrkB受容体を介して海馬歯状回における神経細胞の増 殖を促していることが示唆された。

次にAMPKによる一連のシグナル経路の活性化が海馬のどの細胞種で起きて

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いるかを特定するため Neuronal nuclei (NeuN: 成熟神経細胞マーカー)、DCX、

Ionized calcium binding adaptor molecule 1 (Iba-1: ミクログリアマーカー) 及び Glial fibrillary acidic protein (GFAP: アストロサイトマーカー) を使用しリン酸化 AMPK との共局在を免疫組織化学的手法で染色し観察した。その結果、リン酸 AMPKNeuN、DCX及びIba-1陽性細胞で共局在が認められたが、GFAP 性細胞においてはリン酸化AMPKとの共局在は認められなかった。この結果を 踏まえ、AMPKの下流に存在する NF-κB NeuN、DCX 及びIba-1 のいずれの 陽性細胞で活性化しているかを検討した。その結果、リン酸化 NF-κB NeuN 及び DCX 陽性細胞で共局在を示し、Iba-1 陽性細胞とは共局在は認められなか った。これらの結果よりAMPKによる一連のシグナル活性化は未熟及び成熟神 経細胞内で起きていることが示唆された。

以上の本研究での結果を総括すると、AICAR は海馬成熟神経細胞及び未熟神 経細胞内のAMPK/PKCζ/NF-κB経路を活性化し、BDNF発現量の上昇を生じる。

次いで、BDNFTrkB受容体に作用してCREBのリン酸化を介し、神経新生を 促進して抗うつ作用を示すことを明らかにした (Fig. 1)。また海馬AMPKを活性 化する薬物が新規抗うつ薬に成り得る可能性を示唆した。

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Fig. 1. Hypothesis of AICAR antidepressant mechanism.

主論文 (原著論文)

Odaira T, Nakagawasai O, Takahashi K, Nemoto W, Sakuma W, Lin JR, Tan-No K.

Mechanisms underpinning AMP-activated protein kinase-related effects on behavior and hippocampal neurogenesis in an animal model of depression.

Neuropharmacology. 2019;150:121-133.

Fig. 1. Hypothesis of AICAR antidepressant mechanism.

参照

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