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日本生態学会誌60巻1号

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Academic year: 2021

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は じ め に

 タケ類は多年生のイネ科植物であり、クローナルな成 長により株個体を形成し、長命・一回繁殖型で、一斉開

花後に枯死するという特異な生活史を持つ(McClure 1966;Janzen 1976;Sonderstrom and Calderon 1979)。この ため、当然のことながら多くの生態学者の興味を引きつ け、いくつかの適応的な意義が仮説として提案されてき た。一斉開花について、最も有力で多くの研究者の支持 を得ている仮説は Janzen(1976)による「捕食者飽食仮説」 2009 年 6 月 12 日受付、2009 年 11 月 13 日受理 *e-mail: [email protected]

Bamboo はなぜ一斉開花するのか?

∼熱帯から温帯へのクローナル特性と開花更新習性の進化を探る∼

特 集

同所的に存在する熱帯性タケ類の一斉開花枯死後の更新

―タケに稚樹バンクが存在する?―

田中 浩 *・ドクラク マロード **・石田 厚 ***

高橋 正通 ***・齋藤 智之 ****・中静 透 *****

* 森林総合研究所九州支所 ** カセサート大学林学部 *** 森林総合研究所 **** 森林総合研究所木曽試験地 ***** 東北大学生命科学研究科

Regeneration of co-occurring tropical bamboos after the simultaneous flowering and death: a bamboo species formed “sapling bank” under the shade of the other species. Hiroshi Tanaka (Kyushu Research Center, Forestry and Forest Products Research Institute), Dokrak Marod (Forest Biology Department, Faculty of Forestry, Kasetsart University), Atsushi Ishida, Masamichi Takahashi (Forestry and Forest Products Research Institute), Tomoyuki Saitoh (Kiso experimental station, Forestry and Forest Products Research Institute), Tohru Nakashizuka (Graduate School of Life Sciences, Tohoku University)

要旨:熱帯季節林内に同所的に存在する株立ち型のタケ 4 種(Gigantchloa albociliata、G. hasskariana、Bambusa tulda、

Cephalostacyum pergracile)の動態を 11 年間調査し、一斉開花枯死時の種間の相互作用を検討した。調査地は、タイ西

北部カンチャナブリ県メクロン長期生態試験地である。いずれの種も、最大稈高は 10 m 程度であった。G. hasskariana は斜面下部、G. albociliata は斜面中部から尾根部、C. pergracile は尾根部に分布していたが、Bt は斜面中部に主とし て G. albociliata と混交して分布した。G. albociliata と C. pergracile の 2 種は期間中に一斉開花枯死が観察されたが、G.

hasskariana と B. tulda は調査期間を通じて開花枯死しなかった。計 9 つの 20 m x 20 m のコドラートで、高さ 1 m 以

上の稈すべてをマークして、加入、生存、枯死を記録した。G. albociliata と C. pergracile の開花枯死は、それぞれ個 体群レベルでほぼ同調しており、ピーク年には調査個体のほとんどの株個体(90%以上)が開花枯死した。周辺の G.

albociliata、C. pergracile の一斉開花枯死による光環境の好転により、小さいサイズで待機していた B. tulda 個体の発生

稈密度、サイズは急激に増加した。そのため、新たなコホートの補充がないにも関わらず、G. albociliata、C. pergracile が優占していた場所で、B. tulda の優占度は急速に高まった。一斉開花枯死という生活史が持つ適応的メリットの一つ として、親世代との競合を回避することでの次世代コホートによる同所的な更新の促進が挙げられている。しかし、熱 帯性タケ類群集における異種の待機個体の存在は、この同所的な更新を阻害し、適応的なメリットを低下させる要因と なるだろう。 キーワード:熱帯性タケ、一斉開花枯死、競争回避、待機個体、共存

