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大腿骨頚部内側不顕性骨折の 1 例

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Academic year: 2021

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は じ め に

 高齢化社会に伴い,高齢者の骨折が問題となっている。

とくに大腿骨頚部骨折は頻度が多く,早期診断,早期の 観血的治療そして早期臥床が勧められる。これら大腿骨 頚部骨折に,単純レントゲン像では明らかな骨折線がみ られない不顕性骨折(occult fracture)が存在すること が知られている。大腿骨頚部不顕性骨折は治療の遅れが 骨折の癒合不全や臥床期間の長期化や患者のADL低下,

全身合併症の出現を招き,予後の悪化につながる。

 我々は初診時の単純レントゲン像では異常を認めな かったものの,MRIと骨シンチグラフィーによって大腿 骨頚部不顕性骨折を早期に診断することができ,またそ れに対する治療法について検討したので報告する。

症   例

症例:89歳,女性 主訴:右股関節痛

現病歴:平成12年10月8日,誘因なく右股関節痛が出現 し,歩行不能となり当科受診。単純レントゲン像上骨折 を認めず,精査目的に入院。

既往歴:平成12年1月に膀胱癌があり放射線治療が行わ れた。肝臓に転移はあったものの,骨シンチグラフィー 上の骨への転移はみられなかった。

現症:右股関節の可動域はほぼ正常。腫脹,熱感はなく,

市立室蘭医誌(第28巻 第1号 平成15年4月)

大腿骨頚部内側不顕性骨折の 1 例

       市立室蘭総合病院 整形外科

松 村 忠 紀  大 山 直 樹  石 川 一 郎  金 谷 邦 人  大 野 富 雄      

要   旨

 症例は89歳,女性,平成12年10月8日,誘因なく右股関節痛が出現し,歩行不能となり当科受診。単純レント ゲン像上骨折を認めず,精査目的に入院。発症後3日のMRIでは,T1強調画像で右大腿骨頚部に線状の低信号域 が見られた。発症後1週間の骨シンチグラフィーで,同部に集積像が見られ,大腿骨頚部内側不顕性骨折と診断し た。保存的に経過観察していたが,発症後5ヶ月で骨折部の転位がみられたため再入院となり,セメントを用いた 人工骨頭挿入術を施行した症例を経験した。

キーワード

occult fracture,大腿骨頚部骨折

圧痛はScarpa三角部にあり,Patrick testは陽性であっ た。

画像所見:発症後2日の入院時単純レントゲン像(図1)・ 断層写真(図2)で,明らかな骨折は見られなかった。発 症後3日のMRI(図3)では,T1強調画像で右大腿骨頚 部に線状の低信号域が見られた。発症後1週間の骨シン チグラフィー(図4)で,右大腿骨頚部に集積像が見ら れ,大腿骨頚部内側不顕性骨折と診断した。

 発症後2週間は介達牽引を行ない,3週から荷重を開 始した。発症後4週の単純レントゲン像では,大腿骨頚 部の内反変形が見られた。発症後2カ月の退院時単純レ ントゲン像(図5)では,大腿骨頚部内側に骨折がみら れ,内反変形も出現してきたが,疼痛なく歩行可能であっ たため退院となった。その後,他院でリハビリを行なっ ていたが,発症後5ヶ月で骨折部の転位がみられ再入院 となった(図6)。

 治療は,セメントを用いた人工骨頭挿入術を施行した。

術中摘出した骨頭の病理診断では,骨皮質,骨梁とも極 めて薄く,転移性悪性腫瘍の所見は見られず骨粗鬆症に 基づく骨折と診断された。術後1年6カ月の現在,単純 レントゲン像(図7)では異常なく歩行も自立している。

考   察

 大腿骨頚部内側不顕性骨折では中村等1)によればMRI で100%T1強調画像で線状の低信号域が見られ,発症72

(2)

41 図 1 発症後 2 日の入院時単純レントゲン像    左:正面像 右:側面像

図 4 発症後1週間の骨シンチグラフィー

図 3 発症後 3 日の MRI(T1 強調画像)

   左:横断像 右:冠状断像

図 2 発症後 2 日の入院時断層写真

図 5 発症後 2 カ月の入院時単純レントゲン像

   大腿骨頚部内側に骨折が見られ,内反変形を認める

図 6 発症後 5ヶ月の単純レントゲン像    上:正面像 下:側面像 

   右大腿骨頚部内側骨折部の転位を認める

(3)

42 時間以降の骨シンチグラフィーでも100%取り込みがみら れた。また,杉山等2)によればMRIで100%T1,T2強調 画像で線状の低信号域が見られ,発症72時間以降の骨シ ンチグラフィーでは91%に取り込みがみられた。両者と もMRIと骨シンチグラフィーで異常所見がみられれば大 腿骨頚部内側不顕性骨折と診断している。今回我々の症 例では,初診時の単純レントゲン像および断層写真では 明らかな骨折は認めなかったものの,MRIのT1強調画像 で線状の低信号域がみられ,発症72時間以降の骨シンチ グラフィーでも同部に取り込みを認めたため大腿骨頚部 内側不顕性骨折と早期に診断することができた。

 大腿骨頚部内側不顕性骨折の治療を保存療法で行なう か手術療法を行なうかどうかが問題となる。治療の報告 では,Fairclough 等3)によると13例に保存療法を行い 5例に転位がみられた。中村等1)は6例に骨接合術を行 い全例骨癒合を得た。及川等4)は7例に3週から荷重を 開始し,全例骨癒合を得たと報告している。今回の症例 では発症後2週間は介達牽引を行ない,3週から荷重を 開始ししたが,発症後5カ月で骨折部の転位がみられ再 入院となり,セメントを用いた人工骨頭挿入術を施行し た。現在当科ではMRIのT1強調画像で線状の低信号域

が見られ,発症72時間以降の骨シンチグラフィーで集積 像が見られるものを不顕性骨折と診断しているが,骨折 部の転位予防と早期離床を考え,高齢者には手術が望ま しいと考えている。

結   語

 大腿骨頚部内側不顕性骨折の1症例を経験した。MRI,

骨シンチグラフィーによって早期に診断することは可能 であったが,骨折部の転位のため人工骨頭挿入術を行 なった。

文   献

1)中村宣雄,西塔進,中嶋洋,津田隆之,勝部博之:股 関節周辺の不顕性骨折に対する診断.臨整外

27

793

-

799

1992.

2)杉山誠一,宮本敬,糸数万正,清水克時,鷲見浩志,

近石登喜雄:大腿骨頚部不顕性骨折の早期診断.整 形外科

52

1119

-

1125

2001.

3)Fairclough J, Colhoun E, Johnston D , Williams LA: Bone scanning for suspected hip fractures.

J Bone Joint Surg 

69

-B: 

251

-

253

1987.

4)及川道雄,高橋正哲,小出陽一,大石強,串田一博,

井上哲郎:大腿骨不顕性骨折のMRIによる早期診断.

整形外科

48:811-815,1997,

図 7 術後単純レントゲン像 

   上:正面像 下:側面像

   セメントを用いた人工骨頭挿入術を施行した

参照

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