九州工業大学研究報告(工学)No.68 1996年3月 65
竹の乾留液に関する研究
(平成7年11月30日 原稿受付)
物質工学科木藤武利 物質工学科田川大輔
Study on the dry distillation liquid from bamboo
by Taketoshi Kito Daisuke Tagawa
論文要旨
竹の乾留液を,溶媒,酸一アルカリへの溶解度などにより分離し,分析を行った。その結果,竹の乾留液中には,弱 酸性成分としてはグアイアコール,フェノール,o−, m−,官クレゾールなどが含まれていることが分かった。強酸性 成分はほとんどが酢酸であった。また乾留温度を変えて行った実験では,乾留温度にかかわらず主成分は酢酸であり,
セルロースなどの分解で生じたと思われる中性成分も20%前後生成したが,弱酸性成分(フェノール類)と塩基性成分 は,200℃を越えてから10%前後得られた。
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Abstract
Dry distillating liquid from bamboo was separated by the solubility in solvents, acid, and alkaline and analyzed. As a result, it was found that the distillate contains guaiacol, phenol, o−, m−, and p−cresol(weak acid products), acetic acid(strong acid one), neutral products, and basic products.
Distilation was carried out varying distillation temperature. Acetic acid was always the main P,。d。,t・nd・w・ight・f・b・ut 20%in t・t・l p・・d・・t・w・・n・ut・al p・・d・・t・・whi・h migh・b・f・・m・d by the decomposition of cellulose and other homologues.
Both weak acid products such as phenol and basic products distilled out above 200℃,but their yields were about 10%.
らの肥料や抗菌剤は天然物に由来するため,人体や環境
1・緒言 に及ぼす影響は小さいと思われる。
竹の乾留液とは,竹の常圧下で乾留させたとき得られ 植物は主にセルロース,ヘミセルロース,リグニンか る乾留液を意味し,有機成分と水との混合物である。 ら構成されており,6)竹の乾留液の成分はこの3成分
竹を炭化させたとき生成する乾留液は,これまであま の熱分解によって生成すると考えられる。ヘミセルロー り利用法がなく,廃棄されてきた。竹の乾留液に似たも スやリグニンは各植物で固有のものであり,乾留液の構 のに木を乾留したときに生成する木酢液があるが,これ 成物質も固有のものが生成するであろうし,乾留温度や には植物の成長促進作用が認められ,肥料として用いら 乾留条件によっても変化すると思われる。本研究は以上 れている。5)したがって竹油にも同様な効果が期待出 のことを念頭に置き,竹の有効な利用法を見い出すため 来る。また孟宗竹の緑色の表皮部分を削り取った物のア に行った。
ルコール抽出物に天然系のグリセリンと脂肪酸グリセリ 2.結果および考察
ンエステルを加えると,化学合成で作った抗菌剤と同程度の抗菌力を持つ天然の食品抗菌剤を製造することが出 竹の乾留液(特に断らないかぎり,乾留は300℃で 来る,と報告されている。1)抽出物中にある2,6一ジメ 行った)500ml(468g)を図1にしたがって処理し,ヘ トキシパラベンゾキノンに幅広い抗菌作用があるとされ キサン可溶物,ベンゼン可溶物,エーテル可溶物を得た。
ている。このことから,竹の乾留液の中にも抗菌作用を 乾留液に対する割合はそれぞれ0.26%,0.81%,2.71%
示す物質が含まれている可能性があると思われる。これ であった。それぞれの抽出物をさらに5%NaHCO3水
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竹の乾留液 量88:L