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である。野生のニワトリや野ネズミによる捕食が、同調 した大量の結実をもたらす淘汰圧として働いたと彼は考 えた。他方、一回繁殖のメリットについては、一斉開花 枯死は親コホート下での強い被陰を避けるための適応で あると考える「親子間の競争回避仮説」が提唱されてい る(Nicholson 1922;Simmonds 1980;紺野 1984)。これに 加え、親コホートの枯死は山火事を促進しギャップ環境 を作り出すという適応だとする「タケ山火事サイクル仮 説」という新規な提案もある(Keeley and Bond 1999; Saha and Howe 2001)。Gadgil and Prasad(1984)は、熱帯 性のタケ類では sporadic な開花が多いことから、開花の 同調性と一回繁殖性は結びついていないとして、一回繁 殖性は同調性とは独立に、実生の生残率を上げるために 進化したと考えた。Janzen 自身は、一回繁殖も大量結実 による資源の枯渇に起因すると統一的に考え、「親子間の 競争回避仮説」に対してはやや否定的であったが(Janzen 1976)、実際に親世代の個体の被陰下での次世代の更新の 困難さを考慮すると、この仮説はたいへん魅力的に思え る。ただし、群淘汰(group selection)を前提としないの であれば、親個体のみの下での更新、あるいは近親個体 下での更新という条件を考える必要があることが指摘さ れている(Janzen 1976;Franklin and Bowman 2003)。  Janzen(1976)が「捕食者飽食仮説」の検証に必要と して挙げたいくつかの条件(たとえば、自然集団におい て非同調的な開花個体での種子捕食率が同調個体に比べ て高いこと、捕食者の失われた集団での同調性が世代を 経ることにより低下することなど)に関しての観察デー タや実証データは依然として乏しいし、それは他の仮説 に関しても同様である。人間の長い利用の歴史、撹乱に よって、多くの自生地は消失し、本来のタケを巡る生物 間相互作用が失われてしまったことが、タケの生活史の 生態学的な解明を困難にしている (Janzen 1976;Gadgil and Prasad 1984)。特に、温帯のササ、タケ類については、 自然集団が比較的多く残されている日本において、比較 的多くの生態学的な知見が積み重ねられてきた (Makita 1992, 1996;Makita et al. 1993)が、熱帯のタケ類につい ては、園芸や植栽上の関心からは多くの文献が存在する 一方、生態学的な特性に関する知見はいまだに断片的で 挿話的なものにとどまる。また、一斉開花の周期につい てはいくつかの植栽された同齢集団について正確に記録 されているものの、長い時間的なインターバルをもつ稀 な一斉開花枯死後のタケ類の更新プロセスに関する生態 学的な研究は非常に限られている(Franklin and Bowman 2003;Gadgil and Prasad 1984;Taylor et al. 1991;Wong

1981, 1995;Makita 1992, 1996;Makita et al. 1993)。  複数の同齢集団や複数種が共存している中でのササ・ タケ類の相互作用に関する研究報告はさらに少ない。熱 帯性のタケ類については、複数の種が共存する場所のほ とんどが人為的攪乱を受けていることがこの理由の一つ としてあげられている(Janzen 1976;Gadgil and Prasad 1984)。多くのタケ個体群は長い人間の利用の歴史の影響 を受けており、また、一斉開花のインターバルが非常に 長いことも相俟って、共存する複数の自然個体群の開花 とその後の更新のプロセスはほとんど調査されてこなか った。しかし、本来は、多くの場所で複数種のタケが共 存し、相互作用を及ぼしあっていたと考えられる。タケ 類の生活史特性の適応的意義を探り、他種との共存メカ ニズムを理解するためには、相互に作用しあう他種が存 在する条件下での自然集団の更新プロセスについての生 態的な情報が不可欠である。  熱帯性のタケ類は、温帯性のタケ・ササ類とは異なる 分枝パターンを持つ。熱帯性タケ類の多くは、仮軸分枝 型の分枝パターン(patchymorph 型、McClure 1966)で株 立ちし、水平に拡がる地下茎はもたない。この分枝パタ ーンにより、熱帯性タケ類の個体性は一般的には明らか であり(ただし、本特集井鷺(2010)参照)、また、散布 種子が発芽定着した後は、空間的な分布を大きく拡大す る能力を持たない。地下茎によって空間的な分布を拡大 し、新たなギャップや林床下に侵入・移住することがで きる温帯性のササ・タケ類(Saitoh et al. 2002)とは他種 との競争や攪乱に対する対応の点で大きく異なる生態的 特質を持つといえる。分布の空白域への侵入や個体群の 分布域の拡大は、生活史の最初期段階において、一斉開 花枯死後の種子散布と実生の定着を通じて達成されるだ けである(Pearson et al. 1994)。つまり、自らの一斉開花 枯死という稀なイベント時においてのみ、もっぱら同所 的な更新ないし他種のタケが存在しない場所への侵入・ 定着が起きると考えられる。  私たちは、タイの熱帯季節林の更新動態の長期観測を 1992 年から継続してきた。この森林の林床には、4 種類 の熱帯性タケ類が優占している。これまでそのうちの 2 種の一斉開花枯死に遭遇し、樹木の更新とタケ類の相互 作用を観察することができた。その間、残念ながら、タ ケ類の一斉開花枯死の適応的意義についての検証に足る だけのデータを得たわけではない。しかし、Janzen(1976) が見ることができなかった、同所的に存在する複数のタ ケ自然集団の更新時の相互作用について若干の興味深い 知見を得たので、その事例の報告とタケ類の生活史の理

