九州工業大学研究報告(工学)No.62 1991年3月 15
亜鉛一鉄合金電析における表面形態と結晶構造の関係
(平成2年12.月3日 原稿受付)
物質工学科田渕誠
物質工学科津留 豊
物質工学科松永守央 物質工学科細川邦典
Study on Relationship between Surface Morphology and Crystal Structure of Zinc−Iron Alloy Electrodeposits
by Makoto TABUCHI Yutaka TSURU Morio MATSUNAGA K皿isuke HOSOKAWA
Abstract
Electrodeposits of zinc−iron alloy were prepared from a sulphate solution under the condition of direct current(D. C.)electrolysis or pulsed current(P. C.)electrolysis. The relationship between crystal structure and surface morphology was investigated by X−ray diffraction and scanning elec−
tron microscopy. We found the following results.
(1) Electrodeposits of about 6 at%Fe identified asη一phase always exhibit a hexagonal plate−1ike morphology and electrodeposits of about 12at%Fe identified asδ1−phase always exhibit a platelet.
like morphology independently of the condition of D. C. electrolysis or P. C. electrolysis.
(2)The crystal structure and surface morphology of electrodeposits obtained by P. C. electrolysis are under the i㎡luence of average pulsed current density in shorter pulse period as O・001 second and pulsed current density in longer pulse period as l second, respectively・
のように呼称されている電析反応である。したがって,
1.緒言
亜鉛一鉄合金電析では,その反応機構とともに得られる 亜鉛一鉄合金皮膜は亜鉛のみの皮膜より,化成処理後 電析物の状態もまた大変複雑で,従来のように表面形態 の有機塗膜の密着性,他の金属との溶接性および耐腐食 および結晶構造を電析電流あるいは電極電位で整理する 性に優れることから,防錆用下地電着皮膜として利用さ ことは容易でない。
れている(1)。 本研究では,結晶と称する一般の物質の表面形態がそ 亜鉛一鉄合金電電析は亜鉛一ニッケル,亜鉛一コパル の結晶構造を反映していることに着目し,同様の考察を ト合金電析とともに,異常型共析の代表的な反応系であ 電析皮膜の表面形態と結晶構造の関係に試みたものであ る(2)。ここで異常型共析とは,例えば亜鉛と鉄を電気 る。
化学的に比較すると,鉄の方が亜鉛よりはるかに貴な金
2.実験方法 属で,電析の場合,鉄が先に析出するはずであるが,予
想に反して亜鉛の方がより多く析出するところから,こ 電解浴には市販特級の硫酸第一鉄(2価)0.5mol/dm3,
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硫酸亜鉛0.5mol/dm3およびクエン酸0.0027mol/dm3を 加すると結晶の大きさは(b)のように(a)のおよそ1/3まで 純水に溶かして,pH2.0に調整したものを利用した。電 微細化が進んだ。このように電流密度の増加に係わる電 解は浴温度40±0.5℃,無撹はん,窒素雰囲気の条件下 析結晶の微細化は,過電圧の上昇によるものであるとさ に,定電流電解法および矩形波パルス電解法で実施した。 れている③。しかし,さらに電流密度が大きくなり 電解セルはビーカータイプの槽を使用した。試験電極に 10A/dm2程度になると,むしろ個々の結晶が大きくな は1×1cm2の銅板を用い,研磨,脱脂後,裏面とエッ り,これまでの表面の特徴とは全く異なった(c)のような ヂの部分をフロンテックスで絶縁被覆,さらに電解研磨, 薄い板状結晶が多数重なった段階状の表面に変化した。
