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物質工学科恵良秀則物質工学科岸武勝彦

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(1)

急冷凝固高炭素鉄合金に生成する新しい相の

       透過電子顕微鏡による解析

(平成4年11.月30日 原稿受付)

物質工学科若山  物質工学科恵良秀則 物質工学科岸武勝彦

Analysis on a New Phase Formed in Rapidly Solidified High−Carbon Iron Alloy Through     Transmission Electron Microscopy

by Noboru Wakayama

  Hidenori Era

  and

  Katsuhiko Kishitake

Abstract

  High−carbon iron alloys have been rapidly solidified into ribbons by a single roller method to form a

new phase. Transmission electron microscopy makes clear that the new phase is of an A13 structure and has a lattice parameter of O.63nm. The phase decomposes by tempering to precipitate MS−Iwhich has a body−centered cubic structure near ferrite. The MS−Iphase possesses a peculiar crystallographic orienta.

tion relationship with theψphase matrix, resulting in an elongated morphology. The MS−Iphase changes gradually to ferrite and the retainedψphase to carbide near cementite by a further tempering.

      解析が可能である。

 1.緒 言

       本報告では,九工大TEMを用いた観察・解析例とし  透過電子顕微鏡(TEM)は,結晶内部の微細組織や   て,高炭素鉄合金を溶融状態から超急冷した材料を用い

微小欠陥の情報を種々のモードを使って得られるという   た。急冷凝固を行なうと組織が微細になり,また通常で

利点がある。拡大像(明視野像,BFI)による微細構   は得られない特殊な構造も出現する可能性がある。電子 造の解析はもちろん,電子線回折図形(DP)を併用す   顕微鏡法はこのような組織・構造の解析には極めて有効

れば,結晶学的情報も同時に得られることになる。さら   である。そこで,本研究によって生成した新しい相を主 に,微小領域における元素の種類や組成も検出器(ED   として電子顕微鏡法を用いて解析したので報告する。

X)によって比較的容易に把握される。九工大のTEM

       2.実験方法

(H−9000NAR)は上記の仕様を兼ね備えており,さら

・に極微小領域(ナノ領域)における化学分析や結晶学的    九工大TEMの最大加速電圧は300kVであるので,

解析も行なうことができ,いわゆる原子レベルでの構造   電子線の波長(λ)は0.00197nmより小さくできない。

(2)

本研究では分解能の点も考慮して最大加速電圧を用いた。  ジェット法)により作製した。電解液(リン酸:硫酸:

DPにおけるカメラ長さ(L)は5段階可変であるが,   水=64:15:21)は室温程度とし,電圧は約10Vで行 L=1.Omを採用した。したがって,カメラ定数(Lλ)  なった。試料によってはイオン・ミリング法(電圧:5

は1.97mm・nmである。なお,カメラ定数はAlを用い   kV,傾斜角:15°)によって作製したものも用いたが,

て既に確認を行なっている。また,Al−Cu合金のGP  数十時間の作製時間を要した。

ゾーンを利用して,BFIとDP間に面内回転のずれが

      3.結果および考察 ないことも予め確認した。高分解能電顕像(HRTE

M)はフィルム上で最大1.5・107倍拡大可能であり,    3.1急冷凝固ままの組織と構造 本研究では5・105〜10・105倍で像を得た後,光学的に    3.1.1 EPMAによる組成像

拡大した写真を用いた。その他,X線回折(Co−K。)    Fig.2に合金における急冷凝固リボンの長手方向断面 及びEPMA(加速電圧:10kV)像も併用した。     の組成像を示す。 Fig.2(a)の下側がロール面に近い領域  材料は予め高周波溶解炉で溶解し,インゴットを作製   なので,凝固は写真の下方から始まっており,凝固速度

した。このインゴットを粉砕後,先端をノズル状に加工   が上側より大きいと考えられる。写真の上側,すなわち したシリカ管に挿入して再溶解し,回転する銅製のロー   凝固速度が遅い領域は複雑な組織を呈しているが,Fig.

