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博士 ( 水 産 学) 田 村

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Academic year: 2021

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(1)

博士 ( 水 産 学) 田 村    力

     学 位論文 題名

北西北 太平洋 およぴ 南極海 におけるミンククジラ BalaeTzoptera acutorostrata の摂餌生態に関する研究

学 位 論 文内 容 の 要 旨

  本研究の対象種であるミンククジラ(Balaeロoptera acutorostraぬ)は、ナ ガ スクジラ科 の最小種で 、その成熟 体長は10m未満であ る。本種は 季節的な 南 北回遊を行 い、冬季に 中低緯度の 温暖な海域で繁殖期を、夏季に餌生物の 豊 富な高緯度 海域で索餌 期を過ごす 。資源量は、商業捕鯨による乱獲から免 れ たためヒゲ クジラ類の 中で最も多 く、北大西洋個体群が約10万頭、北西太 平 洋個体群が 約2万5千頭、 夏季に南緯60度以南に分布する南半球個体群で約 76万頭と推定されている。

  本 種の食性の 定性的な知 見は多く、 生息海域や季節・年によって利用して い る餌生物の 種構成が大 きく変化す ることが明らかになっている。しかしな が ら、それら は1987年以前の 商業捕鯨時 代の知見であり、1988年以降の情報 は 極めて少な い。また、 定量的な知 見は、船上での胃内容物重量の測定が極 め て困難であ るために断 片的であり 、満胃重量や肉眼による胃の充満度の報 告 があるに過 ぎない。日 間摂餌量に ついては、主として基礎代謝量などを用 い た生体エネ ルギー論に 基づいて、 体重の4%程度と 推定されて きた。本種 は ヒゲクジラ 類の中で資 源量が非常 に多いため、その摂餌総量は他のヒゲク ジ ラ類と比較 して非常に 多いと考え られている。そのため、本種の食物関係 を 明らかにす ることは、 海洋生態系 に与える捕食の影響を知るうえで非常に 重 要である。 しかし、本 種の食性の 地理的および経年的な変化や摂餌量など     ‑ 1014―

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の情報は極めて少ない。

  本 研究では、 北西北太平 洋鯨類捕獲 調査および 南極海鯨類 捕獲調査で 採集 さ れたミンク クジラの胃 内容物を基 に、本種の 食性を明ら かにし、両 海域で の 日間摂餌量 および年間 摂餌量を推 定した。さ らに、南北 両半球にお けるミ ン ク ク ジラ の 摂餌 戦 略の 違 いに つ いて も 、生 態 学的 な 視野 か ら検討した 。   1994年〜1996年 の夏 季 、北 西 北太 平 洋 にお い て採 集 され たミ ンククジラ 184個体の 胃内容物か ら、カイア シ類1種 、オキアミ 類4種、 頭足類1種および 魚 類10種の合計16種が認めら れた。夏季 のミンクク ジラの主要 餌生物は、太 平 洋側ではオ キアミ類、 サンマおよ びカタクチ イワシ、オ ホーツク海 南部で は ツノナシオ キアミであ った。ミン ククジラは 索餌海域で 資源量の多 い生物 を 利用してお り、環境の 変化によっ てその餌生 物を柔軟に 変化させる 広食性 を 有すること が示唆され た。また、 ミンククジ ラの摂餌方 法は、呑み 込み型 で あると考え られ、バッ チ状に集中 分布してい る餌生物を 一気に呑み 込むと 推 察された。 摂餌されて いたサンマ などの体長 組成の経年 および地理 的な差 異 は 、 索 餌 海 域 に お け る 組 成 を 反 映 し た 結 果 で あ る と み な さ れ た 。   1989/90年〜199 5/96年の夏 季、南極海IV区において採集されたミンククジ ラ398個体 の胃内容物 から、端脚 類1種、 オキアミ類4種の合 計5種 類が認めら れ た。夏季の ミンククジラの主要餌生物は、プリッツ湾以外の海域でナンキョ クオキアミ、プリッツ湾ではナンキョクオキアミおよびE. crystallorophねsで あ り、ミンク クジラは索 餌海域にお いて資源量 の多いオキ アミ類を摂 餌して い るとみなさ れた。また 、ミンクク ジラの摂餌 方法は、北 西北太平洋 と同様 に 呑み込み型 であり、バ ッチ状に集 中分布して いる餌生物 を一気に呑 み込む と 推察された 。摂餌され ていたナン キョクオキ アミの体長 や成熟度組 成の経 年 および地理 的な差異は 、その海域 でのナンキ ョクオキア ミの体長や 成熟度 を反映した結果であると考えられた。

    ―1015−

(3)