酸洗の処理を行なったものを使用した。対極には白金板 そして,50A/dm2では(d)のように微細化した階段状の を使用した。 表面とともに局所的に半球状の結晶が析出するように 合金組成は電析皮膜を酸に溶解した後,原子吸光分光 なった。以上のように電流密度の増加にもかかわらず結 法による分析を行ない,得られた分析結果をもとに計算 晶が粗大化し,しかも形態が大きく変化する現象は単一 によって決定した。表面形態の観察には走査型電子顕微 金属の電析からでは考えにくく,このような合金電析に 鏡(SEM)を利用した。結晶構造はX線源にCuKα おける表面形態が,その組成および結晶構造の変化に密 線を用い,得られたX線回析の結果をもとにA.S.T. 接に結びついていることを示唆した。
M.カードを用いて同定した。 3.1.2 合金皮膜の組成と結晶構造
図2,に得られた合金皮膜中の鉄含有率と電流効率の 3.実験結果および考察
関係を示した。また,図には冶金学的に得られた合金組 3.1 直流電解法 成から推定される結晶相(4)をも併せて示した。図より 3.1.1 表面形態に及ぼす電流密度の影響 合金中の鉄含有率は電解電流密度の増加とともに増し,
図1に,直流電解法で得られた亜鉛一鉄合金電析皮膜 電解浴中の鉄濃度の割合に等しい50at.%に近づく傾向
の表面写真を示した。写真(a)〜(d)はそれぞれ電解電流密 にあることがわかった。また,図1との比較から写真(a),
度が1,5,10,および50A/dm2で得た合金皮膜の表 (b),(c)および(d)は鉄をそれぞれ1,6,12.5および30〜
面形態を示す。いずれの場合にも通電電気量を1000 35at.%含んだ合金であることが明らかになった。
C/dm2に統一している。写真より,電流密度が1A/dm2 100 50 で電析した合金皮膜からは(a)のような六角形の板状結晶 _ ぺ80 からなる結晶が観察され,電流密度が5A/dm2まで増 こ 〉呂60
ξ
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Direct current dens|ty(Aldm2)
α+「
「
「+δ1
δ1
δ1+ζ
ζ η+ζ
Fig.2 1nfluence of direct current density on Fe content,
current efficiency and crystal structure of alloy de−
posits.
図3に,合金皮膜のX線回折パターンをそれぞれ示し た。図1,図2および図3の比較から以下のことがわか
る。まず,図1(a)のような表面では,図3(a)のように亜
鉛に1at.%程度鉄が固溶したη相のみの回折ピークが 認められるので,六角形の板状結晶はZnの最密六方構Fiぽ f㍍:撫:麗1:識蕊還㌢濃;造の撒・対応するものといえる・図1(・)のような鉄を
current electrolysi& 5〜6at.%含んだ合金皮膜は,図2に示した冶金学的
亜鉛一鉄合金電析における表面形態と結晶構造の関係 17
結晶相から判断するとη+ζ相の混合領域であるにも の表面形態は合金の平均組成よりもX線回折による結晶 かかわらず,なお図3(b)のようにη相のみが析出して 構造に良く対応していることが明らかになった。
いることから,表面形態がη相の特徴を示すことは, 3.2 パルス電解法
X線回折の結果に何ら矛盾してないと言える。図1(c)の 3.2.1 表面形態に及ぼすパルス周期の影響 ような鉄を約12.5at.%含んだ表面になると,図3(b)に パルス電解条件にはパルスパラメータとしてパルス電 示したδ1相のみの回折ピークが認められ,図2に示し 流密度(ip),パルス平均電流密度(im=ip×Ton/θ)
た冶金学的結晶相と一致した。このδ1相はγ一黄銅 およびデューティ比(r=Ton/θ)がある。ここでは
(体心立方構造)に似た構造をもつと言われている(4) パルスパラメータのうちでも表面形態と結晶構造に比較
(5)
ので,図1(c)の薄い板状結晶からなる階段状の表面 的影響の大きいパルス周期(θ)の効果について述べる。
は,δ1相の面心立方構造によるものと考えることがで 図4に,パルス周期(θ)が表面形態に及ぼす影響につ きる。さらに,図1(d)のような鉄を30〜35at.%含んだ いてまとめて示した。電解条件はip=50A/dm2, im=
合金皮膜は冶金学的にはα+F相の混合領域である。 5A/dm2およびr=0.1である。写真(a)および(b)は,パ しかし,図3(d)ではδ1相の回折ピークのみが認められ, ルス周期がそれぞれ0.001秒,1秒の条件下に得られた 表面形態とX線回折による結晶構造との間に良く対応の 電析物の表面である。写真(a)と(b)の比較から,表面形態
とれていることがわかる。以上の結果から合金電析皮膜 は同じパルス電流密度および平均電流密度で電析したに もかかわらず非常に異なるので,パルス周期の影響の大