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解の上で持つ意味についての考察を行いたいと思う。

調査地と対象とするタケ類

 調査地は、タイ西北部カンチャナブリ県の王室林野局 メクロン流域試験地内にある(Marod et al. 1999, 2002)。 優占する森林タイプは、落葉樹を主として、一部常緑 樹を交える落葉混交林(mixed deciduous forests)であ る。優占樹種は、Shorea siamensis、Dillenia parviflora、

Xylia xylocarpa var. kerrii、Pterocarpus macrocarpus および Lagerstroemia 属の数種などである(Marod et al. 1999)。

この森林タイプは、インドからミャンマーをへて、タイ、 ラオス、カンボジアまでの東南アジア熱帯モンスーン地 域の広い範囲に分布することが知られている。調査地に は直接の伐採記録や伐採の痕跡はないが、一部の樹木の 択伐や火入れなど地域住民の活動が、調査地を含む周辺 の森林で行われていた可能性が高い。山火事は過去数百 年にわたって乾季に繰り返し発生してきたと考えられ (Rundel and Boonpragob 1995)、調査期間中も年に平均 1、

2 回発生した(D. Marod 私信)。

 4 種の熱帯性タケ Gigantochloa albociliata (Munro) Kurz 、G. hasskarliana (Kurz) Backer ex Heyne、Bambusa tulda Roxb.、Cephalostachyum pergracile Munro が、調査地の森 林には存在する(図 1)。G. albociliata は、ミャンマーか らタイにかけて自生し、主として乾燥混交林に分布する (Duriyaparapan and Jansen 1995a)。インド・アッサム地方 で、植栽個体群について、30 年周期の一斉開花が報告さ れている。C. pergracile は、東インド、ネパールからミャ ンマー、北部タイをへて中国雲南地方までの広域分布が 知られている。ミャンマーとタイの落葉混交林に普通に 分布し、広範な地域に渡る一斉開花枯死の発生が知られ ている(Duriyaparapan and Jansen 1995b)。B. tulda は、東 インド、バングラディシュからミャンマー、タイまでの 分布が知られており、25 ∼ 40 年周期の一斉開花枯死が 報 告 さ れ て い る(Jansen and Duriyaparapan 1995)。G.

hasskarliana は、北部および西部タイのやや湿潤な立地に 分布しているが、インドネシアに分布する同名種との関 連についての分類上の位置づけに議論がある(Widjaja 1995)。この種の開花習性については、報告がない。