  ミ ンクク ジラ の摂 餌活 動の日周期性の有無を、消化段階組成および胃内容 物重 量の経 時変 化か ら検 討した。北西北太平洋におけるミンククジラの摂餌 活動 は、主 とし て昼 間に 表層で行われるが、利用している餌生物の分布状態 によ って摂 餌回 数や 摂餌 量が不規則であることが示唆された。第一胃に含ま れていた未消化物を1回の摂餌で得た餌生物と仮定すれば、ミンククジラは一 度に最大96.4 kg(体重比として2.3%)、平均で32.6 kg(同0.7%)の餌生物 を摂餌することが可能であることから、1日に少なくとも2回以上、平均で3〜 6回の摂餌活動を行う必要があると推察された。一方、南極海におけるミンク クジ ラの摂 餌活 動は 、主 として朝方に多量の餌生物(主としてナンキョクオ キア ミ)を 摂餌 する が、 要求量が満たされない状況の時は、それ以降に数回 の摂 餌を行 うこ とが 示唆 された。ミンククジラは一度に最大289.0 kg(体重 比として3.1%)、平均で58.8〜60.9 kg(同0.8〜1.0%)の餌生物を摂餌する ことが可能であることから、1日に少なくとも1〜2回以上、平均で4〜5回の摂 餌活動を行う必要があると推察された。

  胃 内容物 重量 の経 時変 化から求める直接的方法と、エネルギー要求量から 求め る間接 的方 法を 用い て、ミンククジラの日間摂餌量を算出した結果、両 海域とも体重の4%程度を摂餌していると試算された。

  日 間摂餌 量を 基に して 、北西北太平洋およびオホーツク海におけるミンク ク ジ ラ個 体 群 の年 間摂 餌量 を算 出した 。北 西北 太平洋 で12.5〜19.2万トン (95% 信頼 区 間 :6.1 ‑ 39.3万 ト ン) 、 オ ホ ー ツク海 で41.3〜59.1万トン

(同:21.5 ‑ 119.9万トン)と試算され、摂餌量の多さから、ミンククジラが 夏季 の北西 北太 平洋 およ びオホーツク海の生態系において鍵種として機能し てい るとみ なさ れた 。さ らに摂餌されていた餌生物はサンマやイワシ類など の有 用魚類 で、 その 組成 も漁業の対象となっている組成と同じであることか ら 、 人 間 の 漁 業 活 動 に も 影 響 し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ た 。     ―1016―

(4)

  同様に 、南極海におけるミンククジラ個体群の年間摂餌量を算出した。ナ ン キョク オキ アミ の消 費量は 、IV区で174〜193万トン(95%信頼区間:105

‑ 316万ト ン) と試算 され 、IV区周辺 のナ ンキョクオキアミ資源量の15.7〜 47.4%に 相当した。また、南極海全体のミンククジラ個体群によるナンキョ クオキアミの年間摂餌量は1,7 71〜1,965万トン(同:1,069 ‑3,217万トン)

で 、南極 海に分布する全鳥類のそれに匹敵し、さらに、他のヒゲクジラ類の 年間摂餌量の6.8〜20.4倍に達すると試算された。これらの結果は、北西北太 平 洋やオ ホーツク海と同様、ミンククジラが夏季の南極海生態系において重 要 な鍵種 として機能しているとみなされた。そのため、ミンククジラと索餌 海 域や餌 生物が重複しているシ口ナガスクジラ、鰭脚類、海鳥類および魚類 な どは、 餌資源を巡る種間競争において多くの影響を受けている可能性が考 えられた。

  ミンク クジラと餌生物との間に存在する相互関係をさらに明らかにするた め には、 ミンククジラの食性調査を季節的および経年的な変動や地理的な変 化 を調ぺ 、平行してネット採集や計量魚探装置を用いた餌生物の資源量推定 を 試みる 必要がある。また、ミンククジラと他のヒゲクジラ類や鰭脚類、海 鳥 類およ び魚類などの間に存在する餌資源を巡る相互関係を明らかにするこ とも重要な課題である。

(5)

学 位 論 文 審 査 の要 旨 主査

副査 副査 副査

教 授   島 教 授   小 教 授   池 助教授  桜

崎 健 二 城 春 雄 田    勉 井 泰 憲

     学 位 論文 題名

北西 北太平洋お よぴ南極海におけるミンク クジラ BalaeTZoptera acutorostrata の摂餌生態に関する研究

  ミンククジラ(Balaeロoptera acutorostrata)は、ナガスクジラ科の最小種 で、 その 成熟 体長 は10m未 満であ る。 その 資源量は、ヒゲクジラ類の中で最 も多 く、 北大西洋個体群が約10万頭、北西太平洋個体群が約2万5千頭、夏季 に南 緯60度以南に分布する南半球個体群で約76万頭と推定されている。その ため、本種と他生物との間に存在する捕食・被食関係を明らかにすることは、

