博 士 ( 理 学 ) 中 山 憲 司
学位論文題名
Spectrophotometric and biochemical studies on spontaneous porphyrialntheLOng ‐EVanS Cinnamonrat . ananlmalmode1 Ofhuman マ ゾ i1SOn SdiSeaSe
[ヒト・ ウイルソン 病モデル動 物(Long‑Evans Cinnamon ラット)に おけるポルフイリン代謝異常に関する分光学的及び生化学的研究]
学位論文内容の要旨
ヒト ・ ウイ ルソ ン病 は、 幼 児期 に重 度な進行性肝障害や 中枢神経障害を呈する先天 性銅代謝異常症 である 。その病因は、」¥TP 7Bと 呼ばれる銅(Cu)の細胞内輸送 を担う膜蛋白質遺伝子の異 常にあり、日 常生活 において摂取されるCuが膜 蛋白質の異常のために正常に 運搬・排泄されず、多量に 肝臓・腎臓・
脳に蓄 積し重度な機能障害を起こ すと考えられている。
Long‑Evans Cinnamon (LEC)ラッ トは 、北 海道 大 学理 学部 実験 生物 セ ンタ ーに おい てLong‑Evans Agouti (LEA)ラットより開発さ れた突然変異系統種である 。生後およそ4ケ月で自然に 肝炎を発症し、
慢 性肝 炎 に移 行し た後 、お よ そ1年 で 広範 囲に わた る高 分 化型 の肝細胞癌を生じるこ とから、自然肝 炎 ・肝 癌 発症 ラッ 卜と して 広 く知 られ てい た 。近 年、 このLECラット肝臓中に多量のCuの蓄積が明ら か とな り 、更 には 、ヒ ト・ ウ イル ソン 病と同様の病態と遺 伝子異常を有していること が報告され、現 在 では ヒ ト・ ウイ ルソ ン病 モ デル 動物 とし て 広く 研究 に用 いら れている。このLECラ ットやウイルソ ン 病患 者 の肝 臓及 び腎 臓に 異 常蓄 積さ れるCuは、 ヌ夕 口チ オネ イン(MTs)と呼ばれる 華白質と結合し て存在 していることが明らかとな っている。
MTsは 、 分 子 量 お よ そ6千 、 構 成 ア ミ ノ酸 のお よ そ30%が シス テイ ン 残基 から なり 、 芳香 族ア ミ ノ 酸を 含 まな い低 分子 量蛋 白 質で ある 。そして、Cu、亜鉛 、カドミウム等の重金属を 多量に結合出来 る 性 質 を 有 し て い る 。 こ のMTsに は 非 常 に 興 味 深 い 化 学 特 性 が あり 、 第1銅 [Cu0) ] と結 合し た MTs[Cu(I)‑MTs]に300nm領 域 の紫 外線 を照 射 する と、 黄橙 色(600nm領 域) の螢 光を 発 することが報 告され ていた。
そこ で本研究においては、このCu(I)‑MTsを多量に蓄積するヒト・ウイルソン病モデル動物を用いて、
Cu(I)‑MTsの可 視化検出を試み ると共に、顕微分光光度計を 用いて、分光学的解析から 螢光体の同定を 試 みた 。 更に 、顕 微分 光解 析 によ って 明らかとなった同ラ ットのポルフィリン代謝異 常に関しての検 討を行 った。
く第一 章>
多 量 にCuを蓄 積し た 急性 肝炎 前の15週 齢 のLECラ ット 肝臓 を用 いて 、Cu(I)‑MTs由 来 螢光 の可 視 化検出 を試みた。
アセ ト ンを 用いた穏和な固定 と迅速なアクリル樹脂包埋 により、Cu(I)‑MTs由来と考 えられる黄橙色 を 細胞 下 レベ ルで可視化検出し た。また、同ラット肝臓よ りCu(I)‑MTsを抽出し、ゲル ろ過に供して精 製 を試 み たと ころ、Cu(I)‑MTsを含むフラクションに組織切 片において観察された黄橙 色と同色の螢光
が認められた。以上の結果より、Cu(I)−MTsは穏和な固定と迅速な樹脂包埋により、組織切片において も可視化検出が可能であることが明らかとなった。
く第二章>
第一章において、Cu(D―MTsの異常に蓄積したLECラット肝臓中に、Cu(D‑MTs由来と考えられる黄 橙色螢光を可視化検出した。そこで第二章では、黄橙色螢光の直接的な同定を試みる為に、顕微分光 光度計を用いた分光学的解析を試みた。