調査方法

 調査は、森林動態のモニタリングを行うために 1992 年 に落葉混交林内に設定された 4 ha の固定調査地で行った (Marod et al. 1999)。4 ha のプロットを 100 個の 20 m x 20 m のコドラートに分割し、その中でのタケの優占種を 1992 年と 1998 年に確認した。また、2 年おきに、タケの 優占−非優占を各コドラートについて記録した。そのう ち、9 つのコドラートについては、詳細なタケ株と稈の デモグラフィーを以下の方法で毎年記録した。調査を開 始した 1992 年には、旧稈と新稈を区別し、高さ 1 m 以上 のすべての桿について高さ 1 m での直径を測った。毎年 成長の停止した乾季の始まりに新たに加入した稈を記録 し、また旧稈の生存と死亡を記録した(図 2)。1994 年か ら 1998 年にかけては、9 つのコドラートのすべての株個 体について、15 日間隔での稈の季節的な発生、死亡を記 録した。また、桿の季節的な成長を、調査コドラートか らランダムに選んだ個体について、およそ 15 日間隔で、 1994 年に測定した。同時期の日降雨量を、雨量ますを用 いて、試験地近くのオープンな場所で測定した。 図 1.調査対象の 4 種の熱帯性タケ類

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4 種の熱帯性タケの生態

 4 種のタケは、いずれも仮軸分枝型(patchymorph 型、 McClure 1966)の分枝パターンを示し、水平に拡がる地 下茎を持たない。そのため株立ちし、個体性は明瞭である。 いずれの種も、雨季の始まりである 6 月の中旬から新し いシュート(筍)を発生する。8 月初旬頃、新稈の発生 のピークを迎え、雨季の末 11 月初旬には停止する。発生 した新稈のすべてが生残するわけではなく、発生稈のお よそ半数が雨季の終わりまでに死亡する(図 3)。新稈の 高さ成長のパターンは、4 種とも同様であり、発生後 30 日間は非常にゆっくりとした成長を示すが、その後急速 に成長し、8 月末から 10 月初旬にかけて成長速度はピー クを迎える。  光環境に恵まれたオープンサイトなどでは、いずれの 種も最大稈高はおおよそ 20 m に達する場合もあるが(U. Kutintara 未発表)、平均的な成熟個体の稈高は 4 種共通し て 10 m 程度である。雨季の後半に発生した新稈は初期に 発生した新稈に比べ生残率、成長速度が低く、多くは菌 害や虫害により死亡した。成熟稈(ここでは、ほぼ最大 高に達した稈をこう呼ぶことにする)のサイズ(高さ 1 m での直径)は、それぞれ G. albociliata で 6.9 ∼ 7.4 cm、C. pergracile で 6.7 ∼ 7.6 cm、B. tulda で 7.0 ∼ 8.6 cm、G. hasskarliana で 7.2 ∼ 8.5 cm と種内でのばらつきが大きく 種間での差は明確ではない。  いったん成熟サイズまで成長した新稈のその後の生残 率は比較的高く、最大で 10 年程度維持された(図 4)。 新稈の株あたりの年加入数は、個体によるばらつきが大 きく、G. hasskarliana で 0 ∼ 22 本/ 株、G. albociliata で 0 ∼ 11 本 / 株、C. pergracile で 0 ∼ 6 本/ 株、B. tulda で 0 ∼ 11 本 / 株、個体群全体ではいずれの種も 1 本 / 株程度であ った(図 4)。  調査期間中の個体あたりの平均稈数は、自種および他 種の開花枯死の影響を受けて変動し、開花枯死した G. hasskarliana で 1.4 ∼ 8.5 本、G. albociliata で 3.4 ∼ 6.7 本、 C. pergracile で 1 ∼ 8.7 本、開花枯死しなかった B. tulda で 4.7 ∼ 5.5 本であった。調査期間中みられた個体あたり の最大稈数は、G. hasskarliana で 50 本、G. albociliata で 46 本、C. pergracile で 22 本、開花枯死しなかった B. tulda で 39 本であった。  G. albociliata は斜面中腹から尾根にかけて広く分布し、 B. tulda は そ の 中 に パ ッ チ 状 に 分 布 し た( 図 2)。C. pergracile は 斜 面 上 部 か ら 尾 根 に か け て、 ま た G. hasskarliana は斜面下部から谷部にかけて分布した。G. 図 2.1998 年時点での 4ha の固定試験地内のタケ 4 種の分布と 9 つの調査コドラートの位置。一つ一つのコドラートサイズ は、20 m x 20 m。コドラートの色は、優占するタケの種を示 す(白色:G. albociliata、灰白色:C. pergracile、濃灰色:G. hasskarliana、黒色:B. tulda)。 図 3.G. albociliata と C. pergracile の稈の発生・死亡と季節的な 降雨量の変化との関係。白丸:発生稈数、黒丸:死亡稈数、 棒グラフは降水量。(Marod et al. 未発表)