海洋生態系に高次捕食者が与える捕食の影響を知るうえで非常に重要である。

だが 、本 種の食性の地理的および経年的な変化や摂餌量などの情報は、極め て少ない。

  本 研究 は、北西北太平洋鯨類捕獲調査および南極海鯨類捕獲調査で採集さ れた ミン ククジラの胃内容物を基に、本種の食性を明らかにし、両海域での 日間 摂餌 量および年間摂餌量を算出した。さらに、南北両半球におけるミン クク ジラ の摂餌戦略の違いについても、生態学的な視野から検討したもので ある。

  1994年 〜19 96年の 夏季 、北西 北太 平洋 において採集されたミンククジラ 184個 体の 胃内容物から、カイアシ類1種、オキアミ類4種、頭足類1種および 魚類10種 の合計16種が認められた。夏季のミンククジラの主要餌生物は、太 平洋 側で はオキアミ類、サンマおよびカタクチイワシ、オホーツク海南部で はツ ノナ シオキアミであった。ミンククジラは索餌海域で資源量の多い生物 を利 用し ており、環境の変化によってその餌生物を柔軟に変化させる広食性 を有 する ことが示唆された。また、ミンククジラの摂餌方法は、バッチ状に 集中分布している餌生物を一気に呑み込むと推察された。゛摂餌されていたサ

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ン マなど の体長組成 の経年およ び地理的な 差異は、索 餌海域にお ける組成を 反映した結果であると考えられた。

  1989/90年〜19 95/96年の夏 季、南極海IV区において採集されたミンククジ ラ398個体の胃内 容物から、 端脚類1種、オキア ミ類4種 の合計5種類が認 めら れ た。夏季の ミンククジラの主要餌生物は、プリッツ湾以外の海域でナンキョ クオキアミ、プリッツ湾ではナンキョクオキアミおよびE. crystallorophねsで あ り、ミ ンククジラ は索餌海域 において資 源量の多い オキアミ類 を摂餌して い るとみ なされた。 また、ミン ククジラの 摂餌方法は 、バッチ状 に集中分布 し ている 餌生物を一 気に呑み込 むと推察さ れた。摂餌 されていた ナンキョク オ キアミ の体長や成 熟度組成の 経年および 地理的な差 異は、その 海域でのナ ン キ ョ ク オ キ ア ミ の 体 長 や 成 熟 度 を 反 映 し た 結 果 で あ る と 考 えら れ た。

  ミンクク ジラの摂餌 活動は、北 西北太平洋 では主とし て昼間に表 層で摂餌 を 行い、 利用してい る餌生物の 分布状態に よって摂餌 回数や摂餌 量が不規則 で あることが 示唆された 。ミンクク ジラは一度 に最大96.4 kg(体重比として 2.3%)、平 均で32.6 kg( 同0.7%) の餌生物を 摂餌する。南極海では、主と し て朝方 に多量の摂 餌を行い、 要求量が満 たされない 状況の時は それ以降に 数 回 の摂 餌 を行 う こ とが 示 唆さ れ た。 ミ ンク ク ジラ は 一度 に 最大289.0 kg

(体重比として3.1%)、平均で58.8〜60.9 kg(同0.8〜1.0%)の餌生物を摂 餌する。

  胃内容物 重量の経時 変化から求 める直接的 方法と、工 ネルギー要 求量から 求 める間接的 方法を用い て算出した 日間摂餌量 は、両海域とも体重の4%程度 と試算された。

  北西北太 平洋および オホーツク 海における ミンククジ ラ個体群の 年間摂餌 量 は 、北 西 北太 平 洋 で12.5〜19.2万ト ン (95%信 頼 区 間:6.1 ‑ 39.3万ト ン )、オホー ツク海で41.3〜59.1万トン(同:21.5 ‑ 119.9万トン)と試算さ れ 、ミン ククジラが 夏季の北西 北太平洋お よびオホー ツク海の生 態系におい て鍵種として機能しているとみなされた。

  南極海に おけるミン ククジラ個 体群の年間 摂餌量は、IV区で174〜193万卜 ン (95%信頼区 間:105 ‑ 316万卜 ン)と試算 され、IV区周辺のナンキョクオ キ アミ資 源量の15.7〜47.4% に相当した 。また、南 極海全体の ミンククジ ラ 個体群の年間摂餌量は1,771〜1,965万卜ン(同:1,069 ‑3,217万トン)で、

南 極海に 分布する全 鳥類のそれ に匹敵し、 さらに、他 のヒゲクジ ラ類の年間 摂 餌量の6.8〜20.4倍に達す ると試算さ れ、ミンククジラが夏季の南極海の生 態系において鍵種として機能しているとみなされた。

  以上の成 果は、夏季 の北西北太 平洋および 南極海の生 態系におい てミンク ク ジラが 鍵種として 機能してい ることを示 唆したもの として、本 論文が博士

( 水 産 学 ) の 学 位 請 求 論 文 と し て 相 当 の 業 績 で あ る と 認 定 し た 。

参照

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