顕微分光解析の結果、LECラット肝臓における黄橙色螢光は、600nmに発光極大を持っブ口一ドな スベクトルとして検出された。この螢光特性は、肝臓より精製したCu(I)‑MTsの螢光スペクトルと一致 した。よって、LECラット肝臓中の黄橙色螢光は、顕微分光光度計を用いた分光学的解析によって Cu(I)‑MTs由来であることが同定された。また、細胞内で螢光体の存在場所による螢光特性の変化につ いても解析を行ったところ、細胞質・核・穎粒成分で異なる発光極大を有していることが明らかとな った。
く第三章>
LECラッ卜においては、慢性肝炎期の腎臓内においても赤橙色及び黄橙色螢光体の存在が確認され、
それらも異常蓄積したCu(I)‑MTsであると考えられていた。そこで第三章では、慢性肝炎期の肝臓及び 腎臓における螢光体の分光学的同定を試みた。
顕微分光解析の結果、慢性肝炎期の肝臓における黄橙色螢光は、第二章における肝炎発症直前の肝 臓と同じく600nmに発光極大を持っブ口一ドなスベクトルとなって検出され、肝臓より精製した Cu(I)‑MTsの螢光スベクトルと一致した。しかしながら、LECラット腎臓の赤橙色螢光は肝臓における 螢光特性とは異なり、625nmと650nm領域に2つの発光極大を持つ鋭敏な螢光スペク卜ルとなった。
この螢光特性は、腎臓より精製したCu(I)‑MTsの蛍光スペクトルとも異なっていた。そして、その螢光 特性は、Cu(I)‑MTsよりはポルフィリンのスペクトル特性に酷似していた。よって、LECラット腎臓中 の 赤 橙 色 螢 光 は 、 ポ ル フ ィ リ ン の 異 常 蓄 積 を 示 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 顕微分光解析によって、LECラット腎臓におけるポルフィリンの異常蓄積が示唆されたことから、
LECラットの組織等からのポルフィリンの抽出・定量を試みた。LECラット腎臓及び肝臓中の総ポル フィリン濃度は、対照のLong‑Evans Agouti (LEA)ラットと比較して各々約25倍、2.5倍と顕著な増加 が認められた。腎臓では対照と比較して全てのポルフィリン体に有意な増加が認められ、その中でも ウロ、ヘプタポルフィリンが特に顕著な増加を示した。一方、肝臓でも対照と比較し、腎臓ほどの増 加は示さないもののウ口、ヘプタポルフィリンの顕著な増加が認められた。またLECラット尿におい ては、対照ラッ卜と比較し総ポルフィルン排泄量は約4倍と有意な増加が認められ、特にコプ口ポルフ ィリンの増加が顕著であった。
以上の結果から、LECラット腎臓において確認された赤橙色螢光は、顕微分光解析によって、
Cu(I)‑MTsに由来する螢光ではなくポルフィリン体に由来する螢光であることが同定され、LECラット 腎臓におけるポルフィリンの異常蓄積が示唆された。そして、その示唆通りに、ポルフィリン体の抽 出・定量によってLECラット腎臓でのポルフィリンの異常蓄積が明らかとなった。また、肝臓におけ るポルフィリンの異常蓄積とポルフィリンの多量な尿排泄の存在も明らかとなり、これらの症状を特 徴とするへム代謝異常の存在がLECラットにおいて初めて明らかとなった。その代謝異常の分子メカ ニズムに関して、1)蓄積する重金属による代謝異常、2)肝障害による代謝異常、3)ヘム代謝に関与す る遺伝的な要因による代謝異常の3つの原因が推測された。
く結語>
本研究は、生体自家螢光物質の同定における分光学的解析の重要性を指摘すると共に、以下の知見を 明らかにした。
1.ヒ卜・ウイルソン病モデル動物(LECラット)の肝臓において、Cu(I)‑MTs由来の黄橙色螢光を組 織・細胞内で可視化検出した。
2.顕微分光解析によって、Cu(I)‑MTs由来の黄橙色螢光を組織・細胞内で分光学的に同定した。
3.細胞下レベルでの顕微分光解析によって、Cu(D‑MTs由来の黄橙色螢光が細胞質・核・顆粒成分で
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異なる発光極大を有していることを明らかにした。
4.顕微分光解析によって、慢性肝炎期のLECラット腎臓において認められた赤橙色がポルフィリン 由来の螢光であることを同定した。
5. LECラットにおいて、腎臓及び肝臓でのポルフィリンの異常蓄積とポルフィリンの多量な尿排泄を 特徴とするヘム代謝異常の存在を明らかにした。
学位論文審査の要旨 主査 教 授 田村 守 副査 教 授 谷ロ和弥 副査 教 授 矢澤道生 副査 教授 菊池九二三
学位論文題名