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hasskarliana と C. pergracile の間には、互いに比較的明確 な生育地の分離(habitat segregation)が認められたが、G. albociliata と B. tulda は互いに重なり合う分布パターンを 示した。G. albociliata は最も広範に単独で優占するパッ チを形成しており、C. pergracile もまた斜面上部に単独で 優占するパッチを形成したが、互いに部分的に混交した。

B. tulda は、G. albociliata ないし C. pergracile と混交した

小パッチを形成するだけであった。

開花前後のタケ 4 種の個体群動態

 1998 年 11 月に G. albociliata が一斉開花、その後枯死し、 2001 年 11 月に C. pergracile が一斉開花、その後枯死した (図 5)。調査を始める前の 1990 年には、G. hasskarliana が一斉開花し、その後枯死している(D. Marod 私信)。B. tulda は、調査期間中開花しなかった。  G. albociliata と C. pergracile の開花枯死は、それぞれ個 体群レベルでほぼ同調しており、調査個体のほとんどの 株個体(90%以上)がピーク年に開花枯死した(図 6)。 一斉開花後 2 年の間に C. pergracile のすべての調査個体 が枯死したが、G. albociliata については、わずかな株が 生残した。私たちが観察できなかった G. hasskarliana に ついては、C. pergracile と同様に同調性の高い形での一斉 開花枯死であったと考えられる(D. Marod 私信)。いずれ の場合も、同調した開花枯死が起きた空間スケールは少 なくとも数 10 平方キロメートルの範囲に達しており、一 斉開花(gregarious flowering)のカテゴリーに相応してい るだろう(Janzen 1976;McClure 1966)。他地域でのこれ らの種の開花に関する情報は少ないが、ミャンマーで C. pergracile が 1 年ずれた一斉開花(2002 年 11 月)とその 後の枯死が観察されている(神崎護 私信)。  未だに一斉開花枯死後の回復過程にあると考えられた G. hasskarliana を除き、G. albociliata の一斉開花枯死以前 は、残り 3 種の新稈の加入と旧稈の枯死はほぼ均衡し、 稈の総数はほぼ一定であった(図 6b, c, d)。また、株の 総数も安定していた。G. hasskarliana の稈数と株数は、 図 4.4 種のタケの株あたりの稈の齢組成。(Marod et al. 未発表)

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1990 年の一斉開花枯死後に新たなコホートが成立してか ら 10 年目(2000 年)まで両者ともに増加を続けたが、 その後個体間の密度効果が現れたと考えられ、株数は減 少を始めた(図 6a)。G. albociliata については、一斉開花 枯死 2 年前から、一部個体で部分開花枯死が発生し、株 数のわずかな減少が起こった(図 6b)。  株と稈のデモグラフィーを調査した 9 つの 20 m x 20 m コドラートの株密度は、1998 年の G. albociliata の一斉開 花枯死以前には 500 ∼ 1500 株 /ha であった(図 7)。大部 分のコドラートでの株密度は 1250 株 /ha 前後であり、G.