ル(径:210mmφ,回転速度:90Hz)に吹き付けて急冷   2(b)の拡大像から樹枝状晶を形成していることがわかる。

凝固リボンを作製した(Fig.1)。作製した急冷凝固リボ   ロール面に近い領域では,比較的大きな等軸の結晶粒が ンは2種類で,化学組成はFe−2.7C−1Si−10Cr−10Mo合   形成されている。

金及びFe−3.OC−4Si−11Cr合金(いずれもmass%)で    3.1.2明視野像と制限視野回折

ある。前者をM合金,後者をS合金と呼ぶことにする。    Fig.3は, Fig.2(a)の上側部分のTEM像である。 Fig.

 急冷凝固したリボンの組織は主に非平衡相から成るの   3(a)に明視野像(BFI), Fig.3(b)に制限視野回折パ

で,焼戻しによる非平衡相の分解挙動も調べた。熱処理   ターン(SADP)を示す。組成像で見られた樹枝状晶

は,試料を特定の温度に3.6ks保持し空冷する方法を採   は, Fig.3(c)に示す解析結果から,面心立方構i造のオー 用した。       ステナイト(γ)相であることがわかった。なお,Fig.

 TEM用の薄膜試料は主に電解研磨法(ツイン・  3(b)のSADP中に見られる数多くの小さなスポットは,

       γ相のまわりに晶出した炭化物からのものであろう。

      3.1.3対称パターン

     o      O      O      O

molten alloy−一

 一方,Fig.2(a)の下側の部分の等軸結晶粒から得たS

ADPは,鉄系合金で現在まで知られているいずれの相

O       u       輪

Φ       ㌣

       ロ

●−

唐奄撃奄モ=@nOzzle       ご      、、    轟シ ・趨

2

3

6

蚕1

/      e

coPPer roller       −・ 4頴■■齢粥

,,→

      Fig.2 Scanning electron micrographs(longitudinal section):

Fig. l Schematic illustration①f single roller method.       (a月ow magnification and(b)and(c)high magnifi段tion.

(3)

にも合致しなかった。そこで,対称性の高い方向から電   と計算結果は良く一致しており,また規則格子等からの

子線を入射させて,SADPを撮った。 Fig.4は,左か   回折ピークは観察されないことから,基本的にはAl3構

ら順に4回,2回および3回の対称パターンである。こ   造の無秩序な固溶体であると考えられる。

のパターンから,等軸結晶粒の相はブラベー格子(14空    3.1.5 高分解能電顕像

間格子群)中,体心立方格子および面心立方格子のいず    本研究において現われた新しい相を,高分解能電顕像 れにも属さず,単純立方格子に属することが知られた。    (HRTEM)で確かめた。 Fig.6(a)およびFig.7(a)は,

また,カメラ定数(Lλ=1.97mm・nm)を用いて,   それぞれ4回および3回対称パターンを用いて結像させ

回折スポットを解析した結果,この相の格子定数は   たものである。Fig.6(a)では,0.63nm(ニa)を基本と 0.63nmとなり,かなり大きな単位胞を形成しているこ   する4回対称の周期構造が観察され, Fig.7(a)では,

とがわかった。      0.89nm(=〜/2 a)を基本とする3回対称の周期構造が  3.1.4 x線回折      観察される。Fig.6(b)およびFig.7(b)は, A 13構造のぞ

 X線回折用のリボンは,自由表而部をできるだけ取り   れそれの場合の原子配置模式図である。模式図とHRT 除き,さらに粒状に粗く砕いたものを用いたが,Fig.5  EMは極めて良く一致しており,新しく現われた相はA

④に示すようにγ相の回折ピークもわずかに見られる。   13構造と結論される。なお,著者らはこの相をψ相と呼 格子定数a=0.63nmの立方晶として,回折ピークの指   んでいる。

数付けをした結果も合わせてFig.5(a)に示している。

(221),(310),(311)などの回折強度が高く,これは

A13構造(β一Mn型;P4132, cP20)の特徴を強く反映 している。Fig.5(b)は,結晶構造因子,多重度因子,

ローレンツ偏り因子および鉄原子のみの散乱因子を考慮

して計算したAl3構造のX線回折強度である。実験結果

Fig.4 Electron diffracti①n patterns of equiaxed grains:

   (a)four_,(b)tow_, and(c)three fold symmetries.