≧
巴 皇 工
o △△o o△ △ 。 一
きいことがわかる。とくに,直流電解法とパルス電解法
了 (o)
で得られた表面写真を比較すると 図1(b)は図4(a)と
1・/ll ↓° また輌は図4(b)によく似た表面形態の特徴を不して
l lllいるの℃亜鉛一鉄合金電析においてパル癬で得ら
れた電析皮膜の表面形態は,パルス周期が0.001秒と非 O 常に短い場合には平均電流密度に,一方周期が1秒と長
1△ (b) 臓合にはパルス電流鞠・密接な関係のあることが明
● (c)
1ノム. △ △
ll ↓ 1
Fig.4 Scanning elec仕on micrographs of the surface moト (d) phology of Zn−Fe alloy deposits ob伍ined by pulsed
current electrolysis.桝!;; __解法で得られた合金皮膜の組成●
30 40 50 60 70 80 90 と結晶構造
2e(degree) 図5に図4と同様の電解条件で得られた合金皮膜中の
Fi苦3 X.ray diffracti①n patterns of the Znぶe alloy de. 鉄含有率と電流効率およびパルス周期の関係を示した。
posits obtained by direct current electrolysis. 図よりパルス電解の場合,周期が比較的短い0.001〜0.1
灘δ蕊隠鑓隠謡㍑認秒の範囲において鉄含有率は5−・a%と飾を示
substrate. した。一方,周期が0.1秒以上になると鉄含有率は周期
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の増加とともに増し,周期が100秒では鉄含有率は33.5
4.まとめ at.%にも達し,直流電解法の50A/dm2で得られた値に
ほぼ等しくなった。このことから,鉄含有率もまた表面 硫酸酸性浴から亜鉛一鉄の合金電析を直流法とパルス 形態の場合と同様,パルス周期の大きな影響を受けるこ 電解法を利用して実施し,得られた電析皮膜の表面形態 とが明らかとなった。 と結晶構造の比較から以下のようなことが明かとなった。
図6に,図4と同様の電解条件で得られた合金皮膜の (1)直流およびパルスのいずれの電解法においても,鉄 X線回折バターンを示した。図4,図5および図6の比 含有率が6at.%以下で観察される六角形の板状結晶は 較から,図4(a)のような六角板状結晶の表面からは,図 η相におけるZnの最密六方構造に,また, Fe含有率
6(a)のように鉄が亜鉛に6at.%固溶したη相のみが認 が12.5at%で観察される階段状の結晶はδ1相の立方 められ,図4(b)のような薄い板状の階段状結晶からなる 格子に対応した。
表面は,図6(b)のように鉄が12.5at.%含まれたδ1相が (2)パルス電解法で得られた電析皮膜の表面形態,鉄含 析出していることが明らかとなった。以上の結果から, 有率および結晶構造は,周期(θ)が非常に短い場合に パルス電解においても直流電解法の場合と同様,表面形 は平均電流密度(im)に,周期が長い場合にはパルス 態と結晶構造とは互いに良い対応を示すことがわかった。 電流密度(ip)の影響を受けることが明かとなった。
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Pulse period ( s )
参 考 文 献
α+「 @ (1)島 芳延ら:鉄と鋼,72,954(1986)
(2)福島 久哲ら:金属表面技術,33,574(1982)
「 (3)N.Ibl etc.;Surface Technolog兄6,287(1978)
「十δ】
(4)Max Hansen;Constitution of Binary Alloys p.737(1958,
Mc Graw−Hill Book Company)
δ1 (5)桐山 良一ら:構造無機化学Ip.200(1979,共立全書)
δ,+ζ ζ η+ζ
Fig.5 1nfluence of pulse period on Fe c①ntent, current effidency and crystal structure of alloy deposits.
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巴
2
£ザ川 † ↓
30 40 50 60 70 80 90
2e ( degree )
Fi苦6 X−my diffraction patterns of Zn−Fe alloy deposits obtained by pulsed current electrolysis.
Simbols O,●and△represent, respectivilyη