① ヘキサン抽出
ヘキサン抽出物1.219 水槽
アルカリ抽出 ベンゼン抽出 ⑨⑩
⑭ ヘキサン可溶物
(Ext−1)
アルカリ可溶物 水槽
(Ext−2) 3.77 9
ベンゼン抽出物
アルカリ抽出工一テル可溶物
⑪⑫⑬
ベンゼン可溶物アルカリ可溶物 12・669 図一3 ベンゼン抽出のGC分析結果
(Ext−3) (Ext−4)
図一1 溶媒への溶解度による分離
竹の乾留液
NaC1で飽和後 工一テル抽出 工一テル層 水槽
⑥ _」辿・・C・・拙
工一テル層 オ帽
次にヘキサン可溶物とベンゼン可溶物を1NNaOH 図一4酸一アルカリによる分離
で洗浄し,Ext−1〜Ext−4とエーテル可溶物の5つに分離した(図1参照)。Ext−1と一2をGCで分析したとこ
①
②
ピ、ミ ③
④ ⑤ ⑦ ⑧
ろ・Ext−1のクロマトグラムには顕著なピークは認めら 各80 れなかったが・Ext−2(図2)には8つのピークが認め 成
られた。その中の2本(②③⑥)は中程度以上のピーク 分60
であった(①は溶媒によるピーク)。そこで既知物質の の 保持時間と比較したところ・②はグアイアコールと判断 割40さ㍍ン抽出物のGC分析結果を図3}こ示す.この合2・
中の①は溶媒に起因する。主なピークとして⑨⑩⑭があ (wけ)
1 ∠ピ
三.,
6全 留
5分 4中 の3割 2合
λ、、、
る。これらのピーク中⑨は,Ext−3(アルカリ可溶物) 100 150 200 250 300 の方にも認められたが他のピ_クの成分はほとんど 乾留温度 (℃ )
Ext−4の方に移った。これらの成分を既知物質の保持時 図一5 酸一アルカリによる分離結果(1)
間と比較することにより,101113はそれぞれフェノー ○強酸性成分,●弱酸性成分,■中性成分,□塩基性成分 ル,o一クレゾール,卿一クレゾール,ρ一クレゾールと判 破線全留分中に占める4成分の割合
断された。エーテル可溶物は高沸点物と考えられる。
竹の乾留を温度を変えて行い・7つの留分に分け,各 れないことになる)。図の各乾留温度における重量%は,
留分を図4にしたがって強酸性成分,弱酸性成分,中性 その温度までに留出した各成分の量を,4成分の合計量 成分,塩基性成分の4つの成分に分離した。結果を図5 で割った値である。
に図示した(たとえば・乾留の最も低い温度は96℃であ これらの結果より,乾留温度が高いほど全体の留出量 るが・その留分にはそれ以上の沸点を有する留分は含ま (図5の破線と右の縦軸を見よ)は多く,個々について
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見ると,その中でも強酸性成分が最も多いが,高温では 次に各成分のGC分析を行った。その結果強酸性成
全体に対する合がやや低下する。弱酸性成分と塩基性成 分はほとんどが酢酸であり,弱酸性成分はフェノール性分の量は乾留温度200℃までは少しずつ増加するが,全 化合物(前述したグアイアコール・フェノール・クレ 体に対する割合は200℃を越えてから少し増加し,最終 ゾールなど)であった。中性成分のGCは多数のピー
的には中性成分と弱酸性成分はほぼ同じ割合となった。 クを示し,各成分の同定は困難であった。また図6に,各成分の全体量(即ち300℃における各 植物の主な構成成分はセルロース,ヘミセルロース,
成分の量に相当する)で,各温度における各成分の留出 リグニンである。セルロースは180℃で,ヘミセルロー 量を割った値を示した。強酸性成分と中性成分は96℃に スが240℃で,リグニンが280℃で分解すると報告されて おいて大半が留出している(それぞれ63.5%と55.8%)。 いるので,中性成分は恐らくこれらの分解物であろ それに対し,弱酸性成分と塩基成分は,200℃を越えて う。6)
も留出量は半分に満たない(203℃においてそれぞれ 次に乾留液を調製後16ケ月放置してから分離を行った 10.2%と34.7%)。 結果と,図4の300℃における結果を表1に示す・この 図と表の結果を比較すると,組成に明らかな違いが認め られる。特に,放置した方では塩基成成分が減少し,弱 100
各80雰6。
翁4・
蕊1
100 150 200 250 300
乾留温度(℃) 3.実験
図一6 酸一アルカリによる分離結果(2)
2−1 分析試薬と機器 ○強酸性成分,●弱酸性成分,■中性成分,口塩基性成分