ヒ 望 巴 乙

合       [コ8

_        

十十

5N     S等斜 入

§§;§§百『言三講

Fig.3 Transmission electron micrographs, showing austenite     30  40 50 60 70 80 90 100 110 120

   dendrite:      2θ(deg.)

   (a)bright−field image,(b)selected area diffraction     Fig・5 X−ray diffraction pr①file of equiaxed grains:

   pattern, and(c)indexed result.       (a)experimental result and(b)calculated intensities.

(4)

 A13構造は,単位胞に20個もの原子を有し,また原子 充填率は0.713である。鉄系合金において,現在までこ のような相は急冷凝固法のみで生成している。また,低 い原子充填率は,ψ相が非晶質相にある意味で近いこと

を示唆している。

 3.2 非平衡固溶体ψ相の分解

 3.2.1 明視野像における結晶方位と析出形態

 Fig.8は,各温度に焼戻したときのBFIである。

Fig.8(b)および(c)は電子線入射方向を[oo1]ψにそろえ

ている。凝固ままでは,析出物は見られないが(Fig.8

(a)),573Kに焼戻すと,ψ相の{120}面に沿って小さ  Fig.6(a)High resduti①n electron micrograph viewed along

な析出物が形成される(F・g・(・))・この小さな析出物の 1瓢=:1瓢;㍑5〔bn㎡

まわりでは,コントラストが変化しており,これはいわ ゆる ひずみコントラスト である。すなわち,ψ相か

らの析出は整合析出である可能性が高い。773Kの焼戻

しでは,析出物はψ相{12α面に沿って成長すること

がわかる。さらに高温の973Kになると,析出物はもは

や方向性を示さず,等軸の結晶粒組織となる。

 3.2.2 ステレオ観察

 方向性のある析出物の形態を確認するため,TEM内

で試料を回転させ,ステレオ写真を得た。Fig.9の2枚

のBFIは,紙面上下方向を軸として,互いに9°異

なった方向から得たものである。ステレオ・ビューアを 用いて,三次元的に観察した結果,析出物は棒状である

ことがわかった。また・棒状析出物の長手方向は・ψ相   F恒7(a)High resolution electron microgmph viewed along の〈120>方向に平行であることも確認された。         [111]direction and(b)schematic illustration of

3.232相からの制限視野回折       ・t・m−g・m・nt・f A13 s仕uct眠

 析出物の構造の解析及びψ相との結晶方位関係をSA DPにより調べた。 Fig.10(a)および(d)は,それぞれ凝固

よって析出物を生成させると,Fig.10(b)の(oo1)ψパ ターンに示すように,ψ相のいくつかの回折スポットに

重なったスポットが生じる,Fig.10(d)の(012)ψパター

ンでは,ψ相の回折スポットから少しずれたスポットも

観察される。これらの新しく現われたスポソトを解析し   (c}  砥    酬■

た結果,体心立方構造の相が出現することがわかった。

さらに,この析出物の格子定数は0.290nmであり,格

子定数はα一Feよりわずかに大きい。非晶質相が結晶化

するとき,体心立方構造の相が生成し,この相はMS−

1相と呼ばれている。本研究において析出した相も構造

はMS−1相と同じであると考えられる。 Fi910(b)と(d)  Fig.8 Sequence of decomposion ofψphase:(a)as−solidified,

を合わせて考えると,母相ψ相と析出物MS−1相の結     (b)573K・(c)773Kand(d)973K・

(5)