albociliata、C. pergracile、B. tulda の 3 種の成熟株の最大

密度はこのあたりの数字であると考えられる(図 7a)。一 斉開花枯死後の回復過程にある G. hasskarliana が優占し たコドラートでは、他の 2 種の一斉開花枯死とは関わり なく、いったん増加した株密度が減少に転じており、こ の種の安定した株密度は他の 3 種より低いことが示唆さ れた(図 6a、図 7c)。これは、この種が他種より相対的 に大きな最大株サイズをもつためと考えられる。   あ ら か じ め 全 く 予 想 さ れ な か っ た 変 化 と し て、G. albociliata と C. pergracile の一斉開花枯死の直後に B. tulda の加入株数が増加し、明瞭なピークを示した(図 6d、図 7a, b)。この B. tulda の新規加入は、それまで優占 していた他の 2 種のタケの被陰下で被圧された状態で待 機していた、高さ 1 m 以下の小さな株個体が上層のタケ の一斉開花枯死による光条件の好転に反応して、新たに 1 m 以上の高さの新稈を発生し始めたことによるもので あった。地上部の枯死を繰り返したため正確な株の齢は 明らかではないが、地下茎の分枝痕から、発芽から 4、5 年以上経過した前生個体であることは明らかであった(図 8)。調査を開始した 1992 年時点で、一斉開花枯死後 2 年 しか経ていなかった G. hasskarliana を除き、他の 3 種は ほぼ成熟サイズに達していると考えられ、1998 年の G. albociliata の一斉開花枯死後に高さ 1 m 以上の稈を発生し 始めるまで、この B. tulda の小サイズ個体の分布パターン は不明であった。このような B. tulda の新規加入が起こっ た 場 所 で は、 一 斉 開 花 枯 死 し た G. albociliata と C. pergracile の次世代コホートの同所的な更新が阻害され、 優占するタケの交代が起きた(図 7a, b)。小サイズの B. tulda が林床に存在しなかったコドラートでのみ、一斉開 花枯死したタケの同所的な更新が順調に進行した(図 7d)。

同所的に存在する複数種のタケの更新

 2 種のタケの一斉開花枯死を契機として起こった 4 種 のタケの個体群動態から、同所的に存在する複数種のタ ケの空間分布構造と相対的な優占度は、固定的なもので はないことが明らかになった。複数種のタケの空間分布 は、親個体群の一斉開花枯死後に散布された同種次世代 個体が、そのまますぐ定着・成長することによって決定 される(つまり、基本的に同じ場所で自己置換する)だ けではなく、場合によっては、開花枯死した成熟個体群 の被陰下で待機していた他種被圧個体の急速な成長によ って優占種が交代する場合がありうるということである。  熱帯から温帯までの広い範囲に分布しているササ・タ ケ類は(McClure 1966;Janzen 1976;Veblen 1982)、分布 域の中では主として落葉樹林の下層植生として知られて おり、上層木の落葉性は、ササ・タケ類の優占度を決め る上で重要な生態学的要因だと考えられる(Nakashizuka 1988;Ashton 1995)。東南アジアのモンスーン熱帯域では、 本研究を行った落葉混交林(Mixed Deciduous Forest)と いう森林タイプが、林床にタケ類が優占し亜林冠層を形 成することで知られている(Ashton 1995)。常緑樹林に比 図 5.G. albociliata の 1998 年における一斉開花枯死(a)と C.

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図 6.4 種のタケの株個体群動態。●:生存株数、○:新規加入株数、△:死亡株数。(Marod et al. 未発表)

図 7.2 種のタケの一斉開花枯死を契機としたタケ優占種の変化。代表的な 4 つの調査コドラートにおける パターンを示す。(Marod et al. 未発表)

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べ相対的に明るい林床の光環境と季節的な落葉による光 環境の好転が、タケ・ササ類の落葉樹林下での優占を許 している要因と考えられる。温帯のササ類については、 一定の耐陰性を持つことは認識されてきたが(Lei et al. 1994, 1998)、林冠ギャップなどよりオープンな光環境で 高い密度の個体群を形成し、暗い林床下のクローンの維 持には地下茎による生理的統合が重要であることが明ら かにされている(Saitoh et al. 2002)。他方、熱帯のタケ類 は耐陰性が低く、人為攪乱による林冠の疎開を利用して 優占度を増してきたと考えられている (Sonderstrom and Calderon 1979;Gadgil and Prasad 1984)。