各温度における4成分の合計量 抽出酬およびは標準試薬は・市販品の鰍を用いた
破線; 最終的な合計量 ×100 坑一部一級を使用した・その場合も・GC分析により 酸性成分が増加している。このことから,空気中に放置 すると塩基性成分の酸化が進行することが分かる。
参考までに,木の乾留液を同じように処理した結果を 文献から抽出して示した。竹と木の乾留液の分析結果を 比較しても,両グループ間に大きな違いがあるとは言え ないが,重量%で比較すると,竹とクヌギの組成が類似
している。7)
表一1 乾留液の組成分分析(wt%)a)・b)
乾鰍は強離成分弱酸性成分中繊分塩基性成分合計
No.1 3.97 0.98 1.04 0.49 6.47 61.3 15.1 16.0 7.6 100.0
No.2 4.08 1.21 1.11 0.06 6.47 63.1 18.7 17.2 1.0 100.0
アカマッ 4.16 1.06 2.17 0.47 8.13
51.2 13.0 26.7 9.1 100.0
クヌギ 9.10 2.77 3.22 1.17 16.26
56.0 17.0 19.8 7.2 100.0
ユーカリ 9.24 7.78 5.26 6.52 28.80
32.1 27.0 18.3 22.6 100.0
ヒノキ 3.81 0.61 1.74 0.25 6.41
59.4 9.5 27.2 3.9 100.0
a)上段は全体に対する割合(水を含む),下段は抽出された4成分に対する割合。
b)No.1は図5の300℃における乾留液でNo.2は16ヶ月放置後の乾留液である。
No.1,2共上の段は乾留液100gを処理したとき最終的に得られた各成分の,全体に対する 割合(残りは水)である。
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使用に差し支えないことを確認した。
GC分析は,島津製作所GC.14A(FID)で行った。 4・文献(引用文献および参考文献)
インジェクションおよびカラム温度260℃。昇温速度 竹に関する文献
5℃/分。分析方法・100−250℃の昇温GC。カラム, (1) 「天然の食品抗菌剤」,日経産業新聞,1990年,3 DB−17(J&W社製30m×0.25mm)。 月17日.
2−1−1 竹の乾留液の溶媒への溶解度に (2)Takayoshi Higuchi, Chemistry and Biochemistry よる分離 of Bamboo , Bamboo Journal, No.4,132(1987).
竹の乾留液500ml(4689)をヘキサンで抽出し,ヘキ (3)野村隆哉,「実生モウソウチクの走査型顕微鏡によ サン抽出物を得た。次にこれを5%NaHCO3水溶液で る観察」, Bamboo Journa1, No.5,43(1987).
洗浄したが,抽出物はほとんど得られなかった。さらに (4)三宅勇,杉浦銀治,「竹材の乾留と生産物について」,
2N NaOH水溶液で洗浄した。その結果得られたヘキサ 林業試験場研究報告,第62号,7(1953).
ン可溶物をExt−1とする。アルカリ溶液は1N HC1で酸 木酢液及び木材に関する文献
性とした後工一テル抽出を行い,エーテルを留去した。 (5)Mitsuyoshi Yatagai and Genji Unrinin, Germina.
これをExt−2とする。同様な操作を図1に従って行い, tion and growth regulation effects of wood vinegar Ext−3, Ext−4および最終的なエーテル可溶物を得た。 components and their homologs on plant Seeds 収量は図1に記入してある。 (acids and neutrals) , Mokuzai Gakkaishi, vol.35
2−1−2 竹の乾留液の酸・アルカリによ ,564(1989).
る分離 (6)石田仲彦,米沢保正編,「木材化学(上,下)」12章,
竹の乾留液を図4のフローチャートにしたがって,4 共立出版(1968).
つの成分(強酸性成分,弱酸性成分,中性成分,塩基性 (7)Mitsuyoshi Yatagai, Genji Unrinin, and Tatsuro 成分)に分離した。 Ohira, Components of wood vinegars , Mokuzai Gakkaishi, vo1.34184(1988).