Spectrophotometric and biochemical studies on spontaneous porphyria in the Long‑Evans Cinnamon rat , an anlmalmodel OfhumanWilSOn SdiSeaSe
[ヒト・ウイルソン病モデル動物(Long‑Evans Cinnamon ラット)に おけるポルフイリン代謝異常に関する分光学的及び生化学的研究]
本 論文 は 、ヒト・ウィルソン病のモデ ル動物であるLOng‑Evans Cinndm()n(LじC)ラットの ポルフィリ ン 代 謝異 常を 検討 した も ので ある 。LじCラッ トは 、肝 臓中 に 多量 のCuの蓄 積が 明 らか とな り、 ヒ ト・ ウ イ ル ソン 病と 同様 の病 態 と遺 伝子 異常 を 有し てい るこ とが 報 告さ れ、 現在 では ヒ ト・ ウイ ルソ ン 病モ デ ル 動 物 と し て 広 く 研 究 に 用 い ら れて いる 。こ のLECラ ット や ウイ ルソ ン病 患者 の 肝臓 及び 腎臓 に 異常 蓄 積さ れるCuは、 メタ ロチ オネ イ ン(MTs)と 呼ば れる 蛋白 質 と結 合し て存 在し て いることが明 らかとなっ ている。そこで、このCu(1)―MTsを多量に蓄積す るヒト・ウイルソン病モデル動物を用いて、Cu(I)ーwrs の 可 視 化 検 出 を 試 み る と 共 に 、 顕 微 分 光 光 度 計 を 用 い て 、 分 光 学 的 解 析 か ら 同 定 を 試 み た 。 く 第 一 章 冫 多 量 にCuを 蓄 積 し た 急 性 肝 炎 前 の15週 齢 のLECラ ット 肝 臓を 用い て、Cu(1)‑MTs由 来螢 光 の可 視化 検 出を試みた。アセトンを用い た穏和な固定と迅速なアク リル樹脂包埋により、Cu(I)ーwrs[ll 来と考えられる黄橙色 をネ【H胞下レベルで可視化検出した。また、同ラット肝臓よりCu(1)‑ wrsをれh出し、
ゲル ろ過 に 供して精製を試みたところ、Cu(I)‑MTsを含むフラクシ ョンに組織叨片におし、て 観察さオ1た 黄橙色と同色の螢光が 認められた。
く第 二章 冫 第二 章で は、LECラッ ト肝臓 中の黄橙色螢光の分光学的 解析を試みた。顕微分光冉翠 析の結果、
[.ECラッ ト肝 臓に おけ る 黄橙 色螢 光は 、 肝臓 より 精製 したCu(l)‑MTsの螢 光ス ペ クト ルと 一致 し た。 ま た 、 細胞 内で 螢光 体の 存 在場 所に よる 螢 光特 性の 変化 につ い ても 解析 を行 った と ころ 、細 胞質 ・ 核・ 顆 粒成分で異なる発光極 大を有していることが明らか となった。
く 第 三 章>LじCラ ッ ト に お い ては 、慢 性 肝炎 期の 腎臓 内に お いて も赤 橙色 及び 黄 橙色 螢光 体の 存 在が 確 認さ れ、 そ れら も異 常蓄 積し たCu(I)‑MTsであ ると 考え ら れて いた 。そ こで 第 三章では、慢 性肝炎期の 肝 臓 及ぴ 腎臓 にお ける 螢 光体 の分 光学 的 同定 を試 みた 。こ の 結果 、しECラ ット 腎 臓中 の赤 橙色 螢 光は 、
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ポルフィリンの異常蓄積を示していることが示唆された。
本 研 究は 、生 体自 家 螢光 物質 の同 定に お ける 分光 学的 解析 の 重要 性を 指摘 す ると 共に 、以下の知見を
|リJらかにした。 :1ー.Cu(I)―Mrrsを多量に蓄積しているヒト・ウイルソン病モデル動物(I.[iCラ・ソト〕
の肝 臓 にお いて 、Cu(I)‑MTs由来と考えられる黄橙色螢 光を組織・細胞内で可視化 検出した。`2,′糾t 微 分 光 解 析 によ っ て、 慢性 肝炎 期のLECラッ ト 腎臓 にお いて 認め ら れた 赤橙 色が ポ ルフ ィリ ン由 来の 蛍 光で あ るこ とを 同定 し た。 く3 >LECラッ ト にお いて 、腎 臓及 び 肝臓でのポルフィリ ンのぅ|4常蓄積とポ ルフィリンの多量な尿排泄を特徴とするへム代謝異常の存在を明らかにした。
これ ら の結 果は 、LじCラッ トの ポル フィ リ ン代 謝異 常を 初め て 明ら かに した も ので あり 、著者は、北海 道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。