 タケ・ササ類による強い被陰が樹木の更新や下層植生 の定着に及ぼす抑制的な効果については、広く熱帯・温 帯 に 共 通 し て 指 摘 さ れ て き た し(Nakashizuka 1988; Marod et al. 1999)、それらの一斉開花枯死は、光環境の好 転をもたらし、樹木の更新を促進すると考えられてきた (Veblen et al. 1980;Veblen 1982;Nakashizuka 1988)。温帯 林では、ササ類と樹木の更新との相互作用として、林冠 ギャップ下ではササ類の幹密度や高さも高くなることか ら、樹木の更新サイトとしては不適になることが示唆さ れている(Nakashizuka 1988;Abe et al. 2001)。他方、タ ケ類の一斉開花枯死は、まず第一にタケ自身の次世代の

実生の親個体による被陰の回避につながるのは、ある意 味自明のこととして(Janzen 1976;Franklin and Bowman 2003)、タケ自体の更新がどのような光環境に依存するか についてはあまり注目されてこなかった。特に、タケ類 の耐陰性の違いが種間の共存に及ぼす影響については、 これまでほとんど注目されてこなかったし(Rao and Ramakrishnan 1987;Widmer 1988)、成熟したタケ類の被 陰下での他種のタケ被圧個体の存在を指摘した研究例も なかった。  今回の研究は、タケ成熟個体群の樹冠下での他種のタ ケの“稚樹バンク(sapling bank)”の存在の可能性を示し た。B. tulda の林床での待機個体は、稈数は 1 ∼ 2 本と少 ないが、地上部の交代を繰り返して長期間生存していた ことが、地下部の仮軸分枝痕から推測される。部分開花 個体によって供給された新しい世代である可能性を完全 に否定することはできないが、成熟サイズに達して他種 の成熟個体の中にパッチ状に分布していた個体群と同じ コホート(世代)である可能性が高い。patchy-morph 型 の地下茎(McClure 1966)を持つ熱帯性タケ類は、一斉 開花後の種子散布期を除き、新たな空間に積極的に侵入 することはないが(Pearson et al. 1994)、他種のタケ成熟 個体の林冠下に“稚樹バンク”を維持することは、その 種の空間的な移住のチャンスを時間的に拡大することを 意味する。他方、一斉開花枯死したタケによって散布さ れた種子由来の実生は、親個体の下での同所的な更新を 阻害されることになる。つまり、この現象は、同じ森林 に複数存在するタケ類の空間的な配置をさらに複雑化す るとともに、タケの一斉開花枯死が持つ「親子間の競争 回避」という適応的意義を減じるものと考えられる。

お わ り に

 一斉開花枯死の適応的意義を明らかにするためには、 共存するタケ類の相互作用を考慮に入れる必要があり、 今後さらに耐陰性や被陰の強さ、最大サイズ、一斉開花 枯死のインターバルや同調性、種子散布距離といった関 連する要因の種間差を検討しなければならない。タケ同 士の相互作用には非対称性がある可能性があり、タケ類 の共存機構を考える上でも、空間的なニッチの分割、階 層構造などとともに考慮に入れる必要があるだろう。今 回研究を行った森林は、樹木密度が低く(100 本 /ha、 dbh > 5 cm)、林冠ギャップの割合の高い(46.3%)落葉 林であることから、林冠ギャップの影響は比較的に少な いと考えられたが(Marod et al. 1999)、タケ類の更新には 図 8.B. tulda の被陰個体(右)と G. albociliata の当年生実生(左)。

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樹木との相互作用も重要である。今後さらに、乾季に発 生する山火事や森林の樹木群集の林冠構造といった重要 な要因との相互作用も検討を進める必要があるだろう。

謝 辞

 試験地の設定・維持を助けていただいたタイ国立公園・ 野生動物・植物保全局のソンタム・スクサワン博士、タ ケのセンサス調査に協力してくれたカセサート大学林学 部の学生の皆さん、および調査・議論に協力いただいた 小林繁男博士、平井敬三博士、石塚森吉博士、チャンチ ャイ・ヤーウディ博士に感謝いたします。また、原稿に 対し、さまざまなご指摘をいただいた蒔田明史博士、編 集者の堀良通博士、匿名査読者お二人に感謝いたします。 なお、この研究の一部は、科学振興調整費、科学研究費 補助金(B14405009, A18255011)および環境省・地球環 境保全試験研究費の支援を受けて実施された。

引 用 文 献

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