晶方位関係はFig.11のように表わされ,下記のごとく

なることがわかった。

       (001)MS−1// (012)ψ

       (010)MS−1 //  (021)ψ

       (100)MS−1// (100)ψ  3.2.4 ナノ領域回折と化学分析

 S合金もM合金と同様にψ相が生成した。しかし,S 合金においては,MS−1相の析出温度範囲が非常に狭 く,比較的低い温度の焼戻しでMS−1相が消失する傾

向にあった。Fig.12は, S合金の組織が等軸結晶粒に変

化する直前のTEM像である。方向性のある組織が見ら

れるが,等軸結晶粒も出現しつつあることがわかる。

Fig.12のBFIに見られる細長く伸びた白いコントラス

ト領域からナノ領域電子線回折パターンを得た(Fig.12

(b))。なお,電子線回折の領域は黒い斑点(コンタミ  Fig・10 Electmn diffracti①n patterns of samples as−solidified        ((a)and(c))and tempered at 673 K((b)and(d)).

ネーション)の部分である(矢印Aで示している)。ナ     (a)and(b):electmn beam//[001]ψ,and(c)and(d):

ノ領域回折パターンは,白いコントラスト領域が格子定     //[Ol2]ψ・(過:ψphase, hkl:precipitate)

数0.287nmの体心立方構造であることを示している。

一方,黒いコントラスト領域(矢印Bで示している)は,   《°,  麺       {b,  迦

斜方晶であることがわかった(F…12(・))・矢印A・B 場1・

で示した領域のEDXスペクトルをFig.13に示す。白   w。 1ho導

いコントラスト領域はSiの濃度が高く,黒いコントラ    。。1。堕 仙

スト領域はCrの濃度が高い,以上の結果から, MS一     鴛二        皇!9 120  山●

1相はα一Feに変化し,ψ相はCrに富むセメンタイト    1!。 oτ。

系の炭化物へと変化してゆくことが明らかになった。       凹

 山

oo

  llo 1量9      110

Ψ 12。咀   迎. 導

o  ollI      lllo

。。1◆

增B,。、,。。? 一。8廟。セ 四  .川   一一 

辿 企 鯉

響o、、「 皿    1110四

⑩1       並 」迩

   o製皇       110  2 o

,oo  埋Ω

    ●ψphase:hkl  l     Oprecipitate:hkl

100

110 1o

w、. 導一   1110      ・1凶lo ● O1 1

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一〇81δ dセoα α30Ho2 一 oゆ

辿 企 鯉 9旦皇製Ω旦皇

  四

P110

●坦O川 並 」迩

IOl@    ■lo      一

110 lo

loo 2堕      迎

Fig.11 Stereo diagrams, showing crystallogmphic orientati①n     relati①nship betweenψphase and precipitate.

    (hkl: ψphase, hkl:precipi伍te)

      8

0・1μm       々

      Fig.12 Transmission electron micrographs①f sample tempered at

      623K:(a)bright neld image;and(b)and(c)nano−area

Fig・9 St・・e・−P・i・mi・r①9mph・・f p・・ti・lly d・・①mp・・ed   diff・a,ti。n p。tt。。n,。bt。i・・d f・・m・egi・n・i・di・・t・d by

   ・t・u・t・・e・fψph・・e(673 K)・      。,r。w、 A。nd B,。e,p。,ti。。ly.

(6)

(a)      Fe

  Si       Fe Cu

Ti 23456−「78

Fig.13 EDX spectra obtained from regions indicated by     arrow A(a)and arrow B(b)in Fig.12.

 4.緒 言

 高炭素鉄合金を単ロール法によって急冷凝固したとこ ろ,新しい相が出現した。著者らは,この相をψ相と名 付け,九工大透過電子顕微鏡の種々の手法を使って検討

したところ,次のような結果を得た。

1) ψ相はA13構造(a=0.63nm)をもつ非平衡の固  溶体である。

2) ψ相の分解に際しては,体心立方構造のMS−1相  が析出する。

3)析出MS−1相は整合析出物であり,母相ψ相と特

 定の結晶方位関係を有する。

4)MS−1相はα一Feに変化し,母相ψ相はセメン

 タイト系の炭化物へと変化する。

 謝 辞       1

 本報告書を作成するにあたり,助力して頂いた本学大

学院博士後期課程の李平氏に感謝する。

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